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Medical Postgraduates Vol. 41 No. 2 2003
H I V/A I D S 情 報 ファイル
#042
66(161)
翻 訳
[展望]
HIV疾患における骨障害,高血圧症,及びミトコンドリア毒性**
Meg D. Newman,*M.D.
要 旨:骨壊死,オステオペニア,骨粗鬆症,高血圧症,及びミトコンドリア毒性は,HIV疾
患患者において観察される医学的状態に共通するものである。場合によって,これらの障害は,
抗レトロウイルス療法もしくは特定の抗レトロウイルス薬に関連していたが,その他の症例では,
それらの原因は依然として不明なままである。本稿は,2002年 8 月,Washington, DCで開催さ
れたClinical Pathway of the Ryan White CARE Act 2002 All Grantee Conferenceの席上,これ
らの症状と最新の管理手法に関する研究データを考察したものである。
Key words : HIV-1感染症,抗レトロウイルス療法,骨障害,骨壊死,オステオペニア,
骨粗鬆症,高血圧症,ミトコンドリア毒性
Case 1:骨壊死
(Gd)を用いた磁気共鳴画像(MRI)は両側骨壊
死を示している。
症例提示
1996年,現在33歳の男性患者が,CD4+細胞数
考 察
1/μL,AIDS痴呆症候群,両側サイトメガロウ
HIV感染患者における股関節骨壊死は,強力抗
イルス性網膜炎,四肢のカポジ肉腫,及び再発性
レトロウイルス療法出現のかなり前,1990年に最
細菌感染症に対して,ホスピスケアを受けていた。
初に報告された。それに続く股関節及び多発性関
数年間にわたる強力抗レトロウイルス療法後,患
節骨壊死に関する報告は,1991年及び1993年に発
者の健康状態はほぼ改善した。2001年,患者はウ
表された。骨壊死は,直接的または間接的障害に
イルス量が定量検出限界以下で,CD4+細胞数
起因する可能性があり,間接的障害の原因には,
480/μLを示した。患者は,依然として片眼に
コルチコステロイド製剤の服用,アルコール濫用,
盲を来していたが,自立した生活を営んでおり,
喫煙,鎌状赤血球貧血,凝固障害,全身性エリテ
パートタイマーとして働いている。患者は新規の
マトーデス,高脂血症,及び慢性膵炎が含まれる。
両側股関節痛(左側よりも右側でより激しい)を
HIV感染は,リスクファクターを構成する可能性
訴えているが,最近あるいは遠隔期外傷の既往は
がある。プロテアーゼ阻害薬(PI)の服用は骨壊
ない。検査は,右股関節により深刻な所見を伴う
死と関連するとして広く議論されているが,直接
股関節内回旋の減退を示している。両股関節の単
的因果関係の影響の十分な証拠はない。
純X線像に異常は認められない。ガドリニウム
骨壊死の部位は,関節表面下に位置する軟骨下
Newman, Meg D.: Bone disorders, hypertension, and mitochondrial toxicity in HIV disease.
*
Associate Professor of Medicine at the University of California San Francisco and Director of AIDS Education for the UCSF
Positive Health Program at San Francisco General Hospital.
**
当論文は,International AIDS Society-USA (IAS-USA)が発行する機関誌に掲載された論文を本誌掲載に際して内容を改
訂したものである。IAS-USAの承諾を得て,翻訳のうえ転載した。Newman MD.: Bone disorders, hypertension, and
mitochondrial toxicity in HIV disease. Topics in HIV Medicine 2003;11(1):10-15.
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骨である。軟骨下骨に対する血管供給は,細動脈
異常は同じ母集団の骨壊死のない患者においても
で始まり洞様血管に至り,180°曲がって小静脈
見られた。これらの所見の発表の時点で,10名の
として出て行く。血流は遅く蛇行しており,軟骨
患者が多少の股関節不快感を報告したが,誰も手
下骨を微小塞栓,血管痙攣,及び骨閉塞可能な骨
術を必要としなかった。2002年 7 月の発表以降,
内圧上昇に陥りやすくしている。大腿骨頭は,骨
数名は手術を受けた。
壊死の最も一般的な部位である。コルチコステロ
骨壊死のコホート内の患者15名において,93%
イド製剤服用及び慢性アルコール濫用の症例で
が同性愛男性,80%が白人,13%が黒人であり,
は,仮定される損傷の機序は脂肪塞栓の沈着を伴
静注薬物濫用の患者は皆無であった。骨壊死は,
う脂肪肝または高脂血症を引き起こす異常脂肪代
全身性コルチコステロイド製剤,脂質低下薬,ま
謝にある。さらに,小毛細血管の消失とその結果
たはテストステロンの服用者,定期的にボディー
としての虚血を伴う骨内圧上昇を引き起こす,骨
ビルの訓練を行う者,及び検出可能レベルの抗カ
髄内における骨内脂肪細胞の増加の可能性があ
ルジオリピン抗体を有する患者においてより一般
る。喫煙者は骨壊死のリスクが 4 倍大きく,恐ら
的であった。ボディービルの因子が偶発的か因果
くこれは血管攣縮と関連している。骨壊死の原因
的かは不明である。Millerらは,ボディービルが,
となる虚血は遷延性か突発性である。骨細胞死は,
損傷を起こす関節内力を増幅したこともあり得た
壊死性海綿状骨に至る未分化間葉細胞の産生を刺
と仮定した。他の研究においては,ボディービル
激する。これらの一部は骨芽細胞に分化するもの
は骨壊死と関連づけられていないこと,及びこの
の,骨吸収が継続中であるため,結局のところよ
コホートのみと単純に関連づけられたのかも知れ
り効率的となる。結果は,軟骨下骨が十分に関節
ないことは強調されるべきである。
を支持することが出来ず,骨の微小骨折と崩壊が
持続する。
これらの研究者らは,骨壊死とPI類(研究にお
けるほとんど全てのHIV感染被験者は,PIの投与
骨壊死評価のキーポイントは,障害を考慮から
を受けていた)の服用またはその継続期間との関
除外するため,決して単純X線像に依存しないこ
連性を全く見出さなかった。しかしながら,脂質
とである。加えて,早期疾患は単純X線像での検
低下薬の服用と骨壊死の間の有意な関連性は,現
出が困難である。MRIは,骨壊死検出において約
在脂質濃度が管理されている場合でさえも,高脂
90%の感度を有することから,単純X線検査の代
血症の患者のリスクが増大している可能性がある
替として利用されるべきである。症例の約40%に
ことを示唆している。一部のPIは,しばしば脂質
おいて両側疾患があるので,両側股関節造影が実
低下療法を必要とする脂質濃度上昇と関連してい
施されるべきである。
る。従って,PI治療は骨壊死の間接的原因要素と
Millerと共同研究者により最近報告された研究
なる可能性がある。
においては,MRIが無症候性HIV感染患者339名
他の研究は,PIの服用またはHIV感染それ自体
中15名(4.4%)及びHIV感染患者118名中0名に
に加えて,骨壊死とリスクファクターの幾つかの
おいて骨壊死の証拠を明らかにした1)。 6 名の患
関連性を報告している。BrownとCraneは,喫煙,
者は両側性疾患であった。全ての病変は,T1強
高脂血症,またはステロイド製剤服用のようなリ
調画像上での信号減衰と,脂肪抑制T2強調画像
スクファクターがある疾患患者 6 名中 3 名につい
上でのbright signalを伴う典型的骨壊死像を示し
て,0.45%の骨壊死発生率を見出した2)。Scribner
た。大部分の患者には帯状または環状病変があっ
らは,骨壊死の患者25名中22名における在来型リ
た。片側性疾患の患者 9 名中 3 名は大腿骨頭の前
スクファクターと,リスク増大がリスクファクタ
中央方向に楔状病変, 2 名は大腿骨頭上前方向に
ーの数の増大と関連していることを報告してい
小軟骨下病変が認められた。骨壊死の全ての患者
る 3)。全ての症例は男性において発生しており,
は,単純X線像において陰性であった。理学的検
28%はアルコール濫用,12%はステロイド製剤服
査に際して,骨壊死の患者14名に異常所見が認め
用,また32%が高脂血症であった。
られ,うち11名が関節可動域の異常を認めたが,
現在骨壊死に関して無症候性の患者のスクリー
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ニングは推奨されない。しかしながら,鼠径また
節,手関節,または脊椎の基線骨折を来していた。
は股関節に持続性症状を有する患者は,全てMRI
このような所見は,オステオペニア及び骨粗鬆症
による評価を受けるべきである。開業医は,短期
が以前に信じられていた以上に一般的であり,
または長期ステロイドまたは脂質低下薬服用患者
HIV感染患者においてはなおさら一般的であると
が,骨壊死のリスク増大にあることを認識すべき
の疑念を生じさせるかも知れないことを示唆して
である。疾患はしばしば進行性である。ひとたび
いる。
骨壊死が発症したら,体重負荷活動は制限される
1994年,世界保健機関(WHO)の骨粗鬆症研
べきであり,理学療法は関節可動域の改善に集中
究班は,疫学的研究における骨粗鬆症診断に関す
すべきである。手術の選択肢には,core decom-
る定義を発表した。彼らは,骨粗鬆症が,脊椎,
pression(中心除圧術),血管移植術,及び人工
股関節,または手関節の骨塩密度が健常若年成人
股関節全置換術が含まれる。疾患の経過の早期に
女性に関する平均値の標準偏差2.5またはそれ以
骨壊死と診断された場合は,core decompression
下であるか,外傷性骨折の既往があるものとして
による治療が適当であり,これは低罹患率の外来
定義されることを提案した5)。従って,今や骨粗
処置である。重篤もしくは進行性疾患の場合は通
鬆症は骨塩密度検査のTスコアが女性において
常,人工股関節全置換術が必要である。
は−2.5以下,骨折リスクはTスコアの標準偏差の
低下で倍加されるものとして定義される。男性に
Case 2:オステオペニア及び骨粗鬆症
おける骨塩密度と骨折リスクの間の関係は未定義
で,男性の場合のTスコア−2.5は,女性の場合よ
症例提示
CD4+細胞数289/μL(最低値129/μL)の26
りも高い骨塩密度を表している。しかしながら,
骨粗鬆症の母系家族歴がある男性は,この背景が
歳のHIV感染患者が,骨粗鬆症のリスクについて
ない男性よりも1.5倍大きい疾病リスクにある。
インターネット上で論文を読んだ。この情報に基
男性の場合,股関節骨折は後年に,脊椎骨折は女
づいて,患者は骨吸収阻害薬であるアレンドロン
性よりも早く発現する。
酸の処方を希望した。患者はステロイド製剤を服
HIV感染患者におけるオステオペニア及び骨粗
用したことがなく,現在紙巻きタバコの喫煙者で
鬆症に関するデータは混乱させるようなものであ
ある。患者は無症候性であるが,アレンドロン酸
る。強力抗レトロウイルス療法及びPI治療の潜在
の服用が多分オステオペニアと骨粗鬆症の発現を
的役割に注目して,疾患の病因論を解明するため
未然に防ぐだろうと信じている。
の多数の研究が実施された。しかしながら,これ
までのところ,かかる治療法の役割は不明のまま
考 察
であり,この観点でのデータはしばしば相反して
最近報告された,閉経後の女性200,000名以上
いる。多くの研究者は,サイトカイン活性化,骨
における全米骨粗鬆症リスク評価研究(National
原性細胞の直接感染,または性腺機能低下症との
Osteoporosis Risk Assessment Study)は,全般
関連で,HIV感染がオステオペニア及び骨粗鬆症
的母集団におけるオステオペニア及び骨粗鬆症に
において役割を演じている可能性があると推測し
関するおどろくべき所見を提供している4)。研究
ている。コルチコステロイド製剤服用,身体的活
は,閉経後の女性の40%がオステオペニアで, 7
性低下,栄養失調,吸収不良,及び喫煙が,HIV
%が骨粗鬆症であることを示した。リスクファク
感染並びにHIV未感染者における疾患に役割を演
ターには,喫煙,グルココルチコイドの服用,及
じている可能性がある。
びアジア系もしくはヒスパニック系であることが
Lawalらは,強力抗レトロウイルス療法以前の
含まれている。予防的因子は,より大きな肥満指
時代の栄養不良のHIV感染男性36名,及び脂肪再
数(BMI),アフリカ系アメリカ人であること,
分配を来しており,強力療法を受けている男性19
エストロゲン服用,及び利尿薬服用である。女性
名と女性 3 名を研究した6)。平均して,強力療法
の11%が,45歳までに微小外傷を伴う肋骨,股関
を受けている患者は体重が15kg重かった。骨塩
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量,骨カルシウム,または骨塩密度に関して 2 群
以降患者群においてそれぞれ 3 %及び 2 %上昇し
間に差異は観察されなかったが,両群とも,これ
た。
ら 3 つの尺度の全てについて,HIV未感染患者群
よりも低い値であった。
PI服用がオステオペニア及び骨粗鬆症における
主要な犯人である可能性はないというさらなる示
別の研究で,Patonらは,強力療法時代前にあ
唆がHoyらの無作為化研究から得られ,その中で
って治療を受けているHIV感染患者45名と,年齢
はPI治療の中断が48週以降の骨塩密度に何らの変
適合HIV未感染対照との間の全骨塩密度または股
化も生じなかった13)。さらに,Amielらは,骨形
関節骨塩密度に何ら差異を見出さなかった 7 )。
成のマーカーであるオステオカルシン濃度が,未
HIV感染患者は,対照被験者よりも 3 %低い腰椎
治療患者及びPI投与を受けない治療患者におい
骨塩密度を示し,HIV感染患者15名は,16カ月の
て,PI含有療法を受けている患者よりも低下した
フォローアップ期間以降,全骨塩密度において基
ことを見出した14)。Aukrustらは,PI治療がオス
線値より1.6%の低下を示した。
テオカルシンの増加と関連していることを見出し
Carr らは,オステオペニア及び骨粗鬆症が高
た15)。すでにWangらは,インジナビルがin vitro
乳酸血症あるいはミトコンドリア疾患と関連して
及びin vivoで骨芽細胞の分化と機能を阻害する
いるか否かを研究した8)。彼らは,抗レトロウイ
ことを見出している16)。さらに最近,Wangらは
ルス療法未経験の患者32名,ヌクレオシド系逆転
インジナビルをマウスに 5 週間投与すると,破骨
写酵素阻害薬(nRTI)療法を受けている患者42
細胞と骨芽細胞の総数は不変のまま,腰椎骨,脛
名,及びPI+nRTI療法を受けている患者147名に
骨,及び大腿骨の骨塩密度の17%∼20%の低下,
おいて,疾患の独立予測子は,より高い治療前乳
皮質及び小柱骨量の減少,及び骨容積の25%低下
酸濃度(オッズ比: 1 mmol/L増加当たり2.39)
を引き起こしたことを見出した17)。
及びより低い治療前体重(オッズ比1.06でわずか
これらのデータは,オステオペニア及び骨粗鬆
に有意)であることを見出した。彼らは,PI治療
症のリスク低減に際して,HIVケアを実施する医
の種類または継続期間と骨変化の間,またはリポ
師に対して何ら総合的ガイダンスを提供していな
ジストロフィと骨変化の間に何ら関連性がないこ
い。多分この領域での指針は,さらに決定的デー
とを見出した。結局のところ,より低い体重はよ
タが得られるまで,変更可能なものは変更し,変
り低い全骨塩密度と関連しており,より高い乳酸
更出来ないものは受容することである。従って,
濃度はより低い脊椎骨塩密度と関連していた。し
患者には,禁煙,体重負荷運動, 1 日当たり1.2
かしながら,Claxtonらは同様な研究を実施して,
∼1.5gのカルシウム及び400∼800単位のビタミン
乳酸濃度と骨塩密度の間に何ら関連性がないこと
D摂取での骨の健康を良好に保つことが推奨され
9)
を見出した 。別の研究で,Tebasらは内臓肥満
るべきである。短期間の全身性ステロイド製剤投
とオステオペニアの間に関連性がないことを見出
与でさえも差し控えるために,高い閾値が維持さ
10)
した 。しかしながら,Huangらは内臓肥満とオ
れるべきである。テストステロンが破骨細胞の作
ステオペニアの間に関連性を見出した11)。
用抑制に重要であることから,性腺機能低下症は
さらに最近, Mondy らは平均年齢41歳の男性
108名と女性17名を,ベースラインと48週及び72
治療されるべきであり,また消耗性疾患も治療さ
れるべきである。
週に,二重エネルギーX線吸収測定法により評価
45歳以上の患者は,閉経後の女性のようにオス
した12)。患者の46%が,オステオペニアまたは骨
テオペニア及び骨粗鬆症のリスク増大があること
粗鬆症を来していることが見出された。低骨塩量
を認識することが重要である。この問題に関する
は,より大きな体重減少及び消耗度,以前のステ
最も最近の米国国立衛生研究所(NIH)のコンセ
ロイド製剤服用,過去または現在の喫煙,及びよ
ンサスステートメントは,年齢に関わらず 2 カ月
り長期の強力抗レトロウイルス療法の継続と関連
以上の期間ステロイド治療を受けている患者は,
していた。PI服用は,低骨塩密度と有意な関連を
閉経後の全女性におけると同様に骨塩密度スクリ
示さなかった。脊椎及び股関節骨塩密度は,72週
ーニングを実施されるべきあることを指摘してい
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る。スクリーニングは,リスクを与える症状があ
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考 察
る他の患者においても推奨される。男性における
体重は,高血圧症に関して修正可能なリスクフ
スクリーニングに対する特定の推奨が現在策定さ
ァクターであるから,患者は減量を奨励された。
れつつある。実際問題として,HIV感染患者にお
インジナビル治療と高血圧症の関連性を明示する
けるスクリーニングは,リスクファクターの評価
証拠に基づいて,この状況下では多くの開業医も
と,年齢及び複合リスクファクターによりオステ
恐らくインジナビルを他のPIで代替したであろ
オペニア及び骨粗鬆症のリスクが増大することの
う。例えば,Cattelanらによる研究は,インジナ
認識に基づいて個別化されるべきである。HIV感
ビルの投与を受けている何ら腎の異常がない患者
染患者に対するスクリーニングに関するより明確
118名中31名が第 1 期またはそれ以上の高血圧症
な推奨が,比較的近い将来に公表されるであろう
( 6 名は第 3 期,5名は第 2 期,20名は第 1 期)を
ことが期待されている。
発症し,これに対して他のPI(ネルフィナビル,
上記の症例において,患者は最初の提示後アレ
サキナビル,またはリトナビル)の投与を受けて
ンドロン酸の投与を受けていなかった。患者と患
いる患者77名は,平均34カ月を超えるフォローア
者の医療介護提供者は,家族歴について話し合い
ップで高血圧症の発症は皆無であったことを示し
(患者は母系または父系リスクファクターを持っ
た 18)。インジナビル群の平均血圧は,基線値で
ていない),個人歴は喫煙以外にリスクファクタ
125/81mmHg,フォローアップ終了時に136/
ーがないことを明らかにした。(患者に多数のリ
91mmHgであった。高血圧症を発症した31名の
スクファクターがあることが確認されれば,二重
患者は,フォローアップ終了時の平均血圧が
エネルギーX線吸収測定法が要請されているはず
153/100mmHgであった。インジナビルの投与
である)。患者と医療ケア提供者は,カルシウム
を受けなかった群においては,基線での平均血圧
とビタミンDの摂取量増加,及び運動プログラム
が126/82mmHg,フォローアップ終了時では
の開始に集中した。患者は現在禁煙プログラムを
125/80mmHgであった。高血圧症を発症した患
検討中である。
者の中では,18名(58%)に高血圧症の家族歴が
あった。18名の患者の高血圧症は,投薬で管理さ
Case 3:高血圧症
れた。インジナビル療法を中止した 9 名の患者の
内4名は高血圧症が消散し, 5 名は持続した。
症例提示
これらのデータは,作用機序は不明ながらも,
36歳の女性が,自身のHIV感染の進行状況につ
インジナビル治療が高血圧症と関連していること
いて事前の知識もなく,1996年 5 月にCD4+細胞
を示唆している。インジナビルでの治療中の患者
数11/μLで初めて来院した。ニューモシスティ
は,毎回の受診に際して高血圧症の診察を受ける
スカリニ肺炎,脱毛症,及び単純ヘルペスウイル
べきであり,高血圧症が発症した場合には薬剤中
ス感染症を来していた。血中HIV-1 RNA濃度は
止が考慮されるべきである。高血圧症患者もしく
500,000コピー/mL以上であった。インジナビル,
は高血圧症の家族歴を持つ患者においては,イン
サニルブジン(スタブジン),ラミブジンでの治
ジナビルは第 2 次候補のPIと見なすのが適当のよ
療が開始された。 1 カ月後,ウイルス量は測定法
うである。高血圧性効果の潜在的機序に関し,イ
の検知限界以下で,CD4+細胞数は25/μL,健
ンジナビルは,疾患に対する遺伝学的素質がある
康状態はその後改善を続けた。1997年12月,患者
個体における潜伏性高血圧症に対して触媒として
は高血圧症を発症した。患者は抗レトロウイルス
作用するようである。HIV感染患者の高血圧症促
療法の間に14kgの体重増加を見た。患者には,
進における肥満,飲酒,非ステロイド系抗炎症薬,
高血圧症の家族歴もしくは何らの高血圧症の副因
喫煙,トリメトプリムまたはスルファメトキサゾ
の証拠はなく,飲酒,静注薬物濫用,あるいは喫
ールの併用,及び以前の抗ウイルス薬服用の役割
煙習慣もなかった。
を評価するには,さらなる研究が必要とされる。
未治療の高血圧症は,腎及び心血管系の重篤な
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表1 抗レトロウイルス薬と降圧薬もしくは抗不整脈薬間の薬物相互作用
ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬
・膵炎リスクが増大するため,ジダノシンと共にサイアザイド系利尿薬もしくはルー
プ利尿薬を服用することは避けること。当薬剤が一緒に服用された場合,膵炎リス
クが増大する。
ジダノシンもしくはサイアザイド系利尿薬が単独で服用された場合,
各々が膵炎リスクと関連する。一緒に服用するとリスクはさらに増大する。
非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬
チトクロームP450相互作用がキーポイント
・エファビレンツ:ジヒドロピリジン系薬剤(例えば,ニカルジピン,ニフェジピン,
ニトレンジピン)を含む全てのカルシウム拮抗薬の臨床効果をモニターすること。
・ネビラピン:カルシウム拮抗薬に関しては,時間経過により効果が変化する理論的
リスクを持つ。
プロテアーゼ阻害薬
チトクロームP450相互作用がキーポイント
・アンプレナビル:ベプリジルと一緒に服用しないこと。カルシウム拮抗薬の濃度を
上昇する可能性がある。
・インジナビル:カルシウム拮抗薬及びキニジンとの重大な相互作用を持つ。
・ロピナビル+リトナビル:カルシウム拮抗薬との併用には,厳重なモニタリングが
示唆される。
・ネルフィナビル:カルシウム拮抗薬の高濃度を引き起こす可能性がある。アミオダ
ロン及びキニジンは,ネルフィナビルと一緒に服用すべきではない。
・リトナビル:絶対禁忌には,アミオダロン,エンカイニド(encainide),フレカイ
ニド,プロパフェノン,キニジン,及びベプリジルが含まれる。リドカイン,メキ
シレチン,ワルファリン,メトプロロール,ピンドロール,チモロール,及び全て
のカルシウム拮抗薬を含む複数の薬剤と同時服用すると濃度‐時間曲線下面積
(AUC)が増加する。S-warfarin及びロサルタンとの同時服用は,AUCの中等度の減
少もしくは増加を引き起こす。ドキサゾシン,プラゾシン,テラゾシン,ジゴキシ
ン,及びトカイニドとの同時服用はAUCを増加させる可能性がある。
終末器官合併症を引き起こすので,HIV感染患者
両方とも性的不能と関連する可能性がある。利尿
においてはスクリーニングと治療が必要である。
薬は,第1選択の治療または他の降圧薬の補強と
降圧薬の中では,アンジオテンシン変換酵素阻害
して使用可能である。利尿薬の使用については,
薬が腎疾患または糖尿病の患者に適しているが,
患者は電解質濃度,高尿酸血症,及びコレステロ
低レニン状態のアフリカ系アメリカ人はこのよう
ール,グルコース及びインスリン濃度の軽度の上
な治療に応答しないことがある。カルシウム拮抗
昇についてモニターを受けるべきである。
薬は,低レニン状態,糖尿病,または腎疾患の患
抗レトロウイルス薬と降圧薬との間には,降圧
者における使用に適している。β遮断薬は,心伝
治療の選択肢を決定する際に考慮されなければな
導機能が良好な若年患者における使用に適してい
らない多数の重要な相互作用がある。これらのほ
る。それらの使用は,グルコース,インスリン,
とんど全ては,非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害
及びトリグリセリド濃度の上昇と,高比重リポ蛋
薬(NNRTI)及びPIの,チトクロームP450経由
白コレステロール濃度の低下に注意を払う必要が
で仲介される降圧薬剤との相互作用で構成されて
ある。カルシウム拮抗薬及びβ遮断薬を併用する
いる。PI類,特にリトナビルも,抗不整脈薬剤と
場合は,心伝導異常のリスクがあるので,注意す
多数の重要な相互作用を示す。
るべきである。カルシウム拮抗薬及びβ遮断薬は,
本症例においては,患者はインジナビル服用の
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中止を話し合ったが,患者の高血圧症は消散しな
死亡率30%∼60%の致命的症状であるため,抗レ
かった。幸いなことに,それはラベタロールで十
トロウイルス療法は中止されるべきである。ミト
分管理された。本症例の事象の3年後,患者は妊
コンドリア毒性管理の目標は,可能な限り早期に
娠して2002年に健康な男児を出産した。
それを診断することである。初期症状には,疲労,
腹痛,体重減少,倦怠感,悪心,嘔吐,及び食欲
Case 4:ミトコンドリア毒性
不振が含まれ,時に軸索性ニューロパシーの提示
を伴う。これらの症状は,毒性進行と共に悪化す
症例提示
る。疾患の展開は電撃性または潜行性で,症状は
52歳の男性が,1998年 4 月に初めてHIV感染と
nRTI治療を耐容して数年後に発現する可能性が
診断された。血中HIV-1 RNA濃度は36,000コピ
ある。このような症状で来院するいかなる患者に
ー/mL,CD4+細胞数は253/μLであった。患
おいても,重炭酸塩濃度を確認してアニオンギャ
者は抗レトロウイルス療法の開始を希望して,イ
ップを計算すべきであり,症状が疑われる場合は
ンジナビル,スタブジン(サニルブジン),ラミ
静脈乳酸濃度を測定すべきである。この疾患に関
ブジンからなる治療処方で開始された。16週にお
する疑念の閾値は,これらの症状で来院するいか
いて,患者の血中HIV-1 RNA濃度は50コピー/
なる患者においても,非常に高いものとすべきで
mL以下,CD4+細胞数は448/μLであった。60
ある。女性,特にBMIが大きい女性が,これまで
週において,患者は下肢に軽度の灼熱痛と,腹囲
報告された乳酸アシドーシスの不釣り合いな症例
の増大を訴えた。患者は,間欠的悪心と疲労も来
数を占めていることは,特筆すべきである。
し,労作時の息切れも経験したが,胸痛を来した
スタブジンでの治療はミトコンドリア毒性と関
ことは否定した。この時点での検査結果は,血中
連しているように見え,スタブジン及びジダノシ
HIV-1 RNA濃度50コピー/mL以下,CD4+細胞
ンの併用は,リスクを増大するように見える19,20)。
数420/μL,白血球数及び白血球百分率正常,
ジドブジンもこのような毒性と関連している。ジ
ヘマトクリット値41%,ナトリウム142mEq/L,
ドブジン及びスタブジン以外のnRTI類を含む強
カリウム4.1mEq/L,クロール100mmol/L,炭
力療法は,いったん毒性が消散すれば安全に実施
酸塩20mEq/L,血清クレアチニン正常,BUN
することが可能である。nRTI類を含む強力療法
21mg/dL,グルコース172mg/dL,ASAT
を受けている患者においては,乳酸濃度のありき
36U/L,ALAT 30U/L,Al-P 134mU/mL,
たりのモニタリングは推奨されない。血清乳酸濃
トリグリセリド487mg/dL,コレステロール
度の軽度の上昇が,nRTI類の投与を受けている
218mg/dL,及び総ビリルビン2.2mg/dL(間接
無症候性患者に一般的で(推定発生率15%∼
ビリルビン1.7mg/dL)を示した。この患者に関
35%),このような上昇は慢性的で代償性である
して考え得る管理選択には,2週間後の再評価を
という少なからぬ証拠がある21)。このような患者
伴う現在の抗レトロウイルス治療処方の継続,治
における軽度の高乳酸血症は,症候性乳酸アシド
療処方の変更,及び全ての抗レトロウイルス療法
ーシスの発現に対する貧弱な予測値しか持たな
の中止が含まれる。
い。
考 察
毒性による乳酸アシドーシスと一致する。これは
本稿は,2002年 8 月にInternational AIDS Society-USA
course in Chicagoの席上発表されたものである。その後,
Matthew Stengerにより初稿が起こされ,2002年11月に,
Dr. Newmanにより加筆訂正された。
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[本論文のオリジナル論文(英文)のコピーを希望される方は,本誌編集部までご請求ください]
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