2014/4/1 中野薫氏の提唱するニューパワーテニスのフォアハンドストロークについ て、トッププロのフォームの特徴と比較することでその優位性を検証する。 ! Nakanoメソッド の評価 はじめに ここで注目すべき点は青実線で示される旋回で動 作である。フォワードスイングでは中立から若干 内旋方向に旋回した後、インパクトからその後は ビデオ映像や連続写真でみるスポーツ中のフォー 外旋へと大きく動いている。つぎに2014年の錦織 ムを三次元データに展開し、身体要素ごとの動き 圭選手のフォーム分析の結果(*4)と比較する。 を解析するソフトウェア「Bone model」(*1)を 使って、テニスのトップ選手のフォーム解析を行っ てきた。ソフトウェアの応用の一つとして今回は、 ある一つのテニスメソッドで提唱するフォームを 解析をおこなった。各身体要素の運動をこれまで フォワードスイング のテニスTOP選手の特徴と比較する事で、メソッ ドの優位性の評価を科学的視点を持って行うもの 2014錦織圭フォームの右股関節動作 とする。 フォワードスイングの初期の股関節が内旋からイ ンパクト後に外旋まで大きく変化しているのが分 かる。それと連動して股関節の屈伸、内外転動作 も行われており、いわゆる足を強く使っている事 がここから分かる。股関節の旋回動作は骨盤を回 す働きがあり、これが上半身の回転動作を行うた めの必要動作と考える。 解析対象とするメソッドは中野薫氏が提唱する ニューパワーテニス であり、そのフォアハンドス トロークの映像(*2)を今回は解析した。氏のメソッ ドは、外国人トップ選手のスイングの特徴を多く 取り入れていると述べている点が特徴である。{*3} ! 軸足の動作 錦織圭選手のフォームと比較してNakanoメソッ ドの方は、右股関節の屈伸および内外転動作は小 さい。そして旋回動作については、インパクト前 はその変化が小さく、インパクト後に大きく外旋 方向に動いている。Nakanoメソッドのサイトの 説明にも記載があるように、氏のテニス理論の構 築は椅子に座って体幹の捻りを行いながら考えた としている。骨盤の動きを停止させるとの記載も ある事から、この解析結果から分かるように、フォ ワードスイングでは骨盤の回転を意識的に止めて いると考えて良いだろう。 オープンスタンスから始まるフォアハンドストロー クのスイング動作は、トップ選手でも多く見る代 表的なショットである。ここでは軸足である右足 (右利き選手)の股関節動作について分析を行っ た。 フォワードスイング 次にラファエルナダル選手の軸足股関節動作の解 析結果を見てみよう。(*5) Nakanoメソッドの右股関節動作 1 ナダル選手の右股関節動作 ラファエルナダル選手は左利きの選手だが、引用 元では説明のために用いるイラストを左右反転し、 グラフでは説明のため右股関節動作と記載してい る。ここでの表記もそのままとする。 ラファルナダルの右股関節の動作は膝内向き(内 旋)から膝外向き(外旋)へと大きく変化した後 に打球しているのが分かる。この短時間に大きな 股関節の旋回動作は、骨盤の力強い回転運動を生 み、これがナダルの力強いストローク力の源になっ ていると考えることができる。 この二人の選手とNakanoメソッドとを軸足側股 関節の動作について比較する限りにおいては、類 似するところは少ないと言わざるを得ない。 Nakanoメソッドのサイトの記事にも体幹の捻り を使っていると書かれている事が、今回の解析結 果からも確認することができた。 一方他のトップ選手を対象としたオープンスタン スからのフォアハンドストロークの解析結果から は、ここで示すような過度な体幹の捻り動作は確 認されていない。 体幹を捻る事は腹腔や肺に対して歪みをあたえる ことが考えられる。これは運動中の呼吸にも大き く関わってくるだろう。また体幹の捻り動作は腹 斜筋によって行われ、腹斜筋は体側方向へ屈曲動 作にも働きかける。つまり体幹を捻る動きは同時 に体幹の傾きを生じ、軸の傾きは打球コントロー ルのぶれにも繋がっていくと考える。 体幹の捻り動作 つぎに体幹の捻り動作に付いて分析する。ここで 体幹の捻りとは、骨盤と肩の間の範囲で生じるね じれの事を指す。前述の股関節の旋回動作による 骨盤の回転動作とは別の動作である。次に示すグ ラフでは骨盤を基準として肩のラインがどのよう に変化しているかを緑の線で表している。 体幹の傾きが生じやすい フォワードスイング 以上の分析結果を持って、骨盤を静止させて体幹 の捻りを積極的に用いるとするNakanoメソッド と、トップ選手のフォームとは、全く異なる動作 であると考える。 Nakanoメソッドの体幹の捻り動作 フォワードスイングでは大きく捻った体幹を戻し ながら中立になるタイミング近くで打球している ことがわかる。そして打球後も大きく体幹を捻っ ている。この打球後の大きな体幹の捻り動作は、 打球後の軸足股関節に見られた外旋量の大きさに 影響していると考えることが出来る。 軸足の旋回動作を使っての骨盤の回転動作が苦手 とするプレイヤーが体幹の捻りを使ってスイング 可能とするメリットがあると考えることも可能だ ろう。しかし呼吸への影響、体幹の傾きによる打 球コントロールのぶれはデメリットと考える。 肩関節の旋回動作 ナダル選手の特徴は肩関節の旋回がインパクト直 前で急峻にそして大きく変化している点だ。ここ でも錦織圭選手同様に、外旋からの戻り運動を使っ ている事が確認できる。 Nakanoメソッドの肩関節の旋回動作は、トップ 選手のそれと比較してとても小さい事が分かった。 Nakanoメソッドの右肩関節動作 ここで見ておくべきポイントは青実線で示す旋回 動作である。グラフからは旋回動作が小さい事が 分かる。一方錦織圭選手の肩関節動作を見てみよ う。 ! 前腕の動作 次に前腕の動作の分析を行う。 回外 フォワードスイング 回内 フォワードスイング 2014年錦織圭選手の右肩関節動作 グラフから分かるようにフォワードスイング後期、 打球する前後の短時間の間に肩関節が外旋から内 旋へと大きく変化しているのが分かる。この旋回 動作がラケットを加速するのだが、トップ選手の 多くに見られる特徴的な体の使い方でもある。 参考までにラファエルナダル選手の利き手側の肩 関節動作のグラフを紹介する。 Nakanoメソッドの右前腕動作 フォワードスイングでは前腕の旋回動作(青実線) は一度回外になり、それが中立に戻る途中で打球 している。そして肘関節の屈伸は屈曲から伸展に 動いた後に打球している事が分かる。 次にラフェルナダル選手の利き腕の動作に付いて 確認する。 内旋 素早い捻り戻し 外旋 ナダル選手の利き腕肩関節動作 ナダルの前腕の動作 前腕の旋回動作は回外から中立へ戻る途中で打球 している事、肘関節は屈曲の後に伸展して打球し ている事が分かる。前腕の動作についてはNakano メソッドと類似する点が見られる。 前腕の旋回動作はラケットヘッドの上昇運動に寄 与する事から、Nakanoメソッドではトップスピ ン回転を意識したスイングフォームと言ってよい だろう。前述の肩関節の動作で説明したように肩 関節の旋回力が小さいため、ラケットの前進動作 が小さく、打球の威力は小さいと予想される。 択する上での参考になればと思う。またテニス理 論の相互発展に役立てる事を願う。 村上安治([email protected]) テニス99(www.tennis99.jp) 参考資料 1. 「Bone Model」http://app.gawakaru.jp/archives/1501 2. ニューパワーテニス フォアハンド編 - Youtube 3. ニューパワーテニス web site http://www.newpowertennis.jp 考察 4. 錦織圭 分析比較/村上安治 5. 戦う君に伝えたい、トップアスリートの体の使い方/村上安治 ここまで軸足、体幹の捻り、肩関節、前腕の各動 作について分析結果と、トップ選手のフォーム分 析との比較を行った。比較した結果からはNakano メソッドの提唱するフォアハンドストロークの フォームは、トップ選手のフォームとの共通点は とても少ないと言わざるを得ない。 このメソッドにメリットがあるとしたら、脚力の 弱い、足の屈伸動作および股関節の旋回を苦手と するプレイヤーに対して、トップ選手とは別の体 の使い方を提案する事でテニス技術の向上に何ら かのヒントを与える事なのかもしれない。 Nakanoメソッドはトップ選手の行う現代テニス メソッドとは異なる指向のものであると考える。 おわりに 本レポートは中野氏の理論を否定するものではな い。テニス理論は唯一無二である必要は無い。色々 な主張、考えかた、用いる対象によってテニス理 論にはいくつもあってしかるべきであろう。それ ぞれのテニス理論にある利点、欠点を明らかにす る事で、愛好家、選手、コーチがテニス理論を選 6. トッププレイヤ完全コピーマニュアルVol5 7. テニストレーニングガイド 8. 身体運動の機能解剖 /Clem W. Thompson、R.T. Floyd 著
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