86 下腿三頭筋のストレッチングがパフォーマンスに与える影響

第 14 セッション
運動器(一般演題)
一般ポスター
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下腿三頭筋のストレッチングがパフォーマンスに与える影響
村田 篤嗣(むらた あつし)1),阪本 良太1),荒木 智子2),足立 泰規1),金澤 壽久1)
医療法人 寿楽会 大野記念病院 リハビリテーション科1),
神戸国際大学 リハビリテーション学部 理学療法学科2)
キーワード
下腿三頭筋,ストレッチング,パフォーマンス
【目的】
本研究の目的は,下腿三頭筋のストレッチングがパフォーマンスに及ぼす影響について,時間的経過による影
響も含め,静的ストレッチング(以下 SS)と動的ストレッチング(以下 DS)を比較することである.
【方法】
対象は健常者 14 名
(平均年齢:22.7±6.6 歳)とした.ストレッチングの方法として,SS はストレッチングボー
ド上で 2 分間の持続伸張を行った.DS は 2 秒間に 1 回の速度で 2 分間の足関節背屈運動を行った.ストレッチン
グの効果指標として筋硬度,足関節背屈可動域を測定した.パフォーマンスの評価として,瞬発力については垂
直跳び,持久力については 6 分間歩行(以下 6MWT)を測定した.SS,DS それぞれについて,ストレッチング
直後および 5 分後の変化を対応のある t 検定もしくはウィルコクソン符号付順位和検定を用いて比較した.さら
にストレッチング直後及び 5 分後の変化量・変化率を算出し,SS,DS の 2 条件間で t 検定を用いて比較した.
【結果】
筋硬度については,SS において直後の有意(p<0.05)な低下がみられた.5 分後については有意な差はみられ
なかった.DS については,直後に低下傾向はみられたものの有意ではなかった.5 分後も同様に有意な差はみら
れなかった.SS と DS の変化率の比較については,直後,5 分後ともに有意な差はみられなかった.足関節背屈可
動域については,SS(p<0.01)
,DS(p<0.05)ともに直後の有意な向上変化がみられた.5 分後についても SS
(p<0.05)
,DS(p<0.01)ともに有意な向上変化がみられた.S SS と DS の変化率の比較については,直後,5
分後ともに有意な差はみられなかった.垂直跳びについては,SS において直後の有意(p<0.05)な低下がみられ
た.5 分後については有意な差は認められなかった.DS については,直後の有意(p<0.05)な向上変化が示され
た.5 分後については有意な差は認められなかった.SS と DS の変化率の比較において,直後についは SS と DS
間で有意(p<0.05)な差がみられたが,5 分後については有意な差はみられなかった.6WMT については,SS
において直後に向上傾向はみられたものの有意ではなかった.5 分後については有意(p<0.05)な向上変化が示
された.DS については,直後,5 分後ともに有意(p<0.01)な向上変化が示された.SS と DS の変化率の比較に
ついて,ストレッチング直後においては SS に比べて DS の方が有意(p<0.01)
に向上していることが確認された.
5 分後については,SS,DS 間で有意な差は認められなかった.
【考察】
今回の研究の結果より,SS,DS ともに可動性に対する向上効果が示され,筋緊張の抑制効果については SS
の方が高いことが確認できた.パフォーマンスに与える影響として,瞬発的動作については SS 直後の低下,DS
直後の向上が示され,5 分後にはその影響が消失していることが確認できた.持久力動作については,SS5 分後,
DS 直後および 5 分後の向上効果が示され,SS に比べて DS の方が,向上効果が高いことが示された.
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運動器(一般演題)
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PAD を起因とする下腿切断者における生活実態調査
黒川 美紀(くろかわ みき)1),手塚 勇輔1,5),高瀬 泉1,5),中塚 彩子1,5),越智 貴則1),
原 めぐみ1),東 祐二2),大藪 弘子3),戸田 光紀4),幸野 秀志4,5),陳 隆明5)
兵庫県立リハビリテーション中央病院 リハビリ療法部1),
兵庫県社会福祉事業団総合リハビリテーションセンター 自立生活訓練センター2),
兵庫県立リハビリテーション西播磨病院 リハビリ療法部3),
兵庫県立リハビリテーション中央病院 診療部4),
兵庫県立リハビリテーション中央病院 ロボットリハビリテーションセンター5)
キーワード
下腿切断,末梢循環障害,義足使用
【目的】
近年,末梢循環障害(以下 PAD)起因による高齢下腿切断者が増加している.外傷と比較し,PAD 起因による
切断者の場合,身体機能の低下を生じるとしているが,退院後の生活状況に関する報告は少ない.そこで本研究
では在宅下腿切断者の生活実態調査から,退院後の義足使用状況および身体機能について切断原因別で比較,検
討することを目的とした.
【方法】
過去 10 年間に当院で義足歩行練習を受け退院した下腿切断者 75 名を対象に,郵送質問紙法にて生活実態調査
を実施した.調査項目は①断端痛の有無,②幻肢痛の有無,③非切断側下肢での片脚立位保持時に必要な支持物
の有無,④椅子からの起立時に必要な支持物の有無,⑤義足装着の可否,⑥義足装着時間および頻度,⑦屋内義
足使用の有無,⑧屋内義足歩行能力
(補助具の有無)
,⑨義足非装着時の屋内移動方法,⑩屋外義足使用の有無,
⑪屋外義足歩行能力(補助具の有無,距離,速度)とした.切断原因別(PAD 群,外傷・腫瘍群)と①から⑪の
各調査項目との関連性を検討するために Fisher の正確確率検定を行った.有意水準は 5% 未満とし,解析には
Statcel2 を使用した.
【結果】
アンケート回収率は 62.7%,死亡者・住所不明を除く有効回答数の 46 名を対象とした.PAD 群は 18 名(平均
年齢 66.6±8.9 歳)
,外傷・腫瘍群は 28 名(48.8±18.0 歳)であった.解析結果より PAD 群の特徴とした項目は,
③非切断側での片脚立位時や④椅子からの起立時に支持物が必要,⑧屋内および⑪屋外での義足歩行時に補助具
が必要,⑨義足非装着時の屋内移動は主に四つ這いや座位移動,⑪連続歩行距離が 100m 未満,⑪同年代の健常者
の歩行速度より遅いとなった.①断端痛や②幻肢痛の有無,⑤義足装着能力,⑥義足装着時間および頻度,⑦屋
内および⑩屋外の義足使用率では有意な差を認めなかった.
【考察】
Burger らは切断原因が循環障害による者は外傷による者と比較し,筋持久力や動的バランス,歩行能力が低下
しているとし,本研究においても同様の結果となった.しかし身体機能が低下しているにも関わらず,屋内外で
の義足使用率や義足装着時間および頻度に有意差を認めなかった.これは,下腿切断者の場合,高位切断者と比
較し座位で義足装着が可能,装着方法が容易,膝関節が温存されていることにより義足歩行に伴う身体的負荷が
少ないなど身体機能の低下している PAD 群にとって有利な点が多いため,屋外だけでなく屋内での移乗動作や
立位動作などの日常生活動作の拡大を目的に頻繁に義足を使用しているものと考えられる.また外傷・腫瘍群の
義足非装着時の屋内移動方法は,歩行が主であることに対し,PAD 群では四つ這いや座位にて移動していた.
PAD を起因とする下腿切断者に対する理学療法を進める上で,下肢だけでなく上肢機能の評価や義足非装着時に
も考慮した日常動作練習,身体能力に合わせた住環境調整を行う必要があると考えられる.
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当院における肩腱板断裂に対する鏡視下腱板修復術の治療成績∼経時的変化
と年代別比較∼
佃 美智留(つくだ みちる),古川 裕之,松本 晋太朗,野田 優希,小松 稔,内田 智也,
石田 美弥,藤田 健司
藤田整形外科・スポーツクリニック
キーワード
肩腱板断裂,鏡視下腱板修復術,年齢
【目的】
近年の高齢化社会において,肩腱板断裂に対して行われる鏡視下腱板修復術の適応が高齢者にまで広がってき
ており,その治療成績においては若年者と変わらない成績であったとの報告や,年齢による影響がみられたとす
る報告など一定の見解を得ていない.また,術後の治療経過において術後半年や 1 年などの長期の成績を示す報
告は多いものの,比較的短い期間での継時的な治療経過を報告した報告は我々の渉猟し得た範囲ではみられな
かった.そこで,今回当院にて施行した鏡視下腱板修復術術後経過について年代別に比較した.
【対象と方法】
対象は平成 22 年 4 月から平成 26 年 9 月までに鏡視下腱板修復術を行った 99 例のうち大断裂であった 14 例,
上腕二頭筋長頭腱,肩甲下筋腱断裂を含む 9 例,鏡視下腱板修復術以外に観血的治療を加えた 7 例,80 歳以上の
2 例,dropout の 11 例を除いた 56 例とした.対象を 60 歳未満群(16 名:男性 8 名,女性 8 名),60 歳代群(21
名:男性 12 名,女性 9 名),70 歳代群(19 名:男性 11 名,女性 8 名)の 3 群に分け,術前,術後 1∼6 か月にお
ける肩関節屈曲可動域,術前,術後 2∼6 か月における肩関節外転,1st 外旋,指椎間距離,術前,術後 3∼6 か月
での棘上筋筋力を測定した.分析項目は各測定項目における年代別の経時的変化と各評価時期における年代間の
比較とした.統計処理は各群と評価時期の二要因について二元配置分散分析を行った後に Tukey 法による多重比
較検定を行った.各検定の有意水準は 5% 未満とした.対象者には本研究の主旨を説明し,同意のもと行った.
【結果】
各年代の経時的変化について.屈曲可動域はすべての年代において術後 1 か月とその他の評価時期に有意差が
みられた.外転可動域は 60 歳代群の術前と術後 3∼6 か月のそれぞれと,70 歳代群の術後 2 か月と術後 4 か月に
有意差がみられた.指椎間距離は 60 歳代群の術後 2 か月と術後 5 か月,6 か月に有意差がみられた.棘上筋筋力
は 70 歳代群の術前と術後 4∼6 か月のそれぞれに有意差がみられた.年代間の比較において,外転,1st 外旋可動
域,棘上筋筋力の術前,1st 外旋の術後 5 か月において年代間に有意差がみられた.
【考察】
各年代の経時的変化については術後 1,2 か月では術前に比べ低下しているものの時を経るごとに改善し,およ
そ術後 4 か月では術前レベルかそれ以上の改善を示した.年代間の比較においては,術前では年代による差がみ
られたが,術後の治療経過では外旋の術後 5 か月を除いて統計学的有意差はなく,年代間における治療成績に差
はみられないものと考えられた.
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当院におけるハンドヘルドダイナモメーターを用いた鏡視下腱板縫合術後 1
年の筋力評価及び関節トルクと自動前方挙上角度間の相関性の検討
磯嵜 浩司(いそざき こうじ)1),夏原 梨彩1),木村 香奈子1),明石 邦彦1),田中 亮祐1),
大桒 佐知子1),奥村 美沙子1),深尾 卓史1),織部 恭史1),山田 知美1),中島 亮2)
豊郷病院 リハビリテーション科1),滋賀医科大学 整形外科2)
キーワード
鏡視下腱板縫合術,関節トルク,自動前方拳上角度
【目的】
Hand Held Dynamometer(以下 HHD)を用いた筋力評価は測定条件の統一が難しい反面,臨床での有用性の
報告は多い.今回,当院での鏡視下腱板縫合術(以下 ARCR),術前・術後 1 年における成績を HHD を用いた筋
力評価を含め報告する.
【方法】
過去 4 年間に当院にて ARCR を施行した 43 例のうち 1 年以上の経過観察が可能であった 14 例 14 肩(男性 11
名,女性 3 名,平均年齢 61.7±7.93 歳,部分∼小断裂 5 名,中断裂 7 名,大断裂∼広範囲断裂 2 名,うち肩甲下筋
断裂を含むもの 5 名)
を対象とし,術前・術後 1 年時における両側の屈曲他動関節可動域(以下,屈曲他動 ROM),
自動前方挙上角度
(以下 AE)
,HHD を用いた筋力測定を実施.筋力測定には ANIMA 社製等尺性筋力計ミュータ
ス F 1 を用い,両側の術前・術後 1 年時の肩関節 90̊ 外転位,下垂位外・.内旋時の最大等尺性収縮ピーク値を測
定.得られた数値を肩関節 90̊ 外転位では上肢長との積を,下垂位外・内旋では前腕長との積を関節トルク
(Nm)
として算出し比較検討,統計処理には Wilcoxson 符号付順位和検定を用い,有意水準 5% 未満とした.また,術
後 1 年時術側の改善率,非術側比をそれぞれ算出した.さらに,術前・術後 1 年時の術側屈曲他動 ROM と AE
間,各関節トルクと AE 間の相関性を Spearman 順位相関係数を用い,有意水準 5% で検討した.
【結果】
術前・術後 1 年時での各関節トルクの比較では,肩関節 90̊ 外転位,下垂位外旋で有意に改善がみられたが下垂
位内旋では有意差はみられなかった.術後 1 年時の術側の改善率は肩関節 90̊ 外転位で 153±110%,
下垂位外旋で
128±41%,下垂位内旋で 112±24% であった.非術側比は肩関節 90̊ 外転位で 74±33%,下垂位外旋で 88±22%,
下垂位内旋で 84±22% であった.次に,術側屈曲他動 ROM と AE 間では術前・術後 1 年時,共に相関を認めた.
術側各関節トルクと AE 間との相関性については術前の肩関節 90̊ 外転トルクと AE 間のみ相関を認め,術前の
下垂位外・内旋トルクと AE 間,術後 1 年時の各関節トルクと AE 間には相関を認めなかった.
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【考察】
結果より,術前と比較して改善を認め,術後 1 年時術側の改善率,非術側比の一指標を得られたが,今回,小
標本で且つ断裂サイズ別での分析が行えず,ばらつきが多い結果となった.同様に下垂位内旋で有意差が得られ
なかったのは,肩甲下筋の断裂を伴う者が 5 名と少数であった要因と考える.術前・術後 1 年時の各関節トルク
と AE 間の相関性については,術前の術側肩関節 90̊ 外転トルクと AE 間のみ相関を認め,術後 1 年時では全てに
おいて相関が認められなかった.一方,術前・術後 1 年時の術側屈曲他動 ROM と AE 間には共に相関を認めた.
これは AE を構成する要素として,単に筋力や関節トルクとしての腱板機能ではなく,肩甲帯周囲筋による肩甲
帯の stability,骨頭の求心性,force couple,肩甲帯の柔軟性などが広く関与していることが確認できたと考える.
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柔軟性に対する加速度トレーニングの効果
中井 一行(なかい かずゆき)1,2)
介護老人保健施設パークヒルズ田原苑1),奈良県立医科大学大学院 医学研究科2)
キーワード
加速度トレーニング,Powerplate,柔軟性
【目的】
怪我の予防としてスポーツや運動を行う前にストレッチを実施することは多く様々なストレッチ方法やその効
果が報告されている.振動刺激を用いたストレッチ効果についてもいくつか報告されているが,ストレッチ時間
や振動機器,振動周波数など様々である.また振動刺激を用いたストレッチ実施直後の持続効果について調査し
た報告はみられていない.
今回,加速度トレーニング機器,Powerplate を使用しての柔軟性に対する即時効果及び持続効果について検討
したので報告する.
【方法】
健常な男性 17 名(平均年齢 33.4±7.2 歳)を対象とした.1 人の対象者に対し 3 種類のストレッチをランダムに
実施し柔軟性の評価として Finger floor distance(FFD)を測定した.ストレッチ効果による影響を排除するため
各ストレッチ間は 3 日以上間隔をあけ実施した.
3 種類のストレッチとは① Powerplate 上,立位で振動ありでのハムストリングスストレッチを 1 分間(以下,
振動 1 分群)②振動ありでのストレッチを 2 分間
(以下,振動 2 分群)
③振動なしでのストレッチを 2 分間
(以下,
振動なし 2 分群)である.測定時期はストレッチ実施前・実施直後・1 分後∼10 分後までの 1 分間毎測定を行っ
た.
統計解析は各群内のストレッチ後の時間による変化及び各群間のストレッチ効果の差について一元配置分散分
析,多重比較検定を用いて比較し有意水準は 5% 未満とした.
【結果】
各群内の比較では 3 群とも実施前に比べて実施後の方が有意に数値が高かった(P<0.01).また実施直後からの
変化では振動 1 分群と振動なし 2 分群では実施後 2 分後以降で有意に数値が低下し,振動 2 分群では実施後 3 分
後以降で有意に数値が低下した
(P<0.01).各群間の比較では,振動 1 分群と振動 2 分群の比較では,2 分後∼10
分後までの値で振動 2 分群の方が有意に数値が高かった(P<0.05).振動 2 分群と振動なし 2 分群の比較では,実
施直後∼10 分後までの全ての値で振動 2 分群の方が有意に値が高かった(P<0.05)
.振動 1 分群と振動なし 2
分群の比較では全ての測定値において有意差はみられなかった.
【考察】
加速度トレーニングによる柔軟性に対する効果を検証したところストレッチ効果は実施前に比べると 3 群とも
実施直後∼10 分後まで効果が持続し実施直後との比較では振動 2 分群で最もストレッチ効果が持続することが
分かった.振動 2 分群と振動なし 2 分群の比較では,実施直後∼実施後 10 分後まで全ての値で振動 2 分群の方が
有意に数値が高く,振動によるストレッチ効果が認められた.また振動 1 群と振動なし 2 分群の比較では全ての
測定値において有意差はみられず振動をストレッチに取り入れることで振動なしに比べ半分の時間で同等の効果
があることがわかった.以上により振動をストレッチに取り入れることでより短時間で効果的なストレッチを実
施することができる.またストレッチ時間は 2 分以上がより効果が持続し運動前の怪我の予防につながるのでは
ないかと考える.
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一般ポスター
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虚弱高齢者における Timed Up and Go Test と 10m 歩行時間の差異と転倒関
連要因との関連性
岡前 暁生(おかまえ あきお)1),和田 智弘1),岡田 誠1),村岸 亜伊子1),吉田 優也1),
北風 浩平1),和田 陽介2),道免 和久3)
兵庫医科大学ささやま医療センター リハビリテーション室1),兵庫医科大学 地域総合医療学2),
兵庫医科大学 リハビリテーション医学教室3)
キーワード
虚弱高齢者,転倒,timed up and go test
【はじめに】
地域在住の高齢者において,歩行速度や Timed Up and Go Test(TUG)と転倒との関連に関して多くの報告が
みられる.要介護状態の一歩手前の虚弱な要支援高齢者は,歩行補助具を使用していることが多く,直進的な歩
行は歩行補助具を使用して比較的速く歩けても,立ち座りや方向転換が不安定となり時間を要していることがあ
る.今回,TUG と 10m 歩行時間との差異から求めた値を用いて,他の評価指標との比較を交えて虚弱高齢者の転
倒関連要因としての転倒歴との関連を検証した.
【方法】
対象は通所リハビリテーションを利用する要支援高齢者とした.評価項目は,TUG,10m 最大歩行時間,膝伸
展筋力,Functional balance scale(FBS),過去 1 年間の転倒歴とした.また,10m の歩行時間と比べた方向転換
や立ち座り動作にかかる時間の割合を調べるため,TUG の得点から 10m 最大歩行時間を減じた値を 10m 最大歩
行時間で除し,最後に 100 を乗じた値(
(
(TUG 10m)10m)×100:以下,TUG 10m)を用いた.測定に大きな
影響を及ぼすほど重度の神経学的障害や筋骨格系障害および認知障害を有する者は対象から除外した.統計解析
は,対象者を過去 1 年間の転倒の有無で 2 群に分け,各測定項目を比較した.次に有意差があった項目を独立変
数,転倒の有無を従属変数としたロジスティク回帰分析を行った.また,ROC 曲線により曲線下面積(AUC),
感度・特異度,Youden Index によりカットオフ値を算出した.さらに,陽性尤度比と陰性尤度比を求め,TUG
10m の判別能力を検証した.統計は SPSSver22.0 を用いた.有意水準は 5% 未満とした.
【結果】
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"
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対象者は 59 名(男性 15 名,女性 44 名)
,平均年齢は 82±5.5 歳であり,過去 1 年間に転倒があった者は 28
名であった.転倒群と非転倒群を比較した結果,非転倒群と比べ転倒群では FBS
(p<0.01)
,膝伸展筋力(p<0.05)
が有意に低値であり,TUG 10m(p<0.01)が有意に高値であった.その他の項目では有意な差は認められなかっ
た.ロジスティック回帰分析の結果,有意な関連因子として TUG 10m
(odds:1.038,95% 信頼区間 1.007∼1.069,
p<0.05)
が抽出された.ROC 曲線から求めた AUC は,TUG 10m=0.726,膝伸展筋力=0.661,FBS=0.699 であっ
"
"
"
"
た.TUG 10m の感度は 89.3%,特異度は 32.3% であった.陽性尤度比は 1.3,陰性尤度比は 0.33,カットオフ値
は 4.3 であった.
【考察】
ロジスティック回帰分析の結果より,TUG 10m は増加すると転倒の可能性が高くなり,転倒に有意に関与して
いることが示唆された.また,TUG 10m は FBS や膝伸展筋力より転倒と強い関連性を有していた.しかし,高
"
"
い転倒判別能力があるとはいえず,転倒予測指標としては今後の応用に向けての参考値であると考える.転倒予
測指標への応用については,今後さらに検討していく必要がある.
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