407KB - 医療経済研究機構(IHEP)

5
論文
家庭血圧導入の医療経済評価
舟橋
仁*1
大久保孝義*2,3 菊 谷 昌 浩 *2
小林
福 永 英 史 *2
慎*4
今井
潤*1,3
[目的]近年の医療費の高騰、財政難を背景に、限られた医療資源の有効活用が求められている。特に費やされる医療
費中で大きな割合を占める高血圧性疾患について、費用対効果を考慮した治療の効率化は重要な課題である。家庭におけ
る自己測定血圧(家庭血庄:HBP) は医療環境下で測定される随時外来血圧 (CBP) に比べ、予後予測に優れているとさ
れており、 HBPの導入により高血圧診療の適正化が図られ、医療費の削減につながることが期待される。本研究では、
CBPに基づいた高血圧診断・治療が HBPに基づいた診断・治療に移行した場合の主治医の診療行動および患者の受診行動
の変化を推定し、それに伴う医療費の変化を推計することを目的とした。
[方法] HBPを導入した高血圧・循環器疾患に関するコホー卜研究である大迫研究のデータおよび厚生労働省発表の統
計資料等を移行確立の根拠として用いたディシジョンツリーを作成し、高血圧診断への HBP導入による医療機関における
主治医の診療行動および患者の受診の行動変化が生む医療経済的効果を試算した。
[成績] HBP導入に伴う診療行動・受診行動の変化が与える高血圧性疾患に関する医療費への影響を推計すると、年間
1兆 0136
億円の費用削減が推定された。その大部分は、降圧治療を受けておらずCBP高血圧かつ HBP
正常血圧である者が、
HBPの導入により新規受診が不必要であると判断されることで、本来費やされるはずであった医療費が回避されることに
起因するものであった。また、 HBP
導入による的確な血圧コントロールはその後の合併症の発症にも影響を及ぼすことが
推測される。 HBP導入により新規治療開始または治療増強される患者の 50%において、収縮期血圧が 10mmHg降圧したと
仮定すると、合併症予防効果に伴い年間 30億円の医療費が削減できると推計された。さらに、的確な血圧コントロールに
よる脳卒中の予防は合併症の医療費だけでなく介護費の削減にもつながることが推察され、 HBP
導入により新規治療開始
または治療増強される患者の 50%において収縮期血圧が 10mmHg降圧したと仮定すると、合併症予防効果に伴い年間 42
億
円の介護費が削減できると推計された。これら高血圧関連医療費、合併症関連医療費および介護費の削減額を合計し、高
血圧診断への HBP導入により年間 1~~0209億円の費用が削減されると推定された。
[結論]高血圧診断・治療への HBP導入は非常に高い医療費削減効果があることが示唆され、今後 HBPの更なる普及が
望まれる。
キーワード:医療費、高血圧、家庭血圧、随時外来血圧、大迫研究
る。そのような中で、限られた医療資源を真に効
1.研究背景
果的で効率的な医療へ有効利用するため、医療を
経済学的視点から見ることの必要性が増しつつあ
近年、先進諸国において医療費の高騰は社会問
る。平成1
4
年度の高血圧性疾患の医療費は約 1兆
題化し医療費適正化は重要な政策課題とされてい
9
5
0
0
億円と循環器系疾患の 3分の lを占め1)、ま
*1 東北大学大学院薬学研究科臨床薬学分野
*2 東北大学大学院薬学研究科医薬開発構想寄附講座
*3 東北大学21世紀COEプログラム‘医薬開発統括学術分野
た、高血圧は脳卒中や虚血性心疾患、腎疾患、痴
創生-人材育成拠点'
*4 クレコンリサーチ&コンサルテイング株式会社医療ア
セスメント研究部
呆などを引き起こす最大の危険因子とされてお
り、これらの治療費まで含めると高血圧とその関
連疾患に費やされる医療費は莫大なものになるこ
6
医療経済研究
vo
1
.
172
0
0
5
とが予想される 2)。さらにこれら医療費に加えて
早期に発見し適切な管理・指導を行うことが可能
介護費用や通院費用などの直接非医療費と、擢病
となれば、高血圧の予防・治療の適正化による医
による生産性の低下や死亡によって失われる時間
療の効率化が図られる。また、高血圧は脳心血管
的価値などの間接費用を考慮に入れると高血圧症
疾患発症の最大のリスクであるため、高血圧の進
に対する社会的負担が甚大で、あることは想像に難
行や重症化を回避することで、将来発症するであ
くない。
ろう高血圧合併症の擢患率を低下させうる。この
従来、高血圧診療は、医療環境下での血圧であ
ことは、保健のみならず医療費・介護費の面でも
る「随時外来血圧 (
C
a
s
u
a
lb
l
o
o
dp
r
e
s
s
u
r
e:CBP)J
大きな効果が期待される。この研究では HBPを用
の値を基に診断・予防・治療が行われるのが通例
いた高血圧・循環器疾患に関するコホート研究で
であった。しかし、 CBPのみに基づく高血圧診療
ある大迫研究 4,5,12) のデータおよび厚生労働省発表
にはいくつかの限界があげられる o CBPは防御反
の統計資料を用いて、高血圧診断への HBP
導入に
応・警鐘反応に由来するとされる白衣効果などの
よる医療機関における主治医の診療行動および患
バイアスを含み、必ずしもその個人の真の血圧を
者の受診行動の変化が生む医療経済的効果を試算
反映し得ない 3。
)
した。
一方、家庭における自己測定血圧(家庭血圧:
S
e
l
fmeasuremento
fb
l
o
o
dp
r
e
s
s
u
r
ea
thome:
2
.研究方法
HBP) の導入により、非医療環境下において多数
の血圧測定値を得ることが可能となる。そのため
(1)分析モデルの作成
HBPは個人の血圧をより詳細に反映し、高血圧診
①モデルの構造
療に威力を発揮する。また、 CBP
値は正常範囲内
分析対象は、平成 1
5
年1
0月 1日推計人口 I川こお
でありながら HBP
値が高血圧域にある「隠れた高
けるわが国の 30歳以上の男女8575
万人とした。比
y
p
e
r
t
e
n
s
i
o
n
)Jゃ、診療時にのみ
血圧 (Maskedh
較対照としては、 CBPのみを高血圧診断基準とし
高 血 圧 を 呈 す る 「 白 衣 高 血 圧 (White c
o
a
t
て用いた降圧治療とした。 CBPは高血圧診療にお
h
y
p
e
r
t
e
n
s
i
o
n
)Jの発見にも有用である。さらに、
いて最も一般的に計測されておりヘ従来の診断
HBPの導入で患者に高血圧治療への参加意識を与
基準として最も適当で、あることから対照として用
え、結果として高血圧治療コンブライアンス自体
いた。
を向上させる効果も期待される 3)。加えて、心血
モデルは、政府発表の統計資料、大迫研究のデ
管合併症などの予後予測の点でも、 HBPはCBPに
ー夕、および過去の文献に基づいて作成した。 1
優ることが示されている 4-6)。これらの事実に基
年間の経過につき、合併症発症とそれに伴う治
づき、世界の高血圧ガイドライン 7-10) はHBPの臨
療・介護にいたるまでのディシジョンツリーを作
床的価値を高く評価すると同時に、高血圧・正常
成し費用分析を行った。 HBP
測定自体に起因する
血圧の基準を提示した。更に、日本高血圧学会は
純粋な治療効果はその評価が困難であるため、本
2003
年、家庭血圧測定に関するガイドライン ω を
研究で、は効果に関する検討は行っていなしミ。なお、
提示した。今日 HBP
測定は高血圧診療において市
3
0
歳以上40歳未満、 40歳
全て 5段階の年齢階級 (
民権を確立したと言える。
以上50歳未満、 50歳以上60歳未満、 60歳以上70歳
高血圧診断に HBPを導入することで、高血圧を
未満、 70歳以上)および性別により層別化し推定
家庭血圧導入の医療経済評価
を行った。
7
測定した者は HBPにより診断され、 HBPを測定し
表 1に性・年齢階級別、降圧治療および血圧分
なかった者は CBPにより診断される。高血圧と診
布の全国推計値を示す。性別、年齢分布は総務省
断された場合は、現在の治療は不十分であるとさ
発表の平成 1
5年 1
0月 1日現在推計人口 ωlこ基づい
れ、一定の確率で増薬される(コンポーネント B)。
た。降圧治療の有無およびCBPの分布は、第 5次
正常血圧と診断された場合は、現在の治療は適正
循環器疾患基礎調査報告(平成 1
2年)叫における
であると判断され、治療はそのまま継続される
「性・年齢階級別、血圧区分および降圧薬服用者
(コンポーネント C)。過降圧と診断された者は、
の割合」に基づいた。 HBPの分布は岩手県大迫町
現在の治療は過剰で、あると判断され、一定の確率
の一般地域住民のうち CBPおよびHBPを同時期
で減薬される(コンポーネント D)o HBP高血圧
(
19
8
6
1
9
9
6
) に測定した男女2
8
2
1人の血圧データ
で増薬された者は、一定の確率で降圧効果が現れ
に基づいた。 CBPによる診断で、は 140/90mmHg
以
る(コンポーネント E
)。次に無治療かつ CBP高血
上を高血圧、それ未満を正常血圧と定義した。
圧の者は、自分が高血圧だと認識しているため、
HBPによる診断では 135/85mmHg
以上を高血圧、
一定の確率で高血圧診療を受診する(コンポーネ
1
l0/65mmHg
以上 135/85mmHg
未満を正常血圧、
ント F
)0 受診した場合は一定の確率で HBPが測
既治療者に関しては1l0/65mmHg
未満を過降圧と
定される(コンポーネント G)o HBPを測定した
定義した。
者は HBPにより診断され、 HBPを測定しなかった
以下の推計は 3
0
歳以上の国民全員がCBPを測定
者は CBPにより診断される。高血圧と診断された
し、高血圧診療の受診者のうち 80%がHBPを測定
場合は、必ず降庄治療が開始され、一定の確率で
すると仮定の下で行われた。また、 HBP
測定が行
降圧効果が現れる(コンポーネントH)o 無治療
われた場合、 HBPが序で述べた如くゴールドスタ
かつ CBP
正常血圧の者は、一定の確率で HBPを自
ンダードであり、高血圧診療が全て HBPに基づき
主的に測定する(コンポーネント1)0 HBPを自主
判断されると仮定した。加えて、受診時に高血圧
的に測定した者のうち HBP高血圧の者は、自分が
と診断されたものは必ず治療を開始または継続す
高血圧だと認識しているため、一定の確率で高血
るものとし、既治療者または新たに治療を開始し
圧診療を受診する(コンポーネント J
)。また、
た者は、今後も継続して治療が行われるものと仮
HBPに基づいた合併症発症率に従い、合併症を発
定した。なお、このモデルで、は潜在的に必要とさ
症する(コンポーネント K)。これらを組み合わ
れる治療に基づいた医療費を推定しており、現状
せて、 36x4のシナリオを構築し(表 3)、今回
の医療費の積算からは講離がある。
の分析に用いた(図1)。
本モデルを構築する各コンポーネントを表 2に
示す。なお、各コンポーネントの移行確率の根拠
は次項に述べる。
②ディシジョンツリーにおける移行確率の根拠
現在本邦には 3
0
0
0
万台の家庭血圧計がある ω こ
まず降圧治療の有無、 CBP
、HBPについて、先
とから、高血圧診療受診者の各世帯に家庭血圧計
述した分布(表1)に従い割り振られる。既治療
はすでに 1台あると考え、これを用いて 100%が
者は、全員が高血圧診療のために医療機関を継続
家庭血圧計を有するとし、大迫町でのアンケート
して受診する。受診した場合は、一定の確率で
結果から家庭血圧計を有する者の 80%がHBP
測定
HBPが測定される(コンポーネント A)o HBPを
を行うと仮定した(コンポーネント AおよびG)。
8
医療経済研究
vo
1
.
172
0
0
5
表 1 性・年齢階級別、降圧治療および血圧分布の全国推計値
治療中
無治療
CBPHT
CBPNT
CBPHT
CBPNT
ALL HBPHTHBPNT HBPERHBPHTHBPNT HBPERHBPHTHBPNTHBPHTHBPNT
男
女
。
ALL
3
0
3
9
4
0
4
9
5
0
5
9
6
0
6
9
7
0
-
4,
0
8
9
9
1
6
7
9
3
9
5
1
7
5
4
6
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5
3
8
4
1
1
8
6
1
1
3
1
7
4
1
4
4
1
5
7
3
8
39
45
1
9
O
O
5
7
7
1
1
1
8
1
1
2
3
38
3
1
69
O
9
2
1
1
4
25
ALL
3
0
3
9
4
0
4
9
5
0
5
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6
0
6
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0
-
4,
4
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0
1
7
8
6
9
6
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8
1
7
,
0
1
6
1
3
9
2
O
1
5
4
5
1
1
2
2
2
0
2
4
8
O
1
5
57
58
1
2
44
O
O
5
9
3
1
9
2
3
4
1
4
1
8
5
3
1
2
2
。
6
28
37
5
1
1
3
2
6
3
2
4
3
9
2
1
8
0
1
7
4
1
4
4
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5
1
5
5
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1
1
1
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0
1
2
3
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0
3
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9
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3
2
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5
2
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,
7
5
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1
6
7
6
3
8
4
3
8
4
1
8
9
1
2
4
3
1
O
3
7
7
1
4
3
5
7
O
3
1
5
9
1
1
1
1
5
7
7
1
0
6
8
1
0
2
2
3
1
1
7
5
1
3
3
1
2
3
9
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0
34
3
0
3
9
3
6
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2,
8
2
1
6
0
2
4
8
8
2
6
0
1
9
9
6
O
。
単位・万人
C
B
P
:随時血圧, H
B
P
:家庭血圧, H
T
:高血圧, N
T
:正常血圧, ER:過降圧
CBPHTミ 1
4
0
/
9
0mmHg
,C
BPNT<1
4
0
/
9
0mmHg
HBPHT~ 1
3
5
/
8
5mmHg
,H
BPNT= 1
1
0
/
6
51
3
4
/
8
4mmHg
,H
BPERく 1
1
0
/
6
5mmHg
処方変更率 40%の根拠は、 The J
apan Home
HBPが正常血圧にある者であり、 K EはHBPが高
versus Office Blood Pressure Measurement
血圧であるため HBP導入の結果として降圧治療の
Evaluation (
J
-HOME) 研究 l川こおける医師への
増強または新規開始され降圧効果が認められた者
アンケート結果によった。即ち、高血圧患者の約
であり、 K
l
l
lはHBPが高血圧であるが降圧治療の
40%が治療不十分と医師から評価されたことを根
増強または新規開始がなされなかった者、あるい
拠とした(コンポーネント BおよびD)。増薬また
は降圧治療の増強または新規開始されたが降圧効
は新規治療開始した者における降圧効果が得られ
果が認められなかった者である。なお、高血圧合
る割合は、 Cuspidiらによる HBP測定の有無別の
併症としては脳梗塞、脳出血、虚血性心疾患に限
血圧コントロール率に関する報告17)に基づいた
って計算を行った。
(コンポーネント EおよびH)。第 5次循環器病基
開
また、コンポーネント K
l
lにおける合併症発症
ω によると、現在 140/
礎調査報告(平成 12年 )
率は、 K
-皿における合併症発症率に以下の降圧効
以上の高血圧者のうち治療を受けている
90mmHg
果により減少した合併症発症リスク比を乗じて算
人の割合が約 30%であることから、本対象におけ
出した。降圧効果により減少する合併症発症リス
る無治療者の受診率を 30%と推定した(コンポ}
クは TheSystolic Hypertensioni
n the Elderly
ネント FおよびJ
)。一方、無治療 CBP正常血圧者
Program CSHEP) 研究 19) の結果を基に、収縮期
は少なく見積もって 10%が自発的に HBPを測定す
低下につき脳梗塞のリスクと脳出血
血圧 10mmHg
ると仮定した(コンポーネント1)。高血圧者およ
のリスクがそれぞれ35%および50%減少すると仮
び正常血圧者の年間合併症発症率は、久山町研究
定した。収縮期血圧 5mmHgの低下では、脳梗塞
(
第 3集団:1988・
1995)ω に基づいた(コンポー
のリスクと脳出血のリスクがそれぞれ20%および
ネント K)0 表 2におけるコンポーネント K
Iは
、
30%減少すると仮定した。また、降圧治療のメタ
家庭血圧導入の医療経済評価
9
表2 コンポーネン卜の移行確率
コンポーネント
A
既治療者の
HBP測定
HBP導入前
HBP導入後
根拠
。
あり
なし
0
.
8
1
.
0
0
.
2
コンポーネント
B
既治療者の
処方変更
(増薬)
あり
0.
4
0.
4
大迫町一般住民
(
19
8
6
1
9
9
6)
本態性雨血圧
治療中患者
(
2
0
0
3
)
F
無治療
CBPHT者の
~ζ
L,.三ロ人
ノ
HBP導入前
HBP導入後
調査年度
対象等
あり
0
.
4
0
.
4
1
.0
1
.0
あり
0
.
3
0
.
3
なし
0
.
7
0
.
7
第5次循環器病
基礎調査
あり
O
0
.
8
なし
0
.
6
0
.
6
E
あり
0
.
4
5
0
.
5
研究論文
コンポーネント
H
あり
0
.
4
5
0
.
5
なし
1
.0
0
.
2
アンケート調査
1
4
なし
0
.
5
5
0
.
5
大迫町一般住民
(
19
8
6
1
9
9
6)
脳 梗 塞 脳 出 血 IHD
発 症 発症
発症
0
.
0
0
2
60
.
0
0
1
20
.
0
0
3
2
0
.
0
0
2
60
.
0
0
0
90
.
0
0
1
5
本態性局血圧
治療中患者
(
2
0
0
3
)
高血圧外来患者
(
2
0
0
2
)
コンポーネント
コンポーネント
J
I
無治療 CBPNT
かつ HBP
測定者
の月
λー
三
ロ
ク
ι
無治療
CBPNT者の
HBP測定
あり
O
0.
1
研究論文
高血圧外来患者
(
2
0
0
2
)
コンポーネント K
I
I
なし
1
.0
0
.
9
仮定
あり
O
0
.
3
研究論文
なし
1
.0
0
.
7
第5次循環器病
基礎調査
1
4
全国一般住民
(
2
0
0
0
)
コンポーネント K園
田
発 症 脳 梗 塞 脳 出 血 IHD 発症 脳 梗 塞 脳 出 血
せず 発症
発症
発症
せず 発症 発症
0
.
9
9
3
00
.
0
0
3
80
.
0
0
1
30
.
0
0
5
30
.
9
8
9
60
.
0
0
5
90
.
0
0
2
6
0
.
9
9
5
00
.
0
0
3
40
.
0
0
1
80
.
0
0
2
00
.
9
9
2
80
.
0
0
5
30
.
0
0
3
5
研究論文
0
.
5
5
0
.
5
1
7
1
7
全国一般住民
(
2
0
0
0
)
なし
研究論文
1
6
無治療 CBPHT
無治療者の
かっ受診した者の 治療開始による
HBP測定
降圧効果
幽
根拠
既治療者の
増薬による
降圧効果
仮定
コンポーネント
G
コンポーネント K I
男
女
既治療者の
処方現状維持
既治療者の
処方変更
(減薬)
0
.
6
0
.
4
研究論文
コンポーネント
文献N
o
.
コンポーネント
1
6
調査年度
対象等
根拠
コンポーネント
D
なし
アンケート調査
文献N
o.
コンポーネント
C
IHD 発症
発症
せず
0
.
0
0
6
20
.
9
8
5
3
0
.
0
0
2
40
.
9
8
8
8
研究論文
文献N
o.
1
8
1
8,1
9,2
0
1
8
調査年度
対象等
久山町一般住民
(CBP<1
4
0
/
9
0
)
(
19
8
8
1
9
9
6)
久山町一般住民(19
8
8
1
9
9
6)
ω
高齢収縮期高血圧者(19
8
5
.
1
9
8
8
)19)
メタアナリシス却)
(CBP~160/95 o
r降圧治療中)
久山町一般住民
(
1
9
8
8
1
9
9
6
)
B
P
:家庭血圧, H
T
:高血圧, N
T
:正常血圧, I
H
D
:虚血性心疾患
C
B
P
:随時血圧, H
分析却)に基づき、収縮期血圧 10mmHg
低下につき
(2) 費 用 推 定
虚 血 性 心 疾 患 の リ ス ク が 15%減 少 す る と 仮 定 し
分析は支払い者の立場から行い、費用の範囲は
た 。 収 縮 期 血 圧 5mmHgの 低 下 で は 虚 血 性 心 疾 患
直接医療費と介護費を対象とした。ディシジョン
の リ ス ク が 10%減少すると仮定した。
ツリーに基づき、各シナリオにおける高血圧関連
1
0
医療経済研究
v
o
1
.
172
0
0
5
図 1 高血圧診断・治療のディシジ、ヨンツリー
シナリオ
(
a
)既治療
CBPHT
CBPNT
シナリオ
(
b
) 無治療
(
c
) サブツリー
脳梗塞発症 (
a
)
脳梗塞発症 (
a
)
脳梗塞発症 (
a
)
脳出血発症 (
b
)
脳出血発症 (
b
)
脳出血発症 (
b
)
IHD発症(c)
IHD
発症(c)
IHD発症 (
c
)
d
)
発症ぜず (
d
)
発症ぜず (
発症ぜず (
d
)
ディシジョンツリー内の括弧(大文字)は表 2における各コンポーネントを示す。
CBP:随時血圧, HBP:家庭血圧, HT:高血圧, NT:正常血圧, E
R
:過降庄
CBPHT2
'
:1
40/90mmHg
,CBPNT<140/90mmHg
HBPHT2
'
:1
35/85mmHg
,HBPNT=1
1
0
/
6
5-134/84mmHg
,HBPER<110/65mmHg
1
1
家庭血圧導入の医療経済評価
表3 シナリオ
N
o
.
治療
CBP
HBP
シナリオ
サブツリー
1
あり
HT
HT
HBP測定し、 HBPに基づく診断に従い増薬。降圧効果現れる。
2
あり
HT
HT
HBP測定し、 HBPに基づく診断に従い増薬。降庄効果現れない。
K
I
I
K
-皿
3
あり
HT
HT
HBP測定したが、 HBPに基づく診断に従わず、現状維持。
K
-皿
K
I
I
4
あり
HT
HT
HBP測定せず、 CBPに基づく診断に従い増薬。降圧効果現れる。
5
あり
HT
HT
HBP
測定せず、 CBPに基づく診断に従い増薬。降圧効果現れない。
K
-回
6
あり
HT
HT
HBP
測定せず、 CBPに基づく診断に従わず、現状維持。
K
i
l
l
7
あり
HT
NT
HBP測定し、 HBPに基づく診断に従い現状維持。
K-I
8
あり
HT
NT
HBP
測定せず、 CBPに基づく診断に従い増薬。
K-I
9
あり
HT
NT
HBP
測定せず、 CBPに基づく診断に従わず、現状維持。
K-I
1
0
あり
HT
ER
HBP
測定し、 HBPに基づく診断に従い減薬。
K-I
1
1
あり
HT
ER
HBP
測定したが、 HBPに基づく診断に従わず現状維持。
K-I
1
2
あり
HT
ER
HBP
測定せず、 CBPに基づく診断に従い増薬。
K-I
1
3
あり
HT
ER
HBP
測定せず、 CBPに基づく診断に従わず、現状維持。
K-I
1
4
あり
NT
HT
HBP
測定し、 HBPに基づく診断に従い増薬。降圧効果現れる。
K
I
I
K
i
l
l
1
5
あり
NT
HT
HBP
測定し、 HBPに基づく診断に従い増薬。降庄効果現れない。
1
6
あり
NT
HT
HBP
測定したが、 HBPに基づく診断に従わず、現状維持。
K
i
l
l
1
7
あり
NT
HT
測定せず、 CBPに基づく診断に従い現状維持。
HBP
K
i
l
l
1
8
あり
NT
NT
HBP測定し、 HBPに基づく診断に従い現状維持。
K-I
1
9
あり
NT
NT
測定せず、 CBPに基づく診断に従い現状維持。
HBP
K-I
2
0
あり
NT
ER
HBP測定し、 HBPに基づく診断に従い減薬。
K-I
2
1
あり
NT
ER
HBP測定したが、 HBPに基づく診断に従わず現状維持。
K-I
2
2
あり
NT
ER
HBP測定せず、 CBPに基づく診断に従い現状維持。
K-I
2
3
なし
HT
HT
受診し、 HBP
測定。 HBPに基づく診断に従い治療開始。降圧効果現れる。
K
-I
2
4
なし
HT
HT
受診し、 H
B
P
i
l
U定
。 HBPに基づく診断に従い治療開始。降圧効果現れない。
K
i
l
l
2
5
なし
HT
HT
受診したが、 HBP測定せず。 CBPに基づく診断に従い治療開始。降圧効果現れる。
K
-I
2
6
なし
HT
HT
受診したが、 HBP
測定せず。 CBPに基づく診断に従い治療開始。降圧効果現れない。
K
i
l
l
2
7
なし
HT
HT
受診せず、無治療。
2
8
なし
HT
NT
受診し、 HBP
測定。 HBPに基づく診断に従い無治療。
K
i
l
l
KI
2
9
なし
HT
NT
受診したが、 HBP
測定せず。 CBPに基づく診断に従い治療開始。
K-I
3
0
なし
HT
NT
受診せず、無治療。
K-I
3
1
なし
NT
HT
自主的に HBP
測定し、受診。 HBPに基づく診断に従い治療開始。降圧効果現れる。
3
2
なし
NT
HT
自主的に HBP
測定し、受診。 HBPに基づく診断に従い治療開始。降庄効果現れない。
K
-I
K
-皿
3
3
なし
NT
HT
自主的に HBP
測定したが、受診せず無治療。
K
i
l
l
3
4
なし
NT
HT
HBP測定せず、 CBPに基づき受診は不必要と判断。無治療。
K
i
l
l
3
5
なし
NT
NT
自主的に HBP
測定し、 HBPに基づき受診は不必要と判断。無治療。
K-I
3
6
なし
NT
NT
自主的に HBP
測定せず、 CBPに基づき受診は不必要と判断。無治療。
K-I
C
B
P
:随時血圧, HBP:家庭血圧, HT:高血圧, NT:正常血圧, E
R
:過降圧
CBPHT~ 140/90mmHg,CBPNT<140/90mmHg
HBPHTミ 135/85mmHg,HBPNT=110165-134/84mmHg,HBPER<110/65mmHg
同
1
2
医療経済研究
v
o
1
.
l72
0
0
5
表4 費用
コンポーネント
既治療
治療開始
B
D
K
a,K
b
K
c
K
a,K
b
年間費用 総患者数
(億円)
(千人)
内訳
高血圧性疾患に関わる医療費
薬剤費 60%増加
薬剤費60%減少
脳卒中に関わる医療費
虚血性心疾患に関わる医療費
介護保険費用額
1
9,
5
5
1
1
人あたり年間費用
(円)
6
,
9
8
5
1
7
,
49
9
6,
9
4
3
,3
17
4
9
1
1
文献N
o
.
,
0
0
0
2
8
0
1
,2
1
4
4,
2
0
0
4
4
,
2
0
0
,2
17
0,
0
0
0
7
6
0,
0
0
0
1
,
9
7
0,
0
0
0
*
*
,
12
1
,
12
1
2
4
*社会医療診療行為別調査(文献 2
2
) に基づき、薬剤l
比率 2
6
.
3
%として計算
医療費、合併症関連医療費、合併症関連介護費を
上の男女8575
万人に要する高血圧関連医療費、合
推定した。
併症関連医療費および介護費の期待費用を算出
表 4に費用の内訳を示す。高血圧に関する患者
し、比較検討した。
一人当たりの年間医療費は、国民医療費(平成 1
4
年)1)による年間の一般診療医療費を患者調査
(4)感度分析
(平成 14年)却による総患者数で除して算出した。
本研究のようなモデル分析では、モデルの構造
また、社会医療診療行為別調査(平成 14年)22) に
やパラメーターの設定により、結果が変動する。
基づき、高血圧性疾患に費やされる医療費に占め
そのため分析結果の頑健性を確認するために一定
る薬剤比率は 26.3%とした。増薬・減薬による薬
の幅で、パラメーターを変動させた場合の分析結果
剤費増減率は 60%と仮定した。その根拠は、
J
-
の変動を確認する感度分析が必要となる。本研究
HOME
研究 16) において治療中高血圧患者の平均投
高血圧かつ受診
では、既治療者および無治療 CBP
7
剤であり、降圧薬が 1
剤増減される
与薬剤数が1.
した者の HBP
測定率(コンポーネント AおよびG
)、
とすると、約 60%の薬剤量変動となることである。
処方変更率(コンポーネント BおよびD)、無治療
合併症に関する患者一人当たりの年間医療費
者の受診率(コンポーネント FおよびJ
)、無治療
は、国民医療費(平成 1
4年)1) による各合併症の年
CBP
正常血圧者の HBP
測定率(コンポーネント1)、
間の一般診療医療費を患者調査(平成 14年)2]) に
処方変更される場合の薬剤費増減率および治療効
よる各合併症の総患者数で除して算出した。なお、
果が現れた場合の降圧度について感度分析を実施
合併症関連医療費としては脳梗塞、脳出血、虚血
した。
性心疾患に限って計算を行った。合併症関連介護
費については、要介護の原因として第 1位に挙げ
3
. 研究結果
られている脳卒中 23) に限って計算を行った。介護
給付費実態調査(平成 14年)24) に基づき、受給者
一人当たりの年間介護保険費用額 197万円を合併
症関連介護費とした。
(1)ベースラインの分析結果
モデルに基づき算出した各シナリオにおける高
血圧関連医療費、合併症関連医療費、合併症関連
介護費を表 5に示す。 CBPに基づいた降庄治療で
(
3)費用分析
ディシジョンツリーに基づき、わが国の 30歳以
は、高血圧関連医療費 6兆9507
億円、合併症関連
医療費7154
億円、合併症関連介護費8209
億円、合
家庭血圧導入の医療経済評価
1
3
計8兆4870
億円が必要で、あると推定された。これ
口において本研究で推定した通り 2290
万人が家庭
に対して HBPに基づいた降圧治療では、高血圧関
血圧計を導入したとするとき、医療費の損益分岐
連医療費 5兆 9370
億円、合併症関連医療費7124
億
となる一人当たりの HBPの導入費用は 44580円と
円、合併症関連介護費 8167
億円、合計 7兆 4661億
算定された。
円必要で、あると推定された。従って、高血圧診断
への HBP導入により、高血圧関連医療費 l兆0136
(2) 感度分析
億円、合併症関連医療費 30億円、合併症関連介護
既治療者および無治療CBP高血圧かつ受診した
費42
億円、合計 1兆0209
億円の費用削減が推定さ
者の HBP測定率(コンポーネント AおよびG)、処
れた。
方変更率(コンポーネント BおよびD)、無治療者
HBP導入前後における高血圧関連医療費の差
の受診率(コンポーネント FおよびJ)、無治療
は、シナリオ 28の降圧治療を受けていない CBP高
CBP
正常血圧者の HBP測定率(コンポーネント1)
血圧かつ HBP正常血圧の者が、 HBPを測定するこ
および処方変更される場合の薬剤費増減率を変動
とで、 CBPに基づき診断する場合に必要であった
させた場合における、 HBP導入時の費用への影響
新規受診を回避できることに起因するものが大き
について感度分析を実施した。各パラメーターを
かった。合併症関連医療費および介護費の差は、
50%-150%の範囲で変動させ、その影響を算出
シナリオ 14の降圧治療中で;CBP
正常血圧かつ HBP
した。また、増薬・新規治療開始し降圧効果が現
高血圧の者において、 HBPを測定されることで増
れた場合の収縮期血圧降圧度を 5mmHgに変動さ
薬が必要と判断され、治療増強により合併症発症
せた場合についても検討した。
率が低下することに起因するものが大きかった。
既治療者および、無治療CBP高血圧かっ受診した
以上のように、高血圧診断への HBP導入により、
者の HBP測定率を 40%に変動させた場合、 4971億
l兆 0209
億円の便益が推定された(表 5)。便益
円の削減が推定された。既治療者および無治療
の合計 1兆0209
億円を分子におき、 30歳以上の人
CBP高血圧かっ受診した者の HBP
測定率を 100%
表5 高血圧診断・治療の費用分析
年齢
HBP導入前
3
03
9
4
0
4
9
5
0
5
9
6
0
6
9
7
0
合計
導入後
3
0
3
9
HBP
4
0
4
9
5
0
5
9
6
0
6
9
7
0
合計
差額(削減額)
単位:億円
HBP:家庭血圧
司
高血圧関連医療費 合併症関連医療費 合併症関連介護費
,
12
3
2
,
13
8
0
,
9
8
9
2
,
12
0
0
1
,
3
5
4
6
,
0
1
5
,
17
9
7
1
1
7
1
,
5
8
0
1
5,
1
8
,
2
3
5
1
,
48
0
1
,
7
0
9
,
6
6
3
,
19
6
9
1
2
7,
15
1
,
15
4
8
,
2
0
9
7
6
9,
5
0
7
,
12
3
0
,
13
7
9
1
,
5
0
8
,
13
5
0
1
,
19
7
3,
9
6
3
2
8
9
1
,
5
7
4
,
17
8
9
1
2,
,
4
7
1
,
16
9
8
1
1
6,
18
6
,
19
5
2
2
5,
4
2
3
,
16
5
1
,
16
7
8
,
12
4
7
5
9,
3
7
0
4
2
3
0
1
0,
13
6
合計
5
,
6
0
1
8
,
5
6
9
1
8,
4
9
4
4
2
4
2
1,
3
0,
7
8
3
8
4,
8
7
0
4,
1
1
7
6,
5
1
0
1
5
,
6
5
2
1
9
,
3
5
5
2
9
,
0
2
7
7
4
,
6
6
1
,
2
0
9
1
0
1
4
医療経済研究
v
o
1
.
172
0
0
5
に変動させた場合は、 1兆2
8
2
8
億円の削減が推定
増減に変動させた場合、 1兆 0
4
6
1億円の削減が推
された。
定された。
処方変更率を 20%に変動させた場合、 9
9
3
1億円
増薬・新規治療開始し降圧効果が現れた時の収
の削減が推定された。処方変更率を 60%に変動さ
縮期血圧降圧度を 5mmHgに変動させた場合、 1
4
6
1
億円の削減が推定された。
せた場合は、 1兆0
兆0
1
8
4
億円の削減が推定された。
無治療者の受診率を 15%に変動させた場合、
以上より、各パラメーターを幅広い範囲で変動
5
3
8
3
億円の削減が推定された。無治療者の受診率
導入の経済的優勢は変わらず、
させてもなお、 HBP
を45%に変動させた場合、 1
兆5
0
3
5
億円の削減が
最も削減額が小さくなった既治療者および無治療
推定された。
3
4
2
億円の削減が推定された。
動させた場合、 1兆0
CBP高血圧かつ受診した者の HBP
測定率を 40%に
9
7
1億円の削減が推定され
変動させた場合でも、 4
た(図 2)。この場合における、損益分岐となる
無治療 CBP
正常血圧者の HBP
測定率を 15%に変動
一人当たりの HBP
の導入費用は 2
1
7
1
0円と算定さ
兆0
0
7
6
億円の削減が推定された。
させた場合、 1
れた。
無治療 CBP
正常血圧者の HBP
測定率を 5%に変
処方変更される場合の薬剤費増減率を 30%の増
9
5
7
億円の削減が推定され
減に変動させた場合、 9
た。処方変更される場合の薬剤費増減率を 90%の
図2 費用削減額の感度分析
既治療者および
高血圧
無 治 療 CBP
かっ受診した者の
HBP測定率
(
4
0
1
0
0
%
)
無治療者の受診率
(
15-45%)
処方変更率
(
2
0
6
0
%
)
薬剤費増減率
(
3
0
9
0
%
)
無治療
CBP正常血圧者の
HBP
測定率
(
15-5%)
治療効果が現れた
場合の収縮期
血圧降圧度
(
15mmHg)
o
2,
0
0
0
CBP:随時血圧、 HBP:家庭血圧
4
_
0
0
0
,
0
0
0
6
8
,
0
0
0
1
0,
0
0
0
1
2,
0
0
0
1
4
,
0
0
0
1
6
,
0
0
0
(億円)
家庭血圧導入の医療経済評価
4.考察
1
5
るとその額は莫大なものとなるであろう。
これら高血圧関連医療費、合併症関連医療費お
HBPはCBPに比べて、様々の点でその有用性が
よび介護費の削減額を合計し、高血圧診断への
指摘されている。この研究では、高血圧診断の基
HBP導入により 1
兆0
2
0
9
億円の費用が削減される
準を CBPから HBP
へ移行した場合に生じる、医療
と推定された。さらに、不要な降圧薬による副作
経済的効果を推定した。
用の消失、 QOL
の改善、受診のための交通費・時
ディシジョンツリーに従い高血圧性疾患に関す
間の削減、家族の介護時間・労働力の削減、労働
る医療費を推計すると、 HBP
導入により高血圧関
生産性の増加など、今回の計算に含まれなかった
連医療費 1兆 0136億円の費用削減が推定された
便益は計り知れない。
(
表 5)。その大部分は、降庄治療を受けていない
以上の結果より医療費の損益分岐となる費用を
CBP高血圧かつ HBP
正常血圧の者(白衣高血圧)
算定すると、 HBP導入費として 1
人あたり 4
4
5
8
0円
が
、 HBPを測定され正常血圧域であると判断され
となった。感度分析での、最も削減効果が小さく
ることで、本来必要で、あった新規受診による医療
評価された場合でも、 1
人あたり 2
1
7
1
0円となった。
費が回避されることによるものであった。
しかし、現在すでに本邦には 3
0
0
0
万台の家庭血圧
以上は高血圧性疾患に関する医療費に限定して
計があることから、損益分岐となる費用は実際に
の
、 HBP
導入による経済的影響を推計したもので
はより高く設定されると考えられる。デジタル自
ある。前述の通り、高血圧は心血管疾患発症のリ
動血圧計は約 1万円で購入可能で、あり、この額は
スクとされ、 HBP導入による的確な血圧コントロ
消耗品等の費用を考えても十分に見合う額と言え
ールはその後の合併症の発症にも影響を及ぼすこ
よう。
とが推測される。 HBP導入により新規治療開始ま
今回の推定において、 HBPの導入により医療費
たは治療増強される患者の 50%において収縮期血
が削減される可能性が示唆されたが、その要因と
圧が 10mmHg降圧したと仮定すると、合併症予防
しては白衣高血圧の発見による不要な降圧治療の
効果に伴い年間 3
0
億円の医療費が削減できると推
削減が大きな割合を占めていた。 S
t
a
e
s
s
e
nらは、
計された(表 5)。
CBPに基づく高血圧診断による治療と HBPに基づ
また的確な血圧コントロールは、要介護の原因
く高血圧診断による治療を比較し、 HBPを診断に
として最も高い割合を占める脳卒中の予防にも効
用いた群で医療費の減少が見られたことを報告し
果が期待され、 HBPの導入は合併症の医療費だけ
た25)。その中で、この費用削減は白衣高血圧の発
でなく介護費の削減にもつながることが推察され
見による不要な降圧治療の削減がその一因である
る
。 HBP導入により新規治療開始または治療増強
と考察している。また Ewardらは 2
4時間自由行動
される患者の 50%において収縮期血圧が 10mmHg
下血圧測定により白衣高血圧の発見が可能となり
降圧したと仮定すると、合併症予防効果に伴い年
医療費が削減できることを報告しており、 HBP
測
間4
2
億円の介護費が削減できることが推計された
定であればより安価に白衣高血圧の発見が行える
(
表 5)。
であろうと述べている却)。本研究の推定結果は、
合併症患者は年々新たに発症し累積していく。
これら過去の報告に一致するものである。
そのため、これら血圧コントロールによる合併症
高血圧治療は予防医療である。高血圧治療の目
予防の便益も年々累積され、長期的な視点で考え
的は、高血圧の持続によってもたらされる心血管
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疾患の発症とそれらによる死亡を抑制し、高血圧
HBP
測定自体に起因する純粋な治療効果に関して
患者が充実した日常生活を送れるように支援する
モデルに組み込むべく'情報収集を行ったが、モデ
ことである。過去の臨床研究の結果から、降圧薬
ル作成に利用できる臨床データが得られなかった
治療は高血圧患者にとって多くの有益な効果をも
ため、本研究では HBP
導入の健康効果を評価して
たらすことが明らかにされている 19.20)0 HBPを若
いない。しかし、予後予測能等の CBPに対する
年早期より測定することで高血圧の早期発見・治
HBPの効果は数々の文献ト 11) で既に示されてお
療が可能になれば、高血圧の重症化や心血管疾患
り、本研究の結果は費用の面という異なった視点
の発症・死亡が抑制され、降圧薬経費、合併症関
から HBPの有用性を示唆したものとして意義があ
連医療費、介護費等はさらに大きく削減されるだ
る
。
ろう。 HBP
測定は高血圧治療への参加意識を改善
導入
これらを踏まえても、高血圧診断への HBP
川
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させ、月服民薬コンフプ。ライアンスを改善させる 3.1
は非常に高い費用削減効果があることが示唆さ
また、受診コンブライアンスも改善維持する。こ
れ
、 HBPの更なる普及が望まれるところである。
うしたことは、現状の高血圧治療の質を高めるこ
とになり、今回仮定に用いた受診率、処方変更率
は上昇するであろう。一方で、服薬コンブライア
ンスの改善は、治療中正常血圧者の割合を増やし、
これは合併症発症の予防に結びつくと考えられ
る
。
本研究にはいくつかの限界が考えられる。第一
に、今回の計算では HBP
導入による直接医療費の
変化のみを評価しており、直接非医療費や間接費
用における便益は考慮していない。また、主な高
血圧合併症として脳卒中・虚血性心疾患のみを推
定対象としており、医療費削減効果は過小評価さ
れている可能性がある。逆に、 HBP
導入のための
家庭血圧計をはじめとした設備投資についての費
用は計算に含まれておらず、医療費削減効果は過
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万台
大評価されている可能性があるが、現在3
の家庭血圧計が既に各家庭に配置されている状況
を考えると、その影響は小さいと推測される。第
二に、本研究では白衣高血圧の者は治療を行わな
いものとし計算を行った。しかし、白衣高血圧は
将来的に高血圧に進行するリスクが高いという報
告 27) もあり、白衣高血圧を治療すべきか否かにつ
いては議論の分かれるところである O 第三に、
参考文献
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Ohasamas
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