第34回(平成25年度)北海道麦作共励会第 2 部(水田転換畑における秋播小麦)個人 最優秀賞 富良野市 桑折弘三氏の経営概要と麦作り 写真 1 桑折氏のご家族 手前左が弘三氏 (ニューカントリー提供) 図 1 富良野市の位置 1 富良野市 (北大沼地区) の概要 富良野市は、北海道の中央部にある富良野 盆地の中心都市で、上川管内の南部に位置し ています(図 1 )。 気候は、大雪山系と夕張山系に囲まれた地 形のため、典型的な内陸性気候で、気温の日 較差や年較差が大きく、近年はたびたび集中 豪雨もみられます。 降雪期間は11月中旬から 4 月上旬までで、 平野部の積雪深は 1 m内外ですが、山間部で 写真 2 桑折氏ほ場 は 2 〜 3 mに達します。 (手前は次年度たまねぎ予定) 平成24年は年平均気温6.8℃、最高気温33.7 ℃、最低気温−28.4℃、年間日照時間1,482時間、 たまねぎの他、水稲、秋まき小麦、にんじ 年間降水量1,106㎜となっています。 ん、メロン・ミニトマトやいちごなどの施設 北大沼地区は富良野市の北部に位置し、地 園芸作物も作付けされています。 形は平坦ですが、地区名が示すとおり泥炭地 で地下水位が高いため、開拓当初は作物を栽 2 桑折氏の経営概要 培するには条件の悪い地区でした。戦前より 桑折氏は現在61才、妻、長男、長男の妻の 客土や暗渠などの土地改良が行われ、現在に 4 人で、たまねぎ(8.2ha)、秋まき小麦(3.1ha)、 至っています。 ハウスアスパラガス(0.4ha)、ハウスきゅう 作付品目は、過去は水稲中心でしたが昭和 り(0.1ha)、休閑緑肥(1.1ha)、合計12.9ha(H25) 50年頃より始まった転作により、現在はたま で経営を行っています。 ねぎが耕作面積の70%以上を占める作物にな 平成23年までは水稲+たまねぎ+小麦+施 っています。 設園芸の経営形態でしたが、水稲機械の更新 - 19 - 時期が来たことにより、平成24年から水稲の 3 秋まき小麦の生産状況 作付けをやめ、現在の体系に集約しました。 桑折氏の過去 3 年の平均収量は752㎏ /10a 農業機械は、基本的に中古を購入し、使用 とJA平均比167%、地域(JAふらの富良野支 頻度の低いは種機や収穫機はリースや委託し 所内)平均と比較しても148%と高収量(表 1 ) て導入コストを低減しています。 で、 1 等麦率100%、品質も基準を満たして また、定期的に点検・メンテナンスを行う います(表 2 )。 事で耐用年数の延長を図っています。 表 1 桑折氏の秋まき小麦生産状況 JA平均 歩留 (%) 1 等麦 比率 (%) 491 447 98.4 100 895 526 452 98.7 100 23.8 726 504 452 93.3 100 23.3 752 507 450 96.8 100 年 産 小麦 栽培面積 (ha) 麦作率 (%) 桑折氏 地域平均 平成23年 2.71 21.0 634 平成24年 3.24 25.1 平成25年 3.07 平 均 3.01 製品収量(㎏/10a) 表 2 品質等測定値 容積重(g/㍑) F.N(sec) 蛋白含量(%) 灰分含量(%) 877 401 11.3 1.50 4 技術の内容 は 種 期 量 9 /22 7.5 Kg/10a 方 法 土 性 施 肥 (㎏ /10a) 区分 畦幅 埴壌土 基 肥 12.5㎝ (下層 追肥 ドリル播 土泥 起生 炭) 止葉 融雪促進 時期 剤名・散布量 時期 資材名・散布量 20 8 4 6.3 6.3 春一番(防散苦 4 土融雪炭カル) 7 20㎏ /10a 月 日 3 月 日 月 日 22 ガレース乳剤 250ml/10a 4 融雪期 除草剤散布 9 窒素 燐酸 加里 月日 根雪始 雪 腐 病 防 除 時期 使用薬剤名 9 /22 11/21 10/30 モンカットベフラン フロアブル 4 /23 ( 4 倍, 800ml/10a) 5 /24 病害虫防除(植物成長調整剤等) 対象病害虫 倒伏軽減 時期 使用薬剤・散布量 6 月 5 日 サイコセル (500ml/10a) 赤かび病 6 月14日 シルバキュアフロアブル (2,000倍、100L/10a) アブラムシ 〃 エルサン乳剤 (1,000倍、100L/10a) 赤かび病 6 月25日 トップジンM水和剤 (1,500倍、100L/10a) アブラムシ 〃 ペイオフME液剤 (2,000倍、100L/10a) 赤かび病 7 月 5 日 チルト乳剤25 (1,000倍、100L/10a) アブラムシ 〃 エルサン乳剤 (1,000倍、100L/10a) - 20 - 備考 アブラムシ 防除はたま ねぎ隣接ほ 場のため 3 回実施 5 技術の特色 たため平成22年より秋まき小麦に変更しまし ⑴ 基本技術の励行 た。 JAや普及センターからの営農技術情報等 この輪作体系により秋まき小麦では、病害 には必ず目を通し、ほ場を確認して情報に基 虫や雑草の発生が抑制され、除草剤の春施用 づいた適期作業を心がけています。 を省略できる等コスト低減にもつながってい ます。 ⑵ 排水対策 また、秋まき小麦作付時に形成される土壌 泥炭地であり、地形的にも地下水位が高く 亀裂が排水性向上やたまねぎの根域の拡大に なりやすい地域のため、排水対策に重点を置 つながっていると思われ(H24普及推進事 いています。 項)、たまねぎの収量性も向上し、桑折氏の 暗渠は補助事業などで施工しています。心 H23〜25年 平 均 収 量 はJAふ ら の 平 均 対 比 土破砕は、たまねぎの移植前と収穫後、秋ま 127%と上回っています。 き小麦のは種前にサブソイラを施工していま す。 ⑸ は 種 また、ほ場をいためないように、土壌水分 は種は、たまねぎ後作なので過繁茂となら の高い時期はできるだけ作業に入らないよう ないよう、適期適量は種を心がけると共に、 にしています。そのため雪腐病防除は無人ヘ 深まきにならないように注意を払っていま リ(委託)で実施しています。 す。 ⑶ 土づくり ⑹ 融雪促進 堆肥や鶏糞(たまねぎ作付時)施用の他、 雪腐病被害軽減や早く起生期追肥を行うた 休閑緑肥(えん麦+ひまわり)も作付けし、 め、融雪促進は必ず行っています。 できるだけ有機物を補給することを心がけて います。 ⑷ 輪作体系 桑折氏の輪作体系は、富良野地域の転作畑 で作付けが多いたまねぎと休閑緑肥を組み合 わせた 4 年輪作体系が特徴となっています (表 3 )。 表 3 桑折氏の輪作体系 写真 3 越冬前の様子(1,000本/㎡) 平成21年 平成22年 平成23年 平成24年 平成25年 ⑺ 施 肥 秋まき たまねぎ たまねぎ 秋まき たまねぎ 小麦 休閑緑肥 (早生) 小麦 たまねぎ後作なので、基肥は低りん酸銘柄 (N8-P16-K8)を使用し、コスト低減を図 たまねぎの連作により病害や雑草害が発生 っています。 したため、平成14年から小麦との輪作体系の 起生期追肥は土壌水分がある融雪後早めを 模索を始めました。当初は春まき小麦を導入 心がけ、ほ場に入れるようになり次第行って していましたが、たまねぎ移植作業との競合 います。 によりは種が遅れる等、収量性が不安定だっ 止葉期追肥は、JAや普及センターからの - 21 - 営農技術情報を参考に行っています。 ⑻ 病害虫対策 連作の回避、適期適量は種による過繁茂の 回避、融雪材散布による融雪促進等の耕種的 防除の他、薬剤防除はJAや普及センターか らの営農技術情報等を参考に適期防除を実施 しています。 ⑼ 収 穫 収穫は委託していますが、委託先と連絡を 写真 4 地域内に広がっているたまねぎ を組み合わせた輪作体系 密にし、適期収穫を行っています。 表 4 JAふらの秋まき小麦過去 3 年平均 収量上位10農場 6 その他 たまねぎを組み合わせた輪作体系は地域内 に広がっており、富良野地域の転作畑におけ る輪作体系の一つのパターンになっています (写真 4 )。JAふらのにおける過去 3 カ年の 平均収量上位10農場中 4 農場がたまねぎを作 付けしており、たまねぎを組み合わせた輪作 体系の優位性がうかがえます(表 4 )。 № 農場名 H23〜25年 平均収量 (㎏ /10a) たまねぎ 作付 1 桑折氏 752 有 2 A農場 746 有 3 B農場 740 4 C農場 717 5 D農場 700 6 E農場 696 7 F農場 694 8 G農場 692 9 H農場 686 10 I農場 678 有 有 (上川農業改良普及センター富良野支所 調整係長 武田 尚隆) (JAふらの販売部米穀課 課長 三好 勲) - 22 - 第34回(平成25年度)北海道麦作共励会第 2 部(水田転換畑における秋播小麦) 個人 優秀賞 南幌町 岡部陽助氏の経営概要 1 地域の概要 南幌町の農地面積は約5,573㌶で、基幹作物で ある水稲を中心に、秋まき小麦、豆類、甜菜等の 土地利用型作物が作付けされ、またキャベツ、露 地ねぎなどの野菜の振興にも力を注いでいる。販 売農家戸数は210戸(内157戸が認定農業者)、一 戸当たりの経営面積は26㌶で、10年間で約1.7倍 の規模となっている。 南幌町では平成12年に農協が法人担当の窓口を 設置し体制整備を行い、平成13年より法人化を進めているなど、規模拡大による経営強化を進め てきた。 2 岡部氏の経営概要 岡部氏は現在33歳で、25年に経営移譲が行われたが、畑作部門については数年前より任されて おり、主体的に作付計画から各作業等を行っていた。 総面積54.5haで、のうち約4割で小麦(秋まき・春まき)を作付し、ほか、水稲、豆類(大豆・ 小豆)を作付する水稲畑作複合経営を行っている。 平成25年の作付は、秋まき小麦「きたほなみ」に加え、農協からの委託を受け、試験的に「つ るきち」の作付けを行っている。また、規模拡大に伴い、24年より春まき小麦の導入も行ってお り、25年産では春まき栽培で「はるきらり」の作付けし、秋まき栽培と同程度の単収を上げてい る。 表 1 輪作体系の基本 経営規模 54.5ha 輪 作 体 系 輪作の特徴 H21 H22 H23 H24 H25 大豆 小麦 小麦 大豆 小麦 連作を避け、豆類と小麦の交互 作を基本 例:大豆→間作小麦 3 耕種概要・栽培管理 表2 耕種概要等 栽培方法 は種日 は種量 月 日 ㎏ /10a 除 草 剤 は種方法 条 播 9/25 6 ドリル(12.5㎝) 大豆間作 9/15 15 散播 雪腐病防除 時期 使用薬剤 時期 使用薬剤 9/25 ボクサー 11/20 モンカットベフラン フロアブル - 23 - 表 3 施肥 基肥(㎏ /10a) 月日 追肥①(㎏ /10a) 追肥② 追肥③ 追 肥④ N P K 月日 N P K 月日 N 月日 N K 月日 N 条 播 9 /23 4.8 7.2 4.4 4 /12 8.1 2.3 2.7 4 /21 2.1 6/2 6.0 4.0 6 /10 2.1 大豆間作 10/28 − 6.3 2.8 4 /12 8.1 2.3 2.7 4 /28 2.1 6/2 6.0 6.0 6 /17 2.1 表 4 病害虫防除等 使用時期 対象病害虫等 使用薬剤 備 考 6 /10 − エスレル 10 倒伏防止 6 /12 赤かび病+アブラムシ シルバキュア F+エルサン 6 /24 赤かび病 トップジンM 7/2 赤かび病+アブラムシ ベフラン+ペイオフ 7 /12 赤かび病+アブラムシ チルト+エルサン 4 生産実績と品質 表 5 単収の推移 表 6 品質等測定値(H25) 年 度 農家単収 ㎏ /10a 統情単収 ㎏/10a 項 目 測定値 H23 519 373 容積重(g/㍑) 852 H24 577 425 F.N(sec) 398 H25 544 376 蛋白含量(%) 11.2 灰分含量(%) 1.4 検査等級 1等 ※JA調べ 5 技術の特徴 ⑴ 輪作回避技術の導入 小麦と豆類の交互作が基本であり、大豆の後作に秋まき小麦を導入するため、大豆間作栽培を 取り入れている。また、24年からは豆類後作として不耕起秋まき・春まき小麦栽培技術を導入し ている。 ⑵ 土づくり 土壌分析の専門家への分析依頼また、農協で行っている土壌診断なども活用し、総合的に圃場 の土壌分析を行い、適性pHとなるように、資材を計画的に投入し土壌改良に努めている。 ⑶ 排水対策の工夫 心土破砕は必ず行っている(条播は、は種前、大豆間作は大豆は種前)。 表面水排除のため、は種後に明渠や溝切りを必ず行っている。 6 品質改善の努力 ⑴ 採種ほ産種子を100%使用している。 - 24 - ⑵ 防除機等の機械の大型化を図り、防除作業等を短期間で行うことで天候に左右されず、適期 に行えるようにしている。 ⑶ 収穫は自らも構成員となっている共同組織の「南幌大地利用組合」で行っており、土壌病害 が見られるほ場や倒伏と雑草に対するペナルテイ制度を導入、構成員の栽培意識の向上を図っ ている。 ⑷ 農協、普及センターと連携し、ほ場巡回による収穫適期判断の実施により、良質麦生産を行 っている。 ⑸ 収穫、乾燥、調整作業は機械利用組合に委託している。 7 その他経営上の特色 ⑴ H25年に仲間と不耕起タイプのは種機を導入し、小麦、大豆のは種を兼用で行っている。 ⑵ 機械については、本人がメンテナンスを行っている。 ⑶ 農協の委託を受け、新品種「つるきち」の試作を行っており、品種と栽培方法の組み合わせ で作業の分散、被害の分散を狙っている。「つるきち」の収量は取り組み初年目であるが、製 品収量で500㎏ /10aであった。 ⑷ 若手農業者のなかでも突出した技術レベルを有しており、岡部氏の技術を取り入れている若 手農業者は多数存在している。また、岡部氏自身も仲間との情報、技術の交換を行っており、 お互いにレベルアップを図ることで、地域の技術水準の押し上げに寄与している。 (空知農業改良普及センター空知南西部支所 地域第二係長 渡邊 博司) - 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