議会の活性化について 平成25年7月8日(月) 新潟県立大学 1 田口一博 通年議会・通年の会期制 (1)どうして「通年」なのか 町村議会の運用実態 (2)通年議会 ア 理由 (例月)全員協議会等の実態に合わせる 月額議員報酬制度の説明として (第1審:違法)大津地裁平成 21.1.22 判決、平成 19 年行ウ第 10 号公 金支出差止め請求事件 (控訴審:違法)大阪高裁平成 22.4.27 判決、平成 21 行コ第 32 号 (上告:合法)最高裁平成 23.12.15、平成 22 行ツ第 300 号) 法203条の2第2項ただし書は,普通地方公共団体が条例で日額報酬制以外の報酬 制度を定めることができる場合の実体的な要件について何ら規定していない。また, 委員会の委員を含め,職務の性質,内容や勤務態様が多種多様である普通地方公共団 体の非常勤の職員(短時間勤務職員を除く。以下「非常勤職員」という。)に関し,ど のような報酬制度が当該非常勤職員に係る人材確保の必要性等を含む当該普通地方公 共団体の実情等に適合するかについては,各普通地方公共団体ごとに,その財政の規 模,状況等との権衡の観点を踏まえ,当該非常勤職員の職務の性質,内容,職責や勤 務の態様,負担等の諸般の事情の総合考慮による政策的,技術的な見地からの判断を 要するものということができる。 このことに加え,前記1(2)の昭和31年改正の経緯も併せ考慮すれば,法203条 の2第2項は,普通地方公共団体の委員会の委員等の非常勤職員について,その報酬 を原則として勤務日数に応じて日額で支給するとする一方で,条例で定めることによ りそれ以外の方法も採り得ることとし,その方法及び金額を含む内容に関しては,上 記のような事柄について最もよく知り得る立場にある当該普通地方公共団体の議決機 関である議会において決定することとして,その決定をこのような議会による上記の 諸般の事情を踏まえた政策的,技術的な見地からの裁量権に基づく判断に委ねたもの と解するのが相当である。 したがって,普通地方公共団体の委員会の委員を含む非常勤職員について月額報酬 制その他の日額報酬制以外の報酬制度を採る条例の規定が法203条の2第2項に違 1 反し違法,無効となるか否かについては,上記のような議会の裁量権の性質に鑑みる と,当該非常勤職員の職務の性質,内容,職責や勤務の態様,負担等の諸般の事情を 総合考慮して,当該規定の内容が同項の趣旨に照らした合理性の観点から上記裁量権 の範囲を超え又はこれを濫用するものであるか否かによって判断すべきものと解する のが相当である。 イ 運用 会期の回数を1・2回に減少、1回あたりの会期を長期化 毎回の会期毎、招集・会期の決定は必要=招集日に会議が必要 ウ 目的 議員の勤務実態の反映 全員協議会・委員会協議会の正規会議化 専決処分の抑止 エ 効果 議会活動の見える化 活動実態調査への活動内容の正確な反映 議会の説明責任の向上 会議日の見直しによる行政執行の効率化 オ 問題点 会議日数が増えるのではないか? 議事説明員の負担が増えるのではないか? 議会費等経費が増大するのでないか? 議員の負担が増えるのではないか? 2 (3)通年の会期制 ア 理由 サラリーマン等有職者が議員を兼務できるように、会議がいつ開かれるかを 予見可能とすべき−−−−第29次地方制度調査会 総務省法案「毎月同じ日に会議を開く」→第30次地方制度調査会で修正 イ 制度 会期の長さは1年、いつ始めるかは任意に条例で決定 一般選挙後、最初の会期だけは長が招集 会期の決定は「なし」。会期の初日に会議は不要。 定例の会議日を条例で決定。【万年カレンダー方式、毎年改正方式】 会議を開く決定は議長の開議通知による(臨時開会・定例日の休会も可) 専決処分は原則、ありえない ウ 目的 定例日が予見できるようにして、有職者が議員に?(立法趣旨) (その他は通年議会と同じ) エ 効果 (通年議会に加えて) 「新しい制度を早期に使いこなす」PR 効果 会議規則全般を見直すことによる議会運営の活性化・合理化 オ 問題点 「標準」会議規則等が未制定 【制定例:岩手県葛巻町(万年)、徳島県勝浦町(毎年)】 実施例がまだ少ない 3 (4)通年議会・通年の会期制のために ア まず、現状の会期の議題の確認を 地方議会人平成 25 年 6 月号「6月議会でいいのかな」参照 イ 執行部・市内の公共的団体との総合調整 ○地方自治法第 96 条第 1 項第 14 号〔議決事件〕 普通地方公共団体の区域内の公共的団体等の活動の総合調整に関すること。 ウ 議員の活動状況、委員会と本会議の関係の整理 4 エ 検討事項 議会内・執行機関等との目的意識の共有 議会は、何を目的として通年議会・通年の会期制を実施するのか 議事説明員は、出席要求に基づいて議場に出席していること 地方自治法は議員以外の議案の提出者に対する質疑は本来想定していないこ と 本会議にはもともと百条調査権があったが、公聴会・参考人の実施も可能と されたこと 会議規則の検討 ・一事不再議の適用範囲 ・閉会中継続審査・調査の用語の改正・あり方の整理 ・会議録の作成単位 条例の制定・改廃 ・定例会の回数を定める条例 → 通年の会期制条例 招集日は暦年、会計年度、任期開始日? ・会議の定例日を定める条例(通年の会期制の場合) 永久カレンダー式(○月の第○何曜日) 毎年改正式 →招集時期を定める規則は廃止。 会議運営・議事次第書等(通年の会期制の場合) ・会期の決定が不要になる等の整理 ・招集告示 → 開議通知・議事日程の告示 ・定例日以外に会議を行う長の請求への対応について ○地方自治法第 102 条の 2 第 7 項〔通年の会期制〕 普通地方公共団体の長は、第一項の議会の議長に対し、会議に付議すべき 事件を示して定例日以外の日において会議を開くことを請求することがで きる。この場合において、議長は、当該請求のあつた日から、都道府県及び 市にあつては七日以内、町村にあつては三日以内に会議を開かなければなら ない。 5 2 予算決算常任委員会の設置 (1)平成 18 年地方自治法改正「常任委員会複数所属制度」の意義 (2)予算・決算は提出されたときにだけ、審査するべきなのか? ア 予算委員会への付託事件 イ 決算委員会への付託事件 ウ 日常的な所管事務調査 (3)国会の予算・決算委員会=予算・決算を通じた執行統制の常態化 6 3 公聴活動の充実 (1)議会「報告会」の内容 ・社会意識に関する世論調査(内閣府:平成25年2月調査) 資料出典:内閣府ホームページ http://www8.cao.go.jp/survey/h24/h24-shakai/index.html 4.国の政策に対する評価について (1) 国の政策への民意の反映程度 ア 国の政策への民意の反映方法 国の政策に国民の考えや意見が「ある程度反映されている」, 「あまり反映されていな い」, 「ほとんど反映されていない」と答えた者(5,770 人)に,どうすればよりよく反 映されるようになると思うか聞いたところ, 「政治家が国民の声をよく聞く」と答えた者の割合が 28.8%, 「国民が国の政策に関心を持つ」と答えた者の割合が 23.3%, 「国民が参加できる場をひろげる」と答えた者の割合が 14.7%, 「国民が選挙のときに自覚して投票する」と答えた者の割合が 13.1%, 「政府が世論をよく聞く」と答えた者の割合が 12.2%, 「マスコミが国民の意見をよく伝える」と答えた者の割合が 5.5%となっている。 7 (3)長部局ではできない活動を ・総務省・常時啓発事業のあり方等研究会最終報告書(2011 年 12 月) 「社会に参加し、自ら考え、自ら判断する主権者を目指して〜新たなステージ「主権者 教育」へ〜・抄 ○ 冒頭に述べたように、今や、社会的知識の欠如や政治的無関心では通用しない社会 になってきている。 政治を決めるのは最終的には有権者の資質である。数多くの課題に対処し、適切な選 択を行うためには、高い資質を持った主権者、すなわち、国や社会の問題を自分の問題 として捉え、自ら考え、自ら判断し、行動していく新しい主権者像が求められている。 ○ 投票することは、考える機会、公的なものへの関心を持つ機会であるので、投票参 加を働きかけることは今後とも必要であるが、投票率の向上とともに重要なことは、投 票の質の向上である。これからの常時啓発は、政治意識の向上に重点を置き、常に学び 続ける主権者を育てていかなければならない。常日頃からの学習・体験の積み重ねがあ ってはじめて質の高い投票行動に結びつく。常時啓発の重要性はまさにここにある。 ○ 新しい主権者像のキーワードの一つは、 「社会参加」であろう。知識を習得するだけ でなく、実際に社会の諸活動に参加し、体験することで、社会の一員としての自覚は増 大する。結果として、主権者としての資質・能力を高めることとなる。社会的参加意欲 が低い中では政治意識の高揚は望めない。 近年の若い世代は、リアルな人間関係の減少、地域のコミュニティ機能の低下、知識 の習得を重視した学校教育等のために、以前に比べると社会化(名実ともに社会の一員 に成ること)が遅れている。さらに、家庭内の教育力も低下し、政治への関心なで意識 の面でも世帯間の格差が固定化する傾向がある。彼等を取り巻く環境は急速に変化し、 非正規職員の増加、世帯間の経済格差の固定化、非婚化・晩婚化など厳しい問題に直面 している。早いうちからボランティアやインターンシップなどを通じて社会に参加し、 その中から自分の働き方や生き方を考えることが必要である。 (中略) ○ 新しい主権者像の二つ目のキーワードは、「政治的リテラシー(政治的判断力や批判 力)」であろう。政治的・社会的に対立している問題について判断をし、意思決定をし ていく資質は社会参加だけでは十分に育たない。情報を収集し、的確に読み解き、考察 し、判断する訓練が必要である。 しかし、我が国の学校教育においては、政治や選挙の仕組みは教えるものの、政治的・ 社会的に対立する問題を取り上げ、政治的判断能力を訓練することを避けてきた。 また、高齢者は、確かに投票義務感は高いが、政治的リテラシーについても果たして 十分に備わっていると言えるであろうか。平成 6 年に選挙制度が改正され、候補者個人 よりも政党を重視して投票する人が増えてきたが、最近の選挙を見ると、刹那的な話題 や一点集中的な報道に左右される例が少なくない。また、地方選挙の中には、高齢者の 投票率も非常に低いものがある。高齢者も意識を高く持ち、政策はもちろん、 人の選 択に関しても、人物や見識を吟味し、国政だけでなく、地方政治に対しても将来を見据 え、主権者としての責務を果たしていく必要がある。多くの政策課題の中には世代間の 8 対立を招く恐れのあるものもあるが、それを乗り超えて適切な選択を行っていくために は、若い世代だけでなく高齢者も、日頃から学び続け、政治的リテラシーを高めること が必要である。 (4)公聴会と意見書〜議員活動から議会活動へ ○地方自治法第 115 条の 2〔公聴会・参考人〕 普通地方公共団体の議会は、会議において、予算その他重要な議案、請願等 について公聴会を開き、真に利害関係を有する者又は学識経験を有する者等か ら意見を聴くことができる。 (第 109 条第 5 項〔委員会〕第 115 条の 2 の規定は、委員会について準用する。) 9 4 議員間討議はどのように行うべきか 材料なしに討議はできない ○同第 100 条の 2〔専門的知見の活用〕 普通地方公共団体の議会は、議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に 関する調査のために必要な専門的事項に係る調査を学識経験を有する者等にさ せることができる。 議会への住民参加 ○地方自治法第 115 条の 2 第 2 項〔公聴会・参考人〕 普通地方公共団体の議会は、会議において、当該普通地方公共団体の事務に 関する調査又は審査のため必要があると認めるときは、参考人の出頭を求め、 その意見を聴くことができる。 ○同第 100 条〔議会の調査権〕 普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の事務(略)に関する調 査を行うことができる。この場合において、当該調査を行うため特に必要があ ると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を 請求することができる。 これまで行ってきた議員間討議を議案の審議等でも行ってみる 議長は議論に参加できないのか? 10 プロフィール 田口 一博 氏 (たぐち かずひろ) 生年月日 1962年1月11日(51歳) 役 公立大学法人新潟県立大学 職 国際地域学科准教授 略 歴 1984年 1984年 東京農業大学農学部卒業 横須賀市入庁(農林水産課、市民課、議会事務局議事課、保健所生活衛 生課、選挙管理委員会事務局選挙管理課、道路管理課)を経て、2008 年退職 2008年 公益財団法人地方自治総合研究所常任研究員、2010 年退職 2010年 新潟県立大学国際地域学部准教授、現在に至る。 2004年〜2008年 東京大学大学院法学政治学研究科特任講師 2005年〜2010年 東北公益文科大学大学院公益学研究科非常勤講師 2008年〜2010年 放送大学教養学部非常勤講師 2009年〜 明治大学政治経済学部非常勤講師 2011年〜2013年 放送大学大学院客員准教授等を兼ねる。 主要著作 金井利之編『シリーズ自治体政策法務講座4 組織・人材育成』2013年(共著) 森田朗・金井利之編『政策変容と制度設計』ミネルヴァ書房、2012年(共著) 田口一博『自治体議会の役割と議員の責務』(DVD ビデオ4巻)、地域科学研究会、 2012年 天川晃・田口一博編『戦後自治史関係資料集第1集 地方制度改革』丸善、2011 年、同 『第5集 特別資料編』丸善、2012年 佐藤英善編著『逐条研究地方自治法 別巻 新地方自治法 上下』敬文堂、2010 年(共著) 礒崎初仁編著『変革の中の地方政府 自治・分権の制度設計』中央大学出版部、 2010年(共著) 森田朗・田口一博・金井利之編著『分権改革の動態』東京大学出版会、2008年(共 編著) 田口一博『一番やさしい自治体政策法務の本』学陽書房、2005年 (最近議会関係の論文) 連載「議会人のための議会運営12か月」地方議会人、2013 年4月号〜 、「政務活 動費の有効性・信頼性」ガバナンス2013年5月号 ホームページ http://g-ken.life.coocan.jp その他は、科学技術総合リンクセンター http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/200901042542480869 参照 11
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