品質保証可能なネットワーク上で契約帯域を有効利用する動的ウィンドウ

大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
品質保証可能なネットワーク上で契約帯域を有効利用する動的ウィンドウサイズ制御方式
池田 直徒 (応用メディア工学講座)
1 はじめに
近年,グリッド環境における大規模科学技術計算のように,
広域ネットワークで大量のデータを転送するアプリケーショ
ンが利用され始めている.このようなアプリケーションでは,
高機能観測機器やサーバから転送される大規模データ転送速
度が十分でないと計算処理能力が発揮されず,全体の処理性
能に影響を与える.そこで,品質制御可能なネットワークに
おいて,転送速度を意識した大規模データ転送手法が必要で
ある.大規模データ転送に対して品質を制御する有効な技術
として Diffserv における最低帯域保証サービス (AF; Assured
Forwarding) がある.AF サービスでは,契約帯域以内のト
ラフィックとそれ以上のトラフィックで異なる優先度を設定
することにより,契約帯域を保証し,非輻輳時は空き帯域の
有効利用を図ることが可能である.しかしながら,一般的に
ファイル転送に用いられる TCP と AF サービスと共に利用
した場合,TCP の輻輳回避アルゴリズムの特性のため,輻
輳などにより契約帯域を超えるパケットの大部分が廃棄され
る環境では,スループットは契約帯域を大きく下回る.そこ
で本研究では,DiffServ 上で 2 種類の TCP を使用する方式
に対して,変動する RTT に基づいてウィンドウサイズを動
的に制御することにより,ネットワークの負荷状況によらず
スループットを契約帯域に近づける制御方式を提案した.
Diffserv AF ドメイン
ボトルネックリンク :1Gbps
送信側1ms
1ms
4ms
2ms
D1
受信側
1ms
2ms
クロストラヒック
往復伝播遅延 : 20ms, 契約帯域 : 500Mbps
1ms
図 1: シミュレーションモデル
合の提案方式の性能を調べた.クロストラフィックとして,
一定レートの UDP フロー (CBR),バースト的に発生させた
UDP フロー,FTP による TCP フローの 3 種類を用いた.
3.1 クロストラフィックに一定レートの UDP を用いた場合
図 2 にクロストラフィックに一定レートの UDP を使用した
場合の,クロストラフィックの送信レートに伴う基本フロー
の平均スループットを示した.図 2 から,従来方式ではネッ
トワークが輻輳するにつれてスループットが契約帯域を大
きく下回っている.一方,提案方式では輻輳する場合でもス
ループットを維持することが可能である.
3.2 クロストラフィックがバースト的に発生した場合
図 3 にクロストラフィックにバースト的に UDP を発生さ
せた場合の提案方式の基本フローのスループットの時間変動
を示した.図 3 において,UDP フローは 150 秒に突然発生
し,200 秒に停止している.従来方式では,一度スループッ
トが下がると回復するまでに約 20 秒かかるが,提案方式で
は約 1 秒でスループットを回復可能である.
2 提案する動的ウィンドウサイズ制御方式
本研究では,契約帯域に近いスループットを得るため,ネッ
トワークの遅延 (RTT) に基づいて,動的にウィンドウサイズ
を制御する方式を提案する.本方式では,契約帯域内で転送
するよう制御された基本フローと非輻輳時に帯域を有効利用
するベストエフォートの追加フローの 2 種類の TCP を組み
合わせたデータ転送方式を対象に,基本フローのスループッ
トが契約帯域を超えないよう,輻輳ウィンドウサイズを経路
の RTT に応じて制御する.また,帯域遅延積が大きいネッ
トワーク環境にも対応するため,初期のウィンドウサイズ増
加量を増やすことにより,スループットの回復を早める.
本方式ではまず,送信パケットによりネットワークの RTT
を観測する.観測された RTT により,契約帯域を維持する
ために必要なスループットを得るためのウィンドウサイズ
(cwndmax ) を計算する.次に,現在の cwnd と cwndmax を
比較し,cwndmax より cwnd が大きい場合,契約帯域を超過
しパケットロスの可能性があるため,cwnd を cwndmax に
設定する.また,cwndmax より cwnd が小さい場合,スルー
プットが契約帯域を維持できない可能性があるため,cwnd
を cwndmax まで対数的に増加させる.
3.3 クロストラフィックに FTP を用いた場合
図 4 にクロストラフィックに FTP によるファイル転送を想
定した TCP フローを使用した場合の,クロストラフィック
の FTP フローの本数に伴う基本フローの平均スループット
を示した.図 4 から,従来方式では,混在する FTP フロー
が増えるに従ってスループットが契約帯域を大きく下回って
いる.一方,提案方式では,混在する FTP フローが増えて
も,契約帯域に近いスループットを得ることが可能である.
4 まとめ
本研究では,品質管理が可能なネットワークにおいて契約
帯域にスループットを近づけるために,RTT 値に基づいた
動的ウィンドウサイズ制御方式を提案した.評価の結果,提
案方式によりクロストラフィックが変動しても,スループッ
トを契約帯域に近づけることができ,またスループットの早
期回復を実現できることが確認できた.
参考文献
3 性能評価
[1] 野呂正明 他, “Diffserv AF 環境において動的な契約帯域
制御を行う大規模データ転送方式 ,” 情報処理学会論文
誌, vol. 49, no. 2, Feb. 2008.
図 1 のモデルを用いてシミュレーションを行った.基本性
能として単一データ転送とクロストラフィックが混在する場
1000
Proposal(Binary search increase)
Fixed max cwnd
Conventional
600
大規模データ転送
S1
Proposal(Binary search increase)
Fixed max cwnd
Conventional
900
Proposal(Binary search increase)
Fixed max cwnd
Conventional
600
500
700
Throughput [Mbps]
Throughput [Mbps]
Throughput [Mbps]
800
600
500
400
500
300
200
100
400
400
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
Background traffic [Mbps]
図 2: 基本フローのスループット (CBR)
150
160
170
180
190
200
Time [s]
図 3: 基本フローのスループット変動
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
Number of FTP
図 4: 基本フローのスループット (FTP)