リサイクル食器ビジネスの展望~Re-食器~

◎ リサイクル食 器 ビジネスの展 望 ~Re-食 器 ~
元 岐阜県セラミックス研究所 主任専門研究員 長谷川善一
持続可能な社会づくりを視野に今日の大量消費型の社会経済システムの見直しが早急に求め
られているなか、美濃焼の新しいビジネスを、「環境」をキーに探ろうという目的のプロジェクトです。
美濃焼の特性でもあり、強みでもある日常食器の大量生産、これは美濃焼を国内屈指の大産地と
して育んできた経緯をもつ反面、大量消費と大量廃棄に結びつきやすい生産体制でもあるともい
えます。大産地としての誇り、そしてその責任において、これからも社会に支持される産地であり続
けるためには、温暖化対策、廃棄物削減、化学物質管理等の環境課題解決に向けた規制の強
化・拡大という国際的な流れを無視できない状況にあると思われます。
そこで、美濃焼業界の有志企業や地元の試験研究機関や行政などが連携して陶磁器食器の資
源循環とライフサイクル全体における環境負荷削減に取り組むグリーンライフ 21・プロジェクト(通
称 GL21)の「Re-食器」を事例に、陶磁器業界として取り組むべき環境課題と対応について説明
いたします。
最初には、いままで使用済み後はほぼ全てが埋立て処分されていた陶磁器食器の資源循環、
いわゆるリサイクルです。この実現により、枯渇性天然資源である陶磁器原料の有効活用とひっ迫
する最終処分場の延命に貢献できます。家族の思い出や暮らしの歴史を潜ませる食器は破損し
ない限り不用であっても捨てられないものです。でもリサイクルであれば大切な食器を提供するとい
う方も多いと感じています。空いた食器棚に新たな食器を購入という、リサイクルが資源循環のみな
らず需要を喚起させるかも知れません。そして 1 万年以上前の縄文土器を今に見るように、陶磁器
は土に埋めてもそう簡単にはもとの原料には戻らない貴重な資源でもあります。また海外から原料
輸入による輸送エネルギーの削減効果も期待できます。陶磁器をリサイクルすることによる環境負
荷(CO2 排出量換算)も、原料採掘・製土・製陶のステージにおいて環境負荷を増すことなく、同じ
品質をもつ製品を資源循環で製造できることが明らかになっています。このリサイクル実現には、使
用済み廃食器を収集運搬する企業、廃食器を粉砕して再生材を作る企業、再生材を用いて坏土
を作る企業、そして Re-食器の製陶及び卸売りに係る企業、余剰品や適外品を捨てることなく他製
品に活用する企業など、資源循環に関わる一連の企業が連携してこそ成り立つ活動であり、この
企業連携がグリーンライフ 21・プロジェクトであります。技術的には、現状は使用済み廃食器の粉
砕物(再生材)20%配合で、決して高い配合率ではありませんが、国内外に先駆ける取組みとして
注目され、先の洞爺湖サミットでもティータイムなどで採用されています。
次に、使用者と生産者のリサイクル・ネットワークについてお話しました。陶磁器に循環ループを
形成するということは、使用済み廃食器を資源として生産者に戻すという使用者の環境意識と行動
がないと Re-食器が作れないことになります。つまり、生産者と使用者の協働が不可欠であり、Re食器は「使用者参画型のモノづくり」の実践であると言えます。図(次ページ)は Re-食器のライフサ
イクルを表し、回収ステージを介して使用者から生産者へモノ(廃食器)が流れる循環ループを示
しています。使用者から生産者へ、これは生産・使用・廃棄の一方向のみの流れをもつ従来食器
では決して見ることのできなかった関係構築です。この関係こそ、リサイクル食器に関わる醍醐味
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です。このモノの逆流は、同時に人や情報の
2
2.
粉 砕
.粉
砕
環を生み出し、生産者と使用者の真直ぐなコミ
ュニケーションを育むことになります。実際に東
京では、NPO や消費・生活団体、行政関係者
1
使用済
1.
使用済み
.使用済み
み
食器の
食器
回収
食器の
の回収
から器
器から
器へ
などが「食器リサイクル全国ネットワーク」を組
織し、我々生産側も参加しています。ここでは
単に使用済み食器を回収することに終らず、リ
3
3.
陶土作製
.陶土作製
陶磁器の資源循環
6
6.
生活使用
.生活使用
4
成形
4.
成形・・焼成
焼成
.成形・
5
製品
5.
製品・・流通
流通
.製品・
サイクルで作られた Re 陶土や Re-食器の消費
活 用 の伸 展 をうながすリサイクル陶 芸 体 験 、
図.陶磁器食器の循環ループ
Re-食器を花器に使った寄植えやスローフード
の盛付け等々、使用者の創意工夫で Re-食器の市場創出がはかられています。また関西でも、主
婦らが集まり「食器リサイクルの会」を地域毎に組織して廃食器の回収活動を始めています。これら
主婦のパワーは地元行政まで動かし、西日本初の行政回収を実現した会もあります。やはりここで
も回収だけにとどまらず、Re-食器の消費活用にまで及んでいます。主婦グループを支援する大手
広告代理店と NPO 法人が創った “One Dish Aid:器が地球にできること”というキャッチの下に、
リサイクル製カップを使ったお菓子教室や食育をテーマにしたイベントを開催するなど、大勢の人
たちが関わる場をつくり、地域社会のエコライフの醸成に陶磁器リサイクルを活用しています。その
他、名古屋や他地域でも同様に、回収と消費をセットにした多様な活動が展開されています。現
在、廃食器の行政回収は全国で8市町あり、今
後も多くなると思われます。
次に市場面ですが、Re-食器需要はオーガニ
ックをうたうレストランやショップ、食材を無駄にせ
ず全てを調理する Whole Food Style のカフェ、
無農薬野菜などの会員制宅配企業などで積極
的に扱われています。近年では、学校給食用食
器(強化磁器食器)のリサイクルが著しい伸展を
見せています。背景には、世界初の日用品・焼
エコマーク第一号認定(日用品・焼物)の
Re-食器・Pokela
物における ISO 規格のタイプⅠ環境ラベルに基
づくエコマーク制度制定があります。国などによ
る環境物品等の調達の推進をはかるグリーン購
入法の下でエコマーク製品の購入が自治体で積
極的になった現れと考えています。
環境の世紀とまでいわれる現在に、世界に先
駆けて美濃焼の地から発信した Re-食器、新し
い時代の世界のスタンダードを目指し、さらなる
エコデザインの推進や配合率のアップを業界の
皆様とともに実現していきたいと考えます。
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使用済み食器の回収風景(土岐市で)
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