第10号 - 日本エネルギー学会

第 10 号
2007. 12. 1 発行
GH ニュースレター
(社)日本エネルギー学会
天然ガス部会資源分科会
ガスハイドレート研究会
目次
MH 関連カレンダー(2007~2008)
研究開発動向
1
天然ガスハイドレート研究開発の動向
2
地球惑星連合大会開催
3
GH 研究会会員名簿
8
GH 関連カレンダー(2007~2008)
2007.2.21
第 27 回 GH 研究会
産総研(つくば)
3.5
二酸化炭素貯留に関する国際シンポジウム
東京大学山上会館
3.26-30
アメリカ化学会第 233 回全国大会
シカゴ
3.29-31
資源・素材学会
早稲田大学理工学部
4.1-4
アメリカ石油地質学会(AAPG)年次大会
ロングビーチ
4.30-5.3
Offshore Technology Conference
ヒューストン
5.19-24
日本地球惑星科学連合 2007 年大会
幕張メッセ
5.22-25
アメリカ地球物理学合同総会
アカプルコ(メキシコ)
5.28
第 28 回 GH 研究会
JAMSTEC 横浜研究所
5.31
MH21 平成 18 年度研究成果報告会
オリンピック記念センター
6.5-8
石油技術協会平成 19 年度春季講演会
オリンピック記念センター
6.10-15
海洋極地工学国際会議(OMAE2007)
サンディエゴ
6.13-17
第 21 回環太平洋科学会議(Pacific Science Congress)
沖縄
7.1-6
第 17 回国際海洋極地工学会議(ISOPE-2007 & OMS-2007)
リスボン
8.1
第 29 回 GH 研究会
九州大学伊都キャンパス
8.2-3
第 16 回日本エネルギー学会年次大会
九州大学箱崎キャンパス
9.9-12
日本機械学会 2007 年度年次大会
関西大学千里山キャンパス
10.28-31
アメリカ地質学会年次大会
デンバー
11.23-24
熱工学コンファレンス
京都大学吉田キャンパス
12.10-14
アメリカ地球物理学連合秋季大会
サンフランシスコ
12.12-14
第 23 回寒地技術シンポジウム
札幌・コンベンションセンター
2008.3.2-7
2008 Ocean Sciences Meeting
オーランド(アメリカ)
3.13-14
Blue Earth ’08
横浜市立大学
4.6-10
第 235 回アメリカ化学会全国大会
ニューオーリンズ
4.8-11
Oceans Techno-Ocean ’08
神戸国際会議場
5.13-15
第 6 回 MH 研究開発国際ワークショップ(Fiery Ice Workshop)
ベルゲン
5.25-30
日本地球惑星科学連合 2008 年大会
幕張メッセ
6.15-20
海洋極地工学国際会議(OMAE2008)
エストリル(ポルトガル)
7.6-10
第 6 回ガスハイドレート国際会議(ICGH6)
バンクーバー
7.6-11
第 18 回国際海洋極地工学会議(ISOPE-2008)
バンクーバー
8.4-7
日本機械学会 2008 年度年次大会
横浜国立大学
8.6-14
第 33 回国際地質学会議(IGC)
オスロ
8.29-9.1
第 6 回アジア海洋地質学国際会議(ICAMG-VI 2008)
高知工科大学
9.20-22
日本地質学会第 115 年学術大会
秋田大学
10.1-6
WS Mechanical Property of the MH and MH Bearing Sediments
ゴア(インド)
11.16-20
温室効果ガス抑制技術国際会議(GHGT-9)
ワシントン DC
研究開発動向
天然ガスハイドレート輸送船の研究開発
1.はじめに
三井造船(以下、MES)は天然ガスハイド
レート(以下、NGH)の研究を積極的に実施
している。NGH の研究としては、NGH によ
る天然ガスの海上輸送システムの技術開発と
海底下メタンハイドレート層の高精度探査の
技術開発を行っている。
ここでは NGH による天然ガスの海上輸送
システムの技術開発に関する実施状況を紹介
する。
2.NGH による天然ガスの海上輸送の概
要
表 1 は NGH と LNG の仕様の比較を示す。
LNG は天然ガスを液体にする必要があるた
め、製造エネルギーが比較的大きく、しかも
貯蔵温度が-162℃であることから、製造プラ
ント、貯蔵・輸送の設備コストが大きくなり、
大型のガス田に限って適用されている。一方、
NGH は製造温度が数度と高いために、製造エ
ネルギーが LNG に比べて少ない。また、シ
ステムを通して貨物の維持温度が大気圧下で
-20℃程度と穏やかな条件で輸送できること
から、多額の初期投資が難しい中小ガス田へ
の適用が期待されている。このような中小ガ
ス田は発見されているガス田総数の数で
85%、埋蔵量で 50%に達すると言われ、しか
も、東南アジア、オセアニアに多いことから、
日本など極東地域のエネルギー源として注目
されている。
表 1 NGH と LNG の輸送・貯蔵時の仕様比較
NGH
LNG
荷姿
固体、粉体(ペレット)
液体
圧力
大気圧
大気圧
項
目
温度
-20℃
-162℃
1m3の成
ガス=165Nm3、水=
ガス=
分
0.8m3
500Nm3
このようなエネルギー事情から、MES は図
1 に示す NGH 方式による天然ガスの海上輸
送を提案している。NGH 製造プラントは天然
ガス田近隣に設置される。天然ガスと原料水
は NGH 製造プラントに導かれ、NGH 生成
器に注入される。生成器では攪拌・バブリン
グ方式で NGH が連続的に生成される。生成
された NGH はペレタイザに導かれ、高強度
のペレットに成形される。ペレットは一旦貯
蔵タンクに貯蔵された後、専用の NGH 運搬
船に積載される。運搬船は十分な防熱性と安
全性を確保した構造となっている。NGH ペレ
ットを満載にした運搬船は外洋を航海し、揚
地に到着するが、一旦貯蔵タンクに蓄えられ
た後、ガス化装置に導かれ、天然ガスと水に
分解される。ガス化は海水、または工場の温
排水などによって行われる。分解された天然
ガスはパイプラインなどによって需要家に供
給され、水は、必要に応じて、運搬船のバラ
スト水として積地へと輸送され、NGH 製造プ
ラントで再使用される。
NGH 技術の開発はプラントによる研究、基
礎的な試験、シミュレーション解析、大型化
のための試設計など多岐にわたって実施され
ている。その中のいくつかを紹介する。
(1)プラントによる研究
写真 1 は MES が 2002 年に建設した日産
600kg の NGH を製造可能な PDU(Process
Development Unit)プラントの全景を示す。
PDU は NGH 輸送システムの全ての工程(す
なわち、NGH の製造、ペレット化、貯蔵及び
輸送、再ガス化)について連続運転が可能な
構成となっている。この PDU プラントの運
転により NGH 輸送システムの各プロセスの
設計データを収集している。写真 2 はペレタ
イザで連続的に NGH ペレットが製造・排出
されている状況である。
写真 1 NGH PDU(Process Development Unit)
全景
図 1 NGH 方式による天然ガスの
海上輸送システムの概念図
写真 2 ペレタイザで連続製造された NGH ペレッ
3.NGH による天然ガスの海上輸送技術
の開発状況
ト
CO2
CH4
MIX
20
圧 壊強 度(N/mm^2)
16
12
8
4
0
0
10
成形圧(Mpa)
20
条件:ペレット径30mm、保存温度-20℃
0
ΔNGH (%)
(2)要素試験
1) NGH ペレットの強度試験
NGH ペレットは大型の貯蔵タンクや運搬
船の船倉に貯蔵される。当然、NGH ペレット
は自重、さらには船倉における振動に耐える
必要がある。ペレット成形条件、船倉の条件
(振動)をパラメータとし、NGH、MGH 及び
炭酸ガスハイドレートペレットの強度試験や
付着力試験が行われている。
図 2 にペレットの圧壊強度と成形圧力との
関係を示す。一部を除き、圧壊強度は 8~9N
/mm2である。貯蔵タンクの深さを 20mとす
ると、タンクに貯蔵されるペレット積載自重
に対して約 80~90 倍の強度を有することが
分かる。
Pellets
Powder
-40
-60
0
100
200
300
400
Time (hr)
図 3 NGH の貯蔵安定性
NGH の最適貯蔵温度について検討するた
め、大気圧下で、温度範囲 158K~268K の
NGH の分解速度を測定した。測定結果を図 4
に示す。MGH ペレットの場合、自己保存性
は 226K~268K で発現し、253K 付近で最も
安定性が高いことが分かる。エタン、プロパ
ンを含む NGH ペレットの場合でも、分解速
度は約 253K で最も低い値を示している。
このように、大気圧下におけるガスハイド
レートの自己保存性は氷点直下の温度で顕著
であり、分解に伴う氷の生成が関与している
可能性が指摘される。しかし、自己保存性の
発現現象については、まだ定説は無く、現象
の制御技術を含め今後の解明が待たれる。
図 2 ペレット圧壊強度と成形圧力の関係
1.E+00
分解速度(NGH化率 %/s)
2) NGH ペレットの自己保存性
ガスハイドレートの自己保存性とは、安定
領域から遠く離れた条件で、分解速度が非常
に小さくなる現象をいう。NGH 粉と NGH ペ
レットの安定性を評価するために、-20℃で 2
週間貯蔵した場合の NGH 化率の変化を図 3
に示す。ペレットは NGH 粉より高い安定性
を有することが分かる。
-20
メタン
メタン + エタン 4.2%
メタン + プロパン 8.2 %
メタン + プロパン 4.1%
1.E-01
1.E-02
1.E-03
1.E-04
1.E-05
1.E-06
1.E-07
150
170
190
210
230
250
270
290
貯蔵温度 (K)
図 4 NGH ペレットの分解速度と貯蔵温度の関係
3) タンク下部からの NGH ペレットの流動
解析
貯蔵タンク、または運搬船の船倉下部から
の NGH ペレットの払出し状況を評価するた
めに、三次元離散粒子法のプログラムを開発
した。このプログラムに付着力の数値モデル
を組込み、付着力がペレットの排出特性に及
ぼす影響をシミュレーションできるようにし
た。
ペレット同士に付着がない場合のシミュレ
ーション結果を図 5 に示す。付着がない場合
には、ペレットはスムースに排出され、流動
性は良好である。付着力が存在する場合のシ
ミュレーション結果では、付着力が大きいと
き自由落下できないことが分かった。
に比較して約 20%以上の充填率の向上が見込
まれることが分かった。
また、運搬船は NGH ペレットを輸送する
が、ペレットに包蔵されるメタンガスを輸送
するため単なる冷凍運搬船とは異なり、より
高度な安全対策を講ずる必要がある。現時点
では NGH ペレットの貨物としての危険度の
規定、NGH 運搬船の建造のための規則等が制
定されていないが、現行規則を参考とするな
らば、低温の引火性ガスを包蔵する貨物を輸
送する観点から「液化ガスばら積み船」に関
る規則に準拠することになると思われる。こ
れまでの技術開発で得られた知見に基づき実
施した運搬船の概念設計の一例を図 6 に示す。
図 6 NGH 輸送船(頂部払出方式)のイメージ図
4.
図 5 NGH ペレットの流動シミュレーション結
果
しかし、ペレット径を大きくすると、ペレ
ット自重に対する付着力が相対的に小さくな
るので、ペレット流動性にとって有利なこと
になることも分かってきた。
4) NGH ペレット輸送船の試設計
輸送船の貨物倉には多くの NGH を搭戴し
て、貨物充填率を高めることが重要である。
粉状の NGH は、空間を多く含み、貨物充填
率を高めることは困難である。NGH をペレッ
ト化し、かつ、大きさの異なるペレットを充
填することを試みた。三次元離散粒子法によ
る計算結果では、大小 2 種類の大きさのペレ
ットを大小比(7:1)、貨物倉への充填割合(7:
3)とした場合には、単一の大きさのペレット
あとがき
現在、天然ガスはパイプラインと LNG の 2
つの形態で輸送されているが、我が国への輸
送を対象に考えれば、LNG である。LNG 方
式は経済的な競争力を確保するために、超大
型のガス田が対象になるが、そのようなガス
田は非常に少ない。需要の急増に対応して天
然ガスの供給を増大させるためには、新たに
天然ガスの海上輸送システムを開発し、東南
アジア、豪州などに多く発見されている経済
性の乏しい中小ガス田の開発を促進すること
である。このシステムを実現するためには、
NGH の人工的製造、ペレット化及び NGH の
自己保存性の向上、更には、ガス化、ハンド
リング技術の開発が必須である。そのような
課題を含め NGH の輸送および NGH の物性
利用関連装置の技術開発課題を表 2 に纏めて
示す。
表 2 NGH 技術の開発課題
項 目
(1) NGH の効率的
な製造技術
(2) NGH の高密度
充填技術
(3) NGH の自己保
存性の活用技術
(4) NGH のハンド
リング技術
(5) NGH のガス化
技術
(6) NGH の冷熱の
有効利用
(7) 実用化技術の実
証
(8) 経済性評価
内 容
① 高 NGH 率の NGH の大
量製造技術
② 低温排熱の有効利用技
術
① 高密度 NGH ペレットの
大量製造技術
① 自己保存性の発現現象
の解明
② 自己保存性の制御技術
① NGH の輸送・貯蔵技術
① ガス化技術
② 低温排熱の有効利用技
術
① 冷熱の有効利用、解離水
の適用技術
① パイロットプラントに
よる実証試験
① 経済性を追求した設計
技術
② 実現性を有する各種ケ
ースの経済性試算の蓄積
天然ガスは環境に優しいことから、21 世紀
の主要燃料と言われており、海底下の MGH
層からの天然ガスの生産技術や NGH 輸送技
術を小資源国である日本が世界をリードして
開発していることは非常に意義深い。また、
NGH による天然ガス輸送システムの開発は
未開発の中小ガス田を有する産ガス国や関連
国々の発展に貢献できるものと考えられる。
そのような願いも込めて、NGH 関連技術が早
期に実用化されることを願っている。
(文責 三井造船 永森)
日本地球惑星科学連合大会開催
2007 年 5 月 19 日から 24 日まで、幕張メ
ッセにおいて日本地球惑星科学連合 2007 年
大会が開催された。本大会では、19 日、20
日及び 22 日にガスハイドレートに関係する
セッションが開催され、下記の内容の発表が
あった。
○西太平洋縁海域のガスハイドレートと関連
現象(19 日)
オホーツク海、日本海、南シナ海などの西
太平洋、縁海域のガスハイドレートと海底メ
タンシープについて、それらの起源、環境へ
のインパクト、資源ポテンシャルについての
発表があった。
○石油開発における地下情報のイメージング
(20 日)
3次元地震探査技術などの発展により、地
下構造や堆積パターンなどの地下情報の可視
化が可能となってきた。メタンハイドレート
の開発や二酸化炭素の地中圧入等への探査技
術の応用事例についての発表があった。
○泥火山と泥噴出現象およびその応用地球科
学的評価(20 日)
プレートの収束域や衝突域の海底や陸上に
広く分布する泥火山・マッドダイアピルの地
下構造を明らかにし、噴出物の特徴から異常
間隙水圧層の形成メカニズム、地下環境の長
期安定性、ガスハイドレートとの関連性など
についての発表があった。
○化学合成生態系の進化をめぐって
(22 日)
深海底において光合成に依存しない生態系
を形成している化学合成群集の分布パターン
は、海水準変動やメタンハイドレートの挙動
などの環境変動に密接に関連しており、地質
時代を通じて大きく変化してきたことが指摘
されている。化学合成生態系の進化を巡って、
メタンハイドレートを含む地球科学、生物科
学の分野からの検討結果の発表があった。
ガスハイドレート研究会会員名簿
(2007 年 12 月 1 日現在)
青木 豊
㈱地球科学総合研究所
内田 努
北海道大学
奥井 智治
東京ガス㈱
駒井 武
産業技術総合研究所
坂
光二
㈱サカコンサルティング
佐藤 幹夫
産業技術総合研究所
鈴木 英之
東京大学
棚橋 学
産業技術総合研究所
寺崎 太二郎 都市エネルギー研究所
長縄 成実
東京大学
藤田 和男
芝浦工業大学
増田 昌敬
東京大学
山本 佳孝
産業技術総合研究所
吉川 孝三
北海道大学
末包 哲也
徳島大学
中島 康晴
海上技術安全研究所
小田 浩
産業技術総合研究所
前川 竜男
産業技術総合研究所
掘次 睦
㈱日立製作所
田崎 義之
関東天然瓦斯開発㈱
永森 茂
豊橋技術科学大学
松林 修
産業技術総合研究所
羽田 博憲
産業技術総合研究所
井原 博之
エコ・エネ・リサーチ
鎌田 三司
三井造船㈱
新倉
茂
㈱グリーンエネルギー
羽藤 正実
資源・環境観測解析センター
藤永 好宣
NPO フォーエバーグリーン
八久保晶弘
北見工業大学
川崎 達治 石油天然ガス-金属鉱物資源機構
津島 将司
東京工業大学
松尾 誠治
東京大学
三木 啓史
㈱四国総合研究所
青木
猛
㈱東邦ガス
大川 賢紀
三菱重工業㈱
橋本 孝雄
エネルギー総合工学研究所
藤井 哲哉 石油天然ガス-金属鉱物資源機構
山本 晃司 石油天然ガス-金属鉱物資源機構
竹谷
敏
産業技術総合研究所
谷
篤史
大阪大学
今野 義浩
東京大学
川村 太郎
産業技術総合研究所
坂本 靖英
産業技術総合研究所
飯田 哲也
東京大学
所
千晴
早稲田大学
柏倉
博
大成建設
安田 博和
大成建設
武内 里香
産業技術総合研究所
長久保定雄 石油天然ガス-金属鉱物資源機構
青山 千春
独立総合研究所
尾西 恭亮
京都大学
神田
肇
三井造船㈱
大屋 信貴
三井造船㈱
長尾 二郎
産業技術総合研究所
皆川 秀紀
産業技術総合研究所
(社)日本エネルギー学会 天然ガス部会資源分科会
編集委員
中島康晴、佐藤幹夫
〒101-0021 東京都千代田区外神田 6-5-4
Tel 03 (3834) 6456
Fax 03 (3834) 6458
Homepage
http://www.jie.or.jp/ngas
21世紀は天然ガスの時代