close

Enter

Log in using OpenID

品質事故事例から見る建築生産システムの実態とその脆弱性 The

embedDownload
品質事故事例から見る建築生産システムの実態とその脆弱性
The Fragility in Building Construction System through the Construction Failure
京都大学大学院工学研究科建築学専攻 建築創造工学研究室 高麗一大
第 1 章 序論
1.1 研究の背景
造の 5 点についてその実態を明らかにする。
③品質事故事例を記述モデルを用いそのメカニズムを分析すること
により建築生産システムという観点からみた原因を明らかにする。
1.1.1 品質事故
日本の建築物の品質は、自動車など他の製品と同様に高い評価を
受けてきた。しかし、近年、品質に関係するトラブルが数多く散見
されるようになってきている。品質事故は、様々な原因が重なり合
って起こるのであるが、これらの品質事故の原因はどのようなもの
なのか。また、それを誘引する背景は何なのか。品質事故の再発防
止のためにはどうしたらいいのか。今、日本の建設業界にはこれら
を明らかにすることが求められている。
1.1.2 品質確保の 4 つのレベル
上記を踏まえ、本研究では、この問題を建築生産システムにおけ
る品質確保という視点から捉えることとし、まず、日本の建設業に
おける品質確保のための仕組みは、4つのレベルで構成されている
と考えた。
(図 1)1 つ目は、建築基準法・建築士法といった“法規
範”
、2 つ目は、団体標準・社内標準等の各種標準、いわば“準規範”
、
3 つ目は契約書・設計図書・施工計画書といったような “プロジェク
トごとの計画”
、そして 4 つ目は、最終的に建築物を作る“技術者/
技能者の技術/技能”である。
法規範
: 建築基準法・建築士法・建設業法等
準規範
: 各種標準・契約約款等
プロジェクトごとの計画
: プロジェクトごとに作られる
契約書・設計図書・施工図等
技術者/技能者の持つ技術/技能
図 1 品質確保の仕組みの概念図
1.3 既往研究と本研究の特徴
既往研究のレビューより本研究の特徴は以下の 2 点である。
①建設プロジェクトにおける品質確保の仕組みを4つのレベルで捉
えていること。
②品質事故事例を記述モデルを用いて分析することにより責任者探
しではなく、建築生産システムの問題として品質事故を分析して
いること。
1.4 研究の方法と論文の構成
第 2 章 他産業における品質確保の仕組み
2.1 本章の目的
建設業と比較して、他産業では、事故を防ぐためにどのような施
策が行われているのか、事故が起こった場合にどのように原因究明
が行われ、再発防止のためにどのような仕組みが機能しているのか
を、主に“法規範”の観点から整理する。
2.2 航空・鉄道産業 3)
航空や鉄道に関する事故が起きた場合には、事故調査委員会が国
土交通省内に設置され、事故原因の究明、責任所在の追及など公的
機関が調査・捜査を行う。これは、航空・鉄道事故調査委員会設置法
によるもので、事故の調査・処分の権限をもち、調査結果をもとに事
故防止のため講ずべき施策について国土交通大臣に勧告することが
できる。事故調査結果は公表されるが、それは“原因を究明し、事
故の防止に寄与することを目的として行われたものであり、事故の
責任を問うために行われたものではない”
と明確に記載されている。
これらそれぞれが実効性を持ち、互いに補完しあって品質確保の
仕組みは機能してきた。さらにそれらと相まって、TQC や元下関係
などの日本独自の方法によって高い品質を確保してきた。しかし、
分離発注や CM 方式といった発注方式の多様化、プロジェクトの大
規模化・複雑化、PC といった技術の高度化・多様化が益々進展する
中で、先の“法規範”はその変化に対応できておらず、それを補完
2.3 原子力発電所 4)
するはずの“プロジェクトごとの計画”も完備しているとは言い難
い。そして、法規範の不完備状態を暗黙のうちに補完してきた日本
独自の方法も弱体化しつつある。
そうした中で、
建築物の事故・欠陥・
瑕疵が表出するようになってきている。
1.1.3 用語の定義
“品質”
、
“事故”は以下のように定義される。
全委員会は、行政庁からの独立性や中立性が保たれるように内閣府
に置かれている。しかし、原子力安全委員会は諮問機関としての役
割が主であり、事故が起こった場合に法規範による調査権限を有し
ているのは経済産業省に設置されている原子力安全・保安院である。
“品質”:本来備わっている特性の集まりが要求事項を満たす程度 1)
“事故”
:期待する安定した状態と一致しない挙動、補修を必要とす
る状態又は完全な構造体として期待される能力を発揮しない状態 2)
よって、本研究では、
“品質事故”を、
“建築物において欠陥・瑕疵・
事故など、要求される事項を満たさない状態”と定義し、
“品質事故”
及びそれを誘引する建築生産システム上の問題を“ほころび”と呼
自動車産業においては、欠陥車による事故を未然に防止し、自動
車ユーザー等を保護することを目的とした、リコール制度が設けら
れている。
これは、
道路運送車両法によって定められている制度で、
自動車製作者等が、その製作し、又は輸入した同一の型式の一定の
範囲の自動車の構造、装置又は性能が自動車の安全上、公害防止上
の規定に適応しなくなる恐れがある状態、又は適応していない状態
ぶことにする。
で、原因が設計又は製作の過程にある場合に、その旨を国土交通省
に届け出て自動車を回収し無料で修理する制度である。5)
2.4.2 自動車損害賠償保障
また、自動車には自動車損害賠償保障法により保険の加入が法規
範により義務付けられている。これは事故が起きた場合の損害賠償
を法規範により保障する制度を確立することによって被害者の保護
1.2 研究の目的
背景より、建築生産システムの実態とその脆弱性を明らかにする
ことを最終的な目的として、以下の 3 点を本研究の目的とする。
①建設プロジェクトにおける品質確保の仕組みを4つのレベルから
捉え、
それぞれのレベルで規定されている内容を整理し、
“法規範”
“準規範”の曖昧さを指摘する。
②建設プロジェクトにおける品質確保の実態として、ⅰ)設計図書の
不完備性と総合図、施工図、ⅱ)ゼネコンの役割と弱体化、ⅲ)工
事監理の重要性と曖昧さ、ⅳ)技術者/技能者問題、ⅴ)重層下請構
原子力発電所は事故が起きた場合に多大な影響を及ぼすため規制
行政庁だけでなく原子力安全委員会とのダブルチェック体制が取ら
れており、運転開始後も行政庁による後続規制によって検査が義務
付けられている。特に原子力基本法、原子力委員会及び原子力安全
委員会設置法及び内閣府設置法に基づいて設置されている原子力安
2.4 自動車産業
2.4.1 リコール制度
を図ったものである。
2.5 労働災害
2.5.1 安全衛生管理体制
労働安全衛生法は「労働災害の防止のための危害防止基準の確立、
表 2 各種の準規範 7)に加筆
責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止
に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労
働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促
進すること」を目的としており、
そのために定められた業種や事業場
の規模に応じて安全衛生管理体制を備えておかなければならない。
2.5.2 労働者災害補償保険
労働者災害補償保険(労災)は労働者災害補償保険法によって定
められている。労働者は業務上の事由、または通勤によって被害を
受けた場合は保険を受けることができる。逆に、事業者は労働保険
の保険料の徴収等に関する法律によって保険料を払わなければなら
ない。もし、労働災害が起こった場合は、事業者は労働基準監督署
に報告をしなければならず、その後は、労働基準監督署の調査・支払
決定通知によって保険が適用される。
2.6 小結
タイプ
内容
具体例
材料、製品等要素技 ・材料、製品仕様を定める規格
JIS(日本工業規格)
・材料、部品等の特性測定法・試験等
術に関する標準
JAS(日本農林規格)
を定める規格
公共工事標準仕様書(国土交通省大臣官
房官庁営繕部)
JASS(日本建築学会)
日本郵政公社建築工事標準仕様書(日本
郵政公社)
民間建築設計・監理業務標準委託契約約
・設計業務委託、工事請負契約等に関 款
民間連合協定工事請負契約約款
建築生産関連契約
する標準約款類
公共工事標準請負契約約款
方法に関する標準 ・工事図書類の標準書式、標準工事仕 民間建設工事標準請負契約約款(甲、乙)
様書
建設工事標準下請契約約款
BCS設計施工契約約款
設計施工等の実務 ・設計基準、計算規範等
プロセス関係標準 ・施工標準、標準工事仕様書類
、環境(ISO14000)
、 ISO9000
組織マネジメント 品質(ISO9000)
安全管理等のマネジメントシステム
システム関係標準 の構築、運営方法等の標準
ISO14000
以上より、他産業においては事故防止という面から見ると大きく
分けて 2 つのパターンがあると言える。1つは、もし事故が起こっ
た場合には非常に影響が大きいがその物の数が限られていて法規範
によるコントロールのしやすい分野については、
法規範による規制・
チェックを厳しく行い、事故が起こったとしても第三者性の強い調
3.4 プロジェクトごとの計画
査機関が原因究明を行い、調査結果を公表することによって再発防
止を図るというものである。それらの調査機関の権限をまとめたも
のが表 1 である。一方、事故件数が多く、法規範による規制・チェ
ックを厳しくしたとしても、ある一定以下の事故件数の減少は見込
めない分野については、事故防止の政策が機能している一方で、保
険への加入を法規範によって義務付け、
被害者の保護を図っている。
3.6 小結
表 1 他産業の調査機関の調査権限
分野
航空・鉄道産業
原子力発電所
労働災害
航空・鉄道事故調
労働基準監督署の
原子力安全・保安院
査委員会
労働基準監督官
設置場所
国土交通省
経済産業省
厚生労働省
航空・鉄道事故調 核原料物質、核燃料物質及び
労働基準法
根拠法令
査委員会設置法 原子炉の規制に関する法律 労働安全衛生法
立ち入り検査
○
○
○
事情聴取
○
○
○
関係物件の提出
○
○
○
法令違反の犯罪捜査
×
×
○
調査機関
権限
第 3 章 建設プロジェクトにおける品質確保の仕組み
3.1 本章の目的
建築の設計や施工の技術も、関係者の自由な創造による面と、慣
習・慣行等を含む何らかの規範による面との両者によって形成され
る。6)本研究で扱う法規範とは、強制的技術規範である法・令・規則・
技術基準(告示)等を指し、準規範とは範列にあたる規格類を指す
こととする。各団体による契約約款や各企業の社内標準等もこの準
規範に含めるものとする。法規範は法的拘束力を持つ強制的なもの
であるから、当然守らなければならないものであるが、準規範はあ
くまでも標準であって強制力は無い。そこでプロジェクトごとに当
事者間で契約が結ばれ、その契約によって準規範が選択的に指示さ
れ効力を持つのである。当然、その契約はプロジェクトごとに異な
り、契約書だけでなく設計図書や施工図等も契約の一部となる。そ
して、最終的にその契約を実行に移す、つまり、建物を建てるとい
う行為を支えているものは技術者/技能者の持つ技術/技能である。
3.2 法規範
建築生産システム上の品質確保の仕組みとして、建築基準法には
建築確認制度と工事監理制度、建築士法には建築士による業務の独
占、建設業法には許可制度、技術者制度、経営事項審査制度がある。
3.3 準規範
本研究で言う準規範とは規格類を指し、適用すべき技術あるいは
契約上の権利・義務等当事者間の関係などについて、
定型化され共通
性の高い内容をあらかじめ文書化したものである。7) 表 2 は、各種
の準規範をタイプ別に整理したものである。
確認申請書、設計図書、契約書、施工図、施工計画書、施工要領
書などが作られる。
3.5 技術者/技能者の技術/技能
技術や技能を担保するものとして様々な資格が整備されている。
以上より法規範の不完備としては以下のことが挙げられる。
①設計図書の定義
②工事監理の定義
・条文自体からは様々な解釈が可能で旧建設省告示 1206 号と関連
して工事監理業務は多様でばらつきがあることが指摘されている。
③施工時に作られる書類の根拠
・施工計画の作成は建設業法第 26 条の 3 において主任/監理技術者
の職務とされているが、施工図、施工要領書の作成は法的な根拠
は無い。公共工事標準仕様書や JASS などの準規範においては施
工図、施工計画書の作成が施工者に義務付けられているが、前述
したようにこのような準規範は設計図書や契約書において指示さ
れなければ効力は発生しない。
④重層下請構造
・設計チームにおいて、設備設計に関しては重層下請構造を想定し
ていると思われる(建築士法第 20 条)が、その場合に最終的な整合
性を誰がチェックするのか、下請の設計事務所にどのような責任
があるのか等の記述はない。また、構造設計が外注化されること
は全く前提とされていない。
・施工チームにおいては、ある一定の重層下請構造は前提としてい
るが、過度な重層下請構造はその問題が国会でも指摘されている
にも関わらず、明確な禁止規定は無い。
図 3 は、本章の内容を踏まえ、建設プロジェクトにおける品質確
保の仕組みを 4 つのレベルから整理したものである
最低限度の品質を定める
法規範
建築士法
建築基準法
建設業法
準規範
民間建築設計・監理
業務標準委託契約
公共工事
標準仕様書
義務
JASS
民間連合協定
工事請負契約
JIS
JAS
公共工事標準
請負契約約款
事務所登録
建築士資格
品質を保証
選択
選択
設計図書
(1)質問回答書
(2)現場説明書
(3)特記仕様書
(4)図面
(5)標準仕様書
確認申請書
作成
契約書
作成
建築物
プロジェクト
ごとの計画
材料
施工時の計
施工図
施工要領書
施工計画書
作成
作成
設計事務所
下請SC
建築士
基幹技能士
技術者/技能者
の技術/技能
建設業許可
技術者制度
元請GC
監理技術者
主任技術者
施工管理
施工
工事監理
図 3 4 つのレベルから見た品質確保の仕組み
第 4 章 建設プロジェクトにおける品質確保の実態
4.2 設計図書の不完備性と総合図、施工図
施工者は 2004 年度の売上高によって大中小の 3 つに区別する。
)
④各主体(組織)の内部にはそれぞれの技術者/技能者を記述し、そ
設計図書は本質的に完備させることが難しく、発注者の意思決定
れが国家資格によって担保されていれば四角で、いなければ楕円
の遅さや設計変更が多いためその不完備性が指摘されることも多い。
で表記する。
設計図書が不完備というのには、未決事項がある、詳細が未検討、
⑤それぞれを結ぶ矢印は情報の流れあるいは行為を表し、情報の流
図面間に不整合がある、の 3 つのパターンが考えられる。詳細な図
れは実践、行為は点線にて表記する。
面になるほど充実度は低く、部分詳細図については 7 割近くが不足
⑥各主体が備えている諸規範はブロック矢印にて表記する。ただし、
していると考えている。また、図面間の不整合についても 3 割強が
多いと答えており、現場の規模が大きくなると不整合は多くなる傾
向にある。これらを補完するためのツールの一つとして、総合図が
用いられている。総合図は主に意匠・構造・設備の取り合いや図面間
の不整合の調整を目的として使用されている。また、施工図によっ
て是正される場合も多い。
デファクト、ほころびの状態においては煩雑さをさけるため、デ
ジュールと異なる場合にのみ記述することとする。
⑦全ての工事について記述すると情報量が膨大になり明快さを失
うため、品質事故に関する当該工事についてのみ記述する。
さらに品質事故の建築生産システム上の問題点を明らかにするた
めにデジュール、デファクト、ほころびの 3 つの状態を記述する。
4.3 ゼネコンの役割と弱体化
①デジュール:法規範で前提とされている役割分担をモデル化した
もの。いわゆる建前をモデル化したもので、4 つのレベルについて
の役割分担をモデル化する。
②デファクト:重層下請構造など、組織関係が法規範の前提と異な
っても適切な工事が行われるように相互の補完関係をモデル化した
もの。デジュールには無い各主体間の善意のアプローチは青色にて
ゼネコンは日本の建設業において一式請負方式のもと、大きな役
割と責任を担ってきた。そして、高い品質はゼネコンの大きな力に
よって、支えられてきたと言っても過言ではないが、経済情勢の変
化とともに、ゼネコンの力にも陰りが見えてきた。現場技術者の数
は大きく減少している。9)それにより、施工図の作成業務をを外注
あるいはラインスタッフに頼らざるを得なくなった。よって、ゼネ
コンの根幹とも言える現場で技術/技能を持った現場技術者が減少
し、さらに品質確保を難しくしている。
4.4 工事監理の重要性と曖昧さ
記述する。
③ほころび:実際の品質事故の事例に基づいてその品質事故発生の
メカニズムを上記の状態と比較したうえで記述したもの。ほころび
を誘引するような事象については赤色にて記述する。
工事監理は“工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおり
に実施されているかいないかを確認すること”と、定義されるが、
5.4 公共施設の連絡デッキ落下事故以下 13),14)より分析
その業務内容にはばらつきが大きい。工事監理は、施工段階でのチ
ェックという品質確保上重要な業務であるが、設計料が安い、発注
者の理解を得られない、などによりその業務が十分に行われていな
い現状がある。
平成 15 年公共施設と汽船のターミナルをつなぐ連絡デッキのう
ち、駐車場脇から公共施設の間の 48mと駐車場連結部 15m が落下
した。そのプロジェクトの組織図を図 4 に示す。なお、以下の検討
のため、設計チームはグラデーションありで着色、施工チームは着
色とし、それぞれ重層下請構造の下位になるほど薄く表記する。
5.4.2 記述モデルによる分析
4.5 技術者/技能者問題
実際に施工をするのは現場の技術者/技能者であり、その意味では
最終的には品質確保は技術者/技能者の手にかかっている。そこで問
題となっているのは、建設業就業者の高齢化による技術者/技能者の
不足や、モラルや技術/技能そのものの低下である。そして最大の問
題は、職人の低賃金 10)によるモラルの低下や離職率の増加である。
5.4.1 事故の概要
重層下請構造には、水平方向の分業と垂直方向の重層化の 2 つの
まず、報告書をもとに斜材ロッド定着部の破壊をトップ事象とし
て FTA を展開した。大きく分けて 4 つの原因があるがそれらを下
位にさらに展開していくと、様々な原因が重なり合って事故が起こ
っていることがわかる。特に他主体によるチェック体制が全くとい
っていいほど働いていない。また、明確な契約関係に無い主体が多
く見られるのも問題である。さらに主原因を補強筋不足に絞って記
パターンがあり、設計チーム・施工チーム双方で、重層化は進んでい
る。設計チームにおいては設備図、構造図を 100%外注に出す割合
がともに 6 割前後である 11)ことから、元請設計事務所が設備設計及
び構造設計を外注するのはかなり一般的であるといえる。また、職
別工事業や設備工事業で下請率が高いこと、企業規模(資本金)別で
言えば小規模なほど下請比率が高いことがわかる 12)。よって、重層
述モデルによってモデル化したものが図 5∼図 7 である。設計期間
と施工期間が 2 ヶ月以上も重なっていることにより設計図書が未完
成なため、設計変更が度重なり、重層下請構造のもとではその情報
伝達がうまくいっていない。また、元請の設計事務所やゼネコンの
技術力が十分でないため、明確な契約関係に無い主体が主導的に指
示を出しており、それを誰もチェックできていない。
下請構造の末端は、小規模業者の職別工事業であり、設備工事業で
よりその重層性が高いことがわかる。
5.5 小結
4.6 重層下請構造
第 5 章 記述モデルによるほころび事例の分析
5.1 本章の目的
5.2 記述モデルの提案
事故原因の分析方法としては、FTA を用いて原因の下位への展開、
洗い出しを図り、主原因の見極めを行った後、その主原因について
記述モデルを用いて組織や情報の関わりをプロセスにそってモデル
化することでメカニズムが明らかになる。
他産業で用いられている品質事故のメカニズム解明や品質管理ツー
ルとして FTA や品質保証体系図がある。しかし、建設プロジェク
トは非常に多面的かつ複雑であり、建築生産システムの組織・過程・
諸規範の全ての要素 6)を記述するのは難しい。そこで、建築生産シ
ステムにおける品質事故を明快に説明し記述するモデルの構築を試
みた。その仕様は以下である。
①構成要素は、組織・過程(プロセス)・諸規範である。
②縦軸は主体(組織)別、横軸は時系列とする。
③各主体(組織)は、1 つの企業を一単位とし、その規模の大小に
よってその大きさを区別し記述する。
(設計者は所員数によって
図 4 組織図
第 6 章 ほころび防止策
6.2 事故調査委員会
建設業においても事故が起きた場合に特に公共工事では事故調査
委員会が設置され事故原因の究明が行われるが、その場合は主に発
注者である地方公共団体によって設置されるため、厳密な意味で第
三者とはいえず、法規範にもとづく権限も無いため徹底的な調査が
されるとは限らない。よって建設業における事故調査委員会には以
下の点が必要と考えられる。
・公共、民間を問わず第三者性を保つため、例えば国土交通省等に
法規範にもとづいて設置されること。
・徹底的な原因の調査・究明を行うため、法規範にもとづき捜査権限
を与えられていること。
・同様の事故の再発防止のために調査結果を一般に公表すること。
企画/
設計者選定
発
注
者
CL: A
設
計
者
引渡し
維持管理
(設計監理契約)
業務を委託
調整 Ar: B’一級建築士
(Bより設計
監理を受託)
Ar: B”
(意匠設計)
一級建築士
調整
工事監理
構造設計の安全性を確認したう
えで設計図書を発行する
調整
構造図及び構造計算書
設計者からの指示が適切か、施工者
への指示が適切に実行されているか
について検討、確認する
契約関係
Ar: B”’
は不明
(構造設計)
一級建築士
P
C
a
床
版
製
品
検
査
竣
工
検
査
所長 GC: C 係員
(工事請負契約)
施工管理
監理技術者
施工計画書
施工要領書
施
元
工
請
者
指示を適時・適切に行う
SC: D 番頭
(PC工事)
施
工
者
施工図
施工
SC: G 係員
(Dの子会社
のPC工場)
竣工
SC: H 職人
下
請
(Gの工場内で鉄
筋の加工組立)
施工図
SC: I、J、K
(Gの工場内で
床版製作)職人
製品検査01.2.1
設計期間 '00.10.11 ∼ '01.1.25
監理期間 '00.11.24 ∼ '01.4.17
施工期間 '00.11.13 ∼ '01.4.17
竣工検査01.4.19
事故'03.8.26
図 6 デファクト
企画/
設計者選定
発
注
者
CL: A
設計
監
理
者
工事
引渡し
維持管理
事業計画書
Ar: B 一級建築士
景観・デザ
イン調整業
務を委託
設
計
者
施工
者
選定
(設計監理契約)
業務を委託
工事監理
Ar: B’一級建築士 補強筋のやり取りは聞いていない
(Bより設計
監理を受託)
契約関係
は不明
Ar: B”
(意匠設計)
一級建築士
不完備な構造図
契約関係
Ar: B”’
は不明
(構造設計)
一級建築士
意匠のチェックに専念してい
たので記憶に無い
設計図書に補強筋の記載はなか
った構造計算書も渡されていない
所長 GC: C 係員
①斜材ロッド定着部の形
施 状変更
(工事請負契約) 設計変更を反映した施
元
工 ②補強筋の配筋図(Fax)
監理技術者
請
工図の承諾なし
者 を指示するが、補強金の
施工計画書
施工要領書
配筋については工事関係
者の間で合意されず、設
番頭
SC: D
計変更図書として残されな
(PC工事)
かった。
施
SC: G 係員
工
指示図面通りに配筋することは困
(Dの子会社
者
難と考え、指示された配筋に出来
のPC工場)
るだけ近づけ配筋可能な施工図を
SC: H 職人
下
作成
(Gの工場内で鉄
請
施工図
筋の加工組立)
︶
ることによって高い品質は確保されてきたが、経済情勢等によって
各主体が善意のアプローチを行わなければ品質事故につながる。ま
た、重層下請構造や PC などの工事では上記のことが起こりやすい
ことが実際の事例の分析によって確認された。
工事
Ar: B 一級建築士
契約関係
は不明
監
理
者
施工
者
選定
P
C
a
床
版
製
品
検
査
竣
工
検
査
斜材ロッド
の定着部
の補強筋
不足
︵
日本の建設業において建築生産システムという観点から言えば、
法規範の曖昧さを各主体の善意のアプローチによって互いに補完す
設計
︶
第7章 結論
竣工
︵
①業務範囲、責任範囲を明確にして各主体の業務結果を検査する。
②善意のアプローチによる補完関係を期待して、業務範囲、責任範
囲を明確にせず、
建築物が作られているかのプロセスを確認する。
施工
職人
事業計画書設計段階で安全性の確認を行う
景観・デザ
イン調整業
務を委託
︶
まず前提として、法規範で厳しく細かい規定を定めてしまうと自
由な創造による技術の発展を阻害するため法規範による定めは最低
限にすべきである。それを踏まえて品質を確保するためには大きな
方向性としては以下の2つが考えられる。
竣
工
検
確認
査
図 5 デジュール
︵
6.6 小結
維持管理
法規範(建築基準法、建設業法)
準規範(社内標準)
︶
異なり、利益相反にならず有効なチェックを行うと期待できる。
SC:D
番頭
︵
・設計図書や施工図、施工計画書などプロジェクトごとの計画を予
め充実させておくことが品質の確保につながるため、技術力を持
った主体がそれらのチェックを行うことが重要であること。
・PM/CM を担う主体は発注者から報酬をもらい発注者の側に立っ
てプロジェクトに関わるため、建設プロジェクトにおいて上記の
チェックを行うに当たって設計者や施工者などの既存の主体とは
GC: C 主任/監理技術者
所長
(工事請負契約)係員 施工管理
(下請負契約)
︶
PM/CM といった方法も以下の理由により有効であると考えられる。
・設計・施工の双方で重層下請化が進んでいる状況では、プロジェク
ト組織が非常に複雑で明確な契約関係が結ばれていないことも多
く、プロジェクトを一貫して主導する主体が存在しないこと。
確認
工事監理
設計図書
施工者
(下請)
・それにより適切な報酬が支払われるであろうこと。
6.5 PM/CM
引渡し
施工計画書 施工要領書
︵
建築物は完成したものの性能を検査によって確かめることが出来
ないため、プロセスのチェックが重要であるが、その方法の1つと
して工事監理制度があり、チェックの有効性を高める方法として第
三者監理が考えられる。第三者監理についてはその是非について
様々な議論がなされているが、
以下の点で品質確保に有効であろう。
・工事監理契約が別になされることで業務内容が明確になり、責任
範囲も明確になること。
工事
法規範(建築基準法、建設業法) 施工図
準規範(社内標準)
︶
6.4 第三者監理
事業計画
書
Ar: B 一級/二級/木造建築士
(設計監理契約)
法規範(建築基準法、建築士法)
準規範(社内標準)
施工者
(元請)
︵
完成に対する保険の加入を義務付け、保険会社が建築物の完成をチ
ェックするというのが考えられる。保険会社は事故による保険料の
支払いを避けるために建築物の完成までのプロセスをチェックする
というインセンティブが働くわけである。
施工者選定
確認
CL: A
設計者
法規範
(監理者) (建築基準法)
6.3 保険制度
現在でも建設業に関する様々な保険があるが任意の保険であり、
もし事故が起こった場合でも現在の業務分担や責任分担が曖昧な状
況では責任の所在がはっきりせずどの保険を適用するかやそれぞれ
の責任割合が問題になる可能性がある。よって、建設プロジェクト
における保険制度としては公共・民間工事問わず、
発注者に建築物の
設 計
企画/設計者選定
発注者
十分な補強筋を入れず
SC: I、J、K
(Gの工場内で
床版製作) 職人
製品検査01.2.1
設計期間 '00.10.11 ∼ '01.1.25
監理期間 '00.11.24 ∼ '01.4.17
施工期間 '00.11.13 ∼ '01.4.17
連絡デッ
キ落下
竣工検査01.4.19
事故'03.8.26
図 7 ほころび
<参考文献>
1) JIS Q9000:2000
2) ヤコブ・フェルド著 建築施工海外文献研究会訳 建設事故の記録
彰国社 1972
3) 航空・鉄道事故調査委員会 HP
4) 原子力安全委員会 HP
5) 国土交通省 HP
6) 古川、永井、江口 新建築学体系 44 建築生産システム 彰国社 1982
7) 松村秀一編著 建築生産システム 市ヶ谷出版社 2004
8) BCS 建築工事における『品質情報伝達のしくみとツール』の実践
へ向けて−その2 設計者・施工者の役割分担の提案− 1997
9) 国土交通省 建設業活動実態調査結果
10) 厚生労働省 屋外労働者職種別賃金調査
11) JIA、設計事務所の実態調査、2005
12) 建設業振興基金 第 10 回建設業構造基本調査 2002
13) 発注者である地方公共団体によって設置された事故調査委員会による事
故原因調査結果報告書
14)発注者である地方公共団体内に設置された事故調査班による事故報告書
Author
Document
Category
Uncategorized
Views
1
File Size
290 KB
Tags
1/--pages
Report inappropriate content