思いや願いを意欲的に表現する子を目指して

[教材開発]
思いや願いを意欲的に表現する子を目指して
保科浩則(小清水町立小清水小学校)
1
はじめに
今回の米国理解教育研究プロジェクト参加にあたり、私は、次のように、大きく二つの視察ポイントを
設定した。
◎米国における授業実践の姿
∼子ども一人一人の見取り、教材(特に地域素材の生かし方)、支援のあり方、評価∼
◎米国文化について視察
○米国に対する自分の印象と実態にどのくらい違いがあるのか。
○米国人の考え方・ものの見方について知る。
○米国の生活を通して日本のよさを再認識する。
約 2週 間 の滞 在 期 間 、高 等 学 校 授 業 ・博 物 館 等 の視 察 や、日 々の生 活 を通 して、米 国 の文 化 や
人々ついて特に印象深かったことは、次の2点である。
自分を表現する
小学校1校、高等学校3校の授業の様子を参観す
る中で、与えられた課題や質問に対して、どの子も、
自分なりの考えをもち、はっきりと発言していた。
街の中で出会った人や店の人も、日本で私が経
験してきたよりも、自己表現がはっきりしていると感じ
た。見ず知らずの人に対して、助けたいと気づいた
らすぐに行動に表し、反対に感謝の気持ちもすぐに
表現していた。見ていてとてもさわやかな印象を受
West Seattle High School ESL 授業風景
けた。
グラウンド・ゼロ視察
事件から1年以上経過してもなお生々しい傷跡に
立ち、この場所で何千人もの命が失われたことを思
うと、自然に涙が溢れてきた。ここにも、人々の思
いが様々な形で表現されていた(指導案資料 参
照)。
対照的に、傷跡を背に笑顔で記念撮影をする人々、
傷跡を囲む歩道で事件の写真を売り物にして商売を
する人など、その人々の気持ちを確かめたわけでは
ないが、見ていて心が痛んだ。
グラウンド・ゼロ
この傷跡から何を学び、どう生かすか、改めて考え直
すことが必要なのかもしれないと感じた。
以上の2点から、平和に対する思いを表現する授業実践に取り組みたいと考えた。
― 115 ―
思いや願いを意欲的に表現する子
2
音楽科学習指導案
私は、平成14年度、北海道教育大学釧路校大学院修士課程学校教育専修に派遣を受けており、
実際に授業実践を行うのは次年度(平成15年度)になる。現時点では小学校高学年を想定した学習指
導案を作成し、授業にのぞむ際には、年間指導計画・児童の実態等を踏まえ、この指導案を改善して
いきたい。
単元名
平和への思いを表現しよう
単元について
平成14年度から、完全学校5日制の下、豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる日本人としての
自覚、自ら学び、自ら考える力など、[生きる力]を育成することを基本的なねらいとした新学習指導要領
が本格実施となった。音楽科の目標は、「表現及び鑑賞の活動を通して、音楽を愛好する心情と音楽
に対する感性を育てるとともに、音楽活動の基礎的な能力を培い、豊かな情操を養う。」であり、学年(第
5学年及び第6学年)の目標は「
創 造的に音楽にかかわり、音楽活動への意欲を高め、音楽経験を
生かして生活を明るく潤いのあるものにする態度と習慣を育てる。
音の重なりや和声の響きに重点を
置いた活動を通して、基礎的な表現の能力を高め、音楽表現の喜びを味わうようにする。
音楽の美
しさを味わって聴き、様々な音楽に親しむようにする。」である。
今も、これまでも、人と人とが争うなど、平和を脅かすニュースが、毎日のように報道されている。また、
平和への願いを、社会運動、芸術活動等で表現する活動も、世界各地で生まれている。2001年9月1
1日のアメリカ同時多発テロでは、追悼・復興・激励等、たくさんの思いや願いがメディアに載せて世界
中に発信された。この事実をしっかりと認識し、平和に対する自分なりの思いを深め、表現していくことは、
未来の社会を創造する子どもたちにとって、とても大切なことである。
この単元の鑑賞教材『ホープ』『ホエア・クライシス・スピークス』は、ニューヨーク在住で同時多発テロを
目の当たりにした日本人ジャズ・ベーシスト中村健吾氏が、
その思いを表した曲である( 資料—①②③参照)。
この曲と同様に同時多発テロに対する思いを表現した
ものとして、今回の米国視察研修で入手した、Richard
Montgomery High School 平和教育クラスの学生が書い
た詩( 資料—④参照)を国語科で、関連ホームページ
や米国視察で撮影した写真( 資料—⑤)について総合
的な学習の時間(情報・国際理解)で鑑賞したことをこの
単元の表現活動に関連させていく。
曲想を味わって聴くことを通して、作曲者の思いを感じ
とるとともに、思いを込めて音楽を創造し表現することのよ
さに気づき、平和に対する自分なりの思いや願いを表現
する活動へとひろげたい。
Richard Montgomery High School 平和教育クラス
パッチワークによる作品
― 116 ―
教材開発
単元目標
◎曲想を味わいながら鑑賞するとともに、作曲者の思いを感じとることができる。
◎思いや願いを音楽で表現することのよさに気づき、自分なりに表現してみようとする。
指導計画
課題解決
学習課題
思いや願い
時間
児
童
の
活
他教科等の活動
動
日常
戦争、いやだな。
テロってなんだろう?
2001.9.11.何があったのだろう。
平和がいいな。
←総合
アメリカの高校生の詩を味わおう。
平和を願う気持ちをいろいろな方法で表現しているね。
音楽1
平 和 の歌 、知 って
音 楽 で表 現 したものもあ
いるよ。
るのかな。
音楽でうれしくなったりさびし
くなったりするよ。
平和を願う気持ちを表現した曲をきこう。
さびしい感じがした
明 るい感 じもした
拍子がわからな
楽器は1つだっ
よ。
よ。
いな。
たね。
テロを実際に見た人なんだ。
もう一回きいてみたいな。
亡 くなった人 を悲 しん
さびしいけどがん
音 の無 いところに気 持 ちが
でる。
ばる。
入っているよ。
気持ちがメロディーを生んだんだね。
健 吾 さんに感 想 を伝
えたいな。
e-mail で伝えよう。
自分たちにもでき
気持ちをこめた曲をつくって
るかな。
みたいな。
↑
総合
― 117 ―
教 師 の 支 援
・朝 、帰 りの会 や各 教 科
等、日常的に、平和
に関する児 童の思い
や願いを記録し、児
童が互 いに確 認 し合
えるようにする。
・学習の記録を教室掲
示することにより、新た
な学 習 課 題 へと関 連
づけられるようにする。
・音 楽 に心 を動 かされた
経 験をふりかえること
により、作曲者や演奏
者の気持ちが込めら
れていることに気 づけ
るようにする。
・曲がレコーディングされ
た時に似せた照明の
状態にすることにより、
演 奏 者 の気 持 ちを感
じとろうとする意欲を
高める。
・自由に発表した感想を
板書することにより、
音 楽 が心 を動 かす力
をもつことを確 認 でき
るようにする。
・演奏者の資料を紹介
すると共 に、テロに関
する既習経験をふりか
えることにより、演奏者
の気 持 ちをより深 く感
じ取れるようにする。
・曲が生まれるきっかけ
がわかる資料を確認
することにより、音楽
も、気持ちを表現する
方法の一つであること
に気づくことができるよ
うに す ると共 に、 創 作
への意欲を高める。
・ジャズについて簡 単 に
説明する。
思いや願いを意欲的に表現する子
お返事が来たよ。
音楽2
平和への気持ちをこめた曲をつくって発表しよう。
楽器だけの曲にしたいな。
詩にメロディーをつけたいな。
↑
総合
パソコンで送
健吾さんにきいてもらい
自 分 なりのメロディーで
れるよ。
たいな。
いいんだね。
つくった曲を健吾さんに送ろう。
音楽3
メロディーしか作 れ
たいこのリズムも入 れた
和音をつけて
ないな
いな。
みよう。
←総合
できあがった自分の曲をメールに添付して送ろう。
お返事が来たよ。
健吾さんのアドバイスを生かして曲を完成させよう。
できたよ。
いい感じに
歌 ってみた
きいてもらい
なったよ。
いな。
たいな。
音楽4
自 分 のために録 音
全校に発表した
健 吾 さんにきいてほし
したい。
い。
い。
全校朝会で発表しよう。
音楽5
録音して記録に残そう。
e-mail で伝えよう。
←特活
総合→
気 持 ちのこもっ
他 の音 楽 も、気 持
いろいろな気 持 ちをいろ
た音楽ってい
ちを感じながらきき
いろな方 法 で表 していき
いね。
たいな。
たいな。
― 118 ―
・児童一人一人の要望
等 を把 握 し、自 分 なり
の方 法 でメロディーを
生み出し、記 録できる
ようにする。
・教 室 掲 示 を ふりかえ る
ことにより、作 曲に生
かせることに気 づける
ようにする。
・中村氏のメールを紹介
することにより、作曲
への意欲を高める。
・気 持ちを表 現したこと
に反 応してもらえた時
のうれしさを確 認 し合
うことにより、表現への
意欲を高める。
・コンピュータ、MD 等の
機器を使用することに
より、児童が自分の表
現を確認しながら作
業 を 進 め ら れるよ う に
する。
・中村氏にも仕事や生
活があることを再 確 認
することにより、感謝の
気 持 ちをもてるように
する。
・中村氏のメールを紹介
し、確認し合うことによ
り、曲の完成への意欲
を高める。
・互 いに聴 き合 いながら
作 業 を進 めることによ
り、さらに工 夫 を加 え
られるようにする。
・表現の場に対する思い
を自由に出し合うこと
により、表 現 に対 する
意欲を高める。
・表 現の場 について、可
能な方法を助言する
ことにより、一 人 一 人
の思 いや願 いを極 力
生かすと共に、表現の
意欲を高める。
・互 いの表 現 を認 め合 う
場 を設 定 することによ
り、気持ちの表現方法
の一つとしての音楽
への意欲を高める。
教材開発
本時について
①
本時の目標
◎思いや願いを音楽で表現することのよさに気づく。
◎自分の思いを音楽で表現することへの意欲を高める。
◎曲想を味わいながら鑑賞するとともに、作曲者の思いを感じとることができる。
②
本時の展開(1/5)
児
童
の
活
平 和 の歌 、知 って
音楽で表現したものも
いるよ。
あるのかな。
動
音楽でうれしくなったりさびし
くなったりするよ。
平和を願う気持ちを表現した曲をきこう。
さびしい感 じが し
明 るい感 じもした
拍子がわからな
楽 器 は1つだっ
たよ。
よ。
いな。
たね。
テロを実際に見
とてもこわかった
この近くにも来
こんな声 をしてい
た人なんだ。
だろうな。
たんだね。
るんだね。
もう一回きいてみたいな。
亡 くなった人 を悲 しん
さびしいけどがん
音 の無 いところに気 持 ちが
でる。
ばる気持ち。
入っているよ。
気持ちがメロディーを生んだんだね。
健 吾 さんに感 想 を伝 え
←総合
たいな。
e-mail で伝えよう。
③
自分たちにもでき
気 持 ち を こ めた 曲 を つ く
るかな。
ってみたいな。
教 師 の 支 援
・朝、帰りの会や各教科等、日常的
に、平 和 に関 する児 童 の思 いや
願 い を 記 録 し、 児 童 が 互 いに 確
認し合えるようにする。
・学習の記録を教室掲示することに
より、新たな学習課題へと関連づ
けられるようにする。
・音 楽 に心 を動 かされた経 験 をふり
かえることにより、作 曲 者 や演 奏
者の気持ちが込められていること
に気づけるようにする。
・ 曲 がレ コー ディ ン グさ れ た時 に 似
せた照明の状態にすることによ
り、演奏者の気持ちを感じとろうと
する意欲を高める。
・自由に発表した感想を板書するこ
とにより、音 楽 が心 を動 かす力 を
もつことを確認できるようにする。
・演 奏 者の資 料を紹 介 すると共に、
テロに関する既習経験をふりかえ
ることにより、演奏者の気持ちをよ
り深く感じ取れるようにする。
・再び曲がレコーディングされたとき
に似せた照明の状態にすることに
より、演奏者の気持ちを味わいな
がら聴くことができるようにする。
・演奏会の CD を聴くことにより、その
時 々の気 持 ちによって演 奏 が変
化することに気づけるようにする。
・ジャズについて簡単に説明する。
・曲 が生 まれるきっかけがわかる資
料を確認することにより、音楽も、
気 持 ちを表 現 する方 法 の一 つで
あることに気づくことができるように
すると共に、創作への意欲を高め
る。
本時の評価
◎思いや願いを音楽で表現することのよさに気づくことができたか。
◎自分の思いを音楽で表現することへの意欲を高めることができたか。
◎曲想を味わいながら鑑賞するとともに、作曲者の思いを感じとることができたか。
― 119 ―
思いや願いを意欲的に表現する子
資料
①
中村健吾プロフィール
中村健吾(bass)1965年3月29日 大阪市出身
12才でクラシックギターを学び、後にエレクトリック
ベースを始める。
1988 年渡米、バークリー音楽大学に入学し、アコ
ースティックベースに転向後ベースの巨人チャールズ・
ミンガスの音楽から多大な影響を受ける。在学中にロ
イ・ハーグローヴ、アントニオ・ハート、アンソニー・ウォン
ジー、岡まこと、松島啓之、原大力らとセッションを重ね
る。プロフェッショナルパフォーマンス科ジョン・ナヴァス
スカラシップを受賞した。
バークリー音大を卒業後はニューヨークへ移り、池田
篤と研鑽を共にする。またジュリアード音学院の教授
であるホーマー・メンチ氏に師事すると同時にベーシス
トのレジナルド・ヴィール、クリスチャン・マクブライドと交
流を重ねる。
94 年、日米混合ユニットであるジャズ ネット ワーク
スに参加し、ロイ・ハーグローヴ、ジェシー・デイビス、
デビット・サンチェス、椎名豊、大坂昌彦らと「イン ザ
ムービー」をレコーディング。
97 年、ウイントン・マルサリス率いるリンカーンセンタージャズオーケストラ (LCJO) に参加。同年ウイン
トン・マルサリスのベーシストとしてクリントン前大統領が主催するプレジデントサミットにて演奏し、その模
様は全米に中継された。
98 年 3 月、サイラス・チェスナット トリオに抜擢され、タングルウッド音楽祭、ニューヨーク・タウンホール
公演、ヨーロッパ公演、ブラジル公演、カラムーア・ジャズフェスティバル、JVC ジャズフェスティバル、ニュ
ーヨークのジャズクラブの老舗であるヴィレッジ・ヴァンガード、 ブルーノートニューヨーク、ブルーノート
東京公演等を行った。
99 年 11 月、ウイントン・マルサリスのカルテットでのハーレム野外コンサート、ジャズ@リンカーンセンタ
ーとチェンバー・ソサエティとのコラボレーションコンサートに参加。
2000 年 4 月、渡辺貞夫カルテットツアー2000 に参加、5 月にニューヨークのジャズクラブにて、小曽
根真とのデュオライブを行う。その後サイラス・チェスナットトリオの日本ツアー、アメリカ国内でのジャズフ
ェスティバルでの演奏、7月には椎名豊トリオのレコーディングに参加し、椎名豊トリオで日本国内ツアー
を行った。
同年 10 月にはニューヨークにて小曽根真プロデュースによる、自己のリーダーアルバムのレコーディ
ングを行い、2001 年 2 月、リーダーアルバム『ディヴァイン』を発表する。3 月に小曽根真とデュオ・ツアー
を行った。
2001 年秋、ウイントン・マルサリス・セプテットのメンバーとして、東海岸のツアーに参加。12 月、中村健
吾バンド(池田篤、野本晴美、高橋徹)で日本公演を行った。
2002 年 2 月、2 作目のリーダーアルバム『セイ・ハロー・トウ・セイ・グッバイ』を発表。 春の日本ツアー
― 120 ―
教材開発
では全国 21 カ所で公演し、好評を得る。共演者に、ウイントン・マルサリス、サイラス・チェスナット、ベニ
ー・ゴルソン、マル・ウォルドロン、 ロイ・ハーグローヴ、アントニオ・ハート、ダコタ・ステイトン、マーカス・プ
リンタップ、ラッセル・マローン、ベニー・グリーン、ウエス・アンダーソン、シャーマン・アービー、デューイ・
レッドマン、アニタ・ベイカー、ハーリン・ライリー、渡辺貞夫、伊藤君子、小曽根真、増尾好秋、椎名豊、
大坂昌彦、大西順子、 土岐英史、川嶋哲郎、山田穣、多田誠司、原朋直、江藤良人、香取良彦、向
井滋春、ケイコ・リー、荒巻茂生、池田篤、高橋達也、寺井尚子。
第 52 回スイングジャーナル誌の日本ジャズメン読者人気投票に於いて昨年に引き続き、ベース部門
第1位、コンポーザー・アレンジャー部門第10位を獲得。
*参加アルバム
椎名豊/HAPPY TO SWING (BMG)
川島哲朗/BURNIN' FOUR NIGHTS(King Record)
マル・ウォルドロン/KLASSICS (Tokuma Japan Communications)・
ジャズ・ネットワークス/IN THE MOVIES (BMG)
Michio Imazato/ Gentle Rose (What's new records)
Home for Holidays/ Broadway Care (Centaur Entertainment)
Blues for Ragged Lion/ Bob Feldman (Reuvane Records)(2002 年5月現在)
② 中村健吾2作目リーダーアルバム『Say Hello To Say Goodbye』解説(中川ヨウ著)より
人生は計画通りにいかないところに起きるドラマだ、と言ったのは誰だったか。ニューヨークに現在住
んでいる中村健吾は、2001 年 9 月 11 日から今作のために作曲に没入する日々を過ごすプランを立て
ていたが、その日に多発テロ事件が起こり、今までの彼の音楽人生の中で初めて楽器を手にすることも、
音楽を聴くこともない1週間を過ごした。が、ジュリアーニ市長の「テロに屈することなく、日常に戻ろう」と
いうスピーチを契機に音楽という日常に戻った中村健吾は、願いを込めて<ホープ>を書いた。アルバ
ムではベース・ソロで演奏されたこの曲、そこでのベースは口数少なく、その訥々とした語りの中に中村
健吾の当時の深い痛みを感じた。次にこの事件を発端に、戦いが起こるかもしれないという時期に作曲
されたのが、緊張をはらんだ曲想の<ホエア・クライシス・スピークス>だった。警告のように鳴り奏される
トランペットにドラムのハイハットが疾走感を加え、ピアノがその意を汲んだコードとソロで一層スリルを増
しながら、クライマックスへとなだれこむ。そこに中村健吾のベースは、音楽のファウンデーションとして存
在していた。
③
「中村健吾バンド全国ツアー・ライブ・イン・小清水
2002 年 4 月 4 日」MCより
<『ホープ』について>
10 月の終わりにレコーディングがあったんです。今これから皆さんに買っていただこうと思っている2枚
目のアルバム(笑)、を作曲していたんですよ。で、9月にちょうどあと2、3曲仕上げないと曲数が足りない
と思っていた矢先に、あの、ニューヨークのワールド・トレード・センターの悲しい事件が起きました。ぼくは、
もう、ほんとになにも、作曲する気力とか、楽器をさわる気持ちになれなくて、テレビジョンの前でオロオロ
してるばっかりだったんですね。あの時のことを思い出すと。
その時、いっぱいたくさんの人が亡くなって、ジュリアーニ前ニューヨーク市長が、「テロには負けずに、
ニューヨークのみんなには、もとの生活に戻ることをすすめる、早くそういうふうにしよう」というテレビでメッ
セージを伝えたところ、ぼくは、「あ、そうか」と思って、「そうだ、ぼくは、音楽しかできないから、音楽で曲
― 121 ―
思いや願いを意欲的に表現する子
をつくって、その時に起こった悲しい事件を伝えなきゃいけない」と思って、その曲を書きました。
この前広島で演奏した時に、ちょうど広島で、一番高いビルディングがあるんですけれど、そこで演奏
した時に、そこがちょうど一番高いといっても、23 階だったんですね。広島は背の低い小さな街なので市
内がずっと見下ろせて夜景がきれいだったんですけれども、ワールド・トレード・センターというのは、100
階なんですよ。100 階っていうと、その広島の市内を見渡せる5倍ぐらいの高さのビルディングなんですよ
ね。で、これのまだ5倍のビルディングが、2本いっぺんに無くなって、ぼくは何回かこの現場に足を運ん
だら、やっぱりもう・・・。
そうですね、後楽園球場ぐらいおっきい敷地の二つ分ぐらいが、もう、ゴボッと穴があいていて、やっぱ
りそこ、24 時間、ずっとあれ以来作業をしていて、作業をしているコントラクションの建築現場の方がやっ
てらっしゃるのですが、いまだにまだ人がその下に埋まってたりして・・・。
ぼくたちは、もう、それを見た時に、すぐやっぱり涙が出てね、空気がすごく悲しいんですよね。あの街
の今。でも、そのまわりのニューヨークの市民は、今、ほんとに立ち直って、なるべく早く元気になろうと、
今はもう、そのまわりは悲しいんですけど、ブロードウェイ・ミュージカルや野球、音楽、そういうエンターテ
ィメントは、どんどん今、世界各国から帰ってきて、今まで通りのニューヨークになっているんですよ。です
から、今、みなさん、時間があるとか、行ってみたいと思う方は、近所の旅行社さんに電話して、一回行っ
てみたらいいんじゃないかと。もうだいぶ元気になってきてますので。
先程話はそれましたけど、広島で演奏した時に、広島っていうところは、平和を発信しているところだ
から、こういうところで、今ぼくのこれから演奏する『ホープ』という曲なんですが、それを演奏することはす
ごく意義のあることだなと。いつまでもことあるごとに平和のメッセージを世界中に発信していきたいと思っ
ております。この曲は、2001 年の9月のワールド・トレード・センターのあとにすぐつくりました。『ホープ』と
いう曲です。
<『ホエア・クライシス・スピークス』について>
『ホープ』のすぐあとにつくった曲です。時期的には、アメリカが、もしかしたらアフガニスタンと戦争を
するかもしれない。ビンラディンを捜せっていう感じの時だったんで、いまだにまだ彼は見つかっていない
んですけれど、アメリカってほんとに、日本からたぶん見たら、今すごい戦争をしている国だと思われてい
るんですが、ニューヨークの市民のレベルからしたら、戦争反対っていうのが、みんな、アーティストもそう
だし、一般市民というのは戦争は全然やりたくないと思っているはずなんですね。で、その時、ぼくたちも、
「ああ、やっぱり、もうすぐ戦争が起きるんだ」という話になって、ぼくの頭の中に、その緊張感のメロディー
がぎゅうっと出てきて、それを楽譜に書き留めたら、こんなふうになりました。いろんな人間は、その緊張
感というか、人間の摩擦というときに、たぶんこのへんからビビビッと緊張の尖ったなにかエネルギーがた
ぶん出ると思うんですけど、たとえば言い争いをした時とか、そのすごい緊張感のある曲がこういうふうに
生まれました。
― 122 ―
教材開発
④
Richard Montgomery High School『PEACE for EVERYONE』より
September 11, 2001
Kalvin Lee
Today I speak of hatred,
And for those that do not know,
Hatred is a disease,
Whose danger is untold.
You can do as you please,
Be happy, be playful,
Just don’t use hatred in your everyday deeds.
Two towers used to stand,
In New York City,
All so grand.
Then an act of hatred,
Terrible, an act so cold,
Struck the twin towers,
As our story begins to unfold.
Two hijacked airplanes,
Hatred in the air,
All phones are ringing
Thousands of Americans in despair.
Another plane flew into the pentagon,
One in each huge tower.
Thousands were killed,
Do you understand the hatred’s power?
Many people mourned and grieved,
For their loved ones were gone.
Some people were really relieved,
For their loved ones were at their doorstep.
We shall never forget this terrible day,
For the thousands that died and their families.
⑤
2001 年9月 11 日
Kalvin Lee
今日、私は、憎しみについて話す
知らない人々のために話す
憎しみは、病気である
誰の危険かは告げられない
あなたがうれしいとき、あなたがすることができる
幸福で、楽しい
あなたの毎日の行動で憎しみを使ってはならない
2つのタワーが以前はそびえていたものだった
ニューヨーク市に
とても雄大に
そのあと、憎しみの行為
ひどい、とても残虐な行為
ツインタワーを襲った
というように私たちの話が始まる
ハイジャックされた2機の飛行機
空中の憎しみ
すべての電話は鳴り響いている
絶望の中の何千人ものアメリカ人
他の飛行機がペンタゴンに飛んだ
それぞれの巨大なタワーの一つ
何千人もの人々が殺された
あなたは憎しみのパワーがわかる?
多くの人々が嘆き、深く悲しんだ
愛する人たちが亡くなったから
本当にほっとしていた人たちがいた
というのは、愛する人がドアステップに帰ってきたから
私たちは決してこのひどい日を忘れない
亡くなった何千人と彼らの家族のために
グラウンド・ゼロに表された人々の思いや願い
<花>
― 123 ―
思いや願いを意欲的に表現する子
<壁に書かれたメッセージ>
<修理中のビルに掲げられた
メッセージ>
The human spirit
is not measured
by the size of the
act, but by the size
of the heart.
人間の心は、どれだ
け行動をしたかとい
うことによっては測
れない。測れるのは、
心の大きさによって
測ることができる。
― 124 ―