2011年7月:日米欧競争法(独占禁止法)に関する最新情報(PDF)

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July 2011
2011 年 7 月:日米欧競争法(独占禁止法)に
関する最新情報
日本企業は、徐々に東日本大震災の影響からの立ち直りを見せ、国内では勿
論、国外においても、従来どおりの積極的な事業進出・展開を再開しつつあ
る。こうした状況下において、近時、国内外で事業を推し進める日本企業を
取り巻く環境に変化を及ぼす可能性のある、国内外の競争法に関する話題が、
日々新聞を賑わせている。
日本では、従前の企業結合審査手続において重要な役割を果たしていた事前
相談手続が廃止され、平成 23 年 7 月 1 日以降、新しい企業結合審査手続及び
審査基準が施行されることになった。
米国では、本年 7 月 7 日、企業結合に係る届出等を規律するハート・スコッ
ト・ロディノ(HSR)法に基づく届出様式が変更されることが公表された。
他方、欧州では、本年 7 月 12 日、一般裁判所(the General Court)が、ガス絶
縁開閉装置カルテルにおいて、日本企業に対し多額の制裁金の納付を命じた
欧州委員会の決定を取り消す旨の判決を言い渡すに至った。
本稿では、以下において、こうした日本、米国及び欧州の競争法に係る近時
のトピックを紹介する。
日本:
平成 23 年 7 月 1 日に施行された新しい企業結合審査
手続及び審査基準(パブリックコメントの公表結果を
踏まえて)
公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、平成 23 年 6 月 14 日、同年 3
月 4 日より募集していた企業結合審査手続及び審査基準の見直し案に対する
パブリックコメントの結果を公表した。これに伴い、同年 7 月 1 日以降、見
直し後の新しい企業結合審査手続及び審査基準が施行されている。
今回の改正の概要や新しい審査手続の全体像については、平成 23 年 3 月 11
日付けクライアントアラートで紹介したとおりであり、大枠において変更は
ない。そのため、以下では、同年 6 月 14 日に公表されたパブリックコメント
に対する公取委の回答(以下「パブコメ回答」という。)、最終的に内容の
確定した私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六
条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則(以下「届出
規則」という。)の一部改正、「企業結合審査の手続に関する対応方針」
(以下「手続対応方針」という。)の策定、企業結合審査に関する独占禁止
法の運用指針(以下「企業結合ガイドライン」という。)の一部改正(以下、
係る一連の改正を総称して「本改正」という。)の内容に照らし、本改正の
ポイントを紹介しつつ、本改正により導入された新しい審査手続及び審査基
準が今後の届出実務に及ぼす影響等について、若干の考察を加えたい。
1.本改正のポイント
(1) 企業結合審査手続の見直し
A.届出前相談
本改正により、「企業結合計画に関する事前相談に対する対応方針」
(平成 14 年 12 月 11 日公正取引委員会)に定める事前相談制度(以下
「事前相談制度」という。)が廃止されたが、これに代わり、届出前に企
業結合届出書(以下「届出書」という。)の記載方法等に関する相談を任
意で行なえることが明らかにされた(以下「届出前相談」という。)。係
る届出前相談では、従前の事前相談とは異なり、企業結合計画に関する独
占禁止法上の最終的な判断を示すことが予定されていないことについては、
本年 3 月 4 日時点で公表された見直し案において既に明らかにされていた 1
が、具体的に相談可能な事項の範囲については必ずしも明らかにされてい
ないところであった。
これに対し、今回、本年 6 月 14 日に公表されたパブコメ回答により、
係る届出前相談の制度において当事会社が公取委側に相談できる内容の範
囲が、ある程度明らかになった。
<届出前相談の相談事項の範囲 2 >
相談事項に含まれる
・ 届出書の記載方法
・ 一定の取引分野に関する考え方
相談事項に含まれない
・ 独占禁止法上の問題の有無
・ 禁止期間の短縮の可否
・ 問題解消措置の適不適
1
平成 23 年 3 月 4 日付け「企業結合規制(審査手続及び審査基準)の見直し案に対す
る意見募集について」2 頁
2
パブコメ回答の内容を前提にしても、届出前相談において、審査対象たる結合関係の
有無、届出後に検討対象となる論点の絞り込み、競争の実質的制限に係る各判断要素
(商品の差別化の程度、輸入圧力の有無、隣接分野からの競争圧力の有無、当事会社
の業績等)についての意見等、企業結合計画に係る独占禁止法上の適法性判断の前提
となる各事項についての相談が可能か否かについては、依然として明らかでなく、今
後の運用の中で明らかにされていくことと思われる。
2
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パブコメ回答の公表により、公取委は、届出前相談において独占禁止法
上の判断を回答することがなく、届出書の記載方法に関する相談に応ずる
旨を改めて明らかにした。また、これに関連して、禁止期間の短縮の可否
についても、届出前相談における相談事項に含まれないことが確認された
(パブコメ回答 9 頁)。
他方で、上記届出書の記載方法等に関する相談にあたっては、単なる届
出書の記載の形式面に係る指導を行うにとどまることなく、例えば、一定
の取引分野に関する公取委の考え方について、必要な情報を当事会社から
聴取するなどした上で、企業結合ガイドライン及び過去の事案で示した考
え方に照らして、当該時点での情報に基づき可能な範囲で説明を行うこと
が従前の見直し案の公表時点で明らかにされていた(平成 23 年 3 月 4 日
付け「企業結合規制(審査手続及び審査基準)の見直し案に対する意見募
集について」1 頁以下)。ただし、届出前相談に対する説明として紹介し
た過去の事案における市場画定が、相談の対象となっている事案にあては
まるとは限らず、別の市場画定を行う場合もありうる点の示唆がなされて
いることに留意が必要である(パブコメ回答 8 頁)。この点についての考
察については、以下 2(2)において述べるとおりである。
B.公取委による論点説明並びに当事会社による意見書及び資料の提出
第 1 次審査及び第 2 次審査の実施期間を通じて、公取委は、当事会社か
らの要求があった場合又は必要と認める場合において、企業結合審査に係
る論点等について説明を行う。また、当事会社からは、こうした論点等の
説明の要求のほか、意見書及び資料を提出することができる。
上記、公取委から説明を受けられる「論点等」の範囲については、当該
時点における審査の状況、今後行われる審査の内容・範囲、想定されるス
ケジュールが含まれることが明らかにされた(パブコメ回答 10 頁)。ま
た、第 1 次審査期間中に要請があれば、報告等の要請の予定、すなわち、
第 2 次審査に移行する可能性の有無・程度についても、公取委から説明を
受けられることが明らかにされている(パブコメ回答 13 頁)。
C.審査に係る事案の公表
平成 23 年 3 月 4 日の見直し案の公表時点で、第 1 次審査において、届出
会社の提示する問題解消措置を前提に独占禁止法上問題ないと判断された
事案等、他の事業者の参考となる事案が、公表されることについては、既
に明らかにされていた。そして今回、新たに、公表に係る方針がある程度
具体的に示されるに至った。すなわち、第 1 次審査で終了した事案のうち、
①第 1 次審査の段階で届出会社が問題解消措置を採ることを前提に公取委
が独占禁止法上問題ないと判断したものについては、事業者の秘密を除き
全件を公表する方針であること、②問題解消措置が前提となる場合以外で
あっても、他の会社等の参考となる事案について公表する方針であり、例
えば、年度ごとの全件名の公表が検討されていることが示された(パブコメ
回答 12 頁)。
第 2 次審査に移行すると、報告等の要請を行った時点で当該事実が公表
されてしまうことは、見直し案の公表時点で明らかにされていたとおりで
ある。ただし、当該公表の案文について望まない部分があるか否かについ
ては、事前に届出会社に確認されることになる(パブコメ回答 12 頁)。
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D.届出書の取下げ及び再提出の可否
第 2 次審査への移行を回避する手段として、届出会社が届出書を一旦任
意に取り下げた上で再提出可能であることが明らかになった(パブコメ回
答 9 頁)。係る取下げ及び再提出は、後述するとおり、今後の届出実務に
おいて、第 2 次審査への移行を回避するために当事会社が採り得る重要な
手段として位置づけられる可能性がある。
E.報告等の要請回数
第 1 次審査において問題なしとの判断に至らない場合には、法律上、届
出受理の日から 30 日を経過するまでに公取委が報告等の要請を行うこと
になる。この点、公取委のなす報告等の要請に関し、独占禁止法上、回数
の制限は設けられていないが、届出受理の日から 30 日を経過した後に新
たな報告等の要請を行うことはないため、実際の運用としては、報告等の
要請は通常 1 回になると考えられることが明らかになった(パブコメ回答
13 頁)。
F.企業結合審査終了時の通知
本改正により、審査の結果、独占禁止法上問題がないと判断する場合に
おいては、排除措置命令を行わない旨の通知を行うこととなった。また、
第 2 次審査の結果、排除措置命令を行わない旨の通知をする場合には、当
該企業結合が独占禁止法上問題ないと判断した理由を書面により説明する
旨が手続対応方針に明示されることとなった(手続対応方針 6(3)ア、パブ
コメ回答 15 頁)。
G.その他
禁止期間(届出受理の日から 30 日を経過するまでの期間)の短縮申請
については、従前、企業結合ガイドライン上、①「一定の取引分野におけ
る競争を実質的に制限することとはならないことが明らかな」ことのほか、
「禁止期間を短縮することについて合理的な理由がある」ことを要件とし、
これを原則として認められる旨が定められていた。しかし、本改正により、
①のほか、②「禁止期間を短縮することについて届出会社が書面で申し出
た場合」には禁止期間の短縮が認められることとなり、要件が緩和された。
(2) 企業結合審査基準の見直し
A.東アジア等も国境を越えた地理的範囲になりうる点が明示される
一定の取引分野の地理的範囲において世界市場が認定される場合の例示
が新たになされたことは、3 月 11 日付けクライアントアラートで紹介した
とおりであるが、国境を越えた地理的範囲の確定が世界市場に限られない
ことを例として示すために、本改正では、地理的市場の範囲について、
「世界」から「世界(又は東アジア)」に修正されることとなった(企業
結合ガイドライン第 2、3、(2))。
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B.需要者からの競争圧力を明記
本改正において、需要者からの競争圧力について、「当該商品の需要が
継続的構造的に減少しており、競争者の供給余力が十分である場合には、
当事会社グループの価格引上げに対する牽制力となり得る。」等の記載が
追記され、需要が減少している場合に需要者からの競争圧力が考慮される
ことが明確になった(企業結合ガイドライン第 4、2、(1)オ・第 4、2、
(4)・第 4、2、(5)③、パブコメ回答 24 頁)。
C.業績不振等と考えられる場合の例示が追加
企業結合ガイドラインにおいて、業績不振等と考えられる場合の例示と
して、継続的に大幅な経常損失を計上している場合が追加されたことは、
3 月 11 日付けクライアントアラートで紹介したとおりである。ただし、こ
れらは例示に過ぎず、「大幅な雇用調整を実施しており、現状の雇用確保
を継続的に行うことが困難となっている場合」や、「結合対象事業が 5 期
連続経常赤字又は時価で債務超過等」の場合についても、業績不振等の場
合に該当する場合がありうる点に留意が必要である(パブコメ回答 25
頁)。
D.その他
従前、企業結合ガイドラインにおいて、株式取得につき企業結合審査の
対象となる取引を選定する基準について、株式取得会社の属する企業結合
集団所属の会社が保有する議決権保有比率が 20%以下の場合でも、その比
率が 10%を超え、議決権保有比率の順位が 3 位以内のときは、一定の事情
を考慮した上で、結合審査の対象となりえるとされていた。この点、本改
正により、議決権保有比率が 20%以下の場合には通常結合審査の対象にな
らない場合が多い旨明記された(パブコメ回答 18 頁)。
また、これに伴い、届出書の記載事項についても、従前「届出会社の概
要」として記載することが要求されていた「届出会社の総株主の議決権の
100 分の 10 を超える議決権を保有する株主」及び「届出会社が保有する株
式に係る議決権の数の総株主の議決権の数に占める割合が 100 分の 10 を超
える会社」の記載を不要とする届出規則の改正がなされた(パブコメ回答
5 頁、18 頁)。
2.本改正が企業結合届出実務に及ぼす影響と求められる対応
(1) 実務への影響
今回の企業結合審査手続の改正により、特に従前より、届出に先立って事前
相談を利用し、独占禁止法上の問題の有無を確認することが実務上の対応と
して定着していた、独占禁止法上の問題が生じうる取引(例えば、企業結合
当事会社間において競合する事業分野又は取扱商品が存在し、かつ、合算シ
ェアが相当高い場合や、当事会社が川上・川下の関係に立ち、いずれかの市
場シェアが高い場合等)との関係で、これからの企業結合届出実務は従前と
は異なる対応を要求される可能性が高い。そのため、以下、このような独占
禁止法上の問題を生じうる取引を前提にした実務への影響とこれに対して求
められる対応について述べることとする。
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今回の改正は、端的に言えば、従前正式な法定の審査手続と法律上の制度で
ない事前相談との 2 本立てになっていた審査手続を、法定の審査手続に一本
化したものといえる。その結果、従前、柔軟性を有する一方で迅速性・透明
性を欠き、スケジュールの見通しが立てにくいと批判されてきた事前相談が
運用されていた従前の体制とは異なり、届出後、法定の厳格な期間制限の中
で、審査が行われることとなる。そして、当該期間制限、とりわけ届出後 30
日間という短い期間の中で、公取委は、企業結合計画について独占禁止法上
問題がないと判断するか、又は追加の報告等を要請する判断を迫られること
になる。他方で、届出時に届出書に記載し、又は添付書類として提出するこ
とが求められる情報は、企業結合計画の適法性を判断する資料として必ずし
も十分でない。
このような状況において、公取委は、届出に係る限られた情報を基に、また、
30 日という限られた時間の中で、当該企業結合計画の独占禁止法上の問題点
について検討しなければならないわけであるが、これは非常に困難である。
そうすると、独占禁止法上問題を生じうる事情を孕んだ多くの事案において、
届出書を提出するだけで漫然と過ごしていては、公取委は 30 日の間に独占禁
止法上の問題なしとの判断に至ることができず、多大な情報をカバーする包
括的な報告等の要請を行って第 2 次審査へと突入する可能性が高い。こうし
た事態は、報告等の要請における対応の必要が生ずること、スケジュールが
後ろ倒しにならざるをえないこと、第 2 次審査開始に伴う公表を余儀なくさ
れること、また、排除措置命令の前提となる事前通知を受ける危険に晒され
ること等に照らすと、当事会社にとって望ましいことではない。
(2) 届出前の対応
こうした制度の枠組みを前提とすると、企業結合審査に臨む企業としては、
第一に、企業結合審査を届出後 30 日間の禁止期間で終了させる、すなわち、
当該禁止期間中に追加の報告等を受けないようにしっかり準備をすることが
肝要であるといえる。そのための鍵となるのは、前述の届出前相談の手続の
ほか、意見及び資料提出、公取委による論点整理並びに届出書の撤回及び再
提出の各制度を活用することである。
まず、検討中の企業結合が、上記のような独占禁止法上問題を指摘される可
能性を持つ水準の場合、届出と同時に、意見書及び必要な資料の提出を行え
るよう、届出に先立って、市場画定の見通しを含め、論点を整理し、資料を
収集することが重要である。この際、十分な期間を確保して届出前相談を行
い、単なる届出書の形式面のチェックに止まることなく、当該届出に係る独
占禁止法上の法的問題点において判断の前提となる、結合関係の有無、市場
画定の見通し、セーフハーバーへの該当性等といった諸論点について、公取
委と意見交換を実施することが重要となる。
上記のとおり、パブコメ回答の内容を前提にしても、結合関係の有無等とい
った、企業結合計画の独占禁止法における問題点の前提となる論点について
の相談が、届出前相談の相談事項に含まれるか否か明らかにされていない。
また、市場画定に係る公取委の考え方について相談できることは明らかにさ
れているものの、上記のとおり、審査の結果、届出前相談の際に示された内
容と異なる範囲の市場が最終的に画定される可能性があるとの留保が付され
ている。
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もっとも、企業結合ガイドラインや関連する先例に照らした一定程度具体的
な意見交換が可能である旨明らかにされているし、公取委としても、届出後、
30 日に限られた禁止期間内で、詳細資料提出要請を行う必要があるか否かを
判断する必要があり、また、こうした 1 次審査の中でも求められれば論点の
説明をする必要があることに照らせば、ある程度具体的な意見交換を実施す
ることの有用性は否定できない。このように、届出前の段階において公取委
との間でどの程度具体的な意見交換ができるかという問題については依然と
して不明確な点が多いが、今後の運用の中で明らかにされるものと思われる。
(3) 届出後の対応
届出書の提出と同時か直後に意見書及び必要な資料の提出を行った後、当事
会社としては、公取委からの論点等における説明の制度を利用して、審査の
進捗状況(公取委が報告等の要請を行う可能性の程度を含む)や問題視する
事項を確認し、30 日の禁止期間に、当該取引が独占禁止法上問題ないと認め
られるよう、説明と補充の資料提出を実施することになる。その結果、公取
委から問題点の指摘を受けた場合、第一次的には、問題解消措置の提案によ
り解決が可能か否か、検討することになろう。
しかしながら、上記のように届出前から準備を行っていたとしても、届出後
に、公取委から想定外の問題点の指摘を受けることもあり得る。このような
場合、30 日の禁止期間終了までに、当該問題点に対処する十分な時間的余裕
があるケースは必ずしも多くはないであろう。
そこで、当事会社としては、一度届出書を取り下げ、提示された問題点に対
する説明や資料の提出につき十分な準備を整えた上で、再度届出を行うとい
った対応を検討することになると考えられる。
3.関連する動き(産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法の
改正)
本改正と並行して、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置
法(以下「産活法」という。)の一部を改正する法律(以下「改正産活法」
という。)が、平成 23 年 5 月 25 日に公布され、同年 7 月 1 日に施行された。
同法により、事業者が再編計画の認定を受けた場合であって、適正な競争
が確保されない恐れがある場合として政令で定める場合に該当するとき、事
業所管大臣は公取委と協議するものとするとされている(改正後の産活法第
13 条第 1 項)。
他方で、平成 23 年 5 月 18 日付の公取委の事務総長の定例会見において、
事務総長は、改正産活法により、公取委は独占禁止法審査後に独占禁止法上
の問題の有無や、その根拠を主務大臣に提示することとなるのであって、そ
のような意味で、独占禁止法の審査の途中段階で独占禁止法の違反の有無に
ついて協議をするというものではないと述べており、現在のところ改正産活
法の利用によって審査の迅速化を図ることができるかは不明瞭な部分がある。
そのため、今後、事業所管大臣と公取委の協議がどのような形でなされて
いくのかは実務における制度の定着が待たれるところである。
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米国:
連邦取引委員会(FTC)及び司法省(DOJ)が、ハー
ト・スコット・ロディノ法上の事前届出の様式を改正
1.改正内容
米国の反トラスト当局である連邦取引委員会(以下「FTC」という。)及び
司法省(以下「DOJ」という。)の反トラスト部は、ハート・スコット・ロ
ディノ法(以下「HSR 法」という。)に基づき、企業結合に関する届出義務
を負う会社に対して報告を求める情報において、重大な改正を行った。
過去の売上高や証券取引委員会(SEC)に対する直近の報告など、一定の情
報については報告が不要とされた一方で、当該企業結合並びに取得者の関係
会社(associate)に関する情報及び資料という新しい項目が届出様式に追加さ
れた。
新様式は、届出の段階から、対象会社及び取得者との間の(潜在的な)競争
上の重なり合いに関するより詳細な情報を反トラスト当局に対して提供する
ことを目的としている。新様式の下、届出を行う会社にとっては、情報及び
資料収集に要する時間と費用が増加することが予想される。
上記の改正は、本年 7 月 7 日に公表されているところ、連邦官報に新ルール
が掲載された日から 30 日後に発効することとなる。
2.改正の影響
HSR 法に基づき、事前届出時に提供すべき情報及び書類が追加されたことに
より、届出の準備に要する負担が増加する可能性がある。
まず、改正により取得者・対象会社ともに議決権保有割合が 5%以上 50%未
満の会社(北米工業分類コード(NAICS コード)システムに基づく分類に重
複がある場合に限る)に関する情報の提供が求められることとなった。
次に、関係会社(associate)に関する情報の情報提供が必要となるが、これは、
特に、エネルギー分野におけるMaster Limited PartnershipやPrivate Equity Fund
がこれに該当する 3 。「関係会社(associate)」とは、取得者と共通の経営管理
(management)下にある会社、取得者の投資決定や運営について指示する権
利を有する会社、又は投資決定及び運営が取得者によって指示される会社の
ことをいう。
本改正前は、原則として、届出会社が 50%以上の株式を保有する「被支配会
社(controlled)」のみの情報提供が求められていたが、改正後は、以上のとお
3
当局としては、Master Limited Partnership や Private Equity Fund の形態に限定するべき
とのコメントに対して、新たな形態の出現の可能性を理由に係る限定はしないとの立
場であるが、基本的には Management Agreement 等により投資判断や事業経営について
の権限を株主に付与しているような場合を想定しているものと思われる。
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り、取得者は、少数持分を含めた投資持分及び(関係会社(associate)が対象
会社と同類事業を営む場合には)“associate”の事業に関する情報の提供を
求められることとなる。
売上高や少数持分など、関係会社(associate)から収集することを求められて
いる情報は、結合関係が強くなく又は比較的新しい場合には、入手が困難で
あることも予想される。例えば、取得者の投資持分は頻繁に変わる可能性が
あるところ、取得者が、必ずしも関係会社(associate)又は関係会社
(associate)の少数持分をコントロールしているわけではないことからすると、
必要な詳細情報が、取得者にとって入手困難又は不可能である可能性がある。
関係会社(associate)に関する情報の提供以外にも、届出に際して、インフォ
メーション・メモランダムや投資銀行によるプレゼンテーション資料など対
象事業(会社)に関する書類を収集し提供しなければならないこととなる。
また、当該企業結合の競争上の効果の評価と関連性があるかどうかに関わら
ず、当該企業結合により実現が見込まれる効率性又はシナジー効果に関する
分析を提出しなければならないこととなる。
以上に加えて、アメリカ国外で製造する製品のうちアメリカ国内の消費者に
販売するものに関する具体的な情報の記載が求められることとなった。北米
工業分類コード(NAICS コード)システムに基づくアメリカ国外の活動から
生じる売上高という分類を要求する今回の改正は、特に、HSR 法による届出
を行ったことのない米国外の会社にとっては、負担となることが予想される。
3.留意点
以上の点を踏まえ、HSR 法に基づく届出義務の生じる企業結合を考えている
会社は、以下の点に留意する必要がある。
・ 広範囲の売上データ及び書類の収集が必要となることから、届出の準備
のための時間を十分にとること
・ エネルギー産業における Master Limited Partnership のように general partner
が共通する Private Equity Fund や limited partnership が当該企業結合に関与
する場合は、当該企業結合により関係会社(associate)を通じた競争上の
影響について早期に評価・検討すること
・ 当該企業結合に関連する書類の内容のチェックや準備を入念に行うこと
こと
・ HSR 法上の届出の準備を迅速に行うため、少数持分を有する会社の範囲
及び活動内容について把握すること
4.まとめ
HSR 法に基づく届出様式の変更の影響は小さくない。提供情報の増加により、
米国当局による調査がなされる可能性及びその範囲が増大する可能性がある。
そのため、HSR 法に基づく届出の準備に係る当事者の負担は増加するものと
予想される。
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欧州:
一般裁判所、日本企業に対し多額の制裁金の納付を
命ずる欧州委員会の決定を取り消す(ガス絶縁開閉
装置カルテル)
1.概要
2007 年 1 月 24 日、欧州委員会(the European Commission)は、複数の日本企
業を含む電機メーカー各社に対し、1988 年ごろからガス絶縁開閉装置を巡り、
各社が連絡をとりあって割当数量比率で受注できるよう調整し、最低価格を
決定したほか、各社の販売市場を棲み分ける旨の合意を行う等の国際カルテ
ルを実施していたとして、共同行為を規制するEC条約 81 条 4 等に違反する
と認定し、合計約 7 億 5000 万ユーロ(約 840 億円)の制裁金の支払いを命ず
る決定を行った。
これに対し、当該決定を受けた日本企業各社は、これを不服として、欧州第
一審裁判所(the Court of First Instance) 5 に対して提訴した。
2011 年 7 月 12 日、一般裁判所は、上記不服申立てを行った三菱電機株式会社
(以下「三菱電機」という。) 6 及び株式会社東芝(以下「東芝」という。)
との関係 7 で、欧州委員会が発令した上記決定を取り消す旨の判決を言い渡し
た。
2.裁判所の判断
裁判所は、判決において、欧州委員会の決定を無効として取り消すに至った
理由として、同決定が、制裁金の算定にあたって、合理的な理由なく平等原
則に違反した点を指摘する。
すなわち、上記欧州委員会の決定においては、欧州企業に対して、2003 年の
売上を基礎として制裁金の金額が算定されていたのに対し、日本企業に対し
ては、2001 年の売上を基礎に制裁金の金額が算定されていた。欧州委員会は、
このような変則的な制裁金の算定手法を用いたことについて、三菱電機及び
東芝が、2002 年以降、両社の合弁により設立したティーエム・ティーアンド
ディー株式会社(以下、「TM」という。)に問題とされるガス絶縁開閉装置
4
現EU機能条約(Treaty of the Functioning of the European Union)101 条に相当。
5
なお、欧州第一審裁判所は、2009 年 12 月 1 日に発効したリスボン条約により、一般
裁判所(the General Court)へと改称されるに至っている。
6
Baker & McKenzie の欧州オフィスに所属する R. Denton、K. Haegeman が三菱電機を
代理した。
7
なお、同事件について同様に欧州委員会から制裁金の支払いを命じられ、提訴して
いた他の日本企業との関係では、一般裁判所は、請求を棄却するか、又は制裁金を一
部減額するに止まる。
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事業を移転しており、欧州企業と同様に 2003 年の売上を基礎として制裁金の
金額を算出するのでは、三菱電機及び東芝の責任割合を制裁金の金額に適確
に反映させることができないからであると説明した。
しかしながら裁判所は、先例 8 を引用しつつ、同等の状況にある者同士が異な
る取扱いを受けることや、異なる状況にある者同士が同等の取扱いを受ける
ことは、このような取扱いを客観的に正当化する事情が存在しない限り許さ
れない、との平等原則を一般的に説示しつつ、本件において、欧州委員会は、
制裁金の算定基礎となる基準年度の選択につき、日本企業と欧州企業との間
で異なる取扱いを行ったと判断した。そして、裁判所は、こうした取扱いを
客観的に正当化する事情の有無について検討し、欧州委員会は、TMの 2003
年の売上を、合弁形成前である 2001 年における三菱電機と東芝のそれぞれの
売上の割合に応じて分割することで、両社の制裁金の算定基礎となる売上を、
欧州企業と同じ 2003 年の売上をベースに特定することができたにもかかわら
ず、欧州企業とは異なる 2001 年度の売上を基礎として算出した制裁金を日本
企業に課したものであり、この点が平等原則に反すると判断した。
以上の結果、三菱電機及び東芝に制裁金の支払いを命ずる欧州委員会の決定
は全部取り消されるに至った。
本件は一般裁判所での判決であり、今後、上級審である司法裁判所に対して
上訴される可能性がある点等に留意が必要である。
以上
弁護士 阿江 順也
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Case T‑311/94 BPB de Eendracht v Commission [1998] ECR II‑1129, paragraph 309
2011 年 7 月:日米欧競争法(独占禁止法)に関する最新情報 ⎜ July 2011
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