総研大 高エネルギー加速器科学セミナーII 素粒子の標準模型を超えて 平成23年 6月 7日 (火) 高エネルギー加速器研究機構 &総合研究大学院大学 西 村 淳 なぜ超弦理論が必要か? 自然界に存在する4つの基本的な力 電磁気力 弱い相互作用 強い相互作用 重力 標準模型 ゲージ場による 量子論的な記述が可能 量子論的な記述が困難 重力の古典論=一般相対性理論 (Einstein 1915) 重力は時空の曲がり具合で表される。 時空そのものを量子論的に扱わなければいけない 超弦理論は、重力も含めたすべての相互作用を 統一的に、量子論的に記述する理論 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) ブラックホールは、量子力学の歴史にお ける水素原子みたいなもの 水素原子の安定性、離散スペクトルの謎 量子力学により見事に説明された (Bohr 1913) ブラックホールの持つ不思議な熱力学的性質 ホーキング輻射(Hawking 1974)など ブラックホールの中心付近は、時空の曲がり方が激しくなりす ぎ、一般相対性理論が破綻。量子効果が重要。 超弦理論により解明 重力(時空)の量子論としての正しさ、 有用性を強く示唆 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) ↑毎日(08.1.20) そのほか日経、朝日、読売、産経、 日刊工業、茨城、CERN Courierなどに掲載 計算に用いたKEKのスパコン(Hitachi SR11000)→ 超弦理論の数値的研究の大きな成果 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) では超弦理論は実証されたのか? 最大の謎は時空の次元 超弦の相互作用が弱い状況で自然に見える 時空の次元は (9+1)次元 何故我々の時空が (3+1)次元 になっているのかが、 自然に説明できていない。 超弦理論のダイナミクスの結果として導けるはず スパコンで解明できるか? 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 目次 一般相対性理論とブラックホール 現在の素粒子模型と超弦理論 超弦理論を使って、ブラックホールの内部を探る 超弦理論における時空次元の謎に迫る まとめと展望 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 第一章 一般相対性理論とブラックホール そもそも重力とは 17世紀 ニュートン 重力 = 万有引力の法則 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 1914~1915 アインシュタイン 一般相対性理論 時空のゆがみ 物質(エネルギー) 物質は、静止していても というエネルギーを持つ。 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 時空のゆがみを検証する 水星の近日点移動 ニュートンによれば楕円軌道のはずが・・・ 重力レンズ効果 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) ブラックホール ~アインシュタイン方程式の解として導かれる時空構造 ホライズン これより中に入ると、 光さえも抜け出せない 質量が極度に集中 シュヴァルツシルト (1915年) 太陽の20倍以上の質量を持った星が重力崩壊することにより生成 銀河中心部分に巨大ブラックホールが存在する可能性 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) ただの「黒い穴」ではなかった! ホーキング輻射(1974年) 何もない真空中でも・・・ ? ? 対生成 温度を持った‘物体’に見える 「ブラックホール熱力学」 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 対消滅 ブラックホールの中には何がある? 熱力学の例 : 磁性体 (無数の原子から成る) 温度 の平衡状態 エネルギー 微視的構造 から決まる ブラックホールの場合、これが何か? 「ブラックホール熱力学」の微視的起源は? 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 一般相対性理論の限界 ブラックホール中心 : 時空の歪みが発散! 曲率半径がプランク長 程度になると 量子効果が無視できなくなる そのような状況で適用可能な重力理論が必要! 超弦理論 ブラックホール熱力学の微視的起源を 解明できるか? 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 第二章 現在の素粒子模型と超弦理論 現在の素粒子の標準模型 力は粒子のキャッチボール 電子 光子 (力の種類) (媒介する粒子) 電磁気力 光子 強い相互作用 (電磁気力の例) 電子 グルオン 弱い相互作用 重力 グラビトン 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 別々の粒子として 扱われている 「粒子」として扱うと、 プランクスケールで破綻 (重力の強さ∝エネルギー) プランクスケールの理論は何か? 細かいスケールを見るには、 高いエネルギーが必要。 c.f.) 2008年9月稼動のLHC→ 相互作用の強さ 強 破綻 力の統一を示唆 弱 電 重 エネルギー 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 超弦理論 ~プランクスケールの理論の最有力候補 弦の振動の仕方で様々な粒子を表す 光子 グルオン など ゲージ粒子 グラビトンなど 重力を含めて、力を統一的に記述 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 「時空」に対する考え方の変革 85年頃 弦の相互作用が弱い場合の研究 10次元時空 : 現実世界(4次元)と矛盾 6次元分、手で丸める (コンパクト化) 95年頃 ポルチンスキー : 「弦の凝縮状態」 点状 ひも状 ・・・一般次元の‘膜’ 膜状 membrane 総称してブレーン 我々は4次元の膜に住んでいる??? 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 第三章 超弦理論を使って、 ブラックホールの内部を探る 鍵は、超弦理論の持つ双対性 超弦理論 ゼロ質量の振動モード 開弦 閉弦 ゲージ粒子、・・・ グラビトン、・・・ ブレーン マルダセナ (’97) 次元の広がりを持つ 開弦/閉弦双対性 グラビトンを放出 ゲージ粒子が伝播 N枚 次元 ゲージ理論 低エネルギー極限 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 曲がった10次元時空 点状ブレーン系に対する「ゲージ・重力対応」 (p=0 の場合) Itzhaki-Maldacena-Sonnenschein N 個の点状ブレーン -Yankielowicz (’98) ホライズン t 1次元 U(N) 超対称 ゲージ理論 10次元超重力理論における 球対称ブラックホール解 有限温度 T ホーキング温度 T ブレーンに局在した開弦の自由度と ホライズンの外側に広がった閉弦の自由度が 解離するような低エネルギー極限をとる。 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) ブラックホール熱力学の 微視的起源を与える のでは? 1次元 U(N) 超対称ゲージ理論の数値シミュ Anagnostopoulos-Hanada- J.N.-Takeuchi, PRL 100 レーション (’08) 021601 [arXiv:0707.4454] この弦の凝縮状態を数値シミュレーション。 そのエネルギーの計算に初めて成功。 ホーキングの理論と一致。 ブラックホール熱力学の微視的起源を 超弦理論により解明 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 超重力理論に対する高階微分項の補正を考慮 Hanada-Hyakutake-J.N.-Takeuchi, arXiv:0811.3102[hep-th] 重力からの予言: 高階微分項から来る補正 傾き = 4.6 モード数の不足に起因するズレ ゲージ理論に基づく計算により見事に再現 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) ゲージ・重力対応は、他にも様々な観点から重要 ゲージ理論 次元 重力理論 10次元 反ドジッター時空 場の量子論(強結合領域) と 古典重力との等価性 「色の自由度」無限大の極限でゲージ理論が解けた 理論面 ’t Hooft(’74)以来の夢が実現 時空は低エネルギーで現れる巨視的な概念にすぎない 「emergent space-time」という思想 ハドロンの低エネルギー有効理論を重力から導出 応用面 酒井・杉本模型(’05) クォーク・グルオン・プラズマの粘性係数を重力で計算 (’01) ブラックホール、ビッグバンの研究 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 第四章 超弦理論における 時空次元の謎に迫る ブレーン自体のダイナミクスを調べる 行列に基づく超弦理論の新しい定式化 Banks-Fischler-Shenker-Susskind (’97) 「行列模型」 石橋、川合、北澤、土屋 (’97) 10個の エルミート行列 もともと弦の伝播しうる10次元の世界に 我々の住む4次元の世界が現れるか? 4D 10D スパコンでシミュレーション 超弦理論を実証できるか? ガウス展開法の結果は、この描像を支持。 (J.N.-杉野 ’01, 川合 et al. ’02) 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 第五章 まとめと展望 まとめ 超弦理論 : 重力を含むすべての相互作用を、 統一的に、量子論的に記述する理論 プランクスケールの理論の最有力候補 ブレインの発見 ゲージ・重力対応、 行列模型 ゲージ理論(行列の自由度)で時空を微視的に記述できる ブラックホール熱力学の微視的起源に対する理解 超弦理論が正しい重力(時空)の量子論である証拠 超弦理論における時空次元の謎 行列模型 (行列を用いた超弦理論の新しい定式化) 10次元時空内のブレーンのダイナミクスから、 4次元時空が現れるか。 スパコンを用いたシミュレーション研究が、強力な研究手段 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 歴史は繰り返す 量子色力学 強い相互作用 自由なクォーク 超弦理論 記述するもの 弱結合のときの描像 (Gross-Wilzcek, Politzer ’73) 格子ゲージ理論 (Wilson ’74) 強結合展開 シミュレーション (Creutz ’80) 強結合も扱える定式化 クォーク閉じ込め ハドロンの性質 示したいダイナミクス 解析手法 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK) 重力を含むすべての相互作用 10次元の世界 (Green-Schwarz ’81) 行列模型 (BFSS,IKKT, ’96-’97) ガウス展開法(J.N.-杉野 ’01) シミュレーション (’08 今日の話) 見えない6次元の謎 素粒子の標準模型の導出 超弦理論の展望 ブレーンに基づく定式化 「時間」の取り扱い方で意見が分かれる。 もっと自然な定式化があるのか? 「ランドスケープ」~サイエンスの限界? 我々の世界は、超弦理論の記述しうる 無数の世界の一つに過ぎないのでは? 宇宙観測、加速器実験との関わり インフレーション、ダークエネルギーを説明できるか? LHC実験から、新しい手がかりは? 素粒子の標準模型を超えて 西村 淳 (KEK)
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