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インターネットマーケティング
中小企業診断士 鐘井 輝
今後の小売業はインターネットを通してのマーケティングに取り組んでいく必要がある。まずインターネットの普
及について今までの経過を整理しておく。
(1)アメリカにおけるインターネット普及の背景
インターネット使用のスタートは1980年代後半、アメリカの大学の研究者が情報交換に使い始め、軍事用に応
用されたのがきっかけであった。同時期大型コンピュータの普及が壁につきあたっていたこともあり、IBMやマイ
クロソフトなどのアメリカ企業は個人用コンピュータに将来をかけていた。
1991年インターネットが商用に開放され、92年から個人でも使われ始めた。96年頃からアメリカの一般家
庭にも広がりだし、98年にはインターネット商取引は約2兆250億円にまで拡大したのである。
2000年時点でのアメリカでの利用者は約7,000万人ともいわれ、新聞・TV・ラジオ・雑誌のマスメディ
アと並ぶインターネットメディアを形成しだした。
当初のインターネットの活用はホームページを閲覧しての企業や団体についての情報の収集やメール利用に限られ
ていたが、やがてチャット(おしゃべり)やグループ間連絡のコミュニケーション手段として使われだしている。
従来より国土の広さという要因からカタログショッピングは普及していた。また買い物時のクレジット決済の日常
的習慣も相俟って今日ではインターネットを通してのオンラインショッピングやオークションが頻繁に行われている
のである。
(2)わが国におけるインターネットの普及
アメリカより2~3年、その普及状態は遅れているといわれているが、わが国においてのインターネット使用のス
タートは1993年であった。当時の利用者は専門的な知識を持つ20代~30代の男性に限られていた。
1998年時点では約1,700万人が利用し、世帯普及率は11%であるといわれている。その内日常的なイン
ターネット利用者は約1,000万人であると推定される。
同時点でのインターネット商取引の金額はパーソナルコンピュータ関連の250億円を含み、約650億円といわ
れる。
1999年の大幅なパーソナルコンピュータ普及の拡大は女性層への浸透が原因であった。今後はインターネット
に接続可能な携帯型コンピュータやiモード機能のある携帯電話などの普及により、パーソナルコンピュータを使え
ない層など今まで以上に幅広い層が手軽に接続できる環境が整うことになる。
以上の要因から2001年のインターネット商取引の金額は約6,000億円と飛躍的に拡大することが予測され
るのである。
(3)従来型マーケティングとの違い
店舗のマーケティング活動は強引なプッシュ型(売り込み)を不要にする活動であり、消費者ニーズに基づいてプ
ル(引きつける)効果を産み出す活動であるとも理解することができる。構成しているのは以下の手段要素である。
a 製品(product)
b 価格(price)
c プロモーション(promotion)
d 立地(place)
インターネットマーケティングにおいて従来型のマーケティングと大きく異なってくるのはプロモーション(
promotion)、立地(place)の手段要素である。製品(product)と価格(price)は現実の取引でもインターネット
上の取引でも変化することはないが、プロモーション方法と立地は変わらざるを得ない。なぜなら商取引においてイ
ンターネット上の取引は時間と場所という制約がないからである。
いつでも、どこでも、誰でも、情報のネットワークへ接続できれば商取引に参加できるのである。
(4)インターネットマーケティング
インターネットは以下の新しい競争環境を実現する。
パーフェクトマーケット
供給側と消費者の情報の不均衡がなくなる
オークション、フリーマーケット、集団購買
パーフェクトコミュティ
自分の空間をどこへでも持っていける
パーフェクトバリュー
地域を越えて情報が流通
巨大なヒットが生まれる可能性
ニッチ価値観のビジネス成立可能性
a インターネットマーケティングの実践
今後は同マーケティグにより24時間顧客への対応が可能となる。インターネットの採用は商圏を拡大し全国レベ
ルの大商圏ビジネスの可能性も生まれてくる。さらに商品の見積もりも容易になり、新たな取引スタイルでの需要の
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創造も期待できる。特に購入金額の高く購入の決定に多くの情報が求められる情報家電にはインターネットでの販売
方法は適していると考えられる。しかし情報家電も含めた家電業界のインターネットを通しての販売額は拡大しても
約10%に止まるとの見方もある。従って実践に当たっては今までの通信販売など既存の販売形態を単にインターネ
ット上に置き換えて行うというのではなく、既存の販売の仕組みや資産を積極的に取り込んでいく必要がある。さら
に顧客のニーズごと、取扱商品ごとにインターネットでの販売、店舗での販売を検討することが必要であり、それぞ
れ効果が大きい方を採用しなければならない。
①目標の設定
インターネットを何のために活用するのかという目標の設定が必要であり、コストをかけて運用をする以上は機能
ごとの具体的な数値目標設定が求められる。
・営業支援機能(商品カタログへの目標誘導率)
・販売支援機能(目標販売金額)
・ファン形成機能(目標会員数)
インターネットマーケティングフロー
目標の設定
↓
ホームページの作成 ↓
ホームページへの誘導 ↓
誘導客の常連化 ↓
効果測定 ②ホームページの作成
インターネットマーケティングは一人一人の顧客と直接のコミュニケーションが可能であり双方向的である。その
ための顧客との出会いの場を作るためにインターネット上にはホームページが必要である。ホームページには魅力あ
る商品や話題性のある商品情報、コンピュータソフトのヴァージョンアップ情報、新製品発売日などが掲載されてい
なければならない。情報家電のワンポイントアドバイスやQ&Aコーナーも欲しい。また、ホームページの鮮度を保
つためには定期的な内容の更新が不可欠である。
誰が見るのか、対象顧客を想定して作成するホームページの機能を明確にしていかなければならない。以下ホーム
ページの機能と代表的な実施項目を述べる。
・広報情報提供機能
店舗・企業PR、投資家向け広報活動(インベスター・リレーションズ)など
・商品情報提供機能カタログ、商品検索など
・営業支援機能
顧客ニーズ収集、見積もり、予約受付、オークション、店舗への誘導など
・販売支援機能受発注、決済など
・ファン形成機能
ファンクラブ、一人一人の顧客用に作り替えた情報発信、購入に応じてサービス内容を変更など
③ホームページへの誘導
想定した対象顧客をホームページへ誘導すことがインターネット上での関係作りの出発点となる。誘導の代表例と
して以下の方法がある。
a マスメディアによる誘導 新聞や雑誌広告、テレビコマーシャルを通じて自店の行うインターネット商取引方法の説明や自店からのインター
ネットでの情報発信を伝えるとともに、ホームページアドレス(URL:インターネットにおける情報の所在地とデ
ータの転送方法を記した文字列)を記載する。
b インターネット広告による誘導
現在マスメディアによる広告費は年間6兆円といわれる。インターネット広告はその1%程度に過ぎないがインタ
ーネット上の広告方法は大きく分けて「バナー広告」と「メールニュース広告」の2種類がある。
・バナー広告
検索エンジン(YHOO!JAPANには1日6,0
00万回のアクセスがあるといわれる)やニュースサイトなどの有力なホームページ上に画像広告を入れる。
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・メールニュース広告
インターネット上に配信されている電子メールマガジ
ンの文中に文章(テキスト)形式で挿入する。
c 有力なサイト(場所)にリンクする
人気のあるサイトや自店の商品に関係の深いサイトへは掲載させてもらう。特に有力サイトがイベントを行うとき
などはイベントに協賛することで、自店のホームページへの集客効果が高まる。
d その他媒体
マスメディアによる誘導と同様に交通広告やパッケージ・チラシ・封筒・名刺・会社案内などへのURLの記載は
可能であり、様々な媒体へのPRが求められる。
④誘導客の常連化
自店を理解してもらう
↓
自店を好きになってもらう
↓
自店の商品を買ってもらう
↓
自店の商品をもう一度買ってもらう
↓
自店の他の商品も買ってもらう
↓
自店を他の人に勧めてもらう
自店のホームページへ誘導した顧客には今後は以下の方向へ発展させていく関係づくりが必要である。
一元客をリピート客に、さらに自店へのロイヤリティがある優良顧客へ、そして自店との良好な関係(リレーショ
ンシップ)を持ち自店を他の人に推奨してくれる推奨客へと途切れなく誘導をしていく。
店舗のコンセプトやポリシー、価値観を顧客はインターネットを通して知ることができる。店舗は平均的な顧客モ
デルを想定して一方的な働きかけをするのではなく、個別に双方向なコミュニケーションを行うことで顧客のライフ
スタイルの提案をも行うのである。
誘導する手順について以下要点を述べる。
a 顧客のデータベース作り
自店のホームページを来訪した顧客の属性データを登録してもらう必要がある。必要なデータは氏名、年齢、生年
月日、性別、住所、家族、趣味、年収などと電子メールアドレスである。顧客とのコミュニケーションを深める過程
では意見や感想などのより詳しいデータを加えていく必要がある。
来訪者の登録率を高める方法に簡単なアンケートとに答えてもらったり属性データを登録することで応募できる「
プレゼント懸賞」がある。この懸賞方式も採用しながら来訪者の登録率を高めていく必要があるが、今後来訪者が登
録した電子メールアドレスに情報発信をする場合は自店から発信するメール受信の承諾を取っておかなければならな
い。
バーチャル(仮想)であるからこそ消費者からの信頼獲得が最も重要な要素である。
b 電子メールの発信
登録された電子メールアドレスに宛てて電子メールを発信する。電子メール発信にあたっては受信者の視点に立
ち、発送の頻度、文章量、内容を吟味する必要がある。店舗と受信顧客との信頼関係の構築を優先させて対応してい
かなければならない。
将来的には個人情報やデータの積み重ねより各個人にとって価値のある最適化した内容を送信することが可能にな
る。これらにより店舗へのロイヤリティは高められることになる。
c 購買金額に応じた優遇政策の採用
すべての顧客を平等に扱うのではなく、よく買ってくれる優良顧客には他の顧客より良い条件を示し、購買金額が
高まるにつれてメリットを高めていく。顧客のランク付けを政策を採用するのである。
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顧客グループ
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安い 良く買う 高い 良く買う
安い たまに買う 高い たまに買う
顧客には高い商品を良く買うグループ、高い商品をたまに買うグループ、安い商品を良く買うグループ、安い商品
をたまに買うグループが存在する。経験則として結果の80%は20%の事象で決まることから、高く良く買うグル
ープへは他のグループより優遇する必要がある。自店へのロイヤリティが高い顧客に報いることが求められるのであ
る。
⑤効果の測定
目標販売金額や目標会員数に対しての実績測定を行い、インターネットマーケティングの改善や改良行う点は従来
のマーケティング管理と同様の過程を経ることになる。しかしインターネット上の広告の効果測定は従来のマーケテ
ィング手法に比べ、安価でスピーディに行える。
具体的には広告ごとのURLのアドレスを変えることで、何の広告を見た結果ホームページを訪れたのかについて
は簡単に測定することができる。バナー広告へのクリックの延べ回数からも広告の効果を容易に把握できるのであ
る。また、資料請求件数でもその効果は確認される。
自店ホームページへの誘導を行うインターネット効果測定から、ホームページ内容そのもの、誘導方法などの改善
と更新を行わなければならない。
小括
以上、インターネットマーケティングを視野に入れた戦略の方向を述べたが、最期に現実(リアル)世界と仮想(
サイバー)世界の両者による相乗効果実現の必要性を指摘して結びに代えたいと思う。
若干視点を変えて歴史を振り返って見ると、かつて経済学者のハンセンはアメリカの大恐慌の教訓から資本主義の
もとで完全雇用を維持するためには最終消費需要と経済の完全雇用生産能力とのギャップをうめるための継続的な投
資支出の必要性を導いた。
そして長期的に投資が発生する要因は3点あるとした。
(1)人口の増加
(2)フロンティアの拡大
(3)技術革新
フロンティアは開拓しつくされ、人口の増加は見込めない状況において継続的な投資支出が発生するためには技術
革新が行われなければならない。
また、一方で19世紀半ばのカリフォルニアのゴールドラッシュ時に群がった多くの人間と業者の中で、結果的に
うまい汁を吸ったのはジーンズのリーバイスと輸送・金融のウェルズ・ファーゴであったという話がある。
簡単な歴史のレビューであるが、現在の技術革新によるIT(インフォメーションテクノロジー)投資及びインタ
ーネット上のビジネスは我々にとって必要不可欠のものなのであろうか。
IT投資により経済全体は活性化することが期待できるがインターネット上のビジネスの恩恵は個別企業の尺度の
上で考える必要があろう。
情報化が先行するアメリカにおいて、全米小売業協会は1999年の消費者に対してインターネット販売された金
額の合計は2兆2,500億円であったと発表している。インターネット販売された金額の全米小売業全体に占める
割合は流通業界へ大きなインパクトを与えている割には少なく、わずか0.4%に過ぎないのである。
また同協会などにより報告された2000年1月の米ネット販売・分野別内訳は
以下の通りである。(日経流通新聞、2000年3月21日付け「サイバー市場」)
2000年1月米ネット販売・分野別内訳
・航空券
・書籍
・コンピュータハード
・コンピュータソフト
・衣料品
・ホテル
・玩具・ゲーム
・音楽ソフト
・ヘルス&ビューティ
・家電
8.1%
8.1%
6.7%
6.5%
5.9%
5.2%
5.1%
5.1%
4.5%
11.4%
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航空券の予約・購入、ホテル、レンタカーを加えた旅行分野が全体の21%を占めている。
上でも見たようにインターネットは新しい経営環境を実現し、新たなビジネスの可能性を産み出す。今までの方法
にこだわらない、柔軟なアイデアがビジネスチャンスを現実のものに変えていくのである。
しかし、小売店には消費者が実際に足を運び商品を実際に見て触れることができるという強みがあることを忘れて
はならない。
商品を探し出す楽しみ、他の商品と比較する楽しみ、選ぶ楽しみ、価格の交渉をする楽しみ、気持ちの良い接客応
対を受ける楽しみが店舗には存在しているのである。
買い物の途中で休憩するための椅子や飲み物のサービスもインターネットには準備されていない。
また消費者と店舗従業員との直接で良好なコミュニケーションは信頼や感謝、今後の期待を築きあげる重要な要素
であり、それは店舗のみに存在しているのである。
大量生産商品や価格競争力のある最寄品の場合、インターネットによらない店舗販売の方が低コストで消費者に提
供できるケースも多い。
消費者からの電話、FAX、既存宅配ルートを使っての受注形態も信頼ある方法として定着している。特に24時
間フリーダイヤルの留守電受注方式は一方通行ではあるが時間の制約はない。
このように多くの角度から客観的にインターネットビジネスをとらえると、インターネットも1つの販売チャネル
であり、店舗とネット両方での集客と活動がともに重要な要素であることが理解できる。
現実(リアル)の世界に軸足を置きながら仮想(サイバー)の価値を取り入れ、相乗効果を産み出すための行動が
今最も求められると考えられる。
大阪市中小企業指導センター、大阪市地域経営動向分析事業報告書「日本橋地域ー中小情報化電器小売業の活性化の
道を探るー」2000年5月執筆原稿から抜粋
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