腐食センターニュース No.016 (1998 年 3 月 1 日) (社)腐食防食協会 No.016( 復 刻 版 )*********************************************************** 腐 食 セ ン タ ー ニ ュ ー ス *********************************************************平 成 10 年 3 月 1 日 酸 性 雨 による屋 外 構 造 物 の腐 食 前橋工科大学建築学科 松島 巖 1 酸性雨による腐食の事例 1) 亜 鉛 め っ き 送 電 鉄 塔 の 腐 食 ( 1) 1 ) ① 山 岳 地 帯 の 亜 鉛 め っ き 送 電 鉄 塔 、 経 年 10 年 。 ② め っ き 付 着 量 : 550g/m 2 ( 76μ m) 以 上 ( JIS H8441) 。 ③鉄塔主脚材を伝わって流れ落ちる雨水の垂れに沿って主脚材が黒く変色。 ④主脚材埋設部が変色したコンクリート表面とその内部を分析。 表 面 部 : Zn:3.6%, 内部: Ca:52.0%, Si:24.7%, Si:35.0%, Fe: 3.9%, S:2.7%, Ca:1.6% Fe:3.8%, S: 0.4% ⑤主脚材を伝わって流れ落ちる雨水の分析。 Cl - :34ppm, Na + :13ppm, SO 4 2 - :5ppm, NO 3 - :2ppm, pH:3.9 ⑥ 亜 鉛 の 黒 変 は め っ き の 7 層 の 腐 食 生 成 物 、 6ZnSO 4 ・4H 2 O と 推 定 。 ⑥ SOx 濃 度 が 低 い 山 岳 地 帯 で あ る に も か か わ ら ず 腐 食 生 成 物 が ら み の コ ン ク リ ー ト 表 面 の S が 極 め て 高 い こ と 、雨 水 の pH が 低 い こ と か ら 、酸 性 雨 が 影 響 し て い る と 判 断 。 雨 水 中 の Cl - も 高 い の で 海 塩 粒 子 の 影 響 も あ る と 推 定 。 2) 亜 鉛 め っ き 送 電 鉄 塔 の 腐 食 ( 2) 2 ) ①亜鉛めっき送電鉄塔の腐食は、特に鉄塔下部に集中しており、墜落防止用の アルミニウム製レールの下で激しい。 ②雨水、亜鉛めっき鉄塔主脚流下水、アルミニウム製レール流下水について、 pH 測 定 ・ 暴 露 試 験 ・ 浸 漬 試 験 を 実 施 。 ③ 場 所 : 神 奈 川 県 茅 ケ 崎 市 。 海 岸 か ら 2km。 暴 露 試 験 : 1995.6~ 1996.3、 浸 漬 試 験 : 21 日 間 、 雨 水 採 取 日 : 1995.3.1、 室 温 。 試 験 材 : 亜 鉛 め っ き 鋼 ( 70×150×32mm)。 こ の 地 域 の 雨 水 の pH は 、 4.2~ 7.6( 1995.4~ 1996.3 の 約 40 点 ) 。 ④結果 pH 腐 食 減 量 ( g/m 2 ) 暴露試験 浸漬試験 雨水 4.6 5 20 主脚流下水 6.7 3 <1 レール流下水 5.3 4 12 ⑤ 結 論:鉄 塔 を 伝 わ っ て 流 下 す る 酸 性 雨 は 亜 鉛 め っ き を 腐 食 さ せ て pH が 上 昇 し 腐食性が下がるが、アルミニウムはあまり腐食しないのでpHの上昇は小さ く、その下部の亜鉛めっきが腐食する。 -1- 腐食センターニュース No.016 (1998 年 3 月 1 日) 3) 亜 鉛 め っ き 鋼 板 屋 根 の 耐 用 年 数 の 短 縮 (社)腐食防食協会 3) 米 国 で の 調 査 に よ れ ば 、雨 の pH が よ り 低 い 東 部 で 亜 鉛 め っ き 鋼 板 屋 根 の 耐 用 年 数 が 中 西 部 よ り 短 い と い う 。す な わ ち 、東 部 : 30 年 、中 西 部 : 40~ 50 年 ( ミ シ シ ッ ピ ー 東 ) 、 50~ 80 年 ( ミ シ シ ッ ピ ー 西 ) 。 4) 自 動 車 塗 膜 の 雨 染 み 4 , 5 ) ① 降 雨 に よ り 、自 動 車 の 塗 膜( ア ク リ ル メ ラ ミ ン 系 )に 直 径 数 mm の 輪 郭 状 の 染 み を 発 生 。 特 に 、 北 米 、 カ ナ ダ 。 米 国 で モ ー タ ー プ ー ル 内 の 新 車 5000 台 以 上 に 一 度 に 発 生 し た 事 例 あ り 5)。 ② 酸 性 雨 に よ り 硫 酸 分 、硝 酸 分 が 付 着 し 、降 雨 後 水 分 が 蒸 発 し て 濃 化 し 、ガ ラス転移点以上の温度でメラミン樹脂にしみ込み、縮合部分の架橋を切断し、 そ の 部 分 が 塩 を 作 っ て 可 溶 ,性 と な り 溶 出 す る た め と い う 5 ) 。 ③塗料メーカーで対策塗料を開発。 5) 鋼 材 の 腐 食 促 進 ( 図 1~ 3) ① 高 度 経 済 成 長 時 代 の よ う に 環 境 大 気 中 の SOx 濃 度 が 高 く 、 酸 性 雨 も 降 る 状況裸鋼材が大きな腐食量を示したことは周知である。 ② 最 近 、 地 上 の SOx 濃 度 は 低 い が 、 広 域 ( 長 距 離 ) 輸 送 さ れ た 酸 性 物 質 が 上空にあるため酸性雨が降るという状況下で腐食が促進されたという明確 な 報 告 は な い が 、 次 に 示 す 古 明 地 ら の 試 験 結 果 6、7)が あ る 。 ③ 古 明 地 ら 6 ) は SOx、 NOx、 Cl - な ど の 大 気 環 境 お よ び 酸 性 雨 の 状 況 が 異 な る関東地方の 9 個所(酸性雨は 4 個所のみ)で環境測定と鋼の暴露試験を 行 な い 、重 回 帰 分 析 の 結 果 、酸 性 雨 の pH の 影 響 が 最 大 で あ る と い う 結 論 を 得 た 。 回 帰 係 数 : H + :1.71>SO 4 : 0.87>沈 積 粒 子 : 0.74>NH 4 + : 0.36>SO 3 : 0.20 -2- 腐食センターニュース No.016 (1998 年 3 月 1 日) (社)腐食防食協会 ④ NOx が 鋼 の 腐 食 を 促 進 す る と は あ ま り 考 え ら れ て い な い が 、SOx+ NOx に 相 乗 作 用 が あ る と 報 告 さ れ て い る ( 表 1) 8 ) 。 ⑤ 詳 細 は 不 明 で あ り 、専 門 的 に 見 て 、事 実 、酸 性 雨 の 影 響 か ど う か は っ き り し な い が 、 文 献 9)に 次 の 記 載 が あ る 。 1) ポ ー ラ ン ド : 「 ク ラ ク フ か ら 65 キ ロ 西 の カ ト ピ ー ツ ェ ま で 汽 車 で 行 く こ と を計画していたら、地元の人が絶対にやめろという。この間の列車の線路 が 酸 性 雨 で 腐 食 し て 危 険 な た め に 、 時 速 40 キ ロ 以 下 で し か 走 れ な い の だ 」 2) 英 国 ヨ ー ク シ ャ ー : 「 1985 年 の ク リ ス マ ス の 4 日 前 に 、 水 道 管 が 破 裂 し て 20 数 万 人 が 断 水 の 被 害 に あ う 騒 ぎ と な っ た 。直 径 1m の 本 管 が 腐 食 し て い た ば か り か 、予 備 の 本 管 も バ ル ブ も 使 い も の に な ら な く な っ て い た 。当 時 は こ の 原 因 が 酸 性 雨 だ と 気 づ い た も の は い な か っ た が 、そ の 後 各 地 で 同 じ よ う な 事 故 が 連 続 的 に 発 生 し て 、ス ウ ェ ー デ ン の 配 管 破 裂( 7 割 が 銅 製 、残 り が 亜 鉛 製 ? ) *の 原 因 が わ か る に つ れ 、 酸 性 雨 の 疑 い が 濃 厚 と な っ て き た 。 英 国 全 土 で は 、 25 万 キ ロ に 及 ぶ 水 道 本 管 ( 大 部 分 は 鉄 製 ) が 走 っ て い る が 、 水 道 水 の 酸 性 化 に よ っ て 、本 管 の 半 分 で 腐 食 が 進 行 し て い る 」( * カ ッ コ 内 は 松島追記) 3) ス ト ッ ク ホ ル ム : 「 13 世 紀 に 建 造 さ れ 、 あ ま り に 傷 み が ひ ど く な っ た た め 1960 年 代 に 取 り 替 え た ば か り の リ ダ ー ホ ル ム 教 会 の 鉄 製 の 尖 塔 が 再 び ボ ロ ボロになっている」 4) 英 国 、 シ ェ フ ィ ー ル ド : 「 酸 性 雨 が 問 題 に な っ て い る シ ェ フ ィ ー ル ド で は 、 非 汚 染 地 域 に 比 べ て 鉄 の 錆 び 方 が 5~ 10 倍 も 速 い 」 5) ア テ ネ : 「 パ ル テ ノ ン の 神 殿 の 大 理 石 に 、 中 の 心 棒 の 鉄 か ら の 錆 で 染 っ て い る 柱 も 少 な く な い 。古 代 の 建 築 家 は こ の 汚 染 を 予 想 し た か の よ う に 鉄 の 部 分には鉛を巻いて腐食を防ぐ工夫をこらしていた。ところが、のちに修 復したときに鉛をはずして鉄をそのまま使ったために、錆がまわって白亜 の 大 理 石 が 醜 い 色 に 染 ま る こ と に な っ た 」 。 ま た 、 別 の 文 献 10)に 次 の 記 載 が あ る :「 ア テ ネ 、ア ク ロ ポ リ ス の パ ル テ ノ ン 神 殿( 大 理 石 )の 崩 壊 防 止 に 補 強 し た 鉄 骨 ( 1837~ 1842 年 お よ び 1900~ 1935 年 ) が 、 現 在 、 腐 食 に よ り 体積を増加させて、大理石のひび割れを生じさせている」 6) 中 国 : 「 重 慶 で は 嘉 稜 江 大 橋 の 腐 食 が 進 ん だ り バ ス や 船 舶 の 傷 み も 加 速 し -3- 腐食センターニュース ている」 6) 銅 屋 根 板 の 腐 食 No.016 (1998 年 3 月 1 日) (社)腐食防食協会 11) ① 仁 風 閣:鳥 取 市 東 町 。明 治 建 築 界 の 三 巨 頭 の 一 人 、片 山 東 熊 設 計 の 明 治 洋 風 建 築 。 明 治 40 年 竣 工 。 重 要 文 化 財 。 ② 1974~ 1976 年 に 半 解 体 修 理 で 屋 根 の 銅 板 を 取 替 え 。 1980 年 代 の 終 わ り 頃 か ら瓦から雨水が垂れる軒先部分と雨樋で穴あき。普通に雨があたる屋根部分 は腐食問題なし。 ③雨水の分析の結果、雨は酸性であり、瓦を流下するとそこに付着していた SO 4 2 - な ど を 溶 か し 込 む た め 腐 食 ` 性 が 激 し く な っ た と 判 断 。 腐 食 生 成 物 は 、 酸 化 第 一 銅 、塩 基 性 硫 酸 銅 の ほ か に 、塩 化 第 一 銅 を 含 む 。な お 、流 下 雨 水 に よ る衝撃腐食も関与していると推定された。 pH SO 4 2 - Cl - NO 3 - 雨水 3.7 8.8 3.7 5.7 瓦流下水 3.7 11.0 4.4 5.5 瓦煮沸水 57 0.6 0.7 0.4 ( 単 位 ppm) 類 似 し た 銅 屋 根 板 の 腐 食 は 、 日 本 銀 行 本 店 本 館 ( 明 治 29 年 ) 、 旧 帝 国 奈 良 博 物 館 本 館 ( 明 治 27 年 ) 、 旧 名 古 屋 控 訴 院 地 方 裁 判 所 区 裁 判 所 庁 舎 ( 大 正 11 年)などについて報告されている 7) 大 村 益 次 郎 銅 像 の 腐 食 1 3 ) 12) 。そのほかに多数の事例がある。 ① 靖 国 神 社 内 ( 東 京 都 千 代 田 区 ) 、 明 治 26 年 建 設 。 ②降水の多く流下する羽織の下の部分、流路が定まっている袖の部分に筋状の 腐食(アシッドライン)。 ③アシッドラインの見られる屋外に立つ銅像、ブロンズ像は多い。例:上野西 洋 美 術 館 ロ ダ ン の 「 考 え る 人 」 。 1959 年 設 置 。 1990 年 頃 に は 背 面 な ど で 腐 食 がめだった。数年前に屋内へ移された。 8) 自 由 の 女 神 の 腐 食 1 4 ) ① 米 国 、 NewYork 港 、 Liberty Island、 1886 年 建 設 。 鉄 骨 の 上 に 銅 板 の 外 装 。 高 さ 151ft ( 台 座 共 で 302ft) 。 ② 1985 年 以 降 、 パ テ イ ナ ( 緑 青 ) に 黒 ず み 。 そ の 他 、 水 侵 入 に よ る ト ー チ の 腐 食 、 銅 - 鉄 の 接 触 に よ る 鉄 骨 の 腐 食 が 激 し く 、 100 周 年 を 前 に 改 修 。 ③ 銅 外 装 の 腐 食 は 0.03~ 0.06mpy( 075~ 1.5μ m) と 普 通 の 値 で あ る が 、 黒 変 部 の パ テ イ ナ の 厚 さ は 正 常 部 ( 数 10~ 100μ m) の 1/2~ 1/10 と 薄 く 、 保 護 性 が 低 下 し て い る 。ま た 、正 常 部 の 皮 膜 は ブ ロ カ ン タ イ ト CuSO 4 ・3Cu(OH) 2 で あ る の に 対 し 、 酸 性 雨 の 影 響 を 示 す ア ン ト レ ラ イ ト CuSO 4 ・2Cu(OH) 2 (pH4 以 下 の 酸性環境でブロカンタイトから生成。安定性が劣り、より溶解性)が存在。 ④同様にアントレライトは、腐食が問題になっている高徳院の阿弥陀如来像 ( 鎌 倉 大 仏 ) か ら も 検 出 さ れ て い る 15)。 9) ゲ テ ィ ス バ ー グ 国 立 軍 事 公 園 ( Gettysburg National Military Park) の 銅 像 -4- 腐食センターニュース No.016 (1998 年 3 月 1 日) (社)腐食防食協会 ① リ ン カ ー ン 大 統 領 の 演 説 碑 を は じ め 大 小 1600 も の 記 念 碑 や 銅 像 が 設 置 さ れ て い る が 、1989 年 頃 、大 理 石 で で き た「 戦 士 の 碑 」は 兵 士 や 大 砲 が 溶 け 、 「 フ ラ ン シ ス・バ ロ ー 将 軍 」な ど の 銅 像 に も ア シ ッ ド ラ イ ン が あ り 、鼻 の な く なったもの、爪先が消えてしまったものなど、無傷の銅像を探すほうが難し い状況にある 9) 。 ② 1986~ 88 年 、 酸 性 雨 降 雨 中 の 銅像などの腐食速度を測定。 16) ③対象物表面を流れた雨水の pHとその中に溶出している 銅 イ オ ン 濃 度 を 測 定 ( 図 4)。 pHが低い方が溶出が大きい 傾 向 が あ る 。 16) ④文化財についての酸性雨の環 境 評 価 方 法 は 確 立 さ れ て お ら ず 、現 状 で は ア ン の分析が数少ない実績のある評価方法である ト レ ラ イ ト の 生 成 、流 下 雨 16) 。 2 酸性雨について 1) 定 義 ① 日 本 : p H 5.6 以 下 。 空 気 中 の 炭 酸 ガ ス ( 353ppm) が 常 温 で 蒸 留 水 中 に 飽 和 し て い る 時 の pH が 5.6。 こ れ 以 下 で は 酸 性 物 質 が 加 わ っ て い る こ と に な る 。 CO 2 + H 2 O=H 2 CO 3 * K 0 =3.16×10 - 2 (25℃ ) K 1 =4.45×10 - 7 (25℃ ) H 2 CO 3 *=H++HCO 3  ̄ K 2 =4.69×10 - 1 1 (25℃ ) HCO 3 - =H++ HCO 3 2 ̄ た だ し 、 H 2 CO 3 *= CO 2 (溶 存 炭 酸 ガ ス )+ H 2 CO 3 (炭 酸 ) ② 酸 性 物 質 は 火 山 活 動 な ど の 結 果 、 天 然 に 存 在 す る の で 、 汚 染 が な く て も pH は 5.2 程 度 に な り う る 。 米 国 の 酸 性 雨 の 定 義 は 5.0 以 下 。 ③ 大 気 中 に は ア ン モ ニ ア 、ア ル カ リ 性 土 塵 な ど が 存 在 す る た め 、pH は 5.6 以 上 に な り う る 。 ま た 、 酸 性 雨 の pH も あ る 程 度 中 和 さ れ た 結 果 で あ り う る 。 2) 酸 性 雨 の 原 因 燃焼 S (化 石 燃 料 な ど ) → 酸化 SOx(SO 2 +SO 3 ) → SO 3 → 雨 H 2 SO 4 (硫 酸 ) 燃焼 N (化 石 燃 料 、 大 気 中 の N 2 ) → SO 2 、 酸化 NOx(NO+NO 2 ) → NO 2 → 雨 HNO 3 (硝 酸 ) NO の 酸 化 は 、 太 陽 光 に よ る オ ゾ ン の 作 用 、 さ び 表 面 の 触 媒 作 用 に よ る。その他、塩酸、有機酸なども酸性雨の原因となる。 3) 日 本 の 大 気 汚 染 と 酸 性 雨 1950 頃 戦後の復興→黒煙・煤煙 1962 煤煙規制法 -5- 腐食センターニュース 1960 代 後 半 No.016 (1998 年 3 月 1 日) (社)腐食防食協会 高度経済成長、自動車普及→硫黄・窒素酸化物汚染 硫 黄 酸 化 物 の ピ ー ク は 1964~ 1970 1967 四日市公害訴訟 1968 大気汚染防止法、亜硫酸ガスの排出規制 1969 二酸化硫黄の環境基準の設定 1970 1970 頃 ~ 公 害 関 係 14 法 案 成 立 硫 黄 酸 化 物 汚 染 鎮 静 化 へ ( 80 年 頃 ま で に レ ベ ル オ フ ) 1973~ 1977 窒素酸化物汚染激化、アサガオの花に白い斑点 酸性霧・酸性雨が目にしみる、のぎの痛み、せきなどの被 害の社会問題 1973~ 環境庁などによる調査。窒素酸化物は増加傾向 1983 石川県で酸性雨の観測、冬期(季節風の時期)に酸性が強 い 。 ( pH は 、 9 月 : 5.3,11 月 ま で 5.0 前 後 、 11 月 下 旬 : 4.6, 12 月 : 4.4.2 月 後 半 : 酸 性 度 合 弱 ま る ) 現在 窒素酸化物は問題。硫黄酸化物は長距離輸送問題 4) 我 が 国 の 酸 性 雨 の 現 状 1 7 ) ① 平 成 元 年 ~ 4 年 度 ( 1989~ 92) 環 境 庁 、 第 2 次 酸 性 雨 対 策 調 査 。 各 地 の 年 平 均 pH は 4.4( 新 潟 )~ 5.9( 宇 部 )で 平 均 4.9 で あ り 、測 定 地 の 82% で 4.5~ 5.1 に入っている。 ②環境白書(平成 8 年度版):「我が国では欧米並みの酸性雨が広く観測され て い る が 、酸 性 雨 に よ る 陸 水 、土 壌・ 植 生 等 へ の 影 響 に つ い て は 、明 確 な 兆 候 は 見 ら れ て い な い 。し か し な が ら 、現 状 程 度 の 酸 性 雨 が 継 続 し た 場 合 、将 来 的 に生態系への影響が顕在化するおそれを否定できないことは欧米の事例から 推定される」 ③ 欧 米 な ど で 行 な っ て い る 一 回 の 降 雨 ご と の 採 取 や 、研 究 的 に 行 な わ れ る 1mm ごとの採取とちがい、一定期間ごとの採取では乾性降下物も混入するので、 他 の 測 定 法 よ り pH が 低 め と な る 傾 向 が あ る と さ れ る 。 5) 諸 外 国 で の 酸 性 雨 の 被 害 ( 金 属 に つ い て は 、 本 稿 第 1 節 参 照 ) ①樹木:針葉樹の枯死。 ②湖沼:魚類の死滅。 ③文化財:青銅製のほか、石灰石(大理石〉系を中心に損傷。 1) ケ ル ン 大 聖 堂 ( 独 ) : 1248 年 か ら 632 年 か け 1880 年 完 成 。 石 壁 の 凹 凸 、 え ぐれ、崩れ。正面天使像の崩れ。 2)ウ エ ス ト ミ ン ス タ ー 寺 院( 英 〉:外 壁 は 19 世 紀 末 改 修 。外 壁 、石 像 に 被 害 。 3) ラ ン ス 大 聖 堂 ( 仏 ) : 13 世 紀 建 造 。 外 壁 の 2600 の 石 像 の 顔 の 形 が 原 形 を と ど め ず 。 1988 年 補 修 。 4) パ ル テ ノ ン の 神 殿 ( ア テ ネ ) : BC5 世 紀 。 崩 壊 の 危 機 ( 補 修 ) 。 5) ス フ イ ン ク ス ( エ ジ プ ト ) : 石 灰 石 の た め ボ ロ ボ ロ 。 ④石造、コンクリート造の構造物の損傷。 6) 金 属 の 腐 食 と 酸 性 雨 -6- 腐食センターニュース No.016 (1998 年 3 月 1 日) (社)腐食防食協会 ① 亜 鉛 : pH 低 下 で 腐 食 ・ 溶 解 が 顕 著 ( 図 5) 1 9 ) 。 ② 鋼 : ( 1 ) 基 本 的 に は 、pH4 程 度 ま で は あ ま り 影 響 を 受 け な い ( 図 6) 2 0 ) ( 2 )大 気 中 の SOx は さ び 層 に ネ ス ト を 作 り 、 さ び 層 の 保 護 性 を 低 下 さ せ る こ と を 通 じ て 腐 食 を 促 進 す る ( 図 7)。 ( 3 ) SOx は 低 く 雨 が 酸 性 の 場 合 、 腐 食 が 促 進 さ れ る か ど う か 現 状 で は デ ー タ 不 足 で あ る が 、 促 進 さ れ る と す れ ば そ の 機 構 は 、 pH 自 体 に よるのかネストの増加によるのか検討が必要。 ③銅:(1)酸素によって腐食しうるが、中性では保護皮膜が防食する。 ( 2 ) pH が 低 下 す る と 、 酸 は 銅 に は 作 用 し な い が 保 護 皮 膜 を 溶 か す た め、 酸 素 に よ る 腐 食 が 生 じ る ( 図 8) 8 ) 。 -7- 腐食センターニュース No.016 (1998 年 3 月 1 日) (社)腐食防食協会 引用文献 (1)柳 勢治、矢嶋 ( 19 94 ) ( 2 ) 柳 望 : 送 電 鉄 塔 基 礎 部 に お け る 大 気 腐 食 の 事 例 、 腐 食 防 食 、 ’94 B-303 勢治、松岡春夫:酸性雨による溶融亜鉛めっき送電鉄塔の腐食、材料と環 境 、 4 5,7 28 ( 1 99 6) ( 3 ) 前 田 泰 昭 、 竹 中 規 訓 : 地 球 規 模 で の 酸 性 雨 の 現 状 と 材 料 劣 化 、 材 料 と 環 境 、 4 0, 61 9( 19 91 ) に 引 用 。 ( 4 ) 安 保 敏 夫 、 伊 藤 英 二 : 酸 性 雨 に よ る 自 動 車 用 塗 膜 の 劣 化 機 構 、色 材 、6 5,6 05 (1 99 2)( 5 )河 村 昌 剛 : 酸 ' 性 雨 と 自 動 車 塗 装 、塗 装 工 学 、28, 3 23( 19 93 )( 6 ) 古明地哲人:大気汚染とその影響、「文化財保存と環境汚染」(平成 4 年度文化財保存修復研 究 協 議 会 記 録 ) 、 東 京 国 立 文 化 財 研 究 所 、 p 35, ( 19 92 ) ( 7 ) T. Kome iji, K. Aoki , M.Kadoi , K. Sa ka moto: Relat ionshi p bet ween At mosp heric Corrosion of Ca rb on Steel and Air Qua lity ,材 料 と 環 境 、 43, 25 0 (1 99 4) ( 8 ) 松 島 巖 : 大 気 汚 染 と 金 属 の 腐 食 、 金 属 、 ( 1994)5 月 、 p 33( 9 ) 石 弘 之:「 酸 性 雨 」、岩 波 新 書 、2 3 0,( 19 9 2) ( 10)芳 住 邦 雄:雨 水 酸 性 化 の 要 因 と 現 状 、 PE TROTE CH, 辺 , 52 9( 19 87 ) ( 11 ) 青 木 繁 夫 : 保 存 対 策 の 事 例 、 「 文 化 財 保 存 と 環 境 汚 染 」 ( 平 成 4 年 度 文 化 財 保 存 修 復 研 究 協 議 会 記 録 ) 、 東 京 国 立 文 化 財 研 究 所 、 pl7(1992) ( 12) 光 井 渉 : 環 境 汚 染 が 原因と考えられる文化財劣化の現状、「文化財保存と環境汚染」(平成 4 年度文化財保存修復 研 究 協 議 会 記 録 ) 、 東 京 国 立 文 化 財 研 究 所 、 p 13, ( 19 92) ( 13) 古 明 地 哲 人 : 大 気 汚 染 の 文 化 財 へ の 影 響 、 材 料 と 環 境 、 坐 ,118,(1992 )( 14) Ro be rt Ba boia n, B1ai ne C1i ver: Co r ro si on on t he Sta tue of Li berty , Materia l s Per for ma nc e,25 , p80, Ma y (1986).( 15) Ro bert Baboi an: 私 信 。( 1 6) Do nal d A. Do lske, Jo hn D. Mea kin : Aci d Depositi on lmpact s on Hist oric Bronz e and Marble Sta tua ry and Monuments, Materials Pe rf or ma nce,30 , p.53, November(1991).( 17) 松 島 巖:環境の影響評 価について、「文化財保存と環境汚染』(平成 4 年度文化財保存修復研究協議会記録)、東京 国 立 文 化 財 研 究 所 、 p 51, (1 99 2)( 18)環 境 庁 :「 環 境 白 書 」( 平 成 8 年 版 )、大 蔵 省 印 刷 局 、 p 36 4,( 19 96 ) ( 1 9 ) H. H. Uhlig, R. Wi nst on Revie:,”Corrosi on a nd Corrosion Control” ,3rd ed, Wiley , p2 93, (1 98 5)に 引 用 。 [ 邦 訳:松 田 、松 島「 腐 食 反 応 と そ の 制 御 」、第 3 版 、産 業 図 書 、 p240,(1989 ) ] ( 20) H. H. Uhlig, R. Wi nst on Revie: ”Corrosi on a nd Corrosion Control'' , 3r d ed, Wil ey , p9 6,( 19 85 ) に 引 用 。 [ 邦 訳 : 松 田 、 松 島 「 腐 食 反 応 と そ の 制 御 」 第 3 版 、 産 業 図 書 、 p98,( 1989) ] “ 第 5 回 技 術 講 習 会 と 相 談 会 、 腐 食 セ ミ ナ ー in 石 川 ” で 講 演 No.016 平 成 10 年 3 月 1 日 ( 社 ) 腐 食 防 食 協 会 腐 食 セ ン タ ー 〒 113-0034 束 京 都 文 京 区 湯 島 1-12-5 子 安 ビ ル 6F 03-5818-7143( TEL・ FAX 兼 用 ) e-mail: corrcent@ big.or.jp ここに掲載された文章および図表の無断使用,転載を禁じます. -8- ©腐 食 防 食 協 会
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