多数の出水を含む長期流出に適用する貯留関数式の

水文・水資源学会 2015 年度研究発表会
(P47)
多数の出水を含む長期流出に適用する貯留関数式のパラメータの特性
明星大学理工学部
藤村 和正
東京工業大学大学院
井芹 慶彦
高知工科大学
村上 雅博
東京工業大学大学院
鼎 信次郎
1. 背景と目的
流出解析法として木村1)により提案された貯留関数法は、今日、国内の多くの河川現場で洪水管理や河川整備計
画に用いられている。しかし、貯留関数法の基礎式である貯留関数式は、洪水ごとにパラメータが異なるため、
貯留関数法の適用を困難にさせている。一方、低水流出に適用する貯留関数式のパラメータの特性は、筆者らの
最近の研究2)により考察されている。そこで本研究では、筆者らが用いた水循環解析に基づく感度分析の手法を用
いて、早明浦ダム流域と白川ダム流域を対象に、洪水流出に適用する貯留関数式の定数の特性について考察する
ことを目的とする。
2. 対象流域と水循環モデルの概要
対象流域は、気候と地質が大きく異なる、四国中央を流れる吉野川上流の早明浦ダム流域と東北地方の最上川
上流の白川ダム流域とする。流域面積はそれぞれ 472km2 と 206km2 である。早明浦ダム流域は、夏期に降雨量が
多く、各年の変動は大きい。地質年代の構成は、中生層が 9 割以上を占める。一方、白川ダム流域は、日本有数
の豪雪地帯にあり、冬期の降雪が非常に多い。地質は、新第三紀の火山性地質が 8 割以上であり卓越している。
解析に用いる雨量、ダム流入量、気温等の水文データは、水文・水質データベースおよび水資源機構より 1 時間
単位のデータを入手した。対象期間は、早明浦ダム流域は、1991 年 1 月 1 日から 2010 年 12 月 31 日までの 20 年
間であり、白川ダム流域は、2003 年 10 月 1 日から 2014 年 9 月 30 日までの 11 年間である。
水循環モデルの概要を次に示す。まず、降水量は、Diskin-Nazimov の雨水浸透モデルにより有効降雨と浸透量
に分離する。有効降雨は貯留関数法により洪水流出量を算定する。浸透量は、タンク構造形式のモデルにより、
地下水涵養量、地下水流出量の算定を行う。洪水流出量と地下水流出量を合計して総流出量を算定する。貯留関
数法および地下水流出量の算定には、それぞれ、(1)式と(2)式に示す貯留関数式を用いている。
Qg = Au N・Sg N … (2)
S = KQP … (1)
ここに、S:貯留高(mm)、Q:流出高(mm)、Sg:地下水貯留高(mm)、Qg:地下水流出高(mm)、P、N:指数、
K、Au:定数。ここで、(1)式と(2)式を比較すると、(2)式において指数 N は 1/P に相当し、定数 Au は 1/K に相当す
る。解析結果の誤差評価は、1 時間毎の実測流出高と計算流出高から相対誤差を求め、対象期間内の全相対誤差の
平均値(ARE: Average of Relative Error)で行う。流出特性が流域により異なるため、早明浦ダム流域では実測流
出高が 1.0 mm/h 以上、白川ダム流域では 0.5 mm/h 以上の流出に対して評価を行う。
3. 最適パラメータの探索と解析結果および考察
表1
洪水流出を対象とする(1)式の貯留関数式における 2
つのパラメータ、指数 P と定数 N の最適値の探索は、
指数 P に対して定数 K を変化させて対象期間の水循環
解析を繰り返し、相対誤差平均(ARE)が最小となる
定数 K を求める。指数 P は 0.1 から 1.0 の範囲で 18 個
の数値を選定した。表1にはパラメータ最適値の探索
計算の条件である、指数 P、定数 K の計算範囲、ステ
ップ値及び最適値 K の探索に要した計算数を示す。
解析結果として、選定した指数 P に対して定数 K を
変化させた場合の相対誤差の変化曲線と相対誤差の最
小値を図 1 に示す。それぞれの P 値で最小の相対誤差
最適パラメータ探索の計算条件
定数 K の計算条件
早明浦ダム流域
白川ダム流域
P
1/P K 探索範囲 ステップ 計算数 K 探索範囲 ステップ 計算数
1 1.000 1.0
3.0 - 9.0
0.1
61
15.0 - 17.0
0.1
21
2 0.909 1.1
5.0 - 12.0
0.1
71
16.0 - 18.0
0.1
21
3 0.833 1.2
5.0 - 12.0
0.1
71
16.0 - 18.0
0.1
21
4 0.769 1.3
8.0 - 15.0
0.1
71
17.0 - 19.0
0.1
21
5 0.714 1.4
8.0 - 15.0
0.1
71
18.0 - 20.0
0.1
21
6 0.667 1.5
10.0 - 17.0
0.1
71
18.0 - 20.0
0.1
21
7 0.625 1.6
10.0 - 17.0
0.1
71
19.0 - 21.0
0.1
21
8 0.588 1.7
14.0 - 21.0
0.1
71
20.0 - 22.0
0.1
21
9 0.556 1.8
14.0 - 21.0
0.1
71
21.0 - 23.0
0.1
21
10 0.526 1.9
16.0 - 22.0
0.1
61
21.0 - 23.0
0.1
21
11 0.500 2.0
16.0 - 22.0
0.1
61
22.0 - 24.0
0.1
21
12 0.400 2.5
24.0 - 31.0
0.1
71
25.0 - 29.0
0.2
21
13 0.333 3.0
30.0 - 50.0
0.5
41
29.0 - 33.0
0.2
21
14 0.286 3.5
35.0 - 55.0
0.5
41
33.0 - 37.0
0.2
21
15 0.250 4.0
45.0 - 55.0
1.0
21
36.0 - 40.0
0.2
21
16 0.222 4.5
30.0 - 80.0
1.0
51
41.0 - 45.0
0.2
21
17 0.200 5.0
50.0 - 80.0
1.0
31
42.0 - 52.0
0.5
21
18 0.100 10.0 100.0 - 120.0 1.0
21
60.0 - 80.0
0.5
41
№
204
指数 P
ポスター発表「地下水・流出」
異なるが、相対誤差の最小値は両流
域とも P 値が 0.909 であった。次に、
図 2 には選定した P 値とその最小
の相対誤差となった K 値を両対数
相対誤差(ARE) (%)
早明浦ダム流域と白川ダム流域で
55
55
となる K 値(赤丸印)の変化傾向は、
グラフにプロットした。そして相対
(b) 白川ダム流域
(a)早明浦ダム流域
P=0.1
Pに対する相対誤差の変化
相対誤差の最小値
50
P=0.333
P=0.4
P=0.5
P=1
P=0.909
P=0.833
45
45
40
40
35
35
P=0.2
誤差が比較的小さい P=0.5~1.0 の
30
30
(P, K)点を両対数グラフ上で直線
5
近似すると、とを定数とする次の
指数関数式が得られた。
K 
α
Pβ
 (3)
10
5
1
P=0.4
P=0.5
10
20
定数K 40
(b) 白川ダム流域
100
50
50
される指数関数式の近傍にあり、P
値は 1 に近い値であることが示唆
100
(a) 早明浦ダム流域
100
定数K
定数 N の組み合わせは、(3)式で示
50
P=1
P=0.909
指数 P に対する相対誤差の変化曲線及び最小値
図 1
結局、良好な解析結果を得る貯留関
数式の 2 つのパラメータ、指数 P と
10 定数K
P=0.1
Pに対する相対誤差の変化
相対誤差の最小値
50
1.592
10
K=6.702/P
R2=0.9948
5
0.5≦P≦1
0.1≦P<0.5
洪水毎の最適値
代表値
(1991~1997年の6洪水)
される。図 2 には、さらに、以前
0.1
の解析で用いていた、遅滞時間を考
図 2
慮した貯留量-流出量関係の両対数グラフ
100
0.01
100
して評価した最適パラメータと、洪水毎の最
流出高(mm/hr)
0.01
100
2007年 早明浦ダム流域
1時間単位実測値
1時間単位計算値
2008年 早明浦ダム流域
2007年 白川ダム流域
10
1
数式の最適パラメータについて、多くの出水
最適パラメータとしての P-K 関係図
1
0.1
本研究では、洪水流出を対象とする貯留関
1
0.1
について表す。両流域とも概ね再現性は示さ
4. 結論
0.5
10
て、2007 年と 2008 年の出水期(6 月~10 月)
れている。
指数P
0.1
れた対象期間に含まれる多数の出水を一括
た 1 時間単位の解析ハイドログラフの例とし
0.1
1
とその代表値(◎印)も示す。本解析で得ら
は本解析で得られた最適パラメータを用い
1
0.5≦P≦1
0.1≦P<0.5
洪水毎の最適値
代表値
(2004~2007年の4洪水)
10
で得られた洪水毎の最適パラメータ(▲印)
適パラメータでは、差異が見られる。図 3 に
1
0.5
指数P
0.5479
K=15.68/P
R2=0.9934
0.01
100
2008年 白川ダム流域
10
1
0.1
0.01
Jun
July
August
September
October
を一括して評価した。その結果、パラメータ
図 3 出水期(6 月~10 月)の解析ハイドログラフの例
である指数 P の最適値は 0.909 で 1 に近い値であった。このことは、洪水流出は線形性が強いことを意味してい
る。また、最適パラメータとしての P-K 関係は、2 つの定数を有する指数関数式で表されることを示した。
参考文献
1)木村俊晃:貯留関数法による洪水流出追跡法、土木研究所、1961.
2)藤村和正・井芹慶彦・鼎信次郎・村上雅博:低水流出に適用する貯留関数式の定数の特性、土木学会論文集
B1(水工学)、Vol.71、No.4、pp.361-366、2015.
キーワード:洪水流出、出水期、貯留関数式、最適パラメータ
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