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中国における日系非製造業子会社の収益性 について

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筑波大学大学院博士課程
システム情報工学研究科修士論文
中国における日系非製造業子会社の収益性
について
潘 偉偉
(社会システム工学専攻)
学籍番号:200520865
指導教員:星野靖雄
2007 年 3 月
目次
はじめに
……………………………………………………………………………1
Ⅰ、研究背景および理論背景
1.1 中国の WTO 加盟と中国における日本企業の進出の現状 …………………2
1.2 中国における日系非製造業企業の状況 …………………………………… 3
1.3 理論背景:ダニングの折衷理論
……………………………………………4
Ⅱ、先行研究のレビューおよび仮説
2.1 進出形態の選択と収益性の関係 ………………………………………………5
2.2 進出時期の選択と収益性の関係 ………………………………………………6
2.3 香港への進出経験と収益性の関係 ……………………………………………7
2.4 商社参入と収益性の関係 ………………………………………………………8
2.5 所有の優位性と収益性の関係 …………………………………………………8
2.6 内部化の優位性と収益性の関係 ………………………………………………9
Ⅲ、データおよび変数の説明
3.1 データベースの説明 ……………………………………………………………10
3.2 対象となる企業の説明……………………………………………………………10
3.3 被説明変数の紹介……………………………………………………………… 11
3.4 説明変数の紹介 ………………………………………………………………11
Ⅳ、分析
4.0 分析手法………………………………………………………………………… 13
4.1-4.4 1-4 目の仮説についての収益性に関する差の検定……………………13
4.5 主成分分析および順序回帰分析 ………………………………………………15
Ⅴ、結論・考察
5.1 結論 ………………………………………………………………………………17
5.2 今後の課題 ………………………………………………………………………20
参考文献
付録
The purpose of this paper is to examine the relationship of firm’s ownership
advantages, internal advantages, entry mode, entry time, experience to HongKong, the
ShoSha’s entry to the profitability of Japanese overseas nonmanufacturing
subsidiaries in China. Based upon theory of Dunning, and by using 136 firms’data,
we found that ownership advantages, entry timing
have positive relationship on
profitability. However, we conclude that entry mode, internalization advantages,
experience to HongKong and ShoSha’ participation have no relationship on
profitability.
Keyword: China, Japan, Non-manufacturing subsidiaries
はじめに
2001 年 11 月、中国は長い時間を経て、ようやく WTO 加盟を果たした。加盟してから 5 年
間、中国の経済はよりいっそうグローバル化になるとともに、市場化、そして法制の進歩も
見られてきた。その結果、外国から中国への直接投資が増大する一方である。むかし中国で
は外資系主導の経済発展が続いているが、その中で日系企業の占める割合が比較的に低かっ
た。
(深尾、2002)しかし、その後、外資系とくに日系企業の中国進出の勢いが増え続ける。
中国の商務省は 2004 年 12 月 14 日、2004 年 1―11 月期の海外から中国への直接投資(FD
I)が前年同期比 22.0%増の 575 億 5300 万ドルに達したと発表した。現在のペースで増加
すれば、2004 年の中国に対するFDIは初めて年間 600 億ドルを突破する見通しとなった
(NIKKEI NET,2004)。今後も、中国はさらにこの国際化の波に乗り、世界経済に組み込まれ
るようになるのが予想される。しかし、近年の日中両国間、政治の原因で関係が破壊される
現状でもある。中国の経済の台頭がその原因の一つと考えられる。日中両国の経済は引き続
きよい関係を保ってきたが、一方、日本では中国へのある程度の不信感、そして、中国にお
ける投資の収益に懐疑的な態度を抱える意見もみられる。
とくに生産拠点を再び中国から周
辺の東南アジアへ移転するケースがあった。今後も、中国の経済成長にいかに直視し、チャ
ンスを把握してともに成長していくのが、日本側の企業にとって一つの課題であろう。
多国籍企業の海外進出による国際合弁企業の経営に関する研究において、異なる国や地域
など、その場その場の条件を考慮に入れた視点に立った検討が必要と言われている(Beamish,
1993; Lee and Beamish, 1995)。
本研究では、日系企業の中国への直接投資を成功させるために、どんな要素が大事である
-1-
のかを考えている。そして、日系企業によって設立された現地の子会社の業種を非製造業に
限定して、ダンニングの折衷理論を用いて、2005 年の日系非製造業の中国現地子会社 136
社を対象にして、収益性に影響を与える企業側の要素を探索、仮説を立て、そして検証した。
さらに、先行研究の製造業の結果と比較しながら、提言を試みた。
Ⅰ、研究背景および理論背景
1.1
中国の WTO の加盟と中国における日系企業の投資の現状
日本企業の中国進出は 2004 年もその勢いを衰えずに大型の投資案件が目立つようになっ
てきた。中国で活動する日系現地法人が増え続ける一方で、北米、欧州では日系現地法人の
撤退数が新規進出数を上回っており、ついに 2004 年の時点で国別現地法人数のトップに中
国が躍り出た。現地法人数のトップは長らくアメリカであったが(3,554 社)
、中国(4040
社)が一気にアメリカを抜き、初めてもっとも日系現地法人が多い国となった。
図1 2004 年日系現地法人数地域別のイメージ図
中国
アジア(除く中国)
ヨーロッパ
北米
その他
2004 年末に実施された東洋経済「第 34 回海外現地法人調査」の結果によると、世界各国
に現存する日系現地法人の総数は合計 20563 社であり、04 年に進出数は 654 社、撤退数は
360 社となった(ともに暫定値)。前年より純増分も 700 社程度まで拡大したと推計され、
日本企業の海外進出は再び増勢を強めたと考えられる。
新規進出した現地法人の地域別内訳を見ると、中国の WTO 加盟以前の 2000 年の中国のシ
ェアが 17%に過ぎなかったが、2001 年の WTO 加盟以降より急増し、2002 年は 44%になり、
-2-
2003 年以降はついに半数を占める状況が続いている。
一方、撤退数は 03 年以降、減少傾向にある。とくに 2001 年、2002 年は進出、撤退数と
も多く、原因として、中国市場に注目が集まるなか、世界規模で日系現地法人の再配置が進
んだとみられる。
投資総額の面でも、2003 年と 2004 年中国に対する直接投資金額は前年比 405%と 187%増
加した。
中国への新規進出の業種別の内訳を見ると、これまでと同様に、製造業の現地法人数が過
半をしめることは変わりがなく、2004 年に製造業が 60%を占めた一方、進出数の業種ラン
キングでは、サービス業がトップとなっている。ソフト開発、ソフト販売・サービスといっ
た IT 系の現地法人が目立っている。
そして、中国での運輸業の需要の増大も原因とみられ、
ランクアップした。事業の内容から見ると、WTO 加盟の影響で、中国での需要に対応する進
出が主な傾向となり、サービス業をはじめ、非製造業の高度化が進んでいることがうかがえ
る。
図2
ここ数年中国への新規進出数の推移
600
500
400
300
新規進出数
200
100
0
96年
2000年
2004年(暫定)
以上の状況をみれば、北米・欧州における活動が成熟を深める一方で、新規進出のみなら
ず、総数で見ても中国が日本企業の海外事業の中心になりつつある。
1.2 中国における日系非製造業企業の状況
日系企業は非製造業の幅広い各分野に進出している。
中国における非製造業企業の業種から見ると、卸売業が半数を占めるが、サービス業、運
-3-
輸業も前述のように、近年になって、増え続ける傾向である。
分布地域について、中国の東部の沿海部に多く進出している。特に経済発展の先行都市で
ある上海、北京に多数存在し、そのほか、大連、南部にある広州では一定の数がある。
表1
農
中国における日系非製造業子会社の業種別表
鉱業
林 ・
建設
卸売
小売
飲 食
金
証
不 動
運 輸
サ ー
株 式
業
業
業
店
融 ・
券 ・
産業
業
ビ ス
保
保険
投資
業
有 ・
水 産
業
合計
そ の
他
16
3
57
641
23
15
3
8
23
167
283
52
1.3 理論背景:
1) ダニング (Dunning) の折衷理論
ダニングは、
企業が海外直接投資を行い、現地法人を設立する際の条件に関する諸理論を、
折衷理論としてまとめている。これによると、
(1)所有の優位性: ( Ownership advantages)企業は技術や経営能力といった無形資産
を保有することによって、現地の企業に対して所有の優位性を持つ必要がある。
(2)内部化の優位性 : (Internalisation
advantages ) さらにその企業が持つ優位
性を、ライセンス供与などによって外国企業に売るよりも、自ら海外に進出して利用 (内部
化)する方がより有利である。
(3)立地の優位性: (Location advantages) そして上記の 2 条件を満たした上で、海外の
資源を利用することによって、国内から輸出を行うよりも海外で活動したほうがより高い利
益を上げることができる必要がある。立地の優位性に関しては、貿易障壁回避を目的とした
直接投資を促す外国政府の貿易関税政策なども重要な立地条件として挙げられている。
本稿では、ダニングの理論、所有の優位性、内部化の優位性をフレームワークとする。立
地の優位性については、本稿は日中両国といった限定な地域を分析対象とするので、立地の
優位性のファクターは取り入れないことにした。
-4-
1291
2) 多国籍企業の海外直接投資の進出形態と進出時期の選択
多国籍企業の理論において、進出形態の選択は多国籍企業の海外進出にとって重要であ
ることがわかっている。先行研究(星野・王
2003)では、在日外資系企業の進出形態と収
益性の関係について研究を行ってきた。日本において、完全所有と合弁会社の間、多数所有
と少数所有の間違いが出たことがわかっている。進出形態の選択はグローバル企業の海外展
開に大きくかかわるといえる。また、海外直接投資における企業行動に当たっては、世界市
場の一体化が進むにつれて、経営資源の競争が激化し、消費の複雑化、経営の環境が変化し
ている中、企業にとって、いつ海外直接投資に踏み切るかの決断は非常に重要となる。
(Rivoli and Salorio ,1996)
3) 日中両国の特殊要因
本稿では、日本と中国といった限定された地域を研究対象とするため、両国において特殊
の要因を考慮しなければならない。香港は中国にとって非常に独特な地域である。「一国両
制度」を掲げ、特に WTO の加盟以前から、中国と世界の窓口となっていた。数多くの多国籍
企業は香港への進出を中国進出の拠点として事業展開をしてきた。そいて、商社の要因を変
数として取り入れるのは日本企業のみ存在している。Beamish(1999)は多国籍企業が現地子
会社の所有形態を決める際の要因として総合商社を変数に取り入れる。原因は欧米に存在し
ない総合商社は特別な役割があると考えられる。
以上の理論により、日系企業の親会社および子会社の各経営要素を変数としてまとめ、仮
説を立てることにした。
Ⅱ、先行研究のレビューおよび仮説
2.1
進出形態の選択と収益性の関係
進出形態についての多くの研究では、所有権が 95%以上の企業を独資とし、5%以上、95%
未満を合弁企業とすることが多い( Makino and Delios, 1996)。したがって、合弁企業の
中で、所有権が 50%を超える企業は多数所有合弁企業、所有権が 50%の企業は半数所有合
弁企業、所有権が 50%満たない企業は少数所有合弁企業と分類するのが一般的である。こ
の一般的な分類法では、合弁企業が 2 つの親会社、特に片方が現地企業で、もう片方が外国
企業の場合を前提にしている。
しかし、海外進出企業総覧において、10%以上の所有権を獲得した企業しか掲載されない
-5-
ため、本稿では、企業の進出形態の基準を 10%-95%と 95%以上の企業に分けることにし
た。そして、日本側の企業の所有率は 10%-95%を合弁として、95%以上を独資とした。
進出形態には、それぞれの利点や欠点があるが、中国において、中国政府が産業によって
は独資を許可しないなどの慎重策を取っているので、企業の進出形態が必ずしも企業自身の
意思によって決められるものではないため、進出形態の違いによって現地子会社の収益性が
変わるとは考えにくい。
(星野・陸
2006)
それに、Nitsch et al.(1996)は、西ヨーロッパに進出した日系企業の製造業 173 社に
対して研究を行った結果、完全所有子会社の業績が合弁子会社のほうより優れる傾向が見ら
れたが、有意性は確認できなかった。
以上の議論によって、以下の仮説を提示する:
仮説 1: 中国において、日系非製造業子会社の収益性は進出形態に直接影響されない。つ
まり、収益性について、独資と合弁の二つの進出形態の間の差がない。
2.2
進出時期の選択と収益性の関係
海外直接投資における進出時期は現地子会社の企業行動の形成に大きな役割を果たし、か
つ国際的な競争優位を得るための重要な基点となる。
先行研究については、アメリカ本土企業の新しい製品セクターにおける進出時期と収益性
に関する研究である。一般的な見解として、特定製品のセクターにおいて、より早く進出し
た企業は永続的に後に進出した企業に対して優位性を持つことが分かっている(Vibha, Pan
and Gerardo, 2002)。
そして、第 33 回外資系の動向調査(経済産業省 2001)の調査結果においては、進出時期
が 1996 年度以降の外資系企業の収益率より、その前に進出した企業の方の収益率が高いと
いうことが分かっている。(星野・王,
2003)
一般的に、早期進出のほうの収益性が高い原因としては、次のように考えられる。
早期の海外直接投資はその国における将来のさまざまな発展機会を得るための土台とな
る(Kogut and Kulatilaka, 1994)。
組織論の論点からも、現地市場に関する知識を蓄積していくことは多国籍企業にとっては
非常に重要なことである。早期の進出者は後の進出者よりも長い期間における知識の蓄積が
できる(Li, 1995)。
そして、製造業についての先行研究では、進出時期はかならず早いほど収益性が高いとは
言えない結果が出たが、
早期進出が収益性に積極的な影響を与える仮設は部分的に支持され
-6-
ることが分かっている。(星野・陸,
2006)
非製造業において、現地のノウハウ、マーケティングの展開、ネットワークの構築など、
早期の進出はより優位性を持つのではないかと考えられる。
以上の議論によって、以下の仮説を提示する:
仮説 2: 中国において、日系非製造業企業がより早い時期に進出することによって、現地
子会社はより高い収益性を得られる。
2.3
香港への進出経験と収益性の関係
中国は政治的原因で、20 世紀 80 年代から改革開放の政策を打ち出して、どんどん市場化
が始まったが、その前に、国際からの直接投資はほぼ不可能であった。そんななか、香港は
中国大陸と長い間特殊な関係を保ち続けてきた。文化、民族、言語などの原因で、ある意味
で中国と国際社会の架け橋の役割を担っている。香港を通じて、中国への業務展開は長い時
期に一つのよいルートと考えられる。
また、中国本土でのリスク管理に関して、西洋の法治思想と中国人の考え方両方を理解し
ている香港人は、高度なノウハウが蓄積されてきた。これによって香港企業は、世界中の多
国籍企業ができなかった中国本土のビジネス環境における様々な問題の解決策を編み出し
てきたのである。したがって、香港に進出することによって、中国本土への進出の際に、上
述の香港の優位性や資源を活用し、コストも大幅な削減が可能となることを意味する。
そして、先行研究では、中国における製造業子会社の香港進出経験と収益性の関係につい
て、子会社の収益性への正の影響が認められたことがわかっている。つまり、香港での操業
経験、香港企業の協力など、日系企業の中国進出において、香港という特殊な地域が大きな
役割を果たしているという結論が出た。(星野・陸、2006)
非製造業において、日系企業の中国進出にとって、香港での成功の経験を生かせば、効果
があると考えられる。
以上の議論によって、以下の仮説を提示する:
仮説 3: 日系非製造業子会社で、親会社が中国本土に進出する前に香港に進出経験を持っ
ている企業の方がより高い収益性を得られる。
2.4
商社参入と収益性の関係
総合商社とは、大規模かつ幅広い事業領域で貿易取引を行なう商社。ものの取引にとど
まらず、その情報力、組織力、金融力によって、新しい事業領域を広げ、大きな影響力を
-7-
もつ日本特有の大規模商社であること。日本の総合商社は、ほとんどその自身は多国籍企業
でもある。積極的に海外の進出を果たしている。
非製造業子会社において、もともと、ほとんどは総合商社あるいは商業、サービス業な
どを扱う会社に設立されていると予測しているが、実際見ると、こんな会社のみならず、数
多くの製造業に属する会社も続々と中国で子会社を設立してきた。原因としては、多くの製
造業会社は日本国内で工場を持ち、海外への打開を図るため、中国の商業都市(例えば上海)
に子会社を設立し、中国への製品の輸出を、効率よく実現させようとしていると考えられる。
なぜこの数年間で貿易子会社がどんどん設立されたのかについて、
もう一つの原因が考え
られる。それは以前中国国内で私営の貿易会社へ制限であった。かつて中国では貿易などを
扱うのは国家が設立した専門部門であったので、つい経済発展の勢いに対応させるように、
そして WTO 加盟によって、制限が緩まっている。
先行研究では、製造業において、商社の参入と収益性の関係について正の影響の仮説は支
持されない結果となった。
しかし、商社の世界的広いネットワークや事業展開の経験を持つこと、各種の資源へのア
クセスが簡単であることから、現地子会社の設立の際、大きな役割を果たすことが可能と考
えられる。よって、以下の仮説を提示する:
仮説 4: 中国において、日系非製造業企業が進出する際に、商社が資本参入している子会
社のほうが資本参入していない子会社に比べてよりよい収益性が得られる。
本稿では、資本参入の商社について、総合商社のみならず、卸売業、小売業などを従事す
る企業も取り入れることにした。
2.5
所有の優位性と収益性の関係
多国籍企業の海外活動を分析するとき、所有の優位性ということがよく上げられる。所有
の優位性(Ownership advantages)」とは,より優れた技術,経営ノウハウ,調達・生産・
情報の国際的ネットワーク等を含む総合的な企業力を示す概念である。
所有の優位性と現地子会社の優位性の関係を検証した既存研究では、
企業の規模(資本金、
売上、従業員数)、海外展開の経験(海外子会社総数)、そして、製品の差別化能力(研究開
発費集約度、従業員一人当たり売上高)などが所有の優位性として用いられた。
先行研究では、Vega-Céspedes and Hoshino(2001)は日本企業がアメリカやラテンアメ
-8-
リカに投資した現地企業 1070 社について因子分析を行い、親会社、子会社規模、親会社の
活動集約度(広告費/売上高比率、一人当たり売上高比率、投資先国子会社数)含めた因子
を所有の優位性とし、これらの所有の優位性が現地子会社の収益性に正の影響を与えている
結果が得られている。
そして、星野・陸(2006 )の研究では、中国の日系製造業子会社に対して、所有の優位性
が正の影響を与えることがわかった。
所有の優位性としてよく用いられるのは、企業の規模、--資本金、売上げ、従業員数、
海外展開の経験、――海外子会社の総数、そして、従業員一人当たりの売上高などである。
したがって、中国における日系非製造業の所有の優位性と現地子会社の収益性の関係につ
いて、仮説を提示する:
仮説 5: 中国に進出した日系非製造業企業において、企業所有の優位性が高いほど、現地
子会社の収益性が高い。
2.6
内部化の優位性
内部化の理論について、定義としては外部市場に代えて、企業の内部に独自の市場を形成
することを指す。企業が垂直統合を図り、あるいはライセンシングではなく、海外直接投資
を選好する。などの特徴がある。内部化こそ企業が多国籍化をする最大の理由であると主張
するのが内部化モデルである。
また、企業が内部化の優位性を図るのは、以下のメリットがあげられる。
①生産をコントロールし計画する能力
②価格差別化による市場利潤の極大化
③双方独占市場の回避
④市場取引で生じる知識移転に伴う不確実性の回避
⑤政府の干渉の回避
先行研究では、多国籍企業が海外に進出する時、現地の子会社の現地における経営知識、
ノウハウなどの蓄積、現地スタッフの育成と活用、すなわち、現地化の度合いを進めること
が内部化の優位性を表すと考えられる。
Vega-Céspedes and Hoshino(2001)は前にも述べたように、因子分析の手法を用いて、
現地子会社の操業年数と親会社の出資先国における活動年数、海外売上集約度と研究開発集
約度を含めた因子を内部化の優位性として分析を行った結果、現地子会社の操業年数と親会
社の活動年数が現地子会社の収益性に正の影響を与えていることが分かっている。
星野・陸 (2006)の研究では、こういう手法を続けて使用して、分析を行った。そして、
-9-
構築された二つのモデルとも内部化の優位性である「現地化度」が子会社の収益性に影響を
与えていることがわかっている。
したがって、以下の仮説を提示する:
仮説 6:
中国に進出した日系非製造業企業において、企業の内部化の優位性が高いほど、
現地子会社の収益性が高い。
Ⅲ、データおよび変数の説明
3.1
データベースの説明
本稿では、おもに「海外進出企業総覧:国別編 2005 年版」を用いて、データを抽出する。
そのほか、日本金融庁のホームページの EDINET からデータを取得する。
「海外進出企業総覧:国別編
2005 年版」は、東洋経済新報社が 1970 年から毎年追跡調
査、収録を続けている日本唯一、最大のデータベースである。2005 年版において、合計掲
載する現地法人総数は 20,563 社であり、日本側出資企業総数は 4,126 である。
日本金融庁からの EDINET(electronic disclosure for investors’ network)は、現在、
紙媒体で提出されている有価証券報告書、有価証券届出書等の開示書類について、その提出
から公衆縦覧等に至るまでの一連の手続を電子化することである。
3.2
対象となる企業の説明
分析の対象としている企業は、
①現地日本人経営者による収益性の評価が掲載されている
②業種が製造業を除いて、非製造業である
③設立・操業してから 2004 年 11 月現在まですでに 2 年以上がたつ企業
業種については、製造業だけを対象とする先行研究が十分になされた。先行研究と同じ
く、異なる産業による分析への影響をなくすため、分析対象企業の産業を非製造業に限定す
る。子会社の設立年数について、Woodcock et al. (1994)は 321 社の北米に進出している日
本の製造業企業に対する研究で、設立されてから 2 年未満の企業には、進出形態にかかわら
ず、経営が不安定であるのが通常であり、この時期の収益性は、2 年以降の収益性とは異な
ると考えられると指摘している。よって、本論文においては設立してから 2 年未満の企業を
除外する。よって、136 社のデータを収集することができた。
- 10 -
3.3
被説明変数の紹介
被説明変数は『海外進出企業総覧』に掲載されている中国における日系非製造子会社の日
本人経営者による収益に関する 3 段階の自己評価である。それは「順調」、
「収支均衡」、
「欠
損」のいずれかである。本稿に、「欠損」を1、
「収支均衡」を2、「順調」を3として分析
を行う。
3.4
説明変数の紹介
「海外進出企業総覧:国別編
①
2005 年版」から抽出した変数:
現地子会社の設立年数:現地子会社の設立時期がデータベースに掲載されているので、
設立から 2000 年 12 月までの年数を現地子会社の設立年数とした。
②
現地子会社の資本金:
現地子会社の資本金は現地の通貨 RMB や日本円、ドルで報
告されているが、すべて US ドルに統一した。
③
現地子会社の総従業員数。
④
現地子会社の日本人派遣社員数
⑤
現地子会社の総売上
⑥
現地子会社の進出形態:現地企業における所有権が 95%以上の場合は独資、10%以
上 95%未満かつパートナーが現地企業の場合は国際合弁(実際この場合に本稿で扱
われるケースはすべて日中合弁である。)独資を 0、合弁を1とする。
⑦
現地子会社の進出時期:1989 年までに進出した企業は 0、1990-1994 の間に進出し
た企業を 1、1995-1999 年の間に進出した企業を 2、2000-2003 年の間に進出した企
業を3。
⑧
香港への進出経験:親会社が中国本土に進出する前に、香港に進出する経験を持った
場合は 1、持っていない場合を 0 とする。
⑨
商社参入:出資する親会社の中に、商社が含まれている場合は 1、含まれていない場
合は 0 とする。
⑩
親会社の中国における活動年数:親会社の中国における活動年数はその企業が中国に
設立したもっとも年数の長い現地子会社の設立年数に相当する。複数の日本企業が出
資している場合は、活動年数のもっとも長い企業のものを用いる。
⑪
親会社の海外子会社総数:複数の日本企業が出資している場合、出資比率がもっとも
- 11 -
高い企業のものを用いる
日本金融庁の EDINET より用いられる変数
⑫
親会社資本金
⑬
親会社総売上
⑭
親会社総従業員
⑮
親会社の海外売上高
なお、親会社の総資本金、総売上、海外売上高の単位はすべて百万円に統一されており、
US ドルに変換する必要がないと考えられる。すべてのデータは連結経営指標の数字を用い
る。
計算による変数から抽出した変数:
⑯
現地子会社の総従業員に占める日本人従業員の比率:各企業の日本人派遣従業員数を
当該企業の従業員総数で除して算出される。
⑰ 親会社一人あたり売上高:親会社総売上を総従業員数で除して算出される。
⑱ 親会社海外売上の比率:当社の海外売上が総売上に占める割合。
先行研究で用いられる親会社の研究開発費用については、非製造業の各部門において、製
造業といった業種と違って、生産、製造に大きな費用をかけるほどではない。とくに、非製
造業の中、大きな割合を占める商社、卸売業、サービス業など、毎年に明確な研究開発への
投資は見られない。それに、日本金融庁の EDINET にも、研究開発の欄にとくに記入する事
項がなしというケースが多い。したがって、研究開発費を分析の変数として取り上げないこ
とにした。
- 12 -
Ⅳ
分析
4.0
分析手法
使用ソフトは SPSS for Windows と Excel である。
1-4番目の仮説はそれぞれカイ二乗検定とウィルスコクスン順位和検定を用いて、検証
する。カイ二乗検定はカテゴリー変数間の独立性を調べる場合に用いることが多く、標本デ
ータから観測される度数分布が理論的な分布に当てはまるかどうかを検定するものである。
ウィルコクスンの順位和検定はノンパラメトリック検定で、データの分布が正規分布である
仮定を必要としない。
5-6 番目の仮説は主成分分析を行って、さらに主成分分析の得点を順序回帰分析に投入
する手法を用いて、分析を行う。
4.1 進出形態と収益性の差の検定
進出形態と収益性の関係についての差の検定は、ここでカイ二乗検定とウィルコクスン順
位和検定を用いる。出力結果は表 2 に示したとおり:
表2 進出形態別の収益性の差の検定
収益性
欠損
進出形態
独資
16
(22.5%)
合弁
15
(23.1%)
31
(22.8%)
有意水準
0.955
合計
検定
カイ二乗検定
収支均衡
14
(19.7%)
順調
41
(57.7%)
14
36
(21.5%)
(55.4%)
28
77
(20.6%)
(56.6%)
ウィルスコクスン順位和検定
独資-合弁
合計
71
(52.2%)
65
(47.8%)
136
有意水準
0.817
表2を見ると、二つの検定ともに>有意水準 0.05 なので、
よって、仮説 二つの進出形態の間に差はないは棄却されないことになった。したがって、
仮設1「中国において、日系非製造業子会社の収益性は進出形態に直接影響されない」は支
持されることになる。
すなわち、中国における日系非製造業において、独資、国際合弁をそれぞれ選択すること
は現地子会社の収益性には直接影響しないことがわかった。したがって、進出形態は後で行
う順序回帰分析から除外した。
- 13 -
4.2 進出時期と収益性の差の検定
進出時期の選択と中国における非製造業子会社の収益性の関係について、データの分布は
正規分布ではないため、ウィルスコクスン順位和の検定を行う。結果は表3のとおり:
表3 進出時期別の収益性の差の検定
収益性
欠損
進出時期
収支均衡
順調
合計
80 年代
1
(14.3%)
1
(14.3%)
5
(71.4%)
7
(5.1%)
90~94
2
(16.7%)
3
(25.0%)
7
(58.3%)
12
(8.8%)
95~99
6
(12.0%)
8
(16.0%)
36
(72.0%)
50
(36.8%)
00~04
22
(32.8%)
16
(23.9%)
29
(43.3%)
67
(49.3%)
31
(22.8%)
ウィルスコクスン順位和検定
80 年代―90 年代前半
28
(20.6%)
合計
有意水準
0.711
77
(56.6%)
80 年代―00~04
136
有意水準
0.170
90 年代前半―90 後半
0.380
80 年代―90 年代後半
0.951
90 年代後半―00~04
0.001***
90 年代前半―00~04
0.255
***1%で有意
以上の結果を見ると、90 年代後半と 2010 年代前半を除いて、有意差は見られなかった。
つまり、進出時期の選択は、中国における日系非製造業の収益性にとっては、明らかな違い
がないことがわかった。ただ、90 年代後半から21世紀に入ってから、非製造業企業の収
益性が上がってくるのは、中国の WTO 加盟がもたらす効果と考えられる。
よって、仮説2は部分的にしか支持されない。
4.3 香港への進出経験と収益性の差の検定
表4 香港の進出経験の有無による収益性の差の検定
収益性
欠損
収支均衡
香港経験
順調
合計
23
(27.1%)
18
(21.2%)
44
(51.8%)
85
(62.5%)
あり
8
(15.7%)
10
(19.6%)
33
(64.7%)
51
(37.5%)
合計
31
(22.8%)
有意水準
なし
検定
カイ二乗検定
0.248
28
77
(20.6%)
(56.6%)
ウィルスコクスン順位和検定
香港進出経験あり-なし
- 14 -
136
有意水準
0.104
香港への進出経験の有無と収益性の関係について、カイ二乗検定とウィルスコクスン順位
和検定を行って、結果は表4のとおり、二つの検定とも、有意差は見られなかった。
よって、仮説3は棄却されることになった。つまり、香港に進出の経験を持つかどうかは
中国の非製造業子会社の収益性への影響が見られない。
4.4
商社の資本参入の有無と収益性
表5 商社の資本参入の有無による収益性の差の検定
収益性
欠損
収支均衡
商社参入
検定
24
(22.6%)
7
(23.3%)
31
(22.8%)
有意水準
カイ二乗検定
0.089
なし
あり
合計
順調
26
56
(24.5%)
(52.8%)
2
21
(6.7%)
(70.0%)
28
77
(20.6%)
(56.6%)
ウィルスコクスン順位和検定
商社参入なし-商社参入あり
合計
106
(77.9%)
30
(22.1%)
136
有意水準
0.226
商社の資本参入の有無と収益性の関係について、カイ二乗検定とウィルスコクスン順位和
検定を行った結果は表5のとおり:二つの検定とも、強い有意の差は見られなかった。
よって、仮説3は棄却されることになった。すなわち、現地の非製造業の子会社に、総合商
社、卸売業会社などといった商社の資本参入による収益性への影響は確定できない。
4.5
主成分分析と順序回帰分析
5-6 番目の仮説を検証する前に、各変数間の相関が強いため、すべての変数を用いる場
合は多重共線性の問題が発生すると予想される。また、所有の優位性、
内部化の優位性など、
比較的抽象的な概念であり、先行研究でも、それぞれの優位性に財務諸表などから抽出した
変数を代用するのが一般的である。しかし、どの優位性にどの変数を代用すべきかについて
は必ずしも共通した認識は存在していない(Vega-Céspedes and Hoshino, 2001)
。そのため、
説明変数に対して、主成分分析を行い、多重共線性の問題を回避する。
主成分分析を行う前に、Kaiser-Meyer-Olkin (KMO)の標本妥当性の測度と Bartlett の
球面性検定を用いて、主成分分析に値するほどの相関があるかいなかを確認する。結果は以
下のとおり:
表6 データベースから抽出した説明変数に主成分分析が適応できるかを確認するための KMO
および Bartlett の球面性の検定
Kaiser-Meyer-Olkin の標本妥当性の測度
0.686
Bartlett の球面性検定
近似カイ二乗
***1%で有意
- 15 -
911.109***
よって、Kaiser-Meyer-Olkin の標本妥当性の測度は十分に大きく、Bartlett の球面性検
定でも 1%有意の差で主成分分析の妥当性を支持できる。
表7
抽出された主成分によって説明されたもとの説明変数の分散の合計
成分
合計
1
2
3
4
5
初期の固有値
分散の %
5.157
2.323
1.297
1.191
<1
39.672
17.868
9.974
9.163
抽出後の負荷量平方和
分散の %
累積 %
累積 %
合計
39.672
57.540
67.515
76.678
5.157
2.323
1.297
1.191
<1
39.672
17.868
9.974
9.163
39.672
57.540
67.515
76.678
因子抽出法: 主成分分析
これをもとにして、四つの主成分が抽出された。
表8 データベースから抽出した説明変数に主成分分析が適応した場合の各主成分におけるもとの変数の因子
負荷量
成分
設立年数
資本金(万USドル)
総従業員数
総売上(万USドル)
海外活動年数
海外子会社総数
資本金(親)
総売上(親)
総従業員(親)
海外売上高
現地日本人従業員比率
親会社従業員一人当たり売上
1
0.141
0.526
0.038
-0.043
0.484
0.945
0.969
0.969
0.220
0.961
-0.258
2
0.830
0.446
0.489
0.289
0.242
-0.105
-0.098
-0.189
0.664
-0.173
-0.588
3
-0.001
-0.171
0.068
0.709
0.433
0.050
-0.075
-0.018
-0.155
0.066
-0.096
4
0.890
-0.307
0.002
-0.173
親会社海外売上の比率
-0.147
-0.293
0.725
0.271
0.135
0.012
-0.714
-0.370
0.436
0.054
-0.054
-0.103
0.453
-0.004
0.103
表8から見ると、第1主成分は因子負荷量が 0.6 以上の変数である親会社の海外子会社総
数、親会社資本金、親会社総売上、親会社の海外売上高、親会社の一人当たり売上の 5 つの
変数である。 いずれも親会社の規模の優位性と活動集約度のことを意味し、所有の優位性
を示している。なので、親会社の規模優位性を表していると思われる。
第 2 主成分は子会社設立年数、親会社の従業員数、と正の相関があり、現地日本人従業員
の比率と負の相関がある。ある程度で現地子会社の「現地化度」を表している。つまり、折
衷理論の内部化の優位性といえる。
第3主成分は子会社の売上と親会社の海外売上の比率で
あり、グローバル化の度合い、つまり「国際化度」と意味づける。グローバル化の度合いも
親会社の規模優位性の表しと考えられる。
結果は以下のとおり:
- 16 -
表9 順序回帰分析の結果
B
閾値
位置
(欠損)
(収支均衡)
規模優位性
グローバル化
現地化度
-1.700
-0.508
-0.390
0.740
0.455
標準誤差
0.365
0.286
0.364
0.363
0.284
Wald
自由度
21.729
3.149
1.145
4.145
2.573
有意確率
1
1
1
1
1
0.000
0.076
0.285
0.042
0.109
95% 信頼区間
下限
上限
-2.414
-0.985
-1.068
0.053
-1.103
0.324
0.028
1.452
-0.101
1.011
リンク関数: ロジット
表10 さらに進出時期を加えて分析を行う結果:
B
閾値
位置
(欠損)
(収支均衡)
規模優位性
グローバル化
現地化度
進出時期
-4.342
-3.117
-0.452
0.756
-0.062
-1.047
標準誤差
1.933
1.895
0.353
0.360
0.435
0.736
Wald
5.045
2.706
1.640
4.424
0.020
2.025
自由度
有意確率
1
1
1
1
1
1
0.025
0.100
0.200
0.035
0.887
0.155
95% 信頼区間
下限
上限
-8.130
-0.553
-6.831
0.597
0.240
-1.143
0.052
1.461
-0.914
0.791
-2.489
0.395
リンク関数: ロジット
以上の結果を見て、所有の優位性を代表するグローバル化度が二度の順序回帰分析におい
てともに現地子会社にプラスの影響を与えていることがわかった。
Ⅴ
結論・考察
5.1 結論
本論文は、中国における日系非製造業子会社の収益性を及ぼす要因を検証するものである。
日系非製造業企業の進出形態、進出時期、商社の参入と所有の優位性、内部化の優位性と中
国における現地子会社の収益性との関連、また、日本と中国という限定された国家間の直接
投資に注目し、その特殊要因として香港への進出経験と現地子会社の収益性との関連を検証
した。
仮説1に対して、進出形態と収益性の関係を調べるためにカイ二乗検定、そしてノンパ
ラメトリック検定である 2 つの進出形態間のウィルコクスンの順位和検定を行った。その結
果、いずれの検定も有意な結果は得られなかったため、仮説1は支持されたと言えよう。つ
まり、製造業と同様、進出形態は日系非製造業に影響を与えていないことがわかった。
仮説2に、進出時期と収益性の関係を調べるためにカイ二乗検定、そしてノンパラメトリ
ック検定であるウィルコクスンの順位和検定を四つの進出時期について検定を行った。しか
し、仮説は部分的にしか支持されなかった。すなわち、中国の WTO 加盟の 2001 年以降は、
- 17 -
現地の日系非製造業子会社の収益性が高まるようになった。原因として、やはり中国の WTO
の加盟による関税などの引き下げ、差別的な措置が取り除かれることや、輸出輸入の拡大、
貿易企業への制限の緩まりなどが要因と考えられる。
仮説3は、香港進出経験は現地の製造業子会社において収益性への正の影響が認められた
が、中国における非製造業子会社の収益性への影響が見られない。原因はいろいろとあると
思えるが、確かに香港への進出経験は多くのノウハウ、中国文化への理解の深まりができる
が、日系現地非製造業において、多くの現地法人の親会社は近年になって増える卸売り業者
であり、直接に中国に進出するケースも増えると見られる。そして、非製造業といった業種
はものを作る製造業と違って、中国独特の環境や体制に影響されやすい分野であることは、
香港の進出経験が大きな影響を持たないことのもうひとつの原因と考えられる。
仮説 4 からは、商社の資本参入は収益性に影響を与えないことがわかった。製造業の結果
と同じく、商社の役割は資源へのアクセスが比較的に簡単でも、現地子会社の設立の際に、
収益性がかならずしも高いとはいえない。
仮説5に対し、所有の優位性と中国における非製造業子会社の収益性の関係について、部
分的に支持された。特に企業の海外事業展開の能力は収益性に緊密にかかわると考えられる。
そして、海外売上の比率の影響から見ると、日系企業の海外市場への重視の程度は発展のカ
ギになるかもしれない。
仮説6の現地子会社の内部化の優位性と中国における非製造業子会社の収益性の関係に
ついて、仮説は支持されない結果となった。すなわち、日系非製造業の現地子会社の現地化
度は収益性への影響が見られない。その原因としては、中国において、IT 業をはじめ、物
流などの新興業種はある程度で日本の技術、経験を必要としているため、現地化の程度はこ
の時期、この段階では収益性に直接に影響しないと考えられる。
図3 本稿で用いたサンプル企業の収益状況のイメージ図
欠損
収支均衡
順調
図3で示したとおり、本稿で使用されたサンプル 136 社の企業の中、収支均衡、順調が
- 18 -
105 社であり、大半を占めている。実際の状況においても、中国における非製造業企業の大
半が投資を続けようと考えている状況と一致する。
表 11
先行研究(星野・陸,2006)の製造業と本稿の非製造業の影響の要因の比較
ファクター
製造業
非製造業
進出形態
影響なし
影響なし
進出時期
部分的に影響あり
部分的に影響あり
香港の進出経験
影響あり
影響なし
商社の資本参入
影響なし
影響なし
所有の優位性
影響あり
部分的に影響あり
内部化の優位性
影響あり
影響なし
注:
製造業の結果は
「中国
における製造業子会社の収益性」
(星野靖雄・陸定,2006)より
上記のように、中国における非製造業の子会社において、製造業とかなりの違いが出てい
ることがわかった。現地の子会社の内部化の優位性よりも子会社の規模優位性のほうがより
重要であることがわかった。そして、21 世紀に入って、新規進出の日系企業の収益性が上
がることが本稿で実証できた。一方、製造業と異なり、香港への進出経験が現地子会社の収
益性に与える影響は見られなかった。本稿では香港のみ取り入れたが、近い特徴と役割を持
つマカオと台湾などに拠点をおいた日系企業も数多く、今後さらにそれを視点に入れようと
考える。総合的に、非製造業の収益性につながるファクターの探索は製造業よりやや不確定
なことになる。
その原因として、非製造業企業の安定さの欠如、中国国内の状況、そして、日中両国、国
際の情勢にも大きく影響されやすい点も上げられる。たとえば、1989 年の政治的事件の影
響で、日中両国の関係が冷める中、日本の対中直接投資が減少する傾向があった。また 1990
年代末、アジア通貨危機の衝撃によって東アジア各国経済に悪影響を及ぼした。
そして、非製造業のうち、さまざまな業種が入っているため、分析の結果にも大きな影響
をもたらしたと考えられる。業種別の分析はデータの数の制限で実現が難しくなるため、今
後の中国側の情報システムの改善とともない、進めていく考えである。
さらに、本稿でもっとも実証できたといえるのは、親会社の海外売上比率である。それは、
企業の海外展開能力のひとつの指標として考えられる。グローバル化が進んでいる現在の世
- 19 -
界経済において、企業が国内の市場にとどまらず、海外市場への展開は企業の生存と発展に
大きく関係する。
最近の日中両国の経済状況について、2005 年に発生した反日運動で一時悪化に陥って、
2006 年日本から中国への直接投資が前年に比べ 29.58%の大幅減となった。特に日系卸売業、
商業企業がダメージを受けた。そのため、中国市場から一部撤退を考えた企業もあったが、
これから進出しようとする企業が状況を見極める体勢であるケースも少なくない。しかし、
中国市場の拡大は近年で続いている中、中国の非製造業の分野では大きな潜在力があると考
えられる。現在の非製造業企業の経営状況は全体としてよい状況が持続している。そして、
日本経済の景気の回復で、今後の海外への直接投資、ノウハウや技術移転がさらに期待され
る。中国の WTO の加盟といった画期的な出来事で、新規企業の進出の増加、収益の上昇など
につながることに違いない。今後も、中国政府は加盟のとき結ばれた契約に従い、よりいっ
そう法制の改善、環境の整備などがつづく見通しである。中国市場の拡大および需要の増加
は、今後も非製造業企業の事業展開にとっていいチャンスといえよう。
以上の結果から、今後の日本企業の中国の非製造業分野の進出について、提言する: ①
中国の法令、政策の重視。非製造業は政策による変動が多いと言われるが、たとえばある規
制の緩和など、ひとつの好機になる可能性がある、逆に、法令の改正によるある業種の環境
の変化など、収益性への影響は無視できない。②グローバル化の意識をもつこと。今後、海
外への事業展開は企業の将来性につながるかもしれない。国内市場のみならず、世界がひと
つになる今日、海外売上の割合が高くなる企業はより将来性があると考えられる。特に、ア
ジア地域の経済においてもっとも牽引力のある日本と中国は、両国の長所や利点を利用しあ
いながら、ともにグローバルの意識を持ち、成長していけるなら、両方にとってもより大き
な成功が収まるだろう。
以上のことはあくまでも建言であるが、これから新規進出を図る企業にとって、本稿は一
参考になるだろう。本稿では、中国の WTO の加盟は間違いなく非製造業にとって発展の好機
を提供し、全体的良好な収益性につながることが確認できた。今後、中国の市場の持続の拡
大とともない、日本からの投資の更なる拡大が期待されるといえよう。
5.2
今後の課題
第 1、本稿では 2005年の 1 年分のデータを用いたデータ分析であるため、この年のデー
タが正常であるかどうかが確認できない。
第2、本稿ではデータの制約より、親会社の情報として、日本側の企業のみを用いたこと
により、中国側の親会社の影響がまったく反映されない問題がある。また、収益性は完全に
- 20 -
アンケートによる自己評価であるため、ある程度で正確性が欠如しているかもしれない。
第3、非製造業において、中国の北と南のいくつかの都市に集中する傾向がある。(たと
えば北京と上海)この地域的な要素も収益性に影響を与えるかもしれないことが考えられる。
第4、先行研究との比較の対象が少ないといわれたが、本来、中国における子会社の収益
性に関する研究の存在が少ない。それに本稿は日中両国という限定地域についてであるため、
本稿では比較の範囲を中国における子会社とする。今後の実際の収益率が利用可能になると
き、さらにほかの地域との比較・考察を進めていこうと考えている。
以上をもって、将来はデータの年数を増やして、時系列データで分析を試みることや、外
資系企業の株式公開の解禁が可能になれば、実際の収益率を用いた分析や中国側のパートナ
ーの情報を取り入れた研究、さらに非製造業の内の業種別、そして地域別の分析も大変興味
深い、しかしながら、これは今後の課題としたい。
- 21 -
参考文献
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Administrative Science 経営行動科学第 19 巻第 2 号 133-149
鷲尾紀吉,2003, 『中小企業の中国投資行動』 同友館
中央経済社,2004, 『ベーシック経営学辞典』 中央経済社
東洋経済新報社,2005, 『海外進出企業総覧:国別編』 東洋経済新報社
日本経済新聞社,日経ネット http://www.nikkei.co.jp/
日本金融庁EDINET ホームページ https://info.edinet.go.jp/EdiHtml/main.htm
劉 晨,2005,『社会調査・経済分析のための SPSS による統計処理』 東京図書
- 22 -
付録Ⅰ
分析に用いた企業の業種別分布
農林・水産業
鉱業
建設業
卸売業
小売業
飲食店
証券・投資
不動産
運輸業
サービス業
その他
合計
1
1
6
57
4
2
1
7
17
39
1
136
- 23 -
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