注意事項 ここで紹介されている検査・治療は、当院で実施されてい る実際の方法に基づいております。すなわち、何らかの文献 的根拠・経験を、実際の診療の中で再構成していった結果で す。 これ以上詳しく、これ以下に簡略化した診療を実施する診 療施設は、たくさんあり、地域性・顧客層などによって様々なバリエーションが生じる、 その一つです。 あくまで、当院で治療を受ける際の参考資料の一つです。その点、御留意くださいませ。 症状 多飲多尿。体重減少。異常食欲など。“いつの間にか”なっている。 糖尿病性ケトアシドーシス→特に重篤な状態。昏睡。 慢性合併症→糖尿病性白内障、網膜症、腎症、神経症(蹠行)。 治療 インスリン製剤は、効果の現れ方が違うので、 (以前の製剤の)1IU=(新しい製剤の)1IU という事はない。血糖値曲線を作成して、諸々を確認して、維持量を決定する。おおよそ の数値はあっても、個体差も大きい。全体に、イヌが簡単で、ネコが難しい。 定時、定量の同じ内容の食餌が、基本。 速効型(レギュラーに相当)←ノボリンR注Ⓡなど:糖尿病性ケトアシドーシスに使用。 1. 生理食塩水の輸液からスタート(20ml/kg でスタート。はじめの 1~2 時間)。要 カリウム補正。 →24~48hr かけて、問題を補正する。急ぎすぎない。 2. インスリンの使用(←高血糖:300-1000mg/dL くらい) 0.5-1.0IU/h/id。1IU/iv or im(1hr 毎) あるいは、B.W.10kg 以上では、0.1IU/kg/h/id。0.25IU/kg/iv or im/sid →250-300mg/dL 以下になるまで、続ける(ブドウ糖の補充:静脈内点滴をして も良い)。 3. 血糖値が 100-250mg/dL で維持される様に、6-8hr 毎に、インスリンを使用。 イヌ:0.5IU/kg、ネコ:1IU/head より開始し、調整していく。 4. 集中管理が出来ない場合。 (3. )の投与量を参考にしながら、6-8hr 毎にインス リンを使用(あるいは、いきなりインスリングラルギンを使用) 。 *ケトアシドーシスを伴わない高浸透圧性症候群の場合(血糖値 600-1500mg/dL く らい。ケトン体は検出されないが、著名な脱水は認められる)。 ・脳浮腫の発現を避ける為、輸液の補充は緩徐に(24-48hr かけて)。 ・細胞外液量が正常になった頃より、インスリンを使用。 ・インスリンの使用量は、0.1IU/kg/im or sc。←糖尿病性ケトアシドーシスの場合と 違い、極めて敏感に反応する場合がある。 参考;高カリウム血症(血清カリウム値を下げる方法):糖尿病じゃないとき 1) レギュラーインスリンとグルコースの静脈内投与。0.06IU-0.125IU/kg(50%デキ ストロースをインスリン 1IU に対して最低 4ml 加える)。 2) 10%グルコン酸カルシウム静脈内投与(0.5-1mg/kg を 10~20 分かけて)。 中間型(NPH に相当)←以前には、使用があったが・・・。イヌは、これでも十分。 インスリン抵抗性。 持効型←インスリングラルギン(水溶性持続型インスリン製剤。ランタスⓇなど):維 持に用いる。インスリンポンプ使用可能。希釈不可。 イヌ:0.5-1.0IU/kg/sc/bid→詳細は、ネコの維持量決定を参照。 ネコ:3~5 日程度の入院で、当面の維持量を決定する。 空腹時血糖が 360mg/dl を上回る場合 a) 採血後(2hr 毎程度を目安に、血糖値を測定)、0.5IU/kg/sc→12hr 後、投与前とほ ぼ同様の場合、再度 0.5IU/kg/sc。 b) 12hr 後の採血が、100-200mg/dl くらいまで下がっていたら、投与しない。 1) 翌日の空腹時血糖値(開始時)が、同程度まで戻る、あるいは 200-300mg/dl く らい。 2) 同程度まで戻るなら、0.5IU/kg/sc を再開。血糖値をモニターしながら、12 時間 後の血糖値を確認。再現性によって、インスリンの増減、投与回数(sid or bid) を調整する。 →0.5IU/kg/bid になりやすい? 3) 翌日のスタートが、前日よりも低値になる場合。全体として投与した量よりも(例 前日は 3.0IU/head だったなら)、2 回目(あるいは 2 日目)の投与量を 1IU/head 減らして血糖値曲線を作成するなどして、調整し、sid or bid 1 回投与量を決め る(午前と午後の投与量が違っても良い)。 →朝 3.0IU/head、 午後 2.0IU/head という様な?朝 2.0IU/head、午後 1.0IU/head、 朝 3.0IU/head/sid など、いくつかのバリエーションを試す。経過によっては、 1IU/head/sid 維持もあり得る。 空腹時血糖が 360mg/dl を下回る場合 0.2IU/kg/sc で開始。あとは、ほぼ同じ。 →ネコの症例では、治癒するケースがある(インスリングラルギン) 。 モニタリング 単純な血糖値の測定は、誤差も大きい(ストレス性高血糖、餌を食べないなど) 。 血糖値曲線(2hr 毎の測定)が基本。 白内障が発現していないイヌとネコで 100-200mg/dL、白内障が発現しているイヌと ネコで 100-300mg/dL。 測定方法による誤差(機種間の相違)は大きい。 →常に、同一の検査機器を使用して評価する。 フルクトサミン:2~3 週間に遡った血糖値の平均 低アルブミン血症の存在下で低値になるので、同時に総タンパクとアルブミンを測 定する。高トリグリセリド血症が、影響を及ぼす場合もある。 イヌ ネコ 平均値 310umol/L 260umol/L 上限 370umol/L 340umol/L 極めて良好なコントロール <400umol/L <400umol/L 良好にコントロール 400-475umol/L 400-475umol/L 要再考 475-550umol/L 475-550umol/L コントロール不能 >550umol/L >550umol/L 表 1:フルクトサミンの平均値、上限ならびに糖尿病コントロールの評価法 フルクトサミン 血糖値 極めて良好 <400umol/L <180mg/dL 飼い主は満足? >400umol/L <180mg/dL インスリン投与過剰 <400umol/L <60mg/dL ストレス性高血糖 <400umol/L >180mg/dL コントロール不能 >400umol/L >180mg/dL 表 2:血中グルコース濃度とフルクトサミンを同時測定して評価を行う方法 参考文献 『犬・猫の糖尿病 その再認識と治療法』CAP, APRIL, 1993 『糖尿病の合併症とそのコントロール』PROVET, Oct, 1995 『犬と猫の副腎皮質機能低下症』CAP, Oct, 2000 『犬猫臨床ちょいの間講座 4.猫の糖尿病と Glarigine-続き』NJK, Oct, 2004 『犬猫臨床ちょいの間講座 5.糖尿病のモニタリング』NJK, Nov, 2004 その他、私信によるもの、逸失等により情報ソース不詳になった内容が、含まれており ます。 当院では、この様な方針に基づいて診断治療を行っておりますが、他院で同一の治療を 行っている事を保証しません。また、こうした資料を他院に持ち込んだとしても、当院と 同一の治療が再現される事を、保証しません。情報の他所での利用は、自己責任にてお願 いいたします。 2012/10/27 わたらい動物病院
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