ISO9000 シリーズ規格の誕生から 2000 年版改訂へ

ISO9000 シリーズ規格の誕生から 2000 年版改訂へ
(
「新世界標準 ISO マネジメント」矢野友三郎・平林良人共著、日科技連出版出版刊から抜粋)
1.BS5750 の広がり
第二次世界大戦後、欧州には NATO(北大西洋条約機構)軍が駐留していたが、軍では調達
する物品の品質問題に手を焼いていた。NATO 軍の購買部門は、母国の規格管理団体に対して、
何とか対策を打ってくれるよう依頼し、その結果が ISO9000 シリーズ規格のオリジナルを生
むきっかけになったという。アメリカでは、1979 年に品質システム規格 ANSI/ASQCZ1−15
が制定された。フランス、カナダ、イギリス等でも同様な主旨の国内規格が相次で制定された
が、中でもイギリスの規格管理団体である BSI(英国規格協会)が 1979 年に発行した BS5750
規格は、ISO9000 シリーズ規格の誕生に大きく影響を与えたといわれる。
BS5750 規格は、Quality systems とタイトルにあるように品質システムを規格にしたもの
である。その BS5750 には part1、part2、part3 の3種類があり、それぞれ part1が設計、
製造、part2 が製造、part3 が最終検査についての品質システム規格であった。 アメリカ
ANSI/ASQC Z1−15 規格がガイドライン規格であったのに対して、BS5750 規格は多水準の
requirement (要求事項)を含んでいるのが大きな特徴であった。
後年 1987 年に ISO9000 シリーズ規格の第1版が発行されるが、このとき ISO9001:1987、
ISO9002:1987、ISO9003:1987 の3種類の規格が作られたのはこの BS5750 の影響であるとい
われている。いずれにしてもアメリカ ANSI/ASQC Z1−15 規格、イギリス BS5750 規格が購
入者からの要求をベースにしていたということが、将来制定されることになる ISO9000 シリ
ーズ規格の性格を決めることになる。
2.TC176 の発足
1970 年代には NATO 軍購買部門の要求に加えて、原子力発電の普及を中心とする複雑な製
品の品質管理が重要視されるようになってきた。製品品質重視の風潮は、各国の品質システム
規格を統合しようとする動きを加速させた。欧州においてはニューアプローチと呼ばれる欧州
統一経済ブロックの構想も品質システム規格統合の後押しをした。
また、各国に異なる品質システム規格が存在することは、国際的な通商活動を阻害すること
にも繋がることから、これらの規格を統合して国際規格を作る動きとなった。その結果 1976
年に ISO(国際標準化機構)に「品質保証の分野における標準化」を活動範囲とする技術委員
会 TC176 が設置された。
ISO 規格は前述のように、アメリカの ANSI/ASQC Z1−15 規格とイギリスの BS5750 を下
敷きとして検討が進められた。TC176 には2つの SC(sub- committee)が設けられ、SC1 で
terminology (用語)
、SC2 で quality system(品質システム)が検討されることになった。
その結果 1984 年 6 月に ISO8402 が用語の規格として、1987 年 3 月に ISO9000∼9004 の
5種類が品質保証規格として発行されることになった。
TC176 のメンバー国は発足当時 P メンバー(主要メンバー)は 21 カ国、O メンバー(オブ
ザーバーメンバー)は 14 カ国であったのに、年を追う毎に増加していき、1989 年には P メン
バー33 カ国、O メンバー26 カ国にもなり、各国の関心の深さを知ることができる。これに伴
い参加者数もうなぎ上りに増加し、特に 1990 年の第9回インターラーケン総会では予想を超
える 180 名の出席者をみた。因みに 2000 年に入ってからの総会の出席者数は毎年 300 人にも
のぼる。
なお、この ISO9000 シリーズ黎明期に特筆しておかなければならないのは、第三者認証の
動きである。TC176 では規格制定当時、この規格は購入者と供給者の二者間取引の際に用いる
もので第三者の認証には用いないものとされていた。TC176 は規格を制定する委員会であり、
ここで作成された規格をどのように使うかについては直接関与しないことになっていた。
第4回プレトリア(南ア)総会でもこのことは確認がされた。しかし、ISO9000 シリーズ規
格は、いつのまにか認証の基準規格として国際的に使用されるようになった。これは(認証用
として使用されるようになったのは)
、欧州統一のためであったと思われる。
戦後の欧州の悲願は、狭い国土に多くの国がひしめき合っている現状を変えて、統一欧州と
いう大きな経済・政治ブロックを作り、アメリカと対等に渡り合えるようにしたいというもの
であった。そのために 1960 年代から EC(EEC、EU と呼称が変わっていく)の協議が数多く
もたれた。
統一した経済ブロックを作るためには、多くの通商障壁を取り除かねばならない。1987 年当
時それらの通商障壁は 300 種以上にのぼるといわれていた。例えば、自動車の排ガス規制、各
種国家資格(医師、弁護士等)
、税制等であるが、それらの中に大きな比重を占めるものとして
工業製品標準があった。
そのような背景でEC 各国は、工業製品標準を統一してブロック内の商取引の活発化する政
策を取った。その際に ISO9001 シリーズ規格は、国を越えて欧州内の商取引を活発にする1
つの方策として採用された。ISO9001 シリーズ規格を使用して、供給者の品質保証能力を客観
的に補足しようとすることが行われたのである。
3.ISO9001 シリーズ規格 1987 年版
1987 年に制定された ISO9001 シリーズ規格5種類は、以下のようなものである。
【ISO9001 シリーズ規格5種類】
① SO9000:1987:Quality management and quality assurance standards – Guidelines
for selection and use
・
「品質マネジメントと品質保証規格の選択と使用」のガイドラインである。1987 年版
ですでに Quality management という用語が使用されていたことに注目したい。
② SO9001:1987:Quality system – Model for quality assurance in design/development,
production, installation and servicing)
・
「品質システム−設計、製造、据付け、付帯サービスの品質保証モデル」の規格(要
求事項)である。タイトルにモデルとあるように組織に品質システムの雛型を与えてい
る。組織の実態が提案している雛型に合わないときには、ある程度 tailoring(仕立て)
することを認めている。
③ ISO9002:1987 : Quality system – Model for quality assurance in production,
installation)
・「品質システム−製造、据付けの品質保証モデル」の規格(要求事項)である。9001
よりも規定している業務範囲が狭い、即ち設計を除外した業務範囲を対象としている。
④ ISO9003:1987:Quality system – Model for quality assurance in final inspection and
test)
・
「品質システム−最終検査と試験の品質保証モデル」の規格(要求事項)である。9002
よりも規定している業務範囲が狭い、すなわち最終検査と試験のみを対象にしている。
その後 1994 年版にもこの考えは踏襲されるが、この規格は世界であまり使われなかっ
た。
⑤ ISO9004:1987:Quality management and quality system elements –Guidelines
・
「品質マネジメントと品質システム要素−ガイドライン」である。品質管理を実施す
るうえでの手引きが書かれている。ISO9001∼9003 規格は、ミニマムの要求事項で構
成された規格であり、故にこれだけでは満足しない組織も多かった。さらに向上、レベ
ルアップを図りたいとする組織向けの規格である。
これら5種類の規格に共通な特徴は次のようなものである。
(1) 購入者からの立場
ISO9000 シリーズに決められた品質保証の定義は次のようなものであった。
「製品又はサ
ービスが、所与の品質要求を満たしていることの妥当な信頼感を与えるために必要な計画的
で体系的な活動のすべて」
。これは、購入者の立場から書かれたものである。
それに対して、日本における品質管理は供給者の立場で推進してきた。戦後復興の大きな
柱であった工業立国を推進するには、いかによい製品を作るかが日本中の組織の大きな課題
であった。購入者からいわれなくても、供給者は必死になって製品品質の向上に取り組んだ。
組織にとって製品品質を確保することは組織の死活問題であったからである。
(2)供給者への要求
ISO9000 シリーズは、購入者からの供給者に対する活動を要求しているが、それは自分が
買う物の品質が確かによい物である、という確信をもつためである。ISO9001:1987 では“計
画的で体系的な活動”を要求しているが、その要求の主たる内容は次のようなものである
(2000 年改訂でまたいくつかのものが加わったが、基本は変わっていない)
。
① トップポリシー(方針管理)
② 文書化(手順化)
③ 継続性(改善)
(3)検査重視の考え方
購入者からみて確実によい物を入手する1つの方法は検査である。当然の事ながら、この
検査は購入者による受け入れ検査ではなく、供給者による出荷検査を意味する。日本では供
給者自ら主導する品質保証が推進されてきたため、検査よりも工程で品質を作り込むことが
優先されてきた。供給者からみれば、検査は無駄なことである。可能であれば完成した製品
は 100%良品であるべきで、その理念に沿った品質保証活動が推進されてきた。
しかし、購入者の立場は違う、極端にいえば購入者は供給者の工程内不良には関心はなく、
自社が受け入れる製品品質にすべての関心が向く。購入者主導の品質管理は工程での不良防
止より、選別、検査に重点を置いたものにならざるを得ないのである。
(4)監査
要求事項が存在すると監査が始まる。これは品質保証にかかわらず、洋の東西を通じてす
べてのことに共通のことである。ISO9000 シリーズ規格の意図が審査登録(監査)になかっ
たことは前述した通りである。しかし、ISO8402:1984 には、
「監査」について次のような
定義がある。
「品質活動及びその関連する結果が前もって計画された事項と合致しているかどうか、並
びにこれらの計画した事項が効果的に実施され、目的達成のために適切なものであるかどう
かを明らかにするための体系的かつ独立的な調査」
4.ISO9000 シリーズ規格の変遷
4.1 1987 年版の JIS 化
日本における ISO9000 シリーズ規格に対する認識は、1990 年に入るまではないに等しかっ
た。多くの人が ISO9000 シリーズ規格についてほとんど知らなかった。しかし、1990 年に入
ると輸出企業を中心に ISO9000 シリーズ規格に基づく審査登録の問い合わせが輸出相手先か
ら頻繁に入ってくるようになった。
実際には 1989 年から日本においても審査登録活動が行われてはいた。
イギリス BSI は、
JMI(現
在の JQA:
(財)日本品質保証機構)と提携して審査登録を開始していたのであるが、まだ1年
に数件の実績がある程度の広がりでしかなかった。しかし、海外の輸出相手組織から審査登録
証を取るようにとの要求が相次いでくると、日本の中でも ISO9000 シリーズ規格への関心が
急速に強まってきたのである。
1991 年 4 月に(財)日本規格協会では、
「ISO9000 シリーズを JIS 化するための検討委員会
(委員長:久米均教授)
」を発足させ、10 月には JIS Z 9900∼9904 の 5 種類の規格を JIS 化
した。
この ISO 規格の JIS 化は GATT(現在 WTO:国際貿易機構)の精神にも整合するものであ
った。GATT の第5条4項には次のような一節があった。
「産品が強制規格又は任意規格に適
合していることの明確な保証が要求されている場合であって、ISO によって発表されている指
針・勧告が存在するとき又はその仕上がりが目前であるときは、締約国は、中央政府機関がそ
れらの指針・勧告又はその関連部分を適合性評価手続きの基礎に用いるものとする」
。
このように ISO9000 シリーズ規格が JIS 規格に導入されてくると、日本本来の規格との整
合性が問題になってきた。前節で述べたように ISO9000 シリーズ規格は購入者の立場で書か
れた規格である。JIS にはそもそも品質システムの規格そのものがなかったので、混乱はなか
ったが、1つ問題になったのは用語の定義であった。
品質保証の考え方に本質的な違いが存在するのであるから、用語の定義は当然に異なる。同
じ用語に2つの定義があることは本来容認できることではないが、この問題は後日に委ねられ
ることになった。
4.2 1994 年版への改訂
ISO では、原則5年に1回規格を見直すことになっている。TC176 でも 1990 年に入ると見
直しの議論が始まった。しかし、ISO9001∼9003 規格は、当時すでに ISO 創業以来の大製品
となっていた。ISO 事務局の予想を超える規格の売上になっていたのである。従って、1回目
の改訂(当初は 1992 年を予定)はあまり大きな改訂にせず、次回(当初は 1996 年)に大幅な
改訂をすることが無難であると方向付けされた。
ISO9000 シリーズ規格は、1980 年代に十分検討されずにいろいろなものが規格化され、規
格の番号の付け方及び全体の構成にまとまりのないところが随分目立っていた。改訂において
は、それらの整合性も見直しすることとなり作業は膨れ上がった。また Vision2000 という野
心的かつ長期的戦略も作成されるに及んで、1992 年の改訂は 1994 年にずれ込むこととなった。
1994 年の小改訂の基本的方向は次のようなものである。
【改訂の基本的方向】
①
顧客の満足度を高める。
②
品質改善の活動を重視する。
③
プロセスの考え方を導入する。
ISO9001 規格は構成からみるとなんら変化はないが、いくつかの個所に表現の見直しがされ
た。
【見直し内容】
①
序文に、第三者審査登録にも使えることを追加した。
②
引用規格に、Normative reference と Informative reference とに区分された。
③
定義に、
「製品」の定義が追加された。
④
4.1.2.3 管理責任者は、内部の人間であることが明記された。
⑤
4.1.3 マネジメントレビューは経営者本人がやること、が明確にされた。
⑥
4.2.1 品質マニュアルを作成することが明確にされた。
⑦
4.2.3(新設)品質計画書の作成が新設された。
⑧
4.3.3(新設)契約内容の修正が新設された。
⑨
4.4.6(新設)デザインレビュー(設計審査)が新設された。
⑩
4.4.8(新設)設計の妥当性確認が新設された。
⑪
4.13.4(新設)予防処置が新設された。
⑫
4.17 監査員の独立性の要求が 4.1.2.2 から移動された。
ISO9002 規格は、付帯サービスの項が追加されたため、ISO9001 規格とは 4.6 設計を除
いてほとんど同じ内容の規格になった。
ISO9003 規格は、
「契約内容の確認」
、
「顧客支給品の管理」
「是正処置」
「内部品質監査」
の4つが追加され、ISO9002 規格との違いがあまりなくなった。
以上の改訂で、相対的に ISO9001∼9003 の違いが少なくなったため、ISO9001/9002/9003
規格という3モデルもの規格が本当に必要なのか、という議論もされたが、この時点では深
く議論されず次回に持ち越しとなった。
なお、この改訂による審査登録への影響については小改訂ということもあり、改訂版の審
査登録への切り替えについては大きな議論にはならなかった。TC176 では審査登録について
特に議論はなく(TC176 の Scope に入っていない)
、各国認定機関の方針のもと、各審査登
録機関が 1987 年版から 1994 年版への切り替えを実施した。
4.3 2000 年版改訂
1994 年の改訂は、大幅な変更は多くの ISO9000 シリーズ規格を構築した組織の努力を撹乱
するリスクにつながるという判断で、小幅なものに留まった。しかし、2000 年改訂では、品質
の分野におけるさまざまな進展と ISO9000 シリーズ規格の実施運用で積み上げられてきた数
多くの経験に配慮し、ISO9000 ファミリー規格の根本的な見直しが行われた。
以下に、主な変更点を挙げる。
(1) 汎用性の向上
ISO9000 ファミリー規格をまず採用したのは製造業の大企業であったが、最近は数多くの
国々でサービス業及び政府機関などの中小規模の組織がこの規格を実施するケースが増えてい
る。規格を理解しやすいものにし、このような分野における規格の実施を容易にするために、
改訂版の規格は製造業に偏らない用語の使用に努め、今まで以上に使いやすいものにした。
(2) コア規格
ISO9000 ファミリーの規格数が削減され、その選択ならびに利用の仕組みが単純になった。
改訂後は“コア規格”が4つとなり、これら4つのコア規格を1セットとして活用すること
により最大限のメリットが引き出せるような構成になっている。
【2000 年版コア規格】
・ISO 9000:基本及び用語
・ISO 9001:品質マネジメントシステム―要求事項
・ISO 9004:品質マネジメントシステム―パフォーマンス改善の指針
・ISO 19011:品質マネジメントシステム及び/又は環境マネジメントシステムの監査に関
する指針
(3)一対の規格
ISO9001 規格(要求事項)と ISO9004 規格(パフォーマンス改善)は、
“整合性のとれた
一対の規格”として組み合わせて利用することを意図して作成されている。従来 ISO9004
規格は、ISO9001 規格の付属のように思われていたが、品質改善のための規格として一対で
使用できるようにした。
(4) プロセス重視
ISO9001:2000 は、製品及びサービスの製造、販売、納入等のビジネスプロセスに沿って
構成されており、1994 年版の 20 項目の構成よりも組織内における実際の仕事の流れを正確
に反映したものとなっている。2000 年版の構成の基礎となっているのは、
「経営者の責任」
、
「資源の運用管理」
、
「製品実現」
、
「測定、分析及び改善」という新たな4つの主項目である。
(5)顧客満足
ISO9000 ファミリーにおける“品質”とは、顧客要求事項を満たすことを意味している。
1994 年版では不適合を防止することにより顧客要求事項を満たすことであったが、改訂版で
は、顧客満足度を測定するという要求事項が新たに加わることでこの点がさらに強調された。
(6) トップのリーダーシップ
2000 年版では、品質に関するトップマネジメントの責務を改めて強調し、スタッフや顧客
とのコミュニケーションを図ることなどを要求事項として加えることでさらに拡張している。
(7)PDCAサイクル
ISO9000:2000 ファミリーでは継続的改善を要求事項の1つと明確に規定し、PDCAの
サイクルをその中核要素としている。
(8) ISO14001 規格との両立性
ISO9001:2000 は、環境マネジメントシステム規格である ISO14001 との両立性を最大限
有するよう配慮して作成された。また、ISO19011:2002 規格はどちらにも適用可能な監査の
規格である。
(9)品質マネジメントの原則
2000 年版は「8つの品質マネジメントの原則」を基礎に作成されている。ISO9004 規格に
も自己評価のための指針が含まれており、組織が自らの品質の“成熟度”を見極めて向上させ
ることを支援している。この指針は、ISO9001 規格(品質マネジメントシステム)
、各種品質
賞取得に向けての努力、TQMプログラムのいずれともリンクさせて活用することができる。
以上