子どもを取り巻くメディア環境 初瀬基樹 11月のクラス懇談会では、「すくすく」「きらきら」とも「子どもとメディアについて」がテーマで した。私も、今年度、保育者養成校で何コマか授業を受け持っているので、先日「子どもを取り巻くメ ディア環境」についての話を学生たちにしてきました。 今から10年ほど前、福岡のNPO「子どもとメディア」に協力を依頼して、熊本市保育園連盟で「子ど もの実態調査」を行ったことがあります。「子どものメディア」の代表理事でもある清川輝基氏や山田 眞理子先生をお呼びしての講演会等も行いました。10年前でさえ、乳幼児のテレビ、ビデオの視聴時間 の多さ、外遊びの少なさ、睡眠不足などなど、心配な点が多く明らかになっていたのですが、それから 10年が過ぎ、子どもを取り巻くメディア環境は、改善されるどころか、スマホ、タブレット等の登場で ますます悪化してしまっているようです。 以前、山田眞理子先生が学生たちとやったという、昔のアニメと今のアニメのオープニング映像の比 較を私も学生たちとやってみました。40年ほど前のアニメ「アルプスの少女ハイジ」と現代のアニメ 「ワンピース」のオープニング映像の間に、カット割り(カメラの視点が切り替わるところ)がいくつ あるかを比較するというものです。ハイジがゆったりと12∼3カットなのに対し、ワンピースは瞬きも 出来ないぐらいにパッパッパッパッと画面が変わり、少なくとも70以上?とても数えきれないぐらいで した。学生たちもさすがに「目がチカチカする」と言っていました。本能的に光るもの、早く動くもの、 音の出るものに目が向くので、現代のアニメは目が離せないような作りになっていることがわかります。 さらに、アメリカでも人気の日本のアニメ「ワンピース」ですが、アメリカでは、日本で放送されて いる映像と全く同じ物が放送されているわけではないという比較映像も紹介しました。「銃」は「水鉄 砲」に換えられていたり、「爆弾」は「刀」に、「たばこ」は消されていたり、「飴」に換えられてい たり、「お酒」は「水」や「ジュース」に、「流血」している場面からは「血」が除かれ、「入れ墨」 も消されていたり、「女性の肌の露出」も少なくしてあったりと、アメリカでは多くの規制が入ってい て、同じアニメの同じ場面であっても、子どもたちへの影響がしっかりと配慮されていることがわかり ます。最初は「え∼!? ヤダ∼、おかしいよね∼」などと言っていた学生たちも「知らず知らずのう ちに自分たちの感覚が麻痺してしまっていることに気付きました」と感想を述べていました。これだけ メディアへの規制が厳しいアメリカでさえ、「子どもたちは18歳になるまでに4万回もの殺人を目撃し ている(テレビ等のメディアを通して間接的に目撃している)」と言われています。規制が無いに等し い日本の子どもたち、テレビ、ビデオ、スマホ、タブレット等から流れてくる過激な映像によって、 いったいどれだけの影響を受けているのでしょうか? 最近ではスマホやタブレットに子守りをさせている光景も珍しくなくなってきました。「鬼から電 話」のようなアプリを用いて、「“しつけ”と称し、子どもを脅して言うことを聞かせている」という 例もあるという話をすると、学生から「実際に実習先の園で、お昼寝のときに先生が使っていました」 という報告も・・・。呆れてしまいますね。「脅しで信頼関係は築けない」ことを学生たちに伝えてお きました。 スマートフォンとの付き合い方を考えさせられるタイの動画も紹介しました。とてもステキな動画で、 紙面では動画をお見せできないのが残念です。どんな動画かというと・・・、 子守りを任された新米パパ、ベッドで寝ていた赤ちゃんが泣きだして困ってしまいます。そこでママ に電話すると、ママは赤ちゃんの好きな動画をスマホで見せるように言います。パパはその通りにしま すが、赤ちゃんは泣き止みません。パパは今度はビデオ通話で赤ちゃんにママの顔を見せ、ママは画面 越しにイナイイナイバーをしたりして、一生懸命赤ちゃんをあやします。しかし、赤ちゃんは一向に泣 き止みません。パパは意を決して、スマホを下に置き、自分の両腕で赤ちゃんを抱きかかえます。する と赤ちゃんはぴたりと泣き止むという動画なのですが、見ていて涙が出そうになります。このCMを見 た学生たち、何人も「涙が出た。」「自分もスマホ依存になりかけてました。付き合い方を見直しま す」と言っていました。驚くことに、このCMを作ったのは、タイのdtacという通信キャリア(スマホ 等の会社)なんだそうです。「テクノロジーよりも愛(ぬくもり)が大切」というメッセージが伝わっ てきて、機器の良い面だけを見せて購買欲を高めようとする多くのCMとは一線を画しています。日本 でもこうした気の利いたCMが流れないかなと思います。 メディア機器の発達に伴い、子どもを取り巻くメディア環境は今後ますます変わっていくでしょうが、 まずはわたしたち大人自身がメディアとの付き合い方を見直していく必要がありそうです。
© Copyright 2024 Paperzz