【SBノート・1】 大江健三郎: モラリストの文学 -芹沢光治良の生涯の

【SBノート・1】
大江健三郎:モラリストの文学
-芹沢光治良の生涯の独特さー
モラリストについて
「人性批評家」:①習俗に詳しい。②魂とは何かを考える。③良い習俗に
合致した生き方。
…モンテーニュ、パスカル、ラ・ロシュフコー、ジッド、ヴァレリー、
モーロア。
16C・貴族らしい人。17C・教養ある紳士。18C・文明人。19C・社
会人。総ての意味を含むモラリスト。
人間への観察力有り、人間らしい人間、社会人として生きる、如何いう
魂の人かを考える。そういう意味の文学を創った人、芹沢光治良。
ブルジョア(昭和 5 年)
「崩滅する階級の一態」…右と左の間の時代にあって、戦略的な書き出し。
強烈な事を巧みに画く。…療養に臥す夫、隣室の囁き、音楽、スキーへの
誘い、抑圧される性…。
対立するものを一つのイメージに。…人の自然の欲求:抑圧する社会。
カトリックは信仰の中心:抑圧するもの。既製宗教を認める:距離を置く。
ブルジョア:貧民(フランス)
。
政治的社会の矛盾(革命後のロシア)
:個人生活の矛盾(澤夫人)
フィナーレ…様々な矛盾の中に舞踏会がある。
昭和 5 年という執筆時期。
巴里に死す(昭和 17 年)
動機付け(モチヴァシオン)が巧み。語り手の作家、医者の父、亡くな
った妻、利発な娘、…。
インド洋コイン拾いの話…植民地政策(社会的な目):夫の怒り(人の
習俗への目)
。
マルセイユの二人…夫の安堵:伸子の戦慄。
伸子妊娠で悟ったもの…①死を覚悟 ②神を見出す(自然の中の神、実
体は掴めない) ③新生(夫への対立感情が消える)
死・神・新生の主題は後年「神の慈愛」で甦る。
、生涯のテーマ。
終章が動機付けに見合う。
“ポーヴルママン”
、温かい感動。(新しい言葉が欲しい)
伸子、万里子、鞠子の三女性を重ね合わせる。
自信のない女性ではいけない。自分を生かすことで夫も生かす。
昭和 17 年当時の新しい女性像が浮かび上がる。
死者との対話(昭和23年)
悲しみに満ちている人。信頼できる知識人。
「死んだ人は還ってこない以上、生き残った人々は、何が判ればいい?」
(渡辺一夫と芹沢光治良の握手)
戦死した学徒に対する知識人の責任。
日本の知識人の難しい言葉。若者を真に教育できない。民衆規模での不
幸を招いた。
自分たちは之を直していくことを誓う。
唖の娘に懸命に話すベルグソン。
息子に懸命に語ってきた大江健三郎。創り出された音楽。
唖の娘に語っている神シリーズ。自然、宇宙、宗教、神。
戦後の決意を50年後も変えない。
終りに
“臨危而不変”何度も直面した危機に態度を変えなかった。
神の問題も危機ラインまで突き詰めた。本当の自分は変わらない。自分の
道を辿る。
危険を避けはしない。危険に近づいていきながら人間らしい生き方を持
ち続けた。それが芹沢光治良の生涯。
それを文学の側からまとめればモラリストの文学。
芹沢光治良全集を出して欲しい。
(文藝講演・有楽町朝日ホール、㍻ 6 年 3 月 20 日)