ノンシャラン道中記

ノンシャラン道中記
燕尾服の自殺 ︱︱ブルゴオニュの葡萄祭り︱︱
久生十蘭
めぐ
ル ウ ロット
積んでいるわけではなかろう、というのは、六つの家の
よろいど
一、因果は 廻 る小
屋馬車 の車輪。さわやかな初秋の風
の鎧
扉 扉 はみなち切れて飛び、横腹に書かれた、下腹の
ドア
が 吹 き ま わ る あ る 午 後 の こ と、 雛壇 のように作られた、
ふくれた天使やヴァイオリンの模様もすでに半ばはげ、
ひなだん
ソオヌ谷の、 目もはるかな見事な葡萄畑の下を、 通常、
屋根の上の炊事用の煙突さえ見る影もなく傾いているか
らである。
ル ウ ロット
やせた二匹の馬にひかれてのろのろと埃りをあげながら
御者台にはゆであげたように赤い色をした背の低い
ン
進んで行った。
男⋮⋮というよりは一種の脂肪の塊りと、 お 河童頭 の、
フォラ
このあたりは、
﹁オオル・リイニュ﹂とか、
﹁タン・ド・
かっぱあたま
クウヴ﹂などという名高い赤葡萄酒を産出するブウルゴ
齢 十八九歳ばかりとも見える
妙
のお嬢
Made
in Japan
あわ
さんが坐っていて、御者の唄う歌に 調 せて手拍子を打っ
としのころ
オニュ州の西南の谷間で、ヴェニス 提灯 ほどもある大き
ているのである。御者は大きな麦わら帽子を揺すりなが
ちょうちん
な葡萄の 房 が互いに触れあってチリン・カリンと鳴って
ら、こんなふうに陽気な唄を歌っているのである。
ふさ
いるのである。
パタション・パタポン
ン
ある町々をまわって歩く 渡り見世物師 の秋の大きな書入
俺の内
儀 さん
か み
れというのが、九月の三日から始まるモントラシェの葡
また逃げ出した
し
萄祭りがそれなので、その日はいろいろな 山車 やただ飲
どこへ行ったか
だ
み台などが沢山に出てて見世物師や渡り音楽師が山ほど
わからない。⋮⋮
ル ウ ロット
この 小屋馬車 も多分、そちらの方を目ざして進んでゆ
タ
すると、 響が物に応じるように 小屋馬車 の中からは、
ネ
くのであろうが、この風体ではあまりたいした 商売物 を
ル ウ ロット
集って来たって、これで充分だという事はない。
フォラ
そもそも、ブウルゴオニュとフランシュゴンテの間に
ノマアド
﹁ 無宿衆 ﹂と呼ばれる 渡り見世物 師の古びた 小屋馬車 が、
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の襲うところとなり、 クウルマイエールの谷間に墜落、
て、奇抜なるアルプス登山を企てたが、不幸にして突風
女二人の東洋人は、せんぱん、地球引力の逆理を応用し
そもそもかく成り果てた 顛末 を申し述べると、この男
ていた。
した一羽のペンギン鳥が、キョトンとして天井を見あげ
ている、その枕もとには、水槽の水から首だけをつん出
バスの研究生、狐のコン吉が、繩のようになってたぐまっ
には、身
体 中を繃
帯 でぐるぐる巻きにされた、コントラ・
ら中をのぞいて見ると、こじんまりと作られた寝台の上
だ﹂とわめく声がもれて来るのだ。そこで、試みに窓か
﹁うわアい、歌をやめてくれえ、足が痛い、ちぎれそう
そのたびに、
受け取らなくては、こんな間尺に合わない話はありませ
りでございます。それが駄目なら、せめて利子だけでも
判いたしましてぜひとも子供たちを引き取って来るつも
なったとのこと、私はこれからフランスの政府にゆき、談
れば私の大切な八人の小供はフランスの政府にお預けに
のも、なにごともみな天の配剤でございます。 承
ります
い、今度は空から落ちたお二人さまをお拾いしたという
しいお二人さま。せんぱんは私の子供たちのお世話を願
二、書き残し候、葡萄を盗んで喰べること。おなつか
このたびは前回のような 仇 な話ではない様子である。
姿を消したのである。 しかし、 この文面にも示す通り、
ヌ後家は次のような一通の手紙を残したまま、またもや
因縁といわねばなるまい。しかるにその夜、ジェルメー
ルメーヌ後家その人であったというのは、これも 宿世 の
小供を両人にたくし、飄然駆け落ちの旅に出発したジェ
しんぎん
うけたまわ
すくせ
ヒカゲノカツラの中で 呻吟 中、これなる無宿衆バルトリ
ん。私の旅費といたしましてはバルトリの貯金箱の金を
ほうたい
君ならびに同山の神氏に救助され、いまやモントラシェ
みな持ってゆきますから、お二人さんから、バルトリに
からだ
の町立病院に運ばれる途中なのである。
心配するじゃないぞ、とよくいい含めておいて下さいま
ベ リ イ ル
あだ
ところでバルトリ君の妻君なるものは、その昔ブルタ
せ。モントラシェまではまだ十日の道中ですが、途中で
てんまつ
アニュ海岸の一孤島、
﹁ 美しき島 ﹂で、八人の手に負えぬ
売物 ですから、そのつもりでよく面倒を見てやらない
商
かせて赤蛙でも喰べさせておいて下さい。これは大切な
うが、いよいよそれが手に入らないときは、よくいいき
ません。ただ、ペンギン鳥にやる鰯だけはお困りでしょ
れぬということもありますまい。気を落とすにはあたり
家でパンをもらうなりしてゆけば、十日や二十日は越さ
お腹 がすいたら、畑から葡萄を盗んで喰べるなり、百姓
水槽の縁をたたいて、
えない垂れ幕のうしろにいて、バルトリがペンギン鳥の
ても困りますから。ムッシュ・コンキーチは、客から見
れにやたらに 唾 を飛ばしますから、お客様に失礼になっ
ル・タヌにお願いしましょう。バルトリは口下手で、そ
たものの方がいいのです。呼び込みの口上はマドモアゼ
います。このへんではハイカラなものよりも田舎田舎し
﹁ブースさんの羊は毛のない羊⋮⋮﹂というあれがよござ
なか
と、 だんだん物覚えが悪くなるから気をつけて下さい。
﹁みっちゃんやア!﹂
つば
モントラシェに行ったらば、市場の元締めによく頼んで、
と叫んだら、なるたけ憐れっぽい声で、
タ
市場の前の広場を借りるようにして下さい。夜なかに起
﹁ あいよウ !﹂と返事をして下さい。田舎の客というも
ネ
きて歩き廻ると、キャベツの 芯 や馬鈴薯が沢山落ちてい
のは、この声を聞くとみな正体がなくなるほど泣き出し
ヴォア ラ ア
てとんだ儲けものをすることがあります。キャベツの芯
て、木戸銭のほかに、またいくらか﹁鰯代﹂を皿へ投げ
しん
は馬に喰わせ、馬鈴薯は煮るなり焼くなり、そちらでいい
込んで行ってくれます。これは三人のお 惣菜 代にして下
ず
ようにして下さい。なまけて探しに出ないと大損をしま
さい。書きたい事は山々あれど筆にも口にも尽せません。
醸造場のあるリルの村の広場に、ともかくもテントを張
三、火事が駆け出し広場は沸騰す。風車小屋と小さな
お二人さまの命の親J
か
す。それから田舎の人達は隙見ばかりしてなかなか入っ
右どうかよろしくたのみます。
ぢくい
て来ないものだから、 地杭 は深く打って、テントの下に
隙間のないように張って下さい。どうしても入って来な
いようなら、力づくで引っ張り込まなければなりません。
ラッパ
﹁呼び込み﹂ は 喇叭 とタンボリンを使うこと。 歌の節は
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すやら、必死になって殺伐な呼び込みをしている様子で
慾の命じるままに、ブリキ罐をたたくやら、半鐘を鳴ら
い﹁ 膃肭獣 の曲芸﹂がすでに先着していて、どうやら食
村の郵便局の前の広場には、これもあまり柄のよくな
なければ承知しないぞ、と威嚇したからである。
で興行をして、多少ともまとまった食物を送って寄越さ
けでこの三日間ごまかされて来た食慾は、ぜひともここ
キャベツのスウプの匂いが街道中に流れ出して、葡萄だ
事場の大きな窓からは、 豚のカツレツを揚げる煙りや、
が、その村に着いたのはちょうど夕飯時で、馬車宿の炊
けても商売になるまい、というバルトリの意見であった
月の出るまでせっせと働いているから、ここで小屋を掛
の間は男も女も葡萄畑で大きな背負い籠をしょって、夕
ることにした。まだ葡萄祭りまでには十日もあって、そ
出して行ってちょうだい﹂
いわね、わかったわね。⋮⋮さあ、わかったらすぐ駆け
て、はい、代は見てのお戻り、って工合にするのよ。い
説でもステテコ踊りでもなんでもいいから手早くやらし
へ馬をつないでしまうから、その間に君はミミイ嬢に演
だと気がついてもすぐ出られないように、入口のところ
こちら!﹄といって、みなテントの中へ押し込んで、嘘
あたしは木戸口で、
﹃へえ、人殺しはこちら! 人殺しは
人殺し! といって触れて歩いてくれたまえ、するとね、
ることにしましょう。君は村中を走り廻って、人殺し!
﹁バルトリ君、この上は仕様がないから、非常手段を用い
ハタと膝を打って、
みをしてしばらくの間考えを凝らしていたが、 やがて、
とでは、とても及びもつかない有様である。タヌは腕組
極めて、今さら、タンボリンや笛などという手ぬるいこ
オット セ イ
ある。
﹁人殺し!
というんだね?﹂
さて、小屋掛けを終り、万国旗と花飾りで幾分の装飾
﹁そうです、ってば!﹂
人殺し!
を加え、鼻眼鏡を掛けたペンギン鳥がタンゴ・ダンスを
﹁はい、ようがす﹂といって、バルトリは 身体 を毬 のよ
まり
踊っている絵看板を掲げて、これからいよいよ呼び込み
うにはずませて、ころげ出して行った。
からだ
を始めようとしたが、なにしろ隣りの呼び込みは猛烈を
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んで来た。
と竜土水の水管車が鉄砲玉のようにテントの中へ駆け込
バルトリ君を先登にして二十人余りの農夫と一人の憲兵
たったと思うと、火事だ!
とわめき立てる
く、広場の四方の小道からただならぬ人馬の喚声が湧き
にすがりながら垂れ幕の後ろによろけ込んで待つ間もな
﹁いや、承知しました、大丈夫﹂といって、コン吉が杖
て﹄というこの論文を早口で読みあげるのよ﹂
をしたら、﹃葡萄虫の幼虫とアンチピリンの関係につい
幕のうしろにころがっていて、ミミイ嬢が演説の身振り
﹁コン吉君、君はまた重病のところ気の毒だけど、その
それでシャルマーニュ伯爵は大変お可愛いがりになって、
も起きるにもまるで普通の人間と少しも違わないのよ。
嫌い。鶏 切 の丸焼きだの凝
血腸詰 などを喰べて、寝るに
ばダンスもする、金を賭けて 骨牌 もする、生
臭 ものは一
ン・パタポンという有名なペンギン鳥で、お辞儀もすれ
ンという人がシャルルマーニュ伯爵に献上したパタシヨ
違うのよ、この先祖というのも、一九二〇年にアムンゼ
ギン鳥は、南極や北極にいるペンギン鳥とペンギン鳥が
すね。そもそもただ今このところへ立ち現われますペン
もしなければどうか後学のために見ておく必要がありま
諸君は葉巻きを 喫 うペンギン鳥を見たことがありますか。
にかけますから、どうか見て行ってちょうだい。ときに、
す
ピカピカする燕尾服を着せて夜会のお供をさせたり、野
プ ウ ダ ン
なまぐさ
四、花ならば莟 、ペンギン鳥の若芽。満堂の紳士諸君。
遊びに連れて行ったりしていたのですが、ある日そのパ
なきがら
カルタ
どうも運の悪い時は仕様のないもので諸君の素晴らしい
タシヨン・パタポンがむやみにシャンパンを飲んだまま
火事だ!
水管車がここへ入って来たとたん、火事は諸君の威勢に
遠乗りに行って、その途中馬から河の中へ落ちて溺死し
にわとり
驚いたものか、とたんにパッと消えてしまったのよ。ど
てしまったのよ。 屍 は泣く泣くモンパルナッスの墓地に
もてなし
さい
うか悪く思わないでちょうだい、せっかくお見えになっ
葬ったのですが、毎年春先きになると、燕尾服を着たペ
つぼみ
たのにあいにくなんのお饗
応 もできませんが、その代り、
ンギン鳥が一匹ずつ生え出して来るんだよ。ここへ連れ
パリー
これから 巴里 の技芸学校出身のペンギン鳥の曲芸をお目
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なんか、まるで大学の先生みたいなんだ。オートバイに
在にあやつって、 真面目 な顔をして人をやり込める様子
も及ばないぐらいなのよ。ラテン語でも哲学でも自由自
かけたら、先祖のパタシヨン・パタポンなんか足もとへ
まだほんの莟 みたいなようなもんだけど、利口なことに
て来たのはちょうど今年の春芽を出した奴で、花ならば
よ。ミミイ嬢が気を悪くして何もしなくなってしまいま
したり、あまり強い 呼吸 をしたりしないように願います
ます。ただ、お断りしておきますが、曲芸の最中に 嚔 を
るため、 オ マ ケとしてミミイ嬢の有益な農事講話があり
を演じます。なお今晩は諸君をお騒がせした謝意を表す
あの水槽から現われて諸君の目の前で、奇想天外の曲芸
くらいだわ。いいですか、いまその 稀代 のペンギン鳥が、
きだい
乗る、テニスをやる、このごろは猟犬に凝って、ポイン
すからね。では、これから諸君のお目通りまで呼び出す
つぼみ
ターやセッターを飼って毎日 蚤 を取ってやっているんだ
ことにいたします。⋮⋮ハイッ! みっちゃんやア!
オット セ イ
くさめ
よ。気ぐらいの高いことはまるで公爵のお嬢さまみたい
だ
め
で、このハンカチの刺繍が気に入らないの、こんな音楽
五、 膃肭獣 の口髯に初恋の人の俤 あり。この世の中に
だ
じ
じゃ踊れないなんて駄
々 をこねてばかりいるんだよ。昨
日 ミミイ嬢のように立派なペンギン鳥は決して存在してい
ま
などもお風呂をつかっている最中にこの 石鹸 は臭いから
るべきはずのものでない。黒水晶のような眼、 絖 のよう
き
いやだなんて、愚図り出して、そこらじゅう水だらけに
に白く光る胸、しなやかな腕、ヒョイヒョイとこう飛び
シャボン
い
して跳ね廻ったあげく、腹を立ててすっかりその 石鹸 を
あがるようなその歩き方は、見る人の胸の中を熱くする
のみ
喰べてしまったのよ。もっとも、気嫌のいい時はピアノ
ような悩ましい様子なんだ。衣装は ぎ ゃ る そ ん ぬ好みで
おもかげ
を弾いたり、天井に足で字を書いたり、ぞっとするよう
一日中燕尾服を脱いだことはないが、それがまたよく似
かるわざ
きのう
な見事な 軽業 をして見せることもあるのよ、どうですか
合うことといったら燕尾服を着たデイトリッヒなどなか
シャボン
諸君、素晴らしいって、こんな素晴らしいペンギン鳥が
なか及びもつくものではない。朝起きるとまず水風呂を
ぬめ
他にもう一羽いるというなら、本当にお目にかかりたい
、
、
、
、
、
、
、
、
、
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したり、 このごろは曲芸にもあまり身がはいらなくて、
のそばに花を飾ったり、目に涙をいっぱい溜めて溜息を
を投げ出したり、またそれを胸に抱きしめて見たり、窓
笑ったかと思うと、急に顔をしかめて黙り込んだり、枕
なんとなくそわそわと落ち着かなくなって、大きな声で
ところが、どういう次第かこのリルの村へ着いてから
しく上品に一日を送られる。
るとか油虫をつかまえるとか、そんな工合に万事もの優
るわして歌を二つ三つ歌う。あとはたいてい昼寝をなさ
たと歩き廻って沢山の足跡をつける。気が向けば声をふ
しあがる。それからもし新聞があれば、その上をべたべ
浴びる。ゆっくり爪を磨いて、鰯とバナナの皮を少し召
六、 巴里 ではもうそろそろ新しい学期が始まる。コン
嬢を発見したのである。
の胸のところに頭をもたらせ、陶然と坐っているミミイ
先であしらって曲芸をしているたくましい 膃肭獣 の絵姿
屋の前に立て掛けられた絵看板、︱︱︱つまり風船を鼻の
ず、落胆しながらもどって来ると、つい隣りの見世物小
三人で手分けして村のはずれまで探し歩いても見つから
出かけたまま、小屋の開
場 になっても帰って来ないので、
かけたまま、シルクハットをヒョイと頭に載せて 戸外 へ
すると、その夕方、ミミイ嬢は好物の 泥鰌 の頭を喰べ
ことができなかった。
まちまちで結局一向にその原因というものを突き止める
ン吉は、いや不眠症のせいだろう、という工合に意見が
オット セ イ
どじょう
お辞儀をすべき場合に 筋斗 などを打つというわけで、ど
吉もタヌも修業の道は違うが、おのおのとある学校の片
つきあ
と
うも気もそぞろな様子なんである。その朝もタヌが、
隅に席を置く身分である。ミミイ嬢には気の毒だが、も
そ
﹁さ、みっちゃんや、鰯の頭をむしってあげようね﹂と
う長々と 交際 っているわけにはゆかない。そこでこれか
いれこみ
いったら、それが気にさわったものか、プイと立って行っ
ら 顛末 は筋だけを追って話すことにする。
パリー
て、壁の方を向いて坐ったまま夕方までしくしく泣いて
さてその次の日から、この村にはひんぴんと不可思議
とんぼがえし
いるのである。これは多分どこか工合が悪くなったのに
な盗難が起きた。生魚の類、パン菓子などがひんぴんと
てんまつ
違いない。バルトリは、気候のせいだろう、というと、コ
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して盗まれるのである。いろいろタヌキ探偵が名智をし
ぼって追究した結果、被害の家の廻りが必ずしっとりと
湿っているのである。そのうえある魚屋の店先には見覚
しっせき
えのあるシルクハットが遺留されてあった。犯人はつま
せき
グラム
えんか
りミミイ嬢なのである。ミミイ嬢はタヌの 叱責 に廉恥心
を感じ、一夕 、五合余りの牛乳と一〇〇 瓦 のバタを 嚥下 オット セ イ
して、山のように積んだ臓品のそばで自殺してしまった。
したた
その書置きには、 膃肭獣 の愛を得ようとして心ならずも
悪事を働いてはなはだ面目ない旨認 められてあった。
ネ
タ
叱責したタヌの嘆きもさることながら、せっかくの書
入れ時に大切な 商売物 をなくしたバルトリの悲嘆は目に
余ったので、コン吉は見るに見かね、ミミイ嬢の遺品の
皮をつけ、 葡萄祭り中無事にペンギン鳥の役割を果し、
パリー
久しく怠っていた学業に復帰するため、 ある秋は夕方、
タヌ共々にディジョンから汽車に乗って 巴里 へ帰った。
底本:
「久生十蘭全集 Ⅵ」三一書房
1970(昭和 45)年 4 月 30 日第 1 版第 1 刷発行
1974(昭和 49)年 6 月 30 日第 1 版第 2 刷発行
初出:
「新青年」
1934(昭和 9)年 8 月号
※「|渡り見世物《フォラン》師」と「|渡り見世物師《フォラン》」の混在は、底本通りです。
入力:tatsuki
校正:伊藤時也
2009 年 10 月 26 日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。
入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
お断り:この PDF ファイルは、青空パッケージ(http://psitau.kitunebi.com/aozora.html)を使っ
て自動的に作成されたものです。従って、著作の底本通りではなく、制作者は、WYSIWYG(見たとおりの形)
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