(平成15年12月発行) 肺癌についてのお話 (PDF 43.8

第70号
CHIGASAKI
市立病院だより
平成1 5 年1 2 月発行
発行/茅ヶ崎市立病院
茅ヶ崎市本村 5-15-1
ホームページアドレス
T e l .52-1111
http://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/
肺癌についてのお話
呼吸器外科
田中真人
1.はじめに
最近、癌で死亡される世界中の患者
さんで、肺癌は約 18%を占めており
ます。日本でも、平成 13 年の肺癌の
死亡者数は約5万5千人で癌全体の
トップです。20 年前は胃癌の患者さ
んが断然多く、現在胃癌の治療では世
界中でもトップクラスの我が国も、肺
癌の治療、特に進行肺癌症例について
は、欧米と同じく有効な治療法がない
のが現状です。
2.肺の解剖
人間の胸郭は左右 12 本の肋骨で囲
まれた籠でできており、各々の肋骨は
前方では胸骨、後方では脊椎で固定さ
れています。胸郭の中心には、気管や
気管支、心臓、食道、大動脈といった
生命維持に不可欠な臓器が存在し、そ
れを左右の肺がはさんでいます。
右肺は3つ、左肺は2つの袋(肺葉)
に分かれます。左肺は右肺より少し小
さいことが多いです。
肺は、肺動脈や肺静脈で心臓と直接
つながっていて、吸気で取り込んだ酸
素を肺静脈に乗せて心臓へ送り、全身
へ供給します。一方で、全身から戻っ
てきた血液は肺動脈から肺にはいり、
そこで二酸化炭素が除去され、体外へ
呼気として放出されます。
肺のリンパ節は気管や気管支の周
囲、心臓や大血管の周囲に存在してい
ます。因みに肺癌は発生した場所によ
り、転移しやすいリンパ節の部位が研
究によりわかっています。例えば、左
肺癌のリンパ節転移経路は反対側で
ある右の頚部へつながります。肺癌
の手術は肺葉切除とその転移リンパ
節の摘出(郭清)が基本手技です。
3.肺癌患者さんの最近の傾向
肺癌と煙草の関連は以前から指摘
されており、いわゆる間接喫煙による
発癌も有名な話です。また、若年から
の喫煙が肺癌の発病に大きく影響し
ており、20 才以降に喫煙を始めた
方々の肺癌の平均発病年令が 62.0 才
であるのに対して、20 才未満で喫煙
を始めた方々は平均 57.6 才と有意に
早く発病しております。また、ここ数
年女性の肺癌の患者さんの人数が増
えています。これは、女性の喫煙率が
男性と比べて低下していないことが
原因のようです。おまけに、女性は染
色体の中のある遺伝子が関与するた
めに、喫煙で誘発される発癌への感受
性が高いことも、それに拍車をかけて
いるようです。その一方で、若年者の
肺癌の患者さんは女性の非喫煙者に
多く、この年代の方々にとって喫煙以
外の要因が肺癌の発病に関与してい
ると思われます。全国規模での原因追
求(遺伝子や環境因子の影響の研究)
が急務と思われます。
4.肺癌検診について
現在、日本では毎年約 700 万人の
方が肺癌検診を受けられています。喫
煙歴のチェックと胸部レントゲン写
真撮影がその基本ですが、喀痰細胞診
(顕微鏡で癌細胞が含まれていない
かを調べる検査です)や胸部 CT(高
分解能 CT を含む)もオプションとし
て行われているようです。
肺癌検診を受けた方は、恐らくご自
分の胸部レントゲン写真をご覧にな
っていると思います。担当の医師から
「あなたの肺はきれいです」「肺気腫
があります」「昔、肋膜(結核のこと
です)にかかったことがありますね」
といったお話をお聞きになったこと
と思います。胸部レントゲン写真は、
昔からある検査ですが、非常に簡便で、
被爆も少なく安全な検査です。但し、
心臓や肋骨に重なる場所は異常な陰
影を指摘するのが困難なので、CT 検
査の助けが必要となります。
でも、たった一枚のレントゲン写真
が肺癌を教えてくれることも珍しく
ありません。最近の話ですが、開業医
の先生からのご紹介で、肺癌検診を受
けられた 55 才の男性の方が僕の外来
にいらっしゃいました。これまで一度
も病院のお世話になったことがない
という健康な方でしたが、持参してい
ただいた 1 枚のレントゲン写真には
右肺に大きさ2㎝の異常な陰影が写
っていました。肺癌に典型的な陰影だ
ったので、早速術前検査を手配し1週
間後には肺癌の根治手術(肺葉切除及
びリンパ節郭清)を受けていただきま
した。幸い早期の肺癌症例で、現在、
元気に職場復帰なさっておられます。
この方は、今年初めて肺癌検診を受け
られましたが、早期に発見治療ができ
て不幸中の幸いでした。また、手術を
契機として禁煙なさっておられます。
もし、ご自分の胸部レントゲン写真
をご覧になったことがなければ、特に
喫煙歴のある方は、お近くの医療機関
を受診していただければと思います。
5.肺癌の治療について
先に述べましたが、進行肺癌は非常
に治療が困難です。肺癌の診断がつい
た時点で、手術可能な方は約 40%で
す。残りの方は、抗癌剤治療(化学療
法)や放射線治療が優先されます。た
だし、手術可能な患者さんの全員を根
治できるわけではなく、不幸にして術
後に再発や転移が起きる方が半数近
くいらっしゃいます。つまり、大げさ
な表現ですが、手術で肺癌が治るケー
スは、約 20%なのです。この数字が、
肺癌の治療の困難な現状を示してお
り、今後この数字を少しでも上昇させ
るために、定期検診や肺癌検診による
早期発見、早期治療が望まれます。も
ちろん、化学療法や放射線治療も日々
進歩しており、手術を含めた 3 者の治
療法のコンビネーションが大切なの
は言うまでもありません。
6.最後に
以上、肺癌についてお話いたしまし
た。喫煙者の方々には、ぜひ禁煙をお
願いします。いきなり禁煙は無理だ、
という方には喫煙本数を減らすか低
タールの煙草に変更なさるのをお勧
めします。禁煙外来を受診なさるのも
よいかと思います。
胸部レントゲン写真で異常陰影を
指摘されたら、いつでも当院へお越し
ください。
最後までおつきあいいただきあり
がとうございました。