接着歯科 - ラジオNIKKEI

歯科医の時間∼デンタルサロン∼
ラジオ NIKKEI 2005 年 10 月 18 日午後 9 時 15 分∼午後 9 時 30 分放送
企画協力:日 本 歯 科 医 師 会
提
供:昭和薬品化工株式会社
接着歯科
神奈川県会員
諸星
裕夫
●評価の高い 4-META/MMA-TBB 接着性レジン●
1983年に誕生した、4-META/MMA-TBB 接着性レジン(スーパーボンド C&B)は、歯
質・金属・ポーセレンヘの優れた接着強さを示すだけでなく、歯髄・歯周組織にも親和性
に富むレジン系接着材料として高く評価されてきました。なかでも、これまで水酸化カル
シウム製剤のみが適応されてきた直接歯髄覆罩法にとっては、密封性に優れ、歯髄為害性
がほとんどなく、審美的修復が容易な材料として臨床応用されています。そこで、今回は、
1993年に接着臨床研究会により、スーパーボンド C&B の歯髄安全性が臨床報告されて以来、
行ってきた臨床、1995年より行ってきた病理組織学的な研究による知見から、臨床の有用
性と応用時の注意点について説明します。
1983年といいますから、今から22年前に誕生した4-META/MMA-TBB 接着性レジン(サ
ンメティカル社のスーパーボンド C&B)は、歯質・金属・ポーセレンへの優れた接着強さ
を示すだけでなく、歯髄・歯周組織にも親和性に富むレジン系接着材料として高く評価さ
れてきました。スーパーボンドを使った直接歯髄覆罩法の臨床応用に関する研究は、これ
まで数多くなされてきました。そして、これらが評価され、近年、医療保険に直接歯髄覆
罩法が導入されるに至りました。これまで、硬化しない、密封性のない水酸化カルシウム
製剤のみが適応であった直接歯髄覆罩法にとって、密封性に優れ、歯髄為害性がほとんど
なく、審美修復ができる材料として、スーパーボンドが多目的に臨床応用されています。
今回は、スーパーボンドを用いた直接歯髄覆罩法の臨床術式、歯髄への影響と臨床での
有用性について、臨床例を示しながら報告したいと思います。
●症例の紹介●
はじめにご紹介する症例は、49歳の女性で、朝の出勤時、自宅マンションの階段にて転
倒し、口唇部を受傷、上顎左側中切歯は、歯冠2分の1で破折、露髄していました。破折
片は細かく砕けていました。自発痛(−)冷水痛(+)で、受傷2時間後に来院されまし
た。頭蓋その他の体幹への外傷は認められず、受傷は顔面部・口腔に限局しておりました。
露髄面を生食水で洗浄後、止血したところで、10%クエン酸・3%塩化第二鉄の象牙質
処理溶液にて、10秒間処理を行い、生食水にて洗浄後、通法に従いスーパーボンドのクリ
アーによる筆積み法にて、直接歯髄覆罩法を行いました。その後、日を異にして、コンポ
ジットレジンで、歯冠形態を整えました。3年の経過時点では、臨床上まったく問題はあ
りません。
このような外傷による露髄を伴う上顎中切歯の歯冠破折症例では、硬化しない水酸化カ
ルシウム製剤の応用は、仮封が難しく困難でした。このため、これまでは、歯髄除去療法
(生活歯髄切断法や抜髄法)の後、歯冠修復処置を選択せざるを得ませんでした。スーパ
ーボンドの応用は、広義の MI(ミニマルインターベンション)治療を審美的に行えること
になりました。
続いて、長期臨床経過症例をご紹介したいと思います。受傷時は15歳の女性で、午後4
時ごろ自転車にて転倒し、上顎右側側切歯を破折し直ちに来院されました。歯冠は3分の
1程度破折し、髄角部に露髄を認めました。カルテには多少の痛みありと記載されていま
した。露髄面を生食水で洗浄後、止血したところで、10%クエン酸・3%塩化第二鉄の象
牙質処理溶液にて、10秒間処理を行い、生食水にて洗浄後、通法に従いスーパーボンドの
クリアーによる筆積み法にて、直接歯髄覆罩法を行いました。この時、持参された破折片
を被着面処理後、接着しました。
施術後10年の経過観察では、わずかな歯冠色の変化は見られましたが、その他の異常は
認められず、良好な歯髄保存ができていました。結婚のため転居され、現在(15年7か月
経過)の状態の確認は取れておりませんが、今後、変色が気になりラミネート・ベニアク
ラウンを施術するに当たっては、いわゆる補綴適応年齢の時期が十分コントロールできた
ものと考えております。
●スーパーボンド使用の留意点と課題●
これまで、スーパーボンドによる直接歯髄覆罩法については、10年以上に及ぶ良好な長
期臨床経過を示してきました。そこで、臨床上の留意点、課題についてまとめてみます。
①歯髄診断と適応症について
直接歯髄覆罩法については、制腐的条件下で非感染歯髄が偶発的に露髄した際に適応さ
れ、齲蝕象牙質が付着していない切削器具による窩洞修正中に露髄させた症例が主な適応
症になります。露髄面の大きさではなく露髄面の汚染状態、どこまで感染しているかが重
要なポイントになります。出血の量と質、歯髄のエイジング、ならびに既往症が判定要因
になります。また、患者さんの治療に対する理解と協力が必要不可欠であることは言うに
及びません。歯髄診断の確実な方法はまだ確立されておらず、歯髄のもっている活性力(予
備力)、さらに臨床症状を精査することが重要と考えます。
②覆髄面の止血と仮封について
すでに真坂らにより報告されているように、50歯に及ぶ矯正治療のための便宜抜去歯を
用いたスーパーボンドのヒト直接歯髄覆罩法の検討結果では、約50%にデンティンブリッ
ジの形成が認められました。ほとんどの被検歯に炎症症状はなく、止血と緊密な覆髄面の
封鎖が良好な予後を導く重要な因子となることが示唆されました。
出血状態が続くと、レジンによる封鎖が不十分となり、レジンの接着性能を十分に発揮
できないだけでなく、歯髄内圧の上昇を引き起こし歯髄の創傷治癒が遅れることにつなが
ると思われます。このため、止血困難な症例では、ケミカルサージェリーやレーザー照射
による止血法が考えられています。しかし、ケミカルサージェリーで使用する次亜塩素酸
ナトリウム溶液は、スーパーボンドの硬化を阻害しますし、レーザー照射された象牙質面
はコラーゲンが熱変性を起こして、極度に接着強度が低下するとの報告がされています。
いずれにせよ、歯髄の露髄面に対して細心の配慮が必要であり、生食水などによる厳密
な洗浄、ブローエアーによる、やさしい乾燥処置、そして2次感染を起こさない緊密な仮
封処置が重要と考えます。乳歯・齲蝕象牙質・レーザー照射で変性した歯質への接着強さ
(仮封性)については、いまだ未解明の部分が多いように思います。
③スーパーボンドの歯髄への影響
1995年までスーパーボンドの生体親和性については十分なデータはなく、直接歯髄覆罩
法への適用は疑問視されていました。しかし、その後の病理組織学的研究によりスーパー
ボンドの細胞毒性が弱く、生体親和性が高いことが明らかとなり、また近年、スーパーボ
ンドに関する数多くの実験的研究が行われ、歯髄への有用性が示唆されるに至りました。
特に、スーパーボンドの成分である MMA は、歯髄の創傷治癒に有効的に働くだけでなく、
口腔内細菌の増殖抑制作用も示すことが明らかにされてきました。私がこれまでに施術し
た10年以上に及ぶ長期臨床経過症例でも、ほとんど、異常な症状は認められておりません。
このことは、臨床応用に当たって、術式上の留意点を確実に実行することで、長期良好
な経過をみたと考えております。
◆番組1タイトル(1研修コード)の研修で、日本歯科医師会生涯研修の1単位を取得で
きます。詳しくは日本歯科医師会へ。