BIOS and OS Customization Service for Embedded Products 番井昭彦 * 宇都宮智 * Akihiko Ban-i Satoshi Utsunomiya * ProDeS グループ システムプロダクト事業部 第一技術部 AM,AR シリーズの競合力強化のために実施してきた,BIOS,および OS カスタマイズへの取組みにつ いて,そのサービス概要,適用事例について紹介する.また,今後の目指すべき取組みについて紹介する. This paper introduces PFU's approach to BIOS and OS customization, which has been implemented for strengthening the competitive advantages of the AM and AR series, together with an overview of its service and an example case of its application. This paper also introduces the future approach PFU should take. 1 まえがき からは,Windows 注1)などの PC 用 OS が搭載され PFU はこれまで,ボードコンピュータ(AM シリー ズ) ,エンベデッドコンピュータ(AR シリーズ)を組 ていることを見せたくない(非 Windows 化)という 要望も多い. この背景の中,PFU では,1996 年より,自社エン 込み市場に投入してきた. 市場からは,ハード素材のみならず,BIOS,OS の ジニアによる BIOS 開発,および OS 開発を行ってお サポート,およびカスタマイズの要望も多く,市場ニー り,I/O バスエラー検出機能,メモリエラー検出機能, ズに応えるべく,AM,AR シリーズ向けの BIOS, イベントログ機能強化などの PFU 独自機能を実現して OS カスタマイズ・サービス の提供を開始した. きたが,前述の背景より,組み込み市場での顧客要望に 本稿では,AM シリーズ,AR シリーズ向け BIOS, 応えるべく,2004 年より,AM,AR シリーズ向けの 参1) ,参2) OS カスタマイズ・サービスの内容について実例を交え て紹介する. BIOS,OS カスタマイズ・サービスの提供を開始した. 「長期供給と高信頼性」に加えて,本サービスによる 「きめ細かなカスタマイズサービス」によって,顧客の 2 開発の背景とねらい PFU が組み込み市場に AM シリーズ,AR シリー 要望に応えることで,半導体,医療,アミューズメント, 工作機器などの分野で,顧客信頼を獲得し,多くの製品 を提供してきた. ズを投入してから 3 年が経過した.この市場では,長 期間の使用に耐え得る,信頼性の高い製品の供給が望ま 3 また,仕様においても,それぞれの分野に特化した BIOS,OS カスタマイズ・サービ スの概要と特長 要件が存在しており,汎用の PC ではその要件を満た ここでは,BIOS,OS カスタマイズ・サービスの概 れている. さないことが多い. 要と特長について紹介する. 例えば,組み込み機器の使用者は,その装置を PC としては扱わないため,組み込みコントローラには,立 ち上がり時間の短縮(10 秒以内) ,強制電源断(シャ ットダウンなし)の要望が多く,組み込み機器の提供者 26 注1)Windows は,米国 Microsoft Corporation の米国およびそ の他の国における登録商標である. PFU Tech. Rev.,17, 2,pp.26-30(11,2006) 組み込み製品における BIOS,OS カスタマイズ・サービス 3.1 BIOS カスタマイズ・サービス 起動時間の短縮を実現している. AM シリーズ,AR シリーズ向け標準 BIOS をベー スとして,顧客の希望する機能を組み込んだ BIOS を 開発,提供するサービスである.カスタマイズ要件とし 具体的なカスタマイズ項目は以下のとおり. 1)メモリ診断処理 OS が初期化するメモリ領域について,BIOS のメ モリ診断処理を省略する.OS 種別により,初期化す ては, 1)立ち上げ時間の短縮 る領域が異なるため,OS を意識した対応が必要とな 2)BIOS 立ち上がりメッセージの抑止 る. 3)BIOS デフォルト設定値変更 2)未使用デバイスの初期化処理 顧客が使用しない I/O 装置に関する初期化処理を 4)顧客開発の固有デバイス対応 (デバイス初期化処理) 省略する.例えばシリアルポートなどを使用しないシ などの要望が多い. ステムなどはその初期化処理を省略する. 3)未使用 BIOS 機能に伴う初期化処理 3.2 OS カスタマイズ・サービス 顧客システムで不要な BIOS 機能に関する初期化 Linux 処理を省略する.例えば,SMBIOS に関する初期化 をベースとして AM シリーズ,AR シリーズ向けの顧 処理の省略,電源制御(サスペンド/レジューム)に 客専用 OS を作成するサービスである.カスタマイズ 関する初期化処理の省略などである. Windows XP Embedded,Red Hat 注2) 要件としては,表−1などの要望が多い. (2)OS カスタマイズ Windows XP Embedded の HORM 4 カスタマイズ事例 ここでは,主なカスタマイズ事例について紹介する. (Hibernate Once / Resume Many)機能を使用し, 常時ハイバネーション状態から起動するように設定する ことで,起動時のスナップショット復元(アプリケーシ ョンの自動起動)に加えて,OS 起動処理時間の短縮を 4.1 クイックブート対応 非 PC 的な用途で使用される組み込み機器の場合, 実現している. このように,顧客要件に基づく BIOS,OS カスタ 電源投入からシステム動作可能状態になるまでの時間を マイズによって,電源投入からアプリケーション動作開 極力短くする必要がある. 始まで,最短で 10 秒となるカスタマイズを実現してい この要望に応えるため,BIOS,OS カスタマイズに る. て対応している. BIOS 処理を機能ごとに細分化し,各 BIOS フェー 4.2 Fail Safe Boot(起動デバイスの二重化) 対応 ズでの動作時間を測定する.その結果を元に,顧客シス HDD 異常によって OS が起動できなくなった場合, (1)BIOS カスタマイズ テムで不要な処理をスキップすることによって,BIOS ●表−1 OS カスタマイズ要望例● 区 分 要 望 内 容 そのシステムは運用継続不可能な状態となり,復旧作業 が完了するまで,運用が停止してしまう(図−1参照) . この対応として,BIOS,OS カスタマイズによって, 簡易的な起動デバイスの 2 重化機能を実現している. Windows ブートロゴの非表示 非 Windows 化 不明なデバイス検出時のポップアップ抑止 ライトフィルタ(EWF)を利用した起動時間 HORM 対応 エラー カスタムシェル対応(タスクバーの非表示) 短縮 即断対応 注2)Red Hat は米国その他の国で Red Hat, Inc. の登録商標もし くは商標である. PFU Tech. Rev.,17, 2,(11,2006) BIOS 起動 OS OS 起動が出来なかった場合,そのままシステムが停止 保守完了まで運用停止! ! ●図―1 通常運用● (Fig.1-Normal operation) 27 組み込み製品における BIOS,OS カスタマイズ・サービス OS の動作状態を BIOS に通知するためのインタフ ェースを追加し,OS 起動完了時に,このインタフェー スを通して,OS 起動完了を BIOS に通知する. この完了通知を BIOS で検出できなかった場合, る(図−3参照) . (2)OS カスタマイズ Windows ブートロゴの削除,カスタムシェルによ るタスクバー,スタートメニューの非表示, BIOS は OS が正常に起動できなかったものと判断し, minLogon(ログオン処理の削除,Ctrl + Alt + Del Boot デバイスを切り替えてシステムをリセットする. キーの抑止) ,不明なデバイス検出時などに表示される リセット後は,切り替えたもう一方の予備デバイス ポップアップの抑止にて対応している. から起動し運用を継続する(図−2参照) . なお,予備デバイスとしては,HDD,CD/DVD の みならず,ネットワークも選択可能である. 4.4 バッテリーレス対応 寿命部品排除の観点から,バックアップ用バッテリ このように,Fail Safe Boot 機能の実現により,特 ーを搭載したくないという要望が多く,BIOS 設定を 別なハードウェアを追加することなく,起動デバイスの 不揮発性のメモリ領域(Flash メモリ)に退避する 二重化を実現し,ダウンタイムの軽減を図っている. BIOS カスタマイズにて対応している. 本カスタマイズにより,バックアップ用バッテリー 4.3 非 Windows 対応 が未搭載のバッテリーレスシステムにおいて,BIOS 組み込み機器では,非 PC 化の観点から,BIOS 立 ち上がり画面,Windows 起動ロゴを表示したくない の設定値変更,変更された設定値の保存が可能となる (図−4,図−5参照) . との要望が多く,BIOS,OS カスタマイズにて対応し 4.5 HDD レス対応 ている. (1)BIOS カスタマイズ 組み込みシステムでは,HDD クラッシュによるシス BIOS メッセージ表示を抑止しお客様ロゴを表示す テム障害の懸念があり,HDD レスシステムへの要望が 正常運用時 起動 BIOS 完了 OS OS 起動時に BIOS に対して起動完了を通知.これに より BIOS は正常起動と判断する. 1)標準 BIOS 2)カスタマイズ BIOS ●図―3 お客様ロゴの表示● (Fig.3-Displaying the customer's log) 異常発生時 エラー 起動 BIOS 完了 1)設定変更時 OS CMOS(RTC) 予備 OS BIOS 通常 BIOS 設定は CMOS(揮発性メモリ)に退避 2)起動時 切替 予備 CMOS(RTC) OS 起動が出来なかった場合,BIOS で予備デバイス (ネットワークブート含)から Boot Default 値 保守作業中も運用が可能! ! ●図―2 Fail Safe Boot 運用● (Fig.2-Operation using Fail Safe Boot) 28 バッテリーレス時,CMOS データ不定(チェックサムエラー) をトリガに,Default に設定 ●図―4 通常運用● (Fig.4-Normal operation) PFU Tech. Rev.,17, 2,(11,2006) 組み込み製品における BIOS,OS カスタマイズ・サービス ムを構築することができる(図−7参照) . 多い. (1)CF(コンパクトフラッシュ)システム ライトフィルタ(EWF)を使用した OS カスタマイ 本システムの特長は以下のとおり. 1)HDD,CF は不要.ディスクの内容をサーバに 置き,ネットワーク起動. ズにより,Windows XP Professional 相当のシステ ムを小容量の CF に組み込むことができる(図−6参 2)OS,アプリケーション,データはサーバにて一 括管理. 照) . 本システムの特長は以下のとおり. 3)システムはコントローラ本体の CPU とメモリ上 で動作するため,システムの動作速度は,ネットワ 1)HDD レス実現で,HDD クラッシュした場合の ーク速度,サーバ能力(クライアント数)に非依存. システム障害の心配が不要. 2)ライトフィルタ(EWF)設定を有効にすること で,CF への書き込み禁止設定を可能とし,データ 4)コントローラ本体の電源断でもシステム破壊無し. 5)コントローラ本体にはデータが無いため,万一コ ントローラが盗難にあった場合でも,データは盗ま の破壊を防止. れない. 3)CF の書き込み回数制限について,寿命が伸び, 故障要素を低減. 4)OS シャットダウン処理不要のため,手軽に電源 の ON/OFF が可能. 5 今後の取組み 5.1 標準品へのフィードバック (2)ネットワークブートシステム OS カスタマイズにより,ストレージ不要のシステ 顧客からの要望の多いカスタマイズ要件を,標準製 品にフィードバックしていく. 1)設定変更時 (1)BIOS 関連 「クイックブート機能」 , 「Fail Safe Boot 機能」を CMOS(RTC) 標準 BIOS に組み込んでいく. (2)OS 関連 Flash メモリ BIOS 設定変更時,CMOS,Flash メモリに退避 HDD レスに対応した CF システムを,Windows XP Embedded で構築し,AR シリーズ向けに標準 OS オプション化していく. 2)起動時 5.2 サポート OS の拡大 CMOS(RTC) (1)Windows Vista 対応 Windows Vista にて新規に追加される EFI Flash メモリ バッテリーレス時,CMOS データ不定(チェックサムエラー) をトリガに Flash メモリから復元 ●図―5 バッテリーレス運用● (Fig.5-Battery-less operation) OS CF C ドライブ (R Only) システム D ドライブ (R/W) データ EWF/メモリファイル システムによるリード オンリー化 ●図―6 CF システム● (Fig.6-CF system) PFU Tech. Rev.,17, 2,(11,2006) ネットワーク経由で OS をダウンロード ネットワークサーバ ●図―7 ネットワークブートシステム● (Fig.7-Network boot system) 29 組み込み製品における BIOS,OS カスタマイズ・サービス (Enhanced Firmware Interface)をサポートした BIOS を提供する. 6 むすび EFI サポートにより,PCI カード(例えば SCSI カ BIOS,OS カスタマイズ・サービスは,迅速かつき ード)の多数枚(例えば 10 枚)実装など,これまで顧 め細かく顧客要望に対応することで,ボードコンピュー 客要望に応えることができなかったシステムの提案が可 タ AM シリーズ,エンベデッドコンピュータ AR シリ 能になる. ーズの顧客満足度を向上させ,確固たる顧客信頼を獲得 また,2008 年リリース予定の Windows Vista Embedded を対応 OS に追加し,OS カスタマイズ していると確信している. 今後も,Windows Vista に代表される最新技術へ の対応範囲を拡大していく. の追従のみならず,商談事例,顧客要望からのフィード (2)リアルタイム系 OS 対応 バックを標準製品に適用すると共に,顧客に密着した, 工作機器などリアルタイム処理が要求される分野で は,近年,性能向上の観点で,マイコンプラットフォー きめ細かなカスタマイズを行うことで,顧客満足度の向 上に努めていく. ムから IA プラットフォームへの移行が加速している. この分野での O S カスタマイズ要望も多く, VxWorks, RT-Linux などのリアルタイム系 OS を 対応 OS に追加し,これらの要望に応えていく. 30 参考文献 参1)BIOS カスタマイズ・サービス,株式会社 PFU,2005 年 10 月 CT-SW-110-9-010. 参2)OS カスタマイズ・サービス,株式会社 PFU,2005 年 10 月 CT-SW-073-9-020. PFU Tech. Rev.,17, 2,(11,2006)
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