第 4 章 穿刺局所療法

第4章
穿刺局所療法
● はじめに
肝細胞癌の局所治療として,最近四半世紀の間に種々の治療法が開発されてきた。1979
年に山田らによって肝動脈塞栓療法(transcatheter arterial embolization;TAE)が開発
され,これが肝細胞癌の局所療法の有効性を明らかにした最初の治療法といえる。
次に,腹部超音波診断機器の普及と進歩とともに,1983 年に杉浦らにより経皮的エタノ
ール注入(percutaneous ethanol injection;PEI)が開発された。PEI はその後開発され
た超音波映像下に行われる種々の局所治療の原点といえる治療である。本法は手技が簡便
で局注針もエタノールも安価であったため,瞬く間に日本のみならず世界へと広がり,肝
細胞癌治療の主役として高い評価を受けるようになった。しかし,PEI はエタノールとい
う液体を注入する治療であるため,エタノールが腫瘍内に均一に拡散せず,隔壁や被膜が
ある場合は通過できず,腫瘍の残存と局所再発の問題が残った。
こうした PEI の欠点を克服するべく,挿入した針からマイクロ波やラジオ波を発生させ
て腫瘍を熱凝固させる治療法が開発された。従来から外科領域で使用されていたマイクロ
波を経皮的に応用した経皮的マイクロ波凝固療法(percutaneous microwave coagulation
therapy;PMCT)を 1994 年に関らが発表した。
また,1993 年,Rossi らが小肝細胞癌に対し経皮的にラジオ波焼灼療法(radiofrequency
ablation;RFA)を行い良好な治療効果を得たと報告し,にわかにラジオ波による肝細胞癌
治療が注目されるようになった。本邦でも 1999 年以降多くの施設で施行されている。RFA
は PMCT より 1 回の治療あたりで獲得する壊死範囲が大きいという理由から PMCT を凌
駕する勢いで導入されてきた。RFA は本邦では 2004 年 4 月からようやく保険適用となっ
た。2005 年版肝癌診療ガイドラインの発表に前後して PEI と RFA を比較したランダム化
比較試験(RCT)が国の内外から発表され,いずれも RFA が PEI に比較して生命予後を延
長するという結果であった。これらのエビデンスにより現在 RFA が穿刺局所療法の中で標
準治療とされるに至っている。
本項では PEI,PMCT,RFA に関し,2011 年 12 月末までの段階のエビデンスをまとめ
たい。
■文献の選択
局所治療の分野を,治療法別に,以下の区分に分けた。
1)経皮的エタノール注入,2)マイクロ波凝固療法,3)ラジオ波焼灼療法
それぞれに対して,1983 年以降 2011 年 12 月末までに,MEDLINE および医学中央雑
誌に収載されている文献リストを作成し,ガイドラインの策定に有用と思われる文献を抽
出した。さらに,それらの文献抄録を読み,原著にさかのぼる必要のある文献をリストア
ップし,できるだけエビデンスレベルの高いものを選出した。評価は論文形式,症例数,
研究デザインを基に選択した。
122
第4章
穿刺局所療法
CQ 32
穿刺局所療法はどのような患者に行うべきか?
推 奨
穿刺局所療法の適応は,
「Child−Pugh 分類 A あるいは B の肝機能の症例で,腫
瘍径 3cm 以下,腫瘍数 3 個以下」である。(グレードB)
■ サイエンティフィックステートメント
2007 年以降で外科切除と RFA との治療成績を比較した研究を検索したところ 10 編の論
文を抽出した(表 1)
。この表ではエビデンスレベルⅠの論文を上段に,Ⅱ以下のものを下
段に配置している。生存について,エビデンスレベルⅠの論文 4 編のうち 2 編では外科切
除が有意に良好で,もう 2 編では有意差を認めなかった(L3F014751)Level 1b,L3F033252)
Level 1a,L3F058463)Level 1b,L3F014994)Level 1b)。また,後ろ向きコホート研究で
は,4 編の論文において外科切除に優位性が示され,2 編の論文で有意差を認めなかった
(L3F058925)Level 2b,L3F058906)Level 2b,L3F058567)Level 2b,L3F017978)Level
2b,L3F058769)Level 2b,L3F0589310)Level 2b)
。
■ 解
説
本邦のガイドラインや海外の BCLC staging system などを見比べると,穿刺局所療法の
適応が「Child−Pugh 分類 A あるいは B の肝機能の症例で,腫瘍径 3 cm 以下,腫瘍数 3
個以下」と国内外において概ね一致しているといえる。とくに,Child-Pugh A で単発,2 cm
以下の症例では治療成績が良好とされる(5 年生存率:60~74%)
(LF1094911)Level 2b,
LF1044912) Level 2b)
。しかし,このように肝予備能が良好で早期の肝細胞癌を対象とし
た場合でも,穿刺局所療法が外科切除に代わって第一選択の治療となりえるかとの問いの
結論は現在も出ていない。そのため,初発肝細胞癌に対する初回治療法選択の根拠となる
エビデンス確立の必要性から,2009 年 4 月から多施設共同による SURF*試験が進行中で
ある。SURF 試験は肝機能良好(Child-Pugh score 7 点以下)かつ 3cm,3 個以下の腫瘍
条件を満たす初発症例を対象として肝切除と RFA の有効性を検証する RCT であり,日本
発のエビデンスとしてその結果が待たれる。
外科切除と穿刺局所療法は局所コントロールを得るという目的は基本的に同じである。
しかし,穿刺局所療法では腫瘍径が大きいと焼灼マージンを十分確保することが難しくな
るため,穿刺局所療法の術者は腫瘍条件と自身の技量,症例背景を考慮して個別に適応を
判断するべきであろう。とくに遺残再発した場合では,再発部が B モードで描出しづらい
ばかりでなく,歪な形態となるため再治療が非常に困難である。つまり,根治性を優先で
123
第4章
穿刺局所療法
きる症例には外科切除を第一選択とし,外科切除の適応から外れる症例に RFA を検討する
のが妥当である。
*SURF;Efficacy of Surgery vs. Radio-frequency ablation on primary hepatocellular carcinoma
表 1 肝細胞癌に対する RFA と肝切除の生存率の比較(2007 年以降)
文献/
研究
症例数
出版年
デザイン
(RFA/肝切除)
1/2010
2/2010
3/2010
4/2011
5/2008
6/2010
7/2011
8/2011
9/2011
10/2012
マルコフ
モデル解析
メタ
アナリシス
RCT
マルコフ
モデル解析
前向き
コホート
後ろ向き
コホート
後ろ向き
コホート
後ろ向き
コホート
後ろ向き
コホート
後ろ向き
コホート
ND/ND
条
件
2cm 以下,
単発
787/735
ミラノ基準
115/115
ミラノ基準
236/138
3,022/2,857
1,315/1,235
190/229
413/648
255/215
345/260
3cm 以下,
3 個以下
3cm 以下,
生存率 (%)
60.3 vs. 62.5
(5-year)
62.5 vs. 63.6
(3-year)
54.78 vs. 75.65
(5-year)
71.7 vs. 80.9
(3-year)
93.0 vs. 94.5
3 個以下
(2-year)
3cm 以下,
95 vs. 94
3 個以下
(2-year)
5cm 以下
5cm 以下,
3 個以下
3cm 以下
3cm 以下,
3 個以下
p値
(RFA vs.肝切除)
67.4 vs. 79.3
(5-year)
53.34 vs. 76.47
(5-year)
87 vs. 94
(5-year)
54.4 vs. 77.2
(5-year)
NS
NS
0.001
0.071
NS
0.28
0.009
<0.001
0.002
0.001
ND;not described,NS;not significant
■ 参考文献
1)L3F01475
Cho YK, Kim JK, Kim WT, Chung JW. Hepatic resection versus
radiofrequency ablation for very early stage hepatocellular carcinoma: a Markov
model analysis. Hepatology 2010; 51(4): 1284-90.
2)L3F03325
Liu JG, Wang YJ, Du Z. Radiofrequency ablation in the treatment of
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124
第4章
4)L3F01499
穿刺局所療法
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Hung HH, Chiou YY, Hsia CY, Su CW, Chou YH, Chiang JH, et al.
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Huang J, Hernandez-Alejandro R, Croome KP, Yan L, Wu H, Chen Z,
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9)L3F05876
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11)LF10949
Lencioni R, Cioni D, Crocetti L, Franchini C, Pina CD, Lera J, et al.
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12)LF10449
Omata M, Tateishi R, Yoshida H, Shiina S. Treatment of
hepatocellular carcinoma by percutaneous tumor ablation methods: Ethanol
injection therapy and radiofrequency ablation. Gastroenterology 2004; 127(5 Suppl
1): S159-66.
125
第4章
穿刺局所療法
(参考)海外のガイドラインにおける穿刺局所療法の推奨
学 会
AASLD
推 奨
・
穿刺局所療法は切除適応外もしくは肝移植への橋渡し症例において安全で効果的
である(Level Ⅱ)
。
・
PEI と RFA は 2 cm 以下の腫瘍において同等の治療効果を有するが,より大きな
腫瘍については RFA が PEI より優れている(LevelⅠ)。
EASL
・
穿刺局所療法は切除適応外で BCLC 0-A の症例について標準的治療である
(evidence 2A,recommendation 1B)
。
・
RFA は局所制御が優れているために 5 cm 以下の腫瘍への穿刺局所療法として推
奨される(1iD,1A)
。
・
PEI は RFA が技術的に施行困難な場合に勧められる。
・
2 cm 未満,BCLC 0 では RFA と PEI はともに良い治療成績であるが,どちらが
外科切除に代わる治療となり得るかは定まっていない(1iA,1C)
。
APASL
・
穿刺局所療法は 3 cm 以下,Child-Pugh 分類 A では手術に代わる治療として容認
でき,切除適応外において 3 個以下および Child-Pugh 分類 A もしくは B の症例
ではファーストラインである(2b,B)
。
126
第4章
穿刺局所療法
CQ 33
各穿刺局所療法の選択はどのように行うべきか?
推 奨
穿刺局所療法として RFA が推奨される。(グレードA)
消化管穿孔が危惧される場合には,PEI は有効な選択である。(グレードB)
■ 背 景
穿刺局所療法は 1980 年代の PEI から始まり経皮的酢酸注入(PAI)や PMCT を経て,
現在では RFA がその代表的治療と位置づけられている。また,これら 3 つの治療法に加え
て,最近登場した凍結融解壊死療法(cryoablation)を含む穿刺局所療法について文献検索
を行った。
■ サイエンティフィックステートメント
・局所再発と生存について
2007 年以降で RFA と PEI を比較した RCT とメタアナリシスの概要を表 2 に示す
(L3F014671)Level 1b,L3F058672)Level 1a,L3F059163)Level 1a,L3F058514)Level
1a,L3F004005)Level 1a,L3F058486)Level 1b)
。4 つのメタアナリシスでは RFA が局
所再発および生存について有意に良好な結果であった。一方,2 編の RCT でも,有意差は
ないものの RFA で良い治療成績であった。
・合併症について
Bertot らが 34 編の RFA,PMCT および PEI の報告からメタアナリシスを行っている
(L3F065657)Level 1a)
。穿刺局所療法の死亡率は全体で 0.16%(95%信頼区間:0.10~
0.24)
であり,
治療別では RFA,
PMCT および PEI について,
それぞれ 0.16%
(0.10~024)
,
0.15%(0.08~0.23)
,0.23%(0.0~0.58)とされる。また,重篤な合併症の発生リスクは
全体で 3.29%(2.43~4.28)であり,その内訳として,播種 0.5%,腹腔内出血 0.37%,肝
膿瘍 0.32%,腹水 0.27%,治療を要する胸水 0.14%,肝梗塞 0.13%,肝不全 0.11%,消化
管穿孔 0.11%,
血胸 0.09%であった。
また,
治療別における重篤な合併症の頻度は RFA 4.1%
(3.3~5.1)
,MCT 4.6%(0.7~11.8)
,PEI 2.7%(0.28~7.4)と報告している。
■ 解 説
PEI は技術的に確立された治療法であり,3 年生存率が 48~67%と報告されている
(L3F058672)Level 1a)
。しかし,腫瘍内の線維性隔壁や被膜がエタノールの拡散を障害
することはよく知られており,そのため腫瘍径が大きくなるに従い PEI の根治性が低下す
127
第4章
穿刺局所療法
る傾向にある。その一方で,RFA では衛星結節が存在する腫瘍周囲を含めて壊死を誘導す
ることが可能であり,RFA の 3 年生存率は 63~74%と報告されている(L3F058672)Level
1a)。メタアナリシスからは局所再発および生存について RFA の優位性が強く示唆され
(L3F058672)Level 1a,L3F059163)Level 1a,L3F058514)Level 1a,L3F004005)Level
1a)
,さらにサブ解析では 2 cm 以上の大きさで治療成績の差が大きい(L3F004005)Level
1a)
。
合併症について,Bertot らによれば治療法によって発生頻度に有意差を認めたが
(L3F065657)Level 1a)
,本邦も含めたアジアからの報告に関しては差がなかったと述べ
ている。また,Bouza らによれば,RFA と PEI の重篤な合併症の頻度は 4.2%と 2.7%であ
ったが有意差はなかったと報告しており(L3F058514)Level 1a)
,そのため PEI より RFA
で合併症が一概に多いとは言い切れないであろう。しかし,肝門部近傍や肝外臓器と接す
るような部位は一般的に合併症が起こりやすいとされ(L3H000488)Level 2b),治療針の
穿刺や電流出力に注意を要する。とくに,消化管穿孔の合併症は RFA の報告に多く
(L3F065657 ) Level 1a),術後の癒着が存在する症例では消化管穿孔の危険性が高い
(LF010589)Level 2b)ことから,そのような条件では PEI は有効な選択である。
表 2 肝細胞癌に対する RFA と PEI の比較(2008 年以降)
文献/
研究
症例数
局所再発
出版年
デザイン
(RFA/PEI)
(RFA vs.PEI)
70/69
ND
ND
ND
ND
ND
1/2008
2/2009
3/2009
4/2009
5/2010
6/2011
RCT
メタ
アナリシス
メタ
アナリシス
メタ
アナリシス
メタ
アナリシス
RCT
354/347
396/391
396/391
142/143
オッズ比:0.29
(0.18~0.47)
相対危険度:0.37
(0.23~0.59)
オッズ比:0.27
(0.16~0.45)
5 年局所再発率:
11.7% vs. 12.8%
p値
<0.05
<0.05
0.00001
NS
生存
(RFA vs.PEI)
ハザード比:0.88
(0.50~1.53)
オッズ比:0.477
(0.34~0.67)
オッズ比:1.92
(1.35~2.74)
相対危険度:1.24
(1.05~1.48)
死亡オッズ比:
0.52(0.35~0.78)
5 年生存率:
79% vs. 68%
p値
NS
0.001
<0.05
<0.05
0.001
NS
ND;not described,NS;not significant,カッコ内は 95%信頼区間
■ 参考文献
1)L3F01467
Brunello F, Veltri A, Carucci P, Pagano E, Ciccone G, Moretto P, et al.
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2)L3F05867
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128
第4章
穿刺局所療法
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3)L3F05916
Orlando A, Leandro G, Olivo M, Andriulli
A, Cottone
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Radiofrequency thermal ablation vs. percutaneous ethanol injection for small
hepatocellular carcinoma in cirrhosis: meta-analysis of randomized controlled trials.
Am J Gastroenterol 2009; 104(2): 514-24.
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Bouza C, Lopez-Cuadrado T, Alcazar R, Saz-Parkinson Z, Amate JM.
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6)L3F05848
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Mariniello A, et al. Percutaneous radiofrequency ablation of hepatocellular
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129
第4章
穿刺局所療法
CQ 34
穿刺局所療法に TACE を併用することで予後を改善できるか?
推 奨
TACE を先行した RFA では壊死範囲が拡大する。(グレードA)
局所コントロールが得られれば良好な予後が期待できるが,先行する TACE に
よって RFA の予後向上に寄与するかについて十分なエビデンスはない。
(グレードC1)
■ サイエンティフィックステートメント
・焼灼範囲について
Kitamoto らの報告では,肝動脈化学塞栓療法(TACE)+RFA 群が RFA 単独群と比べ
て有意に広く壊死を誘導できた(TACE+RFA 群,RFA 単独群の焼灼範囲の長径と短径平
均値:39.9 mm,32.3 mm vs. 34.6 mm,26.0 mm;p<0.05)
(LF100321)Level 2b)
。
Morimoto らによれば,TACE+RFA 群および RFA 単独群で焼灼範囲の長径と短径の平
均値がそれぞれ 50 mm,41 mm と 58 mm,50 mm であった(p=0.012)と報告している
(L3F043252)Level 1b)
。
・生存について
TACE+RFA 治療と他治療との比較した研究を表 3 に示す(L3F043252 ) Level 1b,
L3F043313)Level 2a,L3F002294)Level 2b)
。条件が異なるものの,TACE+RFA 治療が
RFA 単独治療と比べて生存率が良好であったとする報告が 1 編と,差を認めなかったとす
る報告が 2 編であった。
■ 解 説
今回の検討では,穿刺局所療法として RFA を取り上げている研究を対象とした。また,
肝動脈バルーン閉塞下 RFA は 2007 年以降で生存について比較検討した報告がみあたらな
いため今回の対象に含めていない。
RFA に TACE を先行することで焼灼範囲の拡大がもたらされることは各報告の一致した
見解であり,その焼灼範囲の拡大によって治療回数や局所再発の減少に寄与するとされる。
とくに Morimoto らの報告によると,治療セッション(TACE+RFA vs. RFA:1.1 vs. 1.4,
p<0.01)と局所再発(TACE+RFA vs. RFA:6% vs. 39%,p=0.012)が有意に少なかっ
た(L3F043252)Level 1b)
。また,合併症について差がないとする報告が多い。TACE の
先行施行時期については同日から 2 カ月以内とさまざまであるが,日本からの報告では 1
カ月以内とするものが多い。
穿刺局所療法でも,とくに PEI に TACE を先行した場合に予後の改善傾向がみられたと
130
第4章
穿刺局所療法
のメタアナリシスが報告されているが(L3F003105)Level 1a)
,RFA に TACE を先行する
ことで予後を改善できるかについては議論が分かれる。Peng らはサブ解析において,5 cm
以上の単発例(p=0.031)および多発例(p=0.032)において有意に予後が改善されたと
報告している(L3F002294)Level 2b)が,引き続き検討課題と思われる。
表 3 肝細胞癌に対する TACE+RFA 治療と他治療との比較(2009 年以降)
文献/
治療法(症例数)
出版年
3/2009
4/2010
2/2010
TACE+RFA(46)
RFA(43)
腫瘍条件
・1~2 個, 3cm 以下
生存率(%)
1年
3年
100
84.5
100
84.5
p値
5年
74.0
72.7
TACE+RFA(120)
・単発, 7cm 以下
93
75
50
RFA(120)
・2~3 個, 3cm 以下
89
64
42
100
93
―
89
80
―
TACE+RFA(19)
RFA(18)
・単発, 3.1~5cm
0.515
(4 年)
0.045
0.369
■ 参考文献
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Kitamoto M, Imagawa M, Yamada H, Watanabe C, Sumioka M, Satoh
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comparison
of
the
radiofrequency
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with
and
without
chemoembolization. AJR Am J Roentgenol 2003; 181(4): 997-1003.
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Morimoto M, Numata K, Kondou M, Nozaki A, Morita S, Tanaka K.
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3)L3F04331
Shibata T, Isoda H, Hirokawa Y, Arizono S, Shimada K, Togashi K.
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transcatheter arterial chemoembolization more effective than radiofrequency
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4)L3F00229
Peng ZW, Chen MS, Liang HH, Gao HJ, Zhang YJ, Li JQ, et al. A
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combined
with transcatheter arterial
chemoembolization
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carcinoma. Eur J Surg Oncol 2010; 36(3): 257-63.
5)L3F00310
Wang W, Shi J, Xie WF. Transarterial chemoembolization in
combination with percutaneous ablation therapy in unresectable hepatocellular
carcinoma: a meta-analysis. Liver Int 2010; 30(5): 741-9.
131
第4章
穿刺局所療法
CQ 35
造影超音波,CT や MRI との fusion image は局所治療の治療ガイドとして有用
か?
推 奨
造影超音波や fusion image は B モードで描出が困難な肝細胞癌に対する治療ガ
イドとして有用である。(グレードB)
■ 背 景
超音波ガイドで行われる穿刺局所療法では,超音波 B モードで肝細胞癌を明瞭に描出で
きることが治療成功を左右する。しかしながら,①被膜形成が不十分などで腫瘍自体の境
界が不明瞭,②複数の大きな再生結節に小肝癌が紛れている,③局所再発病変が前回治療
による壊死領域と同様のエコー像を呈する,などにより B モードでの描出が困難な場合が
ある。Minami らの報告によれば,RFA を行った肝細胞癌 485 結節について 5.2%が B モ
ードで不明瞭であった(L3H000491)Level 2b)
。
■ サイエンティフィックステートメント
・造影超音波:
Maruyama らは,
B モード超音波で描出困難な多血性肝腫瘍 55 結節(平均腫瘍径:1.3±0.5
cm)において 53 結節(96%)がソナゾイド®造影超音波にて検出可能であり,そのうちの
肝細胞癌 42 結節について造影超音波ガイドで効果的に穿刺治療できたと報告している
(L3F039052)Level 3)
。
Minami らは,B モードで描出不良な肝癌 108 結節について,ソナゾイド®造影超音波ガ
イドにて RFA を行ったところ,平均治療セッションは 1.1±0.3 であった(L3F039103)Level
3)
。
Masuzaki ら(L3F013874)Level 2b)の報告では,ソナゾイド®造影超音波ガイドで RFA
を行った 291 例について類似対照群 2,261 例と比較したところ治療セッションが有意に少
なかった(1.33 vs. 1.49,p=0.0019)
。
・fusion image:
fusion image とは,あらかじめ取得された CT や MRI のボリュームデータについて磁気
センサーを装着した超音波プローブと位置情報を同期することで,B モード画像と近似の
multi planar reconstruction(MPR)画像をリアルタイムに表示するシステムである。超
音波とほかのモダリティとの相互補完から治療支援画像としての有用性が報告されている
(L3F035175)Level 2b,L3F059056)Level 3,LF117917)Level 3)
。B モードで描出不良
132
第4章
穿刺局所療法
な肝細胞癌について,Real-time Virtual Sonography(RVS)®ガイドでの RFA が B モー
ドガイドと比べてより効果的に治療できた(平均治療セッション:1.1 vs. 1.3,p=0.021)
(L3F035175)Level 2b)との報告がある。
■ 解 説
超音波造影剤がレボビスト®からソナゾイド®へ進歩したことから,①どの時相でも連続観
察ができるため安定的に病変の描出が可能,②post vascular phase での欠損像をターゲッ
トにすることで病変の視認性が向上,③Defect Re-perfusion Imaging によって B モードで
描出不良な肝癌について局在および質的診断が可能,などがもたらされた。そのため,レ
ボビスト®使用では煩雑であった造影超音波ガイドの RFA 手技がより簡便に改善された。
しかし,深部病変や硬変肝の進行した症例では,病変の描出が難しい場合があるので注意
が必要である。また,fusion image を用いることでも効果的な穿刺局所療法が可能であり,
とくに造影超音波では難しい上記のような条件でも参照画像を表示できることはメリット
の一つである。ただし,fusion image も B モード像と必ずしも完全に一致する訳ではなく,
とくに肝右葉に腫瘍が存在する場合には画像のズレが大きくなる傾向にある。しかし,両
者を併用した治療報告(L3F036558)Level 2b)もあることから,造影超音波と fusion image
は競合するものでなく,状況に合わせて選択もしくは併用することで局所コントロールを
目指すことが治療において肝心である。
■ 参考文献
1)L3H00049
Minami Y, Kudo M, Kawasaki T, et al. Treatment of hepatocellular
carcinoma with percutaneous radiofrequency ablation: usefulness of contrast
harmonic sonography for lesions poorly defined with B-mode sonography. AJR Am J
Roentgenol 2004; 183(1): 153-6.
2)L3F03905
Maruyama H, Takahashi M, Ishibashi H, Okugawa H, Okabe S,
Yoshikawa M, et al. Ultrasound-guided treatments under low acoustic power
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3)L3F03910
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Radiofrequency
ablation
guided
by
contrast
harmonic
sonography
using
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experience. Liver Int 2010; 30(5): 759-64.
4)L3F01387
Masuzaki R, Shiina S, Tateishi R, Yoshida H, Goto E, Sugioka Y, et al.
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5)L3F03517
Minami Y, Chung H, Kudo M, Kitai S, Takahashi S, Inoue T, et al.
133
第4章
穿刺局所療法
Radiofrequency ablation of hepatocellular carcinoma: value of virtual CT sonography
with magnetic navigation. AJR Am J Roentgenol 2008; 190(6): W335-41.
6)L3F05905
Minami Y, Kudo M, Chung H, Inoue T, Takahashi S, Hatanaka K, et al.
Percutaneous radiofrequency ablation of sonographically unidentifiable liver tumors.
Feasibility and usefulness of a novel guiding technique with an integrated system of
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7)LF11791
Hirooka M, Iuchi H, Kumagi T, Shigematsu S, Hiraoka A, Uehara T, et
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visualized on CT but not on conventional sonography. AJR Am J Roentgenol 2006;
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8)L3F03655
Kisaka Y, Hirooka M, Koizumi Y, Abe M, Matsuura B, Hiasa Y, et al.
Contrast-enhanced sonography with abdominal virtual sonography in monitoring
radiofrequency ablation of hepatocellular carcinoma. J Clin Ultrasound 2010; 38(3):
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134
第4章
穿刺局所療法
CQ 36
局所療法の効果判定に有用な画像診断は何か?
推 奨
局所療法の効果判定は,dynamic CT/MRI を基本とする。造影剤アレルギー,
腎機能低下例などでは,造影超音波によって代替できる可能性がある。
(グレードA)
■ 背
景
肝切除と異なり,局所療法においては,治療範囲が目的とした腫瘍全体を覆っているか
を病理学的に判定することは困難である。よって治療効果判定は治療前後の画像を比較す
ることで行われるが,どの画像検査を用いるのが適切かについて検討した。
■ サイエンティフィックステートメント
肝細胞癌の診断は,dynamic CT/MRI で行われるため,必然的に治療効果判定もこれら
の画像検査を用いて行われる。なかでも,可用性の高さから dynamic CT が用いられるこ
とが多く,事実上の standard となっている。Gd-EOB-DTPA 造影 MRI は,CT と比較し
てマージン評価の正確さ(感度・特異度)において優れている可能性がある(L3F019631)
Level 1,L3F032852)Level 1)
。ソナゾイド®を用いた造影超音波は,dynamic CT と比較
して,感度で劣るが,特異度で勝る(L3F017253)Level 1)
。
■ 解
説
局所療法の効果判定にどの画像検査を用いるかを検討するにあたり,理想的な gold
standard は外科切除による病理学的評価であるが,倫理的に困難であり,次善の gold
standard は経過観察による局所再発の発生である。しかし多くの場合,明らかな残存が疑
われる病変は追加治療の対象となるため,マージンの有無の評価のしやすさが end-point
に採用される傾向がある。今回検討した多くの研究で dynamic CT が gold standard として
用 い ら れ て お り , 可 用 性 の 点 か ら も dynamic CT を 標 準 と 推 奨 す る こ と と し た 。
Gd-EOB-DTPA 造影 MRI は,マージン評価のしやすさの点において CT を凌駕している可
能性があり,今後のエビデンスの集積によっては,第一に推奨される可能性がある。造影
超音波を対象とした研究の多くが第 1 世代のレボビスト®を用いており,CT と同等である
という報告も散見されるものの,実際には欠点も多く,現在国内では使用できないため採
用しなかった。第 2 世代超音波造影剤であるソナゾイド®は,レボビスト®と比較して長時
間の観察が可能であり,より治療効果判定に適しているということができる。
135
第4章
穿刺局所療法
■ 参考文献
1)L3F01963
Comparison
Yoon JH, Lee EJ, Cha SS, Han SS, Choi SJ, Juhn JR, et al.
of
gadoxetic
acid-enhanced
MR
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versus
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multi-detector row computed tomography in assessing tumor regression after
radiofrequency ablation in subjects with hepatocellular carcinomas. J Vasc Interv
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2)L3F03285
Hwang J, Kim SH, Kim YS, Lee MW, Woo JY, Lee WJ, et al. Gadoxetic
acid-enhanced MRI versus multiphase multidetector row computed tomography for
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tumor therapy. J Magn Reson Imaging 2010; 32(3): 629-38.
3)L3F01725
Shiozawa K, Watanabe M, Takayama R, Takahashi M, Wakui N, Iida
K, et al. Evaluation of local recurrence after treatment for hepatocellular carcinoma
by contrast-enhanced ultrasonography using Sonazoid: comparison with dynamic
computed tomography. J Clin Ultrasound 2010; 38(4): 182-9.
136