『境界性パーソナリティ障害』について 境界性パーソナリティ障害は、臨床的にもなかなか診断がつかずに、いろいろな問題行動が 表に出てきて初めて気づくという症例が少なくありません。例えば、学校現場で言えば、リス トカットであるとか、過食や拒食、万引き、性的逸脱行為、こういった問題行動を起こす子ど もの中に、パーソナリティ障害に起因するケースが増えているのではないか、ということです。 この障害の原因ですが、いろいろな議論が長年重ねられてきましたが、現在では、遺伝と環境 の両方が関与していると考えられています。主な症状は、めまぐるしく変わる気分の変動と、 対人関係が常に不安定だということです。この不安定さの根っこにあるのは、「愛されたい・ 見捨てられたくない」という感情と、深い自己否定の感情があります。さらに、自分自身でコ ントロールできない怒りの爆発と、自己破壊的な衝動性、これが不安定さを強めています。 境界性パーソナリティ障害は、思春期以降、成人期の早期までに始まり、女性に多いという データがあります。この障害を持つ人の子ども時代の回想には、ある共通する特徴が指摘され ています。親のどちらかが欠けていたかほとんど家にいなかった、あるいは、親がアルコール や薬物依存の問題を抱えていた、ということです。両親がいた場合でも、夫婦間に不和があっ たケースが少なくありません。また、身体的、あるいは性的虐待などのトラウマを負ったケー スもあります。このような環境では、子どもは将来のアイデンティティを確立するための安定 した信頼感や、対人関係を築いていく機会が奪われてしまう、ということが指摘されています。 診断は、もちろん専門医療機関を受診して、専門医に診てもらうことが必要になります。治 療には、薬物療法の他に、個人療法や家族療法など、複数の治療法が併用されます。専門医で はない私たちが境界性パーソナリティ障害を持つ人に対して、どのような配慮をしながら対応 すればいいか、についてですが、ポイントは、コミュニケーションの 3 つのコツをおさえるこ とです。まずひとつは、 「あなたのことをとても心配しています」というメッセージを伝える こと、ふたつは、相手の混乱した気持ちをきちんと受け止め、「それはつらいですね」と伝え ること、そして、今目の前にある問題を認識し、その解決に向けて何ができるか、何をすれば いいかということを「じゃあ、あなたはどうしたいんですか?」というメッセージで投げかけ ることです。 境界性パーソナリティ障害を持つ人は、些細なきっかけで気分や対人関係がめまぐるしく変 化するので、周囲は振り回されがちになります。でも、そのたびに同情し過ぎたり、本人のペ ースに合わせてしまうと、結果的に事態を悪化させてしまいます。ですから、本人が気分の良 い時でも攻撃的で荒れた時でも、穏やかに冷静に、そしてできるだけ一貫した態度で接するこ とが大切です。それからもうひとつ、これは対応する側、サポートする側の人の心の健康を守 るためにも大切なことなんですが、 “境界性パーソナリティ障害”を持つ人が求めてくる優し さや愛情を、求めるままに満たしてあげようとしないことです。これは、 “自分自身が変わる こと”でしか問題は乗り越えられないんだと言うことを本人に理解してもらうためにもとても 大切なことで、サポートする側は、 「ここまではできるけれども、これ以上はできない」とい うことを、ハッキリと告げることが必要です。 カウンセラー 小林 晶子
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