発行日 富川高校『校長室だより』 ◇◇◇ <校訓> 若く 学校教育目標 明るく ◇◇◇ たくましく 1 2 目的に向かって自ら学ぼう 豊かな心で正しく歩もう 3 からだを鍛え、のびのび生きよう 2015/ 3/ 1 北 海 道 富 川 高 等 学 校 校長 山 崎 雅 明 目指す学校は、先生方が いつも明るく、笑顔で元気な学校 ●平成 26 年度 第 61 回卒業証書授与式 式 辞● ● 本日のこの佳き日に、日高町副町長 佐藤 則男 様、PTA会長 立花 稔 様をはじめ、 ご来賓の皆様のご臨席を賜るとともに、多数、保護者ご家族の皆様のご列席のもと、北海道富川 高等学校 第六十一回卒業証書授与式を盛大に挙行出来ましたことは、在校生、教職員一同この 上ない慶びとするところであり、深く感謝申し上げます。 ● ただいま、卒業証書を授与いたしました三十三名の卒業生の皆さん。ご卒業おめでとうござい ます。学校の代表として心からお祝い申し上げます。今年の皆さんの進路の状況を、一言で表す と「一発合格」ではないかと思います。昨年度も進路決定率は100%を達成しましたが、昨年 卒業した生徒全員が試験を一発で合格したわけではありません。落ちてもあきらめずに頑張った 成果でした。ところが、今年は一人も「面接」で落ちることなく全員が合格しました。中には、 事前の面接練習で、思ったように自分の言いたいことを表現できずに涙した生徒もいましたが、 本番の面接試験では思いを語ることができて、合格をつかみ取ることができました。こんなこと は、私の教員経験の中でも初めての体験です。皆さんのこれからの活躍を大いに期待してやみま せん。 ● さて、本日の卒業式は「高校生活」という一つの区切りが終わったという意味で終了の儀式で す。しかし、それと同時に、いよいよ本格的に社会に飛び出していく将来ある皆さんにとっては、 社会人としての出発式でもあります。つまり、「あなたたちの人生の物語はここから始まる」と いうことです。それが成功物語になるのか、悲劇的ストーリーになるのか、波瀾万丈の感動的な ストーリーになるのか、どんな物語を描いていくのか、「神のみぞ知る」です。しかし、どんな 物語になったとしても、大団円(ハッピーエンド)に持ち込むことができるかどうかはあなたた ち次第です。ですから、その物語の始まりに当たって、皆さんの大団円を願って3点お話しした いと思います。 ■1つ目は、「人を信じよ、しかし、その百倍も自らを信じよ。」ということです■ ● これは、鉄腕アトムやブラックジャックなど数多くの名作を残し“漫画の神様” と呼ばれた巨匠・手塚治虫の言葉です。 ● 人は、自分一人だけで成長することはできません。人は、人間と表現されるよう に、人とともに成長する動物だからです。孤独は人の成長を歪めます。だから、信 ずるべき人の存在が必要なのです。自分のことを信じられない人は、信じる基準を 持っていないので、目の前のその人が信ずるに値する人なのかどうか判断すること ができません。結果、色々な人の言動に左右され、失敗すると「失敗したのは自分のせいではな い、誰々が言ったからだ」と言い訳することになります。これでは成長は望めません。 ● まず自分を信じることです。そのためには、努力して自分を磨くことが必要です。努力した結 果、自信が芽生えます。どうか、困難に目を背けずに努力し続けて、自信が持てるところまで突 き進む決意をしてください。 ● 実は、手塚治虫の言葉には続きがあります。「人を信じよ、しかし、 その百倍も自らを信じよ。時によっては、信じきっていた人々に裏切ら れることもある。そんなとき、自分自身が強い楯であり、味方であるこ とが、絶望を克服できる唯一の道なのだ。」というものです。だから自 分を信じ抜くことがとても大切なのです。しかし、もし信じた人に裏切 られるようなことがあっても、それを教訓としつつ「人を信じる」こと はあきらめないでください。助けてくれる仲間、信じられる仲間は必ず いるのです。 - 1 - ■2つ目は、「未来は自分で創る」ということです■ ● 2020年のオリンピック・パラリンピックの東京招致のときのロンドンパラ リンピック走り幅跳び代表選手であった佐藤 真海さんがプレゼンテーションス ピーチの中で言っています。 ● 「19歳の時に私の人生は一変しました。私は陸上選手で、水泳も していました。チアリーダーでもありました。初めて足首に痛みを感 じてからたった数週間のうちに、骨肉種により片足を失ってしまいま した。それは過酷なことで、絶望の淵に沈みました。私は、そこから 立ち上がって、大学に戻って陸上に取り組むようになりました。次第 に目標を決め、それを越えることに喜びを感じ、新しい自信が生まれました。そし て何より、私にとって大切なのは、『私が持っているもの』であって、『私が失っ たもの』ではないということを学びました。」 ● 過去は戻ってきません。失ったものをいつまでも嘆いていても明るい未来は訪れません。自分 が持っているものに着目し、それを伸ばすことで、明るい未来を自分の手に引き寄せることが可 能になる。そのことを佐藤 真海さんが実証してくれました。 ● 皆さんは、富川高校の3年間で素晴らしい力を、そして仲間を得ることができました。若さと いうかけがえのない財産も持っています。明るい未来を創るための条件は整っています。自分の 持っているたくさんのものに気づいてください。そして何よりも自分の未来を明るく希望に満ち たものに変えて行こうと決意してください。 ■3つ目は、「やりたくない仕事も、意に沿わない仕事も、あなたを磨き強くする力を秘めて いるから、どんな仕事でも喜んで引き受けてください。」ということです■ ● これは、京セラとKDDIの創業者で、日本航空名誉会長の稲森和夫さんの言葉です。 ● 今、大学や専門学校では、心を病んで不登校になり退学する学生が増え ています。せっかく就職しても1年も勤めることができずに退職する高卒 就業者も多くいます。仕事や学校が続かない最大の理由は「これは自分の やりたいことではなかった」と思い、失望してしまうことです。情熱を失 っている人は、先輩の指導や助言も「ウザイ」ものでしかありません。そ れでは、良好な人間関係をつくることはできませんね。 ● 自分の浅い人生経験で思い描いた仕事や学業と現実の間に大きなギャップがあることは当然 のことです。最初に言ったように、「やりたくない仕事も、意に沿わない仕事も、あなたを磨き 強くする力」を秘めています。そこを極めないでどんな成長があるのでしょうか。私は、皆さん には、あなたたち自身も想像できなかった未来を引き寄せて欲しいと願っています。そのために は、自分の中に埋もれている才能を開花させることが極めて重要です。埋もれている才能は、埋 もれているのですから、あなたたち自身もそんな才能があると気付いてはいません。それは、遺 跡の発掘と同じで、今までやったことのあることの延長上にはないわけですから、やったことの あることにいくら取り組んでいても到底発見できません。むしろ、これまで手付かずの分野(つ まりやりたくない仕事や意に沿わない仕事)に取り組むことで発見が可能に なります。 ● 新たな挑戦になるので、不慣れからくる困難も多く、うまくできないこと、 失敗することが多いでしょう。失敗は自分を磨き強くする成長の栄養剤で す。だから、失敗を喜んでください。喜んで成功できるよう努力し創意工夫 することで、つまらなそうに感じていた仕事が楽しくなります。楽しくなる とさらなる創意工夫も進み、新たな発見があるはずです。日本には世界のトッ プシェアを誇る製品を持つ中小企業の製造業のプロフェッショナルがたくさん います。そのプロの職人の仕事は、端から見ると「大変なだけ」のように見え る仕事ですが、当の本人は、みんな本当に楽しそうに取り組んでいます。その プロフェッショナルな職人さんの姿は、たくさんの失敗に学び、改良や創意工 夫を楽しんだ結果なのです。皆さんもプロの仕事人を目指し、未知の分野にも 怯まずチャレンジしてください。 ● 最後になりますが、保護者ご家族の皆様、お子さまのご卒業おめでとうございます。お子さ まは、このように立派に成長いたしました。今日の喜びには計り知れないものがあることと存じ ます。本校の教育活動に深いご理解をいただくと共に、これまで本校が賜りましたご支援とご協 - 2 - ● 力に衷心より感謝申し上げます。 三十三名の卒業生の前途に幸多からんことを祈念するとともに、公私ともご多用中、ご臨席賜 りました皆様に感謝を申し上げ、式辞といたします。 ~~校長のひとりごと~~★ 誇 りと 喜び を持 っ て働く ★~~ ◇ 教員になってからいつも考えてきたことは、仕事に誇りと喜びを持って働きたいということです。新任で赴任したのは 帯広柏葉高校の定時制(通称「柏定」)。柏定は、帯広市内で深夜に活躍していた少年たちの受け入れの場になっていま した。当時、新得高校や清水高校も荒れていましたが、柏定には、そこを不合格になった生徒たちが集まっていました。 ◇ 私語は言うに及ばず、飲食や立ち歩きは当たり前で、生徒を授業に集中させることが非常に困難でした。ですから、柏 定では教員として誇りを持つことも喜んで仕事をすることも難しかったです。帯広三条高校で時間講師として授業を持っ たとき、担当したクラスの生徒に「えーっ、柏定の先生?大丈夫なの」と思ったと、後から教えられました。 ◇ このまま教員を続けていくことは、ただつらいことだらけの苦行をしているようなものだ、どうすれば仕事に誇りと喜 びを持つことができるのか。荒れる生徒に悪戦苦闘しながら考えていました。その時、「それは自分だけの悩みではない」 という実に当たり前の事実に気が付きました。それではと、若手に声をかけ、私を含めた5人で、河合隼雄の著書から名 前を取って「飛ぶ教室」と銘打った勉強会を週一で始めることにしました。 ◇ 「シンナー吸って廊下を徘徊する生徒をどうするのか」、「授業で教室に行くと、生徒が紙テープで教卓にエッフェル 塔を作り、「壊すなよ」とすごまれた。どうすればいいのか」など話し合うことには事欠きません。どの事例も一人で悩 んでいたときには「どうしようもない」と諦めていました。問題を共有すると、やがて有効な対応策が考えられるように なりました。 ◇ 教員の意識が変わりましたから、学校が劇的に変わっていきました。相変わらず問題行動をする生徒はいましたが、み んなで対応して押さえ込むことに成功しました。そんな中、超問題児からバレー部のエースとして全国大会で活躍するま でになる生徒まで出てきました。生徒が変わる姿を目の当たりにして、誇りと喜びを持って生徒と対応できるようになり ました。この柏定での4年間が私の教員としての原点になっています。 ◇ 次の話は、誇りと喜びを持つとはどういうことなのかわかりやすいかなと思った話です。みんなの創意工夫が結集でき る、私は、そんな学校になれば最高だなといつも思っています。 ■ 東京駅の新幹線の車内清掃を担当する「テッセイ」という清掃会社があります。テッセイの専務を務める矢 部輝夫さんは、テッセイの責任者に任命され、現場に行ってビックリしました。暑い夏の午後、休憩室にはエ アコンも仕切りもなく、古い扇風機が 1 台カタカタと回っていただけでした。矢部さんは、その日のうちに本 社の「JR東日本」に申請書を出しました。待合室も休憩室もきれいに整えるためです。しかし、本社は無駄 な経費だと言ってハンコを押しません。矢部さんは、「何を言っているんですか。私はここの責任者です。絶 対にこの経費は通してもらいます」と言って譲りません。結果、申請は通りましたが、 「その代わり元を取れ」 と言われたそうです。 ■ 本社の発想は、「お金をかけることは全部コスト」というわけです。でも、矢部さんからすると、そのお金 はコストではなく、「スタッフに、元気に働いてもらう環境を作るための投資」という発想でした。だから絶 対に譲らなかったのです。矢部さんの想いを知った清掃のおばちゃんたちの心に火がつきました。「もしかし たら今度の責任者は、本当にこの会社を変えてくれるかもしれない」という希望のスイッチが入ったのです。 今まで「別にそんなにやったって変わるものじゃないし」と言っていたおばちゃんたちの働き方が一気に変わ り、どんどん自分たちで提案をするようになりました。 ■ 「清掃の仕事は、新幹線に乗っていただいたお客様に最初に感謝する仕事です。だったら『乗っていただい てありがとう』という気持ちを表すのは普通です」、そう言っておばちゃんたちは礼に始まり礼に終わるスタ イルを考えつきました。車内の整理整頓が終わると一列に並んで頭を下げます。お客様が自分で捨てようと缶 や瓶を持って出ようとしていると、「有難うございます」と言います。そうすると、お客様も「どうもありが とう」と言って、清掃のおばちゃんたちに感謝してくれるようになったのです。 ■ アメリカのCNNが3回取材に来て、「7分間の奇跡(Seven Minutes Miracle)」という30分番組を作 りました。また、世界で最も参考にすべき企業が毎年30社挙がっていますが、2014年はテッセイがその うちの一つに選ばれました。これはすごいことです。 ■ 矢部さんの一言は非常に印象的です。「おばちゃんたちが変わったのではない。我々が変わったのです。あ の人たちは豊富な知恵の泉だったのに、それがずっと押し込められたままだったのです。その泉のところに僕 がたまたまきっかけを作って、ちょっと蓋を開けたらそこから知恵が吹き出してきた。それだけのことなので す」とおっしゃっていました。 ■ 今、本社のテッセイを見る目が全く変わってきています。本社の人に話を聞くと、「どこまで進化するか我 々も想像がつきません」と言っていました。そう言いながら、その人は嬉しそうでした。誇りと喜びを持って 働いている人たちは、周りの人たちにも誇りと喜びをどんどん振りまいていくのですね。すごいなと思いまし た。これをあのおばちゃん集団がやっているのです。単なる清掃の集団でなく、おもてなしの集団へ…。サー ビスとホスピタリティーを積み重ねた先に、感動が待っているのだと思います。 - 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