インドにおける廃棄物マネジメントの現状(前編)

海外 ルポ
インドにおける
廃棄物マネジメントの現状(前編)
1.はじめに
中国
ブータン
パキスタン
ニューデリー
ネパ
インドにおける廃棄物マネジメントは、主に清潔
さに向けての各種法律の制定や住民意識の向
ール
上によって、今変わりつつある。また、人口構造
ミ
ャ
ン
マ
ー
インド
バングラデシュ
や経済の変化、工業化、市街の拡大および人口
密度の増加などのさまざまな要因による継続的な
都市化により、既存の廃棄物マネジメント業務に
強い圧力が生じている。そのため、廃棄物マネ
インド
ジメントシステムは、都市ごみ分野および産業廃
人口:10億2,702万人
面積:328.7万H
首都:ニューデリー
通貨/レート:1ルピー=約2.7円
棄物分野とも改善が進められている。こうした努
(2006年2月現在)
力の中で、廃棄物のリサイクルの可能性を活用す
ることにより、廃棄物の最終処分負荷を減少させ
得ることから、リサイクルの重要性も認識されるよ
うになってきている。ここでは、都市ごみおよび産
岡山大学大学院環境学研究科
助教授
業廃棄物について現状分析を行い、廃棄物マネ
アショク シェクダール
ジメントの取組の進め方について、多面的な視点
工学博士
から提案を行う。
元インド国立環境工学研究所
廃棄物管理学部長
2.都市ごみマネジメント
インドでは、都市ごみマネジメントは、環境衛生
の一部であり、その実行は地方政府に委ねられ
ている。大都市を除いて、廃棄物マネジメントは
[英文和訳:日廃振センター]
衛生官(Health Officer)
の責務であり、その運
搬に係る業務については技術部門が支援してい
る。この業務の多くは労働集約的であり、そのた
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JW INFORMATION 2006.4
インドの廃棄物マネジメントは、法律の制定や住民意識の向上によって変わ
りつつある。また、リサイクルの重要性も認識されるようになってきている。ここ
では、都市ごみおよび産業廃棄物について多面的な視点から提案を行う。
初期投入
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めの作業者の割り当ては、サービスを受ける1000
商品
人の居住者について2、3人である。地方政府当
局は廃棄物マネジメントに対して、1人当たり1年
につき75∼250ルピー(1ルピー=約2.7円)に相
当する5∼25%の予算を充当している。提供され
るサービスは、多くの場合、望ましい水準にはな
ユーザー
新聞、
ノート、雑誌、
壊れていない瓶など
の行商人への販売
共同ごみ入れ
廃棄物
プラスチック、紙、ガラスなど、
ピッカーによる手選別
っていない(参考文献1)。
廃棄物の量は、市街の人口規模により変化す
食料品店の包装材
としての紙/雑誌
るため、1人当たり1日につき0.2∼0.5kgの範囲に
ある。廃棄物の組成は、主要部分の有機成分
破損プラスチック製品
取引業者への非
破壊瓶の引渡し
(30∼40%)
、灰および細土(30∼40%)
と紙(3∼
6%)
、プラスチック、ガラスおよび金属(それぞれ
容器として再使用
1%未満)
となっている。紙は優先的に再生利用
され、プラスチック、ガラスおよび金属がその後に
プラスチック
ガラス
紙
取引
業者
取引
業者
取引
業者
低質製品製造
のための
家内工業
割れ
ガラス
紙・ボード
加工工場
ビーズ製造
続く(図1)
。炭素/窒素比率は20∼30%で、低
位発熱量は800∼1,000kcal/kgの範囲にある。
収集については、通常、共同ごみ入れ(com-
1次リサイクル
2次リサイクル
図1 都市ごみからの紙、プラスチックおよびガラス廃材のリサイクル
munity bin)
システムが使用されている。また、
ごみ入れのデザインは色々であり、特に標準化
されていない。最近では、市街の開発区域には
戸別収集方式が導入されている(写真1)。
共同ごみ入れの廃棄物は、汎用トラックからコ
ンパクタ車のものまでの種々の運搬車両により
収集される。地方政府当局は、廃棄物の運搬に
は、通常、公用車を使用している。しかし、多く
写真1 戸別収集カート
2006.4 JW INFORMATION
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の市では民間業者に委託して行っている。比較
街で数十年前より存在している。しかし、これら
的小さな市街では手作業による堆肥化が行わ
のシステムは、組織的に行われているとはいえ
れている。1980年以来、機械式の堆肥化施設が
ないものである。その主な問題点は次のとお
試みられているが、現状、廃棄物の処理技術と
りである。
して十分に確立されているとはいえない(図2)。
(1)市内からの廃棄物の除去が不規則
焼却は、廃棄物の発熱量が低いため、これまで
色々な収集地点に排出された廃棄物が規則
のところ成功例がない。汚染に対する未然防止
的な間隔で除去されない。同様に、多くの道
の措置がほとんど行われないまま、廃棄物は低
路や空地が規則的に清掃されていないため、
地に投棄処分されている。その処分地は、別の
環境衛生への悪影響が危惧される。
有用な目的のために再生されている(写真2)。イ
(2)廃棄物の最終処分
法規制に定められた規定に従い、複数の場
ンド政府の環境・森林省は、2000年9月に都市ご
み
(ハンドリングおよびマネジメント)
法を公布した。
所でオープンダンピングが衛生埋立に置き換え
地方政府は、現在この法律の執行に傾注してい
られている。しかし、住民の反対や土地のコ
るところである。それにより、多数の市で衛生埋
ストが高いなどのため、新規最終処分場の立
立が開始されている。
地確保が困難となっている。
(3)リサイクルの可能性の活用が途上
2-1
システムの問題点
廃棄物の大部分は分解性の有機物であり、
都市ごみマネジメントシステムは、大部分の市
そのリサイクルの可能性を活用し、埋立時の有
都市ごみ
栄養素
の追加
チャンディガール
(300t/d)
発酵処理原料ヤード
における貯留
ローダー
による撹拌
グワリオル
(120t/d)
デリー
(600t/d)
ボパール
(100t/d)
受け入れ
系
外 トロンメル・スクリーン
(35mm)
系
外
トロンメル・スクリーン
(3mm)
熟成ヤード
アーメダバード
(600t/d)
コルカタ
(700t/d)
セイン
(300t/d)
プーリ
(100t/d)
ムンバイ
(500t/d)
ビジャヤワーダ
(150t/d)
パンガロール
(300t/d)
ピザグ
(400t/d)
カリカット
(300t/d)
堆肥
稼働中
施工中
さらに15プラントを最終調整中
図2 インドの半機械化堆肥化施設
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JW INFORMATION 2006.4
機負荷を軽減するため、加工処理を行うべき
である。現在、資源およびエネルギーについ
て、使用に適した(appropriate、以下「適切」
という)回収システムの確立が進められている。
(4)プラスチック廃材
写真2 埋立地の再生グラウンド
数年前より、プラスチック材料は日常生活の
物の特性や使用されるその場所の状況がそれ
に包装材として使用されるプラスチック廃棄物
ぞれ異なるため、機械式堆肥化施設、焼却施
は、廃棄物マネジメントにおいて厄介物になって
設、コンパクタ車などの技術を他の国々から借用
いる。マハラシュトラ州では、最近、消費財の包
した2∼3の試みも、ほとんど成果が出ていない。
装へのプラ袋の使用が完全に禁止された。
2-2
不十分な廃棄物マネジメントの要因
(1)サービス提供区域および廃棄物量の増加
人口増加および1人当たりの廃棄物排出原単
位の増加に起因する都市ごみ量の増加により、
(4)不釣合いな人件費の高さ
総支出の約90%が人件費に充当されており、
その大部分は労働集約的な収集作業に費やさ
れている。
(5)社会的およびマネジメント的無関心
都市ごみマネジメントの運営効率は、地方政
マネジメントシステムはより厳しい状況になって
府当局と住民の両者の積極的な参加に依存し
いる。
ている。都市ごみマネジメントについては、そ
(2)不十分な資源
の社会的位置づけが低いので、無関心の度合
都市ごみマネジメントの優先度が低く、その
いは強い。これは、多数の区域での未収集廃
ため資金の十分な投入がなされていない。通
棄物や美観的かつ環境的に劣悪な、管理され
常、下水汚泥の収集と処理および廃棄物マネ
ていない処分場の存在からも伺い知ることが
ジメントについては、共通の予算枠となること
できる。
が多く、結果として後者への資金配分は前者に
比べて少ないものとなる。人的資源不足は、適
切な訓練を受けた要員がいないことが主たる
原因である。
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一部となっている。極薄プラスチック袋など、特
以下次号の後編に続く。
後編 目次
3.産業廃棄物マネジメント
4.システム改善のための統合的取組
5.終わりに
(3)不適切な技術
システムに現在使用されている装置および
機器は、汎用目的に開発されたもの、あるいは
他の産業用のものの転用である。このため、既
存資源の活用が不十分で、効率は低い。廃棄
〈参考文献〉
( 1)Shekdar, A.V., ( 2002), “ Municipal Solid Waste
Management in India ? Integrated Approach for
Betterment”, Modak Memorial Lecture delivered at
18th National Convention of Environmental Engineers held at Bhopal, India on Oct. 19-20.
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