1 2016 年 4 月 11 日 第2部: 完備情報下の静学ゲーム 第 2 章: 完備情報下の静学ゲーム 戦略的相互依存 複数のプレーヤーが意思決定する お互いの利得に影響を与える お互いの意思決定の仕方に影響を与える 例: 私は左側通行する: 他の人が右側通行していると危ない 他の人は右側通行している: ならば私も右側通行しよう 2 2.1. 標準形ゲーム (Normal form game, 戦略形ゲーム, Strategic Form game) 戦略的相互依存を記述する「基本モデル」 三種の神器 ( N , S , u) (プレーヤー集合、純粋戦略(Pure Strategy)プロファイル集合、利得関数プロファイル) N {1,..., n} S S1 S2 Sn Si プレーヤー集合 プレーヤー i N の純粋戦略集合(Set of all pure strategies for player i ) si Si 、 s ( s1 ,..., sn ) S S 純粋戦略プロファイル集合 ui : S R プレーヤー i の利得関数(期待効用) u ( u1 ,..., un ) 利得関数プロファイル ui : S R プレーヤー i N の利得関数(期待効用関数) 3 戦略的相互依存を示す重要なポイント: 各プレーヤーの利得 ui ( s ) が、自身の戦略 si のみならず 他のプレーヤーの戦略プロファイル s i ( s j ) jN \{ i } S i S j jN \{ i } にも依存している! 完備情報(Complete Information)?不完備情報(Incomplete Information)? 不完備情報: 実際にどのゲームに直面しているのかわからない状況 ( N , S , u ) ? ( N , S , u ) ? 特に u u 静学ゲーム?動学ゲーム? 静学ゲーム: 動学ゲーム: 各プレーヤーは戦略を一度に同時に決定する ことなるタイミングで、しかも一人何回も行動決定する 戦略は「行動の計画」 第2部は完備情報、静学ゲーム 4 ゲームのモデルとは? 現実をそのまま記述するものではない: 複雑すぎる、無意味 戦略的相互依存に関係する要因のみをモデル化: 標準形ゲームが基本モデル ( N , S , u ) ( N , S , u ) をどう特定するか? ショートカット: 単純化 直接関係しそうな経済主体、戦略の範囲 利得を決める根拠になる行動のみを扱う 現実を間違ってモデル化してしまうことも → ( N , S , u ) を再検討 動学ゲームを考える 不完備情報を考える 5 2.2. 標準形ゲーム:例 2.2.1. 同質財の複占市場(クールノー複占モデル) 企業1と企業2が同質財を供給する: 企業1の供給量 q1 [0, ) 企業2の供給量 q2 [0, ) q1 q2 が市場に供給される。 需要関数 d :[0, ) [0, ) 市場価格 p [0, ) について 需要量 d ( p ) [0, ) あるいは逆需要関数 p d 1 ( x ) p( x ) d ( p( x )) x 市場均衡(需給均衡) q1 q2 d ( p ) つまり需給均衡価格 p p( q1 q2 ) が成立 p(q1 q2 )qi 企業 i {1, 2} の生産費用 ci :[0, ) [0, ) よって企業 i の利潤 p(q1 q2 )qi ci (qi ) 企業 i の収入 6 クールノー複占を標準形ゲームでモデル化する: N {1, 2} S1 S2 [0, ) q i si S i ui ( s ) p( s1 s2 ) si ci ( si ) p(q1 q2 )qi ci (qi ) for each i {1, 2} 7 2.2.2. せり上げ入札 あるアンティークポットを入札者1と入札者2がせり上げ入札する 入札者1にとってポットは10000円の値打ちがある 入札者2にとってポットは8000円の値打ちがある 入札者1は(心の中で)「 s1 [0, ) 円までならせり上げに応じよう!」 入札者2は(心の中で)「 s2 [0, ) 円までならせり上げに応じよう!」 もし s1 s2 なら、せり上げは s2 円で終了し、入札者1が勝者 入札者1の利得は 10000 s2 (円) 入札者2の利得はゼロ(円) もし s1 s2 なら、せり上げは s1 円で終了し、入札者2が勝者 入札者2の利得は 8000 s1 (円) 入札者1の利得はゼロ(円) もし s1 s2 なら、せり上げは s2 円で終了し、じゃんけんで勝者が決まる 入札者の利得は 1 (10000 s2 ) (円) 2 入札者2の利得は 1 (8000 s2 ) (円) 2 8 せり上げ入札を標準形ゲームでモデル化する: N {1, 2} S i [0, ) si S i u1 ( s ) 10000 s2 u1 ( s ) 0 and u2 ( s ) 0 and u2 ( s ) 8000 s1 u1 ( s ) 1 (10000 s2 ) 2 and u2 ( s ) 1 (8000 s1 ) 2 if s1 s2 if s1 s2 if s1 s2 *二位価格入札:せり上げを上のように標準形ゲームで表すと、それは別の入札制度である「二位価格入 札」のモデルとしても解釈できる。 「高い指値をした方が勝者になる。」 「勝者は負けた方の入札者の指値(二番目に高い指し値、二位価格)を支払う。」 9 2.2.3. 多数決問題 三人の投票者1,2,3が、ある議案に対して、賛成票(Y)か反対票(N)を投じる 二人以上が賛成なら可決(1)。それ以外は否決(0) 投票者1,2はともに、可決を否決より選好する 投票者3は、否決を可決より選好する 多数決問題を標準形ゲームでモデル化すると N {1, 2, 3} S1 S 2 S 3 {Y , N } u1 ( s ) u2 ( s ) 1 and u3 ( s ) 0 u1 ( s ) u2 ( s ) 0 and u3 ( s ) 1 if si Y for at least two players if si N for at least two players 10 2.3. 標準形ゲームのマトリックス表現 プレーヤーが二人、戦略集合が有限集合の場合、標準形ゲームをマトリックス(行列)で表現できる。 e プレーヤー1 a b c d 現実の極端なショートカット: 19 90 34 78 20 16 86 54 f -8 12 24 77 123 78 24 -9 プレーヤー2 g 123 6 12 99 -6 -57 -8 -8 h 56 -23 54 92 -4 -129 -12 -13 わかりやすい ベンチマーク: 対立と協調の「エッセンス」 ただし、現実を不適切に簡素化している可能性 k 4 44 12 68 8 44 13 48 11 2.3.1. Prisoners’ Dilemma 社会的ジレンマ(1) パレート最適はどれ?パレート劣位優位の関係にあるのはどれ? c d c d 1 1 2 -1 -1 2 0 0 2.3.2. Matching Pennies 社会的ジレンマ(2) :PKゲーム L L R 1 -1 -1 1 R -1 1 1 -1 12 2.3.3. グーチョキパー 社会的ジレンマ(3) :matching pennies に似ている グー チョキ パー グー 0 0 -1 1 1 -1 チョキ 1 -1 0 0 -1 1 パー -1 1 1 -1 0 0 2.3.4. Coordination Game 社会的調整 左側通行?右側通行? パレート優位劣位の関係にあるのはどれ? L R L R 1 1 0 0 0 0 1 1 13 2.4. 均衡概念(Solution Concept, Equilibrium Conept) 各プレーヤーはゲームをいかにプレイするか? 均衡概念 各プレーヤーはゲームをいかにプレイするかを説明する、 どの戦略を選ぶかを説明する概念 優位戦略(Dominant Strategy) 劣位戦略逐次消去(Iterative Elimination of dominated strategies) 合理化戦略(Rationalizability) ナッシュ均衡 などなど 均衡概念を理解する視点: プレーヤーは合理的にふるまう: 自身の利得を最大化したい プレーヤーは知識を活用する: ゲームの構造についての知識(完備情報) 相手プレーヤーも合理的であることをフルに考慮 経験や慣習を考慮する: 左側通行?右側通行? 14 第2章:完備情報下の静学ゲーム:まとめ ゲーム理論は戦略的相互依存を分析するための応用数学である ゲーム理論の基本モデルは、標準形ゲームである。標準形ゲームは、プレーヤー集合、戦略プロファイル 集合、利得関数プロファイル(三種の神器!)で定義される。 経済、政治など、社会の様々な問題は、標準形ゲームによって表現できる。 標準形ゲームによるモデル化では、シンプル、簡便なやり方が求められる。その一方で、現実の記述に適 切であることが求められる。 二人プレーヤーのケースでは、標準形ゲームをマトリックスで表現できる。囚人のジレンマなど、利害対 立や協調の在り方のエッセンスをとらえることができるが、限界がある。 プレーヤーがゲームをどのようにプレイするかは、均衡概念によって説明される。均衡概念には、優位戦 略、ナッシュ均衡などがある。 均衡概念は、プレーヤーが、合理的であること、ゲームのルールや他のプレーヤーが合理的であることに ついての知識を活用すること、経験や慣習を活用すること、などを仮定する。
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