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とっとりバイオフロンティア人材育成セミナー
薬物の肝胆系輸送の重要性と
その評価の現状と将来展望
講師:前田
和哉 先生
東京大学大学院・薬学系研究科・講師
日時:平成28年12月20日(火)16:30~18:00
会場:とっとりバイオフロンティア1階 研修室
肝臓は腎臓と並び、薬物を含む外来異物を体外へと排出するために重要な
臓器の一つである。異物解毒の効率を決定する分子群としては、多様な第I相
(酸化反応)、第II相(抱合反応)代謝を担う酵素群に加え、血管側から肝細胞
への肝取り込みおよび肝細胞から胆汁中への排泄過程の膜透過を介在する
多様なトランスポーター群が挙げられる。現在では、肝取り込み・胆汁排泄
トランスポーターによる輸送過程をそれぞれ第0相、第III相と呼ぶこともあり、
代謝酵素とトランスポーターが互いに協調的に機能することで、効率よい異物
解毒システムが構築されている。その全貌が明らかになるにつれて、トランス
ポーターが肝クリアランスの決定に大きく寄与することが薬物速度論の理論から
も臨床データからも示されてきた。旧来では肝ミクロソームを用いたin vitro
代謝固有クリアランスを単純に臓器重量や体重でスケールアップするのみでin
vivo肝クリアランスの予測に繋げる研究がなされ成功を収めていた。しかし
近年、代謝酵素により体内から消失する薬物のうち一部のもので肝取り込み
トランスポーターの基質にもなる医薬品が多数出てきており、例えばアニオン性
のスタチン類については、ミクロソームから求まる代謝クリアランスより肝細胞を
用いた取り込みクリアランスの方が外挿するとin vivo肝クリアランスをより反映
する値となることも実証されている。
肝取り込みトランスポーターとしてよく研究がなされているのは、非常に多様な
有機アニオン系医薬品を輸送するOATP (organic anion transporting
polypeptide)1B1, 1B3である。これまで我々は同じアニオン性薬物であって
も、OATP1B1, OATP1B3の肝取り込みに占める寄与率は異なることを複数
のin vitro実験法により示してきた。また、併用薬によるOATP類の阻害により、
基質薬物の血漿中濃度が上昇する薬物相互作用も多数報告されており、それ
故、日米欧が現在新たに改定しつつある「薬物相互作用ガイドライン」にも、トラ
ンスポーターを介した相互作用に関する記述が多数追加され、in vitro実験
に基づき、如何にしてヒト臨床での相互作用リスクを捕捉するかについて具体
的な記載がなされている。
我々は、ガイドラインの発出前の段階からOATP1B1, 1B3を介した相互作用リスク
を捉える方法論について検討を進めており、近年では、臨床での薬物相互作用を
逆に利用して基質薬物の肝クリアランスの律速段階をヒトin vivoで決定する方法論
も提唱してきた。さらに、OATP1B1には比較的高頻度に存在する遺伝子多型で
あるc.521T>C変異が存在し、この変異保持者においては、複数の医薬品の血中
濃度が上昇することが知られており、個人間変動の要因の一つとなっている。さらに
近年上市されているスタチン類やC型肝炎ウィルス治療薬において、同じ投与量を
欧米人と日本人に与えると、日本人で欧米人の約2倍の血中濃度を示すことが報告
されているが、我々は、速度論的な解析の結果、この人種差が、複数のトランス
ポーターの遺伝子多型の頻度差では説明できず、OATP1B1の機能的な人種差を
何等か仮定しないと説明できないことを報告してきた。
一方、胆汁排泄トランスポーターについては、複数のABC (ATP-binding
cassette)トランスポーターがあり、P-glycoprotein (P-gp), multidrug
resistance-associated protein (MRP)2, breast cancer resistance
protein (BCRP)等の発現が認められている。これら輸送分子にも薬物により
多様性があることを我々はこれまで明らかにしており、同じスタチン類であっても、
pravastatinは主にMRP2を介して胆汁排泄されるのに対し、pitavastatinは
BCRP, rosuvastatinはMRP2, BCRP両方が重要であることを示してきた。
そこで、取り込み・排泄トランスポーターを1種類ずつ極性細胞MDCKII細胞に発現
させた共発現系セットを構築し、多くの医薬品の輸送機構の多様性を迅速に
スクリーニングできる系を構築し、複数の国内外の製薬企業に大学の産学連携本部
を介して有償譲渡してきた。
本発表においては、主に医薬品に焦点を絞り、肝取り込み・胆汁排泄を担うトランス
ポーター群の紹介、遺伝子多型・薬物間相互作用による機能変動が基質薬物の
臨床薬物動態に与えるインパクト、並びにそれらを予測するための実験系に関して
現状をご紹介するとともに、本研究領域の今後の展望についても触れたいと考えて
いる。
【参考文献】
1) Maeda K, Organic anion transporting polypeptide (OATP)1B1 and
OATP1B3 as important regulators of the pharmacokinetics of substrate
drugs. Biol Pharm Bull. 38: 155-68 (2015).
2) Maeda K and Sugiyama Y. Transporter biology in drug approval: regulatory
aspects. Mol Aspects Med, 34: 711-8 (2013).
3) Yoshida K, Maeda K and Sugiyama Y. Hepatic and intestinal drug
transporters: prediction of pharmacokinetic effects caused by drug-drug
interactions and genetic polymorphisms. Annu Rev Pharmacol Toxicol, 53:
581-612 (2013).
4) 前田和哉、薬物が胆汁排泄されるメカニズムについて教えてください 月刊薬事 58: 700-705
(2016)
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