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日本薬学会
第130年会 @岡山
放射光を用いた粉末X線回折法による
錠剤中の微量の結晶多形の測定
29 Mar, 2010
@岡山大学 津島会場A21
田辺三菱製薬㈱
創剤研究部 増田勝彦
医薬品における結晶多形
Ⅰ形結晶
Ⅱ形結晶
・分子間相互作用の有無/強弱 の違い
・分子運動性の違い
・固体表面分子部位の違い
・溶解性(溶解速度)、ぬれ性が変化
・物理的安定性が変化
・化学的安定性が変化
・製造性、収率が変化
血中濃度推移、薬理効果、毒性が異なる場合がある
2
医薬品 結晶多形:レギュレーション
平成13年:医薬審発第568号
各結晶形の存在比が変化
する場合、その存在比を製
剤の機能性試験(例えば、
溶出試験)により適切にコント
ロールできるか?
Yes
その機能性試験について
適切な判断基準を設定する
、
て
おい
に
状態 検証が
No
存
保
の
の
無
で
有
剤
の
製
び
化
安定性試験を行って、製剤中で、
及
変
!
程
の
結晶形の変化が起こるかどうか
!
工
形
り
化
晶
あ
検討する
剤
結
合
製
の
場
成分 められる
薬
主
求
安定性や有効性に
影響を及ぼすような
変化が起こるか?
Yes
安全性や有効性から
許容される判定基準を設定する
錠剤中の極僅かの量の変化
錠重量:150mg
主薬成分:15mg
(結晶転移が1%⇒ 0.15mg)
3
製剤中の微量の主薬成分の結晶の変化の確認方法
1.直接的に確認する手法
⇒粉末X線回折、ラマン分光法、THzスペクトラム
固体NMR、NIR・・・等々
2.製剤物性/特性値の変化を確認する方法
⇒溶出試験、崩壊試験、硬度・・・等々
⇒直接的 + 高感度で検出できる方法が望ましい
⇒SP8放射光粉末回折法を用いてはどうか
4
塩酸チアミン 擬似結晶多形
転移相関図
乾燥・加熱
Ⅰ形結晶
(1水和物)
吸湿
Ⅲ形結晶
(無水和物)
保
存
加
熱
移
転
Ⅱ形結晶
(0.5水和物)
5
Drug Development and Industrial Pharmacy, 27 481(2001)
塩酸チアミン Ⅰ形結晶 → Ⅱ形結晶 (不可逆)
水分吸着測定(87%RH)
2.5
w a te r(m o l/m o l)
2.0
1.5
1.0
Ⅰ形・1水和物
0.5
Ⅱ形・0.5水和物
0.0
0
2
4
6
time(day)
8
10
6
塩酸チアミン (Ⅰ形結晶 → Ⅱ形結晶)転移速度解析
実験方法
①4種の飽和塩を調製
相対湿度表
℃
sat. NaCl
25
75.3
30
75.1
40
74.7
50
74.4
sat. KBr
80.9
80.3
79.4
79.0
sat. KCl sat. KNO3
84.3
93.6
83.6
92.3
82.3
89.0
81.2
84.8
②デシケータに塩酸チアミンⅠ形結晶を入れ、
25~50℃のインキュベータに保存
③数時間∼(数日)∼百数十日間に取り出しXRD測定
7
加湿
Form1(1水和物) ⇒ Form2(0.5水和物)
Form1
Form2
1d
3d
day
Ⅰ型
1
3
5
7
9
11
Ⅱ型
100
100
1.65
1.6
1.6
1
0
0
0.3
0.9
3
3
Ⅰ型
Ⅱ型
100.0
0.0
100.0
0.0
84.6
15.4
64.0
36.0
34.8
65.2
25.0
75.0
50℃ 75%RH
5d
Ⅰ型
Ⅱ型
100
7d
Fraction
75
50
25
9d
0
0
4
8
12
day
固体NMRによる定量
8
塩酸チアミン Ⅰ形結晶 → Ⅱ形結晶 (不可逆)
湿度制御下でのXRDパターン
1.00
form 2
0.75
0.50
0.25
0.00
0
5
10
time(day)
15
20
50℃ sat-NaCl
Ⅱ形結晶
(0.5水和物)
Ⅰ形結晶
(1水和物)
20 day
0 day
7
10
13
16
19
9
塩酸チアミン Ⅰ形結晶 → Ⅱ形結晶 (不可逆)
25℃
94%RH
85%RH
81%RH 75%RH
1.00
Form-2
0.75
0.50
0.25
0.00
0.01
0.1
1
Time(day)
10
100
10
塩酸チアミン Ⅰ形結晶 → Ⅱ形結晶 (不可逆)
30℃
92%RH
84%RH
80%RH
75%RH
1.00
Form-2
0.75
0.50
0.25
0.00
0.01
0.1
1
Time(day)
10
100
11
塩酸チアミン Ⅰ形結晶 → Ⅱ形結晶 (不可逆)
40℃
89%RH
82%RH
79%RH 75%RH
1.00
Form-2
0.75
0.50
0.25
0.00
0.01
0.1
1
Time(day)
10
100
12
塩酸チアミン Ⅰ形結晶 → Ⅱ形結晶 (不可逆)
50℃
85%RH 81%RH
79%RH 74%RH
1.00
Form-2
0.75
0.50
0.25
0.00
0.01
0.1
1
Time(day)
10
100
13
塩酸チアミン Ⅰ形結晶 → Ⅱ形結晶 (不可逆)
Arrhenius plot
①各温湿度での転移の
速度定数(K)を算出
(Prout-Tompkins)
Arrhenius plot (%RH)
8
⎛ x ⎞
log⎜
⎟ = Kt + C
⎝1− x ⎠
(γ≒0.98)
から
式
関係
の
こ
4
ln K (1/day)
②相対湿度 v.s. lnKで
直線関係を確認
70
75
80
85
90
0
-4
-8
2.93E-03
3.13E-03
3.33E-03
1/T
14
塩酸チアミン Ⅰ形結晶 → Ⅱ形結晶 (不可逆)
活性化エネルギーの湿度依存性と
半減期
活性化エネルギー 湿度依存性
半減期と温湿度の関係
y = 1.6921x - 8E-12
39
37
75%RH
35
T1/2 (day)
Ea (Kcal/mol)
70%RH
100
33
80%RH
10
85%RH
1
90%RH
31
0.1
29
70
75
80
相対湿度(%RH)
85
90
20
30
40
50
60
70
Temp (℃)
15
さて、この塩酸チアミン(原薬)を製剤化(錠剤)とした場合、
微量のⅠ形結晶 → Ⅱ形結晶
の変化をモニターできるかどうか
放射光施設(SP8)に
塩酸チアミン錠を持ち込んで検討
16
BL19B2の実験風景
17
実験条件の最適化検討
・錠剤の取り付け方法
・測定波長(錠厚/径との関連)
・露光時間とピーク飽和
・・・等々の最適化の検討を実施
1回転/sec
錠剤
透過距離 6 mm
0.3×3mm
錠剤をそのまま測定する点がカギ
18
実験条件の最適化検討
I = a λ × I 0 λ × ( C API × Ea × t ) × e - μ λ t
120
照射面積:Ea
入射強度:I0
原薬
波長:λ
透過距離:t
a:定数
回折強度:I
α-Lactose monohydrate
μ(CuKα):12.9 cm-1
100
μ:透過係数
Relative intensity
錠剤
80
60
40
0.8 mm
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10
t / mm
錠剤中の原薬の回折強度が最大となる
波長,透過距離を確認
19
実験条件の最適化検討
① 波長
試料: 0.5% モデル錠 (6φ×3 mm)
透過距離: 6 mm(直径方向)
試料回転: 1rps
波長: 0.65∼1.1 Å
露光: 5 分
錠剤
λ:0.65∼1.1 Å
透過距離:6 mm
② 透過距離
錠剤
試料: 1% モデル錠 8φ
厚み: 2,3,4,5,6(3+3),7(3+4),8(4+4)mm
透過距離: 2∼8 mm
波長: 0.7 Å
露光: 5 分
λ:0.7 Å
透過距離:2∼8 mm
20
実験条件の最適化検討:①波長
透過距離を変えたときの原薬の
回折強度シミュレーション
120
120
100
100
80
80
Intensity
Intensity
0.5 % モデル錠(6mm厚)の
原薬の回折強度
60
40
20
20
0
0
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
1.2
0.65
0.7
0.8
60
40
0.6
λ/Å
0.9
1
1.1
0
2
4
6
8
10
12
t / mm
λ/Å
λ0.7 Åが最適
*波長 0.7Å において、薬物由来のピークと賦形剤由来のピークが明瞭に分離していた点も考慮
21
実験条件の最適化検討:②透過距離
強度
波長:0.7Å
I = a '× t × e
- μt
Placebo錠の透過係数(0.7Å):1.3 cm-1
0
1
2
3
4
5 6 7
t / mm
8
9 10 11 12
理論と実測は良く一致し,6 mm以上で強度最大
22
実験-1 塩酸チアミン錠の加湿保存
試料:塩酸チアミン錠(主薬含量11mg)
6φ×3 mm厚、錠重量 約110 mg
保存条件: 25、40、50、60℃ 各 75%RH
⇒ 適当な時点で取り出し、乾燥条件保存
23
塩酸チアミン錠 測定結果(例)
24
塩酸チアミン錠 転移速度解析
40℃以下の
転移速度論解析には
至らなかった
50℃75%RH半減期の変化:
薬効成分のみÆ10days
製剤 Æ18days
25
塩酸チアミン錠 結晶転移 検出限界
40℃ 75%RH 10.5days保存品
N=5繰り返し実験
残念ながら、検出限界以下であった。
26
検出限界及び定量限界
(1)視覚的評価
0.02%
Intensity
一般に、ベースライン・ノイズを伴う分析では、
S/N比= 2∼3 を検出下限とする
Placebo
2.5
2.6
2.7
2.8
2.9
3.0
3.1
3.2
3.3
3.4
Placebo (n=3) and 0.02%(n=3)
3.5
2θ(degree)
(2)レスポンスの標準偏差と回帰直線の傾き
0.6
項目
観測数:n
切片:I
傾き:S
相関係数:r
回帰直線の標準偏差:σ1
回帰直線から推定した濃度ゼロ
におけるシグナルの標準偏差:
σ2
検出限界:DL
定量限界:QL
0.5
Af/Am
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
値
14
-0.017 ± 0.003
1.121 ± 0.020
0.9981
0.0088
0.0094
0.028 %
0.083 %
0.6
Fenoprofen / %
検出限界* 0.02~0.03%,定量限界** 0.08%
* DL=3.3σ/slope
27
** QL=10σ/slope
実験-2 錠剤-Xの熱転移(可逆)
錠剤-X(主薬含量200mg)
(9.6φ×5.4mm厚、錠重量 約365mg)
加熱
A形結晶
B形結晶
32℃
冷却
錠 60℃ガスブロー
Form-B
Form-A
3
3.5
4
4.5
5
5.5
28
錠剤-X:加熱転移経時変化
錠 60℃ガスブロー
100
Form-A(%)
75
50
錠剤熱伝導の問題
精度の悪い温調
25
0
0
20
40
60
80
Time(min.)
29
まとめと今後の予定
通常の錠剤(6φ)を想定した、
錠剤中の微量の結晶状態の測定方法の最適化を行った。
⇒医薬品(固形剤)中の微量主薬(0.02%)の検出ができる方法を確立した。
*錠重量150mg(10%主薬):検出絶対量 30μg(0.2%の転移に相当)
実例として、
①塩酸チアミン錠:
-擬似転移の挙動を錠剤のまま確認
-主薬成分のみよりも製剤化することで、転移速度が低下
②錠剤-X:
-温風ブローにて転移過程を錠剤のまま観測
-錠剤の温度が不明であり、詳細な速度論解析には至らず
30
今後の課題
1.ラボ機との比較検証実験
- ラボ機においても錠剤測定ユニットが市販されている。
- 感度差等、比較検討を実施
⇒ ラボ機 / 放射光施設 の使い分け
2.錠剤加熱装置
- 全体を均一に温度制御でき、しかも簡便な装置のアイ
ディアが必要。
- 理想的には錠剤の実温度の測定ができると嬉しい
31
acknowledgement
東邦大 薬:寺田 勝英 教授
東工大 <院> 理工 :
植草 秀裕 准教授、
藤井 孝太郎 様
財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室
三浦 圭子 主幹研究員
松本 拓也 業務協力員、佐藤 眞直 副主幹研究員
田辺三菱製薬㈱ :
CMC研究センター 製剤研究部 製剤研究1Gr
木下 肇、坂 亞矢子
CMC研究センター 分析研究部 分析研究5Gr
山田 裕之
創薬化学研究所 創剤研究部 DDSGr/PFGr
野村 達雄、泉田 良郎、鈴木 由紀
駒坂 太嘉雄、石毛 孝征