持続可能な開発と企業成長戦略 - 成長戦略研究センター

平成 19 年度企業成長戦略プロジェクト(F−2C)
持続可能な開発と企業成長戦略
―ケニア・カンボジア・ネパール―
研究代表
小池
治(国際社会科学研究科)
横浜国立大学企業成長戦略研究センター
2008 年3月
はじめに
本プロジェクトは、開発途上国における「持続可能な開発」と企業の成長戦
略のあり方について、産官学協働のガバナンス構築という観点から研究を行い、
その成果をとりまとめたものである。
本プロジェクトの実施にあたっては、国際社会科学研究科において開発問題
を研究している3名の若手研究者(平田真太郎氏、タエ・ソクスレン氏、ジギャ
ン・クマル・タパ氏)で構成する研究会を設置し、2007 年夏より海外現地調査
を順次実施した。そして、2008 年 3 月には公開セミナーを開催し、研究成果に
ついての学際的な討論を行った。
本報告書に収録した論文は、いずれも開発途上国における企業成長戦略につ
いて報告者のそれぞれの研究関心にもとづいて執筆されたものである。それは、
今回調査を実施した3カ国(ケニア、カンボジア、ネパール)のガバナンスが
きわめてユニークであり、国際比較を行うための基準を設定することがきわめ
て困難であるからでもある。その点で本報告書はまだ研究の端緒にすぎないも
のではあるが、本報告書が今後の開発途上国の企業成長戦略の研究にあたって、
いくばくかの貢献となることを願うものである。
研究代表(コーディネイター)
小池 治(国際社会科学研究科教授)
2
目次
第1章
「ケニアにおけるガバナンスと司法制度改革」
平田真太郎(国際社会科学研究科国際開発専攻 3 年)
第2章
“Strategies for Promoting Japanese Investment in Cambodia”
TE Soksreng(国際社会科学研究科国際経済法学専攻3年)
第3章 「ネパールの企業成長における政府の取り組み」
ジギャン・クマル・タパ(国際社会科学研究科国際開発専攻2年)
3
第1章
ケニアにおけるガバナンスと司法制度改革
平田真太郎
1.ケニアにおける司法制度改革の展開と現状
独立後のケニアにおける司法制度改革は、次のような展開を経てきた1。1979
年から 1980 年のWaruhiu委員会は、司法の独立を目的とした調査委員会であり、
特に裁判官の身分保障を政府に対して要請し、政府もこれを受け入れたとされ
ている。また、司法の地域化として、地方で働く法律家の育成に力を入れるこ
とも勧告していた。1982 年には、実体法の継続的な更新を担当する専門機関と
して、法改革委員会(Law Reform Commission)が国家法制局のなかに設置さ
れた。1990 年から 1991 年にかけてのMbithi委員会は、統治機構全般の調査の
なかで司法制度にも触れており、司法サービスの分権化を勧告した点に特徴が
ある。特に、県レベルでの司法サービスの拡充を求めたほか、司法情報のコン
ピュータ化、ケニアロースクールの強化を通した法曹養成等が盛り込まれてい
た。さらに、1991 年から 1992 年にかけての司法制度調査委員会は、公共サー
ビス一般から分離された司法独自の給与体系、人事制度および業務条件等につ
いて調査することを目的とした委員会である。同委員会の報告に基づき、司法
は公共サービス一般から分離され、独立した給与および人事体系をもつように
なった。以上は、司法サービスの質量の改善、特に地方における司法サービス
の向上を目的とした諸改革であり、かかる内容の改革は独立以後継続して課題
とされてきたことが分かる。
このような展開の後、現在にまで継続している司法制度改革を導いた発端は、
1998 年にある。この年、Kwach委員会が設置されたが、これは、司法内部の汚
職の問題を提起し、裁判官の行動倫理規則(Code of Ethics)の制定を勧告した
点に特徴がある2。さらに、Murungi司法大臣のもとで、高等法院判事の不正行
為の実態調査が実施され、実際に裁判官一名が実名を挙げて告発された。これ
は、世論の裁判官批判を喚起し、同裁判官の辞任と首席裁判官の責任を求める
声が高まった。こうして司法内部の汚職が問題化されたなかで、2002 年末に発
足したキバキ新政権は、首席裁判官の適格性を審査する弾劾裁判所の設置に踏
み切り、この結果、不正行為を指摘された裁判官と首席裁判官は辞任に追い込
本段落の記述は、Republic of Kenya, Report of the Sub-Committee on Ethics and
Governance of the Judiciary, (2005), p.60ff.によっている。
2
Republic of Kenya, The Report of the Committee on the Administration of Justice,
1
(1998).その他、高等法院を刑事局、民事局、家族局、商事局へ区分する機構改革と、ナイ
ロビ以外における治安判事裁判所の増設という組織改革を勧告した。
4
まれた。その後、新政権は、新しい首席裁判官とともに、8 名の高等法院判事を
新任するとともに、全判事および裁判所職員を対象とした不正行為の実態調査
を行う委員会(Ringera委員会)を設置した3。そして、当委員会は、交代すべ
き判事等のリストを含む報告書を提出した4。かかる動きと前後して、法曹界に
も独自の司法制度改革案を提示する動きがあり、ケニア法曹協会(Law Society
of Kenya)の司法汚職調査委員会が報告書を提出し(2003 年 11 月)、またケ
ニアを訪問調査したコモンウェルス法律家団体も改革案を提示した。
Ringura委員会の報告書がケニア社会に与えた衝撃は極めて大きかったと評
されている。とりわけ、不正行為に関与したと疑われる判事の実名が公表され、
それらに対して、首席裁判官や司法大臣による辞任要求が出され、また世論の
批判を喚起した点が大きかった5。結果として、控訴院および高等法院裁判官 23
名(45 名中)、治安判事 82 名(254 名中)、裁判所職員(paralegal officer)
43 名が実名を挙げて不正行為を指摘された。ただし、弾劾裁判を経ずして、裁
判官に辞任するよう圧力をかけることは、司法の独立と裁判官の身分保障とい
う憲法規定との関係で問題がある。なぜなら、「憲法を固持し保護するために
憲法に違反するべきではない。簡便さや便宜を祭壇に乗せて立憲主義を侵害す
べきではない」という批判があるからである6。そのため、報告書は、「当委員
会が実施する過程は、異議申立てへの鋭敏な対応(sensitivity)、裁判官に対す
る公平さ(Fairness)と司法の独立の尊重、および公衆の目に映る信頼性
(Credibility)を反映しなければならない」との基本原則を掲げ7、弾劾裁判所
が控訴院と高等法院に一つずつ設置され、不正行為の疑いのある判事に異議申
立てと聴聞の機会が与えられた。この弾劾裁判によって、潔白が証明され、職
務停止および給与支払い停止措置が解除された事案が発生したため8、今度は裁
判官の弾劾および懲戒の適正手続が問題として提起された9。また、弾劾裁判へ
Kenya Gazette No. 101 of 2003/10/15.
Republic of Kenya, An Anatomy of Corruption in the Kenyan Judiciary, (2003)[ただ
し、公表はされていない]。本報告書の内容については、ICJ Kenya, Judicial Watch Report:
Analysis of Judicial Reform in Kenya 1998-2003, The Kenyan Section of the
International Commission of Jurist, (2004)、特にCh.5, D. Deya, “The Ringera Report on
Judicial Corruption in Kenya: Which Way Forward for Judicial Reform?”を参照した。
5
実際に裁判官等を解任する以前に、汚職を疑われた裁判官等は職務から外され、給与支
払いも停止するという措置がとられた。
6
Deya, op. cit., n.15, p.85.
7
この原則は、司法の独立に関する国連の基本原則(the United Nations Basic Principles
on the Independence of the Judiciary)17 条、およびコモンウェルス法曹団の報告書に基
づいている。
8
Republic of Kenya, Report and Recommendation of the Tribunal to Investigate the
Conduct of the Hon. Mr. Justice P. N. Waki Judge of Appeal, Government Printer (2004).
9
ICJ, Kenya: Judicial Independence, Corruption and Reform (2005), at www.icj.ke.
org., p.17ff.
3
4
5
の検察官の参加という問題を通じて、同輩による審査を原則とし裁判官として
の適格性を審査する弾劾裁判と、裁判官が着手したと疑われる汚職事件の捜
査・審理との関係が問題となった10。
ICJケニアの報告書は、ケニアの司法汚職の問題は、人の問題である以上に、
(憲法を含めた)制度の問題であり、「制度の衰退と沈滞」に本来的な問題が
あると指摘している11。かかる観点から、第 3 に、「包括的な法部門改革による
法の支配の実現」として司法制度改革を捉えることができる。この潮流は、1998
年に首席裁判官と国家法制局との共同により、法部門改革プログラム(Legal
Sector Reform Program)が策定され、実施に移されたことに始まる。これは、
法部門改革調整委員会のもと、法部門に包括される諸機関の改革を連携させる
ことをねらいとしたものであった。その後、拡大法部門改革プログラムを経て、
新政権のもとでの「ガバナンス・正義・法と秩序部門改革プログラム(GJLOS
改革プログラム)」へと展開されている。この流れは、「改革の成果を倍加す
るためには、司法改革はより包括的でなければならず、他の部門アクターの改
革と連関していなければならない」との原則に沿ったものと言える12。しかし、
この改革は、さらに進んで、「法部門」の概念のもとで法の執行や運用に係わ
るすべての機関を含めて把握し、それらに対する監督と統制の強化および能力
構築によって、ルール遵守体制の確立と社会における法制度の機能向上という
意味での法の支配を実現するとのねらいにまで拡張されていると考えることが
できる。
最後に、かかる一連の過程の背景には、1980 年代後半からの民主化運動に端
を発する憲法改正運動によって、国制の改革そのものを目的とした議論が高ま
り、国制の一環としての司法という位置づけから、司法制度の改革が提起され
たという事情がある点を見逃してはならない13。この観点からは、特に司法の独
立を目的とした改革が重要である14。ケニアは、独立以後、徐々に大統領への集
10
その他、現行憲法は裁判官一名につき一つの弾劾裁判所を予定していると指摘された
が、少数意見にとどまり、現行憲法が複数人の弾劾裁判を一つの裁判所で行うことを明確
に否定していないほか、時間と資源の節約の観点から正当化されている。また、実務的に
は、優秀で信頼のおける裁判官の不足により、弾劾裁判官の多くが他の職務と兼業せざる
をえず、また一度に大量の裁判官が汚職を疑われたために、弾劾裁判審理の遅滞と裁判所
の通常業務に支障が出る事態が問題となった。
11
ICJ Kenya, op. cit. n.15, p.99.そして、
「制度の再秩序化(re-ordering of institution)」
としてGJLOS改革プログラムに言及している。
12
Deya, op. cit. n.15, p.79.
13
ケニアにおける憲法をめぐる議論展開については、K. Kibwana, Readings in
Constitutional Law and Politics in Africa: A Case Study of Kenya, University of Nairobi
(1997); W. Mutunga, Constitution-Making from the Middle: Civil Society and Transition
Politics in Kenya, 1992-1997, Sareat/Mwengo (1999).
14
「裁判官は正義の奉仕者(servants)であり、政府の奉仕者ではない」との司法の独
6
権化を進め、人権抑圧的な諸法を制定し、また反政府活動への弾圧を強めるな
ど、権威主義化の傾向を示していた。とりわけ、1980 年代後半になると、集権
化の傾向は司法にも及び、司法の独立が政治問題化されるに至った。1988 年、
ケニア議会(Parliament of Kenya)は、裁判官の身分保障と罷免手続を定めた
憲法規定を削除したため15、裁判官も「大統領の意向(pleasure of the President)
により」その職務にあると解釈されうるようになった。しかし、かかる権威主
義化の傾向に対しては大規模な反対運動が展開され、1990 年には、裁判官の身
分保障を回復する目的から、裁判官の罷免の判断は再設置された弾劾裁判所に
委ねられるものへと憲法改正された16。その後、この潮流は、より実質的な司法
の独立を実現する改革へと続いている17。
2.ガバナンス・正義・法と秩序部門改革プログラムの概要
(1)キバキ政権のガバナンス改革と法の支配
新政権は、その綱領である『経済回復計画』において、極めて広範囲に及ぶ
ガバナンス改革を政策目標として提示している。この計画は、貧困の拡大、食
糧の不安定、経済崩壊の原因として、貧弱なガバナンス、治安悪化、法の支配
の崩壊を明確に位置づけた。そこでは、従来の公共部門について、「ケニアと
その国民を悪化させた最大の問題は、長年にわたるバッド・ガバナンスと貧弱
な経済管理から生じている。……貧弱な管理、政府における過剰な恣意、いか
がわしい人物の任用、政治的介入、プロフェッショナリズムに対する尊重の欠
如は、広範な汚職、政府公職の濫用といった手に負えない耐性をもたらした」
と評されており、「経済を回復させ、よりよい生活条件に対するケニア国民の
期待に答える努力において、出発点は、より良いガバナンス、国内の治安改善、
立原則はコモンローに由来し、ケニア憲法に受け継がれているとされている。Members of
the Legal Staff of the Kenya Institute of Administration, An Introduction to Kenyan
Law, 2nd revised ed., Kenya Institute of Administration (1975), p.22.
15
ケニア憲法は、議会へ提出された憲法改正法案が、第二読会および第三読会のそれぞ
れにおいて、国会(National Assembly)のすべての議員の 65%以上の賛成によって可決
されることで成立すると定める(47 条 2 項)。なお、議会は、国会と大統領とから構成され
る。
16
ケニア憲法 62 条 3 項「高等法院の裁判官は、
(心身の故障、その他の原因により)裁
判官としての職務を遂行することができない場合、またはmisbehaviorの場合にのみ罷免さ
れ、本条によるほかを除いては罷免されない」
。
17
ICJ Kenya, Strengthening Judicial Reforms in Kenya Vol.2: The Role of the
Judiciary in a Patronage System, ICJ Kenya (2002), pp.15-16.また、憲法裁判の活性化も、
最近のケニア司法の特徴である。P. Kichana ed., Constitutional Law Case Digest, Vol.2,
ICJ Kenya (2005).
7
および法の支配の回復である」と宣言している18。
項目別に見ると、良いガバナンスの課題としては、①司法憲法問題担当大臣
職(Ministry of Justice and Constitutional Affairs)、および大統領府にガバ
ナンスと倫理に関する担当局を創設すること、②反汚職・経済犯罪法 19 (Anti
Corruption and Economic Crimes Act)および公務員倫理法20(Public Officer
Ethics Act)の制定、③汚職に関与した裁判官の罷免、④公務に関わるすべての
雇用契約を再審査する作業チームの立ち上げ、⑤憲法改正論議の推進、⑥ガバ
ナンスに係わる法案(公共調達、公共財産の処分、財政、アカウンタビリティ
の分野)の作成、⑦政治家の関与が疑われる汚職事件であるゴールデンバーグ
事件の再調査が挙げられている21。また、治安の改善としては、警察機構の改革
に取り組むことが宣言されている。かかる諸改革のうち、司法憲法問題省(旧
司法省の改組)およびガバナンス・倫理局の設置、反汚職経済犯罪法および公
務員倫理法の制定、汚職に関与した裁判官の罷免は、すでに 2003 年に実施され
た。
法の支配の実現については、「民主的社会においては、個々の市民の諸権利
と、その他憲法に定められたすべての政府機関による保護と促進とが、良いガ
バナンスの中心的な原理である。民主的社会において優越しなければならない
のは、人の支配ではなく法の支配である」とし、「正義の執行と、司法へのア
クセス」を法の支配の鍵となる要素として挙げている22。そのうえで、司法府の
抱える問題として、事案の審理と判決の遅延、司法府への干渉と法の支配の執
行の弱さ、裁判所および裁判官の執務設備の不足、不十分な予算、司法府にお
ける汚職の蔓延と能力主義の欠如、裁判所職員の昇進における煩雑な手続およ
び管理的制裁の過剰使用、人的資源の制約を問題として指摘している。その他
の課題として、①より多くの法律専門職の雇用と訓練の実施による能力向上、
②コンピュータ化による事件登録制度の改善、③仲裁を含む代替的紛争解決制
度(ADR)の構築、④商事裁判所の拡充を挙げる23 。対策として、公務員倫理
法に基づいて司法職行動倫理規定(Judicial Service Code of Conduct and
Ministry for Planning and National Development, Economic Recovery Strategy for
Wealth and Employment Creation: Economic Recovery Plan, 2003-2007, Government of
18
Kenya, p.8.
19
汚職の罪刑の構成要件と、法律の執行機関として汚職および経済犯罪を調査する独立
委員会(反汚職委員会)の設置を定めている。
20
立法、行政、司法すべての公務員の行動倫理を定めるとともに、資産公開を義務づけ
ている。
21
新政権による汚職対策のプランは、Republic of Kenya, Office of the President, Public
Service Integrity Programme: A Sourcebook for Corruption Prevention in the Public
Service, Government Printer (2003)にまとめられている。
22
Economic Recovery Plan., p.9-10.
23
Ibid., p.10.
8
Ethics)が策定され、すべての裁判官には、その資産公開が義務づけられた。
また、新政権の方針に従って、首席裁判官直属の委員会が司法府における汚職
への対策案作成のために調査を実施し報告書を提出したほか24、法改革委員会も
行動計画を策定し実施している25。
(2)ガバナンス・正義・法と秩序部門改革プログラム
GJLOS改革のヴィジョンは、「万人のための、安心、安全、民主的、公正、
汚職のない、人権を尊重する、繁栄したケニア」の実現であり、その課題は、
「人権を保護し、効率的で、説明責任を果たし、透明なガバナンスと正義を向
上させるために、各部門の制度を改革し強化すること」である(表1.「改革
論理の構図」を参照)。改革プログラムは、2004 年からの 1 年に渡る短期プロ
グラムの実施の後に、全 5 年に渡るプログラムが実施されている26。プログラム
は、ケニア政府の 32 の省庁が対象であり、また 15 の国および国際機関27が資
金拠出している極めて大規模なものである28。
改革内容は、7 つの目標から構成されており、それぞれの目標ごとに作業部会
が設けられている。第一の目標は、「政府の倫理向上、清廉さ(integrity)、
反汚職」であり、公務員の倫理向上と汚職の一掃を課題とする。第二に、「民
主主義、人権、法の支配」であり、ケニアにおける人権侵害の発生を防止し、
法の支配を確立することが課題である。第三に、「正義、法と秩序」であり、
弱者の保護と正義へのアクセスが課題である。第四に、「公共の安全および治
安」であり、警察機構改革のほか、警察とコミュニティ自警団のパートナーシ
ップによる治安状況の改善が課題である。第五に、「憲法の発展」であり、新
憲法の成立へ向けて国民のコンセンサスを醸成していくことが課題である。第
24
Republic of Kenya, Report of the Sub-Committee on Ethics and Governance of the
Judiciary, (2005).
State Law Office, Strategic Plan, 2004/5-2006/7, (2005).
Republic of Kenya, Governance, Justice, Law and Order Sector (GJLOS) Reform
Programme, Government of Kenya Final Report—Short Terms Priorities Report, (2006)
at http://www.gjlos.go.ke.
27
支援国および機関は、①バスケット基金への資金拠出として貢献するカテゴリー(オ
ランダ、イギリス、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、カナダ、ノルウェー)、②
ケニア政府との個別合意に基づいてプログラムの特定部門について支援を実施するカテゴ
リー(アメリカ、EU委員会、ドイツ、UNDP、UNICEF、UNDOC、UNHabitat、世界銀
行)、③プログラムを実施するカテゴリー(ノルウェー、スウェーデン、イギリス)に分類
されている。
28
プログラムの実施組織は、①ケニア関係省庁の大臣から構成され、政策的方向性につ
いての決定を行う機関間統括委員会(Inter-Agency Steering Committee)、②プログラム
の実施に関する決定権を有する技術的調整委員会、③ドナー間協調を達成するとともに、
プログラムの実施を監視する国際開発パートナーフォーラム、④テーマ別部会、⑤プログ
ラム調整室および財務部門から構成される。
25
26
9
六に、「質の高い法律サービス」の提供として、司法サービスの質量の向上の
ほか、法律サービスの地域間格差の是正が含まれている。第七に、「実効的な
リーダーシップと改革運営能力の構築」として、司法省による改革運営能力の
構築のほか、改革を実施する指導力をもつ人材育成が課題とされている。以下
では、各目標ごとに、対象機関、実施手法などを具体的に見ていきたい29。
まず、「政府の倫理向上、清廉さ、反汚職」部門では、中央省庁、州行政(大
統領府直属の地方機関)、地方政府、警察、移民局、国民登録局、登記局など
が対象である。汚職対策として、制定された反汚職経済犯罪法の執行機関とし
てケニア反汚職委員会が設置され、また公務員倫理法の執行機関としてガバナ
ンス・倫理局が法律の執行にあたっている。さらに、各省庁をはじめとする行
政機関には汚職対策の内部規則の策定と不服申立て制度の設立が要請されてい
る。また、国民の間での反汚職意識を涵養するため、国家反汚職キャンペーン
統率委員会が、広告会社への外部委託および民間団体との協力により、反汚職
のキャンペーンや情報の提供を実施している。そのほか、司法省および検察庁、
ケニア人権委員会、ケニア法改革委員会が、汚職対策に係わる調査・検挙能力
の向上や、そのための制度改革および能力構築に取り組んでいる。
「民主主義、人権、法の支配」部門では、警察・行政警察、州行政、監獄局
における法の支配確立のための制度構築、特に女性や子どもなど弱者へ配慮し
た措置を規定する内部規則の策定と研修が行われている。人権問題への対応と
しては、ケニア人権委員会が、人権侵害の申立てとその処理制度の構築、行政
機関を監視する能力の向上、経済的・社会的諸権利の保護・促進のための支援
策、人権尊重意識を涵養するための諸方策の実施、人権状況の報告書作成など
にあたっている。児童福祉の問題への対応としては、保健省児童局が、子ども
の人権尊重のための諸政策(エイズ等の疾病予防、性的犯罪からの保護、孤児
への対応、女子の通学率の向上、児童福祉施設の改善など)のほか、データの
収集や組織能力の向上のための対策を行っている。法改革委員会は、女性に係
わる法律の見直し部会による、婚姻法、性的犯罪法、寡婦財産法、家庭内暴力
防止法、男女機会均等法の検討のほか、選挙法、政党法、児童法、身体障害者
法の法案作成や改正案の準備を行っている。
「正義、法と秩序」部門では、各行政機関の法遵守体制の構築により、法執
行能力の構築が課題である。警察等による治安維持能力の向上や監獄局による
現状の改善を通して、特に女性や子どもなど脆弱な集団に配慮した治安状況の
Republic of Kenya, Government of Kenya Progress Report: Medium Term Strategy,
(2006); GJLOS Programme Coordination Office, Short Term Priorities Programme:
Narrative Progress Report, 1, July 2004 to 30, Sep 2004,; GJLOS Programme
Coordination Office, Medium Term Programme: Narrative Progress Report, 1, July
2005 to 30, June 2006, (at http://www.gjlos.go.ke)をもとに要約した。
29
10
改善のほか、囚人の社会復帰プログラムの充実、無職青年の職業訓練などがあ
る。さらに、国民登録局は、孤児や脆弱な子ども(ストリートチルドレンなど)
を含む脆弱な集団の戸籍登録を進める計画となっている。また、司法へのアク
セス改善のため、司法省による法律支援の拡充(後述)、ロースクール強化に
よる法律専門職の数の増加と能力の向上、司法業務委員会による民事訴訟法の
改正や裁判所制度の改革(巡回裁判所の設置や裁判費用の減額など)の検討、
判例編纂局による判例供給の向上などもこの部門に含まれている。実体法の見
直しとしては、法改革委員会による会社法、破産法、組合法、不動産賃貸借法、
その他の市場に親和的なビジネスのための法制度、軽犯罪裁判所、伝統的裁判
所、私訴に関する法律の調査研究が行われている。
その他、「公共の安全および治安」部門では、警察法の見直しによる警察機
構改革とともに、犯罪予防計画の策定やコミュニティ治安維持の促進と協働が
主な課題である。また、州行政に関しては、チーフ法の見直しをはじめとする
行政官の統制メカニズムの改善と研修による意識向上が課題とされている。ほ
かに、移民局による移民政策の改善なども含まれている。「憲法の発展」部門
では、国家法制局による憲法草案の見直しのほか、司法省や法改革委員会によ
る国民投票制度の見直し、憲法の発展へ向けたさらなる努力が課題とされてい
る。「質の高い法律サービス」部門では、法改革委員会の能力向上のために人
材育成や設備調達、ロースクールによる法律職育成の充実などがある30。また、
弁護士など法律サービスへのアクセスの改善、特に地方における法律サービス
へのアクセス制度、検察庁の能力向上のほか、商事仲裁制度の整備、条約局の
能力向上による条約遵守体制の構築も含まれている。最後に、「実効的なリー
ダーシップと改革運営の能力構築」部門では、改革への支援体制の構築、各種
機関(議会、国家経済社会委員会、NEPAD)との協働体制の構築、部門間調整、
NGOなど民間団体との協調などが課題であり、GJLOSプログラム調整室の能力
向上(特に、監視および評価メカニズムの構築)のほか、公衆への情報提供が
重視されている。
3.司法汚職に対する取り組み
(1)司法汚職の実態
ICJケニア支部の調査によると、司法府は腐敗していると認知している人が
79%に上り、「これまでに裁判所のなかで汚職を目撃したことがあるか」との
30
このプログラムとは別に、2004 年から、ケニア法曹協会と、カナダ国際開発庁および
カナダ法曹協会(Bar Association)の協働により、継続的法律教育の制度が立ち上げられ、
実行に移されている。Law Society of Kenya, Strategic Plan 2007-2012,
11
質問に対しては、53%が「ある」と回答している。汚職認知件数の役職別の割
合は、治安判事(17%)、裁判所補佐官(court clerk)
(16%)、検察官(14%)、
弁護士(13%)、裁判所書記官(12%)、裁判官(9%)、裁判所護衛官(7%)、
補助裁判官(5%)、司法行政官(5%)、送達実施人(2%)となっている31。
具体的な不正行為の種別については、首席裁判官直属の小委員会が行った実
態調査が、次のような事例を指摘している32。すなわち、審理の遅滞、判決言渡
しの遅滞、資料の誤管理・紛失、訴訟人から受領した金銭の会計報告の欠如、
公文書の濫用、訴訟人のためにする訴答書面の作成、特定の弁護人または訴訟
人に好意的な取り扱い、証拠物の不適切な取り扱い、親類または友人の情実任
用、裁判官・訴訟人・弁護人の不適切な関係、上級裁判官とそのスタッフとの
不適切な関係、事案を担当する裁判官を「金で買うこと」、事件目録に事件を
誤って記載するまたは記載しないこと、裁判官室での訴訟人との応対、バーや
パブの無配慮な出入り、特定の裁判管轄外部の訴訟を審理すること、説明なし
に裁判を休廷すること、法令や判例のあからさまに誤ったまたは理由の付され
ない解釈、適切な説明なしに特定の事案に有利となるような審理日を決定する
こと、基本的な法的信条に従わない一方的な最終的判決を与えること、適切な
説明なく予定されていた日とは別の日に判決を言渡すこと、訴えの不適正な記
載である。
(2)司法汚職への取り組みの理念
以上の法の支配実現プロジェクトの一環として、司法府が独自に実施してい
る改革がある。これは、「公平、効率的、かつ実効的な司法制度を実現する」
という司法の清廉さ(judicial integrity)の確立に向けた改革である33。司法の
清廉さは、「質の高い司法の公平・効率的・不偏的な運営、法の支配の確立、
政府内部の均衡しかつ安定的な権力分立、そして個人の諸権利と諸自由、財産
の実効的な保護および維持のために本質的なものである」とされている34。この
理念は、コモンウェルス諸国の首席裁判官が、国際的な汚職への取り組みの一
環として司法府の汚職問題に取り組み始めたことによって生まれたものであり、
2000 年には、ウィーンで会議が開催され、①「アカウンタビリティの原則のも
と、各国の司法府が、その権限と能力のなかで体系的な改革を実行することで、
司法の純一性を強化する積極的な役割を果たすこと」、②「司法の独立の原則
ICJ Kenya, op. cit., n., p.45-46.
Republic of Kenya, Report of the Sub-Committee on Ethics and Governance of the
Judiciary, (2005), pp.33-34
33
Republic of Kenya, Report of the Sub-Committee on Ethics and Governance of the
Judiciary, (2005).
34
Ibid, p.22.
31
32
12
に適合し、政府の行政府や立法府の介入を受けることなく、各国のレベルで司
法 府 が 執 行 す る こ と の で き る 普 遍 的に 受 容 さ れ う る 司 法 の 標 準 ( judicial
standards)を定めた文書を早急に用意する必要があること」が承認された35。
その後、草案作成、パイロットプロジェクトの実施(ウガンダ、スリランカ、
ナイジェリアの三国)を経て、2002 年にBangalore Principles of Judicial
Conductとして成文化された。
かかるプロセスを支えた理念は、司法改革の理念として、裁判官の身分保障
をはじめとする司法の独立から、司法のアカウンタビリティへと重心移動があ
ると思われる。ケニアの首席裁判官は、「司法のアカウンタビリティとは、憲
法およびこの国の法律に基づいて、その者に代わって司法が司法権を行使する
人々に対して責任を果たす(is responsible)プロセスである」としている36。
そして、司法の独立との関係からして、「外部の制度ではなく、司法内部のア
カウンタビリティメカニズム[を構築すること]が望ましい37」とされている。
ケニアの改革提案は、司法の清廉さを確保する手段として、具体的には、①
司法の独立の保障、②制度および実務の独立、③予算の独立、④法の前での平
等の権利と、公平かつ中立的な裁判の保障、⑤司法へのアクセスの拡充、⑥公
平、迅速、かつ実効的な判決の執行、⑦裁判官および裁判所職員(以下、裁判
官等と記す)の身分保障、⑧裁判官等の適正な資質の涵養と、客観的かつ透明
な選抜制度、⑨裁判官等の客観的かつ透明な昇進制度、⑩裁判官等の客観的、
透明、公平、実効的な懲戒手続、⑪民事および刑事訴訟からの裁判官免責の制
限38、⑫裁判官等の雇用に関する競争的条件の付加、⑬裁判官等の適正な訓練と
継続的な法律教育、⑭司法における表現および結社の自由、⑮裁判官等の高い
行動基準と裁判官倫理の規則、⑯裁判官等に関する所得および資産の公開、⑰
利益相反のルール、⑱独立しており、客観的、効率的、透明な裁判所運営、⑲
効率的な審理過程、⑳法律および司法情報への裁判官のアクセス、21 法律およ
び司法情報への公衆のアクセスを列挙している39。
35
N. Jayawickrama, “Developing a Concept of Judicial Accountability – The Judicial
Integrity Group and The Bangalore Principles of Judicial Conduct”, Commonwealth
Law Bulletin, Vol.28, No.2 (2002), pp.1091-1108, 1093f..
36
Hon. Mr Justice J. E. Gicheru, Independence of the Judiciary, Accountability and
Contempt of Court, (2005), p.12.司法のアカウンタビリティについては、A. Le Sueur,
“Developing Mechanisms for Judicial Accountability in the UK”, Legal Studies, Vol.24,
Issue 1-2 (2004), pp.73-98.
37
Republic of Kenya, Report of the Sub-Committee on Ethics and Governance of the
Judiciary, (2005), p.15.
38
民事について、裁判所法 8 条は、「裁判官、治安判事、その他司法権を行使する者は、
その管轄権の内部においてであるか否かにかかわらず、その義務の遂行においてなした行
為について、民事裁判で訴えられる責任を負わない」と規定する。
39
Ibid., pp.22-23.
13
(3)裁判官等の規律制度の改革
裁判官等の規律については、憲法規定により、高等法院判事と治安判事その
他裁判所職員とで担当機関や仕組みが異なっている。それぞれに分けて勧告案
を見ていく。
(a)高等法院判事の規律と首席裁判官による規律権限の行使
高等法院判事の規律に関しては、ケニア憲法 62 条に規定された裁判官の身分
保障規定において、裁判官の弾劾裁判を大統領に対して請求することができる
首席裁判官の権限が定められている40。しかし、首席裁判官は大統領によって直
接に任命され41、政治任用される可能性があるため、規律権限行使の濫用または
不行使が問題となる。規律権限の濫用防止については、他のコモンウェルス諸
国を参考にして、権限行使においては自然的正義の手続に従うべきとの原則が
示された。
その一方で、規律権限の行使は首席裁判官の裁量事項であり、不行使のおそ
れに対処する必要がある。そこで小委員会は、公衆からの苦情申立て制度の設
置を提言している。これは、2003 年の国連人権委員会第 59 会合において採択
された Bangalore Principles of Judicial Conduct を参考にして、憲法 62 条 5
項を廃止し、弾劾裁判制度を次のような「裁判官苦情申立て懲戒委員会(Judges
Complains and Disciplinary Committee)」制度に置き換えることを勧告した
ものである。この委員会は、①控訴院判事から選出される 2 名、②高等法院判
事から選出される 3 名(内、少なくとも 1 名は女性)、③首席裁判官によって
任命される議長、④委員会の任命する事務局長から構成される独立の委員会で
あり、公衆からの申し立てがあった苦情について調査し、懲戒を課すかどうか
の判断をする権限を有する。
具体的には、裁判官の不正行為を、①訴訟の遅延や倫理規定違反などの「軽
62 条 4 項「高等法院の裁判官は、その罷免の問題が本条 5 項により設置された弾劾裁
判所に提起され、弾劾裁判所が大統領に対して、前項の無能力またはmisbehaviorを理由と
して、当該裁判官の罷免を勧告した場合には、大統領によって罷免される」。
62 条 5 項「本条に基づいて、首席裁判官が普通裁判官の罷免に関する問題を審理すべき
であると大統領に請求した場合、(a)大統領は、(i)高等法院の裁判官または控訴院の裁判官
の職務にあるか、職務にあった者、(ii)61 条 3 項に基づいて高等法院裁判官に任命される資
格を有する者、(iii)弁護士法 17 条に基づいて大統領が上級弁護人の地位を与えた者、これ
らのなかから大統領が選出する議長およびその他 4 名から構成される弾劾裁判所を設置し、
(b)弾劾裁判所は、罷免に関する問題について調査し、問題に係わる事実を大統領に報告し、
当該裁判官を本条に基づいて罷免するかどうかについて勧告しなければならない」。
41
憲法 61 条 1 項「首席裁判官は、大統領によって任命される」。61 条 2 項「普通裁判官
は、司法業務委員会の助言に従って、大統領によって任命される」。
40
14
微な不正行為」、②合理的な裁判所運営命令に従わないこと、暴力的な言動に
よる脅迫、勤務時間を職務以外に使用するなどの「深刻な不正行為」、③公衆
や職員に対する暴行、詐欺、窃盗、故意の虚偽報告、記録の改ざん、守秘義務
違反、汚職、セクシャルハラスメントなどの「重大な不正行為」に分類し、軽
微な不正行為の場合は、警告書の送付や職務の一時停止、給与の一部没収にと
どめ、不正行為のレベルが高まるにつれ、最終警告書の送付と罷免という手段
を採ることができるようにすべきとしている。また、当委員会の規律過程も自
然的正義の原則に従い誠実に行われること、判決に対する直接の苦情は受理さ
れえないが審理過程における裁判官等の不適切な行為については受理の対象と
なるべきとする。
(b)治安判事、カーディ裁判官、裁判所職員の規律
治安判事(magistrate)、カーディ裁判官42、裁判所職員に対する規律の任務
は、司法業務委員会(Judicial Service Commission)が、司法業務委員会規則、
および 2003 年に制定された公務員倫理法による権限に基づいて行っている。し
かし、当該委員会による規律が不十分であるとして、小委員会は、苦情申立て
を専門とする常設委員会の設置を勧告している。具体的には、治安判事とカー
デ ィ 裁 判 官 を 対 象 と し た 「 倫 理 懲 戒 委 員 会 ( Ethics and Disciplinary
Committee)」制度を提言している。当委員会は、高等法院判事の 1 名を議長
とし、治安判事、カーディ裁判所、裁判所の上級職員、および下級職員からそ
れぞれ 1 名ずつを司法業務委員会が選任するという形態を採る。さらに、各地
域の裁判所ごとに同輩委員会を設け、当該地域の裁判官に指導を与えるほか、
各裁判所の裁判官による内部規律の手続を定めるよう勧告している。
42
イスラム法を専門に管轄する裁判所の裁判官である。
15
表1.改革論理の構図
GJLOS 改革の論理
【国民の富と
より良いガバナンス
より良い正義
より良い法と秩序
貧困削減目標】
GJLOS 改革の部門別優先項目
【部門別優先項目】
1.ガバナンス改革(進行中の汚職対策の強化を含む)
テーマ別作業部会
2.人権改革(権利に基づく手法による弱者等への権能付与)
3.司法改革(万人の司法へのアクセス、民間の発展のための商
事裁判所を含む)
4.法と秩序改革(犯罪予防、警察改革等)
5.改革を志向した能力構築(部門横断型手法、文化の変化)
【プログラム運営
の成果】
GJLOS
MDAs
結果 5 市民の情報取
結果4司法へのア
得と参加
クセスの改善
結果 2 より実行力の
結果 3 汚職関与者
ある GJLOS 制度
の責任逃れを削減
結果6
実 効 的 な
GJLOS プロ
グラムの運
営/調整
結果 1 応答的で実効的な政策、法、規制
出 所 : Republic of Kenya, GJLOS Reform Programme, 2006/7 Work Planning
Programme: Quick Reference Planning Guide, (2006), p.16.
16
第2章 “Strategies for Promoting Japanese Investment in Cambodia”
TE Soksreng
When most Japanese think of Cambodia — those that have heard of it that is —
they tend to summon up images from movies like “The Killing Fields”, piles of skull,
the heart of darkness, everywhere is covered by landmines. That is not necessarily an
unfair representation of recent Cambodia history, but those images are badly out of date.
In recent years, Cambodia has undergone sweeping changes not only in the
filed of politics and security, but also in the country economic and social landscape.
This stable, safe and secure environment is an essential precondition for Cambodia to
realize its potential economic and social achievements and build a peaceful and
prosperous nation.
Cambodia’s booming economy, second in Asia only to China in double digit
GDP growth, enjoys a stable political situation, together with the most welcoming and
liberal, business, investment and trade environment in ASEAN. Real GDP growth
reached an all time record of 13.5 percent in 2005 and growth was maintained at 10.4
percent in 2006 and 9.7 in 2007 (Figure 1). An increasing number of world-class
international investors are moving into Cambodia’s fast-expanding market, notably in
banking, insurance, consumer and retail marketing, construction, energy, hotels and
tourism, mining, cement production, agro-industry, export and domestic oriented
manufacturing, as well as support sectors including industrial estates, ports,
telecommunications and transport services.
Japan is the top donor to Cambodia, but the world's No. 2 economy accounts
for a mere 2 percent of Cambodia's overall trade (table 1 and 2). During the official visit
in Japan last June, Prime Minister Hun Sen of Cambodia and Prime Minister Shinzo
Abe of Japan singed a pact to promote investment by Japanese firms in Cambodia.
The Cambodian Government is working hard to provide an enabling
environment for Japanese investors. There are many market-based advantages to
investing in Cambodia for Japanese firms. These include sound macroeconomic
2
environment, an inexpensive labor force, plentiful natural resources and strong
economic growth. There are also competitive policy-based investment incentives, such
as fast track approval procedure with a maximum of 28 days to approve all investments,
access to ASEAN and World markets, preferential trading status, and strategic location.
Figure 1: Real GDP Growth 1993-2007 (%)
Real GDP Growth (%)
Growth percentage
16
14
12
10
4
2
10
9.2
8
6
13.4
12.6
4.1
8.6
8.4
6.5
5.3 5.7
5.5
5
10.8
9.7
6.2
0
93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07
19 19 19 19 19 19 19 20 20 20 20 20 20 20 20
Year
Sources: IMF September 2006 and Supreme National Economic Council 2007
Table 1: Trade Values between Japan and Cambodia (Million yen)
1998
1999
2000
2001
2003
2004
2005
Export to Cambodia
5,846
5,720
5,602
6,123
6,305
8,635
8,620
Import from
Cambodia
2,104
3,929
5,627
8,016
10,346
10,785
11,642
Trade Value
7,947
9,649
11,229
14,139
16,651
19,420
20,262
Balance
-3,739 -1,791 2,500
1,839
4,041
2,150
3,022
Sources: 1998-2001 Japan Business Association of Cambodia; 2003-2005
ASEAN-Japan Center
3
Table 2: CDC-approved investment by country in Cambodia 1994-2006
Country
Total Investment (Million US$)
China
2,059
Malaysia
1,956
Republic of Korea
1,359
United States
559
EU
357
Thailand
331
Singapore
267
Japan
Source: CDC
20
The primary investment incentive Cambodia has to offer is access to regional
markets. By establishing a business in Cambodia, investors gain access to 550 million
regional consumers. In addition to simple access, investors can also take advantage of
any existing trade agreements that Cambodia has with those countries. These
agreements often offer additional incentives. Currently, Cambodia has bilateral trade
agreements with Japan and various countries in Asia (China, Indonesia, Laos, Malaysia,
Philippines, Thailand, Vietnam, Singapore, and Republic of Korea), and around the
world (Russia, France, Germany, Switzerland, Netherlands, Austria, Croatia, Australia,
Pakistan, Cuba, and the United States)
In order to create an attractive investment environment, Cambodian
government has set the following policies and strategies:
Establishment of Cambodian Special Economic Zone Board
Cambodian government has been improving their investment facilitation
services. For example, the government decided in 2005 to establish the Cambodian
Special Economic Zone Board (CSEZB) under the Council for the Development of
4
Cambodia (CDC)1 to promote the special economic zone (SEZ) scheme in Cambodia.
Administered by the CSEZB, the Special Economic Zone Administration is to be
established in authorized SEZs and provide one-stop service to zone investors from the
registration of investment projects to routine export-import approvals. By March 2008,
the Cambodian government has officially approved 17 special economic zones in
Phnom Penh, Sihanouk Ville and provinces along the borders of Cambodia-Thailand,
and Cambodia-Vietnam.
Investment Incentive Provision
The Law on Foreign Investment provides the following incentives to
investment projects in Cambodia:
1. A corporate income tax rate of 9% except for exploration of natural resources
(including timber, oil, gaz, gold and precious stones).
2. A corporate tax exemption of up to eight years depending on the characteristics of
the projects and the priorities of the government.
3. Losses carried forward for up to five years
4. Non-taxation on the distribution of dividends, profits or proceeds of investment,
whether transferred abroad or distributed within country.
5. 100% import duty exemption on construction materials, means of production,
equipment, intermediate goods, raw materials and spare parts used by:
a/ an export project with a minimum of 80% of the production set apart for export.
b/ projects located in the designated Special Economic Zone (SEZ).
6. 100% exemption of export tax, if any.
7. Renewable land leases of up to 99 years on concession land for agricultural
purposes and land ownership permitted to join ventures with over 50% equity
owned by Cambodians.
1
The Council for the Development of Cambodia (CDC) is a One Stop Service
investment center, established in 1994 by the Royal Government of Cambodia, which
provides local and overseas investors with a fast-track route to new business
opportunities in Cambodia. The CDC, in guaranteeing to evaluate investment
applications for all projects except those involving natural resources in 28 days or less,
offers the speediest and most efficient response in the region. The application
procedures are user-friendly, easy to understand and free of unnecessary red-tape. The
CDC is also empowered to grant important duty and tax exemption, process company
registration, visas and work permits, and provide potential investors with economic and
social data.
5
8. No price controls on goods produced or services rendered by investors.
9. No discrimination between foreign and local investors.
The incentives are granted in the following fields:
-
Agriculture and agro-processing industries;
Environment protection;
Export-oriented industries;
Industries that create substantial employment;
Investments in Special Economic Zones;
Physical infrastructure and energy;
Pioneer and/or high technology industries;
Provincial and rural development
Tourism and related industries.
Protection of Foreign Investment
The “Agreement between Japan and Cambodia for the Liberation, Promotion
and Protection of Investment” which was signed by the two nations’ prime ministers is
to further promote investment in order to strengthen the economic relationship between
the two countries. The agreement and the Law on Investment guarantee the investment
as follows:
-
A foreign investor shall not be treated in any discriminatory way by reason only of
the investor being a foreign investor, except in respect of ownership of land.
The government shall not fix the price or fee of the products or services
The government shall not undertake a nationalization policy that would adversely
affect private properties of investors in Cambodia
The government shall permit investors to purchase foreign currencies through
banking system and to remit abroad these currencies for the following purposes:
1. Payment for imports and repayment of principle and interest on international
loans
2. Payment of royalties and management fees
3. Remittance of profits
4. Repatriation of invested capital
6
Sound Regulatory Framework for Investment
In Cambodia, the FDI is free to implement, except in those areas prohibited or
restricted for foreigners. It has to only be registered at the Ministry of Commerce and
obtain relevant operating permits. However, if the foreign investors seek investment
incentives, they have to apply for the investment registration which can be obtained
through the CDC or the Provincial-Municipal Investment Sub-Committee (PMIS). The
application for the investment registration can be made either before or after the
incorporation (or a registration within the Ministry of Commerce).
The investment license scheme was originally regulated by the “Law on
Investment”, which was promulgated in August 1994. In March 2003, in order to make
the licensing schemes to be simpler and more transparent, predictable, automatic and
non-discretional, the original law on Investment was amended substantially by the “Law
on The Amendment to the Law on Investment”. In addition, the “Sub decree on the
Establishment of the Sub-committee on Investment of the Provinces-Municipalities of
the Kingdom of Cambodia” was issued in February 2005 to regulate the licensing
scheme for investment less than 2 million US dollars. The Sub-Decree No.111 on the
Implementation of the Law on the Amendment to the Law on Investment” was also
issued in September 2005.
Beneficiaries from GSP
Japanese investors may choose Cambodia since the country is one of the
beneficiary of the Generalized System of Preferences (GSP) scheme operated by
developed countries. Under these schemes, import tariffs on many products from the
beneficiaries are exempted or reduced if requirements such as rules of origin are
fulfilled. The matrix table (Table 3) shows the relations between the beneficiaries in
Asia and three major markets: Japan, EU and USA.
Since Cambodia is categorized as a least developed country (LDC), it is
entitled to additional preferences, under which more of it products are subject to
duty-free or tariff reductions. For example, Japan gives Cambodia tariff preferences on
import of 3,600 articles plus additional 1,200 articles including apparel and footwear as
shown in table 4.
7
Table 3: Matrix of GSP beneficiaries and major markets
Beneficiaries in Asia
Preference-giving countries (3 major markets)
Japan
USA
EU
Bangladesh
X (LDC)
X (LDC)
X (LDC)
Cambodia
X (LDC)
X (LDC)
X (LDC)
X
X
X
China
Lao
X (LDC)
X (LDC)
Myanmar
X (LDC)
X (LDC)
Thailand
X
Vietnam
X
X
X
X
Note: The column “LDC” indicates the least developed countries benefiting from
additional preferences compared with other developing countries.
Sources: Cambodia Investment Guidebook
Table 4: Number of Articles Subject to Preferences under GSP schemes
Japan
USA
EU
For all developing countries
3,600
3,400
2,100
Additional only for LDCs
including Cambodia
1,200
1,400
All the articles but arms
and ammunition and few
other exceptions
Sources: Cambodia Investment Guidebook
The most open economy of the LDCs
Cambodia is one of the most open economies in what is a fairly open economic
region. The index of Economic Freedom, compiled annually by the Heritage Foundation
in the United States, ranked Cambodia 68th among 170 countries in 2006. This is on a
par with Malaysia and ahead of its neighbors (Thailand 71st, Indonesia 134th, and
Vietnam 142nd). Cambodia is also the 4th highest ranked LDC in the index. Among the
factors the index reflects are a good many of considerable interest to potential investors:
•
•
•
The fiscal burden (corporate tax rate of 20%)
Regulatory barriers – The CDC has been steadily improving its facilitation
services for investors
Labor market restrictions – Liberal access to Cambodia’s young and trainable
workforce, employment permit system to allow Cambodians to work overseas
8
•
Trade policy – Cambodia has largely removed all quantitative restrictions in
international trade. An open-door policy with respect to imports is pursued.
Cambodia is not without the problems of many a poor developing countries (e.g.
poor infrastructure) but at least where government policy is concerned, it can claim to
offer a liberal welcome to investors. Among the world’s LDCs covered by the index,
the most significant in industrial policy in Cambodia have been an emphasis on
openness towards private foreign investment and privatization, and broad based
development with emphasis on SMEs development.
Good Location among ASEAN nations
A small country of about 14 million people, Cambodia is located at the heart of
what has been the most dynamic region of the world economy for the past several
decades: South-East Asia. In 1999 Cambodia became a member of the Association of
South-East Asian Nations (ASEAN), which groups 10 countries with a total population
of about 550 million and a GDP of something under $600 billion – at purchasing power
parity, US$1.8 trillion. The ASEAN Free Trade Area (AFTA) will reduce most tariffs
on Cambodia’s exports to its neighbors to between 0 and 5% by 2010 (or earlier) and
will abolish them altogether by 2018. The China- ASEAN Free Trade Area (CAFTA),
to come into effect in 2010, will create a trading block of 1.7 billion people. Talk under
way between India and ASEAN could create another one not much smaller. In addition,
as an LDC, Cambodia has preferential access to some of the world’s richest markets for
a number of products.
Specific Assets
Tourism is the area in which Cambodia most wants to attract foreign
investment. In this, it is hardly unique. Unlike most other countries, however, Cambodia
has an astonishing cultural asset in the temples of the Angkor complex. The country is
already poised to reach the two million tourists mark in last year and the potential there
may be huge.
An entirely different kind of asset is Cambodia labor. It is recognized by both
current investors and the Government that Cambodian workers are poorly trained, but
this is a remediable shortcoming, and nearly everyone agrees that they are willing and
able to learn, and certainly hard-working. When investors add that Cambodian wages
9
are half of what they are in the lowest-cost parts of Thailand, it is clear that there is a
winning combination here, as is evidenced by the extraordinary growth of the
garments-for-export industry over the past decade.
Conclusion
Cambodia has great hope for Japanese investment growth in the near future.
Recent developments have already shown that it holds great potential to aid in the
growth of Cambodia’s economy —look at the expansion of the textile sector in recent
years, or the growth of the tourism and construction sectors. Certainly, Cambodia still
has work to do to improve domestic conditions for investors. I am sure that Cambodia
as an investment site will only increase in attractiveness.
10
第3章
ネパールの企業成長における政府の取り組み
ジギャン・クマル・タパ
南アジアに位置するネパールはヒマラヤ山脈の麓にあり、北はチベット、東西と南は
インドと国境を接している。内陸国としてのハンディーが物流や工業化に不有利なた
め、ネパールの企業が生産する商品を運ぶのに、航空での運搬により付加価値がか
かり、近隣諸国に比べて国際競争力に負ける一方である。ネパールの経済発展の多
くは農業と林業の分野で成し遂げられているが、工業化して国家発展をすることも国
の重要課題のひとつとなっている。ネパールのような資源と市場が限られている国にと
っては工業化を進めることによって直面する課題も増えるため、戦略的な政策作りが
大変重要になるのである。
ネパールの歴史をみるとラナ時代1においての企業成長のための法整備と企業活動
の推薦は非常に少ないと言わざるを得ない 2 。企業成長のための第一歩となったのは
1935 年に新設された開発委員会(Development Board)である。その主な目的は国内
の資源を活用して伝統的な木彫りや貴金属の仏像作りなどといった地場の技術を活
用した産業の展開を志したことである。それを元に広く国内の産業発展に組織的に動
いたのは 1936 年の会社法(Nepal Companies Act 1936)が執行されたことである。
初めてネパールで株式会社としてできたビラトナガル・ジュート工場(Biratnagar Jute
Mills)はネパールとインドの投資家が合同で設立した企業で、設立費用は150万ルピ
ー(約80万円)であった。限られた資本と未熟な労働者による生産性が低かった第二
次世界大戦の前後もジュート工場が一定の成果を挙げたのは、当時の政府の政策の
おかげだと分析する人もいる。実際に政府は企業成長を奨励する目的で課税制度を
見直し、新企業に対しては機材購入、供給といった名目で支払うべき税金を設立から
7年間免除する制度を取り入れたことである。その後もインドとジョイントで企業設立す
る動きがあり成功した中のジュッダ・マッチ工場もひとつである。1946 から 1951 の間に
ネパールでは 35 もの公的企業が設立された3。当時の企業の詳細は図 1 で示している。
ラナ一家の直接投資とインドの投資家の間で摩擦がおき、破綻する企業も続出するこ
の頃、一般の人々には新企業には破綻する可能性が強いというマイナスな印象を与
え、資本投資が思うように進まず、悪循環になったのである。
ラナ政権が終わり、1951 年にようやく会社法(The Company Act)の改正が行われ、
民間企業が設立できるようになった。その結果、1963 年までに 92 の民間企業が設立
1844 年から 104 年間代々とネパールの総理大臣になり独裁政治を続けた一家のこと。
Regmi, D.R. A Family of Autocracy in Nepal, 1958.
3 Shrestha, B.P. The Economy of Nepal, 1967.
1
2
2
され、その数が公的企業の 18 を遥かに超えていた。1966 年にアメリカの商業局
(Department of Commerce)が掲載した情報によると、ネパールには 72 の有限会社と 7
つの Public Limited があったという。
ネパール政府が 1957 年に企業投資を促進するために 企業政策 を打ち出した。こ
の政策の主な目的は有限会社と海外投資を増進させることだった。政策として実施さ
れたものの中で、税金の見直しと外国の投資家に関しては利益の持ち出しについて
明確にしたことである。企業活動に必要なインフラ整備、労働基準の立法化、土地の
調達、外貨為替のシステム確立、国際競争からの関税保護及び第一次産品の定額提
供が盛り込まれていた。
1959 年にアメリカの支援でネパール企業開発公社(Nepal Industrial Development
Corporation, NIDC)が設立され、民間企業に技術的及び資金的に支援、職員訓練、
市場調査、企業コンサルティングのような役割を果たし、新企業設立のアドバイスをす
るなど幅広い業務を受け持つようになった。
1960 年には商品の基準にバラつきのないように、ネパール企業開発委員会が設立
された。1961 年に政府が(The Industrial Enterprises Act 1961)をまとめ、より多くの企
業を誘致しようと本腰をいれた。地元の技術発展と企業成長をする目的でカトマンズ、
ヘタウダとパタンの 3 箇所に工業地帯を設立された。その三箇所ともアメリカ、スイス、
ニュジランドとインドの支援があって設立されたのである。現在でも上記の三箇所とも
稼働中で、カトマンズの Balaju Industrial Estate 内では工業専門学校もあり、技術を学
ぶ 若 者 の 養 成 に も 力 を い れ て い る 。 1962 年 に イ ン ド と の Indo-Nepal Industrial
Corporation Act が決まり、更なる可能性は引き出したが、結果はそれほど良くなく、ネ
パールの工業化に即した政策ではないという批判を受けた。
1980 年代まで砂糖、セメント、タバコ、皮、農業機材、燃料などが主な提供者は政府
の直接運営する公的企業となり、民間が参入できなかった。しかし公的企業の経済状
況が悪く、政府が補助を出す仕組みとなり、1989 年には国家予算の 13%もの金額が
詰め込まれた。公的企業の杜撰な経営実態を改善するために政府はようやく民営化
を進めたのである。しかしながら、現状の公的企業をそのまま受け入れるのには、民間
にとっても大きなリスクがあったため、買い手がいない企業も出るなど、民営化を進める
政府の政策によって数少ない企業のみが民営化され、その動きが非常に鈍くなってい
るのである。
1987 年に政府がこれまでの企業政策を踏まえ、新規企業登録プロセスの一部改正、
国内にある資源の有効利用、海外輸出企業にはインセンティブを与えるなど改善した。
ネパールには外国の製造業は限られている。1987 年には中国企業が入り、ゴムのタイ
ヤを製造している。ネパール最大の製紙工場の Bhirkuti Mill も中国の技術と資金で設
立された企業で、国内製紙需要の 30%が賄っている。現在の第 11 次五ヵ年計画
(2008-2013)では企業政策をより明確にし、民間の参入について盛り込まれており、イ
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ンドを初め、他の国々からの参入を期待している。
ネパールの企業の歴史と現状をみても、企業のニーズと政府の取り組みがスムーズ
に行っているようには見えない。公的企業だけでなく、政府全体のガバナンスが欠け
ているところがあり、企業成長においてもより一層政府のコミットメントが必要とされるの
である。それに加えて、政府は直接サービスや商品を提供するプロバイダーではなく、
いわゆる国全体のことを考えて、差が広がらないように政策作りや法整備をする必要
がある。国及び地方自治体が魅力ある企業成長の戦略を立て、数多くはる誘致候補
地区の中に、企業を選らんでもらう戦略をする必要がある。そのためには企業のニー
ズを把握し、産業界や研究者などと連形して産官学の協同ガバナンスがより一層大事
になると思われる。
表:1
初期のネパール企業
工業系企業
設立年
資本の源
ジュート Biratnagar Jute
1936
インド
稼働
マッチ Juddha Match
1937
インド
稼働
砂糖 Sugar Mill
1937
コットン Morong Cotton
1942
共同出資
コットン Cotton Mill, Birganj
1942
インド
破綻 1947
電力 Morong Hydel
1942
インド
稼働中
鉱山 Himalayan Mining
1943
インド
破綻 1951
ベニヤ板 Plywood/bobbin
1943
インド
破綻 1951
戦時中
ネパール
石鹸 Soap
〃
ネパール
セラミック Ceramics
〃
ネパール
漢方薬 Ayurvedic drugs
引用:P, Karan. & H, Ishii
現在の状況
破綻 1945
破綻
*1
破綻
A Himalayan Kingdom in Transition P 334
注*1:その後また復活した企業
現地調査報告:ネパールにおける観光産業の現状と課題
開発途上国が長年の先進国の援助があってもなかなかうまく発展していないのは
様々な理由があるが、その一つは雇用創出を生み出す企業が少ないからといえる。そ
ういった国々では経済発展や外貨獲得の主要な財源は観光であったりするが、残念
ながら観光客が自然と来るものとされ、必要な調査研究もされず、国や自治体もサポ
ートしないのが現状である。ネパールにおいては地下資源などがなくても豊かな自然
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環境に恵まれている国なので、世界各国からくる観光客が増えつつある。それによっ
て航空会社、ホテル、交通機関、飲食店や土産物屋などあらゆる分野の活性化に繫
がるので、観光分野を企業として捕らえ、その成長のために関る全てのアクターが同じ
プラットフォームに集いよりよい観光政策と実施をするべきである。今回のネパールの
現地調査でカトマンズにおいて行われている取り組みを通じてネパールの観光業の
企業に対する政府の成長戦略の現状を垣間見られた。
以下、インタビューの内容をまとめて報告する。
1. Mr. Subhash Niraula (Acting CEO, Nepal Tourism Board)
内容:
観光は経済成長と貧困緩和にかなり貢献している。ネパールに比較的強い観光優
位できる資源があるが、それなりの産業として成り立っているとはいえない。世界の観
光産業を旅行者到着の比率でみると、ネパールにはおよそ 0.04%しかきていないので、
やるべきことは沢山あると考えられる。観光産業の可能性はたくさんあるにもかかわら
ず、観光の成長が伸び悩んでいる理由として 2000 年から続いた内紛が原因としてあ
げられる。ネパールでは政情不安だと各国のメディアが報じる中、政府は観光業を促
進するための努力をせず、アントレプレナーの私たちだけがこの分野で頑張っている。
来る観光客が少ないなか、ネパール国内の企業間の競争が激しくなるばかりで、世界
から観光客を呼びパイを大きくするのが重要である。どうしたらそのパイを大きくし、世
界からの観光客の増加することができるか、そのためには調査や研究をする必要があ
る。
国別の観光客数:
ネパールを訪れる観光客の中で、インド、イギリス、アメリカ、スリランカ、タイ、日本、
フランス、ドイツ、スペイン、オランダなど様々だが、インドは経済成長を成し遂げつつ
あることもあり、そのシェアは全体の 25.7%(2005 年度)で続いて南アジア以外のアジ
アだと中国 5.6%、日本 4.9%(いずれも 2005 年度)占めている。1970 年代のネパール
の観光客の 9 割がアメリカやヨーロッパ人だったのはいまや 35%にまで落ちてしまって
いる。その一方で急激に伸びているインドの観光客と見込みがあるのは中国の裕福層
の誘致である。
観光産業成長の障害:
1. 不安定な政治体制、暴動およびストライキなど
2. 道路、橋、電力といった基本的なインフラ整備の欠如
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3. 文化的、宗教的、自然やエコロジーの重要な遺産の認知度が低い
4. 空港、入国管理局及び観光客が到着するゲートの整備されていないこと
5. 観光産業の調査研究および戦略的な取り組みの欠如など
2. Mr. Prachanda Man Shrestha.
Joint Secretary. Ministry of Industry, Commerce, and Supplies
ネパールでは企業成長のために諸外国のように政府が積極的に取り組んでいると
はいえない状況にある。その主な理由は我が国の紛争が長期化したことで、政府全体
がもとの状況に戻ることを一番望んでいるので、あらゆる開発や政策よりも、平和構築
が最大のアジェンダーとなっているからだ。とはいっても、何もしてないわけではない。
政府は観光産業促進するために人材育成を大きな柱として位置づけている。そのた
めこれまで観光業界全体の勉強するところは研修を受ける程度のHMTTC【Hotel
Management Training and Tourism Center】しかなかったのが、2000 年以降民間部門
の参入に150万ルピー(250万円)程度を補助金として支給するようにしている。その
結果今カトマンズ市内には以下のような観光産業を担うための人材育成ができる教育
機関が設立し運営をしている。
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Kathmandu Academy of Tourism & Hospitality (KATH)
Kathmandu Institute of Hospitality Management (KIHM)
Nepal College of Travel & Tourism Management (NCTTM)
Raman Manpower Training Center P. Ltd (RMTC)
Silver Mountain School of Hotel Management (SMSHM)
観光産業を個々の企業が努力するだけでなく、包括的に促進するために様々な組
織ががんばっている。例えばNTB(Nepal Tourism Board)、NAATA(Nepal A
ssociation for Tour and Travel Agents),TAAN(Treeking Agency Associati
on in Nepal)、HAN(Hotel Association Nepal),その他ラフティング、登山な
ど各種分野ごとのそして横断型組織があり、国がそれぞれの組織に加盟し、ネパール
の観光省に届けた企業に対しては新規や事業拡大にインセンティブを与えている。ホ
テル開業時には最新の技術を駆使し様々な近代的なシステム機材の購入(輸入)や
車の購入時には一般には高い関税がかかる贅沢品扱いのものも観光産業促進のた
めには50%税を免除する仕組みとなっている。
ネパールには今年間50万人のツーリストが訪れている。しかし国内のインフラがそ
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れについていけないのが現状である。政府は戦略的に海外からの航空路線を安定的
にすることが出来ていないので、国際線のカトマンズ離着陸のための努力が急務であ
ると考える。国内でもアクセスが極めて困難な観光ポテンシャルな地方があるので、伝
統的な観光いわゆる、カトマンズ、ルンビニとポカラの観光だけでなく、お客様のニー
ズにあった様々なバライティーに富んだメニューを作るべきだと考えている。ネパール
ではもっとも不十分なのはR&D(Research and Development)である。観光を戦
略的にするには在外の大使館や公使館をもっと利用し、大使にはそれぞれの赴任先
でネパールに観光客が訪れるように進めるVISIT NEPALキャンペーンをしてもらう
必要がある。各国の大使館にToursim Deskをおくのも一つでしょう。2006年によう
やく観光分野で政府がリサーチチームを結成したので、2008年に向けてはいよいよ
評価チームを作り、本格的に観光産業促進にトータルな計画立案から、実施、評価と
さらに改善を加える形で進められると考えている。
ネパール政府には観光促進に向けた32の改善策というタスクフォースが決めた実
行すべき点としてまとめられたが、しかし時代と共に今見直している段階である。マー
ケットメカニズムに観光産業が動くことによって、政府はさほど介入しないという戦略を
とる姿勢に変りつつある。政治及び官僚の考える産業促進はやや古いもので、市場が
現在のニーズに合う形を必要とし、わらわれはチェック・アンド・バランスを考える時代
に突入している。
まとめ
ネパールの長期的な発展には企業成長戦略が必要不可欠であるが、今回の両者
のインタビューの中でも現状は政情安定と和平のプロセスに長い時間と労力がかかっ
ているような印象を受けた。外貨獲得の最大の手段としての観光産業を早期に立て直
すためにもマイナス要因となることを排除し、より多くのお客様を招くために、そして来
た人が喜んでもらう環境づくりには優秀な人材育成が大切となってくる。今の政府の取
り組みでは観光産業を促進するために教育機関を設立する民間に開放する動きはあ
ったが、既存の大学や研究機関とのタイアップ及び産官学の協同といった意味におい
ては今後期待したい部分の方が大きいように見えた。政府や企業の方の中でも時代
のニーズに合う形のポリシー、オンライン予約から情報提供の多言語化、各種産業に
優秀な人材の獲得、外国人投資家やコンサルタントのビザなどの問題は今まで考えて
いないことも多く、各方面の専門家の意見を交え決めるべきことが多くあると認識して
いるようだった。しかしネパールの観光産業の歴史はまだ浅く、1972年に初めて観光
マスタープランが出来て30数年しかたっていない。今後ネパールの発展の重要な柱
として観光を位置づけ、人材育成をし、雇用創出することによって経済成長につなげ
ていくことができれば、貧困削減のために観光産業が大いに貢献できる分野となりうる。
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そのために必要なのは地域間格差を無くし、持続可能な開発を実現できるのかが今
後の課題となっている。
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