O-033 歩行時足底圧を中心に外反母趾群と健常足群の比較検討

O-033
歩行時足底圧を中心に外反母趾群と健常足群の比較検討
*石井 健太郎 1)2), 藤井 亮介 1)2), 清水 砂希 1)2), 宮地 諒 1)2), 中野 希亮 1)2), 西 祐生 1)2), 米倉 佐恵 1)2), 小島 聖 3)
1)石川県済生会金沢病院 リハビリテーション部
2)石川県理学療法士会 公益事業部 健康増進担当班
3)金城大学 医療健康学部 理学療法学科
キーワード:外反母趾, 足圧, 高齢者
【目的】
外反母趾変形は第一中足骨の内反,第一基節骨の外反を特徴
とし,足部機能の障害をもたらす.また,先行研究により外反
母趾の歩行時の特徴として歩行立脚後期に母趾での離床が出来
なくなり,推進期の際の母趾での蹴り出しが不十分になるとも
いわれている.本研究の目的は外反母趾変形における足部形
態・機能面及び歩行時足底圧に着目し健常足群と比較検討する
ことである.
【方法】
対象は,今年度金沢市で行われた「第 32 回健康づくりフェ
ア」に参加した日常生活に支障のない市民 29 名 58 足(69.7±
6.7 歳,男性 9 名,女性 20 名)とした.対象者には研究の趣旨
を説明し同意を得た.測定項目は足部形態として(1)外反母趾
角度(HVA)を計測し,HVA は高倉らの報告を参考に HVA が
15°以上を外反母趾(男性 2 足,女性 19 足)とした.また,
15°未満を健常(男性 16 足,女性 21 足)とした.なお,男女
比を考慮し女性のみとした外反母趾群(HV 群)と健常足群に
区別した.
(2)横アーチ長率(足幅を足長で除した値)
(3)内
側縦アーチ高率(アーチ高/足長×100)
.母趾の機能面として
(1)日本整形外科学会が制定する関節可動域測定法による母趾
MTP 屈曲・伸展可動域(2)母趾屈筋力は石坂らによる母趾圧
迫力の測定方法を用いた.また,歩行時の足圧分布をマットス
キャン(ニッタ社製)にて測定した.歩行は自由歩行速度にて
足圧計上に接地できるよう十分練習した後,自然立位からの一
歩目を測定した.足圧測定の結果より本岡らによる分類を用い,
足底圧中心(COP)軌跡を内側型・中央型・外側型に分類を行
った.また,歩行立脚後期の最大圧を母趾,前足部内側,前足
部中央,前足部外側に区分し比較した.統計は,HVA と足部形
態・機能面の測定項目の相関を,Pearson の相関係数を用いて
分析し,健常足群と HV 群の横アーチ長率,内側縦アーチ高率,
母趾屈筋力,母趾 MTP 屈曲可動域,母趾 MTP 伸展可動域の
各平均値の差の比較を F 検定後に対応の無いt検定もしくは
Welch の検定を行い,全ての分析の有意水準を 5%未満とした.
【結果】
HVA と各測定項目との相関関係について母趾 MTP 伸展可動
域,母趾屈筋力に相関は認められなかった.横アーチ長率(r=
0.81),内側縦アーチ高率(r=-0.54)
,母趾 MTP 屈曲可動域
(r=-0.40)に有意な相関が認められた.健常足群と HV 群と
の各項目の平均値において母趾 MTP 伸展可動域(健常足群:
66.1±5.8°,HV 群:60.9±14.8°),母趾屈筋力(健常足
群:2.2±1.8kg,HV 群:1.7±0.9kg)には有意差はなく,横
アーチ長率(健常足群:42.4±1.9%,HV 群:46.5±2.9%)
,
内側縦アーチ高率(健常足群:15.6±2.6%,HV 群: 12.9±
3.1%)
,母趾 MTP 屈曲可動域(健常足群:30.9±7.8°,HV
群:27.1±4.6°)に有意差を認めた.歩行時 COP 軌跡の分類
は,健常足群(21 足中)において内側型 5 足(23.8%)
,中央
型が 16 足(76.1%)
,外側型に相当するものはなかった.HV
群(19 足中)において内側型は 4 足(21.0%)
,中央型は 15
足(78.9%)
,外側型に相当するものはなかった.また,歩行立
脚後期の前足部の最大圧において,健常足群(21 足中)では母
趾 7 足(33.3%)
,前足部内側 2 足(9.5%)
,前足部中央 8 足
(38.0%)
,前足部外側 4 足(19.0%)であった.HV 群(19 足
中)では,母趾 4 足(21.0%)
,前足部内側 6 足(31.5%)
,前
足部中央 5 足(26.3%)
,前足部外側 3 足(15.7%)
,その他 1
足(5.2%)であった.
【考察】
歩行時 COP 軌跡に関して,HV 群と健常足群の両群におい
て中央型が多く,前足部の最大圧に関しても前足部中央が多い
結果となった.一方,前足部内側の最大圧において HV 群では
健常足群と比べ多い傾向となった.HV 群は健常足群と比べ横
アーチや内側縦アーチが低い傾向から,歩行立脚後期に前足部
の剛性が保てず前足部が回内しそのため前足部内側の圧が高ま
った可能性がある.そして,その後の母趾への荷重伝達が困難
になかったと考えられる.HV 群の前足部の COP 軌跡におい
て前足部内側から急激に母趾以外の他趾の方向へと移動する例
もみられた.今回の結果より母趾屈筋力や母趾 MTP 伸展可動
域においても各群の差はなかった.そのことから HV 群におけ
る歩行立脚後期の母趾への荷重伝達時には単なる筋力や関節可
動域以外の問題がある事が示唆された.今後は HV 群の前足部
の COP 軌跡についてより詳細に検討していきたい.