Q&A Helicobacter pylori Diagnostics and Treatment: Could a Lack of Universal Consensus Be the Best Consensus? Q&A ヘリコバクターピロリの診断と治療:共通のコンセンサ スの不在は最良のコンセンサスか? 近年ヘリコバクターピロリの検査と治療は、臨床検査の研究者、臨床医の双方にとって、 激しい議論と世界的な混乱の的となっている。胃の病原体であるピロリ菌は世界人口の 半分にまで感染していると考えられ、世界中の多くの医師にとって未だに診断が困難で ある。新しい検査法が導入されてきているが、ピロリ菌の検査及び治療に対する単一の 汎用的なアプローチはこれまでに確立されていない。実際には、地球上にこれらの慢性 感染症から免れる集団は無いが、有病率や関連疾患の重症度には地域差が存在する。予 想できない事ではないが、これらの患者に対する診断、治療、管理には地域的アプロー チが存在する。この Q&A では別々の大陸、オーストラリア、ヨーロッパ、北米での最 近のピロリ菌の管理と課題を反映できるように、3 名の国際的なピロリ菌専門家の経験 を借りることにする。 ■ピロリ菌感染の診断/治療に対して、いくつかの異なったガイドラインが存在する。 現在のガイドラインの論点や課題は何か? Barry Marshall: ピロリ菌感染症の治療のためのガイドラインは、少 なくとも治癒率 85%の達成を目指している。過去 10 年間で、マクロ ライド耐性が徐々に増加している事から、大きな成功を収めた一般的 な併用療法であるプロトンポンプ阻害剤(PPI)、クラリスロマイシ ン、およびアモキシシリンの効果は、本来の治癒率である 85%から低 下してきており、長期作用型マクロライドを 10 年又はそれ以上使用 してきた地域においての治癒率は 70-80%である。これは、新規のよ り強力な治療法の開発への関心を生んだ。それは他の抗生物質の追加 により、耐性分離株の出現なしにピロリ菌を根絶させるといった手法である。長年にわ たり、より短く、より強力なピロリ菌感染症への治療が試みられており、さらなる研究 には価値があるであろう。それらのいくつかの治療は、5 日以内にピロリ菌の高い治癒 率を示している。多くの場合は少なくとも 7 日間の治療が必要であり、オリジナルの上 記 3 剤併用療法の 7 日間のコースは、英国及びオーストラリアで非常に成功し、前向き 研究において 10-14 日間のコースとの差は認められなかった。そのため、オーストラリ アでは 7 日間の治療が推奨された。米国においては、7 日と 10 日では差があったが、 10 日と 14 日の治療では有意差は無かった。従って私の意見では、多くの患者において 過度でなく、明らかに短すぎない治療期間での、高い治癒率達成を目指すべきである。 最終的な私の選択は 10 日間の治療である。単一抗生物質の高用量、長期間使用を回避 するために、臨床医は連続療法を考案した。2 つの戦略がある。戦略 1 は治療の前半で いくつかの抗菌剤を処方し、後半で完全に異なったものに切り替える。連続療法は PPI とアモキシシリンを最初の 5 日間、続いてクラリスロマイシン、メトロニダゾール、 PPI を 5 日間で構成される。このアプローチは高い治癒率が得られ、比較的費用対効果 にも優れている。このプランの多くのバリエーションが考案されており、私の診療所で はアモキシシリンにほとんど副作用が無いことから、アモキシシリンと PPI の併用を 10 日間、続いて追加の抗生物質を加えて少なくとも 5 日間継続して治療することにし た。そのため最後の 5 日間に患者は一度に 4 剤(すなわち、PPI、アモキシシリン、シ プロフロキサシン(通常)、およびリファブチン)の処方を受ける。以前にピロリ除菌 に失敗した患者において、この処方での治癒率は 90%であった。 最近の治療に失敗した患者への連続及び複雑治療は、医師、一般開業医、および政府保 健当局にとって解決が難しい問題である。なぜなら以前の治療に応じてカスタマイズが 必要であり、患者の注意深い動機づけと遵守能力が求められるからである。そのため、 これらの患者はピロリ菌感染症の治療の経験をもつ専門のクリニックによって治療する のが最良である。オーストラリアでは、このような状況は政府保健当局が「エキゾチッ ク」抗生物質の併用を可能としたことで、部分的に解決された。エキゾチック療法は、 かなりの成功をもって使用することができ、ほとんどすべてのピロリ菌感染症患者は過 度な不便無しに治療を成功させることができる。現行のガイドラインの論点は、さまざ まな国での異なった抗生物質の併用療法の長所短所に関してや、カスタマイズ治療開始 前の患者に対して抗生物質感受性検査(すなわち、内視鏡検査と生検)での詳細な情報 の収集が必要であるかの判断についてであろう。私の意見では、この最終的な問題は診 療所における利用可能なリソースに応じて、管理医師に一任されるべきものである。 Karen Goodman: ガイドラインは、発表された臨床試験や他の関連す る臨床研究の結果のサマリーに基づいており、地理的かつ/または社 会経済的な集団間で生じる変動について適切に考慮されてはいない。 ガイドラインは、作成した専門家の地域に多少は関係するかも知れ ないが、地域のガイドラインが無い場合などには、政策立案者によ り他の地域のガイドラインがしばしば遵守される。この集団間で生 じる変動の問題は複雑で、世界を先進国と発展途上国、東洋と西洋 といった単純な方法で分けることはできない。この変動に関して世 界を分ける良い方法(完璧ではないが)としては、ピロリ菌有病率の高低での分離であ る。例えば、私のカナダ北極圏での研究やアラスカの同僚の研究では、先進国内の高い 有病率の集団におけるピロリ菌感染の管理及び制御の問題は、発展途上国で見られるも のとほとんど同様である。しかしながら、費用対効果による臨床的アプローチの違いに よって生じる他の差異が存在する。例えば、細菌株の治療に対する感受性、複雑治療に 対する個人の遵守能力、治療の有効性に影響を与える他の宿主因子、消化性潰瘍の有病 率、未治療の胃癌、予防措置のコスト、予防措置の無い治療コストなどである。臨床試 験のシスティマティック・レビューで、効果の不十分な治療(クラリスロマイシンを含 む 3 剤併用療法)が多くの権威のあるガイドラインにおいて、地域限定で推奨さえてい ることが示された。結果的にレビューの著者らは、臨床医らに不適切なガイドラインを 無視して地域で有効な治療を推奨した。このことは臨床試験の基づくエビデンスと、地 域の有効な治療とのギャップを強調している。 カナダでは過去 10 年間、カナダヘリコバクター研究グループにより作成されたガイド ラインが、国内の治療に影響を及ぼしてきた。新人医師らはこれらのガイドラインに従 って教育され、地域の医療制度はガイドラインのピロリ菌管理指針がベースとなってい る。私と同僚が 2007 年にノースウェスト準州で組織したピロリ菌研究プロジェクトを ベースとしたコミュニティーで、あるカナダ北部ピロリ菌(CANHelp)ワーキンググル ープが、カナダのガイドラインに基づく現在のピロリ菌管理法は(先住北極圏地域に高 率で発生することが知られている)胃癌のリスクを増加させ、感染の管理に対しては効 果的でないとした見解は、医療提供者やコミュニティーメンバーに広く認識されている。 我々の最近のユーコン、ノースウェスト準州での研究は、医療政策立案者がピロリ菌感 染や関連疾患のより効果的な管理に用いられるよう、地域のエビデンスを作ることを目 指している。 先住北極圏集団でのピロリ菌感染有病率が高いことを確認したのは、アラスカの CDC 北 極研究プログラムの研究者であった。それ以降、同様な研究結果がグリーンランド、カ ナダ、シベリアで報告された。これらの地域の研究者は最近、周極ピロリ菌ワーキング グループを通じて結び付いており、私はカナダの代表である。アラスカ保健局の Brian MacMahon の呼びかけで、このグループは高有病率集団におけるピロリ菌管理の推奨の 草案を作成しており、その公開を我々は望んでいる。CDC アラスカユニットにより、ア メリカ本土やアラスカネイティブコミュニティーで実践医学の訓練を受けた医師を教育 ために発行されたガイドラインは、消化不良を示す患者にはテスト・アンド・トリート によるアプローチは推奨しないといった点で、カナダや他の西洋諸国のガイドラインと 異なる。これはアラスカ先住民がピロリ菌の有病率が高い(約 80%)こと、治療に対し て効果が低いこと、比較的再感染率が高いことによる。周極グループにおいても、地域 内でのピロリ菌有病率、抗生物質への感受性、再感染率に差異があることに留意してい る。この理由から、我々は地域毎の差異や地域情報の活用に対応できる推奨ガイドライ ンの作成を試みている。 ■診療ガイドラインや、多くの医療保険会社が使用を推奨していないにもかかわらず、 米国ではピロリ菌の診断に血清学的検査が広く用いられている。血清学的検査が依然 として標準的な検査方法である理由、また、それはピロリ感染の診断にどのような役 割を果たしているのか? Barry Marshall: ピロリ菌の血清学的検査は高感度であるが、呼気検査や生検などの他 の「直接」診断法に比べて特異性が低い。血清学的検査は血中の IgG 抗体を測定するた め、ピロリ菌の存在又は過去の感染を検出する。しばしば低濃度の IgG はピロリ除菌後 にも長年残存し、過去 1、2 年にピロリ菌が治療された場合においても中濃度の IgG が 数か月間維持することがある。これは有用な情報である。なぜなら、ピロリ菌検査が初 めての患者やピロリ菌への抗生物質治療を受けていない患者において、血清学的検査の 陽性はピロリ菌感染の可能性を示すもので、医師はその検査だけで治療を進める選択が できるからである。一旦患者がピロリ菌の治療を受けると、偽陽性の可能性から血清学 的検査の陽性はほとんど役に立たなくなる。ピロリ菌治療の人気や多くの強力な抗生物 質の日常使用のため、西洋諸国では偶然又は故意にピロリ菌が除菌されて抗体を持つ患 者が多い。これらの患者は血清学検査陽性の 15%を占めている。そのため、血清学的に 陽性の患者は少なくとも治療開始前に、呼気検査又は便検査などの非侵襲的な確認検査 を行っても差し支えない。血清学的検査を単独で診断に用いる場合は、血清学的検査結 果の 15%が偽陽性であること、ピロリ菌有病率の比較的低い国(オーストラリアなどの 有病率 20%)において、治療を受けた患者の少なくとも 1/3 は実際にはピロリ菌を保有 していない可能性があることを認識すべきである。フォローアップ検査には、尿素呼気 検査(UBT)、便抗原検査(SAT)、内視鏡が予定されている場合は胃粘膜の生検検査な どの、実際のピロリ菌感染の事実に基づいた検査が常に含まれるべきである。 Francis Mégraud: ピロリ菌の血清学的検査は間接的な検出法であり、 どんな血清学的検査においても極端な年齢や免疫不全といった免疫反 応が弱いケースにおいては、偽陰性が導かれる場合がある。さらに、 偽陽性は交差抗原によって認められる場合があり、最近除菌が行われ た場合には免疫グロブリンの半減期も考慮に入れるべきかもしれない。 様々な精度の多くの検査キットが市販されている。抗原性が菌株間で 異なる可能性も考えられる。さらに血清学的検査の精度の検討は、標 準測定法との比較によって行われるため、時々、最適に満たない性能 を示すことがある(例えば、標準法が感度不足のために血清学的検査に特異性が認めら れないなど)。また、この種のキットの除外をせずに、全てを合わせてシスティマティ ック・レビューが行われた際のアウトカムは不良であった。 血清学的検査は、実施が簡便な非侵襲的方法であることが重要な利点である。近年では、 消化不良を患った際に多くの患者が市販の PPI を服用し、症状が持続する場合のみ医師 の手当てを受ける。PPI はピロリ菌を根絶せずに重大な細菌負荷の減少をもたらし、そ れは一般的にピロリ菌直接検出法の感度を下げる。そうした場合、血清学検査が唯一の 残された検査法となる。最近のガイドラインで強調されているように、血清学的検査は 今もなおピロリ菌感染の処置前診断として重要な役割を果たしているが、処置後のフォ ローアップには使われない。なぜなら、抗体は除菌後数カ月から、場合によっては 1 年 間持続するからである。血清学的検査に関心が寄せられる別の特別な状況がある。例え ば、萎縮、粘膜関連リンパ組織リンパ腫、胃癌などのケースで、他の方法では検出限界 以下まで細菌が低下する。血清学的検査キットでばらつきが認められることが最近発表 されたが、良好な精度を有するキットを用いることが必須である。 Karen Goodman: 全ての医療保険会社が血清学的検査の使用を妨げている訳ではない。 例えば、ユーコン準州において血清学的検査はピロリ菌検査をカバーしている唯一の方 法で、他のいくつかのカナダの州にも当てはまる。最近まで他の検査法は広く利用可能 ではなかった。多くの地域で SAT は医療関係者にとって一般的には利用可能ではなかっ た。アルバータ州やノースウェスト準州では全ての医療提供者は、同一検査法として UBT を使用しなければならない。5 歳でのピロリ菌診断において、(UBT は)血清学的 検査よりも有効であることは疑い無いが、5 歳以下の小児に有効な検査であるかは考慮 していない。 私は他の検査法が利用できないことが、血清学的検査を使い続ける主な理由であると考 えている。また、他の検査法に比べて血清学的検査のコストが低いことも一因であろう。 典型的な臨床ケア設備環境(及び研究設備環境)において、血液サンプル収集や血清学 的分析の基盤設備に比べて、便サンプル・呼気サンプルの収集や分析設備はより大きく なる。全てを考え合わせると、ほとんどの臨床ケア設備環境において、血清学的検査が 他の検査法よりも簡便である。 加えて、多くのピロリ菌専門家は、最近ピロリ菌の除菌をしていない年長の小児や成人 に対して、血清学的検査は適切な検査法であると考えている。この考えは初期のピロリ 菌研究によるものと思われ、多くの研究で血清学的検査陽性と活動性感染の指標に相関 が示された。これらは一般的に成人の研究で、その多くは数十年間にわたり感染が維持 し、ピロリ菌感染の治療が広く行われていなかった時代の研究である。私の印象では最 近の研究において、ピロリ菌血清学的検査で陽性である人のかなり多くの割合で、活動 性感染の指標が陰性であるエビデンスが多く示されている。しかし、これがシスティマ ティック・レビューで検証されているかどうかは不明である。 ■UBT と便-抗原 ELISA は同様の性能特性を示すとの研究がある一方で、特定の集団 で一つの方法が他方よりも優れているとの評価もある。これらの検査は代替可能であ るか? Francis Mégraud: UBT は、ほぼピロリ菌検出の標準測定法となっている。輸送条件の影 響を受けない呼気サンプル(培養サンプルと比較して)や、結果の解釈(組織学的検査 や迅速ウレアーゼ検査と比較して)の点で UBT は利点がある。モノクローナル抗体の使 用や ELISA フォーマットの SAT は、免疫クロマトグラフィー法と比較して正確で、UBT に近い。実際には検査法の選択は、簡便性、有用性、コストに結びついている。多くの 環境において、成人患者は便の提出に気が進まず、呼気検査を選ぶ。小児ではチューブ に息を吹き込むのが困難あることや、両親が分析用の便サンプルを採取するのが容易な ため状況は異なるかもしれない。頻繁な便秘により SAT の感度が変化する可能性から、 高齢の患者においての状況は全く異なる。結果として、極端な年齢を除いてこれら検査 は代替可能であると考えられる。 Karen Goodman: 集団間でのこれら検査値の変動は、胃におけるピロリ菌感染測定が同 等ではないことを示唆している。ピロリ菌が胃でコロニー形成せずに消化管を通過する 場合は、SAT 陽性で UBT 陰性といった状況が説明可能である。加えて、ピロリ菌の胃で のコロニー形成は継続的に低下しない可能性があることを示唆するエビデンスあり、 UBT 陽性で SAT 陰性といった状況を説明できるかも知れない。UBT は典型的なニッチに 存在する菌体を検出し、SAT は宿主から離れた菌体を検出することから、これらの検査 間における不一致は驚くべきことではない。また、UBT 陽性の場合に菌体は生存してい るはずだが、SAT 陽性において菌の生存は必要でない。どちらの検査を用いるかはロジ スティック因子を考慮しなければならない。一部の専門家は SAT が幼児や就学前の小児 でより正確であると考えており、これらの年齢層で好んで選択される。私自身の研究で は、現場での便サンプルの収集は呼気サンプルよも困難であったため、いつも UBT を選 択してきた。それぞれの方法には長所と短所があり、一部の専門家は一回以上又は複数 回繰り返し用いることを推奨している。どの検査にせよ、どの検査の組み合わせを採用 するかにせよ、検査で何が正確に測定されているかにより、結果を解釈するのが最善で ある(例えば、生存細菌によるウレアーゼの分泌--胃のピロリ菌が存在するか・しない か、便中のピロリ菌抗原—-生存細菌由来か・そうでないか、胃でコロニー形成をしてい るか・いないか)。 Barry Marshall: UBT は胃粘膜中のウレアーゼ酵素を測定しているため、特異性が高い。 また、陰性検査(結果は 0 に近づく)と陽性検査(標識 CO2 が排出され極めて高値)間 の違いは著明で、通常、陰性と陽性患者は非常に明瞭に区別される。SAT もまた陰性又 は陽性の検査結果を示すが、便がベースとなる検査は胃から下流数メートルの産物を測 定する。そのため、陰性患者と陽性患者間での抗原シグナルに不明確な分析結果が存在 する。従って、SAT は多数の患者により決定されたカットオフ値に依存し、患者の食事 によっても変化する可能性がある。そのため直接比較した際に、通常 UBT の精度が約 95%と高い特異性であるのに対し、SAT は通常 90-95%の範囲であることは驚くべきこと ではない。ほとんどの場合において検査は代替可能である。しかし私の経験では成人は 呼気検査を好む。カプセルの服用、呼気検査のクエン酸飲料や錠剤の服用が困難な小児 においては SAT が用いられる。幼児や乳児では便-抗原サンプルが容易に採取できるの で、好まれる診断検査であるかもしれない。 ■薬剤耐性ピロリ菌、特に標準化された 3 剤/4 剤併用療法(例えば、マクロライド、 メトロニダゾール)に含まれる抗生物質に対する耐性の懸念が広がっている。何がこ の耐性に拍車をかけているのか?実用可能な治療の選択肢はあるのか? Francis Mégraud: いくつかの抗生物質に耐性のピロリ菌の広がっているとの懸念は、特 にマクロライドやフルオロキノロンについては当てはまるが、メトロニダゾールについ ては当てはまらない。ピロリ菌は基本的に点突然変異により耐性を獲得するのであって、 動的要因によって獲得している訳では無い。これらの点突然変異はおそらく自然発生的 に生じ、細菌が対応する抗生物質に暴露された際に選別されるものである。世界中の集 団における胃のピロリ菌は、いくつかのマクロライド耐性菌であると考えられる。この 集団がマクロライドに暴露されると、感受性細菌は死滅し耐性のものは選別され、耐性 菌の完全な集団として出現する。同じことがフルオロキノロンにも言えるが、関連する 遺伝子は異なっている。このグループでのピロリ菌に対して選別される抗生物質はレポ フロキサシンである。変異頻度が高いため、耐性変異株の選別はマクロライドに比べて キノロンの方が容易に起こる。 どちらのケースにおいても、耐性変異株はいわゆる野生型と比べて異なった適応性を有 している可能性がある。言い換えると、この抵抗性を維持した細菌に費用をかければ耐 性変異株を消滅させることができるが、その時には選択できる薬剤がもはや無くなると も言える。しかし、マクロライドで生じたように、細菌がゲノムの他の場所で代償変異 を獲得し、そのことが変異の維持を可能にしていることもあり得る。 実際には、耐性変異株の選別は基本的にマクロライド又はフルオロキノロンが呼吸器又 は尿感染症に対して、単独の抗生物質として処方されるために生じ、胃粘膜において阻 害濃度以下であると耐性変異株の選別に最良のコンディションとなる。 メトロニダゾールに関しては、状況が異なる。第一にこの薬剤をインビトロで試験した 際に同じ検査室内においても再現性が認められていない。これは酸化還元電位(ヒドロ キシルアミンのプロドラックであるメトロニダゾールの低下が重要)といった制御され ていないパラメータの重要性によって起因する可能性がある。第二に、臨床において最 低阻害濃度と臨床アウトカムの相関が認められていない。高い最低阻害濃度で、ピロリ 菌の除菌がしばしば生じる。これは他の抗生物質との相乗作用や治療が長期となった際 に粘膜で高濃度となるためであると考えられる。これらの理由からメトロニダゾールの 耐性検査は推奨できない。 二つの主な代替手段が提案されてきた。第一に、抗生物質を連続的に使用することであ る。PPI-アモキシシリン 5 日処方後の 3 剤併用療法(PPI-クラリスロマイシン-メトロニ ダゾール)は多くのクラリスロマイシン耐性株を除菌することが示されている。実際に、 初回の治療は耐性菌を含めて細菌負荷を非常に低下させ、二回目の治療でも効果が得ら れる。第二は、耐性の問題に影響を受けない抗菌剤を組み合わせて使用することである。 例えばビスマス含有 4 剤併用療法である。ビスマス塩、テトラサイクリン、メトロニダ ゾールを含む特別薬である Pylera と、PPI の 10 日間処方はインビトロでメトロニダゾ ール耐性菌が認められていても、除菌率が高いとの研究結果が示されている。 Barry Marshall: メトロニダゾール、マクロライド系、キノロン系などのピロリ除菌の ための抗生物質が広く用いられているため、我々はこれらの抗生物質の耐性ピロリ菌が 徐々に増加しているのを目の当たりにしている。幸運にもピロリ菌はアモキシシリン、 ビスマス、フラゾリドン、(ほとんど常に)テトラサイクリンへの感受性は常に残って いる。これらのルールが理解されると、以前の治療で失敗したケースのピロリ菌の根絶 に適用できるいくつかの代替療法を用いることができる。経験則では、上記の 4 種の抗 菌剤は異なった組合せで再利用が可能であり、しばしば PPI が加えられ、広範にピロリ 菌を抑制する。そのため、変異耐性を引き起こした 1 種又はそれ以上の抗菌剤は、追加 的に残ったピロリ菌を除くために抑制療法として用いる。PPI、ビスマス、テトラサイ クリン、メトロニダゾールなどの治療は特に効果的で、ペニシリンに対してアレルギー のある患者には有用である。反対に、シプロフロキサシンやリファブチンなどの 2 剤追 加した PPI とアモキシシリンの併用療法は高い治癒率を示し、費用対効果においても理 にかなった抑制療法である。 耐性はおそらく、社会に強力な抗生物質の使用が広がったことによるもので、この用量 はピロリ菌を殺菌しないため、胃の多くのピロリ菌集団に除菌効果の無い抗生物質が暴 露されている。実行可能な代替療法として、ほとんどの患者(ペニシリンに対してアレ ルギーがありさえしても)で 80%の治癒率を示す 3 又は 4 つの異なった治療の可能性が まだ残っている。懸念を和らげる楽観的な理由はあるが、推奨される治療の実績のある ガイドラインを注意深く遵守すべきである。 (訳者 新見学) Footnotes 6 Nonstandard abbreviations: PPI, protein pump inhibitor; CANHelp, Canadian North H. pylori (Working Group); SAT, stool antigen test; UBT, urea breath test. Author Contributions: All authors confirmed they have contributed to the intellectual content of this paper and have met the following 3 requirements: (a) significant contributions to the conception and design, acquisition of data, or analysis and interpretation of data; (b) drafting or revising the article for intellectual content; and (c) final approval of the published article. Authors' Disclosures or Potential Conflicts of Interest: Upon manuscript submission, all authors completed the author disclosure form. Disclosures and/or potential conflicts of interest: Employment or Leadership: B.J. Marshall, Tri-Med Distributor (Australia). Consultant or Advisory Role: None declared. Stock Ownership: None declared. Honoraria: None declared. Research Funding: B.J. Marshall, National Health and Medical Research Council (Australia) and University of Western Australia. Expert Testimony: None declared. Patents: None declared. Other Remuneration: K.J. Goodman, support from the American Gastroenterology Association to attend a meeting on H. pylori infection in childhood, Seattle, WA, April 2012. Received for publication July 5, 2013. Accepted for publication July 15, 2013. © 2014 The American Association for Clinical Chemistry
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