第83回臨床病理検討会症例報告を掲載しました。

第 83 回臨床病理検討会報告書
日時:平成 27 年 5 月 16 日(土)15 時
場所:松波総合病院
司会:松本朋美(静岡赤十字病院)
主討論:傍島卓也(松波総合病院総合内科)
症例提示:浜田禅(北野病院総合内科)
<症例呈示>
「10 年以上腹痛・下痢が続く 47 歳女性」
【症例】 47 歳 女性
【主訴】 下痢
【既往歴】 5 年前:子宮筋腫核出術
【家族歴】 父:高血圧症、脳出血で他界 母:高血圧症 【現病歴】 本人より聴取
X-15 年より腹痛、下痢が続いている。黄色水様下痢で時に未消化な便もある。腹鳴が多く、
下痢は 2~4 回/日程度であり、波のある下腹部痛を伴い排便で楽になる。X-2 年以降、腹痛
だけは若干改善し、月 1 回程度になった。X-1 年に A 病院で上部および下部内視鏡を施行
し、胃炎と腸炎と聞いている。薬も飲んでいた(内容不明) が改善はなかった。
同じ頃から顔から頸部に痒みや痛みの無い黒褐色斑(以下シミ)を自覚した。シミは全身に
広がり、他院で皮膚生検をしたが原因を特定出来なかった。数年前より顔・頸部・上腕の
シミは改善してきたが、下肢のシミは増悪した。
月経は痛みが強く、多い日は平均 2 日程で血の塊が出る。X 年始頃には周期がバラバラに
なり、短かったり伸びたりが出始めた。食事量に変化は無く、特に偏食はない。X-7 年と
X-6 年、および X-2 年と X-1 年の会社健診で貧血を指摘されている。
X 年 10 月初旬に下痢のため A 病院心療内科より処方を受けた(処方内容不明)。
X 年 10 月 20 日未明に掌の痒みで目覚めた。臀部~両大腿背部に痒みのある、膨らんだ赤い斑
点が出ていた。同部を冷やし就寝したが、朝起床時にはさらに左上腕から前腕に未明同様
の皮疹が出ていた。A 病院で、これまでの薬の中止の指示とアレルギー薬をもらった。翌
日も皮疹は同部に持続し、38°C 台の熱を認め、水様下痢と腹痛が悪化した。B 医院で受診
し、採血も行い点滴をした。皮疹は改善し、翌 22 日には消失し、平熱となったが倦怠感は
増悪し、食欲も低下した。腹痛だけでなく背部痛もあったので B 医院再診をし、薬をもら
った。10 月 24 日には下痢・腹痛(背部痛も含め)は改善しており、赤い斑点も全くなくなっ
た。前回採血で貧血および血小板が多く、腹部エコーで脾腫や腹部リンパ節が腫れている
ため、当院紹介受診となり、同日入院となった。
【社会生活歴】職業:大学の受付。喫煙:20 本 12 年間(15 年前に禁煙)。飲酒:なし。アレル
ギー:なし。服薬:フェキソフェナジン(10 月 20 日~)、レボフロキサシン(10 月 22 日~)。出
身地:堺市(父:栃木、母:大阪)。住居:母、夫、娘と 4 人暮らし。
【過去の資料】
・X 年 2 月 4 日 B 医院採血
WBC 6900 /μl、Hb 8.8 g/dl、MCV 77.9 fl、MCH 22.3 pg、MCHC 28.7 g/dl、Plt 57.7 万
/μl、TP 7.5 g/dl。
・X 年 10 月 21 日 B 医院採血
WBC 10000 /μl(機械測定:N 80.2%、E 1.9%、M 4.3%、L 13.6%)、Hb 7.5 g/dl、MCV 67.0 fl、
MCH 18.6 pg、 MCHC 27.8 g/dl、Plt 70.2 万/μl、網赤血球 10.6 ‰、ESR 20 mm/hr、TP
8.1 g/dl、蛋白分画(Alb 58.1 %、 α-2G 4.7 %、α2-G 9.1 %、β-G 9.4 %、γ-G 18.7 %)、
UN 11.0 mg/dl、Cr 0.83 mg/dl、UA 4.2 mg/dl、CRP 1.98 mg/dl、Fe 12 μg/dl、フェリ
チン 6.7 ng/ml。
【身体所見】身長 154 cm、体重 42.0 kg、BP 134/79 mmHg、PR 107 回/分 整、BT 36.4 °C、
RR 12 回/分、 SpO2 97%(室内気)、身体活動度:正、表情:倦怠、姿勢:静臥、体型:痩せ、
年齢:相応、呼吸臭:正、皮膚: 腋窩乾燥、発汗なし、躯幹前後面および上肢は径 3mm 大、
境界明瞭で非隆起性の淡い褐色斑が正常皮膚と同面 積程度にほぼ均一に存在、手掌や足底
部になし、大腿は前後面に径 3mm 大、境界明瞭で非隆起性で色の濃い黒 褐色斑が正常皮
膚と同面積程度に均一に存在し、一部は癒合している、下腿や足背部は大腿ほど密には存
在せず 褐色斑が散在、頭部:外傷・腫瘤なし、結膜:蒼白なし、黄染なし、口腔:粘膜正、
咽頭・扁桃正、舌正、齲歯 なし、気管偏位なし、甲状腺:正、頸部血管雑音なし、表在リン
パ節:頸部・腋窩・滑車上・鼠径部リンパ節不 触、胸部:呼吸正、異常呼吸なし、肺胞呼吸
音正、副雑音なし、心音 I・II 音正、過剰心音なし、心雑音なし、 乳房:乳頭の色素は茶
褐色、血清分泌なし、腫瘤なし、腹部:平坦かつ軟、腸蠕動音亢進かつ中音調、血管雑音 な
し、打診鼓腸なし、肺肝境界第 5 肋間、下腹部正中~右側に圧痛+も再現性なし、季肋下前
腋窩線上に脾を 1 横指触知し圧痛あり、棘突起叩打痛なし、肋骨横隔膜角叩打痛なし、直
腸診:外観正、トーヌス正、圧痛なし、 腫瘤なし、検視便黄色、四肢:冷感なく末梢あたた
か、浮腫なし、動脈:橈骨、膝窩、足背は触知正 意識:清明、知力:会話受け答え正、見当
識正、記憶 短期正・遠隔正、言語:正、眼球運動 正、瞼裂左右差 なし、対光反射両迅速、
顔面麻痺なし、カーテン徴候なし、挺舌正中・線維束れん縮なし・萎縮なし、胸鎖乳突 筋
および僧帽筋筋力 正、上下肢バレー徴候 正、反射:上腕二頭筋+/+、上腕三頭筋+/+、腕橈
骨筋+/+、膝蓋 腱+/+、アキレス腱+/+、Babinski 反射なし、知覚:触覚・痛覚・冷覚 左右
差なし、協調運動:鼻指鼻試験 正、 膝踵試験 正、dysdiadochokinesis なし、Romberg 試
験陰性、歩行 正。
【尿検査】混濁 -、比重 1.021、pH 5.5、蛋白 1+、OB -、糖 -、ケトン -、ウロビリ N、
ビリルビン -、 白血球 1 未/HPF、赤血球 1 未/HPF、硝子円柱 2+、顆粒円柱 1+、上皮円
柱 1+
【採血】WBC 5200 /μ(l 目視:N 69.5%、E 3.0%、M 7.0%、L 20.5%)、RBC 451 万/μl、Hb
8.3 g/dl、Ht 29.6 %、 MCV 65.6 fl、MCH 18.4 pg、MCHC 28.0 g/dl、Plt 65.4 万/μl、
網赤血球 18.3 ‰、PT 時間 52.2 %、APTT 43.1 秒、Fib 253.5 mg/dl、TP 8.5 g/dl、Alb
4.7 g/dl、AST 5 IU/l、ALT 5 IU/l、ALP 342 IU/l、LDH 77 IU/l、 γGT 16 IU/l、T-B 0.23
mg/dl、CK 13 IU/l、UN 62.5 mg/dl、Cr 1.84 mg/dl、UA 11.5 mg/dl、Na 129 mEq/l、 K 3.2
mEq/l、Cl 96 mEq/l、Ca 9.2 mg/dl、P 5.7mg/dl、T-cho 151 mg/dl、TG 241 mg/dl、HDL 37
mg/dl、LDL 83 mg/dl、CRP 0.2 mg/dl、Glu 109 mg/dl、HbA1c 5.6%、TSH 3.75 μg/ml、
HBs 抗原 -、HCV 抗体 -、 RPR -、TPLA -、HIV 抗体 -。
【ECG】HR 111 回/分、RR 間隔整、軸正、PQ/QRS/QT 間隔正、V4-6 で平均約 0.5mV の平行~
下向性 ST 低 下、II・III・aVF も 0.5mV 平行 ST 低下、V3-6 および II・III・aVF で二
相性 T
【CXR】立位 P→A 像と側面像、横隔膜右第 10 背部肋骨上縁/左背部第 10 肋間高、鎖骨内部
は皮質骨と差が無く均一、その他胸郭や骨軟部陰影異常なし、肺野異常陰影なし
【腹部単純 CT】肝・膵・腎・副腎:正、脾:脾腫あり、径 98×49×100mm 程度と中等度腫大、
内部均一で腫 瘤影なし、子宮内膜内に突出する径 36mm 大の子宮実質と同吸収域の腫瘤影
あり、小腸は広範囲に壁肥厚し濃 度は比較的均一、大腸は全体に拡張し、液体貯留および
一部ニボー像あり、腸管膜リンパ節が最大径 15mm 多数腫大。傍大動脈リンパ節腫大なし、
撮像範囲全体にびまん性の骨硬化性変化あり。
【入院後経過】
10 月 24 日:細胞外液を翌日まで計 2 L 持続点滴。10 月 25 日:採血 Hb 8.0 g/dl、TP 8.6 g/dl、
Alb 4.1 g/dl、 UN 50.9 mg/dl、Cr 1.19 mg/dl、UA 10.0 mg/dl、Na 135 mEq/l、K 3.0 mEq/l、
Cl 100 mEq/l。同日より維持輸液 1.5L/日を施行。10 月 28 日検査 1、10 月 29 日検査 2 を
施行。
<症例に対する質問>
栗本:レントゲンの鎖骨内部は皮質と区別がつくように見えるが基礎資料の記述通りでよ
いか?
浜田(北野病院):皮質と髄質の区別はつかないと考える。
事前に送られた質問と回答
>健診データは提示可能か?
健診はしていない。
>基礎資料の質問
>1
身体所見で存在する褐色の皮膚所見は病歴上いつから存在していたかわかるか?
→X-15年から顔、頸部。
全身はその後であり、徐々に全身に広がった。
現在のものは全身なので、いつからかは明確ではないが、資料通り数年前。
>2
画像に関して、基礎資料に『撮像範囲全体にび漫性の骨硬化性変化』とあるがCTで
写った椎体、骨盤すべてが骨硬化性変化があるということか。
→はい
>3
『腸間膜リンパ節の腫大』とあるが腹腔全体に散在する腸間膜リンパ節が腫大してい
るのかそれとも局所か?
→局所ではなく、散在。
>4
大腸の拡張の大きさは?
→直径 5cm もなかったと思う。
>・15年前から今まで体重はどのように変化したか。
→15年前からの体重変遷は聞いていない。しかし、最近の体重変化はないと聞いている。
>・熱や摩擦による皮疹の悪化はなかったか(過去にお風呂で体をゴシゴシしたりタオルで
拭いたりした後に皮疹が悪化しなかったか?熱いシャワーを浴びた時に膨疹や紅斑が出現
しなかったか)。
→「体をゴシゴシ」「熱いシャワー」などの質問はしていない。刺激で増悪は自覚なし。
>・飲酒は今までに一度もなし?機会飲酒時に皮疹出現しなかったか?皮疹が出現するから
飲まなくなった?
→飲んだことはあるが皮疹増悪はなし。
>・「薬剤アレルギーなし」とのことだが、お薬を飲んだ後に皮疹が悪化したことは一度も
ないということで良いか?
→「薬により皮疹や呼吸困難、検査値の異常など」の患者および医師により観察される異
常事態はないと意味。
>・下痢と食事との関連性(過去に絶食や感冒などで食事をとれない時に下痢が消失したか
どうか、夜中にも排便することがあるか、日中と夜中とどちらが排便回数が多いか)
→夜間にも排便はあった。食事との関係性は絶食のときの記憶はなし。
>・血小板の大きさは?
→正常大
>・入院時採血からPT, APTT測定までの時間は?すぐに測定したか?十分量の血液をスピッ
ツに入れたか?
→それを確かめる術はないが、常識の範囲での検体処理であり、
「だいぶ放置してあった」、
「検体量が少ない」など報告を受けていない。
<主討論>
松波総合病院総合内科
傍島卓也医師
主討論者プロブレムリスト
#1
慢性下痢症
#2
子宮腫瘤
#3
鉄欠乏性貧血
#4
高尿素窒素血症
#1
慢性下痢症
15年前から続く下痢症。15年間多少良くなったり悪くなったりしながらほぼ変わらない程
度で続き、当初は過敏性腸症候群としても合致する経過であった。しかし、入院前の数日
で急速に悪化しており、過敏性腸症候群の診断を見直さなければならなくなった。
本例の慢性下痢症を考察する。
Sleisenger and FordtranのGastrointestinal and Liver Disease (10th Edition) による
と、慢性下痢症は便の性状から、水様性下痢または炎症性下痢または脂肪性下痢に分けて、
さらに水様性下痢は浸透圧性と分泌性に分けて考えることが提唱されている。本例は水様
性下痢で、浸透圧性下痢症を起こすような薬剤歴はない。今回の下痢症は分泌性下痢症と
考える。
分泌性下痢症を起こす原因として、感染、neoplasm、自己免疫、薬剤、代謝疾患と考慮し
ていくが、
15年という経過から感染症の可能性は低い。が、自己免疫疾患としての炎症性腸疾患に
superinfection(特にCMV感染など)が起こった可能性は一応考慮する。過去のGIF、CFで
は「胃炎・腸炎」といわれているとのことだが、可能であればこれらの情報について確認
する必要がある。これら内視鏡検査所見によっては炎症性腸疾患の可能性はほぼ除外でき
るかもしれない。他に自己免疫疾患としてセリアック病を考慮するが、通常は幼少期から
の発症であることが多いし、日本人の罹患率は0.7%(87.5万人)と少ない。薬剤性の下痢
症(PPIによるcollagenous colitisなど)の原因となりそうな薬剤歴もない。代謝疾患で
は甲状腺機能亢進症を考慮するが、それを示唆する病歴・所見はない。
以上よりneoplasmを考慮する。小腸に浮腫を起こし、腸管運動を亢進させるような液性因
子の存在を疑う。ヒスタミン(肥満細胞症)かセロトニン(カルチノイド症候群)かVIP
(VIPoma)などがある。
次に褐色斑について考察する。
褐色斑は32歳頃から始まっており、加齢性変化とするには若すぎる。これは病的な褐色斑
の可能性がある。下痢症と同時期からの発症であり、まずは、これらは一連の病態による
ものと考えたい。
AndrewのDiseses of the Skin Clinical Dermatology (11th Edition)などによると、褐色
斑(色素沈着)はメラノサイトによるメラニンの沈着が原因で起こる。メラノサイトは紫
外線や様々な液性因子(メラノサイト刺激ホルモン:MSH、エンドセリン、ヒスタミン、ACTH、
男性ホルモンなどなど)によって刺激される。日光露光部以外にも褐色斑が出ている。15
年前からメラノサイトを刺激するような液性因子が出ていたのかもしれない。
さて、この褐色斑を伴う慢性下痢症が、入院数日前から発熱、そして膨疹を早期させるよ
うな「かゆみのある膨らんだ赤い斑点」を伴って急に悪化した。この皮疹が膨疹するとい
よいよヒスタミンの関与が疑わしくなってきた。リンパ節腫脹・肝脾腫・びまん性骨硬化
の存在も明らかになった。
最後にびまん性骨硬化について考察する。
びまん性骨硬化の原因として、血液疾患(骨髄線維症など)、内分泌代謝性疾患(副甲状
腺機能亢進症などのPTHが関連した疾患)、先天性(大理石病など)、悪性腫瘍(リンパ腫、
転移性骨腫瘍、Paget病、肥満細胞症)、その他(hepatitis C associated osteosclerosis
など)が挙げられる(AJR 2007, March)。血液検査の結果などからすると、骨髄線維症、
PTHが関連した疾患、hepatitis C associated osteosclerosisは除外できそう。
ヒスタミンを出すneoplasmとして肥満細胞症を第一に考慮する。
肥満細胞症
皮膚や腸管など様々な臓器への肥満細胞の浸潤を特徴とする稀な疾患。
皮膚に限局する皮膚肥満細胞症(色素性蕁麻疹とも呼ばれる)と皮膚・リンパ節・肝臓・
脾臓・消化管へ浸潤する全身性肥満細胞症に分かれる。
肝腫大は40~70%に、脾腫大は50%にみられる。肥満細胞はヒスタミンやプロスタグランジ
ンなどのメディエーターを放出し、顔面紅潮や蕁麻疹、低血圧、アナフィラキシーを引き
起こす。浸潤する臓器によっては特徴的な症状を呈し、下痢や腹痛、蕁麻疹や毛細血管拡
張、骨痛や病的骨折、肝腫大や脾腫大を認めることがある。ヒスタミンが胃酸の産生を増
加させ、Zollinger-Ellison症候群のような多発性胃潰瘍を引き起こすこともある。検査の
結果、蛋白質喪失性腸症や、造血能の障害、骨硬化(瀰漫性の骨硬化や脾臓の石灰化は、
肥満細胞が大量のヘパリンを産生し、グリコサミノグリカン介在性カルシウム結合を生じ、
カルシウムを沈着させるために生じる。[NEJM 2011, July])、骨粗鬆症、門脈圧亢進症、
肝臓での合成能の低下が明らかになるかもしれない。肥満細胞の出すヘパリンによって凝
固異常が起こることもある。皮疹は、顔面や体幹に膨疹を繰り返すうちに,1cm大までの円
~紡錘形の褐色斑ないし小結節が多発する.
さて、本例において、病変部は皮膚、腸管(特に小腸)、肝、脾臓、リンパ節に存在して
いる様子。とりやすいところからとるとすれば、まずは①皮膚を生検し、次に②小腸また
は骨髄を生検して、mast cellの浸潤を確認する。
診断の補助として、血清トリプターゼ(肥満細胞が放出する)、mature tryptase(一部の
専門機関のみで測定)、尿中ヒスタミン・クレアチニン比の測定が有用。またKIT変異(ほ
ぼ全例でKITproto-oncogeneの変異がみられる、最も一般的なKITへにはD816V Asp➡Val)
についても調べたい。
本例は皮膚・腸管に限局していた肥満細胞症が全身性肥満細胞症に移行(悪性転化)した
ものと思われる。
#2
子宮腫瘤
CTでは子宮内に腫瘤を認めた。おそらく頻度から考えても子宮筋腫とこれによる月経困難
の可能性が高い。子宮腫瘤の鑑別として他には子宮体がん、肉腫。経腟エコーorMRIで確認
し画像所見がcompatibleであれば子宮筋腫と考えて対応する。
#3
鉄欠乏性貧血
おそらく子宮筋腫が主因。鉄の吸収不良(十二指腸と空腸上部で吸収される)も一役買っ
ているかもしれない。肥満細胞が骨髄を占拠していれば貧血も起こる(肥満細胞症の50%で
貧血がみられる[Am J Med 1991])。鉄剤の静注を行う。
#4
高尿素窒素血症
補液で改善傾向でもある。#1に伴う循環血漿量の減少が原因だったか。尿沈渣で顆粒円
柱1+でありtubular necrosisが起きかけていたのかもしれない。
最終的な主討論者のプロブレムリスト
#1
慢性下痢症➡全身性肥満細胞症
#2
子宮腫瘤➡子宮筋腫
#3
鉄欠乏性貧血➡鉄欠乏性貧血(#2)
#4
高尿素窒素血症➡腎前性高尿素窒素血症(#1)
検査1:皮膚生検、検査2:骨髄生検
<主討論に対する質疑応答>
松本朋(以下、松本と略す)(静岡赤十字病院)
:慢性下痢症の考察をまとめると、15年
前からあった下痢症で、限局的な肥満細胞症と、最近急速に悪化して全身性肥満細胞症と
なったものを一つの慢性下痢症というプロブレムにしているということか?
傍島(松波総合病院)
:そう考えた。
浜田:腸管と皮膚に限局にしていたということだが、定義として限局と全身性についてど
う分けて考えているか?また、全身性としたら悪性転化と認識しているのか?
傍島:2臓器以上の臓器に浸潤が確認されることが全身性の定義だったと記憶する。皮膚
生検では肥満細胞は認められていないが、小腸にはいると考える。そう考えれば最初は限
局性と考えられる。その後の経過をみると他にも浸潤しているようなので全身性になって
いったと考える。全身性となった時は悪性転化であると認識している。
松本:#1には骨硬化も含まれている?
傍島:はい。
松本:骨そのものには肥満細胞はいる?
傍島:血球の減少がないので、骨髄には肥満細胞はいないと思う。
松本:皮膚にも浸潤はないと考えている?
傍島:前回の皮膚生検では肥満細胞はいないが、今回は新しい皮疹も出現しており、肥満
細胞がいよいよ浸潤しているのではないかと考える。
松本:肥満細胞の浸潤部位はどこ?
傍島:腸管、肝臓、脾臓、リンパ節、皮膚。
松本:血小板増加は#3に入れる?
傍島:はい。
森田(岐阜大学):悪性転化していても肥満細胞症という名前でいいのか?肥満細胞腫瘍と
か悪性らしい名前ではない?
傍島:systemic mastocytosis という名前なのでそのまま日本語とした。
森田:色素斑の分布で、顔、手掌、足の裏にないが分布はそれでよいか。痒みがないとい
うことだったが、ヒスタミンが関係しているのに痒くないものか。
傍島:皮膚科の教科書を調べ、今回の分布で矛盾はしないかと思ったが詳細は記憶してい
ない。痒みに関してはなくてもよいかと思う。皮膚にくるヒスタミンの量が少なければ痒
くなくてもよいのではないか。
浜田:病初期は肥満細胞が腸には浸潤しているが、皮膚には浸潤していないと考えている
か?もしそうならば離れたところからの産生で、皮膚に斑点のように色素斑がどのように
起こるのか?
傍島:わからない。
浜田:慢性下痢症のメカニズムにおいてはヒスタミンが下痢の理由なのか?
傍島:そう考える。
松本:総蛋白からアルブミンをひくと 4.5g くらいあるが、肥満細胞症によってグロブリン
が産生されるのか?
傍島:肥満細胞症はいろいろなサイトカインを出すという記載もあり、なんらかのサイト
カインによりグロブリン産生されてもいいのではないかと考えた。
松本:カリウムが低いのはなぜか?
傍島:下痢症による喪失と考えた。
<その後の経過/病理報告>
浜田:CT 上、椎体の中は骨髄組織が見えず、骨盤骨は全て真っ白である。振り返ってレン
トゲンでも鎖骨のコントラストもない。皮膚を爪でひっかくとわずかに膨疹が出現。検査
1は皮膚生検。真皮乳頭層から浅層にかけて spindle 形態を示すトルイジンブルー染色陽
性、c-kit 陽性、CD68 陽性の肥満細胞の浸潤を認める。通常トルイジンブルーは緑がかっ
た染色になるが、今回のような青い染色はメタクロマシアと呼び、肥満細胞の特徴である。
病理所見上は urticaria pigmentosa 色素性蕁麻疹を疑う。
骨髄生検施行した。穿刺では dry tap であった。細胞密度は normal cellular で、軽度の
線維化を伴い、3系統の細胞をしっかりと認めた。一部にやや淡明な胞体を有する紡錘形
細胞を認め、これもトルイジンブルー染色でメタクロマシアを呈する肥満細胞であった。
CD25 染色をすると、通常肥満細胞には陽性にならないが、一面に陽性細胞を認め、いずれ
も異常な肥満細胞と考える。追加検査として血清トリプターゼは高値、ヒスタミンも高値、
c-kit はシークエンス解析をして exon17、コドン 816 の A が V に変わっているという、頻
度の高い変異を認めた。以上から最終診断は全身性肥満細胞症とした。
最終的な主治医のプロブレムリスト
#1 慢性下痢症
→ #1 全身性肥満細胞症
#2
子宮腫瘤
#3
鉄欠乏性貧血 →
#a
→ #2 子宮筋腫
#3
鉄欠乏性貧血(#2)
急性高窒素血症
<その後の経過/病理報告に対する質疑応答>
傍島:その後の治療の経過はどうであったか?
浜田:全身性肥満細胞症にもタイプが分かれるが、今回は indolent mastocytosis であっ
たため腫瘍そのものの治療はしていない。下痢が主訴であったため H1/H2 blocker で対応
したが外来では症状はあまり変化なし。
傍島:クレアチニンや尿酸の値は輸液で正常化したか?
浜田:はい。
松本:小腸壁の肥厚があったが、どのような機序であったか?
浜田:想像であるが、そこに浸潤があったのではないかと考える。慢性炎症を起こすメデ
ィエーターとしてはプロスタグランジンがあって、それが下痢症を起こすと考えていたが、
それでは小腸壁肥厚を起こすとは考えにくい。
傍島:蠕動運動の亢進があるが、プロスタグランジンによる消化管運動の亢進があると思
い、腸管の浮腫は細胞の浸潤とヒスタミンによる浮腫があったのではないかと解釈した。
栗本:私の診断手技は便潜血の確認。3,4日便潜血が続くのと全く便潜血がないのでは
違う。陰性なら腸粘膜に出血・びらん・充血は存在しない。小腸にみられた壁の肥厚は何 m
くらいあるか?腸の雑音は亢進していたというが、どこを聴取しても亢進していたのか?
浜田:便潜血は未施行。腸蠕動音は終始亢進しており、本人・主治医とも腹鳴を確認して
いる。CT 上の腸の壁肥厚の長さは確認していない。CT 画像のフォローはしていない。
松本:骨硬化症に関して、骨髄生検では肥満細胞は認められたということ。CT では変形・
破壊は認められないが、骨硬化は肥満細胞の浸潤によるものではなく、なんらかのサイト
カインによって二次性に起こったのか。部分症ととらえるのか合併症ととらえるのか。
浜田:肥満細胞を産生するヘパリンを長期使用すると骨粗鬆症になると言われている。骨
硬化するのに骨芽細胞が活性化するならもっと ALP が上がってもいいだろう。推測の域を
でないが破骨細胞が働かないのではないか。合併症と考えている。
傍島:ALP が不変なので骨芽細胞は介していないと思う。骨硬化に関して調べた時にへパリ
ンの話があり、ヘパリンはグリコサミドグリカンの一種で、グリコサミドグリカンはカル
シウムと親和性が高いと記載があった。おそらく肥満細胞の分泌するグリコサミドグリカ
ンが直接カルシウムと結合して沈着したのではないかと推測する。
浜田:しかし今回なぜ石灰化沈着が骨だけなのかはわからない。
傍島:脾臓などにも石灰化があるという報告はある。
松本:骨硬化症は部分症か合併症か?
傍島:合併症と考える。
松本:15 年前からの慢性下痢と色素沈着があるが、この間、肥満細胞はどこにあったのか?
当時から全身にあったのか、どこかに部分的にあったのか?
浜田:最初から骨にも皮膚にもあったのだろうと思う。前医の皮膚生検でも同様の結果で
あった。レントゲンは取り寄せできていないが、骨も同じように以前からあったと考える。
松本(拓)(静岡赤十字病院):X-1 年の上下部内視鏡では生検はしていない?
浜田:大腸で生検しているが何も異常所見はでていない。胃は生検していない。
<総合討論>
主討論者プロブレムリスト再掲
#1
慢性下痢症➡全身性肥満細胞症
#2
子宮腫瘤➡子宮筋腫
#3
鉄欠乏性貧血➡鉄欠乏性貧血(#2)
#4
高尿素窒素血症➡腎前性高尿素窒素血症(#1)
田中(北野病院):#1はそのまま展開してよいのか、慢性下痢症は全身性肥満細胞症の部
分症と考えて、別に肥満細胞症を立てるべきなのか?
浜田:私は#5として肥満細胞症をあげ、慢性下痢症は#1慢性下痢症(#5)とする。
加藤(豊田厚生病院):この症例を受け持ったとしたら、すべての事象を慢性下痢症に入れ
てしまっていいのか。脾腫もあるし小腸の壁肥厚もある。最初にみた時点ですべてを同じ
病気であるとしていいのか。最初に立てるプロブレムリストとして、慢性下痢症とは別に、
少なくとも小腸壁肥厚は別プロブレムとして考える。
森田:肥満細胞症は当初は限局性で、全身性になっていったということであれば、それは
一つのプロブレムに表していいのではないか。
加藤:肥満細胞症という疾患ありきで考えたらそうだが、最初に診断がわからない時点で
は、それぞれの事象をプロブレムリストにしっかり表す必要があるのではないか。
長縄(松波総合病院)
:自分がもし担当したとしたら、皮疹、びまん性骨硬化は説明がつか
ないので、疾患は一つと思ってもまずは別で挙げる。
鈴木(松波総合病院):私も初めて基礎資料を見た際にはそれぞれ事象を分けてプロブレム
に立てた。
傍島:基礎資料を見た際に snap diagnosis で肥満細胞症が頭に浮かんで、分けることはし
なかった。47 歳の女性で慢性下痢、骨硬化、リンパ節腫脹などいろいろな症状・所見を呈
しているのは、まずは一つの病態で考えたい。
村山(松波総合病院):皮疹を全身性痒疹と別個に立てた。骨硬化症は肥満細胞症で矛盾し
ないのかはわからなかったので別であげた。
三島(名古屋逓信病院):リストに別々にあげてもいいし、初めからわかっていれば一つで
もいい。SLE は若い医者がみたらプロブレムが多くなるが、それはそれでよいと思う。肥満
細胞症に関しては知らなかったので色素性蕁麻疹がカギだと思った。
栗本:最初に見た時一つの病気とわからない場合でも、わかっていても別々にプロブレム
をあげる。慢性下痢症の中に、色素性蕁麻疹を入れてはいけない。カテゴリーが違うもの
を同じところに並べてはいけない。慢性下痢症、皮膚、びまん性骨硬化、鉄欠乏性貧血、
小腸の壁肥厚、これらは同じ疾患カテゴリーにはない。別個に並べてみる。たとえそれら
がつながると直感的に考えたとしても、一つ一つを積み重ねて考える。小腸は neoplasm な
のか、enteritis なのか、enteritis なら粘膜内なのか、粘膜外なのか、なぜ結核ではない
のか、癌ならなぜリンパ腫じゃないのか。いろいろなことを考えて、おそらくこれだろう
と進んでいく。最終的に全身性肥満細胞症だとしてもまず別個に考えて、あとでこれは部
分症、あれは合併症とつないでいく。これが科学的な考え方であって、そうでなければ後々
大きく間違っていくことがしばしばある。
浜田:最初に全身性肥満細胞症とほぼ思っていた。しかしどこまでを別々に分けて考える
のか、すべてをバラバラにするのか、いろいろ考えた結果今回のプロブレムリストにした。
松本:栗本先生の疾患カテゴリーに関する意見に関してはどうか。
浜田:完全に同意する。
栗本:これまで患者は体をひっかいて膨疹がでたことはないか?
浜田:retrospective に聞いてみたがない。少なくとも自覚していない。
栗本:血小板はじわじわ増えていて、ガンマグロブリンはこの3-4週間じわじわ増えて
きている。膨疹が最近でてくるようになった。それらが急に悪くなってきていることは間
違いない。
浜田:ガンマグロブリンは増えていないと思う。
栗本:漸増してきてはいる。
松本:過去の資料にはないが、あとで皮膚生検の結果を取り寄せた?そこで色素性蕁麻疹
とわかった?
浜田:はい。
加藤:総合討論の目的は研鑽会として主治医のあるべきプロブレムリストを示すこと。今
回は慢性下痢症としてまとめるのではなくて、新しい何かがでてきたというプロブレムリ
ストを作るべきと思う。
浜田:それに関しては同意。
加藤:まず入院時のプロブレムリストを作ってから、そのあとどう展開するかを考えた方
がよい。
傍島:#1慢性下痢症、#2全身性色素沈着症、#3びまん性骨硬化症、#4鉄欠乏性貧
血、#a 高窒素血症
松本:#3と#4の順番はこれでよいか?
傍島:やはり肥満細胞症を最初から想定するので#1-#3を並べるかと思う。骨硬化が
いつから起きたかわからないが、一つの病気と想定しているので、慢性下痢症とともに慢
性に経過したのではないかと考えこの順番にする。
浜田:慢性下痢症を起こしたのが脾リンパ節にいるなにかしらが起こしたと考えるという
のもあるが。粘膜に直接細胞が壊れるような原因があるのか、脾リンパ節の腫脹が本体で、
そこから(下痢を起こすような)産生するようなものなのか。そういうところの関係がど
うかよくわからなかった。
松本:意見であがったものを書きだす。慢性下痢症、全身性色素斑、鉄欠乏性貧血、脾リ
ンパ節腫脹症、小腸壁肥厚症、全身性骨硬化症、子宮筋腫、高窒素血症。
田中:テーブルの上にのせて作業するのはわかるが、すべてをプロブレムにあげるわけで
はない。年齢や経過を考えて妥当性を主治医が考えてプロブレムに反映させるはず。そう
であれば慢性下痢症、全身性色素斑が 30 代の女性に存在するということで、etiology とし
て同じであるとは思うので、まとめた一つのプロブレムにする。骨硬化症に関しては合併
症と考えるならば違うプロブレムであげた方がよいのかもしれない。リンパ節、脾臓など
どこかに含まれるはずなのでプロブレムにはあげない。腸の肥厚はあとで急にでてきたと
いうであれば別にあげる。下痢や赤い斑点はなくなってきているところで入院になってい
るので、何か急性の原因が慢性経過にのっているだけで、必ずしもどんどん悪化する経過
をみているわけではないのではないか。
浜田:そう思う。腸管壁肥厚はたまたま見つかったもので 1-2 週間で消えてしまうのか、
慢性下痢症に伴うものなのか、それはわからない。
小林:色素沈着症と骨硬化症は別であげている。40 代女性で一元的であろうと考えると慢
性下痢症、色素沈着症、骨硬化症は一つの病気と考える方がよい。肥満細胞症自体は鑑別
で挙げられなかった。
加藤:慢性下痢症と皮膚の色素斑は別にあげる。15 年も前のことなので、本当に同時期と
してよいかはわからない。次に子宮筋腫、鉄欠乏性貧血、全身性骨硬化症の順にあげる。
骨硬化がいつからかはわからない。造血はそれほど異常を起こしていない。ゆっくり骨硬
化が起きていると説明できない。最後に小腸壁肥厚を挙げる。リンパ節腫脹は反応性と考
えて小腸の病気と一緒に考える。
松本:全身性骨硬化症をあげるかどうか、慢性下痢症と全身性色素斑を一緒にあげるか、
多数決をとる。
(多数決施行)
慢性下痢症と全身性色素斑は別々にあげる。全身性骨硬化症も独立してあげる。小腸壁肥
厚症はあげない。鉄欠乏性貧血あげる。高窒素血症はあげない。子宮筋腫はあげる。
次にプロブレムの順番を決める。
#1慢性下痢症
#2全身性色素斑
#3子宮筋腫
#4鉄欠乏性貧血
#5全身性骨硬化症
加藤:このプロブレムだと最近の急性の起こったことを反映するものがない。やはり小腸
壁肥厚をプロブレムにあげるべきではないか。
松本:小腸の壁肥厚が最近の起こったことと言い切れるだろうか。
栗本:最近起こっていないとすると、リンパ節の histology を考える必要がある。あのリ
ンパ節が 15 年前からあるとは思えない。ちょうど小腸の腸間膜にリンパ節が腫れている。
小腸の壁肥厚はプロブレムで、リンパ節その他はその疾患の中で含めて考えた。リンパ節
はバラバラに腫れているとなっている。小腸膜根に限局するならば、それは小腸からの
toxic substance がドレーンされてきて、そのリンパ節で trap されていると考え、それな
らば reactive lymphadenitis を考える。そうではなくて腸間膜あちこちにリンパ節が腫れ
ていてしかもサイズがそろっている。その場合は toxic substance ではなくて他の原因、
つまりは neoplasm を考える。
加藤:ならば小腸とリンパ節は違うプロブレムとして立てるということか。
栗本:いや、同一の病変と考えて一つのプロブレムで考える。
浜田:症状はその後収束して改善している。蕁麻疹も同じ時期にでてきているが、小腸の
ことと蕁麻疹は同じ病気とみなしているということか。
栗本:小腸は小腸のこととして、蕁麻疹は蕁麻疹として別に考える。
浜田:そうすると、皮膚は neoplasm が浸潤しているということではなく、蕁麻疹は蕁麻疹
として別のこと?
栗本:そう考える。
浜田:そうすると、一旦悪くなっているが、その後よくなっている。neoplasm だったらそ
のように良くなる経過になるだろうか。このように収束する経過を説明できないのではな
いだろうか。
栗本:発熱、下痢、腹痛、蕁麻疹。これらはサイトカインなりによって起きてもおかしく
はないと思う。話は逸れるが蠕動音は亢進して中音調となっているが、腸の壁肥厚はけっ
こうな長さがある。本当に動いているのかどうか心配した。放置すると partial obstruction
が起こらないか心配。診察や画像などでおいかけることも考える。今よくなってきたから
といって小腸壁肥厚を単なる edema で済ますかというとそうは思わない。
松本:#4鉄欠乏性貧血、#5全身性骨硬化症でよいか?または逆か?
フロア: #4鉄欠乏性貧血、#5全身性骨硬化症で同意
松本:これでプロブレムを終わらせるか、#6で最近の急性の経過を説明するプロブレム
をあげるか?
浜田:あげない。別の病気とする根拠がない。
栗本:この患者は 15 年間普通に生活して子供も産んだ。だがこの 10 月から熱でて、腹が
痛くて蕁麻疹がでて、CT とると異常がある。これが今一番とりかかるべき山だと考えるの
で挙げる。
村山:急に病態が変わったという認識に同意する。わたくしは最初に全身性痒疹と名付け
た。下痢はもともとの下痢が水溶性下痢で、全身性色素斑と名付けられる症状と同じ時期
からでている。1 年前には胃カメラしたが粘膜には異常は認めなかった。今回は症状が激し
くなったととらえる。お腹はぐるぐる動いていて小腸はイレウスになっているわけではな
い。下痢症がアクセルを踏んで悪くなっていると考える。それを小腸壁肥厚という名前で
様相が変わったということを表すかどうかということだろう。わたくしは最近の変化は全
身性痒疹という言葉で考えた。リンパ節に関しては、小腸の腸間膜に限局しているので、
toxic substance によるのではないかと考えた。
松本:最近の症状を新たなプロブレムで挙げるか。
フロア:挙げるで同意。
松本:小腸壁肥厚症、痒疹のどちらかで多数決。
浅井(松波総合病院):高窒素血症はあげないという話でよかったか?痒疹だと高窒素血症
を含めるわけにはいかない。
松本:小腸壁肥厚症に多数決で決定。#6小腸壁肥厚症とする。
ここから展開をする。
田中:#7で全身性肥満細胞症。#1、#2は部分症。#3、#4そのまま。#5が部分
症。#6はそのまま。
浜田:#2色素性蕁麻疹を全身性肥満細胞症に展開する。
栗本:#6のその後はどうなったか。
浜田:基礎資料の状態が極期で、その後も腹鳴はあるがそれくらい。画像でのフォローは
していない。
<研鑽会のプロブレムリスト>
#1
慢性下痢症 →
#2
全身性色素斑 →
#3
子宮筋腫
#4
鉄欠乏性貧血
#5
全身性骨硬化症
#6
小腸壁肥厚症
(包含) #2<済>
#2
全身性肥満細胞症
→ (包含)#2<済>