第５号平成２７年１０月１５日泉だより東京都立世田谷泉高等学校校長室第１号平成２４年４月１６日これからの主な予定２３日 (金 ) ２４日 (土 ) 華泉祭（非公開）華泉祭（一般公開）１１月３日 (火 ) 文化の日７日 (土 ) 学校説明会２６日 (月 ) 華泉祭振替休日２３日 (月 ) 勤労感謝の日２７日 (火 ) 華泉祭振替休日３０日 (月 ) 評価期間初日卒業生をただ一人も送り出せなかった学校の話～戦後７０年と学校 ①～ＮＨＫドラマ「戦後７０年校長岡﨑俊彦一番電車が走った」が再放送されました。これは、ｗｅｂ漫画「原爆に遭った少女の話」「ヒロシマを生きた少女の話」（作者・さすらいのカナブン）を原作として、今年、阿部寛や黒島結菜らの出演で制作された実話ドラマです。１９４３年（昭和１８年）４月、広島電鉄（本社広島市）は、太平洋戦争に動員された男性職員の欠員を補充すべく、私立広島電鉄家政女学校を開校しました。国民学校高等科（現在の中学校相当）を卒業した者を受け入れる３年課程定時制の女学校（現在の高等学校相当）で、半日が授業、半日は車掌、運転手などの勤務というシフトでした。給与と卒業資格が与えられ、さらには全寮制で衣食住の心配がないことから、広島県北部や島根県、鳥取県の農山村部を中心に、第１期生７２名が集まりました。 ♠ ｗｅｂ漫画で見てもらった方が早いと思いますが、１９４５年（昭和２０年）８月６日、原爆により学生寮で朝食中の生徒３０名と、電車に乗務中の生徒十数名が死亡または行方不明となりました。しかし、生き残った広島電鉄社員や家政女学校生徒たちの懸命の努力により、なんと被爆３日後には一部区間での運転を再開。その一番電車の運転手は１６歳の女子生徒が務めました。その様子を描いたのが、先日放送されたドラマです。ところが、終戦後まもない９月、閉校が突然決定。３年課程の２年６か月目、すなわち、わずか半年間を残しての出来事でした。生徒らは全員中途退学扱いとなり、日本の長い教育史の中でも唯一「卒業生なし」の学校として、その名を残すこととなりました。 ♠ 当時の中等教育（旧制中学や女学校）には「学年制」の履修形態しかありませんでした。もし、世田谷泉のような単位制が戦時中にあったら…。午前・午後の二部制の学校ですから、毎日４時間（半日授業）×６日間（当時は月～土曜日）×２．５年間（半期履修）の計算になるはずです。生存した同校出身者の大半は、「卒業わずか６か月前の閉校」の悲運の学徒として、「小学校卒」の学歴のまま苦難の戦後を送りましたが、現代なら、他校の３年次に転入学し、１０数単位を修得して卒業が認められたはずです。「単位制」「学校外の学修」「実務代替」など、今のシステムはとてもメリットが大きいのです。選ぶということ（２）校長岡﨑俊彦１９７７年、私は日本大学芸術学部演劇学科（演出専攻）に入学しました。志望の契機は、高校３年９月の文化祭でした。小さな地方都市の県立高校でしたが、文化祭では１年生から入試直前の３年生まで全クラスが演劇を上演するのが伝統で、私たちのクラスは、フランスの不条理劇作家アルベール・カミュの『カリギュラ』という演目を上演することになりました。各自の役割や配役が決められ、私を含めて３名が演出担当になりました。細かい話は省略しますが、やがてその３名で演出方針を巡って大激論となり、私たちは受験勉強そっちのけで、演劇や演出論の専門書を読みふけることとなりました。私が最も感化を受けたのは、モスクワ芸術座のコンスタンチン・スタニスラフスキーの理念を日本に広めた高山図南雄先生（日芸助教授）でした。他の演出担当２名もそれぞれに異なる演出論を主張していましたが、後に彼らも志望学部を変更し、早稲田大学の演劇科と明治大学の演劇科に進学しました。私は、演劇学科が芸術学部ではなく文学部の中にあるという論理は、坪内逍遥の時代からの悪弊で賛同できないと主張しました。もっとも、彼らは今でも舞台やテレビにかかわる仕事を続けています。 ♠ 国公立大学進学以外に選択肢がないような高校でしたので、当然、進路面談や三者面談ではボロボロに言われ、「私立でもせめて早稲田とか明治なら、つぶしが利く」とも説教されましたが、私は聞く耳を持ちませんでした。そして、受験前日、生まれて初めて東京に来ました。入学式で、学部長に「私たちは新入生全員を育てようとは全く考えていない。５年に１人、いや１０年に１人、芸術界で一人前と認められる人材が育てば、私たちの教育は成功だと思っている」と言われたことは忘れられません。演劇学科の４年間は、演出専攻の学生を中心に俳優専攻、照明、音響、舞台の専攻など総勢５０名ほどで稽古に明け暮れ、時に有名劇団に修行に行くという日々でした。 ♠ 社会学者の荒川葉は「『夢追い型』進路形成の功罪」という研究をまとめています。文部科学省がキャリア教育の推進にあたり、生徒が自分の「将来の夢」を強くビジョンとして持つことを求めたため、荒川が「ＡＳＵＣ（アスク）職業」と造語している、人気（ Attractive）稀少（ Scare）学歴不問（ UnCredentialized）の職業、たとえば各種デザイナー、歌手、芸人、スポーツ選手、レーサー、作家、画家、メイク、プログラマー、トリマー、写真家、飼育係などへの志望を積極的に肯定する指導方針が高校の教育現場にまん延し、しかも高等教育とは縁遠い高校ほどその傾向が強いため、生徒の人生を隘路へと追い込み、不本意なフリーター生活や非正規雇用の生き方を強いているという分析です。これはある意味で鋭い指摘だと思います。 ♠ さて、これを書くにあたり、都立高校に勤務する自分の収入は、大学時代の演劇仲間の中でどのくらいの位置にあたるか、本気で考えてみました。おそらく、ちょうど真ん中くらいでしょう。でも、そのグラフは全く正規分布にはならないと思います。劇作家の三谷幸喜や、映画監督の水田伸生、それに俳優の半海一晃たちの年収は千万単位でしょうし、一方で、まだ風呂付のアパートに住めない同級生たちも大勢います。先日、居酒屋でアルバイトをしながら演劇活動を続けている女性が犠牲になるという事件がありました。でも、彼女の職業を「劇団員」と書いた新聞は１紙のみでした。