教師の「力」を高める のは、管理職の マネジメント次第

特 集 1 多忙、いびつな年齢構成に負けずに
「
教師の「力」を高める
のは、管理職の
マネジメント次第
筑波大学教授
浜田 博文
力」を高める4つの方策
教師の
教育実践の力をひととおり
できるから小学校に比べれば教材研究に
時間をかけられそうだが、生徒指導に課
間 の ト ラ ブ ル に 対 応 す る か、 な ど な ど。
ていかにして学級づくりを進め、子ども
方法をどうするか。また、学級担任とし
展開するか、そのための教材研究や授業
ぐるしく過ぎていく。日々の授業をどう
難な出来事が続くなかで勤務時間がめま
新任教師にとっては、4月1日からの
毎日は何もかも初めてのことで、予測困
とはきわめて重要である。
子どもを教え導くことを職務とする教
師にとって、自らが学び成長し続けるこ
けようとするに違いない。眼前に立ち現
ートを生かしながら必死になって力をつ
や若手の教師は、そのような周囲のサポ
不足と未熟さを否応なく感じている新任
よるサポートを促すだろう。自らの経験
団の支援体制を組み、主任や中堅教師に
敗したりすることを想定して学年教師集
管理職としては当然、新任あるいは若
手教師が困ったり迷ったり悩んだり、失
なる。
を抜けないとなると、無我夢中の毎日に
題 を 抱 え て い れ ば そ れ も ま ま な ら な い。
毎日のように押し寄せる課題の一つひと
れる課題を一つひとつクリアしていくこ
身につけた「その先」は?
つに追いまわされているというのが実情
とが、本人にとっても周囲の先輩教師に
始業前や放課後、休日の部活指導にも手
だろう。
くりの幅広い教育実践にも取り組まなけ
も一人ひとりの生活状況の把握や学級づ
い。学級担任を任されている場合、子ど
りと教材研究に取り組むことがむずかし
のようにして一応の自信と落ち着きをも
ていく。5年も経てば、多くの教師がそ
ひととおりの業務はこなせるようになっ
分 掌 で も い く つ か の 仕 事 を 経 験 す る と、
ところが、年を経るにつれてそれらの
基本的な課題を克服して力を高め、校務
とっても明白な状態が続く。
ればならない。
つことだろう。
さまざまな教科の授業を毎時間担当し
なければならない小学校教師は、じっく
中学校の場合は専門教科の授業に集中
教職研修 2014.6 18
多忙、
いびつな年齢構成に負けずに 教師の
「力」を高める4つの方策
特集1
「学校組織マネジメント」とい
最 近、
う言葉が広く知られるようになった。そ
理解することは重要である。
リアや職能発達プロセスの特性を的確に
る。学校の教師という職業におけるキャ
み全体のことを常に考慮する必要があ
く、職員一人ひとりの長い職業人生の歩
や課題への対応にとらわれるだけでな
ある。だから管理職は、ただ眼前の問題
だけでは、
「その先」へ進まない。
輩教師たちと全く同じ土俵に立っている
かし、管理職が単に若い教師や周囲の先
ることに精力を注ぐのは当然である。し
若い教師が日々の職務で力不足を痛感
し、その克服を目指して課題をクリアす
的資格の取得が昇任条件等として求めら
る。職階に限らず、社内資格や各種の公
自 分 の「 そ の 先 」 を 考 え る こ と が で き
に、あらかじめ用意された針路に即して
階 が 細 か く 示 さ れ て お り、 比 較 的 容 易
た と え ば 官 庁 や 民 間 企 業 等 で あ れ ば、
主任、係長、課長補佐、課長、などの職
くれるものが、明確には存在しない。
高めるべき力の「その先」を指し示して
ところが、数年経ってひととおりの仕
事をこなせるようになったとき、自分が
力を続ける。
知らされ、その克服に向けて精一杯の努
い時期には自分の力不足を否応なく思い
を遂行しなければならず、そのぶん、若
もベテラン教師と同じ範囲や内容の職務
えでも重要である。教師は新任であって
そのような学校組織の特徴は、職業人
としての教師の歩みの特徴を理解するう
ている。
は学校組織の特徴の一面をよく言い当て
だ と い う こ と で あ る。「 な べ ぶ た 組 織 」
一人ひとりの教師が自分の将来を冷静
に見つめ、最良の「その先」を考えなが
る。
目」を意識できるように促す必要があ
慮 し な が ら、 本 人 が 自 分 の 成 長 の「 節
─これまでの歩みと今後の将来──を考
だとすれば、職場の上司である管理職
は、常に一人ひとりの教師の職業人生─
ると、そう簡単な話ではない。
くめまぐるしい教師の仕事の現実を考え
である。しかし、前述のように慌ただし
制度などに頼らなくとも、常に力をつけ
だから、外からあてがわれた職階や資格
「 そ も そ も 教 師 は 専 門 職 で あ り、 専 門
的自律性に基づいて職務を遂行するわけ
られる。
変えていくかどうかは本人の努力に委ね
り、その質を高めて内容を豊かなものに
ろう。学級担任や教科担任としての教師
目」というほどの意味はもっていないだ
教師にとって、それらは教職人生の「節
しかし、問題は「その先」である。
の 議 論 で は、
「学校はなべぶた組織であ
れる場合も多い。
どんな組織や職場においても、職員の
人材育成は管理職の重要な役割の一つで
「節目」を見据える
職業人としての教師の歩みの
る」と言われることが多い。学校は少数
えなければならない。
ら仕事に取り組める環境を、管理職は整
ていくべきもの」──それは確かに正論
の仕事の内容は、基本的に毎年同じであ
の管理職を除けば組織メンバーどうしの
最近になって指導教諭や主幹教諭等の
職を新設した地域はあるが、ほとんどの
間に上下の権限関係がない、平板な組織
19 教職研修 2014.6