【切手・牛牧場】へようこそ 耕牛のいる風景 ①落花生畑の耕作 (ボツワナ・アフリカ) ②黄色い大地の耕作 (アフガニスタン) ③チベット高原を耕すヤク (中国) ④水田を耕す水牛 (中華民国・台湾) 印南 博之 (切手収集家、農政ジャーナリストの会会員) 牛によって田畑を耕している様子は、かつて日 本各地で見られたまことにのどかな田園風景でし た。 家畜の力が文明を支えた 人力から畜力への移転は農業だけでなく、それ 人類が農業を始めた時に用いた、土地を耕す道 から約9千年後にジェームズ・ワットが蒸気機関 具は先の尖った石や木の棒でした。その作業は、 を発明するまで、あらゆる産業や交通手段が全て 女や子供でもできる仕事でした。ところが牛を家 畜力、牛、馬、ラクダ、ロバ等に頼るもとになっ 畜として飼い馴らし、背に荷物をのせたり、そり たということがあります。ピラミッドも万里の長 の様な物で荷を引かせることができるようになる 城も畜力のおかげだったというわけです。 と、すぐに牛に木製の犂(すき)を引かせて土地 今回の切手4枚のうち、④の水田を耕す水牛 を耕す犂耕農業が生まれました。それは紀元前7 (中華民国・台湾)以外の3枚、①落花生畑の耕 千年以上も前のことでした。 農業は男の仕事 この技術によって農耕できる土地の面積が革命 作(ボツワナ・アフリカ)、②黄色い大地の耕作 (アフガニスタン)、③チベット高原を耕すヤク (中国)には共通点がありますが、解りますか? そう、すべて2頭立てで使われているというこ 的に拡大して、豊富な稔りが得られるようになり、 とです。首の付け根、あるいは角を革の紐又は木 文明の進歩をもたらしました。それとともに、力 製の輾(くびき)を掛け、これに轅(ながえ)に の強い牛をコントロールするのは大人の男の仕事 つないで用いるという方法が4頭立て、6頭立て となり、力強い牛を自在に扱う男イコール勇士と という大きな力を発起させ、蒸気機関が生まれる いう図式が生まれました。雄牛と勇士の神話は各 までの長い間、動力の主力だったのです。それば 地の神話や伝説に多く語られており、古代ペルシ かりではありません。現在、世界の共通語となっ ャのミトラ神が雄牛を倒すと、そこからすぐに穀 ている英語、そのローマ字のAはギリシァ語のア 物や薬草が生えた、といわれています。この雄は ルファに由来します。その元はフェニキアそして 豊饒のシンボルでもあったのです。それはまた、 古代エジプトの神聖文字(ヒエログラフ)にたど 子供を生んで子孫を残すという大切な女性の役割 り着き、それは象形文字で「雄牛の頭」を表わし が「大地の母」として神格化されていたのを押し ているのです。これは古代エジプト人が、いかに のけて、「豊かな稔りをもたらすのは男の力であ 牛の力を尊び崇めていたかの証だといえるので る」として、男の、夫権の拡大をもたらした原因 す。 だ、といわれています。 37
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