67 3-3. 学習・教育方法の工夫 高校生たちの学習意欲と学習への動機を

Ⅳ. 学習目標と学習内容
3-3. 学習・教育方法の工夫
高校生たちの学習意欲と学習への動機を高めるために、教育方法においては、さまざまな工夫
が必要である。
3-3-1. 学習者志向・学習者中心の取り組みを心がける
高校生対象の入門・初級レベルにおいて、授業の導入にあたり、まず言語材料やその運用場面
の選定で、生徒の興味関心をひく身近で日常的なものを選定することが望ましい。自分や自分の
身のまわりのこと・人、例えば高校生の日常生活や学校生活、クラブ活動やファッションなど、また
友だちやクラブの先輩後輩・家族・先生など、学習者と学習内容の距離感が近いものから導入する
と負担感が少ない。本「学習のめやす」では、高校生にとって最も身近に感じられると思われる 13
の話題・分野を選定している。
授業の構成にあたっては、生徒が身につけたいと思われるコミュニケーション能力の目標を明確
に定め、それを達成するための言語指標と表現例を設定し授業構成を組み立てることが重要であ
る。例えば「生徒が自分と身近な人について韓国朝鮮語で表現できる」という目標を立て、「自分と
身近な人」の話題分野から「家族構成について言ったり、書いたり、聞いたり、読んだりできる」とい
う具体的な言語指標と表現例を設定した場合、その目標が達成できる授業構成を考える。
そして授業の展開においては、学習内容や知識を教師が注入的に与えるのではなく、生徒自ら
の思考力や気づき、自発的な学びを誘導するような工夫が必要である。教師からの一方的な指示
はできるだけ避け、例えば何も言わずに絵や写真、文字だけを見せ、生徒側が教師の意図を探り、
今何をしようとしているのか、このあとに何があるのか、教師は生徒のようすを見ながら最小限の指
示やヒントを与えながら、生徒自身が悩み、考える時間を与え、生徒の気づきや自発的な学びを誘
導していく。
例えば、教師が自分の家族の写真や、誰もがその家族構成を知っている有名な漫画(「サザエ
さん」「ちびまる子ちゃん」など)を前触れなく授業の中で生徒たちに見せ、生徒たちの興味関心を
ひきつけた後に、写真の中の人物を指差しながら「제 어머니예요(私の母です)」あるいは
「사자에 씨 어머니예요(サザエさんのお母さんです)」、「제 오빠예요(私の兄です)」「제
동생이에요(私の妹です)」などと韓国朝鮮語で説明を始め、教師が何を言っているのか、生徒に
推測させながら家族の呼称を学んでいく。「어머니(母)」「오빠(兄)」「동생(妹)」などの語彙を学
習しつつ、呼ぶ側の男女の違いによって呼び方が違うなどの文化的な背景についても気づかせる。
また「저는 오빠가 있어요(私には兄がいます)」「저는 동생이 있어요(私には妹がいます)」と
別の角度から韓国朝鮮語で説明をし、「○○씨, 오빠 있어요?(○○さん、兄がいますか)」「○○
씨, 동생이 있어요?(○○さん、妹・弟がいますか)」と生徒に尋ねかけ、「네, 있어요(はい、いま
す)」「아뇨, 없어요(いいえ、いません)」という答えを導き出す。リピートやぺアワークなどで充分
な口頭練習をした後で、「어머니をハングルでどう書くかな?」と大げさな口の動きを示しながら文
字学習に移行し、学習段階によっては「동생이 있어요(弟・妹がいます)」などと文章を書く。また、
この部分に関わるテキストのページに戻って学習する。生徒の気づきや自発的な学びを工夫しな
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高等学校の韓国朝鮮語の学習のめやす
がら、コミュニケーション活動へと展開することでより効果的に学習の目標が達成される。
また発音練習においては、基本的なリピート学習の後に、グループごとにリピートさせる、文字を
見ず音だけを聞いてリピートさせる、適当なジェスチャーを交えながらリピートさせる、教師と同時に
発音していく、時間制限を設けるなど、学習者にとって発音学習が創意的なものに感じられるよう
に工夫する必要がある。
3-3-2. 学ぶこと・知ることの楽しさを実感し、達成感・自信・自尊感情を味わう
ハングルは一見、記号のように見え、学習対象として取っ付きにくそうな文字であるがゆえに、実
は母音と子音の組み合わせで成り立っていることを理解し、ハングル文字が読めるようになること自
体、何よりもまず学ぶこと・知ることの楽しさを実感させてくれる学習である。文字学習においては、
絵カードや単語カード、カルタ等を取り入れるとより楽しく学習できる。
文法学習においては日本語との類似点(語順・助詞・漢字語など)を活用し、できるだけ生徒の
自発的な気づきを導き出したい。また生徒からの質問があった場合もすぐに教師が答えるのでは
なく、その質問を生徒全体に投げかけ、生徒の積極的な発言や気づきを尊重することが大切であ
る。会話学習においては生徒の発話意欲をできるだけ尊重し、必ず何か一ヵ所以上ほめることと、
次の小さな課題を与えることが、生徒に達成感と向上心を与えることにつながる。
外国語学習に対する劣等感の代表的なものに、何年学習しても話すことができないということが
よく挙げられるが、韓国朝鮮語の場合、日本語との語順の近似性によって、授業の工夫次第で学
習開始直後から簡単な文章で話せるという強みがあり、外国語学習に対する苦手意識よりも、自信
や優越感を抱きながら学習に取り組むことが可能である。
文字が読めること、言葉が聞き取れること、話せること、自分のスケジュールや手紙・メールなど
簡単で実用的なものは書けることを、授業の中にそれぞれバランスよく取り入れ、本来の外国語学
習の楽しさを味わえるようにすることが望ましい。
3-3-3. 継続的に学習する動機付け、生涯学習の下地を作る
韓国朝鮮語を初めて学習した高校生たちの感想によると、「街角でハングルを見つけるとつい嬉
しくなり、立ち止まって読んでしまう」「テレビのニュースなどに韓国朝鮮語が出てくると、今までは聞
き逃していたが、知っている言葉が出てくると嬉しい」「国際交流の場面(修学旅行やホームステイ、
韓国からの訪日団の受け入れ)で、韓国朝鮮語をもっと話せるようになりたい」というものが多い。
教室の中と外の世界をつなげるために、テキストだけでなく、街中にあるハングルで書かれた看
板や案内の写真、韓国朝鮮語版のデパートの店内案内、雑誌やチラシなどを使ったり、テレビで
放映されているドラマや映画、DVD・ネットなどを利用したりして、外の世界を教室の中に取り入れ
ることが大切である。特に韓国朝鮮語学習では、隣国という文化的歴史的な関わりの深さ、地理的
な近さによる人々の往来の多さという利点を生かすことで、継続的に学習する動機付けを養うこと
ができる。自分や自分の生活・文化・社会を捉えなおす機会とし、より豊かな生活を送るための生
涯学習の下地作りにつなげることも可能である。
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Ⅳ. 学習目標と学習内容
3-3-4. 効果的な教室活動の導入
授業で活用できる効果的な学習活動の一例を、次ページの表 3 に示した。【 】内はそれに関わ
るコミュニケーション能力指標の話題分野を示している(pp. 47-50 参照)。
[表 3] 学習活動の例
カルタ
ゲーム
インタビュー
スキット
劇
ロールプレイ
ディスカッション
プレゼンテーション
スピーチ
ディベート
歌・踊り
料理
文字や語彙カルタを作成し、競争させながら学習する
名刺を作成して「自己紹介する【自分と身近な人】」
自分の部屋や家をシートに作成し、「家、部屋にあるもの【ふだんの生活】」を尋ねあう
四季に関する語彙や表現をヒントに、クイズ形式でどの季節かを当てるゲーム
インタビュー・シートを作成し、「誕生日・趣味・電話番号や将来の夢など【自分と身近な
人】」、「クラブ、好きな科目・苦手な科目、好きな学校行事【学校】」、「好きな食べ物や嫌
いな食べ物【食】」、「好きなスポーツ、芸能人、応援しているチーム【余暇】」、「好きな季
節【天気と季節】」、「自分の好きな体の部位【からだ】」、「服や持ち物について、値段や買
った店【ファッション】」などについてインタビューしあう
「友だちと待ち合わせる、週末に出かける【余暇】」のスキットを作成し発表する
「買いたいものや、その値段、店【買い物】」のスキットを作成し発表する
ハングルのメニューを作成し、「レストランで食事をする【食】」
自分の好きな髪形の絵を描き、「美容院で自分の希望を言う【からだ】」
店員と客の役に分かれて「ショッピングする【買い物】」
乗客と切符売り場の役に別れて「切符を買う【町と交通】」
教師と生徒の役に別れて「宿題をしたか、学校で楽しいこと、たいへんなこと【学校】」
「テレビを見る時間・勉強する時間【ふだんの生活】」
「アルバイトについて【余暇】」
「記念日や年中行事、プレゼントについて【イベント】」
「住んでいる場所の様子について【自分と身近な人】」を発表する
「好きな言葉【ことば】」を自分のクラスの友だちや家族、先生に尋ねておいて発表する
「登下校中にあるもので、気になる場所やもの【町と交通】」を発表する
「休日にすること・したこと、旅行で行きたいところ、そこでしたいこと【余暇】」を発表する
「私の一日・私の一週間【ふだんの生活】」をテーマに 1 分間または3分間スピーチを行う
「学校の特長、日本の高校生活【学校】」をテーマにスピーチを行う
「食文化の違い【食】」
「制服について【ファッション】」
「入試について【社会】」
歌「가나다라(カナダラ)」「아리랑【アリラン)」「생일 축하합니다(Happy Birthday)」で母
音と子音、パッチムを学ぶ
歌・踊り「올챙이(おたまじゃくし)」で擬態語を学ぶ
K ポップを聞いたり、歌ったりして、韓国の現代の若者文化を知る
「떡국(雑煮)」「송편(松葉餅)」の調理実習で、民俗的な行事・文化を体験し、「食に関
する表現【食】」を実場面で使ってみる
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