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先端研究プロジェクト庁(ARPA)という発想

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先端研究プロジェクト庁(ARPA)という発想
-国防先端研究プロジェクト庁(DARPA)をモデルとした機関の創設に関する論議-
遠藤
悟*
はじめに
2005 年末に米国アカデミーより刊行された報告書「強まる嵐の上に昇る:米国をより明るい経
済 的 未 来 へ と 活 力 を 与 え 活 用 す る ( Rising Above The Gathering Storm: Energizing and
Employing America for a Brighter Economic Future)」(オーガスティンレポート)においては、
米国の科学技術の水準を維持向上させるための提言として、1) 基礎研究投資の増、2) 若手研究者
の支援、3) 研究基盤調整機能の設置、4) 高いリスク・高い見返りが期待できる研究への投資、5) エ
ネルギー省における先端研究プロジェクト庁(ARPA-E)の設置、6) 大統領イノベーション賞の組
織、の各項目が示され、その後の政策形成に影響を与えているが、このうち、
「5) エネルギー省に
おける先端研究プロジェクト庁(ARPA-E)の設置」については、2006 年 2 月の大統領予算教書
などにおいては取り入れられていないが、同時期に議会に提出されたいくつかの法案においては盛
り込まれている。
この先端研究プロジェクト庁(ARPA)の発想は、1958 年に国防省に設置された同名の機関(現
在は、国防先端研究プロジェクト庁(DARPA))に由来するもので、ユニークな発想の研究を発掘
するための一つの支援制度であるが、この国防研究において成功例を持つ研究支援制度が、エネル
ギーあるいはその他の研究分野に適用されることが妥当であるかという点については例えば下院
科学委員会において 2006 年 3 月 9 日に公聴会が開催されるなど、様々な論議が見られる。
また、この先端研究プロジェクト庁という発想による支援は、エネルギー研究の他にも保健医学
研究、あるいは基礎研究一般に対する支援においても可能であるという論議もある。
本稿は、これら「先端研究プロジェクト庁」の論議をとりまとめ、その発想が、研究開発活動全
般においてどのように位置づけられその役割を果たすことが可能であるかを検討するものである。
1.アカデミー報告書における提言内容
米国アカデミー報告書(オーガスティンレポート)は、米国の競争力を高めるための最重要の検
討事項として、教育養成・科学数学教育を改革することと、科学技術の芽を育むことの二つを挙げ
ており、後者において示された 6 項目の提言の一つが、エネルギー省における先端研究プロジェク
ト庁(ARPA-E)の設置である。以下は、その 6 項目の提言と ARPA-E に関する説明の概略である。
提言 B(科学技術の芽を育むための提言)の内容
提言 B:経済に活力を与え、安全保障をもたらし、生命・生活の質を高める新たな発想の流
れを維持するための変化の潜在性を持つ長期的な基礎研究への国家による伝統的な
関与を維持強化する。
アクション B-1:今後 7 年間にわたり連邦政府の長期的基礎研究への支出を毎年 10 パーセ
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------1
* 京都大学国際交流課/科学技術振興機構
2006 年 8 月 6 日「米国の科学政策」掲載
掲載ホームページ URL: http://homepage1.nifty.com/bicycletour/sci-ron.arpa.pdf
ント増加させる。
アクション B-2:米国の 200 人の最も優れた若手(early-career)研究者に 5 年の間、年間
50 万ドルの新たなグラントを提供する。
アクション B-3:今後 5 年間にわたる年 5 億ドルに集中的な研究基盤の基金を運営する「全
米研究基盤調整室(National Coordination Office for Research Infrastructure)」を
組織する。
アクション B-4:連邦政府研究機関予算の少なくとも 8 パーセントを(高いリスク・高い見
返りに焦点をあてて支出される)裁量的経費として配分する。
アクション B-5:エネルギー省内に「先端研究プロジェクト庁-エネルギー(Advanced
Research Projects Agency-Energy (ARPA-E))」と呼ばれる国防先端研究プロジェク
ト庁(DARPA)と類似の組織を創設する。
アクション B-6:国家の利益における科学工学の前進を奨励する「大統領イノベーション賞
(Presidential Innovation Award)」を組織する。
アクション B-5(ARPA-E の設置)の内容
「(ARPA-E は、)リスクと潜在的な見返り(ペイオフ)が高く、その成功は国家にとって劇
的な利益をもたらし得る、産業界が自身ではそのような資金配分を行うことのないような創
造的で、既存の枠の外(out of box)で、形態を変化させ(transformative)、ジェネリック
なエネルギー研究を支援するモデルである。ARPA-E は、その研究が経済的、環境的、そし
て国家安全保障的問題を解決するよう形を変える研究の過程を加速化させる。それは贅肉の
ない(lean)、効果的で、機敏な(agile)、しかし独立性の高い、業績と最終的な関連性に基
づき開始し終結する組織として設計される。」
2.ARPA モデルの機関に関する立法活動
このアカデミー報告書(オーガスティンレポート)の提言に則り、いくつかの法案が上下両院に
提出されているが、以下にその法案の内容をまとめた。なお、本稿において紹介する法案のテキス
トは、提出法案に拠っており、その後の審議における修正は含まれていない。
(1)エネルギー省の先端研究プロジェクト庁
○ H.R. 4435
先端研究プロジェクト庁-エネルギーの設置に関する法案(To provide for the establishment of
the Advanced Research Projects Agency-Energy)
法案提出議員
下院民主党 Gordon 議員
機関の名称
先端研究プロジェクト庁-エネルギー(Advanced Research Projects AgencyEnergy (ARPA-E))
目的・理念
A) エネルギーの独立性を高める重要な技術における革命的な変化を促進し、B)
先端的な科学工学をエネルギーと環境への応用のための技術へ振り向け、C) エネ
ルギーと環境におけるイノベーションを促進させることにより、エネルギーの海
2
外からの輸入を今後 10 年間に 20 パーセント減少させる。
業務
競争的グラント、共同合意、契約に基づく大学、企業、コンソーシアム(FFRDC
を含む)への資金配分による A) エネルギー関連研究、B) テクニック、プロセス、
技術、テスト、計測評価等の開発、C) 最も有望な技術・研究の応用の実現と商業
化、の促進。
プログラム
各プログラムにプログラムマネージャーを指名。プログラムマネージャーの職務
マネージャー
は、当該プログラムの研究開発目標の設定、申請の招請(solicit)、研究プロジェ
クトの選定(科学技術面の卓越性、研究者の能力、他に基づく)、プロジェクトの
進捗状況の調査。なお、任期は 5 年間以内。
予算規模
2007 年度は 3 億ドル。以後漸増し 2012 年度には 9 億 1500 万ドル。
○ H.R. 4906
2006 年 21 世紀イノベーション法案(21st Century Innovation Act of 2006)(ARPA-E 関連条項
については目的・理念以外は H.R.4435 と同じ)
法案提出議員
下院共和党 Ford 議員
機関の名称
先端研究プロジェクト庁-エネルギー(Advanced Research Project AgencyEnergy)
目的・理念
A) エネルギーの独立性を高める重要な技術における革命的な変化を促進し、B)
先端的な科学工学をエネルギーと環境への応用のための技術へ振り向け、C) エネ
ルギーと環境におけるイノベーションを促進させることにより、米国の輸入エネ
ルギーの海外依存を今後 10 年間に 50 パーセント減少させる。
業務
競争的グラント、共同合意、契約に基づく大学、企業、コンソーシアム(FFRDC
を含む)への資金配分による A) エネルギー関連研究、B) テクニック、プロセス、
技術、テスト、計測評価等の開発、C) 最も有望な技術・研究の応用の実現と商業
化、の促進。
プログラム
各プログラムにプログラムマネージャーを指名。プログラムマネージャーの職務
マネージャー
は、当該プログラムの研究開発目標の設定、申請の招請(solicit)、研究プロジェ
クトの選定(科学技術面の卓越性、研究者の能力、他に基づく)、プロジェクトの
進捗状況の調査。なお、任期は 5 年間以内。
予算規模
2007 年度は 3 億ドル。以後漸増し 2012 年度には 9 億 1500 万ドル。
○ S.2197
2006 年エネルギーを通した米国競争的先進性保護法案(Protecting America’s Competitive Edge
Through Energy Act of 2006' or the `PACE-Energy Act')
法案提出議員
上院共和党 Domenici 議員
機関の名称
先端研究プロジェクト庁-エネルギー(Advanced Research Project AgencyEnergy)
目的・理念
3
業務
競争的でメリットに基づくグラント、共同合意、契約に基づく公的機関・民間機
関(企業、FFRDC、大学)への資金配分による A) エネルギー省のミッションを
推し進める革命的な技術変化を促進する基礎・応用エネルギー研究の支援、B) 重
要なエネルギー技術の開発、テスト、計測評価、配備の促進、C) 国家的エネルギ
ー優先順位を持つ技術のプロトタイプ化と開発の加速化。
プログラム
マネジメントオーソリティーを指名。任期は 5 年(更新あり)。
マネージャー
予算規模
2007 年度は 3 億ドル。以後漸増し 2011 年度には 10 億ドル。
(2)エネルギー省以外の先端研究プロジェクト庁の提案
ARPA-E 以外にも以下の二つの法案において、ARPA の発想に基づく支援形態の創設が提案され
ている。いずれも健康福祉省(Department of Health and Human Services)内に設置されるもの
で、特定の疾病治癒や感染症防止などの目的を設定した基礎研究支援がその内容である。また、国
立科学財団(National Science Foundation-NSF)における目的型研究支援に関する論議も併せて
記した。
○ S.2104
2005 年米国治癒センター法案(American Center for Cures Act of 2005)
法案提出議員
上院民主党 Lieberman 議員
機関の名称
保健先端研究プロジェクト庁(Health Advanced Research Projects Agency)
目的・理念
米国治癒センター(American Center for Cures)内にあって、A) 小規模、柔軟、
階層化されていない組織と官僚的でない自立性の高いポートフォリオマネージャ
ーによる運営、B) 最強の科学技術人材の雇用、C) 3~5 年の任期の設定による人
材ローテーション、D) 国立保健研究所(NIH)、他の連邦政府機関、民間部門、
非営利部門からのマッチングファンド、E) 米国治癒センター、国立保健研究所
(NIH)などの人材の利用、F) 基礎研究のブレークスルー、初期・後期段階の応
用開発、プロトタイプ化、知識普及、技術配備を支援するトランスレーショナル
リサーチを創造する研究プロジェクト庁モデルの利用、G) 研究評価メトリックス
の確立、H) 研究遂行上のリスクの受容、I) 革命的なブレークスルー技術に対す
る業務遂行と予算配分の確立、を実現させる。
業務
A) 健康上のニーズに応える革命的技術変化をもたらす基礎および応用保健研究
支援、B) 重要な保健の製造物の開発、テスト、計測評価、プロトタイプ化、配備、
C) 感染症や抗生物質耐性などの緊急の保健問題への対応、開発途上国における疾
病治癒、孤児や少数患者の疾病への対応、代替技術、開発のファストトラック、
などを目的とした民間部門との協力によるトランスレーショナルリサーチの実施
やその他重要な保健上の問題に対するトランスレーショナルシサーチの実施、D)
分野を越えた協力の奨励を含む卓越した業績の研究者への支援、F) 中途の評価を
含む 1 年間あるいは複数年にわたる実施形態に対する研究資金の配分、G)民間企
4
業、FFRDC、大学に対する競争的でメリットによる評価に基づくグラント、共同
合意、契約の形態による資金提供、H) 米国治癒センター長への助言、I) 申請の
招請(solicit)、など。
プログラム
ポートフォリオマネージャーを任命。職員の任期は 5 年間以内(2 年を上限とし
マネージャー
て再任可)。
予算規模
25 億ドル
○ S.2564
2006 年バイオディフェンス感染症ウィルス薬物研究法案(Biodefense and Pandemic Vaccine and
Drug Research Act of 2006)
法案提出議員
上院共和党 Burr 議員
機関の名称
生物医学先端研究開発庁(Biomedical Advanced Research and Development
Authority- BARDA)
目的・理念
健康福祉省(Department of Health and Human Services)の中にあって、A) 先
端的な研究開発における健康福祉省その他連邦政府機関、民間企業、大学の間の
協力の促進、B) 疾病対策や製品の先端研究開発の促進、C) 連邦食品薬物化粧品
法および本法 351 項において必要となる関係者間の連絡の促進、D) 先端研究開
発による対策・製品化までの時間経費節減のためのイノベーションの促進、の実
現。
業務
A) 健康福祉省や関連する人々(連邦政府、企業、大学、国際機関)の協力、B) 先
端研究開発の促進、C) 助言の実施、D) イノベーションの支援
プログラム
プログラムマネージャーなど科学的・専門的に高い地位の者を任命する。
マネージャー
予算規模
3 億 4000 万ドルに 1 億 6000 万ドルを追加(2007 年度)
○ 基礎科学全般を対象とした DARPA モデルの適用
国防研究、エネルギー研究、保健医学研究以外の基礎研究分野において ARPA モデルを適用し
ようとする論議が行われることは稀である。本稿筆者の知る限り米国アカデミーが発行する学術誌
「Issues」2006 年冬号において、ARPA と共通性のある目的型基礎研究を行うことを目的にニク
ソン政権時代に開始され、カーター政権時代に廃止となった国立科学財団(NSF)における「国家
的ニーズに適用される研究(Research Applied to National Needs-RANN)」の復活を求める論文
の投稿が掲載された程度である。なお、同論文に対しては同誌 2006 年春号において、時代背景が
異なることから RANN の復活は適当でないこと、また、当時の RANN はその経費に対する成果は
大きなものではなかったという否定的な投書が掲載されている。
3.国防先端研究プロジェクト庁(DARPA)と本論議の中で比較検討される他のプロ
グラム
2006 年 3 月 9 日に開催された「議会は先端研究プロジェクト庁-エネルギー「ARPA-E」を創
5
設すべきか(Should Congress Establish “ARPA-E,” The Advanced Research Projects Agency –
Energy?)」と題する下院科学委員会公聴会においては、エネルギー省における先端研究プロジェ
クト庁の設置の適否について、その原型とする国防先端研究プロジェクト庁(Defense Advanced
Research Project Agency- DARPA)の他、中央情報局(CIA)等他の形態による研究支援につい
て比較する論議も行われている。
(1)国防先端研究プロジェクト庁(DARPA)
先端研究プロジェクト庁(Advanced Research Project Agency)の名称は、1958 年に国防省
(Department of Defense -DOD)において、その時々に応じた個々のプロジェクトや分野におけ
る先端的研究開発を目的として設置された機関のものである。同庁はその後、1972 年に現在の国
防先端研究プロジェクト庁(Defense Advanced Research Project Agency- DARPA)の名称に改め
られ、1993 年から 1996 年の間の再び ARPA の名称に戻る期間を経て現在、DARPA と呼ばれる
に至っている。この DARPA は、最終的な成果を見据えた 3 年から 5 年間にわたる(国防研究とし
ては)小規模なプロジェクトにより実施する研究開発の手法であり、その運営においてはプログラ
ムマネージャーの裁量に大きく依存するフラットな意思決定を特徴としている。
(2)In-Q-Tel 等
この DARPA を原型とする支援形態以外の手法としては、中央情報局(Central Intelligence
Agency- CIA)によるベンチャー機関である In-Q-Tel について論議が行われている。これについて
は、下院科学委員会公聴会の趣旨においては以下の説明が行われている。
オーガスティン報告書に示された国立科学財団、エネルギー省、国立標準研究所の予算増
の提案は、大統領の 2007 年度予算教書などに示された施策に取り入れられたが、ARPA-E
の提案は他のエネルギー省科学室といった優先順位の高いプログラムと(資源配分におい
て)対立関係にあるとし取り入れられていない。このことに関連し、Samuel Bodman エネ
ルギー省長官は中央情報局(Central Intelligence Agency- CIA)によるベンチャー資本機
関である In-Q-Tel が、新たな技術をエネルギー市場にもたらすより適切な手法であると示
唆している。
また、これに関し証言を求められた Catherine Cotell In-Q-Tel 戦略・大学・初期投資担当副社
長は、その制度の概略を説明しているが、同モデルは国立科学財団(NSF)、エネルギー省(DOE)、
海軍研究室(Office of Naval Research- ONR)、そして DARPA により支援された基礎研究の延長
線上において政府や民間企業の研究投資を支援するものであるとし、より実用化(市場)に近い位
置における支援であることを明らかにしている。
なお、In-Q-Tel 以外のモデルとしては Steven Chu 氏が米国アカデミーの検討対象として、
HSARPA(国土安全保障省における DARPA をモデルとした制度)、SEMATECH(連邦政府と半
導体企業の資金による研究ベンチャー)、ATP、SBIR などに言及している。
4.ARPA にかかる論点の整理
国防研究先端研究プロジェクト庁(DARPA)をモデルとした支援制度を民生研究であるエネル
ギー研究において実施することについては、DARPA の場合には最終的なユーザーが国であるため
競争力が劣る場合にも失敗の許容度が高いことに対して ARPA-E の場合には市場における企業あ
6
るいは一般消費者がユーザーとなり失敗した場合はそれが明らかとなるなど、いくつかの検討課題
が見出される。以下においては、ARPA-E を提案したアカデミー報告書(オーガスティンレポート)
において掲載された論点(異論)と下院科学委員会公聴会での論点を示した上で、本稿筆者による
補足を記した。
(1)米国アカデミー報告書(オーガスティンレポート)
報告書は、ARPA-E の創設を提案するとともに、囲み文(Box)として「ARPA-E に関する別の視
点(Another Point of View: ARPA-E)」として異なった意見を掲載しているが、その概略は次のと
おりである。
a). ARPA-E が目標とする応用エネルギー研究は既にエネルギー企業、ベンチャー企業とい
った民間部門により資金配分が行われており、連邦政府が行う支援は基礎研究に限るべき
である。既にエネルギー省は、大学、国立研究機関、非営利研究機関、そして民間企業に
対し、280 億ドルの基礎研究支援に加え、技術開発支援を行っている。
b). ARPA-E のような機関は市場原理に従うべき優れた技術を、政府が介在し決定しようと
するものであるが、連邦政府はこのような場面において成功した例は少ない。従って政府
は市場における技術開発よりも基礎研究に集中すべきである。
c). ARPA-E に対する支援は、エネルギー省科学室において実施されている伝統的な資金配
分の機会を奪い去るものである。エネルギー省科学室で行われている高エネルギー物理学、
核融合研究、物質科学などの研究モデルは、DARPA をモデルとするものよりも優れてい
る。
(2)下院科学委員会公聴会
下院科学委員会公聴会においては、ARPA-E に対する賛成する立場や疑問を呈する立場によるバ
ランスの取れた(議員発言)証人がそれぞれ意見を述べているが、以下には公聴会趣旨(hearing
charter)に示された問題(issues)と、証人名や意見を記した。
○公聴会趣旨
a). 何故より革新的な技術的知見がエネルギー市場に移転することがないのか、また、
ARPA-E はこの問題を解く効果的なアプローチか。
b). 問題は主として技術の供給なのか需要なのか。
c). 技術供給に対する主要な障壁は何なのか、また、ARPA-E はそれを解決できるのか。
d). DARPA モデルはエネルギー研究開発のニーズに合致するのか。
e). エネルギー研究に適用できる他のモデルは存在するのか。
f). 何故既存のエネルギー省のプログラムは ARPA-E の目標を達成できないのか、また、
ARPA-E はどのように既存のプログラムと関連するのか。
g). ARPA-E はどのように組織・構成されるのか。
○公聴会において述べられた意見の論点
下院科学委員会の公聴会においては、以下の 5 名が証言を行っている。
Dr. Steven Chu ローレンスバークレイ国立研究所長
Dr. Catherine Cotell In-Q-Tel 戦略・大学・初期段階投資担当副社長
Dr. Frank L. Fernandez F.L. Fernandez 社長
7
Ms. Melanie Kenderdine ガス技術研究所副所長
Dr. David Mowery カリフォルニア大学バークレイ校ビジネススクール教授
論点は上記公聴会趣旨に沿ったものであるが、発言者の立場によりその内容は異なるものの、論
点は市場への技術移転の可能性については見方が分かれるが、官僚的な問題を排することなどによ
る効率性や柔軟性の向上やリスクの高い研究に対する投資の拡充といった論点においては共通点
が多く見られる。
(3)本稿筆者の論点(補足)
以上がアカデミー報告書および議会で示された論点であるが、これらの論点は米国という強大な
国防研究開発活動が存在する特殊な研究環境において成立するものであるため、次章において筆者
の提案するモデルを用いて問題を整理した。
なお、議会の証言においても一部見られるが、研究期間と評価の関係も重要な論点と言える。基
礎研究は研究開始から実用化まで長期間を要するという特性があることから、ARPA という数年で
終結するモデルはなじまないという問題があるが、ARPA の対象が目的型研究であることからその
目的に至る比較的短期間の達成度を設定することにより評価は可能との考え方が示されている。こ
のことは、ARPA が後に示す探求型の基礎研究には適さない例証となると考えられるが、目的型の
研究であっても短期的評価が研究発展の阻害要素となる可能性は排除できるものではないと考え
られるため、十分な検討が求められるものの一つと言える。
5.SE-RM モデルによる分析
本稿筆者は研究政策の分析手法として、縦軸に研究に対する社会的な環境(social environment
(SE))、横軸に研究モード(research mode (RM))を設定した SE-RM モデルを提案しているが、
本稿においては、縦軸の要素として研究支援(公的資金、民間資金)を、また、横軸の要素として
は、研究モードを「探求型基礎研究」、「目的型基礎研究」
(注)、「実用化研究・開発」の 3 区分と
して設定した。そして国防研究における DARPA の位置づけ、民生研究における現在の研究制度、
民生研究における ARPA の論議の位置を示した。
「一般的な国防研究」においては、成果の受け手が国となるが、スピンオフという民間への波及
効果も一つの論点となっている。この波及効果については、下院科学委員会公聴会での証言を含め
肯定的に論じる者も多いが、本来の目的は国防技術にあり、副次的な効果以上の成果を証明するた
めには更に十分な検討が必要と考えられる(例えば国防省の ARPA の成功例としてしばしば取り
上げられるインターネットの開発は、プログラムマネージャーのリックライダーの認識が必ずしも
(軍事的有用性を意識しながらも)特定の軍事目標を持ったものではない(喜多千草「インターネ
ットの思想史」)というユニークな事情も考慮すべきと思われる)。
「一般的な民生研究」においては、ピアレビューによる探求的な基礎研究が発展し民間企業によ
る製品化に至る伝統的なプロセスが示されている。しばしば欠落が指摘されている中央の部分の施
策は、国が行うものとしては、ATP、NIH ロードマップによるプログラムなどが想定され、民間
企業の活動としてはベンチャー資本によるものが想定される。
「先端研究プロジェクト庁(ARPA)論議の位置づけ」においては、この ARPA にかかる論議が従
8
来からの「一般的な民生研究」における中央の部分の施策とし適切かという論議が必要であること
が示されている。
注:
「探求型基礎研究」が「真理の探究」という言葉に象徴される科学者の自由な発想により行われる研究であるの
に対し、
「目的型基礎研究」は特定のニーズを意識しながら、独創的な発想により行われる研究で、近年の科学政
策論議においては、Stokes の「パスツールの四象限」の「利用に触発された基礎研究(パスツール)
」あるいは
吉川弘之氏(産業技術総合研究所)の「第二の基礎研究」の概念と類似点を有するものである。
一般的な国防研究
一般的な民生研究
民間資金
スピンオフ
DOD,DOE
等資金拠出。 DARPA、
政府、大学
公的資金
等が実施。
※
スピンオン
DOD,DOE
等資金拠出。
政府、企業
が実施。
民間資金
ベンチャ
ー企業、
FFRDC 、
ATP、NIH
Roadmap
など
民 間 (ベン
チャー)資金
/公的資金
公的資金
※
民間企業
政府が資
金拠出。政
府大学等
で実施。
探求型基
目的型基
実用化研
探求型基
目的型基
実用化研
礎研究
礎研究
究・開発
礎研究
礎研究
究・開発
スピンオンとは、民生研究においてその市場環境などにより実用化研究や開発が大きく発展し、結果と
して軍事研究の発展をもたらすこと。筆者が事務担当として関係した日本学術振興会先端技術と国際環境
第 149 委員会と米国アカデミー間の論議で提示された。
先端研究プロジェクト庁(ARPA)論議の位置づけ
民間資金
民 間 (ベン 論 点 は( 民
チャー)資金
/公的資金
公的資金
間 で な い)
公的資金拠
出の妥当性
本稿で示さ
れた論点
論点は革新
的研究支援
のための評
価制度
論点は公的
資金拠出の
妥当性とそ
の評価手法
探求型基
目的型基
実用化研
礎研究
礎研究
究・開発
9
6.まとめとして
以上、米国における先端研究プロジェクト庁に関する国防研究以外の分野における適用について
問題を整理し検討を加えた。一般的には国防研究とは環境が大きく異なる民生研究における ARPA
モデルの導入は十分な検討が必要と考えられるが、民生研究においても環境、疾病対策など国家の
役割が大きな研究においては比較的 ARPA モデル適用の可能性が高いと言えよう。これに対し一
般的な基礎学術研究においては、従来のグラント型の研究においてピアレビュー制度の改善が論議
の中心となると見られる。
なお、米国において論点として大きく取り上げられることもなく、本稿においても触れていない
点として、DARPA における制限あり(classified)の研究と民生研究における ARPA における知
的財産を含む成果の取り扱いや外国人研究者の参加の問題がある。ARPA モデルの導入においては
これらの検討も重要と考えられる。
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