免許制度と医師の賃金率 政府による医師の免許制度 (1)医療サービスの質を一定以上に担保すること で,情報の非対称性に端を発する市場取引コスト を軽減する効果 (2)他方,参入規制という側面 誰でもすぐになれ るわけではない 8.3. 労働力不足の発生メカニズム −看護師を例として 参入規制→医師数は短期的に一定,つまり供給 曲線が垂直 ただし通常の完全競争を前提とした看護師労働市 場の分析では労働力不足を解明できない.賃金を 上げれば超過需要は消えるはず? なぜ名目賃金 が硬直的か説明困難. z医師の所得はなぜ高い? 次の2枚の図で考えよう!! 1 名目賃金率 S S1 D w0 S2 D2 A D1 B w1 w0 k0 A D2 D O S D1 O S1 S2 労働サービス 医師の労働市場とレント 8.3.1. 定義 大別して2つの定義がある.(i)ニードを基礎とした マンパワー不足,(ii)経済的な意味での労働力不 足. 医師数の増加と機械化 まず左の図.労働需要は医師の限界価値生産物曲線, 医師を短期間で増やせないために生じる経済レントが所 得が高い原因では.レントとは,生産要素の利用金額(こ の場合医師の賃金)が,本来の利用金額の最少の金額 (機会費用)を超える部分である.例えば,一般事務の給 与は,医師が医師として従事しなかった場合の機会費用 と捉えられる.よって医師の所得のうち,事務職の給与を 2 超える部分はレントと考えられる.図ではw0−k0. zしかしわが国では,S45年の一県一医大構想以 来医学生は増加してきた.医師数増加は垂直な 供給曲線を右にシフトさせるからレントは減少する はず.でも減ってない.なぜ? ⇒ 医師数増加は70年代後半から.このとき同時 に医療の機械化進む.医療がより資本集約的な ものへ.機械化は医師の労働の限界価値生産物 を増加させた.労働需要の右シフト(右の図,D2 へ).医師数増加で供給はすでにS2なので新しい 均衡はB点.このとき医師の名目賃金率はw1(以 前はw0).このように医師が増加しても賃金が減っ ていないのは,機械化により医師の限界価値生産 3 物が増加したためと解釈できる. 4 8.3.2. 不均衡市場 いま看護師の労働市場が競争的であると想定す る.つまり短期的には均衡にあるが,需給条件が 時間と共に変化する場合に看護師不足が生じると 考える.次の図をみよ. 名目賃金率 D2 S D1 w2 E2 E1 w1 動的不足 D2 S D1 労働サービス O L1s L1d 5 z図において,D1とD2は,1期と2期の看護師労働 に対する需要を表す.1→2へのシフトは,人口の 高齢化や技術の高度化などによりマンパワーへ の需要が増えたために生じたと考える. z短期均衡はE1 で,名目賃金はw1.需要シフトが 起こった場合,新しい均衡はE2(名目賃金率w2). 現実には,名目賃金の上昇にはタイムラグがある. 国公立病院では,公務員俸給表によって賃金が 規定されており,需給に応じて自由で迅速な給与 の調整は不可能である.民間もこうした規定に倣っ ているかもしれない.結局,賃金率がw2に上昇す るまで,L1d−L1s の超過需要が発生する.これを 6 「動的不足」と呼ぶ. 1 8.3.3. 需要独占 看護師労働市場⇒需要者が独占的な市場といわ れる. 需要独占の下では,需要者側が雇用者数,労働時間,賃 金等に大きな影響力を有する.右上がりの労働供給曲線 に直面.この設定下で,看護師不足を考える. z都市部を除き,病院数は地域ごとにそれほど多 くなく,田舎に行くと1つの病院のみというケースも みられる.一方,看護師の多くは女性で就業場所 は配偶者の勤務地に制約される.看護師の流動 性は低い.よって少数の病院が雇用についても市 7 場支配力をもつ. 名目賃金率 MC D S A B w0 市場均衡下 MC の欠員 D(限界価値生産物) S 労働サービス O L1s L1d 需要者→1つの病院を想定.病院は右上がりの供 給曲線(SS)に直面.病院は利潤を最大化.π= P×f (L,K)−w(L)×L−r×Kより,利潤最大化の1 8 階条件は,P・∂f/∂L=(∂w/∂L)・L+w. 8.4. 医療スタッフの教育と雇用 8.4.1. 医局制度 大学病院の医局⇒医局長,教授,准教授,講師, 助教(彼らは本来の構成員),研修医,他の病院 に派遣中の医局員,OB z診療の他に,研究,学生・研修医教育,「関連病 院」への医師の派遣 z医師の雇用は,通常競争的な環境で行われるこ とは殆どなく,関連病院との間で長期的雇用関係 が築かれている. 10 ☆関連病院のメリット (1)一定水準以上のスキルの医師の確保,(2)若 年医師の派遣により安価な人件費,(3)新知識や 技能のスピルオーヴァー など ¾長期的関係を構築することで,スキルに関する 「情報の非対称性」を軽減 ☆関連病院のデメリット (1)医局が主導権にぎるため病院独自のプランの 遂行困難,(2)管理職クラスの短期派遣により一 貫性を欠いた診療体制 11 z右辺は利潤を最大化する病院が看護師労働を追加的 に1単位購入するときの限界費用.需要独占だと,この限 界費用は新規雇用の賃金率と既に雇用している看護師 の賃金上昇分が含まれるため,名目賃金率よりも限界費 用が高くなってしまう. ★医局制度のさらなる問題 (1)医局制度の下では,高度な専門医学が優先さ れ,総合的な病態の把握や患者倫理は疎かにさ れがちである. z図より,MCは病院の限界費用曲線であり,最適な雇用 水準はMCと限界価値生産物(VMP)とが一致する点Aで ある.このとき,看護師の名目賃金率w0はVMPを赤点線 分ABだけ下回る.病院はw0の下ではL1dだけの看護師を 需要するが,実際にはL1sだけの看護師を雇用する.この L1d−L1sは病院にとっての超過需要である.結局,需要 独占市場では,慢性的に看護師不足が存在する.この不 足を「市場均衡下の欠員」と呼ぶ. (2)疾病構造が急性疾患から慢性疾患に移行し, 患者を全人的に診療する医師が待望されて久し い.しかし過度に専門性を追求した医師はこうした 要請に応えられない. 9 (3)医師の地域偏在→専門医学を実践できる都 市部に医師が集中 12 2 ★医局制度の改善 厚生労働省の補助金の傾斜配分 研修のスキームに応じて 近年の医局制度の概要 と研修制度の動向に関し てはプリント参照. (日経ゼミナール⑥,⑦) ¾「ローテイト方式」 2つ以上の診療科 ¾「総合診療方式」 内科,外科,救急,小児科等 しかし依然として多くの大学の医局は ¾「ストレート方式」 1つの診療科のみ z現在しばしば指摘される,診療科目間でみられ る医師の過剰・過少の問題は,その背景に診療科 目に特化した医局組織が,それぞれの医療サー ビス需要に関係なく,できる限りの医局員を確保し 13 ようとする行動がある. 3
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