造影 MRI を用いた前立腺癌局在診断の有用性に関する検討 西村 和郎 1

造影 MRI を用いた前立腺癌局在診断の有用性に関する検討
西村
和郎 1、武田
健 1、中田
垣本
健一 1、田中淳一郎 2、中西
大阪府立成人病センター
渡 1、山口唯一郎 1、新井
克之 2、北村
康之 1、中山
昌紀 3、富田
雅志 1、
裕彦 3
1 泌尿器科、2 放射線診断科、3 病理科
要旨
3 テスラ造影 MRI と根治的前立腺全摘除術の全摘除標本マッピング所見を比較検討した。
T2 Weighted Imaging (T2WI)、Diffusion Weighted Imaging (DWI)、Dynamic Contrast
Enhancement (DCE)の感度は各々67%、64%、69%とほぼ同等であり、総合所見の感度は
64%であった。これらすべての所見が陽性であった症例は 23 例(55%)であり、全摘除標
本の局在と高率(96%)に一致した。前立腺癌局在診断において、DCE は T2WI や DWI
の補助的な役割があると考えられた。
キーワード
前立腺癌、MRI、Dynamic Contrast Enhancement (DCE)
はじめに
前立腺癌の局所病期(T)診断を行うための一般的な画像診断法としては、超音波検査、
Computed Tomography (CT)、Magnetic Resonance Image (MRI)が挙げられる。超音波検
査および CT は明らかな前立腺周囲臓器への浸潤を検出することが可能であるが、被膜外浸
潤の評価や前立腺内の局在診断は困難である。一方、MRI はコントラスト分解能によって、
前立腺の解剖学的構造を描出可能であり、癌の局在診断や被膜外浸潤の診断に有用である
ことが報告されている 1)。
MRI による前立腺の描出は T2 強調画像(T2 Weighted Imaging, T2WI)が基本的な撮
影シーケンスであり、正常な辺縁域は高信号を呈し、前立腺肥大の発生した移行域は高信
号と低信号の混在した画像を呈する。従って、これらの形態と明らかに異なる場合は、前
立腺癌が強く疑われる。しかし、T2WI のみでは正診率が低く、拡散強調画像 (Diffusion
Weighted Imaging, DWI) や造影像 (Dynamic Contrast Enhancement, DCE) などを追
加することで診断能が向上する可能性がある。DWI は水分子の拡散能を画像化したもので
あるが、癌領域では水分子の拡散能が低下するので、拡散低下域として描出される。DCE
では、前立腺癌は早期相で濃染し、後期相で wash out を呈すること多く、小病変の検出に
役立つ可能性がある。また、MRI 撮影装置は 1.5 テスラから 3 テスラへと進歩し、高分解
能、高コントラスト画像を得ることが可能となった。
そこで、本研究において3テスラ MRI 装置による造影併用 MRI 撮影の前立腺癌局在診
断、病期診断における有用性について検討した。
対象と方法
2008 年 9 月から 2013 年 4 月までの期間に当院で 3 テスラ造影 MRI を撮像後に前立腺生
検を施行し、前立腺癌と確定診断された症例のうち、根治的前立腺全摘除術を施行した 42
例を対象とした。
MRI 撮影機種は SIEMENS 社製 MAGNETOM Trio a Tim System 3T、撮像するシーケ
ンスは T1WI(冠状断)、T2WI(3 方向)、DWI(拡散強調画像: b 値=0,1000,2000 )、
DCE(ダイナミック造影:造影前、25 秒、55 秒、85 秒)である。
前立腺生検前に撮像した 3 テスラ MRI において、T2WI 、 DWI(b 値=0,1000,2000 )、
DCE(造影)の各々について、生検前読影により癌の疑い(癌陽性所見)の有無を判断し
た。3 項目で癌の陽性所見とされた病変について、総合的に判定した。
検討項目は以下の通りである。1)MRI 画像所見と前立腺全摘除標本で、癌の局在 および
病期が一致するかを比較検討した。2)MRI の陽性所見病変と腫瘍径及び Gleason score と
の間に有意差があるかを検討した。
結果
42 例の生検標本の Gleason score は 6 以下が 7 例(17%)、7 が 26 例(62%)、8 以上が
9 例(21%)
、生検コア陽性率の中央値は 25%(7~50%)であった。
MRI の各シークエンスにおける癌陽性所見(感度)は T2WI、
DWI、DCE 各々28 例(67%)、
27 例(64%)、29 例(69%)であった。T2WI あるいは DWI が陰性で DCE が陽性であっ
た症例は 3 例(7%)あった。T2WI と DWI が共に陰性で DCE のみが陽性であった症例は
認めなかった。これらのシークエンスすべて陽性であった症例は 23 例(55%)であった。
この内 1 例を除き、MRI による癌診断部位と全摘除標本における癌の局在が一致した(一
致率 96%)。
T2WI,DWI, DCE により総合的に前立腺癌と診断された症例は 27 例(64%)であった。
この内、MRI による T 病期診断と全摘除標本による pT 病期診断が一致した症例は 20 例
(74%)であり、全症例の 48%であった。3 例(7%)が DCE によって被膜外浸潤(T3a)
が評価できた。MRI 診断における約半数の症例が過小評価であった。
腫瘍径と MRI 陽性所見との間に有意差は認めなかった。DCE 陽性所見は高いグリソン
スコア(≧8)の癌病変の傾向が見られたが、有意差は無かった。
T2WI や DWI で検出された病変は DCE も参考としたため、MRI 所見における DCE の
貢献度を定量化することは困難であった。
考察
前立腺癌の局在診断における造影 MRI の有用性について、前立腺生検前の MRI 所見と
前立腺全摘除標本のマッピングを比較し、検討した。DCE では早期相濃染、後期相 wash out
により、癌陽性所見としたが、感度は 69%であった。この所見が得られた部位は T2WI あ
るいは DWI のいずれかで癌陽性所見が得られた。従って、DCE のみによって前立腺癌の
診断が可能となる症例は稀であると考えられた。
T2WI、DWI、DCE の 3 つの所見を総合的に判断し、前立腺癌の病変を指摘できた症例
は 64%であり、3 テスラ MRI マルチシークエンス像による限局性前立腺癌の診断における
感度は高いとは言えない。従って、MRI で前立腺癌が指摘されない場合であっても、前立
腺癌の存在する可能性は十分にあり、現時点では、前立腺多所生検によって、前立腺癌の
局在を推定することが必要である。
一方、T2WI、DWI、DCE における 3 つの陽性所見を併せ持つ部位は高い確率(96%)
で癌と指摘でき、局在診断の信頼性が高い。また、一部の症例ではあるが、DCE を追加す
ることによって、局在診断や病期診断の精度が向上した。従って、DCE は T2WI、DWI の
補助的な役割があると考えられた。
以上より、造影 MRI による前立腺癌の局在診断は不十分であり、さらに精度を高める必
要がある。DCE による癌陽性所見は早期濃染と後期 wash out あるため、定量的な判定が
困難であった。最近、半定量的に造影剤動態を評価し、悪性度の高い癌が検出できる可能
性について報告されている 2)。今後は半定量的な DCE 判定を行い、前立腺癌の局在診断に
有用かを検討する必要がある。
本研究結果の発表
第 100 回日本泌尿器科学会総会(前立腺全摘除症例における術前 MRI の有用性の検討)
第 101 回日本泌尿器科学会総会(前立腺生検前に撮像した造影 MRI の癌局在診断における
有用性の検討)
文献
1) The role of magnetic resonance imaging in the diagnosis and management of
prostate cancer. Thompson J, Lawrentschuk N, Frydenberg M, Thompson L,
Stricker P; USANZ. BJU Int. 2013 Nov;112 Suppl 2:6-20.
2)Assessment of prostate cancer aggressiveness using dynamic contrast-enhanced
magnetic resonance imaging at 3 T. Vos EK, Litjens GJ, Kobus T, Hambrock T,
Hulsbergen-van de Kaa CA, Barentsz JO, Huisman HJ, Scheenen TW. Eur Urol.
2013 Sep;64(3):448-55.