外資商業企業の分公司設立から運営実務諸事項について(1)

日刊華鐘通信 No.2920
華鐘コンサルタントグループ会員専用
2012 年 9 月 18 日(火)
★ 中国ビジネス相談Q&A
„ 外資商業企業の分公司設立から運営実務諸事項について(1)
Q:外商投資商業企業の分公司に関して、纏めて教えて下さい。
<政策法規><商業企業><分公司>
A:商業企業の事業規模拡大の為、中国の主要各都市に分公司を設立して販売体制を整えよう
とする動きが加速しており、以下に分公司設立から運営実務に関わる諸事項を解説します。
(本稿は弊社能瀬徹副総経理が『月刊華鐘通信』2012 年 7 月号、8 月号(以上、既刊)及び 10 月号(10
月中旬頃会員企業様宛て発送)に寄稿した記事を纏めて掲載するものです。)
ここ 2~3 年、会員企業様より弊社に対して、事業再編(吸収合併、清算・資産売却)のご相談と業務
委託が非常に多いが、商業企業の新規設立委託も依然として多い。また、2005 年に外資 100%出資での商
業企業設立が解禁されてから既に 7 年が経ったが、商業企業での事業規模の拡大の為に、中国内の主要各
都市に分公司を設立して中国全土での販売体制を整えようとする動きが一層加速して来ており、中国内で
の販売促進を標榜する商業企業各社からの分公司設立に関するご相談と設立手続きの業務委託の増加が、
以前にも増して、ここ数年では特に顕著である。
しかし、巷にあふれる中国投資ガイドブックのどれを見ても、分公司の設立や運営の仕方について解説
したものはほとんど無と言ってよく、各社の理解も必ずしも正しくないので、この紙面をお借りして外商
投資商業企業の分公司設立から運営実務に関わる諸事項を整理して各位の参考に供したい。
尚、外資生産型企業が設立する分公司では、生産型分公司と販売型分公司の二つの形態が考えられるが、
外商投資企業の生産型分公司(いわゆる「分工場」)は、よほどの理由が無い限りその設立認可を得るこ
とが困難である。販売型分公司の設立・運営については、商業企業の分公司とほぼ同じである。
1. 分公司の位置付け
分公司とは総公司の隷属機構であり、『会社法』第 14 条に「会社は分公司を設立することができる。分
公司を設立する場合には、会社登記機関に対し登記を申請し、営業許可証を受領しなければならない。分
公司は法人格を有さず、その民事責任は会社が負う。」と規定されている以外に、分公司の位置付けや運
営等について専門的に規定した法律法規は存在しない(総公司と同じなのでその必要が無い)。独立法人
ではないので、総公司のように決算を行って法定の会計監査を受ける必要もない。分かりやすく言えば、
社内の一部門が外にあるのと同じである。
一方、その設立に当たっては、工商行政管理局での登記手続きを行って、総公司と同じように分公司と
しての営業許可証を取得し、分公司としての経営範囲も決められるので、分公司は、顧客との間で売買等
の契約当事者となり、営業活動に従事することができる(営業活動における民事責任は総公司が負う)。
また、営業許可証を取得するからには、その更新の為に所在地の年度検査を受ける必要がある。
営業活動に従事するからには、分公司所在地にて税務申告を行う必要があり、会計上の決算と会計監査
は不要でも、税務申告を行う為の損益計算書と貸借対照表は毎月作成する必要がある。ここでいう営業活
動とは、顧客と売買契約を締結して商品を仕入れ販売し、代金の支払い・受領と共に発票の発行を行うと
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いう「狭義の営業活動」だけでなく、顧客との商談等のセールス活動のみを行う場合も含めた「広義の営
業活動」を指すが、分公司の作成する税務申告用の損益計算書と貸借対照表においては、分公司自身が「狭
義の営業活動」を行わない限り、課税売上高はゼロであり、分公司としての経費が計上されて、課税所得
額はマイナスという損益計算書が作成される。また、分公司の運営に必要な経費は、総公司より分公司の
銀行口座宛に随時送金することができる(同一社内である口座から別の口座に資金を振り替えるのと同じ
である)ので、貸借対照表上は、これに対応する勘定として貸方に“その他未払い金”を立て、課税所得
のマイナス分が永久に累損として積み重なって行くことで、貸借対照表の左右がバランスすることになる。
上述の通り、分公司においても一般納税人資格を取得すれば増値税専用発票を発行することができ、中
国内取引については分公司でも「狭義の営業活動」に直接従事することができる。しかし、分公司が輸出
入の当事者となることはできない。これは、税関登記が一社一登記に限定されているからであり、法人格
を有さない分公司には税関登記を行うことが認められていないからである。従って、例えば、分公司所在
地で輸出入通関を行う場合には、分公司所在地の税関にて総公司が“異地通関登録”を行い、且つ総公司
の名義で輸出入通関を行うことになる。
以上が分公司の基本的な位置付けである。
2. 分公司と事務所の違い
会員企業様より、営業拠点を設立するに当たって分公司と事務所のどちらが良いかというご質問をよく
受けるが、分公司と事務所の違いをまとめると以下の表の通りであり、言うまでもなく事務所に認められ
るのは連絡・取次ぎ業務のみであり、何らかの営業活動を目的とするのであれば迷うことなく分公司を設
立すべきである。
分公司
事務所
登記手続きの要否
要
不要
営業活動への従事可否
可
不可
銀行口座の保有可否
可
不可
外国人駐在員の就業手続き可否
可
不可
直接雇用
可
不可
間接雇用
可
可(総公司契約)
中国人従業員の雇用
2006 年の『会社法』改定により、事務所設立に当たっては登記手続きが不要になったので、事務所に
対しては「登記証」も何も発行されない。ゆえに、事務所名義では銀行口座を開設することができず、事
務所経費は、総公司より現金を持ち込むか、事務所所属員の誰かが個人で立替えて、定期的に総公司で精
算することによって賄うしかない。また、外国人駐在員は実際の就業・居留場所で就業証・居留許可を取
得しなければならないが、事務所には「登記証」が発行されないので、実際の就業・居留場所となる機構
との労働契約関係を証明する書類を提出しようがない。ゆえに、事務所に外国人社員が駐在する場合には、
総公司所在地で就業証・居留許可を取得しての出張ベースとならざるをえず、これが長期間になると事務
所所在地の公安局より指摘され、早期に分公司を設立するよう促されることになる。分公司での中国人従
業員の雇用についての詳細は次稿(2)の 4.を参照願いたい。
(続く)
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