CPUヒートシンクにおける熱伝導シミュレーション

平成 21 年度 卒業研究発表会
CPU ヒートシンクにおける熱伝導シミュレーション
研究者 大石 航
1
指導教員 高久 有一
r
J
はじめに
CPU の熱暴走を防ぐため, 一般にはヒートシンクが用い
られる. これは突起物 (フィン) が外気に触れることで熱
を放出し冷却を行うが, 本研究ではフィンが取り付けられ
る底板の厚さが冷却性能にどのように影響するのかを調べ
た. 剛体における熱伝導シミュレータを作成し, シンプルな
ヒートシンクモデルを用いて, 定常状態における CPU 温
度の底板の厚さによる変化を確認した.
熱流方向
(温度勾配方向と逆)
∇T
温度勾配方向
(熱流方向と逆)
温度 T ( x, y , z , t )
2
図 2: フーリエの法則
熱伝導方程式
低温から高温への方向が熱流方向と逆関係にある.
位置ベクトルを ⃗r = (x, y, z) とし, 任意の空間 V を考え,
この空間の表面積を S0 , その中の温度を T (⃗r, t) [K], 熱量密
度を q(⃗r, t, T ) [J/m3 ] とする (図 1).
⃗ r, t) [W/m2 ] は V に流
空間を流れる熱流 (熱流束密度)J(⃗
入し, また同時に V から流出する. 熱流入と熱流出の差, す
なわち V 内の熱量の変化は, その中での q に変化があるこ
とを意味する.
また q と T の間には物質の密度 ρ [kg/m3 ] と比熱容量
C [J/kg · K] による関係がある.
以上から,V においてこれらエネルギー量が保存される
には式 (1) が成り立つ必要がある.
∫
∫
∂T
⃗
ρC
dV = −
J⃗ · dS
(1)
∂t
V
S0
r
熱流出 J
S0
r
dS
熱量密度 → 温度
q
ρC
T
式 (2) に式 (3) を代入することにより, 温度 T (⃗r, t) に関
する熱伝導方程式, 式 (4) が導出される.
ρC
∂T (⃗r, t)
= k△T (⃗r, t)
∂t
(4)
特に, 温度変化のない定常状態における温度分布は式 (5)
により記述され, 今回のシミュレーションにはこれを用いた.
0 = △T (⃗r)
(5)
境界条件は, 熱流出入 J [W/m2 ] を直接指定する式 (6) 及
び, 外部温度 Φ(⃗r) [K] により動的に変化する式 (7) がある.
h [W/m2 · K] は熱伝達率である.
{
J < 0 熱流入
∂T
−k
=J
(6)
∂x
J > 0 熱流出
−k
dS
∂T
= h (T − Φ)
∂x
(7)
r
熱流入 J
V
3
図 1: 熱量保存則
熱量密度 q は熱流入により増加し,
それにより空間の温度 T が上昇する.
ここで式 (1) 右辺にガウスの定理を用いて変形を行うと,
熱量保存則, 式 (2) が任意の座標で成り立たねばならない.
ρC
∂T
= −∇ · J⃗
∂t
(2)
次に, 空間中の熱流 J⃗ の発生を記述する法則がフーリエ
の法則, 式 (3) である. フーリエの法則は, 熱流が温度勾配に
よって発生することを示している (図 2). 係数 k [W/K · m]
は熱伝導率といい, 物質に依存する物性値である.
J⃗ = −k∇T
(3)
差分法
熱伝導方程式の離散化は差分法を用いる. 2 次元である
が, 概略図を図 3 に示す. 空間の各軸を ∆x, ∆y, ∆z の間隔
で分割, 其々に番号 i, j, k をつけ空間を格子状にし, 各格子
点に離散値 Ti,j,k を配置する.
式 (5) を離散化した式を式 (8) に示す.
(
)
λTi,j,k + α Ti+1,j,k + Ti−1,j,k
(
)
(
)
+ β Ti,j+1,k + Ti,j−1,k + γ Ti,j,k+1 + Ti,j,k−1 = 0
(8)
)
(

1
1
1


+
+
λ=2
2
2
(∆x)
(∆y)
(∆z)2

1
1
1

α = −
, β=−
, γ=−
(∆x)2
(∆y)2
(∆z)2
z
y
∆x
Ly
∆x
4cm
Nx,Ny
0,Ny
0,3
i , j+1
∆y
0,2
i-1 , j
i,j
:境界格子点
:自由格子点
i+1 , j
∆y
0,0
4cm
i , j-1
0,1
1,0
2,0
y
3,0
Nx,0
x
O
1cm
Lx
O
100W
thickness
CPU
1cm
4cm
図 3: 離散空間 (2 次元空間)
x
各軸最大長 Lx , Ly を Nx , Ny 分割し, 刻み幅 ∆x, ∆y を決定する.
各格子を x, y に対応する通し番号 i, j で区別する.z 軸も同様である.
図 4: ヒートシンクモデル
4
シミュレーション
概略図を図 4 に示す.
モデル フィン 16 枚の 4cm 角アルミニウム製ヒートシンク.
CPU 底部中央に 1cm 角 CPU コアを仮定.
外部環境 外部温度を Φ = 20 [℃] で固定.
物性値 k = 236 とし, 空冷を考え h = 200 とした.
境界条件 全てのフィン境界面 Γ から式 (7) により熱 J が
流出する. CPU 部分 Ω から式 (6) により 100 [W] 流
入する. それ以外の全ての底面は断熱とする.

J(x, y, z) = h(T (⃗r, t) − Φ)
(⃗r ∈ Γ)


6
J(x, y, z = 0) = −10
(⃗r ∈ Ω)


J(x, y, z = 0) = 0
(⃗r ∈
/ Ω, Γ)
分割 フィン部分の格子数を十分確保するために x, z 軸を
256 分割している. y 軸に関しては 32 分割である.
∆x = ∆z = 4.0 × 2−8 [cm],
∆y = 4.0 × 2−5 [cm]
スキーム 定常解法, 式 (8) を使用.
高さを常に 4cm で固定した上で, 底板の厚さを 1.25mm
から 20.0mm まで 1.25mm ずつ変化させたモデルを用意
し, それぞれについてシミュレーションを行った.
ここで, 得られた定常状態の数値解が物理的に妥当であ
るかを判断するために, 式 (1) を用いて解が熱量保存則を
満たしているかを検証した.
計算すると, 全ての厚さについて相対誤差約 4% 以下で
保存則を満足していた. 有効桁数を考慮すれば, これら数
値解は妥当であると判断できる.
研究目的のために, 各厚さにつき CPU 温度のサンプルと
して底部中央の温度 T (2cm, 2cm, 0) を記録した.
結果をまとめたグラフを図 5 に示す. 厚さが 6.25mm で
あるときに,CPU 温度が他と比べ最も低くなった.
CPU temperature [degree(Celsius)]
ヒートシンク底部の CPU から 100W の熱が流入する.
厚さ (Thickness) の変化で温度分布がどのように変化するかを調べる.
70
CPU temperature
68
66
64
62
60
58
56
54
52
50
0
1.25
2.5
3.75
5
6.25
7.5
8.75
10 11.25 12.5 13.75 15 16.25 17.5 18.75 20
thickness of bottom plate [mm]
図 5: 定常状態における底板厚さと CPU 温度の関係
厚さ 6.25mm のとき,CPU 温度が他と比べ一番低い.
5
結論
本モデルにおいては, ヒートシンク底板の厚さが 6.25mm
のときに最高の冷却性能を示した. このように, 与えられ
た条件に対して適切な厚さを持たせる必要がある.
6
今後の課題
• 今回は剛体を仮定したが, 圧力などが可変である連続
体に対応させることでより現実的な問題を考慮する.
• 今回は外部温度を固定したが, 実際は対流などにより
変動するので, それを考慮する必要がある.
参考文献
[1] 松本紘美,『コンピュータによる実戦数値計算法』, 九
州大学出版会, 1999 年
[2] 桂 田 祐 史,『 熱 方 程 式 に 対 す る 差 分 法 I』,
http://www.math.meiji.ac.jp/˜mk/labo/text/heatfdm-1.pdf