「NAB ショー 2016」に期待する ――衛星通信・衛星放送業界の動向

「NAB ショー 2016」に期待する
――衛星通信・衛星放送業界の動向――
神谷 直亮 神谷 直亮
今年の「NAB ショー」における衛星通信・
回、同社のブースでは、アメリカでの戦略
のかなど興味が尽きない。
衛星放送業界の 3 大テーマは、昨年に引き
が話題になると思われる。
エコスターについては、子会社の Dish
続いて、ウルトラ HD(4K/8K)
、ハイス
イスパサット社(本社、スペイン)は、
Network が 1 月 の「CES2016( 家 電 見
ループットサテライト(HTS)
、モノのイ
2014 年 の「NAB シ ョ ー」 で い ち 早 く
本市)
」で「4K Hopper 3 DVR」と名付
ンターネット(IoT)と思われる。さらに、
アマゾナス 3 衛星で「イスパサット 4K
けた STB を公開して「4K 衛星放送サービ
リオデジャネイロ・オリンピック・パラリ
TV」を立ち上げるという快挙を成し遂げ
スを今年第二四半期から実現する」と発表
ンピックが控えており、このビッグイベン
たパイオニア的な存在だ。同社のプラッ
している。このサービスの詳しい内容とす
トに関連してどのような展示とデモが見ら
れるのか非常に楽しみである。
ト フ ォ ー ム に は、 現 在「Drone Madrid」
でに販売している「Sling」や「Joey」な
「Slow TV」「Avis Production」「TVE」
ど、同社が売り込んでいる他の受信機器と
「High TV」
「Extreme Sports」
「Red Bull
の複雑な関係を解明することにしたい。ま
まず、4K に関しては、SES、ユーテル
Media」
などが集結している。今年の注目は、
た、本命の 4K 衛星放送が、IPTV や OTT
サット、イスパサットなど既存のプラット
地元スペイン・ポルトガル向けと北中南米
による他の 4K サービスの影響をどのよう
フォーム・オペレーターの現状と動向の再
向けの両 4K 専用プラットフォームの拡販
に受けているのか、大局的な観点からの見
確認が必要だ。現在、SES(本社、ルクセ
戦略である。また、放送仕様、セットトッ
方を聞いてみたい。
ンブルグ)が提供する 4K 衛星プラットフ
プボックスのアップグレードなど、その後
ォームを利用している番組提供事業者とし
の進展状況を確認する良い機会になると期
次いで、スポット・ビームを多用して大
て は、
「Pearl.TV」
「Sky Deutschland」
待している。
容量衛星通信サービスを目指す HTS に関
「NASA TV」
「Fashion One」
「High TV」
しては、インテルサット、ユーテルサット、
「Insight UHD」が挙げられ、欧米市場に
上述した 3 社の他に、4K の展示とデモ
インマルサット、バイアサットの 4 社が展
注力しているのが特色である。これらに加
を行うと思われるのは、インテルサットと
示と実演を行うと思われる。
えて、2 月からドイツの料理チャンネル
エコスターだ。ルクセンブルグに本社を移
インテルサット社は、1 月 29 日に同社
「BonGusto」が SES UHD1 プラットフ
し、米ワシントン D.C. を活動の拠点にして
の「EPIC」第 1 号衛星となる「インテル
ォームで 4K 番組の放送を始めている。一
いるインテルサットは、昨年、
「4K」
「EPIC」
サット 29e」を打ち上げ、今年から本格的
方で SES 社は、光ファイバーと衛星を駆
「インテルサット・ワン」の 3 大戦略路線
な HTS に挑む体制ができた。第 2 号機の
使する統合グローバルサービスの構築を進
を前面に押し出していた。4K に関しては、
「インテルサット 33e」は 2017 年に打ち
めていると言われており、どのような伝送
ロンドンの BT タワーから「インテルサッ
上げられ、グローバル・ネットワークが完
実績ができたのか問い合わせてみたい。
ト・ワン」光ファイバー回線を経由して、
成するのは 2018 年と思われるが、どのよ
ユ ー テ ル サ ッ ト 社( 本 社、 フ ラ ン
ロサンゼルス郊外のインテルサット・リバ
うな具体的な戦略が示されるのか楽しみだ。
ス ) の 4K プ ラ ッ ト フ ォ ー ム を 利 用 し
ーサイド・テレポートまで伝送。ここから
ユーテルサット社は、すでにヨーロッパで
て い る 番 組 提 供 事 業 者 は、
「NTV Plus」
ギャラクシー 17 衛星にアップリンクして
「KaSat」による HTS ビジネスを展開して
ラスベガスの会場で受信するという複雑な
いる。今年に入り、採算ベースに乗ってき
International(FunBox UHD)
」
「Fransat」
伝送ルートでデモを実施して注目を集めた。
たと聞いているが、その成功の秘訣を確認
の 6 社である。特色は、ロシアとトルコの
今年は、どのような趣向を凝らすのか、また、
してみたい。さらに、後述するバイアサッ
4K 放送に貢献していることと言える。今
どのメーカーの 4K コーデックを採用する
ト社との提携関係を強めるとの発表を行っ
「Tricolor」
「DigiTurk」
「Sky Italia」
「SPI
32
FDI・2016・04
NABShow
写真 1 今年も各社の 4K TV の競演が楽しみだ。
写真 2 出展が予定通り実現すれば、話題の中心になると思われるのは、NHK の 8K 中継車だ。
(写真は、本年 2 月に開催された、NHK 番組技術展に出展された SHC-1 の外観と中継車内)
ており、具体的な展開を探ってみることに
RSCC 社 は、2015 年 3 月 に エ ク ス
ノロジー、オンコール・コミュニケーショ
したい。
プ レ ス AM-7、9 月 に AM-8、12 月 に
ンなどがあげられる。特に注目されるのは
イギリスに本社を置くインマルサットは、
AMU-1 と 3 機の衛星を矢継ぎ早に投入
AMT 社で、同社が開発したバイアサット衛
昨年の 2 月と 8 月に第 5 世代の衛星を打
した。念願だったアメリカとロシア間のブ
星と LiveU でセルラー・ネットワークにア
ち上げて、着々とグローバルな HTS ビジ
ロードバンド回線も実現している。今年
クセスするハイブリッド車載局の最新版が
ネス体制を固めている。今回、サービスの
の「NAB ショー」で同社が何を前面に押し
興味を引く。
進展具合を確認する絶好の機会と考えてい
出すのか、話を聞くのがたのしみだ。特に
さらに、一昨年から屋外展示会場で目立
る。また、この第 5 世代衛星に対応する
4K プラットフォームに関する戦略を聞い
つようなったのが「ドローン」による空撮
Ka バンド陸上可搬局も出展すると思われ、
てみたいと思う。
システムである。今年は、どのような最新
つぶさに見てみたいと思う。
デバイスが公開されるのか、来場者の楽し
バイアサット社は、昨年、HTS の新しい
さらに、1 月の「CES2016」以来、熱
アプリケーションとして「Exede」と名付
い視線が注がれている IoT について、どの
けた放送局向けの車載局を出展して来場者
ような意欲的な取り組みがなされているの
最後に、実現すれば脚光を浴びること間
の耳目を集めた。テレビ局の中には、運用
か、各社の対応が気になる。
「NAB ショー」
違いなしと思われるのが、NHK が製作し
がバイアサット衛星のスポット・ビームと、
という性格から、IoT 最大手の衛星通信事
た 8K 中継車だ。ソニー製の「SHC-2」は、
これに対応するゲートウエイに依存するの
業者であるイリジウムとオーブコムが出展
「第 50 回スーパーボール(現地時間 2 月
で、緊急事態発生時には伝送能力が限界を
する可能性は少なく、動向を聴取する唯一
7 日、サンフランシスコ郊外のリーバイス・
超えるのではないかという危惧感を持って
のチャンスはインマルサットのブースと考
スタジアムで開催)の会場で使用された後、
いると聞く。これに対しバイアサット社が、
えている。さしずめ航空機のエンジン監視
ニューヨークのリンカーンセンターで 2 月
どのような対応策を考えているのか確認す
や大型建設機械の稼働状況など、IoT ビジ
16 日に開催される秋吉敏子ジャズコンサ
る絶好の機会になると思う。
ネスの現状把握に努めたいと思う。
ートの撮影に臨むという。本稿執筆時点で
みの一つになっている。
は、まだ最終確認が取れていないが、リオ
既述の衛星通信・衛星放送事業者以外
上述した衛星通信・衛星放送事業者によ
デジャネイロに搬送される前に、もう一度
で、今回出展が予定されているのは、カナ
る室内展示以外に、
「NAB ショー」の楽し
アメリカ大陸を横断しラスベガスの「NAB
ダのテレサット社とロシア衛星通信会社
みとして、屋外展示があげられる。中央ホ
ショー」に出展する時間は十分にあると思
ールと南ホールの間に「アウトドアー・モ
われるので、切に展示が実現するよう願っ
テレサット社は、昨年 11 月に最新の「テ
バイル・メディア」特設会場が設けられ、
ている。
ルスター 12V」衛星を日本の H-2A ロケ
毎年のように大型中継車と多様な車載局が
ットで打ち上げたばかりである。この衛星
集結する。今年の興味は、4K 対応のシス
には、
52 台の Ku バンド中継器が搭載され、
テムがどのように導入されているかの一点
スポット・ビームによるきめの細かいサー
に集中している。今回予想される車載局の
ビスを行うと宣言している。どこがユーザ
代表的な出展者としては、アクセラレイテ
ーになったのか、その展開ぶりを聞いてみ
ッド・メディア・テクノロジー(AMT)
、
たいと思う。
コブハム・サトコム、スカイウエア・テク
(RSCC)である。
Naoakira Kamiya 衛星システム総研 代表 メデイア・ジャーナリスト 33
FDI・2016・04