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免疫染色玉手箱
技術
抗原賦活液 pH9 を利用した
蛍光 in situ hybridization 法プロトコルの簡略化
+ 蛍光免疫染色二重検出法の開発
土浦協同病院 病理部
池田 聡
1. はじめに
最近、病理検査には腫瘍関連遺伝子の変異や増幅などを調べて病理診断に応用する、薬剤選択
検査を行う、といった新しい業務が拡大してきている。乳癌、胃癌に使用されるトラスツズマブ
や肺癌に使用されるゲフィチニブ等の薬剤は今や一般病院でも日常に使用され、これら薬剤の適
応のための遺伝子検査は必須である。このような検査には保険点数も認められ、今後ますます需
要は増すものと予想される。このような背景のもとに病理部門に勤務する臨床検査技師には、従
来の形態検査に加えて分子病理学的な検査技術のスキルが求められている。
腫瘍は遺伝子の異常により発生する。であれば、我々は当然遺伝子検査を行わなければならず、
早晩このことは大学病院のような検査部のみならず全国津々浦々の病院検査部での業務となるだ
ろうことが予想される。同時に、遺伝子検査の簡略化、キット化が進み、通常の臨床検査と同レ
ベルで手軽に日常検査化できるものになっていくのは明白である。現に、ゲフィチニブ投与のた
めの EGFR 遺伝子変異の検査については検体をカートリッジに滴下し、機械にかけるだけの簡便
な装置もすでに発売され、販売件数も増加していると聞く。
SNP 等の遺伝子検査はメーカーの努力により簡略化が進みつつあるが、遺伝子増幅やキメラ遺
伝子の検出に欠かせない蛍光 in situ hybridization(以下 FISH)についてはその重要性が増して
いるにも関わらず、簡略化があまり進んでいない。理由は、FISH の検出プロトコルが煩雑であ
ること、固定時間のばらばらな病理標本上で行わなければならないなど再現性に対して不利な要
素があること等が考えられる。確かに FISH ではなかなか安定した結果が得られないことは筆者
もいやというほど経験した。トラスツズマブ投与に必要な HER2 遺伝子増幅に関しては、ほぼ全
自動で行える染色システムが販売されているが、本システム 1 つですべての FISH が可能になる
わけではなく、手作業による FISH の技術確立は避けて通れない。このような状況のなかで、わ
れわれは最近、切片の賦活に用いる抗原賦活化液を変更し、たんぱく分解酵素を必要としない簡
略化されたプロトコルを作製した。簡略化することで再現性を高めることができ、日常的に FISH
をすることにプレッシャーを感じなくなり、当院における FISH 拡大に向かうことができた。ま
た、この方法を応用して FISH に蛍光免疫染色を重ねる二重検出法を開発し報告した 1)。この方
法を用いることで目的の細胞を確認しつつ、その細胞の DNA の状態(増幅、欠失、転座など)
を検察することができ正確な観察結果が期待できる。さらに本法を DAB 等による明視野観察に
応用できるか検討し報告も行った 2)。この簡略化したプロトコルではニチレイバイオサイエンス
社の抗原賦活化液 pH9 を使用し良い結果が得られているので、本稿で紹介したい。
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2. 方法
今回の FISH の主な改良点は加熱処理に使用するバッファーの変更と蛋白分解酵素処理の工程
の省略である。バッファーにはニチレイバイオサイエンス社の抗原賦活化液 pH9 を用いるとシグ
ナルが安定して強く検出された(図 1a、1b)
。また、蛋白分解酵素処理はいままで FISH に必須
とされていたが、
実際にはこの工程を省いてもシグナルの検出はまったく問題がなかった(表 1)。
この簡素化したプロトコルを用いることにより簡単確実にシグナルの検出ができ、蛋白分解酵素
処理を行わないことで組織構築や核の把握がし易くなった。また、熱をかけるだけの前処理であ
るため従来報告されている二重免疫染色手順となんら変わらないことになり、この改良法を蛍光
免疫染色に続けて行うことで FISH と蛍光免疫染色の二重染色を行うことが可能となった(図 2、
表 2)。 FISH ではしばしば腫瘍細胞と周囲の非腫瘍細胞の区別が蛍光顕微鏡下で判定しづらいこ
とがある。このような場合、二重染色を行うことで腫瘍細胞と非腫瘍細胞を区別したうえでの遺
伝子の状態を観察することができる(図 3、4)
。図 5 はパラフィン組織切片上の中皮腫細胞とセ
ルブロック標本中の非腫瘍性の反応性中皮細胞を抗 D2-40 抗体で中皮細胞を同定しつつ p16 遺伝
子の欠失を観察している。
また、この方法は細胞診標本や血液塗抹標本にも応用可能であることが確認された(図 6、7)
。
a
b
図 1 FISH 改良法の結果
a:蛋白分解酵素を使用した従来法
b:抗原賦活化液 pH9 を用いた加熱処理のみの簡略化法
(乳がんにおける検討)
b のほうがシグナルが明るく、組織構築が失われていない。
表1
プロトコルの概略
1. ニチレイバイオサイエンス社抗原賦活液 pH9 の 97℃ウォーター
バス中で加温(30 分)
2. 水洗後、乾燥
3. ディネイチャー処理 97℃(5 分)
4. ハイブリ反応 37℃(1 晩)
5. 37℃のトリスバッファー/NP-40 で洗浄(15 分)
6. 水洗後 DAPI(青色)で核染色後封入
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図 2. HER2 蛋白(Alexa fluor 488:緑)と
HER2 遺伝子(Spectrum orange:赤)、
CEP-17(Spectrum Green:緑)核は
DAPI で青色に染色
蛋白過剰発現と遺伝子増幅の状態が一度
に確認できる。
表2
FISH+免疫蛍光二重染色プロトコル
1. 一次抗体に適した加熱抗原不活化処理
2. 一次抗体(90 分)
3. PBST で洗浄
4. ビオチン標識二次抗体(30 分)
5. Alexa fluor 488 標識ストレプトアビジン(30 分)
6. 表 1 の 1 からをそのまま続けて行う
図 3. サイトケラチンと HER2 遺伝子の
二重検出(非増幅例)
腫瘍細胞巣はサイトケラチン陽性だが一部
にサイトケラチン陰性の細胞があり非腫瘍
であることがわかる。
図 4. サイトケラチンと HER2 遺伝子の
二重検出(増幅例)
境界部分では腫瘍細胞と正常細胞の境界が
鮮明である。
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a
b
図 5 中皮細胞における検討
a:パラフィン組織切片上の中皮腫細胞
b:セルブロック標本中の非腫瘍性の反応性中皮細胞
中皮細胞を抗 D2-40 抗体で中皮細胞を同定している。中皮腫細胞では緑の CEP-17 遺伝子に対
し赤の p16 遺伝子の数が少ないか、あるいは認められず中皮腫と断定できる。反応性中皮細胞で
は CEP-17 遺伝子、p16 遺伝子ともに 2 個ずつ見られ非腫瘍細胞と判定される。
図 6. 胸水スメアでの検討
EGFR 蛋白と EGFR 遺伝子の同時検出を
行った。遺伝子増幅は見られない。蛍光
染色では EGFR 陰性の細胞と陽性の細胞
の染め分けが明瞭である。
図 7. 血液スメアでの検討
KCl 処理後の検体のスメア標本において
蛍光染色で LCA を染色し、IgH 遺伝子の
状態を観察した。融合遺伝子は観察され
ない。
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3. おわりに
FISH でプロトコルの簡略化を行うことで、当院では再現性が有意に向上した。また二重検出
法の開発も行った。この検出法では同じ細胞でこの 2 つの現象が同時に起こっていることが証明
できる。
プロトコルも非常に簡素であり、
どの施設でも実施可能である。
本法は簡単に行える FISH
の応用法であり今後の発展が期待できる。
文献
1. 池田 聡、内田佳介、鈴木恵子、江石義信:酵素処理を用いない FISH 法プロトコルの簡素化およ
び FISH+蛍光免疫二重検出 病理と臨床 2011;29(11)1275~1278
2. 池田 聡:病理標本を用いた可視化(CISH: in situ hybridization)+免疫組織化学染色二重検出
法の開発 日本染色体遺伝子検査学会雑誌 2012;30(1)47~51
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