雇用労働事情のPDFファイル

国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
ドイツの雇用労働市場の状況については、連邦労働社会省の雇用局が国レベルから州及び
地方レベルに至るまで幅広く調査を行っており、その結果は統計資料としてまとめられ、
<www.arbeitsagentur.de> で公表されている。また、それに加えて同局の雇用調査研究
所から入手可能である。さらに連邦統計局のウェブサイト <www.destatis.de> では、国
勢調査のデータや国内雇用関係の情報を掲載している。ここでは、連邦雇用局、連邦労働
社会省、連邦統計局、雇用調査研究所の情報を基にして報告書を作成している。
2.1
労働市場の状況
2.1.1
過去 3 年間の労働力人口、就業者数、失業者数及び失業率
2007 年の国民総生産 (GDP) の前年比 2.5%増加という好調な経済成長とは対
照的に、2008 年は景気が減速している。現時点の景気指標では経済的活力が弱
まることを示している。ここ数カ月、工業生産の上昇が減速してきており、新
規受注数、景況感指数等の先行指数は停滞を示している。労働市場は依然とし
て上昇を見せているが以前ほどではない。ここ数カ月、社会保障対象の求人及
び就業者数が増加しており、失業者数が減少している。前年と比べて就業者数
が大きく増加していて、失業者数は激減している。失業者数の減少の主な原因
は、継続している好調な景気状況の影響に加えて、労働市場の改革及び労働人
口の減少であろう。
連邦統計局及び連邦雇用局の概算では、2008 年の被雇用者数は年間平均で約
3,998 万人であり、2007 年と比べて 25 万人の増加である。また、2008 年の社
会保障対象の就業者数は 2007 年と比べて 21 万人増加し、年間平均で約 2,713
万人となるが、無給家族労働者を含む自営業者は 5,000 人の増加であった。
2007 年の好況を受けて 2008 年に入っても失業率は減少し続けており、2008 年
6 月現在失業者数は 320 万人の水準まで減少(14.4%の減少)している。
*出典:雇用調査研究所 (IAB), IAB-Kurzbericht 3/2008, <http://www.iab.de/dok
u> accessed on 30 August 2008
表 2-1
項
労働市場の主要指標(2008 年 6 月)
目
2008 年 6 月 2007 年 6 月
増減数
前年比
全国被雇用者総数(人)
40,200,000
39,640,000
-
+0.98%
社会保険加入被雇用者数(人)
28,130,000
27,340,000
-
+0.97%
民間失業率
7.5%
8.8%
-
-
民間非自営業者失業率
8.5%
9.9%
-
-
- 男性
8.2%
9.5%
-
-
- 女性
8.7%
10.2%
-
-
- 25 歳以下
6.4%
7.7%
-
-
失業率
1
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
項
2008 年 6 月 2007 年 6 月
目
- 外国保有者
増減数
前年比
17.8%
20.0%
-
-
3,159,811
-
−527,308
△14.4%
- 男性(労働人口の 50.5%)
1,595,005
-
−245,751
△13.4%
- 女性(労働人口の 49.5%)
1,564,794
-
−281,537
△15.3%
- 25 歳以下(労働人口の 9.6%)
304,022
-
−62,275
△17.1%
- 55 歳以上(労働人口の 13.3%)
419,590
-
−57,268
△12.1%
失業者総数(人)
*出典:連邦雇用局 (BA), “The Labour market in June/July 2008”<http://www.pub.arbeitsamt.de/
hst/services/statistik> accessed on 30 August 2008.
【労働の需要】
現時点では経済指数は経済活力の減少を示しているものの、労働の需要はわず
かに上昇した。2008 年 7 月に報告された求人数は、季節調整後で 9,000 件上昇
した。その求人数の中で 89%は即時決定を要していた。しかし 2007 年と比較
すると、公表求人数は年間 61,000 件 (9%) 減少しており、労働需要の上昇傾向
が終わったことを示唆している。それにもかかわらず、多くの企業が依然とし
てインターネットを通して求人広告を出していることから想定できるように、
株式市場の混乱と大手企業の雇用削減は労働需要に多少の影響を及ぼしている
可能性がある。インターネットに掲載される求人広告は主に高い技能を持った
労働者向けの求人に使われるため、雇用者は未だに新規に被雇用者を雇うこと
に大変前向きであることが分かる。
*出典:連邦雇用局 (BA) “The Labour market in July 2008”<http://www.Pub.arbeitsamt.de/hst/
services/statistik/detail/a.html> accessed on 30 August 2008.
2.1.2
業種別労働者数
連邦雇用局は、今後雇用の伸びが見込まれているのはサービス産業であると予
測している。特に、医療サービス、ビジネスサービス等では数年間のうちに急
速な伸びが予測される。運輸、物流事業も同様に成長していくと思われるが、
製造業及び建設業においては引き続き雇用は減少傾向が続く。
表 2-2
産業別の労働者数(2008 年 3 月)(単位:人)
産
業
労働者数
農業、狩猟、林業、漁業
294,900
鉱山業、採石業
100,600
6,799,000
製造業
263,300
電気、ガス、水道
1,483,000
建設業
2
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
産
業
労働者数
卸売業、小売業;自動車、オートバイ、個人・家庭用品の修理
4,003,400
762,600
ホテル、レストラン
1,581,700
交通・輸送、保管、通信事業
978,000
金融仲介業
不動産、賃貸、ビジネス活動
3,759,000
行政、防衛、強制加入社会保険、ドイツ国外団体及び法人
1,668,300
教育
1,015,200
医療、福祉
3,257,600
その他の地域奉仕サービス、社会サービス、
個人・世帯向けサービス
1,252,800
11,400
その他
合
27,224,000
計
(注)国際標準産業区分 (ISIC-Third Revision) 使用
*出典:連邦雇用局 (BA) “The Labour market in July
2008”<http://www.Pub.arbeitsamt.de/hst/services/statistik/detail/a.html> accessed on 30 August
2008.
2.1.3
新規学卒者の就職状況
新規学卒者の雇用状況に影響を与える要因はいくつかあるが、まず経済的状況
が挙げられる。この点で 2006 年のドイツ経済は好調であった。ドイツは多様性
のある経済構造を持つ多くの地域から構成されるため、新規学卒者を取り巻く
状況も各地域によって大きく異なり、例えば、ハイテク産業が盛んな南ドイツ
ではここ数年間、雇用状況が落ち込んでいたが、近年再び回復している。
ドイツでは、中等学校卒業者は女性の方が男性より多い傾向があり、これに対
し一般の大学、応用科学大学では、学位を取得する学生には男性が多い。中等
学校卒業者でも、女性より男性の方が就職先の選択肢が多いという面で恵まれ
ている。中等学校を卒業した男性の多くは 3 年間の見習い訓練制度に参加し、
修了後に就職する。もちろん、女性も同様に見習い訓練制度へ参加することは
できるが、実際に参加する割合は少ない。中等学校を卒業後に職業訓練学校等
に参加しない女性は、レストラン、小売店等の低賃金のサービス業の職に就く
ことが多い。
雇用機会は、特に教育レベル、性別及び年齢に関係しており、一般に職業訓練
資格及び大学卒業資格を持つものは、低学歴のものと比較すると失業する可能
性ははるかに低い。経済協力開発機構 (OECD) が 2005 年に行った調査から分
かるように、ドイツでは教育と雇用は密接に関連している。2005 年に大卒者の
失業率は非熟練者の失業率より 15%低かった。表 2-3 は、ドイツにおける 2005
3
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
年の学歴別失業率を示しており、このような状況は 1991 年から明らかになって
きている。
表 2-3
ドイツの学歴別失業率(1991∼2005 年)(単位:%)
中等学校卒業レベル以下
年
(ISCED
*1
高等学校卒業レベル
レベル 0∼2) (ISCED レベル 2∼3)
大学卒業レベル
(ISCED レベル 5∼6)
2005 年
20.2
11.0
5.5
2003 年
18.0
10.2
5.2
1999 年
15.6
8.6
4.9
1995 年
13.3
7.9
4.9
1991 年
7.4
4.7
3.2
*1:ISCED(International Standard Certificate of Education):ユネスコ国際標準教育基準
*出典:Zeit online <http://www.zeit.de/2007/40/Tabelle-2> accessed on 30 August 2008.
ドイツにおける労働市場の政策の主たる目的は、長期的失業問題への取り組み、
失業の予防措置及び非熟練労働者を労働市場に融和させることである。連邦政
府は職業資格のない若者の支援を特に重視している。一例として、2007 年 10
月にかつての特別企画であった「若者の入門訓練 (EQJ:Einstiegsqualifizieru
ng Jugendlicher) 」は、
「社会法 (SGB:Sozialgesetzbuch) 第 3 巻」に組み込
まれ、その訓練のための資金は雇用者に給付されるようになった。以前の若者
の入門訓練の企画と違い、公的機関も給付されるようになり、年齢制限もない。
さらに、訓練助成金に加えて職業訓練を受けていない者を長期的に雇用する雇
用者には賃金費用の助成金が導入された。雇用者はその助成金の一部を被雇用
者の訓練に充てなければならない。
労働市場へのアクセスが限られ、就職に対し複数の障壁のある長期的失業者の
就職の見込みを良くするための対策も取られている。当該失業者への支援がな
い場合、労働市場において雇用機会を見出すことは困難である。
「社会法第 2 巻
(SGB II) 」に新しく規定された「就職支援給付」では、新規契約の場合は初
めに 24 カ月の短期的支援給付が支払われ、それ以降は最大賃金費用の 75%の永
久給付に加えて、訓練のための助成金等が支払われる。現在、連邦雇用局の「企
業勤務非熟練・高齢労働者向け継続的職業教育 (WeGebAU) 」の特別企画では
250 人以下の従業員を持つ企業で働く 45 歳以上の高齢労働者及び非熟練労働者
の訓練給付金が支払われている。
*出典:ReferNet/BIBB (Ed), National ReferNet report on progress in the policy areas for Vocational
Education and Training. Draft Version 2008, <http://www.bibb.de> accessed on 30 August 2008.
ドイツでは学校中退者の割合が高く、特に少数民族等に多いため、社会問題と
なっている。高校卒業者は一般的に豊かに暮らせるが、学校中退者は通常、低
4
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
賃金の職に就く傾向がある。連邦教育研究省 (BMBF) によるドイツの教育年次
レポートにはここ数年の学校中退率が次のように発表された。
・
学校中退率は 1990 年以降ほとんど変わらず、約 15%である。
・
貧困層の子どもの学校中退者数は、富裕層の子どもに比べ 6 倍も多い。
・
退学者は非常に低賃金の職に就くことが多く、時に違法行為を行う。
・
一度学校を辞めても、中にはまた学校へ戻り、卒業資格を取得する者もい
る。これは将来、職を見つけるためには、彼らにとって必要不可欠である。
ドイツは学校中退者を減らすために、さらに多大な努力を必要としている。若
年者、特に男性の成功率を高める努力なくしては、社会問題は継続するであろ
う。
*出典:連邦教育研究省 (BMBF) 、Basic and Structural Data 2004 ff <http://www.bmbf.bund.de>
accessed on 30 August 2008.
2.1.4
自発的離職者の現状
ドイツにおける自発的離職の理由はさまざまであるが、最も多いのが早期退職
である。その主な理由としては、以下の 2 つがある。
・
50%の企業には 50 歳以上の被雇用者がいない。
・
55 歳以上の 55%が就職していない。
政府が高年齢者の雇用機会を改善するために多くの政策を実施したことで、199
8 年 4 月∼2002 年 4 月までに 55 歳以上の失業率が 36%減少した。このような
改善政策のひとつに州と労使団体による「高年齢者パートタイム制度」がある。
この制度は 1996 年に制定され、1999 年及び 2000 年に改定された「高年齢者パ
ートタイム雇用法」に基づくもので、55 歳以上の被雇用者は雇用者と協定を結
ぶことにより退職するまでパートタイムで働くことができる。このような制度
を実施するにあたっての条件は、団体協約締結等がある。上記制度により 55 歳
以上の労働者がパートタイム業務に移る代わりに、企業が失業者や訓練修了生
を雇用した場合、連邦雇用局はパートタイム労働者の賃金の一部を負担する。
およそ 10 万人が団体協約で受ける待遇は、高年齢者パートタイム雇用法の待遇
よりも手厚くなっている。法律ではパートタイム労働者はフルタイム賃金の 7
0%及び年金拠出金の 90%を受けるが、ほとんどの団体協約ではフルタイム賃金
の 85%以上で、さらに一部では年金拠出金の全額を受けることができる。しか
し、実際のところはこのような高年齢パートタイム待遇を利用している者は数
少ない。ほとんどの場合、労働者が最初の一定期間フルタイムで働き、そのあ
との期間は出勤しない。この場合、労働時間を減らしているというよりも年金
受給年齢を下げているということになる。
近年のドイツの政策は EU 加盟国によるリスボン戦略を受けて変化している。
リスボン戦略では 2010 年までに 55∼64 歳の雇用率を 50%に改善することを目
標とし、ドイツでは「2005∼08 年国家改革プログラム」の中で、リスボン戦略
の 2010 年の目標を取り入れることにした。連邦政府は高年齢労働者を労働市場
に融和させるように取り組みを強めており、2005 年 10 月に「50 プラスイニシ
5
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
アチブ」という 2 年間計画を始めた。2008 年 1 月 1 日から第 2 期「50 プラス
イニシアチブ」が始まり、2010 年末まで継続される予定である。この計画の目
的は、高年齢者の雇用価値を高め、雇用機会を増やすことである。高年齢者の
賃金補給制度 (Kombilohn) の拡張といくつかの調整により高年齢者の労働市
場への参加の見通しを改善することができる。賃金補給制度では高年齢者がよ
り少ない賃金の仕事に移る場合、その賃金の差が補われ、雇用者には融和補助
金が支払われ、CVET(Continuing Vocational Education and Training:継
続方式職業教育訓練)の援助も受けられる。雇用者がより多くの高年齢者を雇
用するように地域法律に従いながら、52 歳以上の被雇用者との有期契約を永続
的により締結しやすくした。現在ドイツには合計 194 の共同体 (Arbeitsgemei
nschaften, ARGEn) 及び地方自治体が参加する 62 の地域計画が援助されてい
る。2006 年と 2007 年に雇用協定の援助のために連邦政府が 2 億 5,000 万ユー
ロを出資した。
*出典:連邦労働社会省 <http://www.bmas.de> accessed on 30 August 2008.
ReferNet/ BIBB 2008, National ReferNet report on progress in the policy areas for Vocational
Education and Training, Draft Version <http://www.bibb.de> accessed on 30 August 2008.
2.1.5
職種別技能労働者数
技能別のデータはないが、社会保険加入者を対象とした職種別労働者数を表 2-4
に示す。
表 2-4
職種別労働者数(社会保険加入者)(2007 年 6 月 30 日現在)
業
種
総
性
女
性
280,827
115,587
32,589
31,921
668
7,279,225
6,084,508
1,194,717
524,015
490,329
33,686
1,775,876
1,683,269
92,607
電気技師
644,519
606,268
38,251
食品関連
704,748
401,383
303,365
建築関連
610,887
604,000
6,887
1,848,801
1,528,391
320,410
鉱業
製造業
金属加工業者
組立工、機械工
工業
サ―ビス業
うち
男
396,414
農水畜産業
うち
数
16,970,859
6,648,509 10,322,350
営業販売員
2,113,231
747,888
1,365,343
運輸・運送関連
2,004,744
1,662,589
342,155
公務員、事務職
5,824,395
2,115,992
3,708,403
健康関連
1,983,366
310,876
1,672,490
326,678
195,686
130,992
その他
6
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
業
種
合
計
総
数
男
性
女
性
26,854,566 14,769,842 12,084,724
(注) Classification of Occupations, Federal Statistical Office, Edition 1988 使用
*出典:Federal Statistical Office,“Employment Structural data on employees subject to social
insurance contributions at the place of their employment on 30 June 2007”,
<http://www.destatis.de/jetspeed/portal/cms/Sites/destatis/Internet/EN/Content/Statistics/Arbeitsma
rkt/Sozialversicherungspflichtige/Tabellen/Content75/Berufsbereiche,templateId=renderPrint.psml>,
accessed on 30 August, 2008.
2.2
賃金
2.2.1
法定最低賃金の最近の動向
ドイツはほかの EU 諸国と違って 2007 年末までは最低賃金法は施行されていな
かった。しかし最低賃金に関する議論がここ 2 年続いたため、政府には圧力が
かかっていた。2008 年 6 月に「労働者派遣法」 (A Ent G) の改正案が通過し、
その法律では被雇用者の 50%以下が協約で決められた賃金を支払われている分
野に最低賃金制度を導入することが許可されている。ドイツでは法定最低賃金
の規定は、建築工事、屋根工事、解体工事、ペンキ・ニス塗装及び郵便配達の
分野だけに適用されている。全国の屋根工事業界の被雇用者の最低賃金は、お
よそ 10 ユーロ1である。東ドイツではそれ以外の分野の最低賃金は、非熟練ペン
キ・ニス塗装工の 7.15 ユーロから建築工事の非熟練労働者の 8.90 ユーロまでで
ある。一方、西ドイツではペンキ・ニス塗装工の 7.85 ユーロから建築工事の 1
0.30 ユーロまでである。熟練労働者の場合、ペンキ・ニス塗装工は東ドイツで
は 9.37 ユーロで、西ドイツでは 10.73 ユーロであり、建築工事は東ドイツでは
9.80 ユーロで、西ドイツでは 12.40 ユーロである。現在の職種別最低賃金は表 2
-5 のとおりである。
表 2-5
職種別最低賃金(2008 年 4 月)(単位:ユーロ)
職種
西ドイツ、ベルリン
時間給
10.40∼12.50
9.00∼9.80
8.05∼11.05
7.50∼9.65
電気技師
9.40
7.90
室内洗浄
8.15
6.58
設備管理
10.80
8.17
郵便配達
9.80
9.00
建築工事
ペンキ・ニス塗装
1
東ドイツ
1 ユーロ=159.65 円(2008 年 8 月 29 日現在)
7
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
職種
西ドイツ、ベルリン
東ドイツ
時間給
屋根工事
10.20
10.20
解体工事
11.96
10.16
*出典:連邦統計局 “最低賃金” <http://www.destatis.de/jetspeed/portal/cms/Sites/destatis/Internet
/EN/Content/Statistics/VerdiensteArbeitskosten/Tarifverdienste/Mindestloehne/Tabellen/Content50/
TariflohneDeutschland,templateId=renderPrint.psml> accessed on 30 August 2008.
Posting of Workers: Information on the implementation of the Act on the posting of workers
(AEntG) <http://www.zoll.de/english_version/index.html> accessed on 30 August 2008.
2.2.2
賃金もしくは給与の実態調査結果
上述のような最低賃金以外、ほとんどの被雇用者の賃金は依然として雇用者及
び雇用者連盟と労働組合の間の交渉で取り決められる。こうして締結された団
体協約の結果の詳細な情報は次より入手可能である。
・
WSI のウェブサイト <www.tarifvertrag.de>
・
団体協約に関する政策等を分析した報告書「WSI-Tarifhandbuch」
1995∼2005 年のドイツ実質賃金の伸び率は 1∼2%と非常に低く、EU 拡大前の
加盟国 15 カ国が平均 7.4%であったのに比べ、EU 加盟国の中では最低であっ
た。2006 年の第 1 四半期には賃金が下がり、夏のストライキで状況は変わった
が、全体として賃金状況は低調に終わっている。2006 年後半に団体協約で合意
された非熟練労働者の最低賃金支払額は時給 5 ユーロであった。
チューリンゲン州では警備員の賃金は 4.38 ユーロと合意された。ノルトライ
ン・ヴェストファーレン州ではホテル・レストラン業の最低賃金は約 5.25 ユー
ロであった。その他の州と地域の団体協約で合意された最低賃金支払額も法定
最低賃金として提案されている 7.50 ユーロを下回っている。例として、ヘッセ
ン州のビル警備員の賃金は夜間勤務の場合は 5.78 ユーロで、昼間勤務の場合は
6.72 ユーロである。ザクセン州のホテル・レストラン業での最低賃金は 6.29 ユ
ーロである。小売業の非熟練労働者の賃金は、ニーダーザクセン州では 6.56 ユ
ーロで、メックレンブルク・フォアポメルン州では 7.06 ユーロである。ザクセ
ン州では熟練美容師の入社 1 年目の賃金は 3.82 ユーロで、最大 10 人の部下を
管理する美容院の店長は 5.96 ユーロである。ブレーメン市では熟練美容師の入
社 1 年目の最低賃金は 6.28 ユーロである。ザクセン州では熟練料理人及びホテ
ル係員の賃金は 7.47 ユーロであり、ノルトライン・ヴェストファーレン州では
ウェイター及びウェイトレスの賃金は 8.44 ユーロである。
8
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
表 2-6
産
業種別フルタイム労働者の収入(2007 年)
週労働時間
業
時間当たり
時間
月当たり
ユーロ
生産産業
38.5
20.91
3,497
鋼業、採石業
40.4
19.82
3,482
製造業
38.4
21.53
3,592
電力、ガス、水道
38.1
26.83
4,444
建設業
39.1
15.88
2,696
サービス業
39.1
19.15
3,251
小売・卸売業
39.1
18.29
3,106
ホテル・レストラン
39.3
11.44
1,954
輸送、倉庫、通信業
40.1
16.76
2,923
クレジット・保険業
38.5
27.98
4,685
不動産業
38.8
20.21
3,410
教育
38.6
19.28
3,232
医療
38.9
18.61
3,131
その他の公共サービス
39.2
18.49
3,146
*出典:連邦統計局 <http://www.destatis.de/jetspeed/portal/cms/Sites/destatis/Internet/EN/Content/
Statistics/VerdiensteArbeitskosten/Bruttoverdienste/Tabellen/Tabellenuebersicht,templateId=render
Print.psml> accessed on 30 August 2008.
産業とサービス業におけるフルタイム労働者の 2008 年第 1 四半期の月当たり平
均総収入は 3,057 ユーロであり、2007 年第 1 四半期より 2.5%上昇した。表 2-7
を分析すると、西ドイツのフルタイム被雇用者の月当たり平均総収入は 3,174
ユーロで、東ドイツの被雇用者の 2,320 ユーロと比べ 36%上回っている。男性
の月当たり平均総収入は 3,259 ユーロで、女性の 2,570 ユーロと比べると大き
く上回っている。
表 2-7
2008 年第 1 四半期のフルタイム被雇用者の収入
総収入
項目
(ボーナスなし)
ユーロ
前年比
%
ドイツ全国
3,057
2.5
西ドイツ
3,174
2.5
東ドイツ
2,320
3.1
9
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
総収入
項目
(ボーナスなし)
ユーロ
前年比
%
男
性
3,259
2.6
女
性
2,570
2.3
*出典:連邦統計局 <http://www.destatis.de/jetspeed/portal/cms/Sites/destatis/Internet/EN/Content/
Statistics/VerdiensteArbeitskosten/Bruttoverdienste/Tabellen/Tabellenuebersicht,templateId=render
Print.psml> accessed on 30 August 2008.
2.3
労働時間の現状
2007 年の団体協約による交渉で決められた週当たりの平均労働時間は、フルタイム
労働者で約 38.3 時間であり、2008 年の第 1 四半期も同じく約 38.3 時間である。し
かし、業種ごとで独自に決められるため、産業及び職種によって若干の違いがある。
また、1 日又は週当たりに残業時間も含めてどれだけの労働時間を割り当てるか等
も労使の合意によって決められる。
ドイツでは従来どおりの週 38∼40 時間が通常の労働時間とされているが、多くの
雇用主が柔軟な勤務スケジュールを認めており、労働者は自由に始業及び終業時間
を決めることができる。ただし、一定期間内に決められた時間数は働かなくてはな
らず、1 日のうちでも「コアタイム」とされる時間は職場で仕事をしていなくては
ならない。こうしたフレックスタイム制度、シフト制、土曜勤務及び残業等につい
ても、労使の取り決めにより決定される事項に含まれる。
ドイツの年間の総労働時間数は 2006 年から上昇傾向にある。前述のとおり、2008
年のフルタイム労働者の週当たりの平均労働時間は約 38.3 時間である。一方、パー
トタイム労働者の週当たりの平均労働時間は 14.38 時間である。また、病気休暇率
は 3.2%に落ちている。2008 年始めの経済情勢が悪化するに伴い、パートタイム労
働者数は 2008 年に年間平均 9 万 3,300 人まで上昇すると推定されている。
パートタイム労働は、仕事量の変化に対し雇用主が迅速に対処できる労働形態であ
り、競争力を上げるためにもパートタイム労働の必要性はさらに増加している。ま
た、家族、友人、趣味、ボランティア活動等の社会貢献等により多くの時間を使い
たいと考える労働者も多く、雇用主がパートタイム労働を採用することにより、労
働者を満足させるだけでなく、労働意欲の向上にも役立てることができる。より高
い労働意欲は、生産性向上、仕事の質の向上につながるため、企業にも利点がある
と考えられる。
パートタイム労働者は 2008 年に 1.5%増加した。これは“ミニジョブ”2と呼ばれ
るパートタイム労働及び“1 ユーロジョブ”3という社会関係の仕事の増加が関係し
2
3
2003 年にドイツで施行された MINIJOB 制度では、月収 400 ユーロ、週の労働時間 15 時間以内であ
れば税金と社会保険料の支払いが免除される。
2005 年に始まった政策で、失業保険給付者に与えられる公共性の高い仕事。通常、失業保険給付額に
1ユーロを加えて支払われるため、こう呼ばれている。
10
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
ている。現在、全就業者の 3 分の 1 (33.8%) がパートタイムで働いている。
表 2-8
項
目
平均労働時間数(2005∼08 年)
単位
総労働者数
2005 年
千人
2006 年
2007 年
2008 年*注
34,490
34,696
35,291
35,530
パートタイム労働者
%
32.6
33.3
33.5
33.8
公式休暇日数
日
30.9
30.9
30,9
30.9
有効労働日
日
213.6
211.9
211,3
213.8
時間
38.21
38.28
38,29
38.3
フルタイム標準週労働時間
(注)2008 年のデータは雇用調査研究所の予測に基づいている。
*出典:雇用調査研究所 (IAB Kurzbericht) <http://www.iab.de> accessed on 30 August 2008.
2.4
労使関係の現状
ドイツ憲法では、雇用条件について交渉し、決定を行う団体交渉の権利を保証して
いる。特に憲法第 9 条 3 項では労働及び雇用条件を守り改善するための組合の結成
又は結社の自由を認めている。ここでは明確な記述があるわけではないが、判例及
び広く使われている法的解釈により組合結成又は結社の自由には自律的な団体協
約締結の権利も含まれるとされる。さらに、組合活動及びストライキ権が認められ
ている。
労使関係において労働組合と雇用者あるいは雇用者団体が主となり、産業、部門ご
とに労働組合が結成される。個々の組合が属する上部組織にはドイツ労働総同盟
(DGB) があり、現在 8 つの産業別労働組合組織で構成されている。組合数は組合同
士の合併により減少傾向にある。2001 年には ÖTV(公共勤務・運輸・交通)、DPG
(郵便労働組合)、HBV(商業・銀行・保険労働組合)、IG(メディア)、DAG(ド
イツ被雇用者組合)が合併されて「ver.di」という IG Metall 組合に並ぶ大規模な
新しいサービス組合同盟を造った。2007 年 12 月 31 日時点のドイツ労働総同盟組
織は表 2-9 のとおりである。
表 2-9
ドイツ労働総同盟のメンバー組合
(2007 年 12 月 31 日現在)(単位:%)
組合名
割合
建設・農業・環境労働組合
鉱山・化学・エネルギー労働組合
5.5
11.1
3.9
教育・化学労働組合
35.8
金属工労働組合
食品・飲料・ケータリング労働組合
11
3.2
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
組合名
割合
警察官労働組合
2.6
トランスネット鉄道労働組合
3.8
合同サービス産業労働組合
合
34.1
100.0
計
*出典:ドイツ労働総同盟 <http://www.dgb.de/dgb/mitgliederzahlen> accessed on 30 August 2008.
雇用者団体は労働組合と平行して組織され、団体協約を含む労働社会政策分野を統
括する上部組織として、ドイツ使用者団体連盟 (BDA) があり、Gesamtmetall と
いう金属細工組合、民間銀行の雇用者連盟等 40 以上の雇用者連合会がこれに所属
しており、組織率は 40∼45%である。団体交渉の方針の決定に関して重要な点は、
被雇用者両組織の総括組織の DGB 及び BDA ではなく、業界別の労働組合と雇用者
同盟が決定することである。
個々の具体的な交渉は、DGB を構成する関係労働組合が雇用者、その連合側と賃
金、労働時間、休日等について団体交渉事項の折衝を行う。交渉が決裂し、労働争
議となった場合には、ストライキを組織し、組合員への賃金代替の支払を行う。
最近のデータによれば、2006 年には約 35%の企業が依然として団体交渉の取り決
めに関し法的に拘束されているが、その内訳は、西ドイツでは 38%(被雇用者の
59%)で、東ドイツで 19%(被雇用者の 42%)となっている。さらに、全国の企
業の 37%(被雇用者の 48%)は団体協約の取り決めにおおむね従っていると答え
ている。これらの数字は 1990 年代を通じて着実に低下した。このデータを見れば、
東ドイツでは産業レベルの交渉は完全に崩壊しており、西ドイツでも崩壊の過程に
ある。
*出典:ドイツ労働総同盟 <http://www.dgb.de/sprachen/englisch/dgb.htm> accessed on 30 August
2008.
2.4.1
労働組合の現状
労働組合は相互に協力体制をとることで合意し、いくつかの組合では合併が行
われ、今後も数年間で組合数が減少するものと思われる。また、組合員数の増
加は、基本的に雇用数の増加が大きく関係している。
12
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
表 2-10
DGB に属する労働組合と組合員数(2007 年 12 月 31 日時点)
男
組
性
女
性
合
計
合
人
%
人
%
人
%
290,791
82.7
60,932
17.3
351,723
5.5
576,155
80.8
137,098
19.2
713,253
11.1
76,748
30.8
172,045
69.2
248,793
3.9
1,892,814
82.1
413,469
17.9
2,306,283
35.8
125,179
60.2
82,768
39.8
207,947
3.2
警察官
132,278
78.5
36,155
21.5
168,433
2.6
交通運輸
188,620
78.8
50,848
21.2
239,468
3.7
合同サービス産業
1,105,088
50.1
1.100,057
49.9
2,205,145
34.2
DGB 合計
4,387,673
(平均)68.1
2,053,372
(平均)31.9
6,441,045
100.0
3,797,597
67.9
1,793,849
32.1
5,591,446
86.8
公務員
317,293
67.0
156,010
33.0
473,303
7.3
その他*注
272,783
72.5
103,513
27.5
376,296
5.8
4,387,673
(平均)68.1
2,053,372
(平均)31.9
6,441,045
100.0
建設、農業、環境
鉱山、化学、
エネルギー
教育、科学
金属細工
食品、飲料、
ケータリング
ブルーカラー及び
ホワイトカラー
DGB 合計
*注:ブルーカラー、ホワイトカラー及び公務員でもない労働者のこと。
*出典:ドイツ労働総同盟 (DGB) <http://www.dgb.de/dgb/mitgliederzahlen> accessed on 30 August
2008.
(1)
組合組織率
ドイツ経済研究所 (IDW:Deutsche Institut für Wirtschaftsforschung)
が行った 2006 年の調査によれば、賃金・給与労働者の 17.5%が組合員で
あるが、2004 年の 20.5%、2002 年の 23.0%に比べ組合組織率が減少して
いる。1989 年のドイツ統一後、労働組合の組合員数は何百万人も減少して
いる。表 2-11 は全就業者に対する組合員組織率である。2006 年の東ドイ
ツの組合員比率(19.1%)は西ドイツ(17.1%)を上回っており、2004 年
のデータ(東ドイツ 17.8%、西ドイツ 21.2%)とは対照的である。これは
組合員比率の減少を示す 1 つの指標であるが、特に 2004∼06 年の西ドイ
ツで減少傾向が顕著である。またフルタイム労働者の方がパートタイム労
働者より組合員組織率が高く、2006 年の西ドイツではフルタイム労働者が
19.4%でパートタイム労働者が 8.7%となっている。
13
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
表 2-11
全就業者に対する組合組織率(2002∼06 年)(単位:%)
項
2002 年
目
2004 年
2006 年
23.0
21.2
17.1
男性
25.3
25.8
22.3
女性
19.8
15.0
11.1
フルタイム
24.5
22.5
19.4
パートタイム
14.0
15.5
8.7
20.2
17.8
19.1
男性
22.3
16.3
-
女性
17.5
19.6
-
フルタイム
20.7
17.2
-
全組合員(西ドイツ)
全組合員(東ドイツ)
*出典:Institut der deutschen Wirtschaft Koln <http://www.iwkoeln.de/> accessed on 30 August
2008.
組合員組織率を年齢別、雇用形態別に表したデータで現在入手可能なもの
は 2004 年のもののみである。
表 2-14
西ドイツ・東ドイツの年齢別組合員組織率
(2004 年)(単位:%)
年齢
西ドイツ
東ドイツ
18∼30 歳
15.3
12.3
31∼40 歳
21.5
18.3
41∼50 歳
30.1
22.8
51 歳以上
23.4
19.2
23.1
18.8
平
均
*出典:Institut der deutschen Wirtschaft Koln <http://www.iwkoeln.de/> accessed on 30 August
2008.
表 2-15 で示されているとおり、2004 年に賃金労働者での組織率が 31%、
給与労働者が 15.3%であるのに対し、公務員では約 39.8%となっている。
2004 年の数値では単純業務の公務員が最高の組合員比率を示しているの
に対し、賃金・給与労働者では資格保有労働者のほうが比率が高い。年齢
別では、41∼50 歳での組合員比率が最も高く、
(西ドイツ 30.1%、東ドイ
ツ 22.8%)、18∼30 歳では西ドイツ 15.3%,東ドイツ 12.3%にとどまって
いる。
14
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
表 2-15
雇用形態別組合員組織率(2004 年)(単位:%)
雇用形態
組織率
39.8
公務員
- 公務員(単純業務クラス)
52.9
- 公務員(業務クラス)
42.9
- 公務員(管理監督職)
38.8
- 公務員(上級職)
34.9
15.3
給与労働者
- 単純業務給与労働者
10.7
- 複雑業務給与労働者
16.4
- 独立業務給与所得者
16.3
- 管理職給与労働者
10.8
31.0
賃金労働者
- 非熟練労働者
22.1
- 半熟労働者
23.4
- 熟練労働者
34.7
- 雇用主、現場監督
37.7
*出典:Institut der deutschen Wirtschaft Koln <http://www.iwkoeln.de/> accessed on 30 August
2008.
(2)
企業内労働者代表制
企業内労働者代表制は、
「経営組織法」に基づいている。この法律では企業
とは、企業家が単独で又は従業員とともに事業の目的を達成しようとする
一団と定義される。5 人以上の労働者を常時雇用している企業の労働者は、
任期を 4 年として労働協議会を設置できる(第 21 章)。実際には、労働協
議会の設置は大・中企業で多くみられ、小企業ではほとんどみられない。
1999 年には、労働者 1,000 人以上の企業の 97.5%で労働協議会が組織さ
れ、5∼20 人規模の企業ではわずか 4.2%であった。
(3)
経営共同決定制度
労働者は、労働協議会とは別に経営共同決定制度が認められている。これ
が認められるのは、企業形態が株式会社 (AG) 、株式合資会社 (KGaA) 、
有限責任会社 (GmbH) 及び商業協同組合等の法人格の場合である。また、
労働者の代表が企業の監査役会のメンバーに入ることで共同決定が確保で
きる。株主の代表も参加するこの監査役会は企業の経営を監督するが、監
査役会の影響力は各企業の法的特徴によって異なる。
監査役会で雇用主がどの程度の影響力が持てるのかは 1) 石炭鉄鋼産業共
15
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
同決定法、2) 石炭鉄鋼産業共同決定法の改正法、3) 1952 年営組織法、4)
1976 年共同決定法で規定されている。これらの法律の範囲と規定内容は異
なっているが、いずれも労働者代表の監査役会における限定的な議決権を
認めている。ある企業が複合企業体の一企業であり、共同決定が法律で強
制されていない企業がその複合企業体を主導していても、被雇用者の共同
決定権は保護される。
*出典:国際労働機関 (ILO), National Labour Law Profile: Federal Republic of Germany <http://
www.ilo.org/public/english/dialogue/ifpdial/info/national/ger.htm> accessed on 30 August 2008.
2.4.2
労働争議の現状
2006 年にはドイツで 3 件の大規模なストライキがあった。しかし、この事実が
ドイツの労働実態を表している訳ではなく、一般的に他国(特に欧州諸国)と
比べても公式統計で分かるとおり、ドイツはストライキの発生が少ない国であ
る。1996∼2005 年で、ストライキで失われた千人当たりの年間労働日数は 2.4
日であり、スペインの 145 日、イタリアの 86.8 日に比べればかなり少ない。2006
年の 16 万 9,000 人のストライキ参加者と 42 万 9,000 日のストライキ日数は
1993 年以来最も高い数値である。2007 年にはドイツでストライキ参加者数とス
トライキ日数は減少したが、それでも 2005 年以前の数値よりも著しく高いもの
となっている。
表 2-16
年
労働争議データ(2005∼07 年)
ストライキ参加者数
ストライキ日数
(人)
(日)
企業数
2007 年
106,483
286,368
542
2006 年
168,723
428,739
545
2005 年
17,097
16,633
270
*出典:連邦雇用局(BA) Zeitreihe Streiks und Aussperrungen, <http://www.pub.arbeitsamt.de/>
accessed on 30 August 2008.
2.5
募集、採用、雇用、解雇の現状
(1)
募集、採用
職業紹介所は就職斡旋の手続きとして、プロファイリングと呼ばれる訓練ある
いは、求職者の能力、就職の可能性についての分析から始める。プロファイリ
ングは、求職者とその職業に求められている資質、候補者に求められる努力に
ついての合意がなされた後に作成される。就職斡旋サービスを提供するのは雇
用局だけでなく、民間の職業紹介所も雇用局から委託を得られれば斡旋業務を
行うことが可能である。
職業紹介所には顧客センターが設置され、より顧客の要望に合った訓練及び就
16
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
職斡旋を行うことを目的としている。顧客センターはサービスセンター、受付、
顧客エリアに分かれており、受付では通常の手続きが行われ、書類の記入、担
当部署へ書類の回覧をする。サービスセンターでは職員が電話での質問に答え、
斡旋担当者に直接尋ねたいことがある求職者は、誰でもサービスセンターで面
談の予約ができる。また、予約をすることで職員も準備ができ、待ち時間の減
少につながる。
いくつかの条件を満たした求職者は職業紹介クーポンを与えられ、このクーポ
ンを使って自分で選んだ民間職業紹介所で就職活動を開始できるが、この費用
は雇用局又は社会基礎年金供益機関の負担となる。それ以外の求職者はすべて
自己負担である。就職できた場合に民間職業紹介所へ支払われる手数料は、法
的には 2,000 ユーロが最高限度とされる。
職業紹介所では、就職斡旋だけでなく労働市場の需給に合った斡旋手続きが行
えるようアドバイスも提供している。こうしたサービスは、職業アドバイス、
職業オリエンテーション、労働市場アドバイス等と呼ばれ、若年者、成人だけ
でなく労働者も対象に行われている。職業アドバイスは若年者、成人を対象と
している。このサービスでは情報を提供し、どのような職業を選んだらよいか、
そのためにはどんな資格が必要か、最近の職場や労働市場の傾向、訓練及び仕
事をどのように探せばいいのか等について助言を与える。また、仕事と訓練の
候補者をより早く見つけるように労働市場に関しての助言が労働者を対象に
提供される。同時に労働条件、労働時間、企業内基礎訓練及び向上訓練、実習
生と従業員の組み合わせ等についてもアドバイスを行う。
*出典:連邦労働社会省 <http://www.bmas.bund.de/Englisch/Navigation/Labour-market/advice-orien
tation-and-placement,did=144240.html> accessed on 30 August 2008.
(2)
雇用及び解雇
スペイン、オランダと同様に、ドイツは 1980 年代中頃までは拘束力を持つ雇
用保護行政策を実施していた。その後、固定期間雇用及び臨時雇用斡旋機関へ
の制限等がいくつかの段階を経て廃止され、団体協約上の賃金及び労働条件以
外においては、臨時労働者と終身雇用労働者とが平等な扱いを受けるという原
則が掲げられた。最近の改正では臨時雇用斡旋機関への制限条項がほとんどす
べて廃止された。
解雇は、解雇防止を目的とする PADA(Protection Against Dismissal Act:
解雇保護法)の条項に準拠して行われなければならないとされる。同法第 23
条の規定により、PADA の適用はフルタイムの終身雇用者(職業訓練生は含
まず)が 11 人以上の場合で、5 人以下の機関には適用されず、また 6 人以上
10 人以下の場合は部分的に適用される。週労働時間 30 時間以下のパートタイ
ム労働者は 0.75 人、また 20 時間以下は 0.5 人として人数に加えることができ
る。同法第 1 条により、雇用期間が半年以内の者には雇用保護法は適用され
ない。同法第 1 条により解雇通告が社会的に正当化され、法的にも有効とさ
れるのは以下の理由による解雇の場合である。どの場合でも証明責任は雇用者
17
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
にある。
(a)
個人の能力及び適性の欠如
従業員個人の能力及び適性が欠如しているという理由による解雇で、雇
用主側の主張の正当性が認められるには、本人の能力、業務適性が欠落
し、改善の見込みがないこと、組織に与える影響の大きさ等についての
事実証明が求められ、解雇による雇用主と従業員の利害の程度が解雇可
否を左右することになる。こうした解雇の例としては、長期の病欠、頻
繁な病欠があるが、解雇はあくまでも最後の手段であり、雇用主の責任
能力及び良識のある視点で判断されるべきである。
(b)
不正行為
従業員の不正行為による解雇とは、契約義務事項の違反、雇用関係に否
定的な影響ある事柄、雇用継続の見込みがない等の理由によるもので、
(a) と同様に両者の利害の程度が解雇適否の決め手となる。また、不正
行為があった場合は 2 週間以内に警告文が発せられなければならない。
ただし、当該労働者の改善実施が適当でない場合、企業秘密の漏洩、犯
罪行為等の雇用主にとって堪えがたい事態の場合は除く。しかし、一般
的には、不正行為があった場合ではなく、当該従業員の業務成績が非常
に悪い場合に警告文が発せられることが多い。
(c)
操業上の緊急的事情
企業の倒産、経済的理由、合理化等による解雇は、一部の法的判断に従
うこととされる。企業の決定自体は法廷では考慮されず、法的判断基準
は、その緊急性と当該職が不要とされるかどうかによる。また PADA 第
1 条 3 項で、解雇者選定において、従業員の雇用期間、年齢、扶養家族、
身体障害について考慮することを義務づけている。企業の継続に必要不
可欠な人材はこの解雇者選定から排除される。雇用主がこの条項を遵守
できない場合には、その証明責任を有する。
*出典:国際労働機関(ILO) “Social Dialogue, Labour Law and Labour administration” <http://
www.ilo.org/public/english/dialogue/ifpdial/info/termination/countries/germany.htm> accessed on 3
0 August 2008.
2.6
転職の現状
ドイツは長期雇用が根づいている国である。厳格な国内労働市場が存在し、労働者
が同じ企業で 10 年、20 年と長く勤務することを希望しているという背景もあり、
この状況はこの数十年変わっていない。
表 2-17
企業内被雇用者数と雇用期間(公務員を含む)(単位:%)
勤続年数
2 年以内
西ドイツ
21.6
18
東ドイツ
30.0
計
23.1
国名:ドイツ (調査大項目 2:雇用労働事情)
作成年月日:2008 年 8 月 30 日
3∼5 年
16.0
19.4
16.7
6∼9 年
18.5
25.3
19.9
10∼15 年
16.1
7.7
14.5
16∼20 年
9.8
5.1
9.0
20 年以上
18.0
12.5
16.0
合
100.0
100.0
100.0
24,174 人
5,749 人
29,923 人
11.53 年
8.90 年
11.03 年
計
合計人数
平均勤務年数
*出典:Friedrich-Schiller-Universitat Jena <http://www.uni-jena.de> accessed on 30 August.
一方、国外労働市場については、労働者派遣機関の数も増加しつつあり、社会的評
価も高まっている。雇用研究所 (IAB) 等のデータによれば、サービス産業でもあ
る程度派遣労働者は普及しているが、大手製造業での低熟練職での利用が依然とし
て最も多く、例外はあるが一般に補助的作業に限られている。また解雇、雇用期間、
職場代表制及び報酬等の観点から見れば派遣雇用は普通の雇用形態より不安定で
ある。
こうした労働者派遣業務は、1972 年に施行された労働者派遣法 (AentG) で規定さ
れ、2003 年の改訂以来、労働者派遣機関は派遣期間の制限を受けずに派遣労働者を
選任することが認められている。なお、それまでの同時雇用禁止及び再雇用禁止は
廃止されている。しかし有期労働契約は、依然としてパートタイム労働・有期労働
契約法の規定によって規制されている。また、派遣労働者の権利は強化され、労働
初日から同等処遇の原則適用が義務とされる。しかし、この適用は派遣労働者がそ
れまで失業状態にあった場合には、その報酬について 6 週間までは同等処遇の原則
が免除される。その場合は、派遣労働者に対して、直近の失業手当と同等の支払を
することが認められている。また、団体協約の取り決めによっては契約当事者が同
等処遇を適用しないことにする場合もある。そのため、2003 年には派遣労働におい
て多数の団体協約が締結された結果、同等処遇の原則義務はほとんどの派遣労働者
に適用されなくなった。
*出典:Antoni, Manfred/Jahn, Elke J.” Do changes in regulation affect employment duration i
n temporary work agencies?” IAB Discussion Paper, No. 18/2006,<http://ideas.repec.org/p/iab/iab
dpa/200618.html> accessed on 30 August 2008.
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作成年月日:2008 年 8 月 30 日
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