106号

JAPAN SEMICONDUCTOR TECHNOLOGY FORUM LETTER 通刊106号
第19期第4回例会報告
2003 年 1 月 16日/後楽園会館
本音で語る半導体技術戦略
1月 16 日(木)午後 1時より後楽園会館において、第 19期第
4 回 JST フォーラムが『2003 年の半導体技術戦略を語る』と題
して、会員会社から 52 名の参加者を得て開催された。
冒頭、JST フォーラム顧問の井川彪氏(NTTエレクトロニクス㈱
顧問)より開会の辞が述べられた。日本の半導体産業はこの数
年厳しい状況におかれている。しかし、ようやく立ち直りかけ
ると思われる製品分野ではデジカメ、カーナビ、DVD、ゲーム
ている。今年、国内大手デバイスメーカは 90nm の製品を世界
といった日本のシェアの高いものが多い。力を集中すれば日
に先駆けて出そうとしている。65nm でも先行している。近々、 本の復権は可能である。③半導体再建を目指して:国家レベル
日本の技術的成果が多数発表されることになると思う。昨年
では、●半導体は 21 世紀知識産業ベースの最重要基盤である
のノーベル賞のダブル受賞も日本の技術力の高さを示すもの
ことの認識の共有●過去の成功体験を捨て、再出発する気構
であり、日本の技術者は大きな自信を得た。半導体技術立国
えの共有●社会・経済・教育システムの抜本的見直し●「空白
を目指している私たちの今回の議論が、デバイス、装置、材料
の 15 年」を埋める強力な施策の推進●地方政府による「ハイ
の垣根を越えて技術戦略の根幹に迫り、日本の半導体の半導
テク都市興し」の推進、がある。また、企業レベルでは、●横
体産業の発展につながれば幸いである、と述べた。
並び発想を廃する●垂直構造を見直し分業化のメリットを生
かす●大企業の一部門としてのマネジメント構造の見直し●
講演に先立ち、今回のフォーラムの座長である牧本次生氏(ソニー
川上・川下産業との連携、相乗効果を実現する● SoC と SiP
㈱顧問)よりオープニングスピーチが行われた。同氏は、
『わが国半
について、
マクロの観点より言及した。
導体産業の競争力強化』
を車の両輪として推進する、などの必要があると述べた。
第19期第4回プログラム
①半導体不況の傷あと:落ち込みの激しかった 02 年 3 月期の
大手電機メーカの営業赤字のほとんどを半導体の損益が占め
● 開会の辞 井川 彪氏
ている。これまでにも半導体の大きな不況は 4 回あったが、今
● オープニング・スピーチ 回は予測と実績の乖離量が 3810 億㌦(積分値)と際立ってい
● プレゼンテーション
『競争優位実現のためのキイテクノロジー開発』
る。昨年から今年にかけて業界再編の動きが出てきた。②マー
廣瀬 全孝氏
ケットの動向:90 年代を通じて一番大きなマーケットドライ
『生産技術で勝つ ― トレセンティからの
バーはパソコンであった。しかし、現在、デジタルコンシュー
マーといった新しいマーケットが立ち上がりつつある。アナロ
グ TV 放送も BS が 07 年、地上波が 11 年に終わることからも、
この 10 年の間に大きな AD コンバージョンが起こり、半導体
● パネル討論(座長:牧本 次生氏)
優位技術を用いたモデルの提案』
産業に大きなインパクトを与える。今後 10 年間で半導体の進
『重要アプリケーションとキー技術』
歩は、集積度で 2 桁上がり、インテリジェンスで 100 倍になる。
その時、何に半導体を使えるかといえば、最有力候補はロボッ
桜井 貴康氏
川手 啓一氏
『設計から見た差別化技術』
川本 洋氏
シェアはこの 10 年余で急落した。今日の日本の将来への危惧
は、この落差の大きさに起因している。しかし、今後、成長す
小池 淳義氏
『ASPLAスキームをいかに発展させるか』
トである。パソコンもキーボードは時代遅れとなり、すべて
ロボットに内蔵されることになるだろう。日本のマーケット
牧本 次生氏
● 総括 牧本 次生氏
世界をリードする技術開発で
市場創造と新事業モデルを
顧 問
井川 彪氏
まず、廣瀬全孝氏(独立行政法人産業技術総合研究所次世代
半導体研究センター研究センター長)が基調講演1『競争優位
実現のためのキイテクノロジー開発』を行った。日本が技術の
リーダーシップを取るには①日本発の技術による新市場創出
力②世界市場で標準となるコア技術力③次世代を担う人材と
研究開発力、が必要である。また、事業レベルでは①世界市場
を牽引する事業領域でのトップランクシェア②新たな事業モ
デルの提案と世界水準の収益力の実現③技術、製品での未来
の主役交代(破壊的イノベーション)に対する適応力、予見能
力が重要になる。高誘電率の絶縁膜材料は、ロースタンバイ
パワー LSI で要求される低ゲートリーク電流をクリアするこ
とを技術目標としている。High-k のゲート絶縁膜は、HfO2 に
フォーカスして成膜技術を開発している。Low-k はk値 1.5 を
座 長
達成するために、材料強度、微細孔の分布を測定する技術及び
牧本 次生氏
その標準化、バリア層の設計、弱い材料に対する CMP 技術開
発などを行っている。Low-k の有望材料としては、機械強度
と低誘電率を両立できる無機のシリカ系材料が挙げられる。
45nm ノードもターゲットにしており、SOI 構造をもった歪み
必要である。①シングルウェハ:製造ラインの生産性を上げる
シリコ ントランジ スタも検証し ている。リソグラフ ィーの
には、枚葉式装置は処理速度を上げ、バッチ式装置は一括処理
45nm 以降の 候補とし ては EUV を取 り上げて いる。300mm
の枚数を増やすことが求められる。一般の工場ではバッチ:シ
ウェハ上で高スループットで計測できるといった計測機器、
ングルの比率は4:6 程度であるがすべてをシングルでやるとス
レーザー光源の開発といったことも同時に行っている。回路
ピードは約 4 割早くなり、13 枚を 1 単位として流すとさらに
については回路の不具合をソフトウエアを用いて検査段階で
2 割速くなる。ただし、工場のウェハ搬送能力を 2 倍以上にす
調整する方向で考えており、2 秒で 1000 を超えるパラメータ
る必要がある② 300mm:ウェハ枚数がサイクルタイムに比例
の調整を行う。規制緩和についてはロビー活動のできる圧力
する。サイクルタイムとしては、シングルウェハの工場を造
団体としての日本半導体工業会を早急に発足させ、政策提言
ることで半分以上、300mm にすることでさらに半分以上、都
のできる強力な責任者集団が必要である。また、大学の持つ
合 1/4 程度に速くすることができるはずである。過去の大口径
膨大な知的資産を有効活用すべきである、と述べた。
化では歩留りが問題になったが、300mm のほうが良い歩留り
競争優位を実現する「スピード」
が得られている③スケーラブルファブ:物を生産しながら、需
要に応じて工場の拡張ができる。ビジネスモデルとしては、
引き続き、小池淳義氏(トレセンティテクノロジーズ㈱取締
80 年代は IDM モデルが成功した。設計とのインターフェース
役社長)が基調講演2『生産技術で勝つ――トレセンティから
の優位技術を用いたモデルの提案』を行った。96 年ごろに大き
の標準化等によりさらによいモデルを目指したが、結果的に
な変換点があったように思われる。作れば売れるといった時
ブレス、ファンダリーモデルが一世を風靡したが、このモデル
代は終わり、市場を重視し、マーケットを自ら創造する時代と
にも陰りが見え始めた。今後は、それぞれの分野に特化した
なった。一つ一つの商品のライフサイクルが短くなってきて
もの同士が同じ目的をもって
おり、今後要求されるものはスピードである。いかにスピー
連合し、強いものだけが生き
ドを上げるかという生産技術への取り組みを紹介したい。工
残れるという状況が生まれる
場を造る際の指標としては①コストを下げる②歩留まりを上
のではないか。戦略的なコラ
げることがあるが、これ以外に③スピードという概念を独立
ボレーションを意識したマ
したファクター、軸としてとらえる必要がある。スピードを
ニュファクチャリングが求め
重視した工場にすると従来型の工場に対し 20 ∼ 25%の利益の
られる。技術とビジネスモデ
差が出る。スピードを上げるには①すべてをシングルウェハ
ルにチャレンジすることが重
でやる② 300mm でやる③スケーラブルファブにする、ことが
要である、と締めくくった。
水平分業がやりやすい環境を作ったといえる。90 年代はファ
プレゼンテータ / 廣瀬 全孝氏
さらに重要性を増す業界間の連携
ションを共有できる。プラットフォームの戦略としては、オー
この後、『本音で語る今後の半導体技術戦略』と題し、座長
レーションの仕組み、SoC 開発のあり方の共有、リスク、コス
の牧本氏の司会で、桜井貴康氏(東京大学国際・産学共同研究
ト最小化の仕組み、などの必要性が挙げられる。
センター生産技術研究所第3部教授)、川手啓一氏(㈱先端 SoC
引き続き川本洋氏が『設計から見た差別化技術』についてコ
基盤技術開発 代表取締役社長 CEO)、川本洋氏(( 財 ) 北九州
メントした。LSI のアプリケーションは電卓、コンピュータ、
産業学術推進機構 SoC 設計センター長)、講師の廣瀬、小池両
氏をパネリストにパネル討論を行った。パネル討論に先立ち、
カメラ、電話と変遷してきた。各アプリケーションはデスク
3 人のパネリストの方より、コメントがあった。
密度化によるものとされるが、むしろ LSI のユニークさにあっ
桜井貴康氏より『重要アプリケーションとキー技術』として、
アプリケーション、ローパワー、システムインテグレーション
たのではないか。LSI に要求されるものは高密度化だけではな
について説明が加えられた。最近、ワイヤレスセンサーネット
高周波といったものが重要になってきた。SoC より SIP の方が
ワークが台頭してきており、また、目にチップを埋め込むと
効率的であるが、まだビジネスとして立ち上がっていない。
いった試みもなされており、ローパワー、実装といった技術が
SIP は現状では実装密度向上技術に偏っているが、メモリのマ
重要になってきている。センサーネットワークの先にはロボッ
ネジメントが必要であり、インターフェースの標準化を行う必
ト、バイオエレクトロニクス(600 兆円市場といわれる)とい
要がある。SoC は誰にでも作れるようになるので素材化産業
う大きな市場がある。これを支えるキーテクノロジーは①ロー
になっていくが、SIP はシステムに CPU や SoCを素材として用
パワー②ワイヤレス③実装、である。①ローパワー:微細化に
い、アナログやメモリをつけてユニークさを出していくことで
従ってトランジスタの閾値を下げていくとリークが多くなり、
住み分け、共存していくことになる。SoC は大企業が進め、
パワーの中でリークが支配的になるというパラダイムシフトが
SIP はベンチャー、セットメーカが担うという構図になる。
起きつつある。個々のデバイスをローパワーにするのみなら
ず、ソフトウエアとハードウエアの連携といったことにより
プンフレームワークとする、ノウハウを保護する、技術コラボ
トップからパームトップへと変化した。この変化は、一般に高
く、ユニークネスと Time to Market であり、SIP、アナログ IC、
第 2 波のデジタル革命を好機に!
ローパワーを実現することが重要となる。③実装:実装と LSI
この後討議に入り以下のような意見が出された。①デジタ
の業界間の連携が重要になる。即ち、実装と LSI という水平独
ル家電をはじめとする従来のほとんどの製品は、デジカメな
立モデルから、技術連携によってレベル間連携を図りよりよい
どの限られた製品を除き、LSI は1チップである必要もない
付加価値をつけるというのが一つのモデルとして考えられる。
し、SIP である必要もない。しかし、デジタルコンシューマー
次に川手啓一氏が『ASPLA スキームをいかに発展させるか―
では半導体にこれでよいという限界は存在しない。ロボット
SoC 技術プラットフォーム戦略』についてコメントした。国内
に必要とされるインテリジェンスなどを考えれば、現状を2
IDM の収益低下の原因は、固定費高と過剰競争にある。ビジネ
∼3桁上げるぐらいでは追いつかない。半導体の先端技術開
スモデルにさかのぼった構造改革が不可欠であり、SoC 技術プ
発を推し進めれば、それに応じたアプリケーションは必ず見
ラットフォームとマーケットドリブン Fab-Light IDM とのコン
いだせる。②今までは競争、差別化が強調されてきたが、今後
ビネーションが鍵となる。SoC 技術プラットフォームを共有す
はコラボレーションのための技術が課題となる。日本は技術
ることで固定費を下げ、変動比率を高めて高付加価値を求める
標準、言葉の不統一といったインフラの欠如によって、欧米に
べきである。また、共有化によって業界の再編を進められる。
後れをとってきたという側面もある。コラボレーションする
Foundry & Fabless モデルも変換点に差し掛かっている。90nm
ためにお互いが理解し合える共通の基準といったインフラを
世代ではマーケットドリブン Fab-Light IDM を構成するべきで
作る技術が求められている。③全世界的に技術開発が上滑り
ある。SoC 技術プラットフォームを提供することで①共同開発
になり、半導体開発が袋小路に入ってしまった。技術者の本
による固定費削減②レディネス改善③先行試作による量産ライ
来あるべき姿から逸脱した行動も多々見られる中で、実用化
ン投資リスクの軽減④共通ライブラリ、IP と設計技術ソリュー
のためにブレークスルーを狙った研究をしっかりやらなくて
プレゼンテータ / 小池 淳義氏
パネリスト/川手 啓一氏
パネリスト/ 桜井 貴康氏
パネリスト/ 川本 洋氏
information
はいけない。本質的なリークの問題、統計的な揺らぎの問題、
は、バブル崩壊とデジタル革命が同時に生起したことによる。
電圧が下がることによるマージンの不足といった本質的な問
この 10 年、日本国民すべてが方向感覚を失っていた。政府の
題に対し、全領域の技術者が衆知を集め日本ならではのアプ
対策はバブル崩壊の側面しか見ていないが、根本的な問題は
リケーションに向かって力を合わせることが重要である。④
デジタル革命にある。現在、デジタルコンシューマーを中心
工期を短くし、やり直しのパスをなくす、ロードマップを共有
としたデジタル革命の第 2 波が起きつつある。現在は再建を
するなどして重複を省くことなどでもスピードを上げ、時間
目指す時期であり、頑張ればできると思うと述べた。最後に
を短縮することができる。
牧本氏作詞による「がんばれ!ニッポン半導体」の歌を会場に
最後に座長の牧本氏が 90 年代に日本が急激に衰退したの
流し、閉会した。
事務局便り
JSTアカデミー平成15年度開講ご案内
●発起人
●JSTアカデミー企画委員
山本 恭二氏 NECエレクトロニクス ㈱取 締役 副社長
中村 邦雄氏 NECエレクトロニクス㈱先端プロセス事 業部 長
中川 剛氏 ㈱ 東芝 セミコンダクター社
齋藤 昇三氏 ㈱東 芝 セミコンダクター社 メモリ 技師 長
伊藤 達氏 ㈱ 日立製 作所
社長
上席常 務 半 導体 グループ 長&CEO
小倉 正道氏 富 士通㈱ 常務 執行 役 電子 デバイスビジネスグループ
グループ長
小林 正道氏 ㈱日 立製 作所 半 導体 グループ 生 産統 括本 部
プロセス 技術 本部 マス ク統括 センタ センタ 長
福田 猛氏 富士 通㈱ 電子デバイス 事業 推進 本部 戦略企 画室
主席 部長
【開講にあたって】
半導体産業の新しいビジネススキームが求められています。
【半導体企業のための次代幹部養成特別研修プログラム】
真にグローバルな視点と独創的なビジネス感覚を持った次世代
□開催日:第1回合宿研修:2003年7月3日(木)∼5日(土)
を担うリーダーを、今こそ業界を挙げて育成すべき時代を迎え
第2回合宿研修:同年8月21日(木)∼23日(土)
ています。
□会 場:
「アジアセンター」
(小田原市城山4-14-1)
JSTアカデミーは上記の要請に応える、国際的にもユニー
【開講式・第1回合宿研修:事業環境とビジネス戦略論】
クな研修プログラムです。既に卒業生は150名を越え、強烈な
●事業統廃合でいかに勝か?
研修体験の共有により、次世代管理者に必要な戦略的志向を卒
□開講特別講話
業生相互の人的ネットワークが支えています。
□第1講座「半導体産業をめぐる事業環境とビジネス戦略」
本アカデミーの来年度(平成15年度)開講にあたり、私たちは
□第2講座「DRAM事業再生の道」
以下の観点からカリキュラムを決定し、業界の持続的発展に力
□第3講座「進化するファウンドリービジネス」
強く貢献したいと願っています。
□グループ討議
1.業界変革はもはや実行段階に移行した。ASPLAの設立を受
け、これをいかに活用し技術の差別化を図るか、その具体的
取り組みと必須課題を集中的に討議する。
2.単なる技術論を排し、
徹底的にビジネス論を展開する。同時
討議主題「勝つためのビジネスモデルと企業風土の変革」
【第2回合宿研修:技術戦略論】
●ASPLAスキームをいかに発展させるか?
□第1講座「ASPLAから見たメーカへのチャレンジ」
に、研修生の意識革命と企業カルチャーの変革を目指し、徹
□第2講座「SoC時代の技術戦略」
底的なグループ討議により業界のリ・モデリングとニュー
□第3講座「ネット家電の現状と将来方向」
ビジネスプランを策定する。
□グループ討議
3.以上の取り組みを通して、個人の才能・モチベーションを最
大限に生かす企業風土、
開発の仕組み作りを志向し実行する。
討議主題「勝つための技術戦略の策定
─ASPLAスキームの発展」
業界の復権と新たな繁栄を支えるのは上記の次世代リーダー
であり、その育成のため、
JSTアカデミーは主導的役割を果た
し得ると考えます。何卒、本アカデミーの趣旨をご理解の上、引
き続きご支援と研修生のご派遣をお願い申し上げます。
JSTアカデミー企画委員会
■連絡・問合せ先
〒 113-0033 東京都文京区本郷 2-40-14 山崎ビル
TEL.03(5689)5611 FAX.03(5689)5622
http://w ww .s cience-forum.co.jp