複雑流体現象の解明とそのモデリンググループ

複雑流体現象の解明とそのモデリンググループ
分子流体力学分野
教授 青木 一生,助教授 高田 滋,助手 小菅 真吾
1. はじめに
21 世紀 COE プログラムに関連して本分野で行った主な研究活動を以下にまとめる.
2. 研究内容
2.1 蒸気・気体混合系の円筒間クエット流の研究 本分野では,分子気体力学をもとに,低圧気
体やマイクロスケールにおける気体などの非平衡気体の挙動の解明を進めている.その一例とし
て,蒸気・気体混合系の円筒間クエット流の解析について述べる.
異なる角速度で回転する同軸二円筒間の二成分混合気体を考える.一方の気体(気体 A)は円
筒を構成する物質の蒸気であり,その表面で蒸発・凝縮(昇華も含めて蒸発・凝縮と呼ぶことにす
る)を起こす.もう一方の気体(気体 B)は,別種の気体で円筒表面で蒸発・凝縮を起こすことは
ない(非凝縮性気体).内円筒の半径,表面速度,温度を LI , VI , TI , 外円筒のそれらを LII , VII ,
TII とする.また,温度 TI で飽和静止平衡状態にある蒸気分子の数密度を nI ,平均自由行程を lI ,
温度 TII の飽和静止平衡状態の蒸気分子数密度を nII とし,クヌーセン数 Kn を Kn = lI /LI で定
義する.nB
av は円筒間に含まれる非凝縮性気体の平均数密度である.このときの混合気体の定常的
振舞いを分子気体力学をもとに調べた.解析の仮定は以下の通りである.(i) 混合気体の振舞いは
ボルツマン方程式(剛体球分子)に従う;(ii) 円筒面を離れる蒸気分子は,その速度,温度および
対応する飽和蒸気数密度に基づくマクスウェル分布に従う;(iii) 非凝縮性気体は,円筒表面で拡散
反射する;(iv) 流れの場は軸方向,周方向ともに一様である.
この問題を,小さなクヌーセン数 Kn に対して,直接シミュレーションモンテカルロ法 (DSMC
法)を用いて数値解析した結果の一部を示す.この問題では一般に円筒表面で蒸気の蒸発・凝縮が
起こるが,Kn の減少につれてそれが小さくなり,Kn → 0 の極限で消滅する傾向を示す.にもか
かわらず,巨視量,例えば混合気体全体の周方向の流速 vθ ,は蒸発・凝縮を伴わない通常の(す
なわち二成分とも非凝縮性気体の場合の)円筒間クエット流のものとは違ったものに近づく.さら
に,あるパラメータの範囲で流れの分岐が起こる.すなわち,同じパラメータの値に対して二つの
異なる流れが得られる.この様子の一例を図 1 に示す.ただし,パラメータの値は,LII /LI = 2,
B
A
B
A
A
VII = 0, TII /TI = 1, nII /nI = 1.5, nB
av /nI = 0.05, Kn = 0.005, m /m = d /d = 1 で,m
(mB )および dA(dB )は蒸気分子(非凝縮性気体分子)の質量および直径である.(a) 図の •,N
は,半径方向の蒸気の質量流量 Mr (単位時間・円筒の単位長さ当たり)を Kn で割って拡大し
図 1: 蒸気・気体混合系の円筒間クエット流における流れの分岐
たものと内円筒の回転速度 VI の関係を示したもので,k はボルツマン定数である.解の分岐は
0.99 ≤ VI /(2kTI /mA )1/2 ≤ 1.04 で起こっている.(b) 図は,VI /(2kTI /mA )1/2 = 1.0053 のときの
二つの解に対応する混合気体全体の周方向の流速 vθ のプロフィールであり,記号 •,N は (a) 図の
記号に対応している.
上述の数値計算に平行して,連続流極限(Kn → 0)における混合気体の挙動を,ボルツマン方
程式に対する Kn が小さい場合の系統的漸近解析によって調べ,この極限に対する正しい流体力学
的方程式系を導いた.これによると,連続流極限では蒸発・凝縮は止まるが,無限小の蒸発・凝縮
がこの極限における巨視的物理量に有意の影響を残す(幽霊効果:Y. Sone, Kinetic Theory and Fluid
Dynamics, Birkhäuser, 2002 参照).さらに,この極限では流れの分岐が起こる.図 1 には,DSMC
法による解に対応する連続流解を実線で示してある.(a) 図から,VI /(2kTI /mA )1/2 = 1.0053 のと
きには三つの解がある.(b) 図の破線は,真ん中の解(limKn→0 Mr /Kn = 0 に対応している)の
vθ である.DSMC 法では,これに対応する解[より正確には,(a) 図の実線の負勾配の部分に対応
する解]は得られなかった.この部分の解は不安定であると考えられる.
2.2 その他の研究 クヌーセンポンプ(流路壁の周期的温度変化と流路の断面積変化を利用した
非機械式真空ポンプ)を応用した混合気体分離装置を考案し,その数値シミュレーションと簡便
な流体力学的モデルの構築を行った.また,断面積変化の変わりに流路の曲率変化を用いた新し
いタイプのクヌーセンポンプを考案し,それについての基礎的研究を行った.これらは以下の 3 で
触れるフランスのトゥールーズ・グループとの共同研究の主要テーマである.さらに,マイクロ
スケールや低圧環境の気体に対する流れの不安定性・分岐の研究を,ボルツマン方程式の系統的
漸近解析および数値解析によって行っている.たとえば,蒸気・非凝縮性気体混合系に特有の不
安定現象の解明,円筒間の気体における Taylor–Couette 問題の研究などが挙げられる.
3. 国際交流
3.1 招へい COE の経費により L. Mieussens 博士(トゥールーズ第 3 大,12 日間),G. Russo 教
授(カターニャ大,15 日間),T.-P. Liu 教授(スタンフォード大,14 日間)を招へいし,研究協力
を行った.また,日本学術振興会の経費[長期招へい,短期招へい,サマープログラム,特別研
究員(欧米短期),科学研究費補助金による招へい]その他により,A. Gusarov 博士[バイコフ冶
金学研究所,10 か月間(本年度は 3 か月間)],B. Texier 博士(インディアナ大,2 か月間),K.
Borg 博士[海洋高専(ストックホルム),11 か月],P. Markowich 教授(ウィーン大,3 週間),
M. Cannone 教授(マルヌ・ラ・ヴァレ大,2 週間),M. Groppi 博士(パルマ大,12 日間),L.
Desvillettes 教授(カシャン高等師範学校,1 週間),S.-Y. Ha 博士(国立ソウル大,9 日間)を共
同研究,研究協力の目的で招へいした.さらに,フランス国立科学研究センター(CNRS)の国際
共同研究プログラム(PICS)
(日本側代表者:青木一生,フランス側代表者:P. Degond)の一環と
して,F. Filbet 博士(トゥールーズ第3大,2 週間)を招へいした.
3.2 派遣 COE の経費により,吉田広顕(博士課程 2 年)が 2 週間にわたってフランスのボル
ドー第 1 大学,トゥールーズ第 3 大学に滞在し,研修を行った.一方,日本学術振興会の日仏科学
協力事業(共同研究)(日本側代表者:青木一生,フランス側代表者:P. Degond)の一環として,
高田が 2 週間相手側のトゥールーズ第 3 大学を訪れ,共同研究を行った.また,小菅は京都大学
教育研究振興財団の援助でトゥールーズ第 3 大学に 11 か月間滞在し,共同研究を行った.さらに,
青木はボルドー第 1 大学招へい教授,ローマ第 1 大学客員教授として各大学をそれぞれ 1 か月間
訪れ,講演,共同研究を行った.その他,青木は北京首都師範大学,台湾中央研究院数学研究所,
香港城市大学に各 1 週間,高田は香港城市大学に 1 週間,研究協力の目的で招へいされた.
4. 講演会
上記 3.1 に挙げた招へい研究者その他による講演会を計 8 回実施し,様々な流れに対する流体力
学的,運動論的,および微視的アプローチとその数学的側面について活発な議論を行った.また
Markowich 教授は,COE 複雑系機械工学セミナーにおいて特別講演を行った.
航空宇宙基礎工学講座 流体力学分野
教授 稲室 隆二,助教授 大和田 拓,講師 杉元 宏
1.
はじめに
本分野では,宇宙関連技術のマイクロスラスターやマイクロマシン(MEMS)などに見られる
微小スケールにおける熱流動や気液二相流,高層大気や真空ポンプのような低圧気体の振る舞い,
液晶やコロイドなどの構造性流体の流動現象,あるいは蒸発,凝縮,凝固を伴う地球大気現象な
どの複雑流に対して,マイクロスケールからのアプローチによりマクロスケールの現象を予測す
るメゾスケールの複雑混相流体力学の構築を目指して,理論解析,数値シミュレーションならび
に小規模実験により研究を行っている.
本年度に実施した研究内容および研究活動を以下にまとめる.
2.
研究内容
y
2.1 二相系格子ボルツマン法による分岐流路
内の二相流解析 拡散界面モデルと格子ボルツ
マン法を組み合わせて大きな密度比(1000 程
度まで)を扱うことができる新しい二相系格子
ボルツマン法を開発した.本手法の特徴は,(1)
アルゴリズムが簡単であり,また,並列計算に
適している,(2) 界面形状の時間変化を陽に追
跡する必要がない,(3) 各相の質量保存性に優
れている,ことである.図 1 に二相系格子ボル
ツマン法を用いて計算した分岐流路内の気液二
相流計算例を示す.図は気液界面の様子を示し
ている.気液の密度比は約 45,レイノルズ数は
20,000 程度である.気液二相流は,下部の 1 つ
の入口から流入し上部の 2 つの出口から流出す
る.図より気液界面は分岐内部で複雑な挙動を
t∗ = 4.38
t∗ = 13.8
示すことがわかる.分岐部の傾斜や入口および
出口の配置が 2 つの出口の流量分配に及ぼす影
図 1: 分岐流路内の気液流の計算結果例;(t∗ =
tV /L,V :気液平均流速,L:分岐部長さ).
響を調べている.その他,本手法は,液滴の衝
突解析や燃料電池内等のミクロ複雑流路内の二
相流解析にも適用している.
2.2 圧縮性流れの気体論的高解像度スキーム
気体論は近似リーマン解法に基づく従来の CFD
1
スキームに代わる新しい圧縮性流れの数値解法
を提供する.気体論的アプローチでは、特性の
0.5
理論が気体論方程式の移流項の線形性によって
劇的に簡単になるという利点があるが,流体力
学方程式との関係を間接的に与える気体論方程
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
x
式の漸近解析は一般の流体技術者になじみが薄
く,また直接的な関係の欠如が誤差評価を難し
図 2: ダブルマッハ反射における等マッハ線図.
くしている.これが同アプローチの理解,延い
ては普及の妨げになっている.本研究では気体
論の初等的な知識のみを使って流体力学方程式と直接結びつく気体論スキームの理論を構築し
(Lax-Wendroff の気体論的拡張),これを基に圧縮性 Navier-Stokes 方程式のロバストで効率的な
高次精度気体論スキームを開発した(図 2).また香港科学技術大学の Xu 教授との共同研究では
高次の希薄化効果を含む Burnett 方程式に同理論を適用して高次精度気体論スキームを導出した.
最近ではこれらの成果を基に気体論方程式と流体力学方程式のハイブリッド解法の研究を行って
いる.
2.3 分子気体効果を利用したポンプ・気体濃縮装
置の開発 低圧あるいはミクロな系の気体では,外
力の有無に関わらず,温度場によってさまざまな流
れが発生する.本研究では, この現象を利用した,運
動する部品が不要なポンプの開発 (図 3) を行ってい
る. さらに, 熱駆動型ポンプ内部では, 混合気体が成
分毎に異なる運動を行う. このことを利用した独創
的な混合気体濃縮法を考案し研究を進めている.
3.
国際交流
若手・中堅研究者と海外有力大学との相互交流
や共同研究を推進している.H17 年度は,稲室が
H17.9.27∼29 にソウル大学で開かれた The 5th
図 3: 温度差を利用した熱駆動型ポンプ (熱尖端
Kyoto-Soul National-Tsinghua University Thermal ポンプ) 試作装置.
Engineering Conference に参加し研究発表を行った.
また,下記の国際会議を主催し,会議を通して世界
の著名な研究者と複雑流体の理論解析および数値解析に関して討議するともに,今後の研究展開に
必要な人的交流を活発に行った.大和田は H17.7.24∼8.3 まで香港に滞在し,香港工科大学で開催
された第 2 回 International Conference for Mesoscopic Methods in Engineering and Science に出
席して若手参加者向けの特別講義と研究発表を行った後,香港科学技術大学で Xu 教授と研究打ち
合わせを行った.また,H17.9.25∼10.13 まで米国に滞在し,サンタフェで開催された DSMC ワー
クショップに参加して研究発表を行い,その後ハンプトン(ヴァージニア)の国立航空宇宙研究所
で Luo 博士と共同研究,そしてスタンフォード大学航空宇宙工学専攻において Jameson 教授主催
のセミナーで講演を行った.さらに,H17.10.23∼10.28 まで COE の経費で「第6回アジア CFD
会議」
(台北)に出席し,研究発表を行った.杉元はフランス Toulouse 大学に H17.5.29∼6.8 に滞
在し,熱駆動型ポンプの気体濃縮効果について Prof. Degond らと議論した.また, H17.8.17∼8.21
に上海で開かれた 3rd Pacific Rim Conference on Mathematics で講演し, H17.9.27∼29 にソウル
で開かれた The 5th Kyoto-Soul National-Tsinghua University Thermal Engineering Conference
に COE 経費で参加して発表を行った.
4.
国際会議
2005 年 8 月 22 日∼26 日,京都大学百周年時計台記念館において,
「第 14 回流体力学の離散的数
値解析に関する国際会議」を COE 主催により開催した.参加者は国内 44 名,国外 48 名(アメリ
カ 14 名,英国 7 名,スイス 6 名,ドイツ 5 名,オランダ 4 名,イタリア 3 名,カナダ 2 名,ベル
ギー,中国,香港,フィンランド,イスラエル,シンガポール,ハンガリー各 1 名)で,そのほ
かに COE 関係の若手研究者や学生十数名が随時講演を聴講した.講演は招待講演 6 件を含む合計
73 件からなり,招待講演者は,土井正男, W. E, 木田重雄, S. Troian, 阿部純義, 青木一生であっ
た.会議では,マルチスケールモデリング,流体と固体との相互作用,乱流,運動論,二相流,粒
子流,血液流,マイクロチャネル,化学反応,複雑流体に対する理論解析および数値解析ついて活
発な討論が行われた.なお,本会議の抜粋論文は,国際雑誌の”Mathematics and Computers in
Simulation”の Special Issue として近々発行される.
航空宇宙基礎工学講座 推進工学分野
教授 斧 高一, 助教授 江利口 浩二, 助手 高橋 和生
1. はじめに
本研究室は,宇宙機推進の作業媒質である電離気体(プラズマ)および高温気体 (反応性気体) に関
する基礎研究並びに応用研究を行う分野であり,力学的性質と共に,構成要素である原子分子やイオン
の気相中での反応過程,並びに固体表面との相互作用に関する研究にも重点を置いています.実験を主
体として数値シミュレーションを併用し,広く先端技術における工学的諸課題も対象としています.具
体的には,
プラズマ科学,
宇宙工学,
半導体 (MEMS を含む) 工学の分野で,
研究を展開しています [1].
21世紀COEプログラム「動的機能機械システムの数理モデルと設計論」では,本研究室の多様な研究
内容のうち特に基礎的な部分について,「電離気体(プラズマ)と固体表面が混在する系における“電
離気体と固体表面との相互作用に関するモデリングと現象解明”」 という課題のもと研究活動を行って
います.“相互作用”とは力学ならびに物性を含み,対象とする系は気体と固体,場合によっては液体
の相を含みます.またその空間スケールは,ナノメートル (10−9 m) からメートル (101 m) までと極め
て広く,時間スケールも,ピコ秒 (10−12 s) から時間 (104 s) までと極めて広い範囲にわたります.
2. 電離気体と固体表面との相互作用に関するモデリングと現象解明
2.1 微粒子を含むプラズマにおける“プラズマと微粒子との相互作用に関する研究”
微粒子プラズマは,プラズマプロセス,ナノサイズの微粒子創製 [2],宇宙プラズマの分野で関心を
持たれます.非平衡プラズマ中のサイズ数マイクロメートルの微粒子は負に帯電し,微粒子間にはクー
ロン相互作用が働きます.この相互作用エネルギーが熱運動エネルギーを上回ると微粒子集団は強結合
状態となり,金属など固体結晶に見られる規則正しい配列が微粒子により形成され,クーロン結晶と呼
ばれます.本研究では,実験とモデル解析により,このようなプラズマ中の微粒子に働く集団的相互作
用の解明をめざしています.今年度は,プラズマ中に細線を配置し,細線に時間変動電圧を印加するこ
とによってプラズマ中の電界に揺動を加え,クーロン結晶を形成する微粒子の強制振動の様子を光学的
に観察しました.印加電圧の周波数を変えると,ある周波数で共鳴的に振動振幅が増大する現象が見い
だされ,微粒子集団の運動を模擬する分子動力学シミュレーシ
(a)
ョンを併用して,負帯電微粒子間に作用する未知の力 (引力)
Mask
の正体を明らかにし,その発現機構の解明をはかります.
2.2 プラズマと接した固体表面における“プラズマと表面微
Poly-Si
細構造との相互作用に関する研究”
50nm
プラズマを用いた材料プロセス(微細加工や薄膜形成)にお
(b)
500nm
200nm
mask
けるウエハ(基板)上には,マイクロ~ナノメートルサイズの
微細なパターン構造が形成されます.プラズマから基板表面に
poly-Si
到達した粒子は,さらに微細パターン内を輸送されて微細構造
SiO2
内の表面に到達し,種々の物理的・化学的表面過程を経てプロ
セスが進展します.本研究では,微細構造内でのプラズマ粒子
(イオン,電子,中性ラジカル) の輸送と表面電荷蓄積・表面
Passivation layers
反応過程について,モデリングとプロセス実験,およびプラズ
mask
mask
vacuum
マ・表面診断/計測により機構解明をめざしています.今年度
vacuum
は,プラズマエチング (微細加工) について,粒子輸送と表面
過程に関する原子スケールでの現象論的モデリングを高度化
poly-Si poly-Si
し,微細エッチング形状進展シミュレーション方法を構築しま
した [3,4].従来のイオンアシスト反応に加え,化学エッチン
グ,物理スパッタリング,保護膜堆積,および表面酸化の影響 図 1. (a)Cl2/O2 プラズマによる多結晶 Si
とともに,イオンやラジカルの表面再放出/反射,高速イオン (Poly-Si) のエッチング加工形状と,(b)加工
の基板内部への侵入過程も考慮しています.今後さらに,表面 形状シミュレーション
Open
Space
~11 nm
Passivation
layers
~9 nm
200nm
space
microtrenching
電荷蓄積と表面反応過程の自己無撞着なモデリングを進め,表面下の異種薄膜との界面の影響もモデル
に取り入れ,実際のプラズマエッチング [5-9] の機構解明と技術の高精度化に供します.
2.3 固体壁に囲まれた微小空間における“微小プラズマの生成・維持機構とプラズマの微視的構造およ
び流れ場に関する研究”
Micronozzle
ミリからマイクロメートルサイズの微小プラズマ
では,プラズマと固体壁との相互作用が大きく,プラ
(a)
10 mm
ズマの物性や力学的挙動は,従来の大口径プラズマと
比較して複雑です.固体壁での表面過程、表面上の空
間電荷層/シース,および流れ境界層などの影響の考
Micronozzle
慮が不可欠です.本研究では,マイクロプラズマスラ
(b)
スター (超小型宇宙電気推進機) の実現を念頭に,微
Micro plasma
10 mm
小プラズマの生成・維持とプラズマの微視的構造およ
0.8 mm
0.2 mm
0.6 mm
1.0 mm
0.2 mm
0.4 mm
0.6 mm
source
び流れ場に関し,モデリング [10,11] と実験 [12,13]
によって現象解明を進め,微小プラズマおよびプラズ 図 2. (a)微細加工により製作したマイクロノズルと,
(b)マイクロノズルを搭載したマイクロプラズマスラ
マ流にかかわる機構解明を目ざしています.今年度は スターから真空中へ噴出する超音速ジェット
特に,精密マイクロノズルの製作と微小推力測定法の
構築に注力し,本マイクロプラズマスラスター (マイクロプラズマ源+マイクロノズル) が,将来の超
小型衛星 (<10 kg) [14] の軌道・姿勢制御に適用できることを実証しました.
3. おわりに
本研究室は,(1)プラズマ・イオン源,(2)プラズマ基礎,(3)プラズマ・ビームプロセス技術,(4)プロ
セス基礎,(5)マイクロ・ナノテクノロジーの分野で,複数の基礎的・応用的研究を進めています.応用
面のターゲットは,半導体を中心とした薄膜プロセス (微細加工、CVD、スパッタ成膜) [2-9],および,
プロセス用 [15,16]・宇宙推進用 [10-14] プラズマ源で,産官学連携にも積極的に取り組んでいます.
参考文献
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[9] K. Nakamura, T. Kitagawa, K. Osari, K. Takahashi, and K. Ono: “Plasma etching of high-k and metal gate materials”, Vacuum (2006),
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[10] 鷹尾祥典, 斧 高一: “マイクロプラズマスラスターの研究開発”, 高温学会誌, 第 31 巻, 第 5 号 (2005), pp. 283-290.
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流体理工学講座 流体物理学分野
教授 木田 重雄,助教授 花崎 秀史,助手 後藤 晋
乱流や回転成層流といった複雑な流れの根本的な理解とその応用を目的として,秩序構造による
乱流運動の記述や混合現象の理解などを,数値シミュレーションとその可視解析,さらに室内実
験などにより進めてきている.以下は本グループの本21世紀COEプログラムからの援助によ
る本年度の研究活動である.
1. 研究内容
1.1 乱流混合・輸送現象 乱流による強い混合の起源を解明することを目指して,大規模数値シ
ミュレーションを実行してきた.このシミュレーションでは乱流による混合の度合いを定量化す
るために,流体面(常に同一の流体粒子の集合からなる面)を追跡する方法を用いる.流体面は
流体の二つの部分の境界であるので,その変形の定量化を通じてこれらの二つの部分の混合を定
量化する.現状の数値シミュレーションで到達しうる最大規模の数値シミュレーションによれば,
発達した乱流中では秩序だった組織構造が自己相似的な階層構造をなし,これらの各階層で混合
や拡散が同時進行で促進されるために,全体として極めて強い混合や拡散が産み出されることが
明らかとなってきた [1].
また,乱流により輸送される慣性粒子の挙動を数値シミュレーションにより調べた.ここで慣
性粒子とは背景の流体とは異なる質量密度をもつ微小粒子のことである.たとえば雲の中での小
雨滴などがこれに相当するが,小雨滴は大気乱流により輸送される際に乱流中の秩序渦構造の影
響を受けるために,素朴なランダム場における粒子の輸送とは異なる挙動を示す.その結果とし
て乱流中では雨滴同士の衝突の頻度がより増大し,その成長に大きな影響を与えることが予想さ
れる.このため慣性粒子に対する乱流の影響を調べることは重要である.われわれは,2次元の
十分に発達した一様乱流中での重たい慣性粒子の挙動を調べ,そのクラスタリングが流れ場の加
速度が 0 となる点のクラスタリングと類似することを指摘した [2].
1.2 よく制御された乱流の室内実験 上で述べた乱流混合について数値シミュレーションにより
得られた知見が,シミュレーションでは到達できないような非常に高いレイノルズ数の十分に発
達した乱流においても有効であることを示すために,今年度より乱流の室内実験を開始した.ま
ずその下地作りとして,よく制御された乱流の室内実験を行うことを目標とした.
具体的には二軸のまわりに回転する球体内に流体を閉じ込め,それを乱流化する手法を提案し
た.ここで二軸回転とは,まず(例えば)水平軸まわりに球体を一定角速度で回転させ,さらにこ
の球と回転軸の全体を(例えば)鉛直軸まわりに一定角速度で回転させる系のことである.この
実験装置の最大の特徴は,系がとても単純であるために,二つの軸のまわりの回転数と流体の物
性値さえ正確に制御できれば系の支配パラメタに不確定要素が入り込む余地がほとんどなく,し
たがって流れ場の再現性が極めて高い点である.
実際に室内実験を行ったところ,二軸の回転角速度を適切に選ぶことにより,球体内の流れは
定常回転流,周期流,乱流といった多様な状態を呈することがわかった.また期待した通り,流れ
場の再現性は極めて良好であり,さらには乱流状態は二軸の回転角速度の比が十分に小さくても
維持されることがわかった.以上の結果は,この装置を用いれば容易にかつよく制御された乱流
が生成維持できることを示唆しており,今後の発展が期待される.
1.3 二重拡散系の成層乱流中の熱・塩分輸送 海洋は,基本的に熱と塩分によって安定成層が形
成されている系である.したがって,海洋循環あるいはそれに伴う熱塩循環において,熱と塩分の
二重拡散の効果,すなわち分子拡散係数の違いの効果は重要である可能性が高い.一方,二重拡
散の問題は従来,安定性理論の範疇では研究されてきたが,輸送現象の問題としてはあまり研究
されて来なかった.しかし近年,鉛直方向の乱流渦拡散係数は,海洋大循環モデルにおいても大
循環の流速自体に大きな影響を与えることが知られており,乱流輸送に与える二重拡散の効果を
解明することが,海洋分野でも重要課題の一つとなっている.本テーマでは,熱と塩分が二重拡
散系を成す成層乱流中の熱・塩分輸送を線形理論 (RDT: rapid distortion theory) と数値シミュレー
ションにより解析している.その結果,鉛直塩分フラックス,鉛直熱フラックス共に,成層を構成
する物質が単一の場合と同様に,ほぼ浮力振動の周期で振動するが,分子拡散係数の小さい(あ
るいはシュミット数の大きい)塩分の方が,熱に比べて,時間平均的に見た場合の鉛直フラック
スが小さいことがわかった.また,2つのフラックスの比は,グラスホフ数の単調増加関数であ
り,グラスホフ数が小さい極限では0に,大きい極限では1に漸近することが示唆された.これ
は最近の実験結果とも整合する結果である.ただし,今回の結果は RDT の支配方程式を主として
数値的に解いた結果であり,メカニズムの把握のためには,今後解析解を得ることが重要である.
また今後,数値シミュレーションにより,より定量的な解析を進めて行く予定である.
1.4 乱流の不安定周期流解析 乱流の流れ状態はランダムに変動し,統計的に定常な場合でも決
して再現しない.この非再現性は,乱流の時空間構造の解析を困難なものにしている要因のひと
つである.これに対し,われわれが最近,クエット系や高対称流 [4] において発見した不安定周期
運動には再現性があり,かつそれぞれの乱流の特性をよく表すので乱流力学の解析に便利である.
本年度はクエット系の周期流解析を行った.乱流の特性をよく表す不安定周期流に多数のパッシ
ブ線素を流し,その伸長率と流れ場の構造との関係を調べ次のことを明らかにした.まず,ある時
刻に,方向の異なる 2 つの線素を同じ位置に放つと,時間の経過とともに,これらの線素の向き
は急速にそろってくる.つぎに,多数のパッシブ粒子対を長時間流し,各粒子対の位置,方向,な
らびに伸長率のデータを統計処理することにより,線素の方向および伸長率の場を構成した.さ
らに,これらのパッシブ線素に付随する特性量と速度勾配テンソルの固有値や固有ベクトルなど
との時空間相関をとることにより,線素の伸長率の大きいところでは,速度勾配テンソルの最大
固有値をもつ固有ベクトルと強い相関のあることがわかった.乱流の特性をよく表す不安定周期
流による乱流力学の解析研究は始まったばかりである.再現性のある周期流を用いた乱流拡散や
混合,渦構造の生成消滅のメカニズムの解明が期待される.
2. 国際交流
2.1 海外派遣 本21世紀COEプログラムの援助を得て,木田は平成 17 年 6 月 30 日から 7
月 1 日にミュンヘンで開催された The Second Joint International Seminar on Applied Analysis and
Synthesis of Complex Systems で研究発表講演を行った.花崎は平成 17 年 11 月 19 日から 24 日に
シカゴで開催されたアメリカ物理学会流体力学部門年会で研究発表講演を行った.また,博士課
程の大学院生渡部威は,平成 18 年 3 月 26 日から 29 日までソウル国立大学で行われた国際会議
“Whither Turbulence Prediction and Control”(乱流予測と制御の将来はいかに)に出席した.
2.2 招聘 平成 17 年 12 月 2 日と 3 日にスイス大学の Prof. P. Koumoutsakos を招聘し,乱流の
数値シミュレーションに関する研究打合せを行なうとともに,
「Multiscale Flow Simulations Using
Particles」と題する講演を行ってもらった.また,平成 18 年 1 月 8 日から 15 日にシカゴ大学の
Prof. J. Steinhoff を招聘し,修士課程および博士課程の学生の研究発表を交えたミニシンポジウム
を開催し,その中で,
「Long Range Numerical Propagation of Short Waves Using Nonlinear Solitary
Waves」と題する講演を行なってもらった.
参考文献
[1] S. Goto and S. Kida, Reynolds-number dependence of line and surface stretching in turbulence:
folding effects, (2006), submitted.
[2] L. Chen, S. Goto and J.C. Vassilicos, Turbulent clustering of stagnation points and inertial particles,
J. Fluid. Mech. 553 (2006), 143–154.
[3] P. R. Jackson, C. R. Rehmann, J. A. Saenz and H. Hanazaki, Geophy. Res. Lett. 32(10) (2005)
L10601–10604.
[4] L. van Veen, S. Kida and G. Kawahara, Fluid Dyn. Res. 38 (2006) 19–46.
流体理工学講座 環境熱流体工学分野
教授 小森 悟,助手 伊藤 靖仁
1. はじめに
本研究室では,大気・海洋間での物質と熱の交換機構の解明とそのモデル化に関する研究を主な課題
として研究を行っている.大気・海洋間での物質および熱の交換量の正確な評価を行うためには,大気
乱流場や海洋乱流場に現れる種々の輸送現象の一つ一つを基礎実験を通して解明するとともに,それら
の乱流輸送現象を実験的知見に基づき忠実に表現する物理モデルを構築していくことが必要である.そ
こで本研究室では,風波乱流水槽,開水路実験装置および桂インテックセンターにある大型の大気・海
洋シミュレーション風洞水槽を用いて,大気・海洋間の物質および熱の輸送を支配する各種因子の影響
を明らかにすることをめざしている.
2. 研究の背景
人類による化石燃料の莫大な
消費に伴って発生する炭酸ガス
(CO2)等の温暖化物質による地
球の温暖化が深刻な問題として
取り上げられるようになって以
来,地球の温暖化予測を正確に
行うことが緊急の課題とされて
いる.この温暖化予測には,大
Air
(Turbulence)
U
Rain
CO2 Transfer
Heat Transfer
*2
τi=ρu
Surface Contamination
Turbulent
Droplet
Buoyancy
Bubble
Eddies
図1 大気・海洋間での物質および熱交換に及ぼす諸因子
Water
(Turbulence)
Swell
Estimation by GCM
気および海洋の乱流中に現れる
大気海洋間の物質移動に影響を及ぼす諸因子
物質,熱,運動量の輸送現象を
表す数多くのサブモデルから構成される大循環モデル(GCM: General Circulation Model)が使用されてい
る.ところが,既往の気候モデルに使用されている個々の物理的サブモデルの妥当性が十分に検討され
ていないため,温暖化の予測に大きな誤差が発生することが危惧されている.大気・海洋間の物質と熱
の交換速度は,図に示すように種々の因子に影響されるものであり,サブモデルがこれらの効果を正確
に表していなければ大気・海洋間での正確な交換量を見積もることはできない.これらの点を考え,現
在,本研究室ではおもに以下の研究を行っている.
3. おもな研究内容
3.1 風波気液界面を通しての物質輸送機構および熱伝達機構の解明 これまでに,大気海洋間での物質
交換速度のパラメタリゼーションをめざして,風波気液界面を通しての物質輸送機構を明らかにしてき
た[1].また物質輸送を評価する手法として,液側ではなく気側の速度・濃度分布から評価するプロフ
ァイル法の妥当性を証明した[2].
3.2 気液界面近傍の乱流構造の数値シミュレーションによる解明 これまでの実験的研究から,うねり
が気液界面を通しての物質輸送に影響を及ぼすことが明らかになった.そこで,実験では得ることが非
常に困難な風波気液界面の極近傍での乱流構造に関しては,三次元直接数値計算(DNS)を併用すること
によってその解明を行った.その結果,うねりが存在する場合には,圧力抗力が増大することにより波状壁
面に働く全抗力は増大するが,剥離流の形成により摩擦抗力は減少することが明らかになった.摩擦抗力は
気流が液流に与えるエネルギを代表する値であることを考慮すると,うねりにより風波気液界面での物質交換
速度が減少する原因は,摩擦抗力の減少により物質移動を支配する表面更新渦の発生が抑制されるためで
あると考えられる[3] .
3.3 崩壊を伴う風波気液界面を通しての物質交換に及ぼす気泡の巻き込みおよび飛散液滴の影響 風
波の崩壊に伴う気泡の巻き込みと液滴の飛散が物質交換速度に及ぼす影響を実験により明らかにした.
その結果,液滴の影響は無視できるが,液流が塩水の場合,気泡が全物質交換速度におよぼす影響は大
きいことがわかった.また,単一気泡・液滴を通しての物質・熱輸送機構の解明と輸送量の評価を直接
数値計算により評価した[4].さらに,液滴の合体に関する数値計算手法を開発しモデル化を行った[5].
3.4 気液界面を通しての物質交換に及ぼす降雨の影響 降雨が気液界面を通しての物質交換速度に及ぼ
す影響を解明するため,開水路気液界面上に降雨装置を用いて雨を降らせ,物質の交換速度の測定を行
った.その結果,降雨は気液界面を通しての物質交換を著しく促進させ,雨量が多い場合の物質交換速
度は風速 12m/s 程度の風波乱流場での物質交換速度に匹敵することがわかった[7].また,降雨の衝突を
伴う気液界面を通しての物質交換速度を決定づける最適パラメータは,従来用いられてきた降雨の運動
エネルギフラックスではなく,運動量フラックスであることを明らかにした.
3.5 化学反応を伴う乱流場における運動量・熱・物質輸送機構の解明 海洋表層等の密度(温度)成層が
存在する乱流場や液体の成分測定などに関連する微小流路内での運動量・熱・物質輸送機構の解明およ
びそのモデル化を行っている[7] [8] [9].
4. 国際交流および講演会等
4.1 共同研究拠点形成 将来の拠点形成を見据えて,コロンビア大学(アメリカ)およびダルハウジー
大学(カナダ)から研究者を招聘し,気液界面を通してのスカラ輸送に関するディスカッションを行っ
た.
4.2 講演会 中国海洋大学(中国)
,リヨン流体力学音響研究所(フランス)
,クイーンズランド大学(オ
ーストラリア)の教授等による研究講演会を行った.
4.3 派遣等 丹野(博士課程学生)が約3週間 SOLAS サマースクール(コルシカ・フランス)に参加,お
よびリヨン流体力学音響研究所を訪問し,武者修行を行った.
参考文献
[1] D. Zhao, Y. Toba, K.. Sugioka, and S. Komori, New sea spray generation function for spume droplets, Journal of
Geophysical Research, Vol.111, C02007(2006).
[2] McGillis W.R., K.Tanno, J.W.H. Dacey, J.D. Ware, D.T. HO, J.T. Bent, W.E. Asher, R. Wanninkhof, S. Komori,,
Measurements of the air-water CO2 flux using atmospheric profiles, Proc. of Gas Transfer at Water Surfaces,
(2005).
[3] 今城孝徳・長田孝二・小森悟,波状壁面上の乱流構造と抗力に及ぼすうねりの影響,日本機械学会
論文集(B編), 71-706, (2005), 1504-1510.
[4] 杉岡健一・小森 悟,一様せん断流中の流形液滴に働く抗力と揚力の評価, 日本機械学会論文集(B 編)
71-706, (2005),1519-1526.
[5] 大西領・小森 悟,乱流中における同一径粒子間の衝突頻度に及ぼす重力の影響のモデル化,日本機
械学会論文集(B 編),(2005),1511-1518.
[6] 高垣直尚,小森悟,気液界面を通しての物質移動に及ぼす降雨の影響, 日本機械学会論文集(B 編)
71-712, (2005), 2900-2906.
[7] 長田孝二,相良文彦,小森悟,J. C. ,R. Hunt,壁面による乱流のブロック効果に及ぼすレイノルズ数の
影響(第2報、Townsendのモデル渦によるフォーシングを用いた直接数値計算), 日本機械学会論文集(B
編) 71-709, (2005), 2226-2232.
[8] R. Onishi and S. Komori, Thermally-Stratified Liquid Turbulence with a Chemical Reaction, AIChE. J., 52-2,
(2006),456-468.
[9] 伊藤靖仁,竹中直史,小森悟,微細管内での気液間物質移動, 日本機械学会論文集(B編) 72, (2006), 印
刷中.
教授 永田 雅人、助教授 河原 源太 *、助手 武田 英徳
1.
Navier-Stokes
2.
Rayleigh
[1],[3]
([3])
[1] S. Generalis and M. Nagata, Transition in homogeneously heated inclined plane parallel shear
flows, J. Heat Transfer, 125 (2003), 795-803.
[2] M. Nagata and S. Generalis, Transition in plane parallel shear flows heated internally, Comptes
Rendus Mecanique, 332 (2004), 9-16.
[3] M. Uhlmann and M. Nagata, Linear stability of flow in an internally heated rectangular duct, J.
Fluid Mech., 551 (2006), 387-404.
3.
.
,
.
.
,
.
,
,
Nagata & Busse [1]
,
,
,
,
,
_______
* 平成 17 年 10 月より大阪大学大学院 基礎工学研究科 機能創成専攻 教授
.
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~ >L_:9 Ò5 c$&%%›K7²> ([3]) ¥
h+ikj+l
[1] M. Nagata and F. H. Busse, Three-dimensional tertiary motions in a plane shear layer, J. Fluid
Mech., 135 (1983), 1-26.
[2] M. Nagata and T. Itano, Numerical modelling of the transition from laminar to turbulent stages in a
simple parallel shear flow, Conference Proceeding on Modelling Fluid Flow ’03 (edited by T.Lajos,
J.Vad), 1 (2003), 588-594.
[3] M. Nagata, T. Itano and R. Nakamura, Generation of spanwise momentum in a simple shear layer,
Presented at the 57th British Applied Mathematics Colloquium, (2005).
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|;ÞEß#àáRâ#€3iã)Elfqg)h †ä “>åfk#l1o ([4]).
æ1ç/è1é
[1] M. Nagata, Three-dimensional finite amplitude solutions in plane Couette flow: bifurcation from
infinity’, J. Fluid Mech., 217 (1990), 519-527.
[2] M. Nagata, Tertiary solutions and their stability in rotating plane Couette flow, J. Fluid Mech., 358
(1998), 357-378.
[3] M. Nagata and G. Kawahara, Three-dimensional periodic solutions in rotating / non-rotating plane
Couette flow, Advances in Turbulence, 10 (2004), 557–560, CIMNE.
[4] D. P. Wall and M. Nagata, Nonlinear secondary flow through a rotating channel, J. Fluid Mech.,
(2006), In press.
物性工学講座 熱物理工学分野
教授 牧野 俊郎,助教授 松本 充弘,助手 若林 英信
1. はじめに
当研究室では,
「複雑系」に関する熱工学の課題として,固体表面の熱ふく射計測,ミクロスケールの
複雑構造をもつ固体の熱伝導,ミクロスケール・分子スケールにおける熱流体物性,などのテーマを設
定し,その研究を進めている.また,当研究室はアジアにおける熱工学の大学間学術交流の拠点として,
日中韓の3大学熱工学国際会議を継続開催するなどにより,リーダーシップをとっている.
2. 固体表面の熱ふく射計測
工学系におけるふく射伝熱を適切に評価するために,近紫外~赤外域のふく射の反射と放射のスペク
トルを同時に繰返し測定する広波長域高速スペクトル測定装置を開発し,固体表面のふく射反射・放射
現象のダイナミックスを捉える研究を進めてきた.
本年度は,以下の成果を得ている.
2.1 半球反射率と放射率のスペクトルの同時測
定法の開発 2つの回転放物面鏡を用いて半球等
強度入射垂直反射率 RHN と垂直放射率 εN を同時
に測定する光学系を新たに設計・製作し,広波長域
高速スペクトル測定装置に組み込むことに成功し
た[1].図1に光学系の概観図と測定例を示す.金
属表面に酸化被膜が成長すると共に,RHN のスペ
クトルにふく射の干渉による振動が現れることが
わかる.
3. 複雑構造をもつ固体の熱伝導機構
SOI 構造をもつ大規模集積回路など,マイクロ
/ナノスケールの複雑構造をもつ固体電子素子の
熱伝導機構を解明するために,分子動力学法やフ
ォノン解析の手法を利用したエネルギー輸送過程
の研究をおこなっている.今年度は,以下の成果
を得ている.
3.1 界面熱抵抗のモデル化 構造や組成の異な
る固体の界面において生じる熱抵抗現象を,格子
振動(フォノン)の観点から定量的に予測するモ
デルを提案し,分子シミュレーション結果との比
較検討を進めている[2].
3.2 SiC の熱伝導機構 熱伝導率や誘電率が大き
く次世代半導体材料として注目されるシリコンカ
ーバイドの熱伝導シミュレーションと格子振動解
析を行い,主としてシリコン原子がエネルギー輸
送を担っていることやシリコン基板との間の熱抵
抗が非常に小さいと予測されることなどの知見を
得た.
図 1 新たに開発した半球反射測定部と,測定例
(ニッケル板表面の高温酸化過程)
.
4. マイクロ/分子スケールの熱流体物性
気液界面での輸送現象,マイクロ気泡のダイナミクス,
微小液滴のダイナミクスなどについて実験と分子シミュ
レーションによる研究を進めている.今年度は,以下の
成果を得ている.
4.1 MD/連続体連成によるマイクロ気泡の計算 激しく
圧壊する気泡を従来の連続体計算で取り扱うことはさま
ざまな困難を伴う.我々は,比較的時間変動の小さい気
泡遠方領域を CIP 法による連続体計算で取扱い,物質輸
送・エネルギー輸送の大きい気泡表面近傍や気泡内部を
分子動力学(MD)法で追跡するハイブリッド計算コー
ドを開発し,単原子分子流体をモデル系としたテスト計
算を行い,気泡の圧壊過程を追跡できることを示した[3].
一例を図2に示す.
今後,
純水や界面活性剤混合系など,
現実的・複雑な系について大規模な計算を進める予定で
ある.
4.2 固体壁面への微小液滴の衝突ダイナミクス イン
クジェットプリンティングやミスト冷却などサブミクロ
ンスケールの液滴の固体壁面への衝突現象を調べるため,
MD 法による衝突シミュレーションを行い,衝突後の液
滴の挙動が固体表面の性質(親水性/撥水性)やガス雰
囲気などの外的要因に大きく依存することを見出した
[4].
5.
あじあ3大学との熱工学学術交流
本研究室では,あじあ3大学(京都大学・韓国:ソウ
ル国立大学・中国:清華大学)間の学術交流事業を進め
てきた.平成 17 年度には,
「第5回あじあ3大学熱工学
会議」
を,
21 世紀COE プログラムその他の援助を受けて,
9 月 27-29 日の日程で,ソウル国立大学において開催し
図 2 気泡圧壊過程のハイブリッド計算
た.本学から牧野俊郎・吉田英生・稲室隆二ほか計 12
例(スナップショットと半径変化).
名,ソウル大学から J.S. Lee ほか計 12 名,清華大学か
ら Z-X. Li ほか計 5 名が参加した.23 編の論文発表と活
発な討議が行われ,またソウル国立大学の計らいによりソウル郊外のベンチャー企業見学が行われた.
会議録 “The 5th Kyoto - Seoul National - Tsinghua University Thermal Engineering Conference" を刊行した.
参考文献
[1] 若林英信・牧野俊郎, “熱ふく射の半球反射率と放射率のスペクトルの同時測定法”, 第 43 回日本伝熱
シンポジウム (名古屋, 2006) 発表予定.
[2] P. Xiao, M. Matsumoto, “A Molecular Dynamics Simulation on Kapitza Thermal Boundary Resistance”,
International Symposium on Molecular Simulations (Kanazawa, 2006) to be presented.
[3] M. Matsumoto, S. Kinouchi, “Molecular Dynamics of an Oscillating Bubble”, 2nd International Symposium on
Micro & Nano Technology (Hsinchu, Taiwan, 2006) to be presented.
[4] 松本充弘・中澤伸之, “分子動力学法による微小液滴の固体表面への衝突シミュレーション”, 第 43 回日本
伝熱シンポジウム (名古屋, 2006) 発表予定.
航空宇宙システム工学講座 熱工学分野
教授 吉田 英生,講師 岩井 裕,助手 齋藤 元浩
1. 当研究室における研究の概要
本研究室では,次世代分散型エネルギーの担い手として脚光を浴びるマイクロガスタービン・燃料電
池のハイブリッドシステムの解析や各個別要素の性能向上に関する研究を中心に,種々の熱システムを
対象として,理論と実験の両面からその諸現象の解明と最適化に取り組んでいる.研究に際しては,既
存技術の延長線上にある着実な性能向上のみならず,例えば相変化を利用した軸受の高性能化や新たな
エネルギー変換過程の導入によるガスタービンの高性能化など,従来の機械システムに複雑な熱現象を
新たな視点で導入することで,飛躍的な性能向上が期待できる技術の開発やその基礎現象の解明にも重
点を置いている.
以下では,本拠点活動における我々の主要な研究課題である「分割電極を用いた平板型 SOFC 単セル
の性能評価」
「水蒸発による静圧効果が付加された超微細多孔質金属製ハイブリッド気体軸受」
「三角錐
状目立て突起を有する性能強化型プライマリサーフェス熱交換器の伝熱特性」
「ブラックホールと超音
速流とのアナロジーに基づくホーキング輻射理論の実験的検証」についてその概要を述べる.
2.
分割電極を用いた平板型 SOFC 単セルの性能評価
燃料電池はクリーンかつ高効率な発電システムとして期待され,近年は自動車を始め,携帯機器や家
庭用コジェネレーションシステムなど身の回りの製品へ応用するための開発が急速に進められている.
燃料電池の基本的な発電原理は水素と酸素の電気化学反応によるものであり,発電によって生成される
物質は水のみということから究極のクリーンシステムであると言える.また,従来の発電システムのよ
うに複数のエネルギー変換ステップを経て電気を生み出すのではなく,電気化学反応によって直接電気
を生み出すことから発電システムとして非常に高い効率を持つ.その一種である固体酸化物形燃料電池
(SOFC)は,高温作動であるゆえにセルの構成材料の多くはセラミックスであり,電池内部に大きな
温度勾配が生じると,構成要素に割れが起きてしまうことがある.特に平板型は,構造的に熱応力に弱
く,電池内部の温度分布は可能な限り一様であることが望まれる.温度分布と密接に関わる局所的な電
気化学特性は,電池の材料が同じであっても作動状態によって様々に変化するが,現在の技術でこれを
予測し,適切な作動状態にコントロールできるとは言いがたい.温度分布の均一化に限らず,電池運転
の最適化を図るためには,様々な作動状態における電池内部の基本的特性を知ることが不可欠である.
しかし SOFC は高温で作動するために,一般に発電時の電池内部の特性を実測することは困難であり,
これまでに実験による評価はほとんど報告されていない.
本研究では,平板型 SOFC 単セルの基本発電特性および単セル内の電流分布特性を評価するための実
験装置を作製し,分割電極を利用した発電実験を行った.作動温度,燃料ガス濃度,燃料ガス流量,平
均電流密度をパラメータとし,異なる作動状態における発電特性を検討した.この結果,本研究で作製
した評価装置によって SOFC 単セルの基本特性の評価および実測が困難であるとされていた電流分布特
性の評価が可能であることがわかった.セルの発電性能は作動温度,燃料ガス濃度の違いに大きく影響
を受けた.電流分布はセルに局所的な劣化が生じた場合に不均一性が増し,劣化が生じない場合は比較
的均一になった.燃料ガス濃度が低い状態においては,濃度過電圧の影響によって電流分布に変化に見
られた.
3. 水蒸発による静圧効果が付加された超微細多孔質金属製ハイブリッド気体軸受
近年注目を集めている分散型発電における発電システムとして,マイクロガスタービンが用いられて
いる.マイクロガスタービンは,高回転,高温かつ頻繁な起動停止という厳しい条件の下で運転される.
そのような条件から,マイクロガスタービンの軸受には,抵抗が小さく高温下でも安定な気体軸受を用
いることが望ましい.しかしながら,既存のマイクロガスタービンにおいてはまだまだ油を用いた軸受
が主流である.その主な理由は,気体軸受は安定性,負荷能力に劣り,また起動停止時における軸と軸
受の接触という問題が生じることである.そこで本研究では,マイクロガスタービンにおける最も重要
な構成要素の一つである軸受に関し,気体軸受の利点を活かしつつその欠点を克服するべく,水蒸発に
より静圧作用が付加された超微細多孔質製ハイブリッド気体軸受を提案し,その実現可能性を探った.
数値解析では伝熱特性と軸受特性を解析し,回転試験においては蒸気潤滑での運転を行った.
本研究で得られた知見は以下の通りである.
(1) ハイブリッド気体軸受では,軸の温度と水の供給量のバランスによって水蒸発の起こる気液界
面の位置が移動する.
(2) 多孔質体の軸受表面に多数の均一な微小オリフィス絞りが存在するとした数値解析モデルで
は,ハイブリッド気体軸受は真円の通常の気体軸受に比べ,非常に安定した蒸気潤滑特性が得
られる.
(3) ハイブリッド気体軸受の実験において,蒸気潤滑での定常的な運転を行うことに成功したが,
不均一な蒸気の噴き出しが原因と考えられる不安定性を持つ可能性がある.
4.
三角錐状目立て突起を有する性能強化型プライマリサーフェス熱交換器の伝熱特性
図 1 に示すおろし金の工業的な製作技術であ
る「目立て加工」を新しいプライマリサーフェス
型熱交換器の伝熱面に転用し,その熱交換器とし
ての性能を評価した. その結果,以下のことが
わかった.平板と比較したとき,比較的高いレイ
ノルズ数領域では伝熱性能が大幅に向上し,熱交
換器への適用の可能性がある.圧力損失,伝熱特
性ともに目立て突起の数よりも高さの影響が大
きい.そして,目立て突起の向きと空気流の流れ
方向によって熱交換器としての性能に大きな差
がある.目立て突起の垂直側面に向かって空気流
を流す場合とその反対の背側から空気流を流す
図.1 目立て突起
場合を比較したが,背側から流すとき,伝熱性能
をあまり低下させることなく圧力損失を小さく抑えることができる.さらに,流路高さを一定に保ちな
がら目立て突起高さを大きくすると圧力損失,伝熱性能ともに大きくなる.また,その影響は突起高さ
が高いときほど顕著である.そして,ポンプ動力が一定の場合,平板と比較するとやはり目立て平板に
することでヌセルト数 Nu は大きくなる.
5. ブラックホールと超音速流とのアナロジーに基づくホーキング輻射理論の実験的検証
ブラックホールとは,宇宙空間に存在し,あらゆる物体を吸い込み,光ですらその外部に出ることが
できない天体であると一般的には考えられている.しかし,一般相対論と場の量子論によると,ブラッ
クホールから粒子が放出されることが,Hawking によって示されている.この現象をホーキング輻射と
呼ぶ.この現象は非常に興味深い現象であるが,実際の観測によって実証することは不可能とされる.
そこで本研究では,ブラックホールと超音速流とのアナロジーを用いて実験室で類似の現象を観測する
ことにより,ホーキング輻射理論の実証を行った.その結果,気体の流れが超音速になることによって
音波が上流に届かなくなるという擬似ブラックホールの状況が得られ,
また波の引き延ばし効果という,
ホーキング輻射現象にも見られる波の特徴を確認することができた.ホーキング輻射対応物を同定する
には至らなかったが,更なる実験装置の改善,およびデータ解析手法の工夫により観測できる可能性は
残されている.